Lメモ・コンバットビーカー第八話 『死を呼ぶ霧』・前編 投稿者:水野響

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 プレッシャーをかけるため、前編のみあげてみる。
 違うプレッシャーがかかるよーな……(笑)

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 光。
 そこには一つの明かりが灯っている。
 蝋燭の光。
 微弱な光だ。
 少しの熱と、わずかな光が辺りを柔らかく照らしている。


 あとは、闇。
 何も見えないからこそ、五感は鋭く研ぎ澄まされている。
 だからこそ、分かっていた。
 そこには数人の気配がある。
 正確には、三人、だ。



「コンバットビーカー」
 一人の男が呟いた。
「邪魔な存在ですね」
 もう一人も同調する。

「パステルジャザム、クルスガワセイバー、エルクゥファイブ、ソルジャーフェネック
……奴等もそうだが、何よりも忌々しいのは」
「スーパーパステルビーカー、ですか」
 二人の男がそれだけ言うと、辺りには再び沈黙が澱のように辺りに積もっていく。
 ただ、濃厚な闇と沈黙だけが辺りを包み込んでいく。


「俺がやろうか?」
 蝋が半分に減った頃、残った一人が口を挟んだ。
 二人はじっと口を出した男を見詰める。
 口調に似合わない、可愛らしい容姿を持ったその男を。

「……いけるか?」
 執順の後、男は呟いた。
 その問いを受けて、ただゆっくりと立ち上がる。
 不敵とも思える笑みをその口に浮かべる様は、一種妖絶とも思える美しさを持っている
様に見える。
 男が口から放った一言は、辺りの空気を一変させた。





「この魔族、ベネディクト様に聞く言葉か?  一時間で十分だ」
 ベネディクトは誇らしげに言い、その場から歩き出した。










        Lメモ・コンバットビーカー第八話 『死を呼ぶ霧』・前編










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 ――風見家の食卓SIDE――



「うまいな、うん。これならいい嫁さんになれるぞ」
「し、師匠っ!  なんで僕がこんなミサイル娘と結婚しなくちゃいけないんですかっ!」
 西山がぼそっと呟いた台詞に、風見は真赤になって反論する。

「をや? 俺は誰も『お前の嫁』とはいってないぞ?」
「〜〜〜っ!?」
「もぅ……」
 にやにやと楽しそうに言う西山に、絶句する風見と美加香だった。

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 分岐1「風見家の食卓・暴動編」へ

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「あ、ひなたさーん。こーんびーふ始まりますよー」
 そんな微笑ましい様子を遠くから他人のふりをしてみていたルーティが呼びに来た。
「こーんびーふ?」
 疑わしそうに眉を寄せる風見。

「ええ、コンバットビーカー。略してこんびー。愛称はこんびーふです」
 にこやかに言うルーティに風見は聞く。
「……ちまたではそう言われてるのか?」
「さっきわたしが決めました」
 さらっと返すルーティを見て風見は思う。


 ルーティって、ひょっとしたら三姉妹のうちで最強になるかもしれないな。
 いやな意味で。
 そんな不吉っぽい予感がテロップのように頭の下を流れた。


 コンバットビーカーOP映像と共に。


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 男が数歩進んだ時、
「待て! ベネディクトっ!」
 鋭い男の声が飛んだ。
 声の主は首領、ハイドラント。
「……なにか?」
 ベネディクトは少し煩わしげに振り返る。

「……何処へいくか分かってるのか?」
 ハイドラントはじと目で言った。
「……ふっ」
 ベネディクトは鼻で笑う。
 その頬を伝う大粒の汗が、しっかりと答えを物語っていた。


「……ふぅ、宛先は最下層に書いてあるから読んできたまえ……葛田君」
 ハイドラントはぱちんと指を鳴らす。
「…はい…」
 その声に反応し、葛田は手元のスイッチを押した。


 ばこん。


「うひゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっ!!!」
 地下に空いた穴の中にベネディクトは落ちていった。
 悲鳴が微妙に楽しそうな響きを帯びている気もするが。
 それにしても名前を呼んだ後で指を鳴らす意味があったのか疑問だ。
「愚か者が……」
 それを冷ややかな目線で見送るハイドラントだったが、


