Lメモ魔王大戦「硝子の現実」『開幕』 投稿者:悠 朔
 それは変わらぬ日常から始まった。
「昌兄ぃ! 今日は友達と寄り道して帰るから、晩ご飯はちょっと遅めでいいよ」
「あ、そ? んじゃ、何が食いたい?」
「ん〜。なんでもいいよ」
「……そういう意見が一番困るんだけどな〜」
 苦笑し、冷蔵庫の中身を思い出しながら今日の献立に思いを馳せる。
 隆雨ひづきと、佐藤昌斗。
 従兄妹同士の同居人の、なんでもない日常の会話。
 その時から……。
 いや、その遥か以前から、彼らは行動を始めていた。


 ひづきと共に歩くEDGEとM・K。
 いつもの一年生女子トリオに、今日は2年生の幼なじみ集団が一緒だった。
「なーんか露骨に視線が痛いんだけどよ……。俺なんかしたっけか?」
 藤田浩之は納得いかない顔で、後ろを歩く後輩の女生徒にチラリと視線を向けた。確か
にEDGEとM・Kの視線は友好的とは言い難い。
「浩之ちゃん。怖がられるようなことしたんじゃないの?」
 神岸あかりの言葉に、浩之は露骨に顔を顰めた。
「俺は覚えはねえぞ。強いてあげるならこのエセ情報流出機がよからぬ噂を流したんじゃ
ねえかってことだが……」
「だーれがエセ情報流出機よ! 志保ちゃんニュースを馬鹿に……」
「自分で認めてんじゃねえか。自覚があるのは結構結構」
 揚げ足を取られて言葉に詰まる長岡志保。
 そこから口喧嘩が始まりそうになって、それをあかりと佐藤雅史が納めるのもまた、日
常だった。


 ゲームセンターでの一時。
 洋服店等をウィンドー・ショッピング。
 疲れてお腹が空けばヤクドナルドへ……。
 それもまた、日常。
 ずっと続くと思っていた、日常。
 絶対など何処にもない。
 ひどく壊れやすいものだと言うのに、誰もがそのことには目を背けていた。



 あまりにも壊れやすい日常だから……。



「すっかり遅くなっちゃったね」
「ん? ああ……みんな家族とか心配しねぇ……」
 人気の少ない路地をぞろぞろと進みながら、浩之があかりに答えようとした時、急に耳
鳴りがした。
 次いで強烈な頭痛に襲われる。
「グ……アア…………アアアアアアアア……!?」
 その頭痛にも、耳鳴りにも、浩之は覚えがあった。
 ――まさか……そんなはずはねえ!
 その思いは消えなかった。
 周りの人間すべてに同じ症状が出ていても。
 意志を持つかのように動く光の粒子を見ても。
 暗がりに立つ同級の友人の姿をその瞳に捉えてさえ、それが過ちだと信じたかった。
「ゆ……すけ……?」
 ちょっと驚いた。
 その優しい目を備えた涼しげな顔には、そう書かれていた。
「……凄いね。手加減しているって言っても僕の電波を受けて口がきけるなんて」
 みんなは苦しんでるだけなのにね。
 そう言ってその少年――長瀬祐介――がクスリと笑う。
 悪戯を楽しむかのように。
「でも……今はそれでいいんだ。動きを止められればいいんだから」
 ――なに……言ってやが……んだ?
 浩之がそう思った途端、黒い影が傍らを駆け抜けた。
 煌く白刃を振りかざした人影が少女達に迫り。
 二振りの刀が振り下ろされる。
 血が流れた。
 EDGEとM・Kの、赤い……あまりに鮮やかで、赤い血が。
 共に肩口からの一撃を、避ける事も出来ずにその身に受けていた。
 致命傷……だった。
 電波の力を押し切り悲鳴をあげようとしたひづきに、その影は素早く刀の柄で当て身を
食らわす。
 刀を引き抜いた事で、さらに辺りに血が吹き出した。
 ショック死していなかったとしても、失血死は免れないだろう。それほどの血が失われ
ていく。
「"巫女"の身柄を確保……。第二段階をクリアしました」
 言いながら、影はひづきを肩に担ぎ上げ、祐介の方へと戻ってくる。
「本隊はすでに第一段階をクリアしています。計画の始動に当たり、障害はありません。
……誰を残しますか? 長瀬祐介」
 祐介の傍らに立つ血塗れの、凄惨なその姿の主は。
「は……るか?」
 その影もまた、浩之と同じ学年の生徒のものだった。そもそもLeaf学園で他に二刀
を用いて戦う者などいない。
「手を抜きましたね? 祐介さん。藤田浩之は自らの意志で動こうとしています」
 無表情に、それでも批難を込めて影――その二刀の剣士――は祐介に目をやる。
「充分だと思ったんだけど、少し考えが甘かったみたいだね。そうだな……浩之にしよう。
多分適任だと思うから」
「適……任……? 何をさせる……気だ?」
 絞り出すような浩之の声。
 身体はまったく思うように動かない。
 脂汗が際限無く流れ出る。
 二日酔いのような強烈な頭痛と吐き気。
 友達である少女達が斬り殺されるのを黙って見ているしかなかった、その無力感。
「伝言役だよ……。このゲームのね」
「ゲ………ムだ……と?」
 それほどに、電波の力は絶大だった。
「ちゃんと伝えてもらわないと困るんだ。……だって、他は壊してしまうからね」
 "他"が何を示しているのかは考えるまでもなかった。
 ――止めろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!
 その叫びが口から漏れる事はなかった。
 浩之がどうする事もできないまま、二人の幼なじみと、一人の腐れ縁の少女に、数多の
電波の粒が襲い掛かった。



