荒野。 そこには、何も無い。 血で染められたような夕日が照らし出す大地には、動くものの影は何一つ無 い。 ・・・・・・・・・・・・・・いや。 いる。 二つの影。 一人の男と、一人の少女が、そこにいた。 二人は、互いを見詰め合っている。 どちらの瞳に映るのも、悲しみと決意に満ちた相手の顔。 「兄様・・・・・」 少女が、呟く。 「・・・・・どうしても?」 「・・・・・・・・・ああ。」 男が答えた。 ・・・・・二人とも、分かっていた。 自分たちの行く道は、既に分かたれてしまっている事を。 もはや、引き返す事は出来ないという事を。 二人に残されているのは・・・・・・・・・・・ 「石破っ、楓らぶらぶ、天狂拳!!!!!」 「超!級!覇王!デンパ弾!!!!!」 二人の叫びが荒野に轟いた。 そして・・・・・・・・・ 二人が再び相見えるのは、それから三年後のことであった。 Lメモ私的外伝4 というわけで、SS不敗マスターカエデ及びSS闘神ライガージョー、誕生 編(笑)です。 本当は兄妹対決編もあわせて書く予定だったのですが、それは次回にという 事で。 私的外伝3を書いた時は、「次はリーフキャラ中心のLメモを書こう!」と 思っていたのですが、先日、私ことハイドラントの師匠、ライガージョーの正 体が判明しましたので(笑)、そのお披露目も兼ねてこの話を書かせて頂きます。 西山さん、EDGE師匠、どうかこれ読んでも怒らないで下さい(笑)。 「宿命の兄妹」 今日もLeaf学園は平和であった。 西山英志が暴走したり(いつものことだ)、 Dボックスが自爆したり(いつものことだ)、 結城光(紫音)と榊宗一が暴れて図書館を破壊した挙げ句にポチに食われた り(いつものことだ)しただけの、何の変哲もない一日だった。 そんな平和な一日がそろそろ終わる、放課後のこと・・・・。 「ひなたっ! 学園に巣食う巨悪、今日こそは成敗してくれる!!」 「かつての友とはいえ、月島に与する者は許しません! いきますよ、美加香!」 校舎裏。 よくあることだが、ここでは決闘が行われていた。 戦っているのは、風見ひなたとHi−wait。 ・・・いや、戦っているのは彼らだけではない。 「ゆき! マルチから手を引けぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」 「初音ちゃんもいいけど、マルチもいいんだぁぁぁぁぁぁぁ!!」 と叫んでビームモップやらなにやらを振り回しているセリスとゆきとか、 「梓の独占は許さねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」 「諦めなさい。 梓と結ばれるのは私しかいないのです・・・・。」 突撃する春夏秋雪と、彼を冷ややかに迎え撃つ久々野とか、 「ふっふっふ、新装備ER粒子ビーム砲の力、試させてもらうぜ・・・。」 「・・・学園の治安を乱すものと判断。排除します。」 馬鹿でっかいPPCを肩に担いだジンとDセリオとか、 「誰だか知りませんけど、挑戦は受けます! いざ勝負!!」 「誰だか知らないって・・・あなたまで・・・・・」 燃える格闘少女松原葵と、泣いている女生徒Aとか。 ・・・何故今日に限ってこんなに決闘が多いんだ? と思いたいところだが、 Leaf学園ではいつものことだ。(多分) それはともかく。 決闘をする者たちがいれば、それを物陰から覗く者たちもいる。 今回の話は、その内の一人から始まる。 それは・・・・・ 「そう言えば、ジンの体に放熱器を追加するのを忘れていたが・・・・・まあ、 一発くらいは撃てるだろう。内部爆発を起す可能性もあるが。」 なにやら物騒な事を呟いているマッドサイエンティスト柳川。 ・・・・・違った。 彼ではなく、 「頑張るんだ、好恵さん・・・・・。」 ハンカチで目元を拭っているbeaker。 ・・・・・違う。 彼でもなく、 「ふっふっふ・・・・SS不敗流、その真髄を見せてもらおうか・・・・。」 「クケーーーーーーーーーーッ!!」 肩にカラスを止まらせている黒ずくめ。 例によって例のごとくの、ハイドラントであった。 (やっぱり自分が一番使いやすい・・・どう使っても怒られないから(笑)) 「!」 一心に風見ひなたとHi−waitの戦いを見ていたハイドラントが、突然 体を硬直させた。 人の気配を感じたのだ。自分のすぐ後ろに。 「塔」で、主に諜報・暗殺などの技能を教え込まれた彼の背後を容易く取れる 者など、まず存在しない。 だが、彼には一人だけ心当たりがあった。 「・・・・師匠。お久しゅう御座います。」 ハイドラントは振り返ると、その場に膝をつき、拝跪した。 そこにいたのは・・・ 「うむ・・・久しいな、ハイドラント・・・。」 彼と同じく黒い服に身を包んだ者。頭には、獅子のマスクを被っている。 ・・・SS闘神ライガージョー。 SS不敗流の影、「神威のSS」の現宗家。 そして、この世で唯ひとり、ハイドラントが頭を下げる相手でもあった。 