 がらがら……。


 次の瞬間、扉が開く音と共に、部屋を光が満たした。
「…むっ! 何者っ!?…」
 その音に素早く反応した葛田が腰に差したホルスターから銃を取り出し、扉にむけて
全弾打ちつくす。
 しかも床を回転しながら撃つ華麗な曲芸付きで。



「いたっいたっ!?」
「っ! 何をするんですかっ!!」
 そこに立っていたのは、たけると電芹の両名だった。
 たけるは涙目、電芹は怒って目が釣上がっている。

「おたけさんと電芹か。お帰り」
 いよっ、とばかりに片手を上げて労うハイドラント。
「痛いよー痛いよーいきなり何するのー?」
 たけるは涙目で抗議の声をあげる。


「…ふふふ、僕の愛用のマグナムの味……如何です?…」
 葛田は立ち上がると銃口を吹きながら言う。
 何時の間にか咥えたよれよれ煙草。
 つば広帽子に、あごひげしゃきーん。
 例えるなら空を駆ける一筋の流れ星。

「何がマグナムですかっ! しかも銀玉鉄砲から硝煙なんて出ませんっ!」
 電芹がぷりぷりとしながら言う。
「…夜店で安かったんですよぅ…」
 だいなし。


「もう酷いよー葛田さんにはお持ち帰りのチーズバーガーあげないんだからっ」
「…ああ、そんなご無体なっ!?……らばーめんなっ!?…」
「なぜ言い直す?」

 たけるの言葉にざっくりと辻斬りを食らったようなショックを受け、ごろごろと畳の
上を転がる葛田を見て、ハイドラントはにやりと笑う。

「はっはっは、残念だったな葛田君。では、わたしが……」
「ハイドさんも同罪ですっ!」
「なぜだっ!? なぜなんだぁぁあああ!?」
 倍食べられると思っていたハイドラントは辻斬り→追い討ちのコンボを食らったよう
なショックを受けた。
 相手を絶頂にまで持ち上げてから落とす、これぞ合気の極意なり。



「でもどーします? このハンバーガー」
「私達でたべちゃおーよ」
「そうしますか」
「あ、わたしお茶いれるねー」
 きゃぴきゃぴした声がダークの総本山に響き渡っていた。



 ――数十分後――



「……ハイドさん、何してるの?」
 バイトから帰ってきたむらさきが見たのは、畳の後がくっきりと顔についたまましく
しく泣いている葛田と、ジョーも真っ青なくらい白くなっているハイドラントの姿だ
った。




 電芹、たける組はティータイムも終わり、すでに家に帰ったらしい。




【ダーク13使徒CM(コンバットビーカー、電波ジャックVersion)】


 葛田「…ただいま、ダーク13使徒ではスポンサーを募集しておりますっ!…」

 ハイドラント「一緒に世界を滅ぼしたいと思われる企業の方々! 画面下記の番号まで
すぐにお電話をっ!」

 beaker「こらっっっ!!! 電波を無断で使うなぁっっっっ!!!!」

 月島兄「それは僕に対する挑戦かっ!!!」

 坂下「どっからわいてでたのよっっ!?」

 瑠璃子「お兄ちゃん、晩御飯抜き」

 葛田「…あっ、瑠璃子さんだっっ!!!…」

 月島兄「がぁぁぁん!!! …………ルリコゴメンネルリコゴメンネルリコ……」

 ハイドラント「綾香あぁぁぁぁっ! 金貸してくれぇぇええええええっっっ!!!!」

 beaker「だから勝手に電波を使うなとゆーとろーがっ!!!」

 秋山「俺のっ!(むきっ) 身体をっ!(むきっ) 視聴者の皆っ!(むきむきっ) 
見てぷりぃぃぃずっ!!!(ぽーじんぐっ)」

 ジン「お前の出番はないだろーがぁっっっ!!!!」

 秋山「だからこーゆーところで自己主張をだなっ!(ぽーじんぐっVer2)」

 beaker「みんな帰れぇぇええええええええええええっっっっっっっっ!!!!!」


                画面暗転



  【テロップ:ただいまの放映でお見苦しい点があったことを深く謝罪いたします。
                第二購買部代表・beaker】



【ダーク13使徒CM終了】





「あー……なんかいろいろあったが……とりあえず行ってこいや」
 なんだか微妙にやつれた顔をしたハイドラントが投げやりに言った。
 白髪も微妙に増えていることだろう。
「…うぅ、ハンバーガー……飯……食料…」
 隣では葛田がしくしく泣いている。

