Lメモ過去だか未来だか編「時でこけた少女」 投稿者:Hi-wait
「起きてください! 遅刻しちゃいますよ!」
 私は、今日もHi-waitさんを起こします。
 Hi-waitさんは、いっつもギリギリまで寝てるから、朝御飯を食べる暇がないん
です。
 その日も、やっぱりそんな暇はありませんでした。
 私とHi-waitさんは、少し急いで学校に向かいます。
 ちょっと前の私だったら、考えにくいことでした。
 Hi-waitさんに出会う前の私だったら……

 その日は、風見先生の授業で、小テストがありました。
 先生は、みんなにテスト用紙を配ると、こう言いました。
「さて、模範解答が教卓においてあります。僕は今から少し寝ますけど、くれぐれ
もカンニングなどはしないように」
 そう言って、風見先生は教卓に突っ伏してしまいました。
 しばらくして、規則正しい寝息が聞こえます。
 先生、ホントに寝ちゃったみたいです。
 しばらくして、隣の席のほのかちゃんが、私をつついて囁きました。
「ねぇねぇ瑠香ちゃん、お父さん寝ちゃったみたいだし、ちょっと外に出てみな
い?」
「え……でも、テスト中だよ」
「これが、テスト中って教室に見える?」
 そう言われて、私は教室の中を見回しました。
 がやがやがや……
 確かに……なんだか、休み時間って雰囲気です。
 けど、そんな中でも、風見先生は寝息を立てています。
 全然、起きる気配がありません。
「ね?」
「……うん」
「じゃあ、決まりね。いこ、瑠香ちゃん」
 そう言って、ほのかちゃんはさっさと席を立ち、教室の扉に向かいます。
「あ、ほのかちゃん……」
 私が、ほのかちゃんに声をかけたときでした。
 かちっ。
 ほのかちゃんの足下から、何かスイッチの音がしたと思うと……
 爆発しました。

 とってもいい天気です。
 雲一つない、青空です。
 お日様が、とってもまぶしく輝いてます。
 教室は、なくなってしまいました。
 何故か無事だった教壇の上で、風見先生が仁王立ちしています。
「……誰ですか、エスケープしようとしたのは?」
 爆発に巻き込まれたみんなは、一斉にほのかちゃんを指差しました。
「……ほぉ、ほのかでしたか。いけませんねぇ、テストをエスケープするなんて」
 ぎゅうううううう。
 風見先生、ほのかちゃんのほっぺたをひねっています。思いっきり。
「ほ、ほめんなはい」
「世の中、ごめんで済んだら警察は要らないんですよ」
 なんだか、風見先生、笑ってます。ちょっと、怖いです。
 クラスのみんなも、こそこそと逃げていってます。
 けど風見先生、全く気にしていません。
 と思っていたら。
「鬼畜ストライク!」
 風見先生、いきなりほのかちゃんを投げちゃいました。
 ……こっちに向かって。
「うきゃああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
 ほのかちゃんの悲鳴が尾を引いて……
 みんな吹き飛んじゃいました。
 私も一緒に。
「エスケープすると、こういう目に遭うんです。以後気を付けなさい」
 風見先生が、遠くで何か言っています。
 そこまで聞いて、私は意識を失いました。

 夕焼けが奇麗です。
 明日もお天気みたいです。
 私とほのかちゃんは、ぼろぼろになって帰っていました。
「ねぇ、ほのかちゃん……」
「なぁに、瑠香ちゃん……」
「ほのかちゃんのお父さんって……」
「……言わないで。お願い」
 風見先生のあの性格を押さえられるのは、奥さんの美加香さんだけだそうです。
 だから、家の中は結構平和なんですって。
 それから、私とほのかちゃんは、なんとなく黙って帰っていました。
「きゃっ?」
 石があったみたいです。
 私は、思わず躓いちゃいました。
「……瑠香ちゃん?」
 ほのかちゃんの声が聞こえて……

「……お前、何やってるんだ?」
 突然、上から男の人の声がしました。
 私は、声のした方を見上げました。
 同い年ぐらいの男の子です。
 私と同じ学校の制服を着ています。
「お前、Leaf学園の生徒か? それにしては、見かけない顔だな」
「えーと……あなたは?」
 私がそういうと、彼は心持ち胸を反らして
「僕か? ぼくはHi-wait。Leaf学園・暗躍生徒会の誇る正義の使徒だ」
 と言いました。
 暗躍って、正義とはちょっと違うような気がするんですけど……
「で、いつまでそこに寝てるつもりだ?」
 あ。
 私、まだ地面に寝ころんだままでした。
「えーと……ほのかちゃんは?」
「……ほのか?」
 Hi-waitさんは、不思議そうな顔で聞き返します。
「ここには、僕しかいなかったぞ。いきなり道の真ん中にでっかい穴があいて、そ
れが消えたらお前が寝ころんでたんだ」
 ……あれ?
 なんだか、少し話がおかしいです。
 それにしても、Hi-waitって名前、どこかで聞いた気がするんですけど……
「で、ほのかって誰だ?」
「風見ほのかさん。ご存じじゃないですか?」
「風見? ひなたの関係者か?」
 ひなた。
 それで思い出しました。
 確か、風見先生の友人に同じ名前の人がいます。
 一度ほのかちゃんの家に遊びに来て、風見先生と美加香さんをからかっていたそ
うです。
 てことは、私ひょっとして、過去に来ちゃったのかしら?
 けど、目の前にいるHi-waitさんは、どう見ても高校生です。
 Hi-waitさんの目が、一瞬険しくなります。
『また未来人か……』
 そう呟くのが、聞こえました。
 やっぱり私、過去に来ちゃったみたいです。
 けど、考え方を変えたら、結構チャンスかもしれません。
 高校生のうちに、風見先生の性格を直しておけば、ほのかちゃんがいじめられる
こともなくなるんですから。
「全く……」
 私がそんなことを考えている間に、Hi-waitさんは、そのまま背中を向けて歩き
始めました。
「……いつまでそこにいるつもりだ? とっととついてこい」
「……え?」
「どうせ行くところもないんだろうが。源さんには僕が言っといてやるから、早く
来い」
「あの……いいんですか?」
「正義の使徒は、弱者をいたぶったりはせんのだ」
 Hi-waitさん、ちょっと照れてるみたいです。
 くすり。
 私は少し笑って、Hi-waitさんの後を追いかけました。
 しばらく行くと、Hi-waitさんが私の方を振り返りました。
「そう言えば、お前の名前は?」
 私は、Hi-waitさんに向かってにっこりと笑って……

「月島瑠香です。よろしくお願いしますね、Hi-waitさん!」

                             <完>