Lメモ私的外伝3「月下の獣、再び」後編 投稿者:ハイドラント

(ハイド・・・・・)
  呼んでいる。
(ハイドってば・・・・・)
  誰かが、俺を呼んでいる。
(ああ・・綾香か・・・・)
  俺は手を伸ばした。
  そっと、彼女に触れる。
(ふふ・・・ねえ、ハイド・・・)
  誘うような声。
  その声に引かれ、俺は彼女の顔を見上げた。
  そこには・・・
(私のこと、好き?)
  髭面、馬面、ごつい面。
  セバスチャンの顔が、そこにあった。


「どああああああああああああああああああああああああああああっ!!!」
  叫びつつ飛び起きたハイドラントは、手近にあった何かに渾身のコークスク
リューブローを見舞っていた。
「うぐぉおおっ!?」
  吹き飛ぶそれには目もくれず、ハイドラントはひざを抱えて顔を埋めた。
「うっ・・ううっ・・・うう・・・・」
  泣いている。
  心に残る痕は、今も彼の心を苛んでいるのだ。
  どこかの川の岸辺。
  さわやかな朝日も、心地よいせせらぎも、彼の心には届かない。
「・・・ふっ。その体勢からあれほど強力なパンチを繰り出すとは。
  ブライアン・ホークもびっくりだ・・・。」
「・・・ん?」
  その声に、ハイドラントは初めてそちらに目を向けた。
  そこには。
「久しぶりだな、ハイドラント・・・。」
  獅子のマスクをかぶり、黒服に身を包んだ巨漢の男がいた。
  ハイドラントが呟く。
「・・・ライオン丸?」
「違う!!」
  獅子男がわめいた。
「じゃあ、おはようからおやすみまで暮らしを見つめる・・・」
「違うっ!! ちなみに某球団のマスコットでもない!!」
「では第六界層の魔神、ヘルライガー!?」
「分かりにくいギャグはやめろ!!」
「獅子王!!」
「だから分からんギャグはよせ!! 本編ですら知ってる人が少ないのに、『幻
王朝影帝編』なんぞ誰が知っとるかぁっ!!」
「シールドライガー!!」
「何故そうなる!?」
「サーベルタイガーに対抗してシールドライガーってのは、幾らなんでも安直
過ぎだろ、って子供心に思ったっけ・・・。」
「えーい、人の話を聞け!!!」
  どががっ!!!
  獅子男の拳がハイドラントを吹っ飛ばす。
  だが殴られたハイドラントは、はっとした表情になった。
「こ、この拳は・・・!」
「ようやく思い出したようだな・・・。」
  獅子男が、ばさりとマントを翻した。
「その通り!! 私は、お前にSS気功闘法・神威のSSを伝授した男・・・。
  ライガージョーだ!!!」
「・・・って、ちょっと待て。」
  ハイドラントが、半眼で突っ込んだ。
「確か私的外伝2で、俺に神威のSSを教えたのは『謎の老人』て・・・」
  ガシャン!!
(暗転)


(しばらくお待ち下さい)


「・・・ライガージョーだ!!」
「おお! 確かにあなたは我が師匠!!」
  ハイドラントは感激した。
  神威のSSの師弟・・・。感動の再会であった。
「・・・あれ? 今何か、不自然な感じが・・・」
「そーだハイドラント! 私はお前の師匠だったら師匠なんだ!! とゆーわけ
でお前に奥義を伝授してやろう!!」
  訝しげなハイドラントの呟きを遮って、ライガージョーが叫んだ。
「先ほどの戦い、見せてもらった。今のお前は、より強力な力を必要としてい
るのではないか!?」
(・・・戦い?)
  ハイドラントは胸中で呟き・・・そして思い出した。
「そうだ、俺は確か川に落ちて、それで・・・」
「死にかけていたお前を、私が助けたのだ。
  ・・・その腕は、助けようがなかったがな・・・。」
「・・・腕?」
  言われて、ハイドラントは気付いた。
  左腕の感覚が、どこかおかしい。
  恐る恐る、そこを見てみる。
「・・・・・ない・・・。」
  そう。
  ハイドラントの左腕は、肘から下がすっぱりと無くなっていた。
  あの爆発の時、紫音の衝撃波を受けたのだ。
  傷口には包帯が巻かれている。
(これでは奴を・・・Runeを倒す事は・・・・)
「・・・ライガージョー!!」
  ハイドラントは、拳を握り締めて叫んだ。
「俺に奥義を教えてくれ! 頼む!!」
「・・・ふっ。いいだろう。」
  ライガージョーが小さく笑う。
「だが、条件がある。」
「・・・それは?」
  ハイドラントが慎重に尋ねた。
「SS気功闘法には、宿敵と言うべき存在がある・・・。
  その名も、SS不敗流。」
「SS・・・不敗流?」
「そう。現宗家は、西山英志と言う男だ。彼はLeaf学園という所にいる。
  条件とは、こうだ。
  お前はこの事件が片付いたら、Leaf学園に入学し、SS不敗流と戦え。
  そしてあわよくば、不敗流の技を奪い、SS気功闘法のものとするのだ。
  よいな、ハイドラント!!」
「・・・分かった。」
  ハイドラントは肯いた。
「どうせ、卒業した後どうするというあても無かったしな。
  ・・・行こう。Leaf学園へ。」
「よし!」
  ライガージョーが満足げに肯く。
「では、奥義を伝授してやろう。
  まずは基礎からだ! ハイドラント、SSの本質とは何か!?」
「SSの本質、それ即ちダークにあり!!」
「然り!!
  この世が闇から生まれたように、SSもまた闇から生まれた!!
  では、ダークにあらざるSSを、何と見る!?」
「らぶらぶ、ギャグ、パロ、薔薇・・・。
  それらは全て、装飾に過ぎず!!
  装飾を剥ぎ取れば、後にはダークが残るのみ!!」
「然り!!
  そして真理たるダークを極める道こそ、我らがSS気功闘法!!
  その名も・・・」
『神威のSS!!!!』
  ライガージョーとハイドラントが揃って吠えた。