Lメモ魔王大戦
                                 「硝子の現実」
                         『開幕   "列強" 闇の者共』



「ただいま。……掃除屋の始末は終わった?」
 少女のようにきめ細く日焼けの無い白い祐介の手が扉を開き、そこから差込んだ一条の
光が部屋を貫いていった。
 光源のまったく無い、真なる闇。
 その場こそ、彼らに相応しいものだった。
 闇に堕ち、闇に生きる"列強"たる彼らには。
 強烈な血の匂いの混じった死臭さえ、部屋のアクセサリーに過ぎなかった。
「ああ……これで…………終わりだ」
 ビチャ。
 一人の男が掴みあげていた頭から手を放した。その肉体はすでに意志を宿していない。
なんの抵抗も無く地面に転がった。
 男は手を振り、その手にこびり付いていた血を払う。
 死体の数は三つ。
 初代beaker、beaker、そして沙耶香。
 トレジャーハンターを名乗る、ダンジョンの掃除屋達。
 黒ずくめの男を今血塗れに変えたのは、まだあどけない少女のものだった。だからとい
ってそれをどうこうと考える者などここにはいないが。
「ハイドラント……せっかく掃除屋を始末したのにまた掃除をしなければならないってい
うのは皮肉かい?」
 血に染まった床に視線を落とし、祐介が嘆息する。
「ああ、瑞穂ちゃんに頼めばいいか。お願い出来るよね?」
 卒倒しそうなほど青ざめた少女に、祐介はにこやかに尋ねた。
「出来ないなら出来ないで別に良いんだよ? 瑞穂ちゃんは特別に"上"まで送り届けてあ
げるから」
 にこやかに、残酷に。
 がくがくと震えながら、それでも藍原瑞穂は肯いた。それが意味する事が、最愛の人と
の別離だと知っていたから。

