体育祭Lメモ「爆裂玉転がし」後編 投稿者:へーのき=つかさ
「──前方50mに巨大な岩山が…」
「ブレストファイヤー!」
 じゅわっ
「──…ありましたが、たった今消滅したのでこのまま前進します」


「相変わらず非常識な攻撃かましてくわね…」
 綾香が三年チームの通った跡を見ながら溜息をつく。
「相手の事を考えてる暇は無いぞ」
 坂下が綾香を自分達に向かせる。
 7人は自分達の前にどどーんと立ちはだかる岩山を見上げた。
 むちゃくちゃ高い。
 しかも勾配はほぼ90度、ロッククライミングの世界だ。
 大会運営者としてはここをひーこら言って登って欲しいのだろう。
 しかし、彼らはあいにくそんな余裕は持ち合わせていない。
 早く進むには岩山を吹き飛ばすのが一番なのだが…
「レミィがいれば一発だったんだがな」
 西山が呟いた、その時だった!

 ざばぁぁぁぁん…
「ふはははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!」

 砂が突然ふたつに割れ、その溝からハイドラントが現れた。
 流れる砂はアリ地獄を作り、ハイドラントはそこに引きずり込まれ再び砂の中に戻っ
ていった。
「今何かが生えてこなかったか?」
「あたしには何も見えなかったし聞こえなかったわ」
「ぶはぁぁぁぁぁっっっ!!!」
 今度は鯨よろしく砂を吹きながらハイドラントが現れた。
「困っているようだな綾香! どうしてもと言うのなら私が手助けしてやってもいいぞ」
「西山君でも無理なの?」
「ここまで大きいと少し骨が折れるな」
「あのさYOSSY…」
「無理です。こんな岩山」
「話を聞けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
 見事なまでに無視され、ハイドラントがキレた。
 話を聞かない人ほど無視されるのが我慢できないというのは本当らしい。
「何よハイド、あんたどっから湧いてきたの」
「地面からだ」
「…あっそ」
 綾香の皮肉は見事に空振りした。
「ところで綾香、お前はこの岩山が邪魔で進めないのであろう?」
「そうだけど…」
「なら私が吹き飛ばしてやろう! ガディムの…」
 人の話を聞かない人は勝手に物事を進めて失敗するというのは通説である。
「ちょ、ちょっと待っ…」
「叫びよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
 世界が光に包まれた。

 ゴゴゴゴゴゴゴゴ…
 もうもうと立ち込める煙の中、ひとりの男が狂った嘲笑をあげていた。
「ふはははは! どうだ! 跡形も無く消え…あべしっ!?」
「危ないじゃないのよ! 今のでYOSSYが吹っ飛んじゃったじゃないの!」
 そう言いながらも綾香は傷ひとつない。
「ふっ、私はお前さえ無事でいてくれれば他には何もいらないのさ…」
「やかましいっ!」

 めきょ

【YOSSY…ハイドの魔術で吹っ飛びコースアウト】
【ハイドラント…撲殺されてリタイア】


 二年が岩山を前に困り果てたのと同じく、一年も同様に困り果てていた。
「うーん…どうしましょうか?」
 風見が後ろを振り返って皆に問う。
「…そうですね」
 葛田がゆらりと集団から離れ、岩山の下に立った。
「………」
 そのまま岩肌に手を当てじっとしている。
「あの…?」
 そのまま全く動かないので、アイラナが心配になって話しかけた。
 でもやっぱり動かない。
「くっくっく…」
「葛田さん…?」
「…同志達よ…どうやら僕達にはどうしようもないようだ………
 ………ど、どう…? 今回は『導師』を使わないでみたんだけど…いいでしょ…?
 ぷっ…ぷっ、くっくっ…くははははははははははははははははははははははは!!!」
「「「ざけんなコラァ!!!」」」

