体育祭Lメモ「爆裂玉転がし」前編 投稿者:へーのき=つかさ
 数々のデンジャラスな趣向が施された競技。
 戦士達はすでに満身創痍…

『ゲンキデスカ〜〜〜〜〜!?』
「「「おおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」
『次の種目は大玉転がし! 張り切っていこぉ───────────────!!!』

 …には程遠いようだった。

                    ☆★☆

「ねえねえ電芹、訊きたい事があるんだけどー」
「なんですか?」
 暑苦しい野郎共から少し離れた涼しそうな木陰。
 そこに電芹とたけるはいた。
「あのさー、大玉転がしってどういう競技なの?」
「知らないんですか?」
 電芹は言ってから気が付いた。
 彼女が記憶喪失で過去の事を全く憶えていない事に。
「わかりました、私が教えてあげますね。大玉転がしというのは…」
『ルールは単純! 大玉を転がしながら数々の障害が待つコースをゴール向かって走破
するだけ! 参加人数は無制限! ワイルドな走り期待してるわよぉー!!』
「へえ、そうなんだ…」
「たけるさん、違います…」


          −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
                各学年作戦タイム
          −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

<三年の場合>

「さて、参加人数無制限という事なんだが…だからと言って全員だすわけにもいかんだ
ろう、どうする?」
 いつのまにか仕切っているジンが皆に訊く。
「ワープ系の能力は駄目なんですよね」
「そうだ、だからお前は用無しだ」
 がーん!
 榊は精神に150のダメージを受けた。
 榊は死んでしまった。
「案外この競技は作戦が重要かもしれませんね」と、岩下。
「俺もそう思う、だから…ってなにしとるんだ貴様!」
 かーん!
 ジンの投げたコーラの空缶が、ビニールシートに座って茶をすすっていた久々野の頭
にヒットした。
「何するんですか、いきなり」
 意外に痛かったらしく、頭をさすっている。
「お前もちゃんと参加しろ」
「いいじゃないですか、たまにはのんびりさせてくださいよ」
「どうせやるなら平日にのんびりせんかい! ほれ、全員こっちこい!」
「ではあの人は?」
「あん?」
 久々野の指した先を目で追う。
 そこでは、鈴木静が木陰で優雅に佇みながら昼寝をしていた。
「あいつはいい」
「結構いい加減ですね」
 すかさず突っ込む久々野。
「だぁー! いいからさっさと作戦会議始めるぞ!」
 久々野の腕を掴んで引きずるジン。
「私はもう魔術が使えないんですよ?」
「でも頭はあるだろーが。てめぇの頭ならそこそこの作戦考えられるんじゃねえのか?」
「作戦…ねえ…」
 しぶしぶながらも久々野頭は回転を始めていた。


<二年の場合>

「楓ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
「綾香ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「ダーリィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィン!!!」
「浩之僕の愛を受け取ってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
「寄るな貴様らぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「浩之ちゃんは私の物だもんねっ!」

 二年は試合前から壊れていた。
 愛ゆえに…


<一年の場合>

「とりあえず足の速い奴は入れといた方がいいか…」
「トラップにそなえて打たれ強い人もいた方がいいかも」
 みんなで円陣を組んで話し合っている1年生達。
「おい」
 失礼、ひとり抜かしてみんなで円陣を組んで話し合っている一年生達。
「なんで自分だけ簀巻きにされてるんだ?」
 もちろんそのひとりというのはRuneである。
「自分の胸に手を当ててよく考えてみるんですね」
「ひなたさん、人のフリ見て我がフリ直せって知ってます?」
 げしっ!
「みぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
 ズボッ!
 地面に頭をめり込ませた美加香、もぐらの気持ちを知る。
「あのRuneさん、大丈夫ですか?」
 おずおずと、心配そうに葵が話しかける。
「ぐうっ!? 青い! 目の前が青くて死にそうだ!」
 Runeは突然原因不明の苦しみに襲われた…というのは当然冗談で…
 どかばきずこがきずべっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
 一年生(何故か二年の影もちらほらと)の一団による集団暴行。
 Rune、ダウン。
 そんな師の姿を見ながら智波は心の中で呟いていた。
(助けてあげれなくてごめんなさい…どうぞこのまま安らかに眠っていてくださいね)
 結構いい根性している。


