Lメモ・コンバットビーカー第八話 『死を呼ぶ霧』 中編 投稿者:水野響






 ――仮眠館内にて








「くー……くー……」
「むにゃ……め……目薬、です……」
「ぐー……二階から目薬って……無理だよ」


 大爆睡大会実施中。


「お兄ちゃん……浮気は駄目だよぅ……にゅぅ……」
「……セリスさん、なかなか認めようとしないし……ぐぅ」
 微妙になんか混ざってたり。








        Lメモ・コンバットビーカー第八話 『死を呼ぶ霧』 中編

             〜レモン風味のあんころ餅10個分〜








 ――なかよし魔族連合とベネディクト方面








 がたん。



 太陽が暖かく降り注ぐ陽気の中、無粋な物音が響いた。
 降り注ぐといっても太陽が落ちてくるわけではない。
 どうやら物音の発生源は仮眠館トイレの外辺りからのようだ。



「おい、もっと押せっ」
「親方ー、最近ふとったんじゃないですかー?」


 物音の主、ベネディクトが窓から必死になって入ろうとしていた。
 押しているのは最近ゆかいな連中と御近所の奥さんにも評判な魔族達。
 戦闘したわけでもないのに出陣時に比べて、半数以下になっているのはベネディクト
の人望というやつだ。


「馬鹿言えっ! 俺はきちんとカロリー計算をした食事をとってるんだぞっ!」
「……あっしらって食う必要ありませんぜ?」
「はっ!?」

 無駄な努力だったと判明。

「それにこーやっていちいち窓から入らなくても、壁ごと壊したらいいんじゃ?」
「…………」
「すり抜けるっていう手もあるしねー」
「…………ぐすっ」
「チャイムならして、一気に攻め入るっていうのもいいとおもうけど?」
「…………みんな嫌いだぁああああ!」


 ベネディクト、大泣き。
 威厳は限りなく地に落ちていく。
 これ以上落ちようはないという説もあるが。


「ああ、もー泣かないでくださいよー。ほら、飴あげますから」
「うぅ……ひっくひっく……飴……」
「ををぅ、うまか棒もありますぜっ!」
「……うまか「わーい、うまか棒〜〜」
「お前誰っ!」

 うまか棒により響が召喚された。
 むしろ発生。


「誰だお前はっ! っていうかどこからわいたっ!?」
「うきゅ?」
 擬音はきゃるん☆ミだった。
 意味はない、当然ながら。

「響ちゃん、五円だよもあったよ」
「わーい〜〜、これで10年は戦えるです〜〜」
 瑠璃子も一緒になって兵糧袋をあさっていたり。
 しかもやたら手際よし。

「何味があるんですか〜〜?」
「えーと……五種類くらいかな?」
「さらに10年持ちます〜〜♪」
 へろへろ踊る響となぜかリモコンを手に操っている瑠璃子。
 単三で動いてるのかな?と思える光景だった。



「合計で20年も戦えるのかっ!? いや、そういう問題以前に持ってくなって! 俺
らの兵糧っ!」
 ダーク13使徒(こんびーふ版)は資金不足の為、兵糧は駄菓子になっているらしい。
 食べなくても問題ないのに。



「あ、こっちにはホームランバットが……懐かしいですねー」
 とーるもさらに別の袋を漁っていたり。
「これを賭けてジョニーと死合ったあの夏い熱……ああ、何もかも懐かしい」
 思わず写真を取り落とし、そのまま逝ってしまいそうな言葉を口にしている。
 男の過去は謎に満ちているものらしい。



「増えてるし……」
 単身赴任に飛ばされたサラリーマンが夜中に電車で漏らすようなため息を吐く魔族。
 背負ったオーラがやけに哀しい。



「…瑠璃子さん、あんず飴もありますっ…」
「うれしいな」
 にこっ。
 瑠璃子が放つ素敵な笑顔に葛田はごーとぅーへぶん状態。
 ヘルじゃ? とかいう突っ込みは野暮というもの。



「どんどんわいて出るなっ! って、葛田さん! なんで仲間の兵糧をあさってますか
いっ!」
 もちろん魔族は突っ込んだ。
 まだ多少は余力があるのもいるらしい。
 ごく少数。



