Lメモ私的外伝2 投稿者:ハイドラント

「まずいことになったな・・・」
「零型、壱型の失敗に続き、弐型までが暴走とは・・・」
「・・・いや、そう悲観したものでもない。」
「どういうことだ?」
「今回の壱型は、精神制御システムこそ失敗したとはいえ、戦闘能力において
はほぼ完成を見たはずだ。ならば、ここでその性能を確かめておくのは悪くな
い・・・。」
「・・・・・なるほどな。そういうことか。」
「ならば、あの連中に相手をさせよう。」
「幸い、いま『チャイルドマン』は不在だ。」
「好都合、だな。ふふ・・・・。」


「塔」のもっとも暗い部分で交わされた会話。
  それが、始まりであった。




                        Lメモ私的外伝2




  懲りずにやってしまった・・・。しかも今度は過去編。
  過去編は久々野さんの登録商標、なんてことは・・・?
  まあいい、やってしまったものはしかたがない。
  では、毎度馬鹿馬鹿しいお話を一席、始めましょう!             




                 「Rune、その華麗なる姿」




「そうか、華麗なる姿か、わくわく・・・。」
「? どうしたの、Rune君?」
  長瀬教室。
  妙に嬉しそうにしているRuneに、葵は訝しげに声をかけた。
「いや、実はね。今日の僕は一味違うのだよ。」
「は?」
「あそこにあるタイトルが見えないかい? 今回は僕が大活躍する話なのさ。
  ふふふふふ・・・・」
「・・・??」
  葵は知らない。
  そしてRuneも知らない。
「あの男」の書くSSのタイトルに、意味など無いということを・・・・・。


(やってしまった・・・楽屋オチ・・・)


  ところ変わって、柏木教室。
  ここでは今、月に一度の定例行事が行われていた。
「覚悟しなさい、綾香!!」
「そっちこそ! 今日という今日は思い知らせてあげるわ、梓!!」
  つまり、姉妹喧嘩である。
「天魔の鬼女」梓。
「死の速攻」綾香。
  強大な破壊力を持つ二人が喧嘩する理由は色々だ。
  事例その一。
  ある日、久々野が貰ってきたケーキを綾香が切り分けた。それを見て、梓は
大きさが不揃いだと言った。
  数十秒後、それはなぜか胸の大きさの話になっていた。数分後、起爆。
  この日、塔の四分の一が崩壊。
  久々野とハイドラントが泣きながら後始末をしているとき、姉妹は何事も無
かったかのように仲良く夕食を食べていた。
  事例その二。
  ある日、二人は中庭で一緒に昼寝していた。
  そして起きると同時に戦闘を開始した。
  現場を目撃したハイドラントによると、寝返りを打った梓が綾香の腹にエル
ボーを入れ、それを寝ながら受け止めた綾香がカウンターを放ったのが始まり
だったらしい。
  この日、グラウンドの半分がクレーターと化した。
  久々野とハイドラントが「人生って何?」とか思いながら後始末をしている
とき、二人は教室で寝直していた。
「今日の喧嘩の原因は、何だったかな・・・」
  崩壊していく教室を眺めつつ、久々野はぼんやりと呟いた。
「まあいいか・・・。茶でも飲もう・・・。」
  現実から逃避している彼の前には、現実に立ち向かおうとして敗れ去ったハ
イドラントの骸が転がっていた。
(哀れな・・・俺・・・。)


  この日、塔の三分の一が灰塵と化した。


「魔術兵器の制圧?」
  久々野とハイドラントの話を聞き、梓は素っ頓狂な声を上げた。
  あの後。
  自分たちが今まで何をしていたかなど、全く覚えてませんという感じで仲良
く話をしている姉妹を尻目に、久々野がハイドラントを治癒魔術で治し(当然
彼は久々野を怨んだ)、二人で後始末を始めようとしたとき、突然執行部に呼
び出され・・・・。
  そして、校舎の修復の代わりに、任務を一つ遂行する事を命じられたのであっ
た。
「実験中の事故によって暴走し、いずこかへ潜伏した人型魔術兵器の制圧」と
いうのがその内容である。
「そもそも何なの、その人型魔術兵器って。」
「さあ。詳しくは聞いてないけど、昔の誰かが造ったものらしいよ。」
  綾香の問いに、久々野は憂鬱そうに答えた。
「はあ・・・。そんなもんと戦うくらいなら、校舎の修理してた方がましだっ
たのに・・・。」
  こちらも憂鬱そうに呟くハイドラント。  
「そうだなあ・・・。少なくとも命の危険はないしなあ・・・。」
「でも、執行部の命令には逆らえないからなあ・・・。」
「先生もいないってのになあ・・・。」
「なんでこんなことになったんだろうなあ・・・。」
  久々野とハイドラントは交互に呟き、「はあ・・」と溜息をついた。
「あーっ! 鬱陶しい!!」
  梓がばん! と机を叩いた。
「男がいつまでもぐちぐち言ってるんじゃないっ!!」
「そうそう。私たちも手伝ってあげるから、しゃんとしなさい。」
  笑って言う綾香。
  その二人を・・・久々野は梓を、ハイドラントは綾香を・・・眺めつつ、彼
らは思っていた。
(人生って・・・何だろう?)