          −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
                  競技開始
          −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

『それじゃあ用意はいいかしら…?』
 各学年の選手達が大玉を前に並ぶ。
 スターターが銃を上に上げる。
「用意…」
 パァン!
 スタートの銃声と共に選手達が一斉に飛び出した。
『さーて、いよいよスタートしました大玉転がし…おっと、三年が速い!』
 三年は陸上選手である梓が玉を押し、遠隔攻撃のできるジンとDセリオが並走。
 その前を知略に長けたセリスと岩下が走り、最後尾にはほうきに乗った魔法の使い手
芹香がついている。

「猛者ぞろいだな…」
 二番手に付けた二年チームの西山が呟く。
「一番のライバルってところかしら」
「そうね…」
 綾香の独り言に坂下が答えた。
 ちなみに二年のメンバーは、西山、YOSSY、沙織、綾香、坂下、あかり、レミィ
の7人だ。
 YOSSYの顔が少しにやけているように見えるのは気のせいだろう…たぶん。

 そして三番手の一年チームは…
「待ってよゆきちゃーん!」
「あうぅぅ、待ってくださぁぁぁい…」
「はあ、はあ、アイラナ…引っ張ってって…」
「もうバテたんですか、マスター」
「まさたにゃんはやいにゃぁぁぁ」
「HAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHA!!!」
 全員参加だった。
 ピンからキリまでが一緒に走っているのだ、はっきり言ってチームワークなんて物は
存在しない…っていうか存在しようがない。
「誰だ…全員参加にしようなんぞ言ったボケは…」
 Runeが憎々しげに毒づく。
「「「貴様が馬鹿な事しでかしたから決める時間無くなったんだろーがっ!!!」」」
 ずげしっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっ!!!
 Rune、今競技における2度目の撲殺。

                    ☆★☆

「おっ、ワープゾーンか?」
 三年チームの前にうにょうにょ動く時空の歪みが現れた。
「行くぞ!」
 ジンの声と共にワープゾーンになだれ込む。
 その先には…
「森…?」
 巨大な大森林が行く手を阻んでいた。
 木々の間は狭く、この大玉を通すのにはかなり骨が折れそうだ。
 しかし、一同は少しも慌てない。
 走るスピードをそのままに森に突っ込んでゆく。
「いくぞDセリオ!」
「──了解!」
 あと20メートル程で森に入るというところで、ジンとDセリオが示し合わせたかの
ようにぱっと前方へ飛び出した。
「アームランチャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」
「──サウザンドミサイル!」
 ぶっとい光熱波と無数のミサイルが一直線に森を焼き尽くし、ちょうど大玉が通れる
ぐらいの道ができた。
 そのままふたりは大玉の前を走り、焼き損なった木々を消してゆく。


「なにあれ…すごいチームプレイじゃない」
 綾香が信じられないといった顔で呟く。
「あのジン先輩とDセリオが一緒のチームだって事だけでも驚いてたのに…まさか協力
プレーまでするとは、奇跡だわ」
 坂下が冷静に結構酷い事を言う。
「ねえ、西山君どうするの? 私達も森を焼いて進む?」
 沙織がリーダーである西山に訊く。
 ちなみに、各学年のコースはある程度離れており、他の学年の破壊した跡を通る事は
できない。
「うーむ…俺が鬼に変化してもあれだけの木を切るのは無理がある。綾香の魔術も持た
ないだろう?」
「できない事もないけど、ゴールまでの体力が残るかどうかは怪しいわね」
 どうせこの森を抜けたあとにはもっとすごい障害が待っているのだろう。
 ここで体力を使い果たしてしまうのは馬鹿げている。
 しかし、考え込んでいる間にも森はどんどん近付いてくる。
「そうだ、いい考えがあるよ」
「何!?」
 あかりはおもむろに一枚の写真を取り出した。
「宮内さん、これ」
「What?」
 そこには満月が移っていた。
「Moon…? ウ…ウゥゥゥゥゥゥ…」
「宮内さん…?」
 異変を感じたYOSSYは、レミィの肩に手を置こうとした。
 その瞬間、レミィの体が膨れ上がり服が弾け飛んだ。
 身長がぐんぐん伸びてゆく。
『チュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!』
「どわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
 そこには、ついさっきまでレミィと呼ばれていた巨大生ハムがいた。
「宮内さん、森焼いちゃって♪」
『OK、アカリ』
 生ハムが大きく息を吸い込んだ。
「ま、まずい…! みんな離れろ!」
『Fire!』
 シュゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ………!!!
 巨大生ハムのレーザーブレスは、進行方向にあった森をあっさりと消滅させた。