「屋上でみんなを呼んで宴会だね」
「うまか棒〜〜」
「ホームランバットがあれば8年は持ちますねー」
「…ゼリー棒っていいですよねー。凍らせたら撲殺できそーなとこが…」
 でも誰も聞いてないし。



「話聞けっ! ……てめぇら魔族にケンカ売るたぁいい度胸だっ! くらえやぁっ」
 怒りにかられた魔族達は、とうとう一斉攻撃を開始した。



「とつぜん」
「…ですが…」
「踊り」
「ます〜〜」


 うー、まんぼっ。

 ちゃっちゃららっら、ちゃっちゃちゃっちゃーちゃ。

 ちゃちゃちゃ、ちゃちゃちゃっ。

「「「「まんぼっ」」」」


 わーわー。
 どこからともなく歓声が聞こえ、おひねりが投げ込まれてくる。
 攻撃をよける手段以前に、色々な意味で怪しい光景だったが。


「なんでっ!?」
 魔族はがびーんとなった。



「…はっはっは、まーまー魔族の皆さん。細かいことを気にしてるとでぃるくせんさ
んになっちゃいますよ…」
「俺を禿と呼ぶなっ! ヅラも駄目だっ!」
 増え続ける人口密度。
 喋り声が飛び交い、ちょっとしたパーティのようなほのぼのとした空気が流れている。

「…禿なんて言ってないのに…」
 ぼそり。
「し、しまったぁぁああああああ」
 墓穴を掘って埋りまくってしまったようだ。
 ディルクセンは泣きながら夕日に向って走っていく。
 ちなみにまだ昼。


「私、小梅ちゃんが欲しいな」
 突然瑠璃子がぽつりと呟いた。
 その声を合図に一斉に探し出すとーると葛田、その姿はまさに獣。
 参加していない響はなぜか地にふせていたりする。
 電池が切れたという理由ではないと信じたい。


「…よし、小梅ちゃんお特用ぱっくゲットっ!!  瑠璃子さん、どうぞっ!!!…」
「ありがと、葛田ちゃん」
 にこっ。


「…ああっ、瑠璃子さん……笑顔が今日も素敵ですっ…」
 天国から、さらに昇る気持ちは衛星軌道。
 目の前が真っ白になる幸せは酸欠のごとく。
 今のところ持ち帰る手段は皆無らしい。


「くそっ! 先を越されたっ……来年はとってみせます甲子園の座っ!」
 土をほじくり持ち帰る、代わりに穴に種撒くとーる。
 植えているのはラフレシア。

「甲子園にラフレシアって素敵だと思いませんか?」
 いや、知らないけど。
「さらに色が黄色と紫だったらもう文句無しですよね」
 さらに同意もとめられても。



「…………助けて、助けてよぅ」
 もはや対抗手段もない魔族ができることは円陣を組んで泣くことだけだった。
 まさに号泣。



「ん、ないすていすと」
 瑠璃子、にっこり。

「…あああっ、素敵すぎますっ!」
 そんな魔族の気も知らず、葛田の気持ちはすでに宇宙より膨張してたりする。
「この素敵さはまるで……そう、スカンジナビア半島でお特用ゴムバサミを売ってい
た時、目の前でりんごを買っていったのがぽちょむきんだったと気付いたあの日以来の
感動っ!…」
「呼んだか? ……ん、葛田君か。何してんだ?」

 ハイドラント登場。すでに人口密度は都のごとし。

「…あ、導師……いや、お菓子を物色してたんですが…」
「食料かっ! よし、全部いただくぞっ!」

 ハイドラントは目を輝かせた。
 何しろ今日は水しか飲んでないのだ。

「…瑠璃子さんにも分けてあげてくださいよぅ……後の二人はどつき回してもいいで
すから…」



「だからあたしらの食料はそっちから出てるんだから持ってかないでよぅ……いやもー
べつにいーんですけどね……うぅ」
 弱々しげな魔族の主張。
 もちろん誰も聞く耳を持つものはいない。



「むぅ……まー、一人分くらいなら……って後の二人ってあれか?」
 指差した方角にはふぐの毒抜き状態で首まで埋った響がいた。
 燃料補給に光合成してるのかもしれない。
 埋めたのは間違いなく隣で鍋を作っているひび猫だろう。
 調理する気か?

