偽風紀動乱L「我が想いに応えよヅ(検閲削除)」 投稿者:Hi-wait


<注意>このLメモは、「一見」風紀動乱Lをベースにしているように見えますが、その実
一切関係有りません。その辺間違いのないように(笑)

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「生徒指導部……がんばっているようだね」
 口元に笑みを浮かべながら、彼は言った。
「はい。既に、風紀委員会長に戦力はほとんどありません。監査部が生徒指導部の手綱を
取ろうとしているようですが、成功するかどうかは微妙でしょう」
「ふん……」
 目の前にいる自らの片腕の報告に、方眉を上げて答える。
「面白くないな」
「……はい?」
 怪訝そうに聞き返す『片腕』に、彼は大げさに両手を広げて見せた。
「この学園は、一人の独裁者によって支配されるべきじゃない。有りとあらゆる人物が、
組織を率いて覇権を争う。そして、それによって発する混沌たる秩序……これが、この学
園の有るべき姿だ。そう思わないか、太田君?」
 『片腕』……太田加奈子は、目の前の彼を黙って見つめた。

 ……月島拓也。

 それが、彼の名前だった。
 そして、彼女がもっとも尊敬し、そしてあこがれる人。
 だから、彼女は頷く。
「では……」
「ああ。そろそろ、僕たちとしても態度を鮮明にした方がいいだろう。やるべき事は……
分かっているね?」
「では、早速人材を集めて実行します」
 それだけ答える加奈子。
 それ以上の言葉はいらない。
 今までずっとそうやってきたから。





 そして、これからも――









         偽風紀動乱L「我が想いに応えよヅ(検閲削除)」





「襲撃ポイントはここでよし、と。あとは、ターゲットが通るのを待つばかり、か……」
 すでに一時間目が始まろうかという時間。
 Hi-waitは、アズエル棟の廊下に身を潜めていた。
 その横には、なにやら妙にサイズの大きい虫かごが一つ。
 ……と、その虫かごががさがさ動き出す。
「静かにしろ」
 押し殺した声で呟き、Hi-waitは棒手裏剣を虫かごの隙間から突き入れる。
「心配しなくてもじきに出してやる。だが……任務が失敗したらどうなるか……分かって
るよな?」
 Hi-waitが棒手裏剣をぴこぴこ動かすと、虫かごが再び動き出した。ただし、今度は見て
いるだけで恐怖にかられていると分かる動きで。

 ……と、Hi-waitの動きが急に止まった。
「しっ! 来た!」
 虫かごに手をかけ、息を押し殺して待つ。

 こつ、こつ、こつ……

 廊下の向こう側から、ゆっくりと近づいてくる足音が一つ。
 そして、その足音がHi-waitのすぐ近くまで来たとき……
「今だっ!」
 Hi-waitは叫びとともに虫かごを開け、足音のしたあたりに放り出した。
「なっ、なっ……!?」
 虫かごから出てくる大量の『モノ』に、唖然としたような足音の主。
 Hi-waitは、それを見ることもせずに気合いを全身にため、叫んだ。
「久方ぶりの必殺・正義の鉄槌!」
 轟音と共にアズエル棟の一部・倒壊。
 次の瞬間、瓦礫にまみれてつぶれたHi-waitと大量のチャバネメタオ、それに長瀬源一郎
教諭がその場に転がっていた……

