風紀動乱Lメモ外伝ー風紀委員会監査部L『これも一つの始まりの時』ー 投稿者:冬月俊範

※注意:
これは風紀動乱時空の話です。
よって、本来のL学時空とは何の関係もなかですよ、耕介さん(謎)





 ある日の放課後。
 冬月俊範は廊下をとある場所に向かって歩いていた。
 胸のうちに、一つの決意を固めつつ…。




              風紀動乱Lメモ外伝
        ー風紀委員会監査部L『これも一つの始まりの時』ー




 …時は一週間ほど前に遡る。
 ジャッジ本部における、定例会の中。
「…風紀委員会の監査部?そこに私が行くんですか?」
 今日も何事も無く終わるはずであった。
 セリスが冬月に向かってある事を伝えるまでは。
「そうだ。冬月君にはジャッジの代表として監査部に参加してもらいたい」
 あくまで冷静に、そして言い聞かせるようにセリスが言葉を紡ぐ。
「しかし、そのような部署は初耳ですが…」
「そりゃそうだろうね。これからできる部署だから」
「…なんですって?まさかとは思いますが、私を左遷するつもりですか?」
 皮肉げに頬を引きつらせつつ冬月はセリスと岩下に改めて視線を向けた。
「まさか。始めに言っておくが、これは風紀委員であるとーる君からの正式な要請だ。ど
うやら彼は、最近暴走気味である生徒指導部をなんとしてでも抑えたいらしい」
「そしてあわよくば、広瀬ゆかりの復権を…?」
「まぁ、それもあるだろうね」
 苦笑を交えつつ、岩下が会話に参加してくる。
「ま、彼の思惑はともかくとしてだ。我々としても彼ら生徒指導部の行為は目に余るとこ
ろが無きにしも非ずだったしね」
「渡りに船、と言うことですか?」
「うん。恐怖による秩序の到来は、我々としても望むものではない…」
「だからと言って、正面から敵対するわけにも行かない…」
「そういうことだ。我々の他にも別の組織からそれぞれ一人ずつ参加者を募っているらし
いが…」
「あ、その件で私からもお話が…」
 と、突如藍原瑞穂から声があがる。
「…どうしたんだい?藍原君」
「ええ、私にもとーるさんからお話がありました。生徒会代表として、参加して欲しいと
か…」
「…ほぅ」
 冬月が感嘆したように声を上げる。
「どうやら本気のようですね、とーる君は…。で、私が参加するというのはすでに決定事
項なんですね?」
「悪いが、そういうことになる。事後承諾ですまないが、行ってくれるか?」
「………………………」

 ちらりと綾波優喜を見やる冬月。
 優喜はわかっていますと言うように、冬月に向かって一つうなずいて見せた。

「わかりました。行かせていただきます。…優喜をおいていきますので、なにかありまし
たら彼女に言ってください。すぐに私まで伝わりますから」
「ああ。すまないが、よろしく頼むよ」
「…構いませんよ。あと、質問があるんですけどよろしいですか?」
「なんだい?」
「万が一、ジャッジとぶつかりそうになった場合はジャッジ優先で動きますが?」
「ああ、その辺の判断は君に任せるが…。そうしてくれると助かる」
「はい。…ま、丁度いい機会です。暫らくこっちには来れなくなると思いますが、精一杯
やってきますよ」
 何処となしか嬉しそうに冬月が言う。
「…冬月君。生徒指導部と何かあったのかい?」
 普段と違う反応が気になったのか、岩下が訝しげに声をかける。
「いえ、そういうわけでは…」
 ふっ、と苦笑を洩らしたあとに自嘲気味に冬月は続けて言う。
「…セリスさん達は、ギャラさんを始めとして私や優喜が起こしたドタバタ劇をご存知で
すか…?って、岩下さんは当事者でしたね」
「…ああ。ものの見事にね…はっはっはっ…」
 思わず右手に炎を生み出しつつ乾いた笑いを放つ岩下。
「あああ、すいません。やったことはこの際置いておいてですね」
「置くな」
「…置かせてください。お願いですから」
「…信さん」
 すっと瑞穂の手が岩下のそれに重ねられる。
「…まぁ、いい。続きを聞こうか」
 ふっと岩下の右手の炎が消える。
「ええ。…もともとあれは、ディルクセンさんへの報復処置のはずだったんですよ。…ど
こでどう間違えたのかはわかりませんが」
「…そもそも、ギャラさんの作戦で動いたこと自体に間違いがあったのだと思いますが」
 冷静に突っ込みを入れる優喜。
 …いまだにあの件に関して怒りを持続させているらしい。
「…な、なるほど。そうだったのか…」
 優喜の無言のプレッシャーに押され、額にジト汗を浮かべつつ、岩下がうなずく。
「はい。ま、ご存知のとおり報復どころかあのように大騒ぎになった挙句、有耶無耶にな
ってしまいましたけどね」
 ひょい、と肩をすくめつつ笑う冬月。
「…しかしなんで報復なんて真似をしようとしたんですか…?」
「…それはね、藍原さん。主に私がディルクセンという人間を許せなかっただけの話です
よ。…特に『彼』と『彼女』の大切な友人にしようとした仕打ちをね…」
「…冬月さん…?」
「詳しいことは話せませんが…。ギャラさんからその話を聞いて一枚噛む事にしたんです
よ。優喜には悪いことをしましたが…」
 まったくだ、というように深くうなずく優喜。
 その気配を察し、冬月はゴホンと咳払いを一つして話を続ける。
「…と、とにかく。私と優喜がこの学園に転校してきて、一番最初にできた友人なんです
よ、『彼』と『彼女』は。そして、私は『彼女』が自分の親友の件で悲しむ顔を見たくな
かった。…それだけです」
「……………」
「大丈夫。今回は以前のような馬鹿騒ぎにはしませんよ。しかし、全力でこの仕事に向か
うつもりです。藍原さんも、お願いしますよ?」
 場の重苦しい雰囲気に押され、暗い表情で自分を伺う瑞穂にやさしく笑いかける。
「…くれぐれも、慎重にな」
「はい。…それじゃ優喜、ジャッジのほうは頼んだよ」
「…承知いたしました、俊範様」
「で、いつから動き始めるんですか?」
「うん、今日から一週間後だそうだ」
「わかりました」
 その言葉で、その日のジャッジ定例会は終わりを告げた。




