ジャッジ加入Lメモ  超私的Lメモ 風が吹く時〜西風の章〜 投稿者:冬月俊範




 …キーンコーンカーンコーン…
 放課後のチャイムが鳴り響く。
「あー、終わった終わった」
「おい、これからどうする!?」
 放課後の予定を楽しそうに話すクラスメイトの声を聞きながら、冬月俊範は迷っていた。





          ―――超私的Lメモ 風が吹く時〜西風の章〜―――





 試立Leaf学園。
 この幼稚園から大学まで要する超巨大学園の高等部に転校して来てから、一週間。
 転校初日に、三年生の岩下信から学園の秩序を守る組織「ジャッジ」に誘われたことに
ついて、冬月は所属すべきか否か、いまだに迷っていた。
「何にせよ、情報が全然足りませんね」
 そうつぶやいて立ち上がった時、
「………俊範様」
 付き人の綾波優喜が近づいてきた。
「…優喜。丁度いい、悪いが頼みたい事があるんだけど…」
「…何でしょう?」
「『ジャッジ』という組織についての情報を集めて欲しい。噂でもなんでもいいから」
「…承知致しました、俊範様」
「私も別のルートで調べてみるから。じゃぁ、頼んだよ」
「…はい」
 こくりと頷くと、綾波は教室を出て行き、その姿を見送った冬月も別の方向へ向かうた
め、教室を後にしたのだった。



『いつから優柔不断になったんでしょうねぇ…』
 内心でため息をつきながら、冬月は第二購買部へ向かっていた。
 同じクラスにいる沙留斗も所属している第二購買部は、『何でも売ります』をモットー
としている組織らしい。中心人物はbeaker。
 …と、沙留斗に聞いた知識を元に、ならば情報も扱っているのではと思い、冬月は第二
購買部のドアをノックしたのだった。
「どうぞ。開いていますよ」
 ドアを開けると、カウンターにいる眼鏡をかけた端正な顔の男が声をかけてきた。
「いらっしゃいませ。何かご入用のものでも?」
 店内を見渡すと様々なものが整然と並べてある。品揃えはかなり豊富だ。周りを見てい
るとカウンターにいる男がもう一度声をかけてきた。
「…おや?ここには始めて来る人ですね?」
「ええ。…高等部の二年生として転入した冬月俊範です。よろしく」
「私はbeakerといいます。こちらこそ、よろしくお願いしますよ」
 満面に笑みを浮かべながら、beakerが挨拶を返す。
「で?何をお探しですか?」
「…ああ。沙留斗君から聞いたんですが、ここは文字通り『何でも』売っているとか…」
「ええ。お望みのものを何でもお売りしますよ。無いものは取り寄せますし」
「それが、たとえ形の無いものでも?」
「…と、言うと?」
「情報。『ジャッジ』という組織についての情報が出来るだけ欲しいんです」
「ジャッジについての情報…ですか?」
 怪訝そうな顔をして問い返すbeaker。
「ひょっとして、ジャッジに喧嘩でも売る気ですか?」
「…まさか。自分が誘われた組織について、少しでも調べておこうと思っただけですよ」
 苦笑を交えつつ、否定する冬月。
 それを聞いて満足したのか、beakerはこう切り出してきた。営業スマイルを顔に
貼り付けながら。
「そういうことでしたら…。そうですね、3000円でいかがです?」



 beakerから情報を仕入れた冬月は、綾波と合流しそれぞれの情報をつき合わせて
吟味するために、合流する場所である屋上へと向かっていた。
(…生徒会所属のいわば警察組織…。生徒たちの支持率も高い…。束ねているのはセリス
と岩下信…ですか)
「あれ?冬月君じゃない」
 考え事をしながら屋上へ向かう冬月を呼び止めたのは、赤い髪をリボンでまとめた小柄
な少女だった。
「ああ、神岸さん。今帰りですか?」
「うん。冬月君も帰るとこ?」
「いえ、屋上に行く所ですが…。そうだ、ちょっとだけ話に付き合ってくれませんか?」
「いいけど…。なに?」
「『ジャッジ』という組織について、どう思っていますか?」
「ジャッジ…について?」
 きょとん、とするあかりに冬月は柔らかく問い掛ける。
「ええ。神岸さんがジャッジについて思っている所を聞きたいんです」
「…聞いてどうするの?」
「参考にします」
「何の?」
「そのうち分かると思いますよ…。…で、どう思っているんですか?」
「そうだね…」
 あかりは少し考え込むそぶりを見せたが、すぐに微笑みながらしゃべり始めた。
「頼りになる人達だよ。困った時はジャッジの人を呼べばなんとかなる、って言う雰囲気
もあるし…」
「…他には?」
「あとは、この学園にいる人たちが普通に過ごせているのも『ジャッジ』があるからって
思うこともあるよ」
「学園の治安を守る、と言うのならば『エルクゥ同盟』や『校内巡回班』という組織もあ
りますけど…」
「うん。でも、一番最初に思い浮かぶのはやっぱり『ジャッジ』だよ」
「そうですか…。いや、ありがとうございました」
「どういたしまして。…参考になった?」
「ええ。引き止めて悪かったですね。それでは…」
「うん。それじゃ、また明日ね」
「さようなら、神岸さん」
 やさしく微笑みながらあかりを見送った冬月は、改めて屋上へと向かったのだった。