  そしてまた、夜。
  月明かりの下、Runeは暗い森の中を慎重に進んでいた。
(もう、一日経つのか・・・)
  ハイドラントが川の中に消え、そしてやはり重傷を負った紫音が逃走してか
ら。
  Runeはあれからずっと、紫音を追跡していた。
  体力の限界が近い。だがRuneは休むつもりはなかった。
  こちらが休めば、追跡を察知しているであろう紫音も休むだろう。そして傷
を癒し、再び襲ってくるに違いない。そうなればRuneに勝ち目はなかった。
  Runeが紫音を倒すには、奴が負傷しているうちに捕捉するしかない。
(しかし・・・)
  音を立てずに歩きつつ、Runeは思う。
(あの『紫音』とは、一体何者なんだ・・・?)
  執行部からは、魔術武器を盗んで逃げた愚か者と聞いている。
  だが・・・
(おそらく・・・違うな。)
  Runeの勘はそれを否定していた。
  じゃあ何だ、と聞かれても困る。
  だがあの男は、ただの馬鹿には見えない。
(「塔」を敵に回せばどうなるか、そんなことは子供でも知っている・・・。
  あの男には、何か深い事情があるんだ・・・。)
「!」
  いつの間にか、物思いに耽っていたらしい。
  それでも、彼の鍛えられた勘は寸前で発動した。
  頭の中で鳴り響いた危険信号に従い、さっとその場を飛びのくRune。
「シャアアアアアアアアッ!!」
  気合の声が響き、一瞬前まで彼がいた地面を青い衝撃波が打ち砕く。
  Runeは、再び彼の姿を見た。
  三本腕の男、紫音を。
  その腹には、ハイドラントの技によってつけられた傷が深々と走っている。
  彼の口が、言葉を紡いだ。
「お前を殺せば・・・俺は自由になれる・・・!」
  執念に満ちた声。
  Runeは内心で呟いた。
(やっぱり・・・こいつは・・・)
「死ねぇぇぇぇっ!!」
  触手と剣を閃かせ、突進する紫音。
  その動きに、以前ほどの鋭さはない。
  攻撃を躱しつつ、Runeは魔術の構成を編み上げた。
「我は呼ぶ炸裂の姉妹!!」
「ぐっ!!」
  至近距離での衝撃に、紫音の体がよろめく。
  だがそれでも彼は倒れない。
「らあああああああああああっ!!」
  叫びつつ、紫音は衝撃波を放った。
「我は放つあかりの白刃!!」
  Runeが光熱波の魔術でそれを迎え撃つ。
  二つのエネルギーがぶつかり、爆裂する。
  爆風が収まる前に、紫音は第二波のエネルギーを集束させ始めた。
「・・!」
  それを見て、Runeは一瞬で決断した。
「我は踊る・・・」
(転移魔術か!)
  紫音は勝利を確信した。
  この魔術は、そう長い距離を飛べるわけではない。
  横か、それとも上か・・・いずれにしろ、全方位衝撃波を使えば勝てる。
「・・鬼の楼閣!!」
  Runeの姿が、一瞬消える。
(貰った!!)
  胸の内で叫んだ紫音が衝撃波を放とうとした時・・・
「!!!」
  Runeが現れた。
  紫音の目前に。
「な・・・」
  硬直する紫音。
  そして、Runeが最後の魔術を編み上げる。
「我掲げるは降魔の拳!!!」
  魔力を帯びた拳が、紫音の腹の傷口に叩き込まれた。


