【前回までのあらすじ】 新たな生活を求め、アルバイトの面接に向かう魔江田凶治。彼はその途中、 一人の少女と運命的な出会いを果たす。 彼女の名は死乃森あしゅら。熱く惹かれ合う魂の炎をぶつけ合いながら面接 会場に辿り着いた彼らを、受付嬢の朗らかな声が迎えたのだった。 「「ダーク十三使徒へようこそ!!」」 Lメモ優駿編「Dark十三使徒へようこそ!!」 第二話「貴方は魔王を信じますか?」 「「……は?」」 またまたハモってぽかん、とする俺とあしゅら。 十三使徒? 確か、魔王を信仰してる武装宗教組織だったよな。 無論、そんなキチガイじみた集団の仲間になる気などはない。 「ち、ちょっと待った。悪いけど、どうやら場所を間違えたらしい」 「え? 何処とです?」 「いや、実はジャッジの新規隊員募集に応募するつもりで」 「あ、私も……」 隣からあしゅらが口を挟んでくる。 このリッパー女はともかく、俺のような心正しき若者にとって正義の学園自 警団ジャッジはまさに最高の職場。そこで新しい生活を始めようと思っていた のだが。 ……そう言えば、掲示板には色々なビラが無差別に貼ってあったっけ。その せいで、俺もあしゅらも見間違えたのかもしれない。 だが、小柄な受付嬢は俺達の言葉におかしそうに笑った。 「もー、冗談はよして下さいよー」 「いや、本気なんだが」 「またまた」 騙されませんよー、と手をぱたぱたさせる受付嬢。 笑顔のまま、彼女は続けた。 「その名前でジャッジに入れるわけないじゃないですか」 「十三使徒専用姓名という感じですね」 ぽそ、と隣で電柱装備の受付嬢も呟く。 巨大なお世話だ。 「いや、それはなんつうか。大宇宙的な陰謀のためで……おい、お前も何とか ――?」 助けを求めて横に眼をやり、俺はあしゅらの異常に気が付いた。 何やら一点を見詰めて硬直している。 その視線の先には……ポスターが一枚、貼ってあった。 (あー……十三使徒新規構成員募集要項? 資格――心身共に健全な人、性別 年齢不問、但しアフロ及びヒゲ及び薔薇はお断り。犯罪歴が有る方優遇。待遇 ――交通費支給、健康保険加入、時給2000円以上、三食支給…………) そこまで読んで――俺は仰天した。思わず『みょーん』と眼を飛び出させる 古式ゆかしい驚愕表現をしてしまうほどに、だ。 「時給2000円、三食支給!?」 「カンボジアの地雷撤去作業より高待遇なの!?」 こちらは片足で立ち残りの手足で大地と太陽を示すヨガのポーズっぽい、も しくは太極拳っぽく、いやむしろ要するに『シェー』の格好で驚きを露にして いるあしゅらの声。 つうかお前やったのか。カンボジアで地雷撤去。 「あのー」 そんな俺達に、何やら時計を気にしながら受付嬢が声をかけてきた。 「そろそろ時間なんですけど……応募されるんですよね? もしかしてそれも 冗談だったり?」 「いーえ」 俺はきっぱりと首を振る。 「かねてより十三使徒の高邁にして崇高な理念には強い共感を覚え、願わくば その末席に加えて頂けないものかと思っておりました。今回の募集はまさに意 中通り、こうして馳せ参じた次第であります」 あしゅらもきっぱりと言った。 「『13の王の元に集いて力となれ』――昨夜夢で受けた、祖霊の託宣です。 大いなる父祖の御魂が十三使徒を私の道として示すのならば、私は一命を賭し てそれに従うべくやって参りました。冗談などではありません」 「はあ……そ、そうですか」 すささ、と微妙に引きながら頷く受付嬢。 電柱セリオは指をえんがちょさせていたりする。どーいう意味だ。 「えーと、それじゃ、会場にご案内しますので……」 「こちらです」 ともあれそんなこんなで、俺は十三使徒新規募集に応募することになった。 二人の受付嬢――小柄な方は川越たける、電柱セリオの方はそのまんま電芹 というらしい――に案内されてやってきた試験会場には、結構な数の人間が参 集していた。 ちなみにここは、第二茶道部部室、というか部用屋敷内の庭園である。以前 から、どうして一部活動如きがこんな豪勢な邸宅を保有しているのか不思議で ならなかったが、実は悪の組織の本拠地だったのならそれも頷ける。まあ、仮 にも魔王だか破壊神だかを戴いている軍団が、四畳半一間のアパートを根城に していたりしたら、なんつうか色々と悲しいし。 もう時刻は夕方を回っている。