  暗闇の中に、「それ」はうずくまっていた。
(ココハ・・・ドコダ・・・)
  人間、のようであった。
(オレハ・・・ダレダ・・・)
  だが、何かが違う。
(オレハ・・・ナニヲ・・)
  それは、なにか・・・どこかが、人間と違っていた。
(ワカラナイ・・・ナニモ、ワカラナイ・・・)
「それ」はゆっくりと瞼を開いた。
(ナラバ・・・)
  ガラスのような瞳が、闇の中に光る。
(ナニモカモ・・コワシテシマエ・・・)
  そして。
「それ」は動き出した。


「ハイド! 急いで!」
「分かってる!」
  その夜。
  綾香とハイドラントは、街の裏路地を疾走していた。
  あれから数日間、柏木教室の四人は手分けして街の中を捜索した。
  最近頻発している猟奇殺人事件の現場を中心に調べていたのだが、何も手が
かりを発見する事が出来ず、いい加減疲労も溜まりはじめていたとき。
  久々野と梓が、遂に目標と接触したのである。
  携帯電話で連絡を受け、綾香とハイドラントはすぐに現場に向けて走った。
  幸い、さほど遠くはない。
  梓たちには、二人が駆けつけるまでは防御に徹するように言ったが、その時
にはもう戦闘状態に入っていたらしく、声が届いたかどうかは分からない。
(間に合って・・・!)
  声に出さず、綾香が呟いた。
  二つの影が、月の下を駆け抜ける。


  ドガアアアアアアッ!!
  久々野の放った魔術が、「それ」を直撃した。
「それ」の姿が土煙の中に消える。
「やったか・・・」
  彼が呟く。
  その横で、梓もじっと「それ」のいた辺りを見つめている。
  だが、やがて煙が晴れたとき。
「!!」
「馬鹿な!!」
  そこには、傷一つ見当たらない「それ」の姿があった。
「それ」は二人をすっと見据える。
  そのガラスのような瞳が、ぎらりと輝いた。


