風が吹いている… 学校の裏にある、何を祭っているのかも分からない小さな神社。 そこにふたつの人影があった。 ひとりは、男。 もうひとりは、女。 ふたりは10メートル程離れ、互いの様子を伺っていた。 「ねえ、止めようよ…」 ふたりの周りを囲んでいるひとりが、隣の人間に語りかける。 「やっぱりケンカはよくないよ。他にも何か方法が…」 「無理ですよ」 彼は答えた。 「だってふたりは…」 そこで、彼の言葉はかき消えた。 ============================== Lメモ VSジン・ジャザム『Burning Hearts!』 ============================== ドゴォォォォォォォォォン!!! 閃光、そして爆風。 それが戦闘開始の合図になった。 ジンはゲッタードリルを右手に装着し、ダッシュする。 Dセリオは腰の後ろのサイファーを握り、ダッシュする。 そして、一閃。 甲高い金属音が鳴り響き、ジンとDセリオの姿が交錯する。 一瞬ふたりの動きが止まり… 再びダッシュする。 「食らえっ!」 「──覚悟!」 ガキィィィィィン!!! ゲッタードリルとサイファーが火花を散らし、つば競り合いになる。 が、力勝負ではジンが圧倒的に有利だ。 じわじわとDセリオが押されていく。 にも関わらず、Dセリオは笑みを浮かべている。 まだ余裕があるようだ。 ジンがそれを見て、さらに力を込める。 しかし、それは誘いだった。 彼女はいきなり体を回転させつつサイファーを引き、バランスを崩したジンの胸に肘を 叩き込んだ。 クリーンヒットだった…はずだ。 だが、ジンはその一撃に堪えた様子も無い。 逆に手の届く間合いに来た彼女を強靭な両腕で抱え込んだ。 さば折りというやつだ。 「真っ二つにしてやるぜ!」 ぐっと力を入れる。 その時、視界の隅に何か黒光りする物が見えたような気がした。 (ヤバイ!) 本能的に危険を感じ、手を緩める。 次の瞬間。 ドガガガガガガガガガガ!!! 爆音が彼の頭のすぐ左で鳴り響いた。 「うおおっ!?」 慌てて間合いを取る。 なんと彼女の左手にはパイルバンカーが装備されていた。 パイルバンカー……液体炸薬のカートリッジを用い、毎秒何十発ものスピードで鋼鉄の 杭を打ち込む接近戦用の武器である。 いわゆるマシンガンとドリルの合いの子のような物だ。 少々重いのが欠点だが、まともに打ち込めば分厚い金属板も簡単に貫ける。 たとえ相手がサイボーグの装甲とエルクゥの肉体を持つジンであっても同じ事だ。 「なんでえ…そんなモン仕込んでやがったのか」 「──接近戦に不安があったので」 冷や汗を流すジンに、さらりと答えるDセリオ。 「おもしれえ……だったらお望み通り接近戦してやらぁ!」 「──望むところです!」 「ったく……自分から接近してどうするでしょうね」 風見は顔を手で覆い、ため息をついた。 「でもジン先輩らしいと言えばジン先輩らしいじゃないですか。それにしても…」 ジンからDセリオに視線を移す。 「Dセリオさんって、戦闘中なら抱き着かれても平気なんですね。普段は男の人と手を繋 ぐ事すらできないのに」 「まあ、それが攻撃を目的とした物か、性的接触を目的とした物かの違いなんでしょうね」 「なるほど」 「はっはっは、俺はどちらも全然OKだぞ。っていうかこちらから頼みたいぐらいだ」 ポージングする秋山。 風見とゆきは顔を見合わせて肯くと、無言で秋山を蹴り飛ばした。 「──はっ、やあっ、とおっ!」 接近戦。 サイファーの連撃がジンを襲う。 ジンはその一撃一撃を冷静にゲッタードリルで受け止める。 ニヤリ… Dセリオの顔に笑みが浮かんだ。 ヴゥゥゥゥン… サイファーが低い機械音を発し、刀身が白く輝く。 (ヤバイ!) ジンは素早くバックステップし、間合いを放す。 が、間に合わなかった。 光るサイファーは、まるでバターのようにゲッタードリルを切り裂く。 彼女はそのままの勢いで、パイルバンカーが取り付けられた左手を突き出した。 「ジンさん!」 「ジィィィィィィィィィィン!!!」 エルクゥ同盟の面々が声をあげる。 しかし、ジンは逃げるどころか逆に前に出た。 ガシッ! 「──!?」 パイルバンカーがヒットする寸前、Dセリオの拳はジンの強靭な指にがっしりと捕まれ ていた。 「確かにコイツの威力は凄まじいがよ……いかんせんリーチが短すぎるんだよな」 「──くっ!」 なんとか手を振り解こうと、再び光るサイファーを振りかざす。 が、ジンは動じない。 にやりと凶悪な笑みを浮かべると、Dセリオをそのまま……上空にぶん投げた! 突如襲われる浮遊感。 Dセリオは慌ててバーニアを蒸かせ、体制を整える。 