「…もう一人いたんですが…」
「……あれか?」
 ハイドラントが目をやった先には、ラフレシアに首まで突っ込んでるとーるがいた。
 喰われてるかもしれないが幸せそうだ、微妙に。


「…ほっといてあげてください。楽しんでるかもしれないし…」
「……そーだな。んじゃほれ、月島、食え」
 どさっと小梅ちゃんを放り投げるハイドラント。
 そんな彼は小梅ちゃんが嫌いだったりする。





 あれはそう――昔々、降りしきる雨の日。



 (前略)



「小梅っ!」
 叫ぶハイドラント。
 かぶった帽子の鍔後ろ。
 七人家族でクリーニング屋。
「こんにゃくよりもしらたきですっ!」
 言い返す小梅。

 二人の手に握られた十特ナイフが握られていた。
 突き出されたのは栓抜きの部分。


 ――二本の栓抜きが閃き――



 (さらに略)



「……運がなかったな、サムソン」
 冷徹な口調でハイドラントは呟く
「へっ、ざまあねえぜ。ま、強いほうが生き残るもんだ。
 これ、とっとけ。俺の――婚約者からもらった宝物だ」
 手渡される血まみれの小梅。


 そして――銃声が響き渡った――





 がくがくっ。





「うぉっ!? さ、さむそん!?」

 葛田に揺らされて、ハイドラント現実復帰。

「……………導師っ! 幾らお腹が空いたからってトリップして餓死するのはまだ早す
ぎますっ!………ってさむそん?  ああ、導師がとうとう薔薇にっ!?…」
「違うわっ!」

 ぺちっ。

 現実復帰、後、つっこみ。
 これで完全状態になったようだ。
 ギャグもーど的に。

「いかんいかん。ついつい熱くねっとりとした妄想にふけっちまった」
 首を左右にふるハイドラント。
「ま、続きは家で巻き物に毛筆で記すとして」
 後世に残す気らしい。


「んじゃ、あでぃおすあみーごとれびあんすなっぷしゅーと」
 クールに言い残し立ち去るハイドラント。
 内容見事に意味不明。脳にブドウ糖がもう残ってないようだ。


 とりあえず 帰ってご飯 後睡眠 そんな導師の 添い寝をしたい


 そんな句が葛田の脳をよぎったりよぎらなかったり。





 ぴぴぴぴっ。
 電波送信。





「ん……!?」
 一歩踏み出したもののハイドラントは立ち止まった。
「……『ありがと、ぽちょむきん仮面』……って、それくらい口で言え。それ以前にそ
の名前は止めてくれ」
 瑠璃子からの電波だった。




 ぴぴぴぴっ。
 再び電波送信。





「『ありがと、ポチョムキン仮面』……って、カタカナに直しても駄目だ。ビジュアル
もつけるな。JPGで保存するな。わざわざフルカラーで塗った絵を寄越すな」
 ため息をついた後、これ以上電波を受け付けないようにアルミホイルを頭に巻きつけ
ながらハイドラントは言い返した。


「がんばったのに」
 瑠璃子の眉間に皺三本。
 不満らしい。


「はー……ま、いーや。俺は栄養補給の旅に出るから。ほら、行くぞ葛田君」
 げんなりしながらハイドラントは背中を見せる。
 元気がないのはハンバーガー食べ損なったせいかもしれないが。
 きっと帰ったら冬ごもりの小リスのように頬を膨らませながらお菓子を食べるのだ
ろう。
 可愛いかもしれないビジュアルがちょっと浮かんだ。


「…僕もそろそろ戻りますね……それじゃ瑠璃子さん………………………………
…………あああ、ネタが浮かばないっ!?…」
「馬鹿なことやっとらんで帰るぞ」
 ずるずると引きずられながら葛田とハイドラントは去っていった。


「GIFじゃないと駄目なのかな?」
 小梅ちゃんを舐めながら瑠璃子も去っていった。
「次回は背景もきっちり描こっと」
 妙な決心をしつつ。

 響ととーるは数日放置された後、川口洋探検隊ごっこをしていたお子様連合葉っぱ支
部第一部隊特攻隊長きたみち靜によって捕獲された。
 少し緑っぽく染まったり触手が生えたりしていた響ととーるとの激戦やサスペンス、
さらにロマンスや友情物語があったのだが物語には何の関係もないので割愛する。