 ぷちゃっ

 皆の心を合わせた一撃は、岩山と共に葛田を粉砕した。

【葛田…負傷によりリタイア】

                    ☆★☆

「あと2コース…最終コースはゴールまでの直線だから、実質的にはあと1コースと考
えていいだろうな。行くぞ!」
 三年一同はワープゾーンに飛び込んだ。

「「「な、何ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」」」
 目の前に広がる光景に、一同は驚愕した。
「そ、そんな…」
「よりによって…」
「人だらけの駅前商店街…」
「しかもバーゲンセールだしぃぃぃ!!!」
 ちょうど昼近くという事もあり、商店街はもう大盛況。
 大玉を転がしてゆく隙間なんぞ無い。
 一歩も動く事ができない一同。
 流石に一般市民を跳ね飛ばしてゆくほどの根性は持ち合わせていないようだ。
「考えてても仕方ない…正攻法だ! セリス行くぞ!」
「よしっ! はいはいみなさん危ないからどいてくださーい!」
 岩下とセリスが前を走り群集を掻き分けてゆく。
 しかし相手はバイタリティ溢れるオバサン集団。
「ぶぎゅっ!?」
「ぶ、ぶよぶよしてるぅぅぅぅぅ!」(爆)
 揉みくちゃにされ、人間カーペットにされてしまう始末。
「しゃーねえ…この手だけは使いたくなかったが…」
「ちょっとジン! 相手は一般市民だよ!? 発砲なんかしたら…」
 梓が慌ててジンにすがりつく。
「んな事するわけねえだろ! ちょっとおどかしてやるだけさ。
 …う、うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
 ジンの姿が変貌してゆく。
「お目覚めか…!?」
 その血も凍るような恐ろしい姿に、オバタリアン軍団はこの世の物とは思えないおぞ
ましい形相で正常な人間には発音不可能な叫び声をあげながら蜘蛛の子を散らすように
消えてしまった。
「夢に出そう…」
「ぼくも…」
「ああはなりたくないな…」
 三年生達はみな正直者だった。


「さぁーっ、来てらっしゃい見てらっしゃい! ほらっ、そこの奥さん。これを見なけ
りゃ末代までの恥!」
「いつもより多く回しておりまーす」
 2年は囮を使い客たちの気をそちらに引き付ける作戦に出たようだ。
 あかりが持ち前の器用さで包丁(爆)のお手玉をし、沙織は巧みな話術で主婦たちを呼
び込む。
 その結果できた僅かな隙間を西山たちは器用にすり抜けていった。

【沙織、あかり…作戦のためリタイア】


「HAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHA!!!」
 Tasが白い歯をキラリと光らせくねくねと走る。
 彼の行く先では、魔法のように人波が退いてゆく。
「グッモーニン! ハバナイスデェイ!」
 (どうゆう反応なのかはともかくとして)みんなに見られている…
 その思いが彼の熱いラテンの炎を燃え上がらせ、激しいビートを刻ませた。
「ハゥアーユー? アイムファインサンキュー!」
 Tasの踊りはますますヒートアップ!
 予測不能な手の動きは見る者の精神をラテンフィールドに引きずり込み、悩ましげな
激しい腰の動きは音速を超え伊勢湾台風も裸足で逃げ出す大旋風をを巻き起こす。
「コングラッチュレイション!」
 彼の踊りは現世の限界を超え…
 ついにアフロの神が降臨した。

「綺麗…」
 琴音は荘厳な神のお姿に涙を流していた。

 …ところで一年のみんなは一体どうなったんだ?

                    ☆★☆

「よおっし! 最後のストレートだ!」
「一番は頂いた!」
 最後のワープゾーンを抜けた三年チームはゴール目掛けて走り出す。
「そうはいかん!」
 すぐ後に二年チームが飛び出す。
「西山!?」
 西山が猛烈な勢いで大玉を転がし迫ってくる。
「なんだ、随分人数が減ったじゃないか!」
「うるさい! コースに散った仲間達のためにも負けるわけにはいかないのだ!」
「散ってない散ってない」
 綾香が冷静に突っ込む。
「YOSSYは散ったけどね」
 さらに坂下が突っ込む。

「くそっ! だいぶ出遅れた」
「どうするんですか!? もうこの距離じゃ間に合いませんよ?」
「た、助かった…」
 一年で無事に残っているのは風見と美加香、そして何故か光だけだ。
 他の人達は、みんなアフロ神の奇跡によってアフロにされてしまった。
 風見はギリッと歯を食い縛ると美加香の方を向いた。
 美加香と目が合う。
「ここまで来たんだ、負けたくはない! 貴様もそうだろう!?」
「はいっ! 勝ちたいです!」
 拳を固く握り、真剣な顔で答える。
「本当に勝ちたいか!?」
「たとえペンギソを絶滅させてでも勝ちたいです!」
「よしっ!」
 その瞬間ふたりの意識が同調し、精神の糸が心を直結した。
「「二人の心が真っ赤に燃える! 勝利を欲し、轟き叫ぶ………」」
 かっと二人の目が開かれ、風見は光を、美加香は大玉をひっつかんだ。
「「風見鬼畜拳最終奥義! 悪逆酷薄獣心非道苛烈残虐鬼畜ストライク!!!」」
 シュゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!
 光と大玉は高圧圧縮された有のエネルギーに包まれ、ゴールに向かって突き進む。
「僕はこのために生き残ったのかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
 合掌。

