Lメモ『まほうのちから』 投稿者:ひめろく


           自分が弱いことは知っている。


     …だから祈るの。


             1人では何もできない。


                        …だから願うの。


              …そして叶えるの。


               『魔法を!』





             Lメモ『まほうのちから』

                 はじまり



 座り心地の良い椅子にちょこんと腰掛け、少女は所在なげに辺りを見回して
いた。
 この椅子も、目の前の使い込まれた樫作りの大きくて立派な机も、自分にと
ってはひどくく不釣り合いな物に思える。
 彼女がそわそわと身動きする度に衣ずれの音が微かに響く。
 ちょうどお客さんが少ない時間帯のため、何だかとても大きく聞こえて、襟
元や帯の具合がおかしくなっていないか、しきりに自分の身体を見回してみる。
けれども、着慣れた藍色の和服はいつものようにしっかりと着付けがなされて
いて、どこにも直す所などは見あたらないのだ。
 本来この場所に座るべき人は、2日程前から『仕入れ』のために遠くの街に
行ってしまい、あと3日ほどは帰ってこない予定になっていた。
 彼は、旅立つ前の日に彼女をこの自分の椅子に座らせ、にっこりと笑って
『似合ってますよ』と優しく言ってくれた。
 そして、彼女は一週間の間『部長代理』を務めることになったのである。
 辺りには様々な(怪しい)物品が所狭しと置かれている。
 その中には光を嫌う品も多々あるので、室内は割と薄暗い。
 いや、それともただ単に、うず高く積まれた商品で、明かり取りの窓がふさ
がってしまっているからかもしれない。
 時間だけが、微かな光に照らされて、そこに在る物の上に降り積もっていく
…音。
 少女が、そのひそやかな音に耳を傾け始めた時――

――どんがら、がっしゃーん!

 けたたまく、すぐ近くの物品の山が崩れ落ちる音がした。
 その上に、白く降り積もっていた微かな『時間』が、宙に舞う。
 そして、崩れた山の中から、人なつっこそうな顔がひょこんと覗いた。
「…父上、やっぱり靜も手伝おうか?」
 少女――靜は、瓦礫の中から顔だけを覗かせて、必死にもがいているその少
年に問う。
「…い、いいからいいから。靜は、部長にお留守番頼まれたんでしょう? だ
ったらしっかりやらなきゃ駄目じゃないか。こっちの方は父上に任せて…ね?」
 諭すように、その『父』と呼ばれた少年は言う。
 今の衝撃で、掛けていた眼鏡が『鼻眼鏡』状態になっている。後ろで軽く括
られた長髪がぴょこんと飛び跳ねていた。
 年の頃は、17、8と、言ったところか。
 少なくとも、靜のような大きな子供のいる歳には、とても見えない。
「…うん」
 少し残念そうに、このまだ歳の若い『父上』の言うことに従う。
 実際、少年――きたみちもどるは、良い父親であった。
 靜にとって、最高の父親と言ってよい。靜は彼の事が大好きだった。
 掃除洗濯家事親父。主夫としての家庭の仕事はもちろん学校での付き合いや、
靜の父親としての役割をそつなくこなす。
 あえて難を言えば、ちょっとおっちょこちょいな所か。
 たとえば、掃除をしていて戸棚を倒してしまい、その下敷きになってもがい
ている、とか…。

――からんからんから〜ん♪

 ドアが開いて、明るい大きな音で鐘が鳴った。
 入ってきた人物に、靜の顔が、にぱっと輝く。
 知っている人だったのだ。
「…あ、芹香お姉ちゃん」
 長く艶やかな黒髪に、ちょっとぼーっとした感じの瞳の美人である。
 来栖川芹香。
 オカルト研究会の副部長で、この第二購買部のお得意様だ。
「いらっしゃいませ、今日は何ですか?」
「………」
 ちょっとだけ、かしこまって言う靜に、芹香は聞こえるか聞こえないかくら
いの小さな声で応える。
 ちょっと変わった所があるが、そこが神秘的で素敵なのだと、靜はいつもそ
う思う。自分も大人になったら、芹香さんのような美人になれるだろうか?
「あ、はい。いつものですね。少々お待ち下さい」
 こくり、と芹香が頷き、艶やかな黒髪がさらりと音を立てた。
 靜はてきぱきと品物を紙袋に詰めていく。ここらへんは手慣れてものだった。
 高い所にあって取れないものは、もどるが引き受けてくれた。
 大きな脚立を運んできて、その上に立ち、危なっかしく手を伸ばしている。
 その様子を見るともなく眺めていた芹香の目が、ガラスのショーケースの前
で、ふと、止まった。
「…んっと、芹香お姉ちゃん。この『セイベツハンテンダケ』なんだけど…。
…芹香お姉ちゃん?」
 呼ばれて芹香はゆっくりと視線を戻し、
「………」
「…え? 『コレはおいくらですか?』ですか?」
 透明なケースの中に、ちょうど拳くらいの大きさの球体がコトリと置かれて
いる。銀色に鈍く輝くその表面には、びっしりと何かよく分からない小さな文
字のような物が刻まれていた。
「…えっと、今までこんなのあったかな?」
 どうも記憶にない。
 確か、今朝見たときには無かったような気がする。
 当然値段も分からない。それが分かる人はしばらく戻ってこないわけで…
「えっと、どうしようかな?」
「………」
「…え? 『お金はオカルト研究会のツケにしておいて下さい』? 『必ず払
いますから』?」
 オカルト研究会は芹香のポケットマネー――お小遣いで運営されていると言
っても過言ではない。
 そして、彼女はこともあろうに『あの』来栖川財閥のご令嬢だったりするの
である。
 だから、金銭的には全く問題は――
「…うわっ!」

――どんがら、がっしゃーん!

「父上!」
 突然の物音に振り返る。もどるが、がらくたの中に埋もれて倒れていた。
 足を踏み外して倒れたところに、上から色々な物が落ちてきたのは想像に難
くない。
「…あはは。大丈夫大丈夫――」

――ごきゅ!

 笑って言ったもどるの頭の上に、信楽焼のタヌキの落ちてきた音だった。
「………」
 芹香の心配そうに問いかけに、もどるは引きつった笑顔で答える。
「せ、芹香さん、僕の屍を超えて、行って下さい…」
 芹香はなぜか困った顔で、こくんと頷く。そして、
「ぎょええええええええええええええ!!」
 第二購買部に響く謎の悲鳴。
 もどるの上に乗っかったまま、芹香はもう一度『大丈夫ですか?』と問いか
ける。
 靜は半分あきれて呟いた。
「芹香おねえちゃん…ちちうえの犠牲を無にしないでね」
 そしてこの年上の神秘的な少女は、やっぱりちょっと困った顔で頷くのだ。



           ☆       ☆       ☆



あとがき

 えっと、多分始めましての方が多いんじゃないかな?
 ひめろく、と申します。
 今から2年くらい前になりますか。
 ひめろくがここの連絡用の掲示板に書き込みをしたところから、全ては始ま
ったんです。

『Lメモで芹香さんの話を書くので、参加者大募集!』

 幸い、かなりの方が応募して下さって、ストーリーの方もほとんどできあが
ってはいたのですが、1つだけ大きな誤算が…
 ひめろくは文章が書けない体質だった!!(←おひ(汗))
 まぁ、そんなこんなで。
 やっと書き始める事ができた、この芹香さんL。
 相変わらず文章下手くそですが…
 あんまし面白くないかも…って言うか、下らない内容かも知れませんが…
 精一杯頑張りますので。
 これからよろしくお願いします(ふかぶか)。