「死んで・・・たまるか・・・・」
  致命傷になってもおかしくない程のダメージを受けながら、なおも立ち上が
ろうとあがく彼を、Runeは黙って見下ろしていた。
  紫音は、手を、足を、痙攣するように震わせながら、必死に立とうとしてい
る。
「自分が・・・誰だかも分からないまま・・・死ねるか・・!」
「・・・やはり、お前はただの泥棒なんかじゃないんだな・・・。」
  Runeが呟く。
  一つ、溜息をつき・・・彼は尋ねた。
「紫音、と言ったな。お前は何者だ?」
「・・・それを知って、どうする?」
  紫音が、怨嗟を込めた声で問い返す。
  Runeは答えた。
「事情次第では、助けてやってもいい。」
「・・・本当か?」
  紫音が顔を上げた。
「事情次第だ。」
「・・・・・・・・・・・・・」
  彼はしばし沈黙した。
  だがやがて、ゆっくりと口を開く。
「分かった・・・全て話す・・・。」
  Runeは黙って、彼の声に耳を傾けた。
  紫音が静かに話し始める。
「俺は・・・・」
  −−−その時。


「ダーク雷神槍!!!!」
  裂帛の気合が、森の静寂を引き裂き・・・。
  そして飛来した黒い電光が、紫音の体を一瞬で焼き尽くした。


「ハイドラント・・・!」
  ゆっくりと歩み寄ってくる彼の姿を見て、Runeがうめくように言った。
  ハイドラントがにやりと笑う。
「意外そうな顔をするなよ。まさか俺が死んだと思っていた訳じゃあるまい?」
「・・・死んでくれていれば良かったと、今は思ってるよ。」
「そいつは残念だったな。」
  言ってケラケラと笑うハイドラントに、Runeは押し殺した怒りを込めて
尋ねた。
「・・・何故殺した?」
「理由の一つは、左腕の礼さ。」
  そう言って、ハイドラントは左腕を掲げて見せた。
  肘から先が無くなっている。
(あの時になくしたのか・・・)
「それともう一つは、お前に借りを返すためだ。
  なんでも、俺のために減刑嘆願をしてくれたそうじゃないか。」
「・・・どういう意味だ。あの男を殺す事が、何故借りを返す事になる?」
  眉根を寄せて尋ねたRuneに、彼は肩を竦めて答えた。
「これは俺の勘だけどな。
  奴の正体を聞いていたら、お前は執行部と戦う羽目になっていただろうよ。」
(つまり・・・紫音の正体は、塔の重要機密という訳か・・・)
  そうかもしれない、とRuneは内心で首肯した。
  とすれば、Runeがその秘密を知った場合、執行部が彼を野放しにしてお
く筈が無かった。
  ・・・だからと言って、ハイドラントに感謝する気にはなれなかったが。
  ハイドラントもそんなものは期待していない。
  彼は呟くように言った。
「これで、任務は完了した。お前に借りも返した。
  ・・・ならば、やり残した事はあと一つだ。」
  ハイドラントの視線が、Runeを射抜く。
  Runeは黙ってそれを見返した。
「あの時の事を覚えているだろう、Rune・・・」
「ああ。」
  彼の言葉に、Runeはそっけなく頷く。
  ハイドラントはそっと手を胸にやりながら、低い声で言った。
「俺の心の傷の事を考えた事があるか? お前は。」
「・・・さあな」
  憮然とした返答に、ハイドラントの表情が、ほんの刹那だけ、怒りにひきつ
るのが窺えた。が、それもすぐに消えると、平静な顔に戻る。
「俺はあれからずっと、毎日毎日、あの悪夢に苛まれてきたんだよ。」
「そいつぁ悪かったな。」
  言いながらRuneは、腰のベルトに手をやった。縫い付けてある鞘から、
短剣を抜く。
  月明かりの中で、冷たい刃は輝きもしなかった。
  刃先を見つめながら、小さく呟く。
「・・・だが、お前が道を誤ったからだろ。」
  が、ハイドラントは無視して続けた。
「俺はもう、『塔』の事なんざどうでもいい・・・どうでもいいんだ!
  お前に受けた屈辱を晴らす事さえ出来ればな!!」
  血を吐くような叫びが、木々を震わせる。
  それが消える前に、ハイドラントはRuneに向けて駆け出していた。
(馬鹿野郎・・・)
  その姿を睨みつつ、Runeが静かに魔術の構成を編み上げる。


