サルベージLメモ2「明日に向かって突き進め! −喰われちゃった四天王激闘編−」 投稿者:Hi-wait
 昼休み。いつもの視聴覚室。
 暗幕を閉め切って暗闇となった部屋に、四人の男達がいた。
「前回は、辛くも失敗に終わった……」
「しかし、奴の運命はもはや風前の灯火……」
「次こそ必ず……」
「彼を我等の同志に……」
 がたんっ!
 誰かが立ち上がったらしい。
「おいおい、メシ食ってる途中に立ち上がるなよ」
「全く、行儀の悪い……」
「あ……す、すまん……」
 がたがた。
「あれ? 俺の椅子、どこだ?」
「知りませんよ」
「自分でどっかに吹っ飛ばしたんだろ? 早く探せよ」
「分かってるって……わぁっ!」
 どがしゃーん。
「うわ、俺のオレンジジュースが!」
「こっちのサンドイッチも、全滅ですね……」
「どーすんだよ、おい?」
「どーするって……」
 しばしの沈黙。
「……逃げるか」
「そーですね」
「良い考えだ」
「全くだな」
 がたがた。
 ばたん。
 そして……誰もいなくなった。

 一方その頃。
 一年生の教室では、風見ひなたがはたから見る限りなんだか羨ましい状況になっ
ていた。
「ひなたさんひなたさん。今日は、お弁当作ってきたんですよ」
「全く、貴様はいつまで僕をゴミ処理に使う気なんですか?」
「ゴミ処理って、わたしはちゃんとお弁当作ってます!」
「いつもそう言ってゴミを作ってるんですからね……」
「何を言っている! 風見ひなた!」
 いきなり現れるYOSSY。
「……今日は何の用です?」
「貴様、女性が心を込めて作ったものを、何故『ゴミ』などという? そのよーな
残虐な行い、許されるはずがあろうか、いやない!」
 反語表現で力説し、指を風見に突きつける。
「だから、何なんですか?」
「だからその弁当、俺がありがたくいただいてやる! ……よこせっ!」
 そのまま、美加香から弁当箱を奪い、一気に口の中に叩き込む。
 三秒後。
 風見の足下には、泡吹いて倒れたYOSSYの姿があった。
「……だからゴミなんですよ」
 すでにYOSSYは聞いていない。
「「「「Hi-waitはいるかっ!?」」」」
「……今日はなんだか騒がしいですね」
 あくまで扉の方を見ずに、風見が呟く。
「やーみぃさんなら、外だと思いますけど」
 仕方がないから、美加香が教える。
「「「「そうかっ! 失礼したなっ!」」」」
 そう言いおいて、その四人は出ていこうとした。
 その時。
「ひ……ひなた……ちゃぁぁぁん……」
 風見の背筋が寒くなった。
「……四季かっ!」
 思わず身構え、右手に美加香をつかむ。
「……むっ!? いかん、発作か?」
「早く隔離するんです!」
「このままでは……」
 四人は頭を抱えてうずくまる男を引きずって、教室を出ていった。
「……あれ?」
 予想外のことに、対応できない風見。
「ところでひなたさん。今の誰です?」
「……さあ?」
 二人とも、その四人に関する記憶がなかった。

「……落ち着いたか?」
「……ああ。済まなかった」
「まさか、あんな事に……」
「これからは、十分気を付けなければいけませんね」
 そんなふうに話しながら歩く四人の前から、一人の女子生徒が歩いてきた。
 ポニーテールにまとめた水色の髪。髪を留める、黄色いリボン。
 月島瑠香だ。
「これは……」
「チャンスですね……」
「奴を人質にして……」
「あの男を……」
 男四人が、廊下の隅で固まってひそひそ話している様は、はっきり言って……怪
しい。
 しかし瑠香は、そんな四人に全く注意を払わず、彼らの前を横切ろうとした。
「……いまだっ!」
 四人が一斉に飛びかかる。
「……えっ? えっ?」
 などと言ってる間に、瑠香は取り押さえられてしまった。
「これでよし……」
「後は、手紙をあの男に……」
「ところで、誰か書くもの持ってますか?」
 しーん。
「……持ってこい!」
「その前に、こいつを連れていきましょう」
「そうだな」
 ずーるずーる。
 男四人が女子生徒を引きずって廊下を行く。
 しかし、気にするものは誰もいなかった……

