Lメモ「夢の中へ」 投稿者:ひげ4


右手には、ステッキ代わりの傘。

左手には、(空の)ティーカップ。

そして顔には、カイゼル髭&片眼鏡。


「おおっ、素晴らしい! まさに英国紳士…ヂェントルマンではないかっ!!」


「えーと…」

思考中。

「とりあえず、空のカップは要らないんじゃないかな…?」

控えめに言ってみる。

どこから突っ込むか迷っていたらしい。


「ふむ。ゆき君はこのティーカップが要らない、と」

ちなみにティーカップの発音がトゥィークァップに近いのだがこの際気にしない。


「というか、全部変だよ」

言うときは言う漢、ゆき。

さすがはエルクゥ同盟と言ったところ。

「なんと、このひげも変ですとなッ!?(驚愕)」

「うん。(即答)」


…こんな悲しいことが待ってるなんて、ぼくはしらなかった。

…彼女は言った。「えいえんはある――

「帰ってこぉぉぉぉいッ!!」


すぱぁぁぁぁぁんッ!!

と気持ちのいい音をたてて、ツッコミを入れる。

ゆきの手にはエルクゥ同盟の紋章入りスリッパ。

結構レア物らしい。

それはともかく、3分ほどだろうか、そのまま静寂が訪れる。

ちなみに片方は床に倒れたままだが気にしない。


むくり。


「それはともかくッ!!」


…何事もなかったかのように立ち直る。


「ほら、あれだ! 季節は春っ!! 出会いと別れはシーソーゲームな感じ
 で千血面樽倉腐茶!(読み方は任意に)
 こんな時こそ意中の彼女にマッハ2くらいで急接近して空気との摩擦で燃
 え尽きる感じだッ!!」

「………なんだかいろいろ問題がありそうな気がするけど、とりあえず頷い
 ておくよ」
 
「ありがとうまいふれんどッ!! で、ここで取り出したるは、相変わらず
 というかなんというか『ひげ』だぁっ!!」

「要らない(きっぱし)」

…というか、何故ひげなのかは気にしないのか。

「………………………」

「………………………」

「それはともかくッ!!」

「それ、さっきも言ってたよね」

「ああッ!? 我が友人がさりげなく毒の含まれているツッコミをッ!?」

「……………まあ、いいや。それでその髭がどうしたの?」

「うむ、この辺の対応で親友か友人かが決まってくる感じですな」

「…ちなみに僕は?」

「親ゆ…」

「あ、やっぱり言わなくていいよ」

「何故ッ!?」

「何故って…思いつかないの?」

「僕には何の事だか札幌ピーマンパーマンシーマン〜♪な感じで分かりませぬ」

「じゃあ、ヒントを出すね。主に髭」

「ぬぅ、難問ですな」

「というか、そのまま答えなんだけど」

「なんとォッ!?」

「…………はぁ……」

変な人にかかわっちゃったよぅ…と、ゆきは、心の中なんて狭い事は言わずに、
思いっきり目から滝のように涙を流す。

『加持さん、あたし汚されちゃったよぅ…』な感じと思っていただきたい。


「ふふ、どうしたんだい、まいはにー。ボクに悩みを打ち明けてご覧よ!」

「気持ち悪いから止めて」

「………むぅ、必殺爽やかヂェントルマンアタック(仮)が効かぬとは、越後屋、
 主も悪よのぅ…」

「いえいえ、お代官様にはかないませぬは…ふぉっふぉっふぉっふぉっ………って
 何やらせるのさママンッ!!」

一通りやってからツッコむ律儀なゆきに、物陰で初音がほろり。

「…ところで。」

急に素に戻るひげ4に、ゆきくんはいつも振り回されて大変です。

初めは迷惑がっていたゆきも、彼の愛にめざ…

「って、そこ何モノローグ書き換えてるッ!?」

『ちっ』

そんな声と共に気配が消えていきます。

どうやら、さきほどの必殺爽やかヂェ(略)によって薔薇リアン'sが召還されてし
まった模様です。


侮りがたし、薔薇リアン'sというかむしろ薔薇部。


「で、続きなんだけど…」

さっさと終わらせたいのか、まわりに誰もいない事を確認するとゆきが聞いてくる。

どがぁぁぁぁぁぁぁぁぁんッ!!

お約束、だよ。
な感じで壁が吹っ飛んで中に入って来ますは熱血サイボーグことジン・ジャザム。

壁の向こうには当然Dセリオ。

いつもの光景である。いつもの。

しかし、今日のジンはどこかが違った!

「ジ、ジン先輩…なんで、なんで……」

ふるふると肩を振るわせながらゆきはジンに問う。

「なんで手がリモコンなんですかぁぁぁッ!?」

「ちっくしょうッ!! 誰だ昨日柏木家食卓にて『ジン君の手がリモコンだったら
 便利なのにね♪』なんて言ってたヤツはぁぁっ!?
 って千鶴さんだって分かってるんだけどなッ!!」

血の涙を流しながらぶんぶんと、手…もといリモコンを振り回すジン。

迫り来るDセリオ。

ジン・ジャザム、絶体絶命!!

しかし、その時奇跡は起こった。

ピッ、と言う妙に軽い音と共に。

「ニュースの時間になりました。昨夜、アフロを被った幽霊がいるとの住民の――」

声は、Dセリオの、声。

呆然としつつも、ジンがもう一度、手を振る。

ピッ。

「じゃーざえも――」

ピッ。

「コンバ――」

ピッ。

ピッ。

ピッ。

………。

「えーと、俺は勝ったのか?」

ピッ、ピッ、とチャンネルを変えつつ、頼りなさげにゆきに聞く。

「……さあ、勝ったと思っておけば良いんじゃないですか?」

「…ああ、そうだな」

バックは、唐突だが場面的には自然に夕日&砂浜に。

「なあ、ゆき…勝利ってモンは、時として虚しいモンだな…」

「ええ」

ゆきは、噛みしめるように短く頷く。

ちなみに後ろでDセリオが一人音楽番組をやっていることは抜群に秘密だ。

「終わったんだ、全て。きっとやり直せるよな?」

「ええ、ジンさんならきっとできます!」

その後ろでは一人野球中継。
バットの打った音から司会者の解説、観客の声まですべてこなしている辺りがさすが
Dセリオ。

「走ろう、あの夕日まで!!」

「ええッ!!」

そんな二人の後を、日曜でもないのに一人笑点をやりながら追いかけていくDセリオ。



試立Leaf学園は、一部を除いて今日も平和だった。


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.
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「…なんてパクリオチはおいといて。」

「ねえ、どこから夢なの!? ねえっ!?」

「はっはっは」

ひげ4は笑った。

可笑しいから笑ったのではない。

笑いたいから笑ったのだ。

夕日を受けたカイゼル髭が、ふさふさと揺れる。



今日も、Leaf学園に日が沈む。

「ねえ、どこから夢なのぉぉぉぉっ!?」

少年の叫び声は、自分の顔にカイゼル髭がついていることに気が付くまで続いたと
いう。



 了。