「!」
  綾香とハイドラントがそこに駆けつけたとき。
  久々野が吹き飛んだのは、それと同時であった。
「彰!!」
  梓の叫び。
  彼女は無事だ。どうやら、今のは久々野が彼女をかばったらしい。
「てめえぇぇぇぇっ!!」
  キレた梓が、その拳に魔力を集中させ、「それ」に突撃する。
「梓、待って!」
  綾香の声・・・そして一瞬後。
「それ」は右手を梓に向けて突き出した。
  そこから走った何かが、梓を弾き飛ばす。
「梓!!」
  綾香は慌てて駆け寄った。
  梓も久々野も、どうやら命は無事らしい。
  ほっと息をついた綾香の耳に、ハイドラントの呟きが聞こえた。
「なんだ・・・ありゃ・・・?」
  月明かりに、「それ」の姿が映し出されている。
  一応、人の形をしていた。
  だが、人間であれば、右手の手首の先が無数の触手になっていたりはしない
だろう。
  脇腹から三本目の腕が生えていたりもしないはずだ。
  そして、その第三の腕がゆっくりと綾香たちの方を向き・・・。
「!」
  そこから、青いエネルギーが放たれた。
「楯よ!!」
「タマンカマの玉よ!!」
  二人はとっさに防御魔術を展開した。
  青い風が、光の壁にぶつかり、消える。
「ちっ・・・なんて威力だ!」
  それでも僅かにダメージを受けた事に舌打ちしつつ、ハイドラントは攻撃魔
術の構成を編み上げた。
「プアヌークの邪剣よ!!」
  光熱波が飛び、「それ」に直撃する。
  だが。
「!!」 
「全然効いてない!?」
  ハイドラントが硬直し、綾香は驚愕の叫びをあげた。
  無理もない。ハイドラントの魔術は、洗練度や柔軟性、応用性といった点で
は久々野たちに劣るものの、単に威力だけなら教室でも最強なのである。
  それが、目標には全く通じないのだ。
「稲妻よ!!」
  彼に替わり、今度は綾香が攻撃する。
  しかしその電撃も、「それ」の体に傷一つつける事はなかった。
「魔術が通じないって事!?」
「・・・ならばっ!!」
  ハイドラントは、突然奇妙な呼吸を始めた。
「スゥゥゥゥ・・・ハァァァァ・・・」
  以前、街で出会った謎の老人に教わった、「横暴な女たちに強くなれるおま
じない」。
  SS気功闘法、又の名を「神威のSS」。
  実戦で使うのは、実はこれが初めてであった。
「俺の拳が黒く輝く! ダークに染めろと轟き叫ぶ!!」
  ハイドラントの拳に、黒いエネルギーが収束する。
「食らえ!!『ダークの牙』!!!」
  彼はその拳を、天に向かって突き上げた。
  瞬間。
  ゴウッ!!
「それ」の足元から黒い炎が吹き上がり、弾き飛ばした。
「グガアッ!?」
  初めて悲鳴を上げる、「それ」。
「はーっはっは!! ざまーみやがれ!!」
  浮かれて小躍りしているハイドラントを尻目に、綾香は冷静に戦況を分析し
ていた。
(確かに、今の攻撃は奴にダメージを与えてはいる・・・。でも、致命傷には
程遠い。どう考えても、ハイドラントが奴を倒すより、向こうがこっちを仕留
める方が早いわね。
  なら・・・)
「ハイド! しばらく奴を足止めして!」
「任せろ! こんな奴、俺一人で充分!!」
  綾香の声に、ハイドラントは調子に乗った叫びを返す。
(ほんと、馬鹿・・・。何も分かってないんだから、あいつは・・・。)
  苦笑する綾香。
(あんな馬鹿を、馬鹿のまま死なせるわけにもいかないわね・・・。
  やるしかないか!)
  覚悟を決めた綾香は、「その呪文」を唱えはじめた。
「偽善の王の一片よ・・・」
  美しい旋律が、彼女の口から流れ出す。
「空の戒め解き放たれし・・・凍れる黒きレザムの刃よ・・・」
  偽善の王。
  ロード・オブ・ヒポクリジィの力を借りる呪文。
  これほど強大な魔術を行使するのは、綾香は初めてであった。
「我が力、我が身となりて、共に滅びの道を歩まん・・・」
(くっ・・・)
  呪文を一言唱える都度、体から力が失われていく。
  必死で詠唱を続ける綾香の目に、彼らの姿が写る。
  倒れた久々野と梓。
  そしてやはり窮地に追い込まれているハイドラント。
(みんな・・・死なせはしない!!)
「エルクゥの魂さえも打ち砕き・・・」
  詠唱が終わる。
  そして綾香は、「力ある言葉」を叫んだ。
「チヅル・ブレード!!」
  その時。
  彼女の手の中に、闇の剣が出現した。
「くっ・・・」
  綾香がよろめく。
  一秒毎に、生命力が削られていくような感覚がある。
(長くは、もたない・・・)
「・・・ぁあああああああっ!!」
  闇の剣を手に突進する綾香。
  ハイドラントと・・・そして今まさに彼に止めを刺そうとしていた「それ」
が彼女を見る。
「ガアアアアアアッ!!」
「それ」が綾香に向けて青いエネルギー波を放った。
「綾香!!!」
  ハイドラントが叫ぶ。
「うああああああああっ!!!」
  綾香が剣を振り下ろした。
  黒と蒼のエネルギーがぶつかり・・・そして、弾けた。


「・・・と、いうわけです。」
  綾香と梓の報告を聞き終え、その男はゆっくりとうなずいた。
  柏木賢治。
「塔」最強の男。
  彼は今まで用事で外に出ており、立った今・・・つまり事件終了と同時に戻っ
てきたのだ。
「でも、ほんとに目茶苦茶な強さでした、あの魔術兵器。
  私たちの攻撃が全然通用しないんですから。
  綾香があの禁呪を使うのに失敗していたら、きっと全滅してましたよ。」
  そういう梓の体は、つい先刻までの戦いの激しさを物語るように、包帯まみ
れだった。
「一体何考えてあんなもの作ったんだか。昔の人の考えることって分からない
わね。」
  綾香の方は外傷こそないものの、体力の消耗は激しいようだ。
「・・・あれは、古代の魔術兵器などではない・・・。」
  二人の言葉を聞きつつ・・・柏木教師は、誰にともなく呟いた。
「え?」
「どういうことです?」
  梓と綾香が聞き返す。
  だがそれには答えず・・・柏木教師は、思い出したように尋ねた。
「そう言えば・・・久々野とハイドラントはどうしたんだ?」


「なあ・・・ハイドラント・・・」
「なんだよ・・・」
「人生って・・・何かな?」
「・・・・・・・・・・・」
  瓦礫の中に埋もれつつ、二人はいつまでも月を眺めていた。


「弐型の回収に成功したぞ・・・」
「状態はどうだ?」
「信じ難い話だが、まだ生きている。さすがに損傷が激しいが・・・」
「あの呪文を受けて、生きているとはな・・・」
「予想以上の成果、と言っていいのではないかな。」
「よし・・・。ではこれを修復し、さらに改良を加えるとしよう。」
「強化人間弐型『紫音』・・・完成のときは近いな・・・。」


                               Lメモ私的外伝2「月下の獣」  END


  追記

「ちょっと待て! サブタイトルが違うじゃないかっ!!」
「る、Rune君、落ち着いて・・・」
「僕の華麗な活躍はどうなったーーーーー!!」