 冬月が屋上のドアを開けると、そこにはすでに綾波優喜が待っていた。
「早かったね、優喜。…それで、どうだった?」
「…はい。校内の生徒たちの評判はかなり高いです。また、主に学園内での警察機構とし
て活動しているようです」
「他は?」
「あとはですね…」
 綾波と情報をつき合わせていく。真剣な表情で2人で得た情報を吟味しつつ、冷静に分
析してゆく。
「…大したものだね。ここまでくると…」
「…そうですね…」
「問題は無いか…。どうする?」
「…あたしは、俊範様についてゆくだけですから…」
 冬月が苦笑した時、屋上のドアがけたたましい音と共に勢いよく開いた。
 2人がそちらを向くと、ドアの所には出口を塞ぐように一人の男が立っていた。
「…どちら様ですか?」
 穏やかに冬月が問い掛けるが、男は堅い声でこう切りかえしてきた。
「先にこちらの質問に答えてもらおう。…ジャッジについて嗅ぎ回っているのはお前たち
か?」
「嗅ぎ回るって…。まぁ、そうとも取れるでしょうけど…。ジャッジの方ですか?」
「ぼくの名前はセリス。一応、ジャッジを束ねる立場にあるものだ」
 その男、セリスは腕を組んで威圧するように冬月達を睨みつけている。
「ずいぶんすばやい対応ですけど…。さすが、と言うべきですかね?」
「ふざけるんじゃない。さぁ、答えてもらおう…。何が目的だ!?」
「目的も何も…。何か勘違いしておられるようですね」
「何?」
「まぁ、いいでしょう…。優喜!!」
 綾波へ呼びかけると同時に、冬月と綾波の周りに風が渦巻き始める。
「少し、お手合わせ願いましょうか!!」
「…何だとっ!?」
 慌てて横に飛びすさったセリスだったが、すかさず冬月がそれを追いかけてゆく。
「…はっ!!」
 それと同時に、綾波から気合と共に放たれた光を纏った『風』が、セリスに襲い掛かる!!
「…くっ!」
 即座にセリスは霊波刀をだして、『風』の攻撃を防ぐ。
「こいつは…!!ぬぅっ!!」
 即座に、懐に飛び込んで蹴りを放ってきた冬月を肘で迎撃する。
「へぇ…。やりますね」
 膝のあたりにセリスの肘の一撃を喰らって後退した冬月は、そうつぶやいてにやりと笑
った。
「まだまだ…!!『風よ、全てを切り裂く刃となれ!!』」
「…ちぃっ!!」
「『烈砕斬!!』」
 光を纏った『風』が、綾波のものよりも数倍の大きさと速さでセリスに迫る。
「甘いっ!!」
 冬月の攻撃をよけつつ、一瞬の隙を突いて霊波刀でセリスが冬月に切りかかる!
「…何っ!?」
「『風よ、我らを守る楯となれ!!』」
 しかし、突如現れた強力な風の流れによって、セリスの一撃は受け流された。
「…助かったよ、優喜」
「…いえ、当然のことをしたまでです…」
 セリスも後方に下がって、体制を整える。
「息の合ったコンビネーションに加え、『風』を使った攻撃だと…?貴様たちは一体…!?」
 しばらくの間、冬月は無表情でセリスを眺めていたが、
「こんな所ですかね…。やはり、流石だ」
 と、つぶやいた。
「何だと?」
「いや、済みませんでしたね。手荒いまねをして申し訳ありませんでした」
 そういって、冬月は攻撃姿勢をとく。
「まずは自己紹介から…。私は一週間ほど前にこのLeaf学園高等部、二年に転入して
きた冬月俊範と申します」
「…同じく、二年に転入した綾波優喜です…」
 苦笑を交えて、冬月と綾波が名のりをあげる。
「え…?すると君達が信の言っていた…」
「おそらくそうでしょう。『風使い』とその付き人です。以後よろしく」
 そう言って、冬月は歩み寄ってセリスに握手を求める。
「…ああ。こちらこそ」
 握手に応じながら、セリスは戸惑いつつ冬月にたずねる。
「何だって、こんな真似を?」
「岩下さんに誘われてから、どうしようか迷っていたんです。それで、判断するためには
ジャッジがどのような活動をしているか、調べるのが早いと思いまして…」
「それと、ぼくに攻撃してきたのとどういう関係が?」
「ジャッジのトップであるセリスさんの実力が試せるのと、私達の力を知ってもらうには、
あれが一番手っ取り早いでしょう?」
「そういうことか…。で?どういう結論に達したんだい?」
 ようやく笑いながらセリスが問い掛ける。
「そうですね…。私達もジャッジの活動に参加させていただけると、ありがたいですね」
 冬月もにこやかに笑いながら答える。
「そういう事なら、歓迎するよ。これからよろしく頼む」
「こちらこそ…。それから、二つほどお聞きしたいことがあるんですが…」
「何だい?」
「一つ目は、優喜…。彼女のことなんですが…」
「ああ、彼女は『パートナー』としてうちに来ればいい。丁度、そういう制度を取り入れ
たばかりだからね」
「ありがとうございます。そして二つ目は、何だってジャッジという組織のトップが自ら
ここへ?」
「たまたまだよ…。他にも何人か動いているからね」
 肩をすくめつつ、セリスは答えた。
「危険だとは思わなかったんですか?」
「幸い、腕には自信があるからね」
 にやりと笑いながら、冬月の胸を軽く叩く。
「よく分かりました…。これから、よろしくお願いします」
「ああ、期待しているよ」
 再び、がっちりと握手をする二人。
「それじゃ、ジャッジの本部へ案内しよう。…こっちだ」
「わかりました。…いくよ、優喜」
「…はい、俊範様」
(…これから、退屈しないですみそうだ…)
 こうして、冬月俊範のLeaf学園内での新しい生活がスタートしたのだった。





 …冬月俊範と綾波優喜のジャッジ加入が学園内に公表されたのは、この翌日のことであった…。