「葛田君泣くなっ! これもみんなロボットにかかる費用のせいなんだっ!」
「…導師っ! 僕等だって生きてるんですっ! なのにこの仕打ちは一体っ!?…」
「綾香がっ、来栖川家との関連がこの話ではないんだっ! つまり全部自費っ! 分か
るだろう、この意味がっ!!!」
「…導師っ!…」
「葛田君っ!」



 ひしっ。
 嗚呼、美しき師弟愛。



 がらっ。

 そんな感動的な師弟の抱擁を邪魔する無粋な音が響く。
 扉を開いた主は、篠塚弥生。


「ちなみに今年度の予算はすでにマイナス。その額【ぴーーー】になります。いえ、い
いんですよ。ハイドさんがやりたいようにやれば。わたしは補佐ですから。いくらその
持って生まれた美貌と頭脳を使って金持ちに色目使って危機に陥りながらも、なんとか
切り抜けてやっと稼いだお金もその間に貯まった借金の額にも足りないという仕打ちで
胃にいくら穴が空こうとも人生って何だろうとか屋上で考えると鳥になったら楽になれ
るかなとか思ってふらふらともう一歩で死んだおばあちゃんに逢える直前の状態になろ
ーともちっとも気にしないでください」

 がらっ。


 妖気みたいなものすら漂わせて一息にそう言うと、これみよがしにため息をついて扉
を閉めた。
 血涙も流してたような気もする。
 そして扉を締めた途端、ハイドラントの胃にも瞬間的に穴が空いたのを確かに感じた。
 しかも複数。


「うぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……」
「しくしくしくしくしくしく……」
「……行ってきます」
 呻き声と泣き声を後にして、ベネディクトは出撃した。
 部下達もなんだかばつが悪そうな顔をしていたことに、ハイドラントと葛田が気付く
ことはなかった。




 ――ベネディクトSIDE――




「あー……親方。あっしら魔族で彼ら人間ですけど……彼らのためにひとがんばりしてや
りたいって思いましたよ……」
「そーだな……」

 気合は別の意味でマックスな魔族軍団。
 先ほどまで行き先すらも知らなかったが、穴に落ちた際、ベネディクトは最下層まで
行って宛先の書かれた紙をげっとしていた。
 きもだめし程度の罠しかなかったのだが全部引っ掛かった為、素晴らしく時間がかか
っていたのは公然の秘密というやつである。


 ベネディクトの血と汗と不幸の結晶である取得物、紙切れ一枚。
 そこには一言、こう記されてあった。

 『Leaf学園の仮眠館へ行け』



「……で、親方。仮眠館ってどこですかい?」
「……さぁ?」
「地図探しましょーか……」
 彼らはまず地図をゲットしなくてはいけないようだ。

「しかもこれって仮眠館で何をするんですかね?」
「……占拠すればいいんじゃないのか?」
「……目的がはっきりしませんね……」
「行き先の固有名詞しかわかってませんよ?」
「…………」


 5W1Hどころか、doもあやふや。


 しかしっ!
 がんばれ魔族っ!
 負けるな魔族っ!
 いくら負ける運命とてもっ!
 ダーク13使徒に一筋の光をもたらすのだっ!


「で……親方。地図ってどこにいけば手に入るんです?」
「図書館……かなぁ?」
「図書館への道は……?」
「…………通行人に聞きながら行こう」
 先にあるのは光どころか、曇天模様。
 しかもこの先、台風になる可能性大のようだ。





「すいません。図書館の場所を……」
「うわ、化け物ぉぉぉぉ!?」

「あのー、図書館の場所を聞きたいんですが」
「ひぃ、た、たすけてぇっっっ!!!」


 状況はかなりイエローだった。


「どーします、親方。俺達の姿見たらみんな逃げちまうんですが……」
 うじゅうじゅしてたり、棒状だったり、よくわかんない形してる仲間を見渡しつつ、
一人の魔族が言う。
 普通は逃げるのが当然だろう。