「……うぅ……いったか?」
「……ぐすっ……ああ、そうみたいだ……ひっく」
「うぐっ……うぅ、ハイドさん食料持ってっちゃったな……」
「ぐすっ……っていうかどうでもいいやん、どーせ食わないし」
 魔族は安堵のため息を漏らす。
 ほとんど泣き声、むしろ全べそ。


「おまえらぁぁあああ、手を放すなぁああっ!!!」
 ベネディクトはベネディクトで窓に挟まったままもがいていた。
 冒頭からずっとこの体勢だった模様。
 頭だけ突っ込んだその姿は涙よりも笑いを誘う。


『ぷっ……わはははははははははっっっ!!!』
 魔族大爆笑。泣いた鴉がなんとやら。
 お日様が笑ってる。みんなも笑ってる。
 ぱーぱぱらっぱー、今日もいい天気。


「いい天気じゃねぇええええっ!!! 笑ってないで助けろぉおおおおおっ!!!」
 ベネディクトの叫び声というか泣き声が学園中を木霊した。
 こういった意味合いでは重宝したいキャラではある。
 すでにすばらしいくらい騒いでいるので、忍び込む意味はゼロだが。

『だって……ぷっ、わははははっ!』
 ついでに上司だという意識もゼロの領域を突破したらしい。





 そしてひとしきり笑った後、魔族一行は仮眠館侵入を果たした。
 長い道程ではあった、主に無関係な部分で。





「さて、艱難辛苦の道を超えて、やっと侵入できたわけだが」
 ベネディクトはきりっとした顔で言った。
「それ親方だけ」
 魔族の一人が全員の気持ちを代弁した言葉をぼそっと呟くが、彼の耳には届かない。
 ベネディクトの他に面子は全員壁抜けして入ってきたのだ。

「よしっ! これよりここを占拠するっ! 中にいる人間どもは全員捕虜にすること!
 以上、かかれっ!」
 今までの経緯をごまかすかのように声を張り上げるベネディクト。
 先ほどのつっこみは無視したらしい。

『はっ!』
 ああ、やっとまともな筋にもどれるなーと思いながらも返事をする魔族達。


 魔族達はやっと本来の目的が果たそうとしていた。
 本気でやっと。








 ――その頃、コンバットビーカー達はまだ屋上でバイト中(時給1000円也)








「はっ!?」
 beakerがふと空を見上げた。
「どうしたの?」
 坂下が不思議そうな顔をして聞いてきた。

「今……何か聞こえたような気が……」
「気のせいでしょ」
 首を傾げながら呟くbeakerに坂下が気楽にぱたぱたと手を振る。

「いや……違うっ! 気のせいなんかじゃないっ! これは……」
 真面目な表情をしたbeakerの顔を見て、坂下の顔つきも変わった。

「…………向こうかっ!!!!」
 beakerは走った、疾風のごとく。


 ――そして


「げっとぉおおおおおおおっっ!!!」
「くそぉおおおおおおお!!! タッチの差だったかぁあああああああ!!!!!」
 落ちていた五円玉を先にゲットしたのは理緒だった。


「おのれぇええええっ! 勝負だっ! 勝負しろっ!  んで勝ったらそれ寄越せっ!」
「ふんっ! 早い者勝ちよ!」


 怒りに震えながらも手袋を投げつけるbeaker。
 なんとなく英国紳士的な決闘ルールに基づきたい気分らしい。
 しかし、それをあっさりとかわす理緒。あっかんべーのおまけ付き。
 beakerの怒りも絶頂なら、理緒の態度も絶頂だ。


「くっ!! これならどうだ……九頭龍閃手袋っ!!!」
 怒りに震えつつも、何処に隠し持っていたかは知らないが九つの手袋を投げつけるbeaker。
「見えるっ!!!」
 でもあっさりかわされた。
 その動きはまさににゅーたいぷのごとし。