「Hi-wait君っ! 君宛に手紙が……!」
 放課後、何をしようか考えていたHi-waitのもとに一人の男子生徒が走ってき
た。
 Hi-waitは、無言で手紙に目を通す。

『月島瑠香は預かっている。返して欲しくば、貴様一人で視聴覚室に来い。要求が
受け入れられない場合、人質の安全は保障しかねる。燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らん
や。鶏口となるも牛後となること無かれ。苛政は虎よりも猛し。では待ってい
る。』

 後半は何を言っているのか全く分からなかったが、取りあえず瑠香が捕まったこ
とだけは理解できた。
「全く……」
 Hi-waitは、しぶしぶと行った感じで立ち上がる。
 彼の元に手紙を持ってきた男子生徒は、もう姿を消していた。
「しかし……今のは誰だ?」
 彼の疑問に、答えるものはなかった……

 三十分後。
 彼は、視聴覚室のドアの前に立っていた。
 ゆっくりと、右手でノブを回す。
 中は、真っ暗だった。
「ようこそ、Hi-wait……」
 先程の男子生徒の声だった。
「……人質は無事か?」
「安心しろ、危害は加えていない……」
 中の声は、複数いるようだ。
(四人か……)
 Hi-waitは、そう見当を付けた。
 何か、四人という数字に引っかかるものを感じるが、なんだかよく分からない。
 Hi-waitは、息を殺して次の台詞を待った。
「しかし、妙に時間がかかったな……」
「まあいいでしょう。さあHi-wait君、彼女を返して欲しくば、我々の同志
に……」
 ドアの所に立っている彼は、全く言葉を発しない。
「……何とか言ったらどうだ!」
 ついに、業を煮やした四人のうちの一人が彼に詰め寄る。
「………………!」
「どうした?」
「こいつ……Hi-waitじゃない!」
「なにぃっ!?」
「そうすると彼は、逃げたんですか?」
「……ここにいるよ」
 その声は、彼らの後ろから聞こえてきた。
 同時に、後ろにいた四人の内、三人がくずおれる。
「……Hi-waitさんっ!」
 女の声が、彼の名を呼ぶ。
「なっ……貴様、どうやって背後に?」
「ガラスを切った。経費でおちるだろうな」
「じゃあ……こいつは一体……」
 うろたえている男を無視して、Hi-waitはもう一人に呼びかける。
「ご苦労だったな、永井。貴様の親は、橋の下に縛り付けてある。早く行ってや
れ」
 その言葉を聞いて、彼……永井君は、脱兎の勢いで駆け出していった。
 覚えている人は何人いるか? 正解は……クイズにしておこう。
「くそ……だが、我々は決して諦めんぞ!」
「……何をだ?」
 瑠香を後ろにかばうように立ち、Hi-waitが詰問する。
「とぼけるな! 貴様は、我々の同志となる運命なのだ!」
 そのまま、視聴覚室から走り去っていく。
「………………?」
 首を傾げるHi-wait。
「どうしたんです?」
 そう訪ねる瑠香に、彼は首を一つ振り、
「いや……なんでもない」
 そう言って、二人は視聴覚室を後にした。

 彼らの正体……言わなくても分かってるよね?

「でも……本当に来てくれたんですね……」
 帰り道、Hi-waitは瑠香と並んで歩いていた。
「い……いや……その、なんだ……」
 珍しくどもるHi-wait。
 瑠香は、そんなHi-waitを見て、くすっと笑い、
「ありがとう……」
 とだけ言った。
「ぼ、僕は当然のことをしただけだ……感謝される筋合いは無いぞ!」
 かなり動揺している。
「ふふふ……」
 瑠香は、また笑い出した。
「な、なんだよ……何がおかしい?」
「別に……ふふっ……」
 夕日が、そんな二人の影を長く伸ばしていた……

                             <完>