(俺は・・・死んだのか・・・・)
  かつて「紫音」と呼ばれていた者の魂が、空間を漂っている。
  ・・・いや。漂っているのではない。
(どこかに・・・引き寄せられている・・?)
  そう。
  彼の霊体は、大気に溶け込んでしまう事もなく、形を保ったままいずこかに
引き寄せられていた。
  ・・・どれほどの時間が流れたのか。
  霊体となっている紫音には、よく分からなかったが。
  彼の魂は、一人の少年の元へ辿り着いた。
(こいつに引き寄せられていたのか・・・?)
  そして、紫音の霊体が少年と重なり・・・・・
  彼らは、出会った。


  少年の名は結城光。
  何故、紫音の魂が彼に引かれたのか。
  やがてLeaf学園に入学する事になる彼らは、そこでどんな事件を引き起
こす事になるのか。
  ・・・それは、また別の話である。


(とゆーわけで、結城さん後はよろしく〜(笑))


「我は放つあかりの白刃!!」
「プアヌークの邪剣よ!!」
  二人の魔術が激突し、辺りに熱波を撒き散らす。
  それからサイドステップで逃れ、Runeは次の魔術を放った。
「我は呼ぶ炸裂の姉妹!!」
「タマンカマの玉よ!!」
  磁場障壁でそれを受け流しつつ、ハイドラントはRuneの懐に飛び込んだ。
  ヒュン!!
  風切り音と共に、彼のかかとがRuneの頭上を襲う。
  彼は身をのけぞらせてそれを躱しつつ、ナイフを横薙ぎに振った。
  飛びのいて刃先を外すハイドラント。
  そして着地した瞬間、溜めていた力を解き放つ。
「ダークの牙!!!」
「我は紡ぐ光輪の壁!」
  咄嗟にRuneは障壁を張る。
  だが、足元から吹き上がった黒い炎は、障壁を容易く突き抜け、Runeを
弾き飛ばした。
「ぐっ・・・!」
  背中から地面に叩き付けられ、彼は一瞬呼吸が止まった。
  あえぎつつ立ち上がるRuneを、ハイドラントは冷ややかに見下ろした。
「見たか、Rune・・・。
  これが、SS気功闘法・神威のSSの力だ・・・!」
(ハイドラント・・・)
  彼の脳裏に、ライガージョーが別れ際に告げた言葉が思い浮かぶ。
(ダークは真理。
  だが、ダークの本質は他者に対する憎しみにあらず。
  神威のSSを極めたいのなら、お前の心の中の憎しみを捨てるのだ・・・)
(それは無理だ、ライガージョー・・・。)
  胸中で、彼は師匠に告げた。
(今の俺は、Runeに復讐するためだけにここにいるのだからな・・・)
「・・・神威のSSの力、ねえ。
  要するに、お前の力じゃないのか?」
  減らず口を叩きつつも、Runeは自分の不利を認めていた。
  神威のSSとかいう妙な力のこともあるが、それ以上に体力的な差が大きい。
  Runeは、もうかれこれ丸一日以上、休み無しで行動している。既に体力
の限界を超えていた。
  一方ハイドラントも、左腕を失ったのだから万全の体調である筈が無いが、
それでも休んだ分だけRuneよりはましである。
  それに、魔術を中心にして戦う彼らにとって、隻腕というのもさほどの不利
とはなり得ない。
  となると・・・
(もう、この技は使うまいと思っていたが・・・)
「ハイドラント・・・」
  Runeは、彼を静かに見据えた。
「お前の心・・・もう一度砕かせてもらう!」
「・・・やってみるがいい。」
  不敵に答えると、ハイドラントは特殊な呼吸を始めた。
「Fuuuuuuuuuu・・・Haaaaaaaaaaa・・・・」
  彼の体に、力が漲っていく。
  それを見ながら、Runeはあの魔術の構成を編み上げていた。
  ・・・Runeの方が早い。
「悪く思うな・・・・」
  彼は魔術を解き放った。
「我導くは夢呼ぶセバス!!」
「!!」
  その瞬間、ハイドラントの心に何かが侵入した。
  彼の体が、がくりとよろめき・・・


「ねえ、ハイド・・・」
  奴が、俺の前に現れる。
  ご丁寧に綾香と同じ制服まで着ている、奴。
  アルルさんの表現を借りて言うなら、「セバスチャン(綾香属性)」という
ところか。
  奴は、制服に手をかけながら、言った。
「私の全て・・・見せてあ・げ・る!」
  そして・・・・


