「おりゃぁぁぁぁぁぁ!!!」 「──たぁぁぁぁぁぁ!!!」 金属がぶつかり合う音、火薬の匂い、そして爆風。 学園恒例行事、ジンとDセリオの大喧嘩。 「そろそろ昼休みが終わるな……よし、これで終わりにしてやるぜ!」 「──望むところです!」 「──ミッドナイトブリス!」 Dセリオが滑るように走る。 ミッドナイトブリス──相手を女性化して精気を吸い取る、どこぞやのヴァンパイアの 必殺技である。 ジンにとってはいろいろと特殊な思い出のある、できれば二度とお目にかかりたく無い 技だ。 が、今日のジンは違った。 怯む事無くDセリオに向かってダッシュする。 そして、彼女の手が自分に届く寸前、ブレザーのポケットから取り出したコードを耳セ ンサーのコネクタに突き刺した。 ============================== Lメモ VSジン・ジャザム?『Change The Body!』 ============================== 「──な、な、な……」 Dセリオは、真っ青な顔で自分の体を撫で回した。 「はーっはっは!」 逆にジンは、腕組みをして笑っていたりする。 女性化しているにも関わらずだ。 「──ジンさん! あなた一体、私に何をしたんですかっ!」 Dセリオがジンに詰め寄る。 普段よりハスキーな声をあげながら。 「さあねぇ〜」 ジンは素知らぬ顔で明後日の方を向く。 横目でちらちらと彼女の少し逞しくなったように見える体を見ながら。 Dセリオは、再び自分の体を撫で回す。 いつもより心なし太いような気がする足。 いつもより僅かに固くなったような気がする腕。 そして、いつもよりちょっぴり小さくなったような……いや、まっ平らになってしまっ たような……ではなくて、完全にまっ平らになってしまった胸。 「──お……男になってしまいましたっ!」 「はーっはっはっは、ざまあ見さらせDセリオ! どうだ! 女性化のたび味わってきた 俺のやるせない気持ちが分かったか!」 Dセリオはカクンと顎を落としたまま動かない。 「それでは俺はこれから千鶴さんの授業を受けに行かなければならないので、せいぜいそ こでショックで突然死殺されてるがいいわ!」 キーンコーンカーンコーン 「って、やべえぇぇぇぇぇ!?」 ジンは結局授業開始に間に合わず、千鶴さんに愛情手料理振る舞われ殺された。 ☆★☆ どよ〜ん 来栖川警備保障Leaf学園支部。 そのメインルームの片隅で、Dセリオはテーブルに突っ伏しどよどよしたオーラを撒き 散らしている。 「アレ、なんとかならないのか?」 「アレ言わないで下さいよ」 へーのきとOLHは、彼女から少し離れた場所に長テーブルを置き、夜の警備に備えて 軽く食事を取っていた。 「しかしなあ……笛音が怖がるんだよ」 確かに、結構恐い物がある。 「ティーナちゃんは?」 「面白がって石投げようとするからもっと困るんだよ」 「……あ、そう」 たらりと汗を流しながら、へーのきは未だ突っ伏したままのDセリオに目を向ける。 男性化してしまったとはいえ、もともとスレンダーな体型だったためか、少しがっしり したような感じがするだけで大して変化してはいない。 声も同様、少し低くなってはいるが女性と言われても納得できる程度だ。 ちなみに、服装はいつものセーラー服ではなくへーのきの予備の学ランだ(しょっちゅう 爆風やらなんやらでボロボロになるのでいくつも予備が置いてあるのだ。ちなみに警備保 障の金で買っている) 「それにしても、一体どういう原理で男性化してるんだ?」 「オレに訊かないでくださいよ。Dマルチさんならともかく」 その頼りの綱のDマルチは、原因を推理しようとした挙げ句に思考の無限ループに陥っ て止まっていた。 「なんで元に戻らねえんだよぉぉぉぉぉ!!!」 ジンの絶叫が柏木家に響く。 もちろん既にセーラー服装着済みだ。 「まあいいじゃない。おかげでまた恋する乙女にクラス・チェンジ☆できたんだし」 「別に俺はそんなのにクラスチェンジしたいとも思いませんしっていうかぜってーヤダ」 でもジンに選択権は無い、いつもの通り。 (おいコラ白いの、またお前の仕業だろ) (そうじゃよ) (なんでこんな事すんだよ。俺がお前に何かしたか?) (ふん……お主、この前妾に何をしたか忘れてはおらんだろうな) (……もしかして、着ぐ○みの事か?) (えろえろえろえろ……) (吐くなっ! 俺の中で吐くなぁっ!) (うえぇ……お、思い出してしまったではないか) (俺も思い出しちまったよ! ちくしょう!) 「何ぶつぶつ言ってんだよ。