「な、なんだあれは!?」
(そういえばミヤウチ星人はエルクゥと同じく変身能力を持っているんだったな)
 光の叫びに精神体紫音が冷静に答える。
「よわりましたねぇ」
 ズシンズシンと歩く生ハムの巨体を眺めながら、困ったようには思えない口調でまさた
が呟く。
「一年には攻城戦術級の攻撃ができる人がいないんですよねぇ」
 はっ!?
 全員の顔が強張る。
 EDGEは神威のSSの使い手であるが、ライガージョー形態の時しか使わない。
 風見の技は雑魚を蹴散らすのには適しているが大規模破壊には向かない。
 葛田の魔術はまだまだ未熟。
 Tasはとりあえず置いといて…
 Hi-waitの重力弾は味方も巻き添えにするので使えない。
 レッドテイルの幻獣ならなんとかなりそうだが、召喚のたぐいは『乗り物の使用』と
されてペナルティになってしまう。
 芹香がほうきに乗っていると言う人もいるかもしれないが、ほうきは魔法の媒体に過
ぎず、飛ぶ要因になっているのは芹香自身の魔力なため乗り物にはならないらしい。
「仕方ないですね…地道に薙ぎ倒していきますか?」
 風見が皆に問う。
「はいはーい! それなら私がいきまーす!」
「じゃあ、あたしも」
 M.KとEDGE、怪力少女ペア(失礼!)がずいっと出る。
「「たぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」
「ちょっと待った!」
 ずべしゃぁぁぁっ!!!
 今まさに木を薙ぎ倒さんとしていたふたりは、もろにバランスを崩して豪快に顔から
地面に突っ込んだ。
「ふふふ、ここは自分達に任せてくださいよ」
 声の主、Runeは自信満々で前に出た。
「自分達………まさかお師様、その"達"には僕も入っているんですか?」
「お前意外に誰がいる」
「はあ…」
 智波は大きな溜息をついた。
「真面目にやるんだろうな。ふざけたりしたら正義の名の下にしばくぞ」
「そうそう、わざと変な事したらちょっと頭にノイズが走っちゃうかもしれませんよ?」
 正義コンビが釘を刺す。
「ははは、随分と見くびられたものだな。これでも自分は爪の塔出身なんですよ?」
 だからなんだという皆の視線がステキに痛い。
「まあいい。というわけで智波…ごにょごにょごにょ…」
「はい…え? それでいいんですか?」
「いいんだよ。いくぞ!」
 ふたりは魔術の構成を編み始める。
 さすが腐っても塔出身、Runeは一瞬で魔術の構成を編み上げる。
 少し遅れて智波も構成を編み上げた。
「最大出力でいけ! 我は放つ…」
 ん? と皆は首をかしげる。
「「あかりの白刃!!」」
 その声と共に、Runeの目の前に赤い戦巫女が、智波の前に2Pカラー(青)の戦巫女
が現れる。
 そして二体の戦巫女は進行方向にある全ての木々を根元からズバズバと切り倒し、消滅
した。
「どうだ! 威力抜群だろ?」
 振り返って自慢げな笑みを浮かべるRune。
 しかし皆の顔は引きつり、震えていた。
「どうした?」
「「切り倒された木が複雑に重なり合ってよけいに進みにくくなってんのが分かんない
のかおどれらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」
 げしぃっ!
 ふたり(智波「なんで僕まで〜(泣)」)はEDGEとM.Kのクリティカルなアッパー
で遥かなる宇宙へと旅立った。