「アッガイファイトから出直してらっしゃいっ!」
 ずびしと人差し指を突き出す理緒の背景、広がってるのは貧乏神。
 もちろん今川風演出で。


「いつか……いつか貴様を超えてみせるからなぁっ!」
 beakerがぎゅっと握り締めたその手に血が滲んでいた。
 目にも熱い雫が宿る。
 涙なんかじゃないさ、これは心の汗なんだ。


「……beaker……」
 そんな二人を木陰から見守る坂下。
 思い込んだら試練の道らしい。

「……理緒さんを超えたい?」
 坂下は優しげな微笑みを浮かべながら近寄り、beakerの肩に手を置いた。

「坂下さん……いや師匠っっ!  俺……強くなりたいですっ!!!」
 はらはらと落涙しながらも懇願するbeakerだった。

「そう……ならっ! このギブスをつけるのよっ!」


 ぱぱぱっぱぱー!
 猫型ロボットが道具を取り出すような擬音がどこからか聞こえる。


 坂下が声も高らかに言った。
「ぶる〜わ〜か〜」
 大山のぶ代声で。

「それギブス違うっ!」
 購買部の売れ残りらしい。

「甘えんなぁああああっっっ!」
「うきゃぁあああああああっっ!?」
 つっこみを入れた途端、ちゃぶ台返しを食らった。
 beakerの悲鳴がちょっときゅーとだったりする。

「どっ、どこからちゃぶ台がっ!?」
「口答えすんな、おらぁ! 強くなるには古来よりこれに限るのよっ!」
 驚くbeakerの疑問に答えることもなく、劇画調の作画で坂下が言い放った。
「す、すいません、師匠っっ!!」
 思わず気迫負けして土下座をするbeaker。
 師弟関係というよりは主従関係に見えるのは人徳というやつだろう。





 そして二人の特訓は始まった――





「いくわよっ! 千本ノックっ!!」
「はいっ、師匠っ!」

 カキーン

「千本一遍に打つなぁあああああああっっ!!!」



「次、兎飛びっ!」
「兎飛びは足腰を痛めるからやめましょーよー」
「口答えすんなぁああああ!!!!」
「うへぇえええええええ!!!!」
 スパルタ方式に生徒の意志は無用だ。



「次っ! わんこそばを108杯食べて煩悩を捨てるのよっ!」
「なんか違うよーな……」

 むしゃむしゃ

「げっぷ……ごっつぁんです」
「よくやったわっ!」
 しかしわんこそばの昼食と108の鐘を撞くという修行が混ざったとは言いにくい坂
下だった。



 (以下10個ほどの修行を割愛)



「よくぞ耐え切ったわね……そう、貴方が身につけたその力、その大リーグボールで北
陸の星を目指すのよ……そしてあなたは北陸帝国を作るの。皇帝になるの。ユ○ケルじ
ゃないわよ。王、カイゼルになるのよ。貴方とわたしでカイゼルになれる。カイゼルに」
 ひとしきり修行が終わった後、坂下は熱っぽい目をしてそう語り掛けてきた。
 なんとなく洗脳っぽいというか宗教チックな語り口調で。

「いや、当初の目的は確か違ったよーな……?」
 首を傾げるbeaker。

「口答えすんなぁあああ!!」
 げしっ。
「あぅちっ! す、すいませんっ!」
 洗脳完了。




「まてぃっ!」
 その時、鋭い声が辺りに響いた。



「何者っ!?」
「姿を見せろっ!」
 きょろきょろと辺りを見渡す坂下とbeaker。
 お約束というやつだ。


「ふはははっ! 北陸帝国をつくるだと? 笑わせるなっ!」

 高らかに声を張り上げつつも地面からせりあがってくるもの、
「世界は……北海道王国がもらうっ!」
 それは鋼鉄の男ジン・ジャザムだった。




(ここよりOPテーマに乗せてフラッシュバックする映像をイメージして頂くと、より
一層お楽しみ頂けます。なお、賞味期限は一年、開封後は一ヶ月となっております)