 …ここで時を元に戻す。
 学園内のどこかに繋がっている廊下。
 これから監査部の定例会の場所となる会議室に向かいながら、冬月は思案する。
(それにしても…とーる君もよく集めたもんだ)

 来栖川警備保障からDマルチ。
 校内巡回班から猫町櫂。
 暗躍生徒会から城下和樹。
 情報特捜部から長岡志保。
 そして、生徒会から藍原瑞穂。

(ある意味、そうそうたるメンバーだ。だが…)
 確かに、ある一つの事柄を調査・分析し、発表するには最適の人選と言えるだろう。
 組織の主な目的が監査なのだから、それも当然だ。
 だが、気になることが無いと言えば嘘になる。
 しかし、その事に対する確証が冬月には無い。
(決断し、行動を起こすには情報が少ない…。まだ早いか)
 そして、結局のところ自分が最終的に何がしたいのかも。
 冬月自身にも理解できてはいなかった。
 …当面の目的以外には。


 程なくして目的の場所につく。
(ここですか…)
 思考を切り替える。
 悩むのは当分後で良い。
 迷いを表に出せば、そこからつけ込まれることもある。
 今は出来ることをやれば良い。
 結果はおのずからついてくるだろう。
(…よし)
 そうして、冬月はドアを開けて中に入っていった。


 部屋に入ると、聞いていた自分以外のメンバーがすでにそろっていた。
「遅れてしまったみたいですね。申し訳ない」
「いやいや、まだ時間前ですよ。これからよろしくお願いしますね」
 とーるが律儀に時計を見ながらそう返す。
「さて、これで一人を除いて全員そろいましたね」
「…え?これで全員じゃないのかい?」
 空いている席に座りながら、冬月がとーるに問い掛ける。
「ええ、まだ監査部長殿がいらっしゃってません」
「…驚いた。てっきり君が監査部長だと思ってたんですけどね」
 そこへ志保がうれしそうに話に割り込んでくる。
「知らなかったの、トシ?いい、この志保ちゃんが特別に教えてあげる。ここの部長は
ねぇ…」
「…あなたには聞いてませんよ。長岡さん」
 冷たく、かつばっさりと志保の発言を切り捨てる冬月。
「なっ…。なによぉ!!」
「……………」
「あ、あの…二人ともケンカは…」
 瑞穂がやんわりと止めに入ったその時。
「…わたしがやるんよ。冬月君」
 がちゃりと、ドアの開く音と共に一人の髪をお下げにした女生徒が入ってきた。
「長岡さんももう少し静かにな。廊下にまで聞こえとったよ」
「保品…さん」
「それともわたしじゃ不満か?」
その問いに冬月は首を振りつつ、
「…いえ。これ以上ない人選だと思いますよ。…とーる君もそう思ったからこそ、彼女に
要請したんでしょう?」
 と、とーるに向かって確認する。
「はい。保科さん以上の適任者は思いつきませんでしたので」
「…だから、誉めても何もでぇへんって」
 苦笑いしつつ、部屋の前へと歩いていく智子。
 斜め前方で志保が『何よ何よ』とぶつぶつ言っているのを聞き流しつつ、智子を眺めな
がら冬月はぼそりと呟いた。
「…ええ。本当に適任だ」
「――?冬月さん、何かおっしゃいましたか?」
 Dマルチの問いに首を振りつつ、何でもありません、と答えると冬月は改めて前方を見
つめる。
 そこに立つのは監査部の長。
「全員揃っているようやね。ほな、風紀委員会監査部の第一回定例会をはじめよか」
 その智子の声に、全員がうなずいた。



 こうしてまた一つ、時の歯車が動き出す。
 行きつく先は、誰もわからないままに。








(待ってろよ、ディルクセン…!私は私なりのやり方で貴様に罪を償わせてやる…!!)


===+++===
え〜…。
最後がいつだったかは思い出したくもありませんが(笑)
短いながらも導入編です。
続きに関しては、ネタを思いついた上に書ければアップします(爆)
ああ、学生時代が懐かしいよぅ…。