  ・・・倒れることなく、踏み留まった。
「何!?」
「それぐぁ、どうしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
  絶叫しながら、ハイドラントが力を開放する。
  黒いエネルギーの奔流が、Runeに直撃した。
「がはぁぁぁぁぁっ!!」
  全身がばらばらになったような衝撃。
  木々の枝をへし折りつつ吹き飛び、地に転がる。
「・・・!」
  苦痛に耐えて立ち上がろうとして・・・Runeは動けなかった。
  体が衝撃でマヒしている。
  ハイドラントが荒い息をつきつつ、彼に告げた。
「言った・・・筈だ・・・。
  俺は、あれから毎日・・・悪夢に苛まれてきたと・・・・。
  今のような幻影は・・・もう何度も、何度も、見てるんだよ!!」
  凄絶な笑みを浮かべる。
「くっ・・・」
  Runeはうめいた。
(まさか・・・あの魔術が通じないとは・・・!)
「今度は俺の勝ちだ、Rune!!」
  ハイドラントは歓喜の叫びを上げると、再び力を集め始める。
  空気が帯電し、彼の周りで弾けた。
(どうする・・・Rune・・・!)
  死神の手を目前にしつつ、Runeは必死で考えを巡らしていた。
(奴に、もう悪夢は通じない・・・。
  だが、何か手はあるはずだ・・・先生なら、どんな手を・・・)
  先生。
「塔」で最も偉大な者、柏木賢志教師。
(そうだ・・・先生の言葉・・・。
  確か、こんなことを言っていた・・・。)
  彼は、魔術の構成を編み始めた。
「セバスの後継」Runeが、柏木教師から受け継いだ技の一つ。
「最後のあがきか。見苦しいことを・・・」
  それを見て、ハイドラントが軽蔑したように言う。
  だがRuneは構わず、構成を完成させた。
「いいだろう。これで最後だ、どんな悪夢でも見せてみるがいい!!」
  叫んだハイドラントに、Runeはふ・・・と笑う。
  そして、彼は、その呪文を叫んだ。
「我は築く大容の銭湯!!!」


(図書館チャットのログより)
「我は築く大容の銭湯」
  催眠魔術。
  大容の銭湯とは要するに大きい風呂の事で、鶴来屋の風呂を思い浮かべて頂
ければよろしい。
  そして・・・・


「・・・あれ?」
  俺は、大きな風呂に浸かっていた。
「あれ? あれ?」
「どうしたの、ハイド?」
「もう、ぼーっとしてないで、私たちを見てよ。」
「一緒に楽しみましょ?」
  うろたえている俺に、声をかけたのは・・・。
  綾香。
  それも、たくさん。
  しかも、しかも、風呂だから当然かも知れないが・・・・
  ・・・全員、生まれたまんまの姿だった。


「先生が言っていた・・・。」
  呟きつつ、Runeはゆっくりと身を起こした。
  体中に痛みが走るが、何とか動けない事はない。
「いかなる苦痛にも耐えられる人間はいる。
  しかし・・・」
  彼はゆっくりと歩み寄っていく。
  そして、それを見下ろし、静かに告げた。
「快楽に耐えられる人間はいない、ってね。」
  はあ、と溜息をつくRune。
  そこには、鼻血の海に沈んでいるハイドラントの姿があった。


  そして、それから・・・・・・


「・・・で?」
  Runeの話を聞き終え、久々野はぼそりと呟いた。
「いや、で? と言われても、俺の知ってる事はこれだけなんだが・・・。」
「つまり、その時のショックが元で、あーなっちゃったって訳?」
  そう言って梓が指差した先では・・・・・。


「ふはははは!! 今日こそSS不敗流の命日よ!! まずは風見ひなた、君か
らだ!!!」
「えーい鬱陶しい!! いけ美加香、鬼畜ストライィィィィィィク!!!」
「きゃああああああああああああああああああああっ!?」
「なんの!! SS気功闘法・神威のSS、ダーク鳴動撃!!!(迎撃)」
「どひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!?」
  どががばきめきぐしゃっ!!!
「お前ら、どうでもいいが楓とのお茶の時間を邪魔するんじゃなぁぁぁぁい!! 
石破エディフェル拳!!!」
  どががーーーーーーーん!!!
「し、師匠! 僕を巻き込まないで下さいよっ!!」
「ハイド! あんた訳の分かんない騒ぎ起こすのもいい加減にしなさい!!」
「おう、マイラバー綾香。デートの誘いか、勿論OKだぞ。」
「人の話を聞けぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!」


  ・・・Leaf学園は、今日も平和であった。




                         Lメモ私的外伝3「月下の獣、再び」  END