周囲には既に闇が落ちているが、四方に焚か れた篝火のおかげで視界に不自由はなかった。 昼間でなくこんな時間に試験をするメリットというのも思いつかないが、ま、 それらしいと言えばそれらしい。 そんなことを、ぼんやりと考えていた時だった。何処からともなく、それが 聞こえてきたのは。 「……曲?」 だった。 躍動的なメロディに、低音を基調とした混声合唱が乗っている。 聞き覚えのない曲ではなかった。これは―― 「ダブルライトセーバー持った刺青男が出てきそーな曲だな……」 思わず呟く。 やがて急ごしらえの演壇の上に現われたのは、一人の男だった。 全身を黒衣で固めている。 容貌は、別段美しいとは言えない。だが、鋭い。顔だけではない、全身に、 その男は抜き身の刃のような鋭利さを備えていた。 そんな男が、夜の庭園の中、燃え盛る炎に照らされて、壇上にすっくと立っ ている。しかもダースモールのテーマをBGMに。 その光景は、完璧だった。余りにも完璧で、完璧過ぎて、それは、何と言う か、もう―― 「……馬鹿みたい」 横であしゅらがぼそりと呟いた。はっきり言うなよ。 そんな感想を抱かれているとは夢にも思っていないのだろう。男は自己陶酔 気味の笑みを浮かべつつ、俺達を見渡し、そして、 「エェェェェブリワァァァァァァァァン!!!」 叫んだ。 ゲイリー・オールドマンの物真似でないとすれば、俺達に対する歓迎の挨拶 だったのだろう。男は絶好調な様子で言葉を続けた。 「俺の名前を知ってるかっ!? そう、十三使徒の首長、プリースト・オブ・ ダークロード、ハイドラントさっ!! 今日の私は最高にハッピィだっ! 何故か? 何故か分からないかいっ? そりゃあ決まってる、君たちが来てくれたからさっ! 十三使徒の新人募集に、 こーんなにも沢山のベイビー達が集まってくれるなんて、私はもう盆と正月が いっぺんに来たような心持さっ! いわゆる盆正月! なに、そのまんま? ていうかそんな言葉は無い? そーか、そいつは一本取られたなHAHAHA HAHA!!!」 …………しーん………… 男――ハイドラントの笑い声だけが、静まり返った庭内に響き渡る。 きっかり十秒後、ぴたりと笑いを止めると、彼は後ろに控えていた少年―― 見るからにボーイズラブ系の美少年だった――にひそひそと話し掛けた。 「なあ、葛田……もしかして俺、外したか?」 「いいえ、そんなことはありません導師っ。この沈黙は、新人達の緊張をほぐ すべく敢えて気高き精神をレベルダウンさせてフレンドリーな挨拶をなさった 導師の、その慈悲深きお心に感激したあまり言葉が出なくなったゆえの沈黙な のです! そう、既に彼らの魂は導師の掌中と言って差し支えありません!!」 「そーかー……? なら、いいんだが……」 若干腑に落ちない様子だったが、ハイドラントは気を取り直した風で再びこ ちらに向き直った。 「あー、とにかく。諸君が応募してくれたことは大変喜ばしい。 諸君らのせっかくの熱意を無駄にはしたくないし、何より我らの神は信徒を 選びはしない。全員、新たな同胞として迎え入れよう」 「?」 その言葉に、俺だけでなく応募者全員が疑問の表情を浮かべた。 ……試験するんじゃなかったのか? 「但し」 彼は言葉を続けた。 「ダークの使徒として責務を果たすには、それなりの能力が必要とされる。 そこでまず、諸君がその能力を備えているかを試験によって調べ、不足あり と判断された者は適切な訓練を受けてもらうこととする」 ……なるほど。 しかしそれも面倒な話だ。サクっとクリアして時給2000円にありついて やるぜ。 「まずは、性格適性審査を行う。……神海、神凪」 ハイドラントがそう言うと、彼の後ろに控えていた一団の中から、二人の男 が歩み出てきた。 長身痩せ型の、見た目の印象がハイドラントに近い男は『○』、余り見かけ ない服装――貫頭衣というやつか?――を着た男は『×』と書かれたプラカー ドを頭上に掲げている。 ……○×クイズ? 「では第一問」 丸っきりウル○ラクイズの司会の様な口調で、ハイドラントは出題を始めた。 「私は偉い。マルかバツか」 ………… ……………… 俺は、十秒待った。 勿論、壇上の彼が「というのは冗談で、ではほんとの第一問」とやるのを待 っていたのだ。一応、儀礼的な笑い声を上げる準備もしていた。 彫像のように硬直して動かない他の被験者たちも同じだったろう。 