【Rune、智波…コースアウトで失格】

                    ☆★☆

「なんじゃこりゃ!?」
 邪魔な木々を軽く薙ぎ倒し(環境保護団体に殺されるな)森を抜けた三年チーム。
 しかし、今度はごうごうと音を立てて流れる濁流が道を塞ぐ。
「ここを登っていけっていうのか?」
 ジンがイヤそうな顔をする。
 ところどころに岩が顔を出しているので、それを飛び移っていけば進む事自体は難し
くない。
 ただ大玉を運ぶとなると話は別だ。
「さすがにこの玉を抱えていくのはあたしにゃ無理だよ」
 梓が言う。
「そうだな…」
 セリスの視線が梓からジンに移る。
 そうなるんだろうな…
 ジンは諦めの入った顔をセリスに返す。
「ジン…お前なら力もあるし、いざとなったら飛べるし、もし流れに呑まれても重いか
ら海までは流されない。頑張れ!」
「もうちっとオブラートに包んだ言い方はできんのかい!」
 今この場で血の海に沈めてやろうかとも思ったが、それが原因で競技に負けたりした
らリンチで済まないのでやめてやる事にした。
「ちっ…」
 嫌々ジンが大玉を担ごうとした時だった。
 ずっと無言で付いて来るだけだった芹香が初めて口を開いた。
「………」
「あんだって? この玉を浮かす事ができる?」
 こくこく
 芹香は目を閉じるとマントの中から魔道書を取り出し呪文の詠唱を始めた。
「…iz………aq……mp…lk……」
 呪文と共に、大玉全体が白い光に覆われはじめる。
「……tu……re…wo……bv……」
 そして…
 ふわっ
「浮いた!?」
「よっしゃ! これでわざわざ担いで行く必要が無くなった」
「行こう!」
 岩下の声で一同は再び進み始めた。


「楓のためなら荒れ狂う川のひとつやふたつぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」
 二年チームでは、鬼化した西山が大玉を抱えて濁流の中(!?)を爆走していた。
「ちょっと待ちなさいよ!」
「西山君!」
 綾香や沙織の声も聞こえていないようだ。
 彼はひたすらコースを爆進する。
「愛って偉大だね」
「そうだね…」
 軟派なYOSSYはちょっと心が痛かった(笑)

 なにはともあれ、西山の暴走のおかげで三年との差は少し縮まっていた。


 そして、問題の一年チーム…
「ほらっ、立ち止まっちゃ駄目だよ。恐くないから勇気を出して!」
 ドンッ!
 ぼっちゃん!
「………あ、れ…? ボ、ボクのせいじゃないよね…(大汗)」
「ああっ!? マスターがとってもいい感じにドンブラコドンブラコ流されてるっ!」
「Yinさん! アイラナは俺が面倒見るから安心して!」
「助けろレッドぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

「うわっ、なにするんですか!」
「一緒に行こう空君! 赤信号、みんなで渡れば恐くない!」
 川に落ちたりーずと宇治が空の足を掴んでいる。
「やめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
 やめなかった。

「ひなたさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん………」
「流されながらドップラー効果を立証してるんじゃないっ! このスカタン!」
 そう言いつつも美加香を助けるひなた。

「こらゆきっ! 私も乗せてよ!」
「そんな…初音ちゃんとマルチを背負ってるだけでも腰が抜けそうなのにぃ!」
「あら、あたしも便乗しちゃおうかしら?」
「はい! ご一緒しましょうEDGEさん!」
「「えいっ♪」」
「やめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
 ごきっ

【ゆかた、まさた、たける、電芹…ギブアップによりリタイア】
【Yin、りーず、宇治、空…流されてコースアウト】
【ゆき…負傷によりリタイア】
【タケダテルオ…魚の餌】