「うーん……やっぱり見た目が恐いんだろーなー」
 うすうす気付いてはいたらしい。
 うすうす程度でしか気付いていない時点で状況は真っ赤だが。

「よしっ! ここは俺がいくっ!」
 そう言いきるとベネディクトは近くにいる女子高生達の方へと歩いていった。
 魔族達は「がんばれー!」とか「鬼畜米英ー!」とか「やんきーごーほーむっ!」な
どと檄を飛ばす。


「あのー、お姉ちゃん達。ちょっと聞きたいことが……」
「え? ……きゃー可愛い〜」
「あの……」
「ほんとだ、持って帰ろーよー」
「おい……」
「大丈夫、大丈夫っ。ほら行こっ!」
「おーい……」

 きゃぴきゃぴした声とともに女子高生達は去っていった。
 後に残るのは……残るのは……誰も残っていない。


「は、親方!?」
 拉致られた。
 女子高生に。





「ふぅ……一時はどうなることかと思ったぞ」
「っていうか、何故に人間に拉致られますかい? 魔族なのに」
「なんかあのノリに負けたというかなんというか……」

 てくてくと商店街を闊歩するほのぼのとした魔族一行。
 しかし辺りは阿鼻叫喚。
 特に何をしていなくとも、お昼時の奥様タイムに魔族が現れたら当然だ。
 しばらくモツ鍋は食べられなくなるような生物が目の前を歩いている。
 というか生物かどうかも妖しい。


「あ、親方」
 それから商店街を通過した辺りで、一人の魔族がはたと立ち止まった。
「ん? どーした?」
 つられてベネディクトや他の魔族達も動きを止める。

「良く考えたら、目的地は学園の中なんですよね?」
「そうだ」
「なんで俺達街にでてるんです?」




 沈黙。




「…………しまったっっっっ!!!」
 驚愕の表情を浮かべるベネディクト。
「「「「気づけよ」」」」
 魔族、総つっこみ。


『そこまでだっ!』


「はっ!?  こ、この声は……もしやっ!?」
 いきなり聞こえた声に辺りを見回すベネディクト。
「出てこいっ! コンバットビーカーっ!」
 魔族達にも緊張が走る。
 やはりこの行動は、お約束というやつらしい。


『せっかくだから俺は赤い扉を選ぶぜっ!』


「くっ、すでに向こうも戦闘態勢か……まあいい。命令は受けてないけどな。貴様くら
い俺一人でやってやるよっっっ!!!」
 ベネディクトから凄まじい力が辺りに湧きあがる。
 ドラ○ンボールのごとき気合で、辺りのものが宙を舞う

「親方〜〜っっっ」
 仲間の魔族も数匹飛んでいっている。
 が、気分が殺がれるのでとりあえず無視だ。

「ふふふ……みんな俺の真の力を知らないだろう……だが、今日は見せてやろう……」
 ベネディクトから放出する力は勢いをしらず、辺りが台風のごとき圧力でぎしぎしと揺
れる。
 洗濯物も空を舞う。
 看板も空を舞う。

 ごきんっ

「げふぅっっっっ!?」
 ジャストミート。
 ちょうど肉。

 真の力で起こった圧力で飛んできた看板はまさに大打撃。
 ゆっくりと、まるでスローモーションのごとく空を舞うベネディクト。
 隣を舞っていく洗濯物が微妙に悲しい。


「覚えてろぉぉおおおおおっっっ!! コンバットビーカーぁぁあああああっ!!!」
 お約束な決め台詞を叫びながら、こうしてベネディクトは敗れ去った。
 自爆だけど。








『食らえ必殺、エチゼンブレードっD、Cっ!!!』
『ぐぁぁっ!?』

『こうして、コンバットビーカーは今日も悪の帝国と闘うのでしたっ』

『わーわー』

 ぱちぱちぱちぱち。




 ――コンバットビーカーSIDE――




「あー、お疲れー」
 汗をタオルでぬぐいながらbeakerが声をかける。

「ああ、お疲れ」
 ジンも身体をタオルで拭きながら答えた。



 今日、彼らは鶴来屋グループ系列であるデパートの屋上で第一部『よいこのこんばっ
とびーかーショー』に出演していた。
 ようやく出番も終わったようで、一息ついているらしい。
 さきほどベネディクトが聞いた声はスピーカーから流れてきた音声だったようだ。

