ひたすら陳謝Lメモ「ディル君の日常」 投稿者:Hi-wait

 とある男子生徒の部屋 ―時刻0700―

「よし、時間だ。装備品点検をしなければ……」
 彼は、傍らの時計を確認して立ち上がった。
 そして、鞄に手際よく教科書、ノート、筆記用具をつめていく。
 漫画、菓子の類はいっさい無い。
 最後に一通り鞄の中を確認し、それを手に取り立ち上がった。
「さて、出頭の時間だ」
 ドアを開けて外へ出ていく。
 どーでもいいけど、学校に行くことを『出頭』言うなよ。





             ひたすら陳謝Lメモ「ディル君の日常」





 校門前 ―時刻0815―

「おはようっ!」
 足を肩幅まで開き、腕は軽く後ろに組む。そして胸を若干反らし――要するに『休め』
の姿勢――をしながら、ディルクセンは声を張り上げていた。
 その横で、彼と同じ姿勢で同じ風紀委員会の腕章をつけた生徒が、気怠そうに朝の挨拶
を唱和する。
 ……が、校門を通る生徒達は彼等の方など見向きもしない。
 なぜなら――
「おはようございます!」
「やあ、おはよう」
 校門のすぐ内側で、朝のお掃除をしながらマルチとセリスが同じ事をしているからだっ
たりする。
 どうせ挨拶してもらえるなら、暑苦しいまでに堅苦しい野郎どもより、ほんわかした可
愛い女の子の方がいい――これが真理である。
 たとえコブつきでも。
 それを横目で見ながらディルクセンのこめかみがひくついていたりもするが、それはご
愛敬である。
 と、彼の眼前を一人の男子生徒が猛スピードで通過し、校門に走り込んだ。
 入ったところで停止し、大きく肩で息をする。
「ふーっ、ぎりぎりセーフだぜ……」
 それを見たディルクセン、眉をつり上げて男子生徒の方に歩み寄った。
「またお前か、藤田!」
「ああ? ……なんだ、ディルクセン先輩か」
「なんだ、とはどういう口のきき方だ? 全く、お前のような奴がいるから校内の風紀が
だな……」
 キーンコーンカーンコーン……
 ディルクセンの言葉の途中で、予鈴が鳴り響く。
「ん、予鈴か? よし、校門を閉めろ!」
 その瞬間、ディルクセンは風紀委員に指示を飛ばす。
 浩之はその間に何事もなかったかのように校舎に向けて歩き出していたが、そんなこと
は気にもとめていない。
 がらがらと音を立て、校門が閉まっていく。

 と――
「ぬぉぉぉぉぉぉぉぉぉ! ちょっと待ったぁぁぁぁぁぁぁ!」
 校舎側から、何かが地響きを立てて校門に迫ってくる。
 刹那、それは閉まる寸前の校門に飛び込み――そのまま校門に挟まれた。
 ぐちゃっ。
 瞬間、校門を閉めていた生徒の手が止まる。
 が――
「ふははははははははっ! 青い、青いわぁっ!」
 校門を吹っ飛ばして立ち上がる人影。
 盛り上がった筋肉に、忍者装束……言わずと知れた、秋山登である。
「この程度でこの俺を満足させようとは、片腹痛い! 貴様等の熱き魂を、この俺にどん
とたたき込んでこい!」
「お前が勝手に飛び込んできたんだろうが……」
 こめかみを押さえるディルクセン。
「ん〜? そんなことを言うのは貴様か〜?」
 わきわきと手を動かしながらディルクセンに迫る秋山。
 動かし方が非常に怪しい。
「よ……寄るな憑くな触るな存在するなっ!」
 むちゃくちゃ喚きつつディルクセンはワルサーを乱射する。
 だが、相手はあの秋山。そんなものが効くはずはない。
「温い……温いぞっ! 俺が手本を見せてやる! ぬぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
 そのままディルクセンを右手でひっつかみ、投げ飛ばす。
 だがそこはディルクセンも手慣れたもの。慌てず騒がずパラシュートの紐に手をかけ、
一気に引っ張った。
 そして、パラシュートは……下に開いた。
 結局、ディルクセンは落下時にパラシュートに巻き付かれ、ろくにガードも出来ずに地
面にたたきつけられたのだった。