「「!?」」
 背後から迫る膨大な気に二年と三年の面々は振り返った。
「何っ!?」
「風見の奴! やりおったな!」

 岩下は一瞬の間でこの状況を打開できる策を練る。
「…よし、Dセリオ、ジン! 大玉を抱えて飛べ!」
「!? …なるほど! いくぜぇぇぇ!」
「──全開でいきます!」
 ふたりは助走してジェットを全開に吹かせた。
「頼んだぞ!」
「任せろ!」
 梓が大玉から飛び退き、ジンとDセリオが大玉をがっしり抱え込んで飛び出した。

「翼よ!」
 ふわっ
「な…!?」
 綾香の重力中和魔術によって西山と大玉がふわりと浮き上がった。
「ちょっと痛いかもしれないけど我慢してね!」
「本気で行くよ」
 綾香と坂下が西山の背中に向かってダッシュする。
「「たぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」
「ぐべばぁっっっ!?」
 ふたりの腰の入ったハイキックを食らい、西山は悲鳴と共に凄まじい勢いでかっ飛ん
で行った。


 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド………!!!
『おおっと! 三学年共横並びです!』
 志保が興奮して放送席から立ち上がる。
 観客達も総立ちだ。
「動力付きの俺達が一番有利だぞ、Dセリオ!」
「──はいっ!」
 三年のスピードがじわじわと上がってゆく。
 必死に頑張る選手達の姿に感極まった秋山が、ゴールの先に飛び出し手を広げた。
「よおっしジン! そのまま俺の待つゴールに飛び込んでこい!」
 ジンのバーニアの出力が80%下がった。
「みんなの勝利はどうでもいいが気に入らんからくだけろキサマァァァァァ!」
「ダークフレアっ!」
「ぬぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!? 精神攻撃は気持ち良くないぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
 滅殺。

『これは!? これまでトップを保っていた三年が遅れだしました!』
 今の妨害行為により、鬼畜ストライクの光(気を失っている)と質量ゼロの西山(足が
地面に付かないので行動不能)が横に並び、それをジン&Dセリオのロボットコンビが
追う形になっている。
「ちくしょぉぉぉ! 負けてたまるかぁぁぁぁぁ!!!」
 ジンが叫ぶ。
「──どうしても勝ちたいのですか?」
「当たり前だ!」
「──ならば…」
 Dセリオはニヤリと怪しげな笑みを浮かべた。
 しかし、熱血モード全開なジンはまったく気づかない。
 ぱっ
 彼女はは大玉を蹴って後ろに跳んだ。
「Dセリオ!? 一体…」
 ジンはようやく異変に気が付いた。
 しかし、もう遅い。
「──メガオプティックブラスト!」
「あぢぢぢぢぢぢぢぢぢぢぢあついってばおいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
 Dセリオの目から放たれた極太破壊光線は、ジンと大玉を焼きながらゴールに向かっ
て突き進む。

『おっ! 三年がまた盛り返して来たわね〜。さあ、この勝負分からなくなってきたわ
よ!』
 しーん…
『…ちょっと、応援のみんなはどこ行ったのよ!?』
 志保は横で逃げようとしていた悠の首根っこを引っ掴んだ。
「これはどうゆうことなの?」
「どうもこうもあるかっ! 早く…早く逃げないと…」
 目が本気だ。
「だから何で逃げるの。もうすぐゴールなのよ? ゴールの瞬間を見届けないでどうす
るの」
「よく考えろ! いいか? 奴等がゴールするって事は、外道メテオと巨大な鬼とメガ
オプティックブラストが突っ込んでくるって事なんだぞ!」
 ぽんっ
 志保が手を叩いた。
「なーるほど、だからみんな早めに避難して………って、ええぇ〜〜〜〜〜〜〜〜!?」

 志保は確かに見た。
 ついさっきまでグラウンドと呼ばれていた物が消滅するのを。

                    ☆★☆

「で、点数はどうなるんだ?」
「う〜ん、あの時の衝撃で計測器も壊れちゃいましたし…唯一の目撃者でもある志保も
記憶がとんじゃってますし…」
 大会運営委員は点数をどうするか話し合いをしていた。
 というか、周りを無事生き残った生徒達に囲まれているので話し合う事しか彼らには
許されていないのだ。
「じゃんけんにしよ…」

 ずげしっ! バキバキバキバキグシャッ! ドカバキズゴガキッ! ベシャッ!

 またひとり、勇敢な運営委員のひとりが殉職した。


 結局、千鶴校長の一声で、全学年30点という事で落ち着いた。
「落ち着いてねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ(さくっ)…ぐはっ」
 落ち着いたらしい。

                               次競技に続く…

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 今回のごめんなさい大賞
 アフロ化されてしまった一年のみなさん(爆)

http://moon.denshi.numazu-ct.ac.jp/~hirano/rabo/