 ちなみに今は第二部である『紅き熊VS一人の男ルール無用血みどろ格闘デスマッチ
漫才』が繰り広げられている。
 配役は言わずもがな。



「んー、やっぱり運動の後の老酒は効くな」
 持参の酒で喉を潤した後、beakerは出番待ちの間の小休止に入っている。
(注:運動の後の飲酒は危険なので止めましょう)

「そーだなー……ん?」
 答えるジンもスポーツ飲料を飲もうとして手を伸ばしたところだった。
「こっちのほうがいいか……くぅ、燃えるぜっっっ!!!!」
 しかしハイオクの一気飲みに変更したらしい。
 確かに燃える。

「って、こらぁっっ!」
 ごきゅっ。
「ひげもげらぁっっっっ!?」
 怪人の名前を叫びつつ、壁にめり込むジン・ジャザム。
 細かいところでマニアック。

「ハイオクなんて贅沢なのは駄目っ! ほら、レギュラーねっ!」
 ぷりぷりと怒りながらジンの手から一斗缶を取りあげる坂下。
「……最近beakerに似てきたぞ、お前」
 じと目でいうジン。
 ちょっぴり目が輝いているのは心の汗か、かなり痛かったのか。


「はっはっは、まあ好恵さんも怒らないで」
「持参でもアンタは酒飲むな、未成年」
 じと目で睨む坂下。
 微妙に揺れているのは酔拳だろうか?


「ま、たまにはいいじゃないですか……で、今回のバイト代はいくらです?」
 そんな光景をまるで気にせずにbeakerが坂下に聞く。
 まさに沈着冷静の言葉を絵にしたような、商売人の鏡の態度だ。


「二人で二万円。ジンさんがハイオク買い込んだのをひいて八千円よ」
「貴様ぁあああああっっ! 腹切れっ! 臓物出して詫びろぉおおおおおおお!!!!」

 前言撤回。
 ジンの首を締め上げるその顔はまさに鬼。
 しかも般若。


「お、落ち着け……びーか……」
「詫びろぉぉおおおおおっっ! 小指でもええわいっ! ほらエンコつめんかいっ!」
 襟首締めたまま強要するその姿はまさに極道。
 口調もいつしか関西弁。
 広島弁でも可だ。

「や……やめ……」
 息絶えそうな声で呟くジン。
 すでに視界は白く染まっている。
 向かうは永久なるガンダーラ。

「いくでぇ……ほらぁっっっ!」
 聞く耳も持たないbeakerは短刀を取り出すとジンの小指に当て、思い切り叩く。



 がっ……きぃんっ。

 澄んだ音と共に短刀が折れた。



「ちぃ、サイボーグの身体がなんぼのもんじゃぁあああああああっ!」
 むきになったbeakerは更に燃え上がる闘志に火をつけ、違う刃物を探す。
 燃える炎は臨界突破。
 ちょっぴりやばい領域進入。
 ジンはとうにオチてるし。


 ――ジンSIDE――


(……ん……はっ!? と、父さん!?  あああ、母さんまでっ!?)
 ジン・ジャザム、三途の川で両親と再会する。
 まさに大ピンチという名にふさわしい状況だ。
 戦闘とはまるで関係ない所で。


 ――beakerSIDEへ戻る――


「ちょっと、beakerっ! ジンさんイっちゃったじゃないのっ! オトしてどーするの
よっっ!」
 坂下渾身の踵落し炸裂。
 いい感じにbeakerの頭に刺さった。
 さっくりと。

「ぐぁぁあああああ!?  頭が、頭が割れるように痛いっ!?」

 ごろごろと控え室の中を転がるbeaker。
 なんとか現実復帰を果たしたようだ。
 ちなみに他の役者達は被害に遭うのが恐いのでとうに他の場所へと食事に出ていって
しまっている。
 実は恒例行事のようだった。


 ――再びジンSIDE――


 ジンは綺麗な花畑で両親と団欒していた。

(ひさしぶりだな、ジン)
 ああ、もう大丈夫っ! 俺強くなったんだっ!
(よかったわね)
 だからもうみんなを護ることだって出来るんだっ!


