☆☆☆ 亜空間通路から人間界に現出した時、彼の胸中に最初に湧き起こった感情は 喜びでも驚きでもなく、ただの苦渋だった。 亜空間内で標的を捕らえられなかった事は失態だ。上司は彼の能力について 厳しい評価を下すだろう。そして杜撰な対応で標的に天界からの逃走を許した 己の失態を可能な限り糊塗しようとするに違いない。 面白さの欠片もない癖にリアリティには溢れている未来予想図を思い浮かべ、 彼は唾を吐き捨てた。天界警邏隊の部隊長らしからぬ振る舞いではあったが、 その地位も怪しくなった今、部下達の目を憚って勤務態度に留意する気にはな れない。 標的は、彼の数十メートル先を飛行している。それは酷く不安定な動きであ ったが、これまでの追跡行で標的に加えた攻撃を思えば、彼女が未だ飛び続け ている事自体が信じ難い事と言えた。 ――愚かな女だ。 彼は胸中で独りごちた。神の使徒として、いずれは高位に登ることを約束さ れた身でありながら、狂った罪人の為に全てを捨てるとは。無論彼女にはそう するだけの理由があったのだろうが、巻き添えを食って失脚することがほぼ確 実となった身に、それが何かの慰めになるというものでもない。罪を犯すのも 未来を投げ捨てるのも人の勝手だが、自分に類の及ばない所でやって欲しいも のであった。 そんな物思いに耽っていた彼を、部下の声が現実に引き戻した。 「隊長。全員、亜空間より脱しました」 「ん……」 言われて背後に向き直り、そこに並ぶ部下の数を素早く数える。 三十六人。一人の犯罪者を追うにしては大袈裟過ぎる数である。それだけに、 この人数を率いながら逮捕に手間取った彼は無能者との汚名を甘受せざるを得 ないだろう。 実際のところ、亜空間の中は動きやすいとは到底言いかねるため、多数の利 は全く発揮されず、むしろお互いに邪魔しあって逃走者を有利にしていたのだ ったが。 (……あのくそ上司、そこまで考えてこれだけの人数を動員したんじゃねーだ ろーなー……自分一人が道化者になるのが嫌で……) 有り得る話ではあったが、彼はかぶりを振ってその考えを追い出した。 今はそんな事を考えていても仕方がない。彼がすべきは、標的を捕らえて天 界に連行し、その後で保身のために最大の努力を払う事だった。 気を取り直して、傍らの部下に問い掛ける。 「周囲に、標的以外の存在反応はあるか?」 「はっ……標的の進行方向に二つ。 これは、にんげ……ん?」 彼の問いに、探査担当の部下は即座にきびきびとした口調で答えたものの、 語尾を不可解に濁らせた。 「どうした?」 「あ、いえ……人間だと思います。二つとも。 ただ、少々妙な気配を感じたような……いえ、気のせいでしょう」 「ふん……?」 引っ掛かるものはあったが、こだわるべきとも思えなかった。先を促す。 「他には?」 「その二つ以外には何も……っ!?」 返答が再び詰まる。 そして探査役は、今度こそ、驚愕の声を張り上げた。 「魔族です! 九時方向下方!!」 「何っ!?」 予測もしていなかった言葉に、彼は度肝を抜かれた。 慌てて、示された方向を見やる。 そこには。 ――荒野の中に、ぽつん、と。 小さな子供が一人、立っていた。 自らも赤く染まりながら、その子供は夕焼けの空を見上げている―― 「魔族だな……確かに」 魔族。魔界に住まう、神への叛逆者。 相当の距離が離れていたが、よもやその特有の雰囲気を見間違えようはずも ない。 「どの程度の奴か、分かるか?」 「かなりのエネルギー反応です。間違いなく、ロード・クラスでしょう」 「魔界貴族か……」 それを聞き、彼は戦慄すると同時に安堵した。 ダーク・ロードとも呼ばれる貴族級魔族の力は極めて強大であり、戦えばこ の人数でも勝てるかどうかは分からない。が、本能的な欲望のままに暴れるだ けの下級魔族と違って、『法』を熟知している筈の上級魔族がたまたま出くわ した天使を理由もなく襲うなどという事は考えられなかった。 こちらにはあの魔族に襲われる理由など無い、筈だ。そう言い聞かせて、彼 は何とか気を落ち着けた。 改めて、魔族を観察する。 「ダークロードが……一体、こんな所で何をしている?」 短く切り揃えた髪、美しいと言って差し支えない容貌。