                    ☆★☆

「ワープゾーン発見!」
「おうっ!」
 先頭の岩下に続き三年チームはワープゾーンに飛び込んだ。
「なんだこりゃ!?」
 梓が立ち尽くす。
 そこは灼熱の砂漠だった。
「これは体力の消費が激しそうだな」
 セリスがそう呟いた時だった。
 芹香の体がふらっと傾いた。
「芹香さん!?」
 慌てて抱き留める。
「!?」
 顔が紅潮しており、息も荒い。
「なんだ、もう暑さにやられたのか?」
 ジンの問いに芹香はふるふると力無く首を振った。
「え、さっきので魔力を少し使い過ぎた…? 自分はここでリタイアする? ちょっと
待って芹香さん! こんな砂漠の真ん中に置いてなんか行けないよ!」
「大丈夫」
 取り乱すセリスの肩を岩下がぽんと叩いた。
「実行委員会の体勢は完璧だよ」
 岩下の言葉が終わるか終わらないかのうちに…
 バババババババババババババババババババババババババババババババババ………!!!
 救護班と書かれた白いヘリが舞い下りてきた。
「な?」

【芹香…ギブアップによりリタイア】

「よし行くぞ!」
 岩下の声と共に再び走りはじめる。
 梓が大玉を転がしジンとDセリオが横に、セリスと岩下が前に出る始めの陣形だ。
「何かいる!」
「──生体反応!」
 右側にいた岩下とDセリオが何者かの気配を感じ取りいつでも攻撃できる体勢にはい
る。
 ザバァァァァッ!
 平坦だった砂地が盛り上がり、そこから二体の巨大サソリが現れた。
 相手の姿を見止めた瞬間、ふたりは動いていた。
「闇払い!」
 岩下の放った地を這う炎はサソリの固い外骨格を通して肉を焼き尽くした。
「──デスドリル!」
 Dセリオは手からドリルミサイルを放つ。
 それはサソリの体内にまで食い込み、サソリの体を木っ端微塵に吹き飛ばした。
「こっちからもわらわら来たぜ!」
 光線兵器をぶっ放しながらジンが歓喜の声を上げる。
 セリスもビームモップを構え、梓と大玉に近づこうとするサソリを片っ端から切り刻
む。
「おそらくこいつらは無尽蔵に出てくる。包囲網を突破するぞ!」
「「「おおっ!」」」
 岩下の合図と共に一同は走り出した。


「光よ!」
 綾香の放った光熱波がまた一体の巨大サソリを焼き払った。
「まったく埒があかないな…」
 坂下が唇を噛む。
「ところで宮内さんはどこ行っちゃったんですか! 彼女がいればこんなサソリ一網打尽
なのに!」
 刀でサソリの毒針を捌きながらYOSSYが叫ぶ。
「俺が訊きたい!」
 西山の爪がサソリを真っ二つに切り裂いた。
「本当にどこ行っちゃったんだろうね」
 あかりは五つ目のサソリの生け作りを完成していた。

 レミィ(巨大生ハム)は定められたコースから遥かに離れた場所で、巨大サソリの踊り
食いを楽しんでいたところを捜索隊に発見された。

【レミィ…コースアウトにより失格】


「どいたどいたっ!」
 わるちの拳がサソリの固い鎧を砕く。
(こそこそこそこそ)
「それーっ!」
 M.Kのビームモップがサソリを真っ二つに切り裂いた。
(こそこそこそこそ)
「うわわわわわっ!」
 光が余ったサソリをまとめて誘導する(ただ単に追われているともいう)
(こそこそこそこそ)
「Hi! ナイストゥーミーチュー!」
 Tasが怪しい爽やかな笑みでサソリを追い払っている。
(こそこそこそこそ)
 そうやって皆がサソリと戦っている横で、初音とマルチはこそこそと大玉を転がして
いた。
(気付かれませんように、気付かれませんように…)
(あうぅ…サソリさんこっち来ないでください〜)
 幸いサソリ達は大玉の方には気付いていないようだった。
 所詮は虫である。


                                  後編に続く