だが、ハイドラントは、黙していた。 てめえら、早く動けよ。その表情はただ、そう語っていた。 ……本気のようだった。 (アホだ) 俺は確信した。こいつは、極め系のアホに違いない。 魔王教団なんてものを創る男は、流石に凡人とは隔絶している。 他の連中もその理解に達したのだろうか。ある者は困惑しながら、ある者は 後悔の表情を浮かべながら、取りあえず動き始めていた。 見たところ、多くは×の方に流れている。そのまま帰りそうな顔をしている 奴が大半だ。まあ当然だろう。上辺だけであっても、あの男を教祖様と崇めそ の下僕として働くというのは、時給2000円三食支給でも割に合わないかも しれない。 が――俺は、逆方向に歩いていた。 シックスセンスが告げていたのだ。×に行ったらヤバい、と。 そこにはとてつもなく嫌な運命が待ち受けている気がしてならない。 ○の側には、あしゅらの姿もあった。馬鹿とか言ってたくせに。 近づくと、何やら呟きが聞こえてくる。 「……見える。×の側に行く道に……鎖で封じられた地獄の門が……」 本格的にヤバいらしい。 結局、○と回答したのは全体の五分の一程度。残りは×だった。 ハイドラントが怒り出して暴れんじゃないかな、と思ったが、意外に彼は平 然としていた。ふんふん、と頷くと、背後に顔を向ける。 「ひーかーげー」 「はーい」 今度は少女が一人、とことこと歩み出てきた。 金色の瞳をしている。 少女――日陰?――を隣に招き寄せると、ハイドラントは×の側を顎でしゃ くった。 「あいつら不合格だ。『適切な訓練』を頼む」 「らじゃ」 ハイドラントの指示に、日陰は×の側の連中を見渡すと、にっこり笑う。 そして。 「洗脳ビィィィィィィィィィィィィィィィィィムッッッッッ!!!!!」 ………… 数ある学園組織中、最高レベルの結束を誇る十三使徒―― その秘密は、何というか、えらく強引で大雑把で反浪漫主義だった。 それから、幾つかの試験が行われ。 「――以上で、テストを終了する」 ハイドラントがそう告げた時には。 応募者の人数は、三分の一以下になっていた。 ハイドラントは不合格者も採用すると言っていたが、「えーと、体力テスト。 崖から転がり落ちて生きてたら合格な。多分エンドルフィンとかに目覚めれば 何とかなると思う」というようなテストに落第し、テストと一緒に人生にも落 第した奴らはどーにもなる訳がない。 ちなみに逃げ出そうとした者は、大鎌を持った少女と学ラン姿の大男に取り 押さえられて洗脳ビームだった。 「……しぶといわね、あんた」 「貴様もな」 あしゅらは生き残っていた。と言うか、最初に洗脳されなかった中で残った のは、俺達二人だけだ。 「なんか今となっては破格って気が全然しないけど、とにかくこれで時給20 00円なのね……」 「ああ……ここまで付き合わされた以上、金はしっかり貰わんとな」 ……んで、金が入ったら適当な所で見切りつけて逃げよう。 これは口には出さなかったが、あしゅらの表情を見れば、彼女も同じ気持ち でいることは疑問の余地がなかった。 この職場でがっちり稼ごうなどと考えていたら、命が幾つあっても足りない。 絶対に足りない。ステージ3−2でノコノコを無限キックして100UPして いても、瞬く間に使い切るだろう。 「では、契約書を配る。署名捺印して提出するように」 ハイドラントの言葉に続いて回ってきた書類に、俺は流し読みで目を通した。 ダーク十三使徒入信契約書。活動内容の説明、組織内規則、それに労働条件 の詳細―― 「……って、待てぇぇぇぇぇぇぇぇええええええええええええええ!!!!!」 俺は絶叫した。 その、一行を読んで。 「何よ? いきなり叫んだりして」 「馬鹿、お前そこ見ろ!」 訝しげな顔をするあしゅらに、書類の一個所を見せつける。 言われるままにその箇所を読んで――彼女は、絶句した。 「ん? どうした、何か問題があったか?」 「あるわぁぁぁぁぁあああああああ!!!!」 しゃーしゃーと尋ねてくるハイドラントに怒鳴り返す俺。 震える手で書類を突きつけ、その一行を指で示す。 「これは……これは何だっ!?」 「読んだままだが?」 「それでも聞きたい、いいから答えろ!」 「ふむ」 悪びれた様子もなく、ハイドラントはその部分を読み上げた。 「『時給2000円。内、1900円を寄付金として徴収』――これがどーか したか?」 