恐るべき力を感じさ せるものは何も見当たらないが、もとより魔族の外見と本性との間に関連性が あるとは思っていない。 だが。 (……どこかで見たか?) その風貌。纏う空気。それは、彼の記憶の何処かを刺激していた。 最近ではない。ずっと深い所、遥か昔の記憶…… (そうだ……俺がまだ人間界で働いていた頃……) あの姿を、勤務地であったヨーロッパのどこかで、見た。 良く思い出せない。何かが違う気がする。彼が見た魔族は、その顔に―― (……笑った?) ――笑みを浮かべていた。 そう、今、眼下で魔族がしているように……口を大きく歪めて。 (…………!!) その、刹那。 烈風が吹き付けた。 強烈な衝撃を受け、反射的に目を閉じる。 全身を荒れ狂う風に打ち据えられ、彼は声もなく呻いた。 周りで部下達が悲鳴を上げているのが聞こえる。 風が治まるまで、数秒ほどであったろうか。 再び目を開いた彼は、ずっと昔の――忘れてかけていた悪夢の具現を見た。 夕陽の下。 橙色の光を夜空の色の鱗で照り返し。 十二の首をゆらめかす、巨大な竜――十二首竜が、そこに現れていた。 覚えている。まだ覚えている。 数百年前、彼の同胞を一瞬で食らい尽くした悪夢―― 「ローヌ河の魔竜……ベネディクト=ダースドラゴン!!!」 彼が上げたそれは、まさしく絶望の叫びであった。 ☆☆☆ ――奇妙な二人組だった。 力尽き、墜落しかけた彼女を助け、丘の上へと下ろしたのは。 黄金色に輝く瞳を持つ少女と、対照的に闇を結晶化したような暗い瞳を持つ 少年――と言うよりは青年に近い風貌の男。 二人は黙って、少女の方は興味深そうに、男の方は無感動な様子で、こちら を見下ろしている。 「……あなた達は?」 二人の足元にうずくまり、ユンナは取りあえず、当たり前な質問を投げかけ てみた。 黒ずくめの男が片眉を上げる。 「人に名を尋ねるなら、まず自分から名乗れ」 陳腐な問いにふさわしい、陳腐な返答だった。 言ってしまってから芸の無さに気付いたのか、男は憮然とした表情になる。 横目でそれを盗み見て、少女がくすくすと笑った。 「……私はユンナ。天使よ……一応ね」 つられて笑うほどの気にはなれなかったが、警戒心は緩め、ユンナは答えた。 雰囲気といい、自分の姿を見ても全く驚かないところといい、どう考えても この二人はただの人間とは思えなかったが、何にせよ礼は言っておかねばなる まい。 「助けてくれてありがとう。 ……本当はもっとちゃんとお礼をすべきなんでしょうけど……見ての通り、 今はちょっと急いでるから……」 そう言いながら立ち上がろうとして――ユンナは膝を崩した。 僅かに動いただけで、全身に焼けた針を突き刺されたかのような激痛が走る。 声にならない呻きを上げる彼女に手を差し伸べるそぶりすら見せず、男は淡 淡とした口調で言った。 「お前を追ってきた天使どものことなら、案ずる必要はない」 「……?」 意味が分からず、疑問の表情を浮かべる。 それを見て取り、男が面白くもなさそうな顔で呟いた。 「……ふむ。苦痛のせいで、奴の気配も感じ取れないか。 後ろを振り返ってみるがいい」 言われるままに、背後に顔を向ける。 そして、それを見た。 「――っ!?」 絶句する。他に為す術も無く。 そこに広がっていた光景は……戦いだった。 ――いや、違う。 中心に在るのは、十二の首を持つ竜。 竜はその牙で、また口から吐く火炎で、氷雪で、烈風で、周囲に群がる天使 達を噛み砕き、焼き尽くし、凍り付かせ、引き裂いていた。 天使達の方も、手にした武器で、また光を放って竜を攻撃しているが、鱗の 一枚すら傷つけられずにいる。 ――それは、一方的な虐殺だった。 「…………十二首竜ベネディクト!?」 記憶の中から、その名が声となって出る。 ベネディクト=ダースドラゴン。貴族級魔族の一人で、かつてはヨーロッパ のローヌ河を根城とし、付近の人間達から魔竜、竜王と呼ばれ、畏怖されてい た存在である。その区域の管理担当の天使が討伐隊を編成、派遣したことも幾 度かあったが、ことごとく返り討ちに遭ったと記録は語っていた。 ここ数百年ほどは魔界に戻っていたらしく、噂を聞くこともなかったのだが …… 「ふむ。