 外から轟音が響いてくる。
「始まった……」
 月島瑠香は、呟きながら女子更衣室をうろついた。
 一時間目、一年女子は体育。
 瑠香の他に人影は居ない。
 わざと遅れていったからだ。
 その目的はただ一つ。
 瑠香はゆっくりと唾を飲み込み、目的のロッカーに手を伸ばす。
 その中から、そっと『目標』を取り出し、元の通りにロッカーをしめる。
 そして、ゆっくりと更衣室を出た。
「……ご苦労様」
 出た瞬間、何者かが瑠香に声をかけてくる。
「あ、叔父さん。言われたもの、とってきましたけど……」
「『叔父さん』はやめてくれと、何度言ったら分かるんだ君は?」
 少し困ったような笑みを浮かべ、拓也は瑠香から『目標』を受け取った。
「まあいい。授業に戻りたまえ。Hi-wait君と違って、君が授業をさぼると
目立ってしまうからね」
「はい!」
 瑠香は元気よく頷き、グラウンドに向かって駆けていく。
 拓也はそれを見送り、しばらくしてきびすを返し歩き出した。

 向かう先は、アズエル棟。

「済まん! 長瀬先生がまた廊下で襲われた。この時間は自習してくれ!」
 三年生の教室に柏木耕一が駆け込んできた瞬間、教室内部は歓声に包まれた。
「よっしゃぁぁぁぁぁぁぁ!」
 ジン・ジャザムのように露骨に叫ぶ者もいれば、柏木梓のように大きく安堵の息をつき
ながら後ろにもたれる者もいる。
 そんな中、くそ真面目に自習を始めようとしていたディルクセンにゆっくりと近づいて
いく拓也。
 何故か、風呂敷包みを手にぶら下げている。
「ディルクセン君。ちょっと君に話が有るんだが……いいかな?」
「今は自習中だ。後にしろ」
「そうも行かなくてね。重要な話なんだ。なに、手間はとらせない」
「……なんだ」
 不機嫌そうに拓也を見上げるディルクセン。
「ここじゃ話しづらい。場所を変えないか?」
 それに対し、あくまで拓也はにこやかに告げた。

「……で、一体この俺に何の話だ?」
 アズエル棟・一階の空き教室。
 そこで、拓也とディルクセンは向き合っていた。
「単刀直入に聞こう。ディルクセン君、今の君の行動は『良かれ』と思ってのことかい?」
「……何のことだ?」
「僕には、今の君の行動は学園に無用の争いを巻き起こしているようにしか見えない。こ
の学園に多数の争いを巻き起こすことが、君の狙いなのかい?」
(……こいつ、何を考えている?)
 ディルクセンの脳裏に、一つの疑問が浮かんだ。
 目の前にいる男――月島拓也ならば、その程度のことが分からないはずがない。自分が
何を意図して今の動乱を起こしているのかを。
 だから、率直に口にする。
「貴様……何を考えている?」
「別に。ただ、君の口から直接聞きたくてね」
「…………」
 無言で拓也を睨みすえるディルクセン。
 それをアルカイック・スマイルで受け流す拓也。
 しばしの時が流れ……
 先に折れたのは、ディルクセンの方だった。
「俺が動いているのは、新たなる秩序のためだ」
 無言で先を促す拓也。
「この学園には、抗争が多すぎる。何故だ? それは、絶対的権力を持つ独裁者が居ない
からだ。独裁者が絶対的な権力で全生徒を統治すれば、抗争など起こる余地がない。だが、
誰もそのことに気付かない。ならば、俺が絶対的な権力者となって抗争を収める!」
「……だが、独裁は反発を生む。反発はさらなる紛争へと繋がる。それをどう収めるつも
りだい?」
「確かに、ただの独裁者ならそうなり、独裁は長くは続かないだろう。だが、俺は『絶対
的な』独裁を敷くのだ。絶対的な独裁者の前では、反乱など無意味。少しでも頭のある者
ならそう判断するだろう。それが抗争への抑止力となる」
「そのための今、と言うわけかい?」
「そうだ」
「……なら、僕はやはり君には賛同しかねるな」
「ほぉ?」
 拓也の言葉に過敏なまでに反応するディルクセン。
「この学園は、混沌こそが秩序なんだよ。多数の個人が、自らに賛同する者を率いて自ら
の主張を通す。その中で現状に即した『法』が形作られていく。……独裁者は、この学園
には必要ないんだよ」
「…………」
 再び無言になるディルクセン。
 口を閉ざし、拓也はそんなディルクセンに視線を向ける。あたかも、『観察』するかの
ように。
「それは、俺に対する宣戦布告……と受け取っていいんだな?」
「…………」
「暗躍生徒会は、我々生徒指導部に敵対する……そう解釈するぞ?」
 しばらく無言が続く。
 ややあって、拓也が口を開いた。
「まぁ、そう受け取ってもらってもかまわないよ」
「…………!」
「僕の望みは、『秩序有る混沌』だからね。……おっと、そんなに緊張する必要はない。
今日は挨拶だけのつもりだから」