 教訓:パラシュートは垂直落下時に使いましょう。


 保健室 ―時刻1250―

 ディルクセンは、弁当を食べながら保健室使用状況を記録していた。
「一時間目、さぼり3名。二時間目、同じく5名。三時間目、同じく4名。四時間目、同
じく32名――なんだこれは?」
 四時間目は三年生が化学の授業だったので、保健室に生徒が避難してきたらしい。
 それはともかく――
「保健室がさぼりにしか使用されていない、というのはどう言うわけだ?」
 箸をくわえて考え込むディルクセン。
 行儀悪いぞ、お前。
「風紀上望ましくない事態だな……やはり、さぼり撲滅にはここを押さえなければ駄目な
のか……」
 そんなことを呟きながら、見取り図に印を入れていく。
 ちなみに、表題は『さぼり撲滅時における推定敵拠点』――彼の趣味が如実に現れた代
物である。
 ……と。
「失礼しまーす☆」
 声がして、保健室のドアが開かれた。
「こら、入るときはノックぐらい……」
 振り向きながら放ったディルクセンの言葉は、そこから続きが発せられることはなかっ
た。
 なぜなら――
「ち、千鶴先生……!?」
「やだなぁ、ディル先輩っ☆ 私のことは『千鶴ちゃん(はぁと)』って呼んでって言っ
てるじゃないですかぁ♪」
 ――と言うことだったからだ。
「それとも……」
 と、ここで急に目つきが変わり、
「まさか、私の言うことが聞けないとでも?」
「そっ、そそそそそそそそそんな滅相も無いッ!」
 その言葉を聞いて、千鶴ちゃん(はぁと)の表情が一転して笑顔に変わる。
「もぅっ、ディル先輩ったらお茶目さん☆」
「は、ははははははは……」
 額に冷や汗を浮かべながら笑うディルクセン。
(おかしい……)
 彼の経験が、そう警告を発していた。
 だいたいの場合、千鶴が『せぇらぁ千鶴ちゃん16歳』となっている場合、通常よりも異
様にテンションが高くなっている。
 だが、それにしても――
(今日のテンションは高すぎる――!)
 とっとと話を切り上げて逃げるに限る。
 ディルクセンの理性はそう判断した。
「と……ところで、今日は一体どうしたんですか?」
「今日は、いつも頑張ってるディル先輩に千鶴ちゃんからご・ほ・う・び(はぁと)をあ
げちゃおうと思ったんです! いやぁん、千鶴ちゃんってば大胆☆」
「え――」
 ディルクセン、硬直。
 次に続く言葉が、容易に想像できたからだ。
 そして――
「今日は、ディル先輩のためにお昼ご飯作って来ちゃいました☆ まさか――いらないな
んて言いませんよね?」
 最後の台詞を言うときだけ、目が紅く輝いていたりする。

 ――ディルクセン、墓穴。


 廊下 ―時刻1545―

 結局、ディルクセンが復活したのは放課後になってからだった。
 だが、そのまま帰ることは許されない。風紀委員会の仕事は、放課後こそが本番なのだ
から。
「そこっ! つまらん話で時間を潰すより、とっとと帰って勉強しろ!」
「貴様っ! ここは一般生徒立入禁止だ! すぐに退出しろ! 反応がない、もしくは退
出が見られない場合は敵対行為と見なして発砲する!」
 ……一部高校生とは思えない言動が混じっていたりするが、そこはまぁご愛敬である。
「……で、そこで何をしているガンマル」
「気付かれた!?」
 ディルクセンのすぐ右に、一人の男子生徒がたっていた。
 100tハンマー((c)北条司)を振りかぶって。
「くっ、俺の背景化が見破られるとは……!」
 何故か悔しそうなガンマル。
「あのな……」
 ディルクセンはこめかみを押さえながら、
「他に誰もいないところで背景化なんぞ出来るかっ!」
 思いっきり怒鳴った。
「おおっ、そいつは盲点!」
「盲点じゃないっ! まったく……しかし、貴様は今定期巡回を妨害した。公務執行妨害
の現行犯だ。ちょっと来てもらおうか?」
「……へ?」
 その時だった。
「世界中のちゅるぺたはワシのもんじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「うゆぅぅぅぅぅっ!? 怖い顔したおじさんがおっかけてくるですぅぅぅぅぅっ!」
「ぐははははは、怯えた顔もまた一興よぉぉぉぉっ!」
 追われている響の顔は笑顔だったりするが、追う平坂にとってはどうでもいい……のか
も知れない。
 そして響は、ガンマルとその胸ぐらを掴んだディルクセンの間を走り抜け……
「邪魔じゃ貴様らっ!」
 そのまま突っ走る平坂に吹っ飛ばされた。
 ディルクセンだけが。
 ガンマルの方は、ちゃっかり背景化で逃げていたりする。
 どうやら、その場に複数の人間がいれば背景化は出来るらしい。
「また吹っ飛ぶのかぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
 パラシュートは朝に使ってしまったので(役に立たなかったが)、今は持っていない。
 とりあえず、胃薬なんぞ口にしてみる。

 ……やっぱり役に立たなかった。

                                <完>