さすがに奴も、その筋では著名なようだな」 「学園じゃ、全くいいとこ無しなのにね」 硬直するユンナの耳に、どうでも良さそうな男の声と、おかしげな少女の声 が届く。 再び向き直って見た二人の顔からは、目の前で繰り広げられる光景に対する 感興はまるで感じられなかった。 彼らにとって、あれは驚くに値することでは全くないかのように。 「……あなた達は……一体……」 再び、その問いが口を突く。 先程とは違い、明確な疑問の意志を込めて。 少女とちらりと目を見交わし、男が口を開いた。 「私はハイドラント。まあ何というか、世界を浄化しようとしている。 それで、こちらが私の相棒――」 凄まじく異常な内容の自己紹介をあっさりと一言で終わらせ、男――ハイド ラントはユンナに口を差し挟む隙を与えず、隣の少女を指し示して続けた。 「風上日陰。魔王だ」 「よろしくね」 やはり重大でありながら身も蓋も無い紹介に続いて、日陰と呼ばれた少女が にこりと笑う。 それは儀礼的なものではない、本心からの笑みだと思えたが……ユンナに出 来た反応は、消化不能の単語を鸚鵡返しに口にすることだけだった。 「世界を……浄化?」 「そうだ。穢れに満ちたこの世界を清め、新たな世界を築く」 堂々と、ハイドラントが答える。 「……魔王?」 「『ロウの執行者』だ。聞いたことくらいはあろう」 「それは……でもそんな……」 大いなる『ロウ』を守護するもの――魔王。 それが存在することを、知ってはいた。だがだからと言って、目の前の少女 がそうだと言われても俄かに信じられるものではない。 「疑うか? ならばお前は、我々がこんな何もない荒野に何かの気まぐれで立っていたと ころに、たまたまお前に出会い、ふと気が向いたので遊びがてら与太話を聞か せている――などという話を信用するか? 何かの偶然でこの場に居合わせた魔族が、たまたま虫の居所が悪かったので、 お前を追う天使どもに襲い掛かった――などという幸運を信じられるほど、お 前は神に愛されているのか?」 「…………」 彼の声には別段勝ち誇った響きはなかったが、しかしユンナの反論を完全に 封じていた。 「必然だよ。全てね」 魔王と呼ばれた少女が言葉を継ぐ。 「私はあなたが今日ここに現れることを知っていた。罪を犯し、その為に天界 から追手を差し向けられていることも。 だから私は、ベネディクトに力を与えて追手の天使達を襲わせ――そして私 達はあなたを拾った。 ……あなたと、契約を結ぶためにね」 「契約……?」 「そう」 頷いて、彼女はユンナの瞳を覗き込んだ。 全てを見透かすような、黄金の瞳。 同時にそれは、彼女の本質を知らしめる瞳でもあったかもしれない。 「――!」 眼を合わせた瞬間、ユンナは自分の身体が自分の制御を離れ、びくり、と跳 ね上がるのを感じた。 ……それは、闇だった。 黄金色の闇。 そこに在るのは、虚無の深淵。 そして無限の力。 ……ちから。ユンナが欲していたもの。彼を救うために―― 「いい眼をしてる……」 息遣いすら感じられる距離で、少女が微笑む。 「誰かの為に、全てを捨てようとしている……愛欲に狂った眼だね……」 ――魔王。 ユンナはその単語を脳裏で反芻した。 この少女は、そうなのだろう。おそらくは、ハイドラントの言う通り。 そうでなくても構わない。ユンナにとって、もはや重要な事はただ一つだけ だった。 この少女には、力がある。自分が必要としている力を確かに有している。 「天使――いや、堕天使ユンナ」 上から降ってきた声に、ユンナははっと我に返った。 ふふっ、と笑い、日陰が身を離す。 ユンナはその時初めて、自分の負傷が何時の間にか癒されていることに気が 付いた。 「お前の望みを叶えるために、我々の力を貸してやる。代わりに、お前も我々 に力を貸せ……理想世界実現のために」 「…………」 陰々と響く、ハイドラントの声。 返答など決まっていた。 彼女の前の道は一つだったのだ。この時もまた。 「私の望みはひとつ」 躊躇いなく、ユンナは告げた。 胸中の想いを、そのままに。 それが受け入れられることを、確信していたから。 「天界の牢獄に捕らわれているウィルを助け出すこと。 