 キーン、コーン、カーン、コーン……

 そこで鳴り響く、一時間目終了のチャイム。
 拓也はそれを聞くと、持っていた風呂敷包みをディルクセンの方に差し出した。
「……何だ、これは?」
「今日は挨拶だと言ったろう? まぁ、土産みたいなものだよ」
「…………」
 受け取ろうとしないディルクセン。
 そんな彼を見て、拓也はにこやかな笑みを浮かべた。
「ああ、そんなに警戒しなくても大丈夫だよ。これ自体に危険はないからね」
 警戒しながら風呂敷包みを受け取るディルクセン。
 ……柔らかかった。
 布を幾分か包めば、こんな感じになるだろうか。
 拓也はそれを確認し、窓枠に足をかけた。
「じゃあ、僕は急いでいるのでね。また会おう」
 そして、そのまま窓から飛び出し、走り去っていく。
「……何なんだ、一体……」
 ディルクセンはぶつぶつ呟きながら、風呂敷包みを解いた……

 『彼女』は激怒していた。
 この学園に、そういうことをしでかす人間が居ることは周知の事実だ。
 だが、よりにもよって『彼女』のものを――!
「絶対に、見つけだしてぎたぎたにしてやるんだから……!」
 静かなる怒りを秘め、『彼女』は進む。
 今までに(脅迫などを交えつつ)得られた証言を総合すると……

瑠香「えっと、確か私が来たときに男子生徒がアズエル棟に向かって逃げていったんです」
加奈子「怪しい荷物を抱えた男子生徒ですか? 三年生の教室に入っていったようですが」
マナ「他の人に聞けば……(びゅっ!)……え……えっと、そう言う人は知らないけど、
ディルクセン君が自習が始まってすぐ教室から出ていくのを見ました……だから殴らない
で……」
冬弥「ディルクセン? アズエル棟一階の空き教室に入って行くところを見ましたが……
それが何か?」



 ……そして、『彼女』はその教室に辿り着いた。



「…………?」
 拓也に渡された風呂敷包みに入っていたもの……それは、どう見ても『せぇらぁ服』だった。
「なぜ、こんなものが……? いや、それ以前に誰のだ、これは……?」
 そこまで呟いたとき、ディルクセンの動きが唐突に止まった。
 ブレザータイプの制服であるこの学園で、せぇらぁ服を着ている人物は……一人しかい
ない。
「あいつ……っ! これが狙いか……!」
 慌ててせぇらぁ服をしまおうとしたとき、教室の扉が音を立てて吹っ飛んだ。
 そして、その背後から現れたのは……
「……ディルクセン君……その手に持ってるのは何かしら?(はぁと)」
 ディルクセンは無言で後ずさるばかり。せぇらぁ千鶴ちゃん16歳――今は体操服姿だか
らさしずめ『ぶるまぁ千鶴ちゃん16歳』か――に壮絶な笑みを浮かべつつ歩み寄られて、
その場に踏みとどまることが出来る者はいない。
「えっと……これは、その……」
 ディルクセンが発することが出来た言葉は、そこまでだった……

 何食わぬ顔で教室に戻った拓也は、一人呟いた。
「だから言ったじゃないか。『これ自体に危険はない』って」

                                <完>