「首尾は?」
 ハイドラントは祐介と共に帰ってきた者――二刀剣士――に、問う。
 それが当然の権利であるが故に。
「上々です。抵抗らしい抵抗も無く、敵対するであろう対象の排除にも成功しています」
 言いながらひづきを肩から降ろす。
「敵対?」
「はい。EDGEと……M・Kと言いましたか。彼女達です。それから神岸あかり、長岡
志保、佐藤雅史も再起不能だと思われます」
「そうか……」
 ――我が師が逝ったか……。早かったな。
 ハイドラントは多少不満そうな表情を浮かべた。
「如何いたしました?」
「なに、大した事ではない。ただこの手で倒せなかったのは、残念とも言えるな」
「出過ぎた真似をいたしましたか……ご容赦ください」
 胸に手を当て、完璧な作法で頭を垂れる。
「大した事ではないと言った」
「はい……」
 従者の如く畏まるその男は、ふと思い出したかのようにハイドラントを振り仰いだ。
「"巫女"は無事手中に……。ですが"玉座"は? 未だ姿が見えませんが……」
「貴様が気にする必要はない」
「はい……」
 ニヤリと、ハイドラントの唇が皮肉げな笑みを浮かべた。
「葛田が付いている。いま少しすれば帰還するはずだ」
 その言葉が終わるか終わらないかで爆音が響き、大地が振動し始めた。
 それは学園地下洞窟の直通エレベーターを破砕する音だった。ただ一本の線として地上
と地下を繋いでいたその空間が、瓦礫によって修復不可能なまでに埋められていく。
 その、破壊の音。
 地響きが続く中、彼ら"列強"が待つ部屋の扉が開かれる。
 姿を現したのは、その破壊をたった一人で成し遂げた、何よりも破壊を好む魔王。
「戻ったな……オロチ。これで駒は揃ったという訳だ……」
 皮肉な笑みを消そうともせず、ハイドラントがその男を迎える。
 いつしかその口から哄笑が漏れ出す。
 それを止める資格があるものは、この場には存在しなかった。

「信さん……」
 それを見守る瑞穂の声は涙でくぐもっていた。
 それは最愛の人の姿を備えただけの、ただの別人。
 その血筋故に、魔王に魅入られた最愛の人。もはや彼が戻る事は無い。人の精神など魔
王のそれと比肩するべくもないほどに脆いのだから。
 それでも瑞穂はただ一筋の光明を求め、彼から離れる事は出来なかった。


 宴の始まりまで……あと少し。
 ここはその想い、その願い、その野望故に闇に身を堕とした者達の住む所。



 切れ長の、深紅の瞳。
 闇色のマントを……否、闇をその身に纏った者。
 すでにこの世の者では無い身でありながら、未だ生きる事を止めぬ強化人間。
 結城紫音。
「お前は弱者だ」
 紫音は静かに決め付けた。
 彼が見据える先にあるのはバレーボールほどの大きさの、浮遊する球体。
 彼が今使っている肉体の所持者であった者だ。
 そう……あった。
 すでにそれは過去形で語られる。今は、今この時から、その肉体は紫音のものとなるか
らだ。
「お前に戦う意志があったなら、私にこの身を奪われる事もなかったはずだ」
 すっと手を伸ばし、その球体を掴む。
「お前が思うほど、私は強くも、そして信頼に足る者でもなかった……」
 彼もまた闇に魅入られた者。
 創造の力を秘めた光とは、対極に位置する者。
 光は答えない。
 それはその現実を受け入れたからか……或いは紫音の手にかかる事を望んだからか。
「お別れだ! 光!!」
 そのまま、闇の力を宿したその腕で……。
 紫音は球体を握り潰した。



