いつもと同じ暗闇、いつもと同じ昼休み。 だが、そこに巣くう四人には、焦りの雰囲気があった。 「前回のこと、覚えているな……」 「もちろんだ……」 「『四季』の覚醒、危ういところでしたね……」 「このままでは……」 一瞬の沈黙。 「ここでも、俺達の存在が喰われちまうじゃないか!」 「ほとんど、唯一と言っていいほどの出番なのに……!」 「……仕方がありませんね」 またしても沈黙。 だが、その沈黙は先程とは少し違っていた。 待っている。 そのものの言葉を。 「存在を喰われないためにも……」 「「「ためにも?」」」 「抹殺します。『あれら』を……」 きーんこーんかーんこーん。 「あ、いけね」 「とっとと鍵返さないと」 「また怒られるのはごめんですからね」 「全くだな」 ばたばた。 そして……全てが闇に溶ける…… で、放課後。 屋上に集まった四人は、片隅にしゃがみ込んで話し合っていた。 「これで決めましょう」 そう言って沙留斗が出してきたのは、四枚の短冊だった。 「……何を決めるんだ? これで」 「誰が誰の刺客になるか、ですよ。くじ引きで決めましょう」 「ちょっと待ってくれ。話が読めん」 確かに。 へーのきの言葉に、沙留斗は一つ頷いて説明を始めた。 「つまりですね。私たちが喰われそうになる原因を、効率よく取り除こうと言うこ とですよ」 「ちょ……ちょっと待て! セリオさんを襲おうというのか!?」 「だから、それをくじ引きで決めるんですよ」 「おい……ちょっといいか?」 そこで春夏秋雪が口を挟む。 「Dセリオに関してはそれでいい。……だが、俺達はどうする?」 「もちろん、対象外です」 あっさりと沙留斗が答える。 「それでいいのか……」 「いいんですよ、へーのきさん。これも、復帰のための試練と思ってください」 「なるほどっ!」 納得するな。 「じゃあ、一人ずつひいて下さい」 そう言って、短冊を差し出す。 その結果は…… へーのき=つかさ…『待機』 春夏秋雪…『待機』 天神昴希…『待機』 「……ってことは……」 天神昴希が残った一人の方を向く。 「がんばれ、沙留斗くん」 へーのきが、沙留斗の肩をたたく。 「俺達は、いつでも応援してるからな」 春夏秋雪が、立ち上がる。 そうして、三人は去っていった。 あとにはただ一人、『当選』と書かれた短冊を持った沙留斗がへたり込んでい た…… 「仕方ありませんね……」 そう言って沙留斗が立ち上がったのは、三十分もたったあとのことであった。 「取りあえず、探しに行きましょうか」 今は放課後。 ならば、Dセリオは校内の巡回に出ているはずだ。 その辺をうろついていた方が遭遇率は高いだろう。 そう思って、まずは校舎内をうろつく。 ふと、視聴覚室の前を通ったとき、中が騒がしいのに気付いた。 中に入ってみる。 すると、お子さま軍団がビデオデッキにテープを入れようとしているところだっ た。 「……何やってるんです?」 声を掛けてみる。 「ビデオ見るの!」 「……ビデオ?」 「うん!」 そして、再生ボタンを押す。 テレビ番組を録画したものらしい。じきにタイトルが出た。 『トラえもん』 最近流行りの幼児向けアニメのようだ。 お子さま軍団は、目を輝かせて画面に見入っている。 沙留斗は、聞くとも無しにその主題歌を聞いていた。 ♪空を自由に 飛びたいな 『はい! スピード!』♪ 「……見ちゃいけません!」 沙留斗は、あわてて停止ボタンを押した。 「えー!? なんでー!?」 「見たっていいじゃんかよー」 片手にビデオテープを持って、沙留斗は視聴覚室を出ようとした。 「……あ、そうだ。君たち、Dセリオさんを見ませんでしたか?」 ふと思いついて、尋ねてみる。 「そのテープ返してくれたら教えてあげる」 「うっ……」 目の前のお子さま軍団と、左手のビデオテープとを見比べる。 しばらくして、観念したように沙留斗はテープをおいた。 これから当てもなく校内をうろつくよりは、ましだと思ったのだ。 「えっとね、さっきここに来て、すぐに出ていったよ」 聞く価値もない情報をつかまされて、半分泣きそうになりながら、沙留斗は視聴 覚室をあとにした。 あと何分うろついたらいいのか。 そう考えながら…… しかし、うろつくのはあっさり終わったのである。 沙留斗がグラウンドに出たとき、爆発音が響いた。 ここでは、いつものことなのだが、一応行ってみる。 ビンゴ。 そこでは、ジン・シャザムとDセリオが放課後恒例の戦いを繰り広げていた。 「波動砲充填率120%! 発射ぁっ!」 「……そんなものっ!」 「ならばこれはどうだっ! ゲッタァァァァァァ・ビィィィィィィィム!」 ちゅどーん。 こんな所に出ていくのは、危険きわまりない。 沙留斗は、もうしばらく待つことにした。 彼は、自分が当たった場合、Dセリオと次善策を練るつもりだったのだ。 だって、怖いし。 ……と、その時。 沙留斗が隠れているすぐそばに、Dセリオが着地した。 「くらえっ! 断空光牙剣! やぁぁぁってやるぜっ!」 ジンの攻撃が、Dセリオに向かって飛ぶ。 当然、Dセリオはよける。 沙留斗は、突然のことでよけられない。 ……かくして。 沙留斗が見たのは、そこまでだった…… 次の日。 「……沙留斗くんはどうした?」 視聴覚室に入ってくるなり、へーのきはそう言った。 いつも、暗幕は沙留斗が閉めていたらしく、視聴覚室の中は明るい。 そして、視聴覚室の中に沙留斗は居なかった。 カレーパンをかじりながら、天神昴希が答える。 「入院したって」 「ふーん……」 気のない返事を返し、へーのきは椅子に座った。 (((行かなくてよかった……))) 三人の共通した思いである。 めでたし、めでたし。 <完> <注意:このssの中に出てくる『トラえもん』は、某小学館の漫画や、某ABC のアニメとは全く関係ありません。多分。いや、きっと。>