今度は外観だけじゃなくて頭もおかしくなったのか?」 「馬鹿言うな、頭はいたって正常……どうした楓」 ジンが梓に食って掛かろうとした時、楓の体がふらりと傾いた。 そのまま音も無く倒れる。 「楓お姉ちゃん!」 「ほら見ろ、ジンのせいで楓が倒れちまったじゃないか!」 「俺のせいじゃねえ」 (いや、主のせいだと思うぞ。妾は) (なんでだよ) (ホラ、楓はエルクゥの精神感応に優れてるし……) (……待て) (良くて一週間寝込むじゃろうな) (………) (安心せい。西山には妾からしっかり伝えておくからな) (畜生……どうせ俺には拒否権ねえんだよ!) ☆★☆ 「ジィィィィィィィィィィィィィィィィィィィン!!! 俺の熱い想いをごべりばっ!」 翌日、ジンはちゃんと学校へ登校していた。 もちろんセーラー服で。 ジンはロケットパンチで秋山を黙らせると、憮然とした顔のまま教室へ向かった。 「嗚呼……また不幸な一日が始まるのか」 ガラリと戸を開け… いきなり吹っ飛ばされた。 「何だ何だ何だっ!?」 ジンは瓦礫の山から顔を覗かせた。 「一体誰が……何ぃっ!?」 彼の顔が驚愕に引き攣る。 身に纏った学ラン。 無骨なショルダーアーマー。 両腕に装着された鋼鉄製のロケットパンチ。 そして、耳に被せられた鋭角的なセンサーと、長くつややかな赤茶けた髪。 「な…」 ジンが口をパクパクさせる。 「お、お前は…」 「Dセリ男ッッッ!!!」 「──Dセリ男言わんでくださいっっっ!!!」 ごすっ! ジンの顔面にDセリオの放ったロケットパンチが突き刺さった。 「痛てえなテメエ! そうポンポンとロケットパンチ……ロケットパンチだと!?」 ニヤリ Dセリオが口を歪ませる。 「──どこかの誰かさんのおかげで男になってしまったのでね……折角だから有効的に使 わせてもらおうかと」 「ほほう、それでいつもの俺の装備を真似したってわけか」 「──真似ではありませんよ。自分なりに消化して取り込んだのです」 (おなじじゃねーか) 教室の隅に固まっている生徒達は皆そう思ったが、流石に口に出す人間はいなかった。 「──さあジンさん、私を元に戻すための方法を教えてもらいましょうか」 「嫌だと言ったら…?」 「──もちろん…」 Dセリオが嬉しそうに口の端を吊り上げる。 教室に残っていた生徒達が慌てて逃げ出す。 「──…力づくで聞き出すまで!」 ばっと学ランの前をはだける。 そこから現れた車のホイールのような物体が光を放つ。 「──超絶ヒートブレイザァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」 じゅっ! 一瞬にして壁が砕け、ガラスが蒸発する。 「何いっ!?」 ジンは横に飛びのきなんとかかわした。 「なんか威力が上がってないか!?」 「──その通り!」 Dセリオが再びロケットパンチを放つ。 「──体格が良くなった分、攻撃力が上がったのです!」 「ちいぃっ!」 体を前に投げ出す。 間一髪、ロケットパンチは頭の上すれすれをかすめていった。 ジンはそのままDセリオに向かって転がる。 「食らえ! 鉄拳! ロケットパァァァァァァァァァンチッッッ!!!」 崩れたままの体勢から不意打ちのロケットパンチを放つ。 これは避けられ無い。 しかし… ガンッ! 「!?」 Dセリオは拳でそのロケットパンチを弾き返した。 「──効きませんっ!」 ごすっ 唖然としていたジンは、Dセリオのロケットパンチをくらってあえなく床に沈んだ。 ☆★☆ 「ちっくしょぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」 再び柏木家。 Dセリオに完敗したジンは荒れていた。 「元に戻るまで待ってればいいじゃんか」 「それじゃ遅い!」 びしっと梓を指す。 「俺は戦うために生まれてきた、言わば修羅として生きる事を運命付けられた漢! そん な俺が戦う事を止めてしまったらこの世の平和はどうなってしまうのだ!」 「いや、アンタが戦わない方が平和だと思うけどね」 梓の至極もっともな意見は受け流された。 「ねえ、お兄ちゃん」 「ん、なんだ初音」 「Dセリオさんはいつものジンお兄ちゃんみたいにパワーで押してきたんだよね?」 「そうだけど?」 「だったら…」 初音はいい事思いついちゃったと少し自慢気な笑みを浮かべた。 「ジンお兄ちゃんはいつものDセリオさんみたいにスピードで…」 「却下だ」 がーん 「アンタもうちょっとオブラートに包んだような言い方できないの?」 初音は梓の胸に顔を埋めてシクシク泣いている。 