「判っていたんだ。判っていたんだ……」
 OLHは呟き続ける。
「ずっと前から判っていたんだ……」
 呪文のように、呪詛のように。
 何も視界に入れず、己の心さえも締め出して。
 ただ、呟き続ける。
「君は俺の手の届かない所に居るんだって……」
 その腕に力を込める。
「それは……いいんだ。仕方の無い事だったから。それに俺には笛音がいる……」
 虚ろな瞳を自分の胸元に向ける。自分が抱いている者に。
 その形相が不意に歪んだ。
「いや違う。そうじゃない。それじゃ駄目なんだ! 笛音は……笛音は琴音ちゃん、君の
身代わりなんかじゃない。……そう身代わりなんかじゃないんだ!」
 虚ろな、何者も映さぬ瞳。
 それは現実さえ、OLHから奪い去っていた。
「証明しなくちゃいけなかったんだ。俺にとって、笛音がどれだけ大切か。琴音ちゃんの
身代わりなんかじゃないって、証明しなくちゃいけなかったんだ……」
 OLHは無心に呟き続ける。
 必死のその形相に、笑みさえ浮かべて。
「ほら、判るかい? 俺が笛音の事をどれだけ大事に想っていたか。こんなに胸が苦しい
んだ。君を失った時と同じくらい、胸が苦しいんだよ……」
 二人の少女の亡骸を胸に。
 OLHはただ無心に呟き続ける。



「いいんですか? 首長に報告に行かなくて……」
「…いいんだ。そんなことはどうでも。そんな事より……わかっているのかい…?」
 美の女神も目を止めるであろう、美しい容貌の少年と少女。
 その光景を目にした者はまずそう考えるだろう。
 しかし実際には違う。それは二人の少年が向き合っているに過ぎない。
「…僕に付いて来るっていうことは、世界を敵にまわすことなんだよ…?」
 少年――葛田玖逗夜――は憂いを含んだ瞳でその少女の如き姿の少年――神無月りーず
――に問い掛けた。
「構いません。お兄様と一緒にいられるなら……。その事で試練が与えられるというのな
ら、それがどんなことでも耐えて見せます」
 そう。少年同士が向き合っているに過ぎない。
 問題なのは、彼らが背徳の道を歩んでいる事だけだ。
 毅然としたりーずの表情に感化されてか、玖逗夜の顔が安堵に緩む。
「…よかった。正直言うと恐かったんだ。君が逃げ出してしまうんじゃないかって……。
だから確かめたかったんだ…」
 ――他の誰のものにもさせない。何処にもいかない様に、翼をもいでしまえばいいんじ
ゃないかって思ってたけど、杞憂で済んで良かった…。
「どうしてそんな事言うんです? ただお兄様と向き合っているだけで、こんなに胸が切
ないのに……。離れ離れになるなんて……耐えられない」
 玖逗夜の手がりーずの頬に触れる。
 その手に、りーずが愛おし気に擦り寄った。
「…愛しているよ…」
「はい……お兄様。ボクもです」
 二つの影が、静かに重なった。



 こここそは王城。
 地下に築かれた、破壊を生み出す者達の住まう、そして最強の破壊の女神を生み出す為
の城。
 この地に留まるのは闇に惹かれ、また闇に生きる者。
 魔に魅入られた者。
 そして……愛に溺れ、総てを失った者。失う事を厭わぬ者。
 暗き闇と共に歩む者達の居城。


 その主は、未だに現れていない。



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朔 「さぁ始まりました。批難される事を覚悟の上で始めた残虐非道、殺戮専用Lメモ!」
綾香「えらく御大層な前振りがあったけど……」
朔 「人が死にまくる話ですから(笑) 今回はまだましと言えますね。いきなり死体に
  なって登場している人が3人……いや5人か。それだけしかいませんから。というわ
  けでbeakerさん、沙留斗(沙耶香)さん、申し訳ありません」
綾香「"しか"って……"も"の間違いじゃないの?」
朔 「被害がこの程度で済んでいるのはまだ出だしだからですね。次の話では……何人死
  にますでしょうか? フ、フ、フ。ダークストーリーはもう少しシビアでないとな。
  私もまだまだ未熟だ……」
綾香「止めなさいよ。反感買うだけだから(汗)」
朔 「走り出したら……もう誰にも止められないんだ」
綾香「王蟲?」
朔 「もうこれも古いねぇ(笑) じゃまたの機会にお会いいたしましょう。でわ〜」
綾香「次もダークなの?」
朔 「もちろん!!」