「どーかしたか、じゃねえええ!!! どーかするに決まってんだらぁがああ ああああああああああああああああああっっっっっ!!!!!」 ばさっ、と書類を地面に叩き付け、思いっ切り踏みにじる。 書類が紙屑になるまで踏んだ後、俺は荒い息を抑えることなくハイドラント を見やった。 「……念のために確認しておくが、これはフレンドリージョークか?」 「いや。残念ながら」 「そうか……確かに、残念だな……」 ぎっ、と拳を固める。 俺の横で、あしゅらがゆらぁ、と動いた。 「本当に……残念ね……」 その両手の銃剣が、ぴた、とハイドラントの喉元に突きつけられる。 俺は奥義――南斗水鳥拳、飛翔白麗――の構えをとった。 「こうでもしないと、俺達の気持ちを伝えられんとはなぁ……」 「ふむ」 ハイドラントは小首を傾げた。 「……つまり、寄付金払うのが嫌だと?」 「そうだ……」 「時給2000円全額寄越せと?」 「そうよ……」 「なるほど」 頷く。 「良く、分かった」 「分かってくれたか?」 「ああ」 ハイドラントは、もう一度頷いた。 そして―― 「日陰」 「洗脳ビーム☆」 …………ああ。 さようなら、俺………… 「深淵なる闇に! 万物の母に!! 大神ダークに、栄光あれ!!!」 『栄光あれ!!!』 導師の声に、使徒達が唱和する。 勿論俺もだ。先輩達に負けまいと、必死に声を張り上げる。 俺の名は、魔江田凶治! この世の唯一の真実、ダークを崇める教団、ダーク十三使徒の新入りだっ! まだまだ未熟者だけど、救世主たる魔王と偉大なる導師の為に、命を賭けて 働くぜ!! 「ん? ……お前は確か、前回の募集で入った者だったな?」 「はっ! 肯定であります、導師!!」 うわああああ! 導師がこの俺ごときにお声をかけて下さるなんて! それ どころか俺のことを記憶して下さっていたとは! 今日は人生最良の日だ!! 「そうか。……ダークを信じ、頑張るのだぞ」 「ははあっ! 有り難きお言葉っ!!」 俺は感激のあまり、土下座して額を地面にこすりつけた。 「そんな……あんたなんかが、導師からお言葉を賜るなんて……!」 「ふふふ、羨ましいか」 隣から妬みの視線を送ってくるあしゅらに、優越感に満ちた笑いを返す。 「くっ、笑ってられるのは今のうちだけよ……私はきっとあんたより先に導師 から認められてみせるわ!! なんてことを考えると何故か必ずこめかみがズキズキ痛むのが少し気になる けど、それでも私は負けないからね!!」 「上等だあしゅら。俺も何故か十三使徒の活動をしている時は心の一部がシク シクと痛んだりするが、そんなことは気にしないで頑張るからなっ!!」 そうだ、俺はやるぜ! ダークの楽園創造を邪魔する異教徒ども、その肉の 最後の一片までも絶滅してやる! スゲェイカス神の王国のため! ガンバだ、俺っ!! 「ハーイル・ハイドラントォォォォォッッッ!!」 【次回予告】 苦難の末十三使徒入りを果たした魔江田凶治。 彼が配属されたのは、ダーク使徒団第七使徒中隊。 そこでは、十三使徒屈指の闘士が彼を待っていた! ハイド「紹介しよう。これからお前の直接の上司になる……ひ……ひら……」 ひら 「……どーしてあんたはワシの名前を覚えんのじゃい」 ハイド「いや覚えてるって。大黒屋権十郎」 大黒屋「全然違うわいっ! つうかひらはどーしたんじゃっ!?」 ハイド「悪い。ひらたいら三千点之介」 三千点「違うぅぅぅぅぅぅぅっっっ!!!」 次回、「誰が為に漢は哭く」 乞う、ご期待! 尚、次回のプロットも何もまだ決まってませんので、気長に待ってて下さい。 *********************************** ほーほけきょ。 と、前回とは一風変わった風情ある挨拶を試みてみましたがいかがなもので しょーか。俺は駄目だと思います。 という訳で、第二話。随分とサクサク書けました。さすがに肩の力を抜きま くって書いてるだけのことはあるかと。 その分、読んで面白いかどーかは普段の作品以上に疑問ですが。 このシリーズ、「何も考えず筆任せに書く」が執筆方針なので、続きは書き たくなったら書きます。書きたくならなけりゃ永遠に書かんでしょう。 もし、これの続きが読みたいなーという素敵な人がいましたら、ハイドラン トに「続き書け」と言ってつかーさい。それだけでも結構推進剤になったりし ますので。 それでやー。