そのためにあなた達の力を貸してくれるというのなら……私に出来ることは 何でもしましょう」 「……契約は為された……」 「……絶対なるロウの下に」 ハイドラントが、次いで日陰が、厳かな声で宣告した。 ――契約は為された。魔王と、自分との。 今、自分は堕ちたのだ。 それを自覚する。 その事実が重くなかったと言えば嘘になる。だが傷つきはしなかった。彼女 の神は、既に何処にもいなかったのだから。 「お前は我らの使徒となった」 そう告げるハイドラントの口調が、何かを孕んで僅かに変化していた。 親しみとは違う……が、そのような何かを。 「お前の身柄は我々が匿ってやる。助け出したら、ウィルとやらもな。 魔王の下にあれば、天界の者どもと言えど容易に手は出せん」 「ありがとう……それで、安全と引き換えに私は何をすればいいのかしら?」 「話が早いな」 にこりともしなかったが、ユンナの返答にハイドラントは確かに満足したよ うだった。 「表向きは、とある高校で教師をやってもらう。弥生さん――我々の仲間で、 その高校の美術教師をやっている女だが、彼女が面倒な手続きは済ませてくれ るだろう。 そしてその裏で、私の手足となって色々と働いてもらう事になる」 「高校?」 彼が弥生という名を口にした時、日陰があからさまに不愉快さを表して顔を しかめたのも気になったが、それ以上に、この二人にはいかにも不似合いな高 校という日常的な言葉が、ユンナに疑問の声を上げさせていた。 「高校だ。試立Leaf学園という」 「Leaf学園……」 「どんな所か、一言で言えば……そうだな」 にやり、と。 その時初めて、ハイドラントは笑みを見せた。 「……世界の中心、さ」 彼は囁いた。 冗談めかして。それでいてどこか真剣に。 ☆☆☆ その荒野に動くものの影がなくなって、程なく。 ゆっくりと、夜の翼が広がっていった。 惨劇の痕を、覆い隠そうとするかのように。 ☆☆☆ 「何よ……これ」 コリンの呟きに答える言葉もなく、芳晴は呆然と立ち尽くしていた。 既に辺りは暗くなり始めている。ここに来る途中の路地で、身長二メートル を優に超える学ラン姿の大男に訳も分からず足止めされ、それを突破するのに 少なからぬ時間を費やしてしまったからだ。 遠い山の後ろに隠れつつある夕陽が、最後の残光を地上に投げかけている。 薄闇の中にその光が朧に浮かび上がらせる、芳晴達の前に広がる光景は―― 「…………っ」 ぐらり、と、コリンの身体が傾いだ。 慌てて手を伸ばし、抱き止める。 抱えた身体に力がない。気を失っているようだった。 (……無理もないけどな) 芳晴は、辺りが暗かった事を神に感謝した。もし明るい光の下でこの光景を はっきりと見たら、コリンは気絶する程度では済まなかったろう。そしておそ らくは自分も。 ――有り体に言って、それは地獄と呼ぶべき光景だった。 地面を抉られ、醜くでこぼこな姿を晒している荒野の所々に、火柱が立って いる。ぽつん、ぽつんと、松明のように。 燃えているのは、翼のようなものを広げた黒い塊……おそらくは、天使。 あるものは腕を突き上げ、またあるものは足を投げ出し……ただ、皆一様に ねじれた格好で、炎の中にくずおれている。 ――数十ほども立ち並ぶそれを、どれ位の間眺めていたろうか。 「……あ……」 芳晴の目の前で、火柱のひとつが弾けた。 焼け焦げた天使が、無数の光の粒と化し……天へと昇ってゆく。 ひとつ、またひとつ。 火柱が弾け、光となってゆく。 我知らず十字を切り、芳晴は光の群れを見上げながら呟いていた。 「神々は死に絶え……天使は焼け落ちた、か…… 一体、ここで何があった……?」 彼の問いに答えられる者は、もうここには誰もいない。 ☆☆☆ 心地良い戦いの余韻に浸りながら、蛮次はおおむね満足していた。 強い相手と喧嘩をした後は、勝敗に関わりなく、この気分を楽しめる。これ こそ、彼にとって喧嘩に対する最高の報酬だった。 気に掛かることと言えば、結局彼らの突破を許してしまい、命令を全う出来 なかったことだが、導師はとうに目的を達しているだろうという確信はあった。 彼が何を為そうとしていたのかは知らないが、何事につけ迅速な男である事は 知っている。 愁うべきことは、何ひとつない。 この最高の気分に水を差すものは、何ひとつ。 ……強いて言えば。 そう、強いて言えばだが……動けないことくらいだろうか。 「導師……早く迎えに来てくれんかのぅ……」 大の字にぶっ倒れて全身から煙など立ち昇らせつつ、蛮次は暗くなり始めた 空に向かって呟いていた。 平坂蛮次。 ダーク十三使徒ダーク使徒団第七中隊長。 戦闘力の高さを誇る十三使徒内でも屈指の格闘能力を有する男である。 同時に、術や魔法の類の攻撃に対抗する手段を持たないという弱点を有する 男でもあった。 【そしてプロローグ】 かくして、天界を追われた堕天使ユンナはLeaf学園に身を置く事となる。 魔王の使徒として。 程なく、祓魔師城戸芳晴とその守護天使コリンも学園に現れる。 そして―― 「神は何故この俺をつくられたのか……」 ひとつの問い。 それが、口を突く。幾度となく繰り返してきたように。 答えが得られなかったから――ではない。神の答えはいつも明確に示されて いた。ただ、神ならぬ彼が答えの正しさを認めるには、時間が必要だったのだ。 今まで、この牢獄で過ごしてきた時間が。 「A−205! 喋るな、静かにしろ!」 鉄格子の外で看守が喚いていたが、彼は気に留めなかった。神につくられな がらその意味を考えようともしない愚者の言葉など、彼の心に届きはしない。 「欲求を持たせながら、それを満たすことを禁じ、絶望の苦痛に苛ませる為か。 それとも、俺が欲求のままにこの身を突き動かし、天を舞い、地を駆け巡る ことをお望みなのか」 「黙れ! 永久牢に送られたいか!?」 「答えは……」 衝動のままに、言葉を続ける。 その態度にかっときたのか、看守は立てかけていた棍を手にすると、鍵を取 り出して鉄格子を閉ざす錠に差し入れた。 「……示されている」 開いた格子を潜り抜け、足音も荒く近付いてきた看守が棍を振り上げるのと ―― 彼が、両手を封じる鎖を無造作に引き千切ったのとは、果たしてどちらが先 だったろうか。 確かなのは、看守が棍を振り下ろす事はなかったという事。 「……え?」 「神は、俺に欲望を封じる枷を嵌めようとはなさらない。 俺は自由。それこそが答え」 ひゅん、と。 指先を揃えた掌を一閃させる。 ……一呼吸。 石床の上に落下したそれが、重く鈍い音を響かせる。 悲鳴一つ上げることなく、首を失った看守は絶命していた。 立ち尽くす骸が、切断面から血を噴出させ、周囲に撒き散らす。 真紅の液体を浴びながら、彼は頤を反らし、天に顔を向けて、宣言した。 其処に坐す神へと。 「GAME・START」 殺戮者ウィル。 天界最悪の犯罪者は、ゆっくりと歩き始めた………… Lメモ私的外伝16「堕天」 END *********************************** てな次第で、ユンナは十三使徒で身請けしときます(笑) いやー、人間に魔族にそして天使と、揃うもんが揃ったって感じだ(笑) ちなみに学園では倫理教師ってことで。あと、あれば神学も。ふつー高校に 神学の講義はないと思うが、選択授業てことならアリかな。 ユンナをLメモで使うなら、ウィルも絶対に外したくないとこですが……ウ ィルが学園に現れる顛末については、ジンさんが書かれる模様。 その内容、触りだけ聞いたんですが、えれー面白そーです(笑) 皆、期待して待ちましょー。 城戸とコリン、折角なんでちょっとだけ出しときました。 この後、彼らがL学園に来る次第については……セリスさん、よろしゅー(笑) 新規参入の使徒、平坂蛮次君もこの際だから顔見せ。 まー、こんなもんなんじゃないでしょーか(笑) かっこいい出番もちゃんと考えてはいます。エギーユ・デラーズな氷上君と 組ませてアナベル・ガトーやらせよーかとか(笑) だから、頑張ってL書いてなー(笑) 今回、タイトルで少し悩みました。 何故か、「天使達の午後」だの「使徒新生」だの、挙句は「捨てる神あれば 拾う神あり」なんぞと、下らないものばっか思い付いたもんで。 感性が鈍りつつあるよーな。むう。 とまれ、更にメンバーが増えた十三使徒を今後ともよろしく(笑) ではではー。 おまけ。 十三使徒組織構成図第三版。 http://www3.alpha-net.ne.jp/users/kurogane/13angels.jpg