 護る以前に、死の一歩手前だけど。


 ――飽きずにbeakerSIDE――


「ぁ……ぁ……」
 beakerはちょっとやばげな感じにひきつけを起こしていた。

「っと……ちょっとやりすぎたかな?」
 坂下も「さすがにやばいかな? このままゴートゥヘルしちゃうと後が面倒だし」と
思ったらしく、beakerを起こすことにした。

「……おーいbeaker生きてる? おーいっ」
 坂下は低い声でゆっくりと大きな声で発音する。
 が、それは耳の遠い老人への話し方だ。




 ――またまた、ジンSIDE――

(ジン。実はお前に話しておきたことがあってな)
 なんだ?
(実はお前には許婚がいるのよ)
 おみおつけ!?

(はっはっは、父さんはそんなベタなギャグには突っ込みもいれてやらんぞー。まあ可
愛らしい娘さんだからきっと気に入るぞっ! 儂もあと2年若ければなー)
 二年ぽっちかい。

(……お父さん?)

(いや、ほら、あれだ。とにかくっ! かむひあっ!!!)
 ダイ○ーン3みたいな女の子なんだろうか?


(おずおず……てへ、よろしくなのじゃ☆)

 いやだぁああああああああっ! 俺には千鶴さんがいるんだぁああああああ!!!


(お父さん……ちょっと、そこの舞台袖まで来てもらえます?)
(いや、だからあれはものの勢いというかっ)
(来てもらえますね?)
(……ジン、せっかくあえたのになぁ……)

(何を照れておる?)
 照れてねぇええええええええええっっっ!
 ああ、噛むな食うな咀嚼するなぁあああっっっ!!!

(もう、ジンたら照れ屋さんじゃのぅ☆)
 照れ屋とか言う前に食うのをやめんかぁあああああああああああっっっ!!!


 ――beakerっていうか、坂下SIDE――


「…………」
 beaker手招き。
「なに?」
 坂下耳寄せ。
「……ワニさん……パン……ツ」
 それは、最後の言葉。遺言。
「死ネ」
 次の瞬間、悪鬼が降臨した。










    惨・殺☆










 ――どことなくなんとなく、ジンSIDE――


(妾と一つにならないか? それはそれはとてもとても気持)
 あああ、なってるよ、すっかり喰いやがってぇぇええええっっっ!!!
 頭しかないじゃねーか、こらっっ!!!

(ふふふ、これで妾のものじゃの☆)
 俺は……俺は……




「俺は……俺は、千鶴さんオンリーだぁあああああああああああっっっ!!!!」
 ジン・ジャザム、現実復帰。

「ふぅ……いやな夢を見た気がするぜ」
 思わず汗を拭う。
 この世界ではヤツの出番はないんだ。
 そんな事実がジンの支えになっている。
 多分。


「あら、お帰り」
 目覚めたジンが最初に見たもの。
 それは、にこやかに微笑む坂下と、多分数分前まではbeakerだったんだろーなーとい
う感じのする物体だった。


「あー……次の舞台、大丈夫か?」
 嫌な汗が出るのを感じながらジンは聞いた。
 それ以外に聞くべきこともなかったが、口を開かずにいられない雰囲気だったのだ。


「大丈夫よ☆ この程度の傷、這ってでも行かせるから☆」


 ――後にジンは語る。

「坂下好恵、奴の微笑みは修羅の道を知っているものだけが出来る笑みだ。
 いい宿敵に出会えたのかもしれないな……ま、beakerの得物取っちゃ悪いから俺は止
めとくわ。ち、違うぞっ! びびってるとか、そーゆーことじゃなくてだな。俺は奴の

                以下略








 ――ベネディクト達。愉快な魔族ご一行SIDE――



「お、お前ら無事だったか」
「おうよ。で、お前も見てみろよ。ほら」
 指差された方向ではベネディクトが笑っていた。


「くっくっく……俺をここまで、てこずらせるとはな……楽しいよ、楽しいよっ!
 なぁ、コンバットビーカーっっっ!!!!!」
 愉快そうに、繰り返し笑い続ける。


「……何してんだ? あれ」
「抜けないんでしょう」
「ああ、ひっかかってるんだろう」
 外野がぼそぼそと呟くがその声は届かない。


「くっくっく……ああ、ちくしょう。はやく誰かこないかな……」

 コンバットビーカーとの激しい接戦(本人談)の後、空を舞う渡り鳥と化していたベ
ネディクトだったが、現在は妙に丈夫な木の間に挟まったおかげで脱出不可能となり、
奇妙なオブジェと化していた。