その時、彼女の目に入ったのは… 上体を屈め、力を溜めているジン! (──まずい!) 彼女もすかさずエネルギーを溜める。 「ここで回避しないで迎え撃とうとするのがセリオさんらしいというかなんというか…」 「──そうですね」 「アームランチャァァァッ!!!」 「真空波動拳!!!」 二条の光が突き進み、ぶつかり、弾ける。 飛び散った膨大なエネルギーが光、熱となる。 「きゃあ! きゃあ! きゃあ!」 「大丈夫だって先生! 衝撃はこっちまで届かないから!」 「うおおおおおおおおおおお!!! 味わってみたい! あの爆心地に飛び込んで全身で あの衝撃を味わってみたいぞぉぉぉぉぉぉぉ!」 「ふたりの戦いの邪魔になるので止めてください」 やがて光は晴れ… 「あれ? セリオさんとジンさんは?」 二人の姿が消えていた。 気配すら、無い。 「ま、まさか今ので燃えちゃったとか…」 「あの二人に限ってそんな事は無いですって」 慌てる由綺にへーのきはぱたぱた手を振るが、その顔は若干不安げだ。 「本当にどこに行った?」 「ジンせんぱ〜い!」 ふと、Dマルチが上を向く。 そして、一言。 「──上です」 「ロケットパンチ、メテオ!」 ジンのロケットパンチ乱射。 しかしDセリオは巧みにそれをかわす。 「ゼエ……ハア……ちょこまか逃げやがって」 「──逃げるとは人聞きが悪い。技を捌くと言ってくださいよ」 言いながら、右手をジンに向ける。 「──ファイナルD・D!」 Dセリオの右手が割れ、ドリルミサイルが発射された。 ミサイルはジンに向かって突き進む。 ジンは動かない。 「技を捌くだぁ…?」 ミサイルが迫る。 まだ動かない。 「ジン先輩!?」 「いくらジンさんでもあんなのを食らったら!」 「俺は…」 ジンは右手を頭の上に掲げた。 「…強ぉぉぉぉぉぉぉぉい!!!」 ずがしゃっ! 「──え"…?」 ジンに突き刺さるその寸前、ドリルミサイルはぐにゃりとひしゃげて煙を噴きながら落 ちていった。 「──…まさか殴って落とすとは…」 「最強たる俺には不可能などないのだ!」 ジンはビームライフルを腰に構えた。 「次はこっちのターンだな!」 「──!?」 赤い一条の光が走る。 見た目は大した事なさそうだが、エネルギーの凝縮されたその光は分厚い装甲をも軽く 突き抜ける。 しかし… 「──ヒュッ!」 彼女はそれを上半身を少し傾けるだけで避けた。 熱線が頬をかすめ、僅かに人工皮膚の焼ける匂いがする。 が、気にしない、そのまま一直線にジンに迫る。 (畜生ッ! 二発目が間に合わねえ!) ジンはビームライフルを──まるで混紡のように──思いっきり振りかぶった。 Dセリオはその攻撃も下に下がってすれすれでかわす。 そのまま後ろに回り込むと、ジンの襟首をがっしりと掴んだ。 「──たぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」 「何いっ!?」 背負い投げの要領でジンを担ぎ、地上向けて真っ逆さまに落下する。 「──これで終わりです!」 「や、やべえっ!」 ずぅぅぅぅぅん… 舞い上がる砂煙。 そして、沈黙。 「落ちたな」 「そうだね」 「頭から」 「そうだね」 「………」 「………」 「ジンさん生きてますかっ!?」 「ジン先輩っ! 死んだら墓前に千鶴さんの料理を供えますよ!」 「ふざけるな来様らぁっ!」 ぼこっと土が盛り上がり、ジンの上半身が現われた。 「…ったく、人が真剣に戦ってるっていうのにアホな事ぬかすな」 ぐきっ、ぐきっと首を鳴らす。 「おい、Dセリオ」 ジンは前を見たまま、後ろにしゃがみこんでいるDセリオに話しかけた。 「残念ながらダメージはお前の方が大きかったな」 「──いえいえ、あなたの顔色が悪いように見えるのは気のせいですか?」 立ち上がるDセリオ。 だが、心なしかよろめいているように感じる。 「そうかねえ? ま、顔色なんてのは別に関係ねえ。体が動けばな」 ニヤリと笑うジン。 だが、額に脂汗が浮いている。 「──いきます!」 「来いやぁっ!」 「もう…もうやめて!」 「先生!」 二人の状態を見かねて、由綺は思わず飛び出していた。 「もういいでしょ…? これ以上…これ以上やったら…」 「──やったら?」 「二人とも死んじゃうよ! どうしてここまでやるの!? もういいじゃない! 引き分 けでいいじゃない!」 しかし、ジンもDセリオも、その言葉を聞きいれなかった。 二人が再び接近する。 「わかってねえな」 鋼鉄の拳を突き出す。 「──私たちはお互い憎くてやってるわけじゃないんです」 頭を下げて、それをかわす。 「生と死の、ギリギリのバトル」 顔面を狙い、膝蹴りを放つ。 