<PROLOGE> 「やっほー、レポーターの長岡志保ちゃんよ! 今日はあの黒ずくめ、ハイドラントの日 常を徹底取材! 何があっても驚かないでね。じゃ、いっくわよ〜!」 <SCENE1 始業前> 朝。 今日も快晴である。 生徒たちが爽やかに登校していく。 ……おっと、例外がただ一人。 黒ずくめなんて格好をしてるから、暑くてたまらなさそうなハイドラントである。 「……導師、黒ずくめだったら暑いんじゃ……」 「いいか葛田。この格好は私のポリシーだ。それを簡単に曲げては、男がすたる」 「はぁ……」 汗をだくだくかいた状態で言っても、説得力がない。 ……と。 ハイドラントが、急にひざを突く。 「どうしました導師っ!? クッ、ククククク……」 いつもならそこでツッコミを入れるところであるが、今日のハイドラントはひと味違っ た。 「だ、脱水症状が……」 ハイドラント、保健室に直行。 <SCENE2 昼休み> 中庭での出来事。 一組の男女が、そこにたたずんでいた。 ……否。 睨み合っている。 女の方は、手に弁当らしき包みをぶら下げている。 対する男の方は、全くの手ぶら。 ややあって、男が口を開いた。 「……綾香」 「……なによ」 女……綾香は少し警戒したような口調で答える。 「今は昼休みだ」 「そうね」 「で、私は昼飯が食いたいのだが」 「勝手に食べたらいいじゃない」 「残念ながら、私は弁当などという気の利いたものは持っていない」 「……購買部で買えば?」 「今日、財布忘れてな」 「……で?」 綾香の声に、いっそうの冷たさが宿る。 しばし、沈黙が二人の間に落ちる。 否応なしに高まる緊張感。 やがてその緊張に耐えきれなくなったのか、男……ハイドラントが口を開いた。 「……その弁当くれ」 「そういうこと言うわけこの男はっ!」 綾香の右&二段回し蹴りの三連コンボがハイドラントに炸裂する。 見事に吹っ飛ぶハイドラント。 そしてそのまま、誰かにぶつかって止まった。 「うむ、いつ見てもナイスな攻撃だな」 背後から聞こえたその声に、ハイドラントは冷たい声で答えた。 「……で、なぜ貴様がここにいるマゾ忍者」 「うむ。実はお前の中に、俺と同じ血を感じてな」 「…………」 「さあ、ともに梓に吹っ飛ばされに行こうではないか、同志よ!」 ゆっくりと、ハイドラントは振り向く。 そこには、まぶしいくらいの秋山登の笑顔があった。 白い歯に日光が反射して、きらーんと光る。 「…………」 「…………」 しばし、見つめ合って…… 「プアヌークの邪剣よっ!」 「ぐはぁぁぁっ! なかなか気合いが入ってよいぞぉぉぉぉ!」 <SCENE3 放課後> 第二茶道部部室。 「ねーねー電芹、今日も暑いねー」 「暑いですね」 「こんな日は、クーラーが欲しいよねぇ」 「全くです」 しゃべっているたけると電芹を後ろにして、ハイドラントは汗だくになりながら座って いた。 「ねーねー電芹、どうしてここクーラー無いんだろーね?」 「お金がないんですよ」 「どうしてお金無いんだろ?」 「それは聞くだけ野暮だと思いますけど……」 こめかみをぴくぴくさせながら聞いていたハイドラントだが、その時点で後ろを振り返 り、二人に指を突きつけて叫ぶ。 「あーもう貴様らっ! さっきから後ろでうだうだしゃべりおって、おかげでただでさえ 暑いのがよけいに暑くなるではないかっ! 頼むからもう少し静かにしていろ!」 その視線を受けたたけると電芹は、隅っこに移動してひそひそとやり始める。 「ねーねー電芹、暑いと怒りっぽくなるよね?」 「イライラしますから」 「あんな黒ずくめだったら、よけい暑いよね?」 「そりゃまあ、そうでしょうね」 「やめとけばいいのにねー」 しっかり聞こえているハイドラント。 彼の気配を察したのか、葛田がおろおろと声をかけた。 「あ、あのですね導師。その……我慢大会だと思えば……」 「…………」 「…………」 「ガディムの叫びよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」 <EPILOGE> 「はーい、再び志保ちゃんよ! どう、ハイドラントの日常? ……え? これが本当に 日常なのかって? やーねー、これが日常じゃなくてなんだってのよ? それじゃあ、ま た次回を楽しみにねー!」 「……おい、こんなもの作っていいのか?」 「なに言ってんのシッポ、これぐらいやらなきゃ『歩くワイドショー』の名が廃るわっ!」 「……ほぉ、いいものを作っているな……」 「……あ、ハイドラントさん……」 「……何か言い残すことは?」 「えーっと……」 「そうか、無いか。では……死・ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」 「どひぃぃぃぃぃっ! 何で私だけぇぇぇぇぇぇぇっ!?」 <おはり>