 木はそれなりに立派ななりをしていて、盆栽にただならぬ興味を抱くベネディクトに
は破壊するなんてことは出来なかった。
 結果、
「早くっ! 早く俺をだしてくれーーーっ!」
 こうなっている。


「なんか楽しいし、吹っ飛ばされた恨みもあるからみんなでしばらくほったらかしにし
てんだ」
「そそ。眺めてんの。写真も撮っちゃったし」
 妙にきゃぴきゃぴとした魔族達。
 ビジュアルで想像するとかなりアレだが。





「……で、ここどこなんだろーな?」
 しばらくしてから、一人の魔族言った。
 ベネディクトも疲れたのか動かなくなっていたので、そろそろ飽きてきたのだろう。

「さあ……あ、看板あるぞ」
「えーと……『仮眠館』  ここじゃないのか? 目的地って」
 がやがやと魔族達が看板の側に集まってくる。
 ノリは団地の井戸端会議状態。


「ん……おーい、お前らっ! 俺はここだぞーーーっ! 早く助けろーっ!」
 さすがに騒ぎに気付いたのか、ベネディクトが声を上げる。


「あ、気付かれた」
「めんどいけど行くか?」
「ああ、いい加減可哀相だしな」
 ざわざわとした感じでベネディクトの元に向かう魔族一行。


「おーい、そっち引っ張れー」
「いたたたたたたっ!!!」
「引っ張り過ぎー。もちょっとソフトでシャープにいこーぜ」
「意味分からんぞー」
「いたいっていってるだろーがっっ!」
「我慢してくださいよ、親方」
 救出作業も妙に和やかだった。




「ふぅ……さて、コンバットビーカーにも深手を与えたことだし、そろそろ任務果たし
てやるかっ!」


 助けられたのに、妙に偉そうに明後日の方向へ向って叫ぶベネディクト。
 部下の目は、かなりクールだが。
 その時、一人の魔族が空々しくも大仰に言った。


「あ、親方っ。ここですぜ、仮眠館っ」
 でもちょっぴり棒読み。


「なにぃっ!?  ふっふっふ、俺達にも運が向いてきたってわけだ……行くぞっ!」
 そんな部下の様子に一向に気付かないベネディクトだけは張り切って檄を飛ばして
いた。


 しかし、ベネディクトは知らない。


 ――この時点で部下の士気はがた落ちであることも――

 ――すでに数匹家に帰ってしまったことにも――

 ――さっきの写真が近所の奥様方の物笑いの種になっていることも――


 それらを知るのは、もう少し未来の話である。







 ――生きてるんだろうか? beakerSIDE――



『行くぞっ! クルスガワセイバーっ!』

『負けませんよっ!』

『俺達に勝てると思ったのかっ!』

『燃えあがるほどヒートっ! 震えるぜビートっ!』

『ジンさん、台詞違うっ!』

『ほーほっほっほっ! 美少女仮面柏木レッド惨状っ!』

『「惨状」の字面は間違ってなさそーだけど……』

『千鶴姉っ! 恥ずかしいから降りてこいっ!!』

『……年を考えてください』

『なんですってぇええええええええっっ!!!』

『観客の皆様へ! 防衛庁より警報発令! 直ちにシェルターに非難してくださいっ!』



 第二回公演中だった。



 ちなみに、微妙にbeakerの目が虚ろであったり、舞台袖で坂下が腕時計に向って「パ
ンチだ、beaker!」とか「行け、beakerっ!」とか言ってた理由は――


 ジンだけの秘密である。






                                   続く


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 ……ごめんよぅ(笑)
 さらにまとまりもない(汗笑)

===++===

 追記。

 風見家の食卓はあまりに大きくなったので分割しました。
 もはや忘年会Lっぽいサイズに。

 これは本編終わってからアップします。

 多分。


===++===