「子供には大人の世界の厳しさってもんを教えとかにゃイカン。それが本当の優しさって やつだ」 「…あっそ」 梓はあきらめた風にため息をついた。 「……と、いろいろ無駄話に時間を割いちまったが……千鶴さん、俺はどうするべきでし ょうかね?」 『無駄話』のところで初音の泣き声が大きくなったような気がするが、ジンは気にしない。 というか、元から聞こえていない。 「そうねえ…」 人差し指を頬に当てて、天井を見上げる。 「とりあえずみつあみにして眼鏡かけてみたらどうかしら」 「俺はどう戦うべきか訊いているんであって、どう着飾るか訊いてるんじゃないです」 「あら、そうだったの?」 「………」 ジンは今度から千鶴に相談しに来るのは止めようかと本気で思い始めていた。 「でもまあ、せっかくだからみつあみにしてみましょ」 わきわきと手を動かしながら迫る千鶴。 当然この上なく嬉しそうだ。 「止めて下さい! 俺髪質硬いんですから!」 わけ分からない言い訳をするジンにどっかとのしかかる。 「さあ〜、可愛い女の子にクラス・チェンジ☆」 「ちょっと、そのいかにもな丸眼鏡はなんですか! 俺を本が好きで主人公を影から見つ めるような可愛い後輩タイプに仕立て上げるつもりですかっ!? や、やめろ〜! ジョ ○カー! ぶっとばすぞぉ〜〜〜!!!」 ☆★☆ 次の日… ジンは丸眼鏡にみつあみという刹那的ないでたちで学校に現れた。 「ジンさん、今日はワイルドお姉様系から病弱美少女系にイメージチェンジですか?」 そんな不埒な事を抜かした風見を血の池に沈め、彼は自分のクラスの前に立っていた。 レーダー(付いてるらしい)で内部の様子を探る。 (ふむ、今日もDセリ男は中で待ち構えているようだな…) 「──Dセリ男言うなっっっ!!!」 「あびゅわっ!」 ジン、2連敗。 ☆★☆ 「う〜ん、何がいけなかったのかしらねぇ」 「ああっ!? どうしてまた柏木家にいる、俺ぇぇぇぇぇ!!!」 「じゃあ今度はイメージをがらりと変えて…」 「だから俺はコスプレしたいわけじゃ……ああっ! いやだそんなフリフリな服っ! だ からってボンテージ出さないで! っていうか何処に隠してあったそれ!」 楓は(もう立ち直ったらしい)そんな二人の痴態を見ながら、しずしずとお茶を飲んでいた。 「楽しそう…」 「ま、傍目から見てる分にはね」 ちなにみ初音はジンが家に来たとたん自室に閉じこもってしまっていた。 ☆★☆ 「でぃ…Dセリオぉぉぉ……勝負だぁぁぁぁぁ」 翌日、フリフリのピンクのブラウス、赤い超ミニスカート、ハイヒール、聖子ちゃんカ ット(ふっる〜)という破滅的ないでたちで現れたジンは、道ゆく生徒達の脳髄を破壊しな がら教室に向かっていた。 ガラッ! 扉を開ける。 「あれ?」 そこには、ジンの姿を見て魂を放出したクラスメート達しかいなかった。 ダダダダダダッ! バンッ! 「おいbeaker!」 「はい? 何のご用…」 ジンを直視してしまい、床に力無く崩れるbeaker。 「こらっ! 寝るな! Dセリオが元に戻ったというのは本当か!」 「は、はい……工作部に、頼んで……元に、戻すための、ワクチンプログラムを、作って もらいました…」 「なんだとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」 「──くすっ」 怒りに震えるジン(ついでにbeakerの首を折れる程に絞めている)は、何度も聞いた声を 聞き振り返った。 そこには、ニヤニヤとイヤらしい笑みを浮かべたいつもの姿のDセリオが… 「──ジンさん、コスプレ?」 「うぬがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」 ジンの魂の叫び。 そして始まる大乱闘。 「てめぇぇぇぇぇぇ!!! Dセリオっ! なます斬りにしてやるわぁぁぁぁぁ!!!」 「──うふふふふふ……本調子の私に勝てるとでも思っているのですか!?」 いつもの爆音、学園にはいつもの風景が戻ってきた。 めでたしめでたし… 「めでたくねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」 〜終劇〜 ──────────────────────────────────────── vsジン・ジャザムの2作目です(一番始めに出した最短Lは忘れて下さい(笑)) 前回はシリアス熱血バトルだったので、今回はギャグ熱血バトルです。 「どこがバトル? 戦ってないじゃん」という意見は却下(笑)