「──業炎、爆煙、粉砕…」 顔の前に両手を出し、その一撃を受け止める。 「何故俺達がバトルするか…」 脳天を狙い、拳を振り下ろす。 「──理由はひとつ!」 屈んだ体制から、全身のバネを使いストレートを放つ。 次の瞬間、二人の拳が同時に相手の顔面を捉えた。 「がふっ!?」 「──くはっ!」 ジンは派手に転倒し、Dセリオは2、3度バウンドし転がった。 「………」 「──…」 ダラーっと地面に伸びたままの二人。 「も、もしかして変なところに当たったんじゃ…」 「大丈夫ですよ、ほら」 へーのきが由綺の顔を二人に向けさせた。 「くっくっくっ…」 「──ふ、ふ、ふ…」 笑っていた。 「くっくっくっ…ハーッハッハッハッハッ!!!」 「──ふ、ふ、ふ…あははははははははは!!!」 ダンッ! 腰のバネを使い、ジンが飛び起きる。 「これだよ! この感覚!」 バッ! 地面を蹴って、Dセリオが跳ね起きる。 「──この高揚感……これですよ! さあ、もう一発!」 「一発と言わずに何発でもやってやるぜ! 砕け! 鉄拳! ロケットパァァァンチ!」 「………」 由綺は信じられない物を見たような顔で固まってしまっている。 (まあ、このバトルが終わる頃には分かるだろう) へーのきは由綺をそのままにしておく事にした。 ☆★☆ 決闘が始まってからどれだけの時が経っただろうか… 装甲は傷つき、剥がれ、弾は撃ち尽くし、エネルギーも残り少ない。 お互い、既に限界だった。 しかし、二人の目は熱く燃え、口元は不敵な笑みを浮かべている。 「いくぜ?」 「──どうぞ」 次で全てが決まる… 別に申し合わせていたわけではない。 にも関わらず、お互い次が最後の一撃であると確信していた。 ふたりが同時に構えを取る。 「俺のこの手が真っ赤に燃える…!」 「──私のこの手が真っ赤に燃える…!」 「敵を倒せと轟き叫ぶ…!」 「──敵を倒せと轟き叫ぶ…!」 「食らえ! 必殺…」 「──行きます! 必殺…」 「シャイニングフィンガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」 「シャイニングアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァムッッッ!!!」 ジンの燃える手が、 Dセリオの燃える手が、 小細工も何も無く、 一直線に相手に向かって突き進む。 「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」 「──たああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」 ふたりの手が、ぶつかる。 そして、二人の手の間、逃げ場を失った膨大な熱量が……爆発した。 ☆★☆ 「由綺先生、二人のバトルの感想は?」 「えっ!? う、う〜ん…」 由綺は手を顎に当てると、少し頭を傾けた。 「なんて言うか…派手でちょっと恐かったけど……楽しそう…だったかな?」 「ですよね」 へーのきは満足げに肯いた。 ☆★☆ 「っつぅ〜」 ジンは頭を振りながら起き上がった。 あたりを見回す。 すると、ちょうどDセリオも起き上がったところだった。 「やれやれ…」 ジンが嬉しいような、困ったような笑みを浮かべる。 それに気付き、Dセリオも同じような笑みを返す。 二人はよろよろと立ち上がると、互いに手の届く距離まで歩み寄った。 「今日は決着が付かなかったな。仕方ねえから引き分けって事にしといてやる」 「──まあ、そういう事にしておきましょう」 笑みを浮かべたまま、二人はお互いの右拳をこつんと叩く……はずだった。 すかっ 「へ?」 「──?」 二人とも、右手の肘から先が無かった。 「………」 「──…」 硬直したまま動かないふたり。 どこからか聞こえるカラスの鳴き声だけが、いつまでもあたりに響いていた。 〜END〜 ──────────────────────────────────────── バトルと言えばこの二人…って事で書いてみました。 二人が『楽しそう』に見えれば成功です。 「あれ? Dセリオっていつもジンさんの事冷たくあしらってなかったっけ?」と思っ てる人もいると思いますが、いつもあんななわけではありません。 むしろバトルを売られるのは本意だったりします(笑) ただ、一応彼女は仕事第一で動いていますので(一旦バトルが始まってしまえば別ですが (笑))、例えジンさんであってもDセリオの警備中に突っかかっていった場合は相手にされ ないでしょう。 もし『楽しく』Dセリオと戦いたいのならちゃんと決闘を申し込むように。