 ちゃらららん〜♪



         ――そして、世界は戦乱の渦に巻き込まれる――


        「貴方を倒して……私達がカイゼルになるっ!」


    ――二人の男を中心に――


   「出来るか? こちらにはまだ新兵器が残ってる……出ろっ! セリスっ!」

 「俺はアイテム扱いかい……」


                       ――そして次々に現れる勇者達――


「でぃるくせんっ! 風見ひなたっ! Hi-Waitっ! 神戸三姉妹、ここに参上っ!」 

 「姉妹だったのかっ!?」             「いやほら、ノリでね」

                     「ラ・九州……SCの御旗の元にっ!」

     「いくぜっ、チェーンジゲッター!」   「だからセリフ違うって」


       「貴様らに教育してやろう……本当のSS使いの闘争というものを」


             ――生き残るのは……誰だ?――




                             ちゃらら〜ら〜たたん♪


『第二部はこれで終了いたします。次回公演は明日より……』




 わいわいがやがやわいがやがや。


「お疲れー」
「坂下さん、腰入れて殴るのはやめてくださいよ」
「ジンさん、またセリフ勝手に作ってー」
「だってよー」
「beakerさん、ギャラはずんでくださいよー」
「俺にゆーなよ」
「主催者は鶴来屋かー……幾らでるんだろーねー」


 仮眠館の騒動などまったく知るよしもなく彼らのバイトはまだまだ続く。
 DC本体に戦地2とデス様2をつけるため。








 ――仮眠館侵入だ、ベネやん編








「んー?」
「どーした?」

「なんかここに入るだけですごい時間かかってるよーな気がするんだよ」
「はっはっは、我ら魔族にとっては時間の流れなど些細なことさ。っていうかそれに突
っ込むのはなしだ」
「んー……わかったよーなわからんよーな……」
 ごめん。


 閑話休題。



「まずは中にいる人間を捕獲するっ!」
 ベネディクトは大きな声を張り上げた。


『ははっ』


「第一、第二部隊は左右展開っ! 第三部隊は俺に続いて正面からゆくぞっ!」
 ベネディクトの号令の後、魔族達は散った。


「……なんかさっきも聞いたよーな?」
 右に展開した魔族の一人がぽつりと呟く。

「あ、お前もそー思った? 俺も何だよ……ぼけたかなー?」
 それを受けて隣にいた魔族も呟いた。
 前回最後のセリフはもう一度繰り返すという摂理はここでも有効なのだ。
 だってTVシリーズだし。



「配置、終わりました」
 一人の魔族が報告にやってきた。

「うむ……では、ゆくぞっ!」

 ベネディクトが手に持った扇を振りかざしながら言う。
 持った幟の四文字が華々しくも輝く。
 そう、『風鈴崋山』の四文字がっ!
 字、間違ってるけど。

『ははっ!』
 魔族達は笑いをかみ殺しながら答えた。



 沈黙。



「……あの、親方? 『中にいる人間を捕獲する』に対しての具体的な指示を……」
 ベネディクトが台詞を言った後、何の行動も起こさないので、近くにいた一人の魔族
が聞いた。

「考えてなかったなんて言えないしなー(……うむっ、ちょっと待て!)」
「……本音と建前が逆ですぜ」
「ああ、しまったぁっ!」
 頭を抱えるベネディクトをジト目で見詰める魔族達。
 すでに転職するために電話をかけてる魔族も何人かいたりする。


「そそそ、そうだなっ! よし、お前に一任するっ!」
 ベネディクト慌てて身近にいた魔族にふった。
 ちなみにこの魔族、よくベネディクトに対してツッコミをいれる魔族で、仲間からの
信頼は厚い。

「あー……了解。いくぞーみんなー」
『おー』
 でもさすがに皆、すっごいやる気なさげ。

「とりあえず捜索。人がいたら捕縛なー」
『ほーい』
 適当な指示だが、ベネディクトに比べたら数倍ましっぽい。
 信頼って大事だなーと思える一幕だった。


「んー、出られなくする為になんかはっといたほーがよくない?」
「そーだなー、んじゃ……えーと誰か結界っぽいやつはれるのいないかー?」
「あ、霧でいーか? それならすぐ張れるけど」
「出れなくなるならおっけーだよー」
「んじゃ、行ってくるわ」


 恐ろしく和やかに作戦は進む。
 日曜日の飲み屋のような雰囲気で進む作戦は、微妙に気だるさを誘っていた。


「うむうむ、さすが俺の部下だな」
 分かってないのは約一名のみ。





 そして仮眠館への攻撃が始まる。
 やっと。





                                <まだ続く>