「・・・未だ、不敗流の奥義を奪ってはおらぬようだな・・・。」 マスクの下から響く低い声に、ハイドラントは一段と深く頭を下げた。 「ははっ・・・。期待にお応えできず、面目次第も御座いません。」 「詫びる必要はない。もとより簡単に出来る事とは思っておらぬ。 ところで・・・・」 ライガージョーの眼が、ひたりとハイドラントを見据える。 (!!) 危険!! ハイドラントの勘がそう告げた!!! 「し、師匠・・・・」 彼が師の顔を見上げた時・・・・・ 「聞いたわよぉ、ハイドく〜ん♪」 獅子のマスクの下から声が漏れた!!! 凄まじいまでに場違いな声が。 ・・・少女の声、だった。 「綾香さんにデート申し込んで断られたんですって? これで何回目かしら?」 「は、はあ・・・。よくご存知で・・・・・。」 脂汗を流しつつ、ハイドラントは答えた。 筋骨隆々の大男の口から、可愛らしい女の子の声が出てくるという状況に、 彼はどうしても順応することができずにいた。(当たり前だ) 「やっぱり、女の子を誘うのに『全世界から集めました・呪いの人形展示会』 はまずいんじゃない? そういうときはね・・・・」 「あ、あの、師匠・・・・」 ハイドラントは、師の機嫌を損ねないよう、言葉を選びながら言った。 「ええと、そういうお話をするのなら、出来れば普通の姿でなさって欲しいの ですが・・・。」 「何よぅ。この格好が変だとでも言うわけ?」 少し拗ねたような口調になる。彼は慌てて言った。 「いえ、そうではなく、折角お会いしたのですから、出来れば師匠の素晴らし いお姿を見せて頂けないものかと思った次第で・・・。」 「あら、そう? うーん、ハイドくんがそう言うなら仕方ないな。」 あっさり機嫌を直すと、ライガーはしばし沈黙した。 やがて・・・・・ ウィィィィィィィィィン・・・・・ 機械の作動音とともに、ライガージョーの体が、頭から「割れて」いった。 そしてその中から、発育の良い体が印象的な少女が姿を現す。 そう。 直弟子のハイドラントと、西山英志のみが知っている事だったが・・・・。 SS闘神ライガージョーとしての体は、精巧なギミックだったのである。 (要するに、夷腕坊と外印。いや、アンガスとアビゲイルと言うべきか?) 中から出て来た少女は、大きく伸びをした。 「うーん・・・。直に空気に触れると気持ちいいわ・・・。」 その姿からは、ライガージョーの姿の時にあった威圧感は微塵も感じられな い。 だが、ギミックスーツを捨てたところで、彼女の持つ強大な力に変化はない と言う事を、ハイドラントは良く知っていた。 いや、むしろ、重いスーツなど装着していない方が、彼女の戦闘能力はより 完璧に発揮される筈だ。 (・・・あれは、枷なのだ。) 師の姿をじっと見上げつつ、ハイドラントが胸の内で呟く。 (師匠が身につけてしまった、あまりにも強大な力を抑えるための・・・) 彼女の名はEDGE。 SS不敗流現宗家・西山英志の、実の妹であった。 全ての発端は、三年前に溯る・・・・・。 それは、西山英志とEDGEが、初めてLeaf学園に来た日の事であった。 いずれこの学園に入学することを考えていた西山は、その日行われる説明会 の為にやってきたのである。EDGEには関係の無い事だったが、暇だったの で兄について来たのだ。 そこで、二人は見た。 彼らと同じような、男と女の二人連れ。 いかにも好青年という感じの男と、おかっぱの髪をした清楚な少女を。 その時の彼らは知る由もなかったが・・・その二人とはもちろん、柏木耕一 と柏木楓であった。 西山の眼が楓を、EDGEの眼が耕一をそれぞれ捉え・・・・・ 運命の歯車が、動き出した。 その後西山は、楓に対する愛を真理と信じ、その信念のもと「SS不敗流」 の奥義を極める。 「SS不敗マスターカエデ」の誕生であった。 一方EDGEは、耕一を掌握している女・・・柏木千鶴・・・の存在を知り、 彼女に対抗するため、SS不敗流の陰、禁断の流派に手を出す。 「神威のSS」である。 SSの真理はダークにあるとし、ただひたすらに心の闇を追究する・・・そ の封印されていた技を、彼女は復活させたのであった。 だがしかし、邪拳である神威のSSに手を染める事は、正拳であるSS不敗 流・・・即ち兄との敵対を意味していた。 そして、兄妹は拳を交え・・・・・ 決着は、着かなかった。 西山はその後、Leaf学園に入学。 「SGY戦争」(久々野彰さん「Lメモ超外伝・運命の決戦編『思えば私も青 かった』」参照)などを経て、学園の名物男の一人となっていった。 やがて、風見ひなたという弟子を得るのだが・・・それはまた別の話である。 (風見ひなたさん「Lメモおもいっきり外伝・僕が鬼畜になった理由」参照) 一方、EDGEは・・・・・ 「神威のSS」を極めた彼女にとっても、なお柏木千鶴は脅威であった。 そこで彼女は、策を二つ考える。 それは・・・・ 1・神威のSSを教えるに値する弟子を探し、千鶴と戦う時の為の戦力とし て鍛え上げる。 2・SS不敗流の技を盗み、神威のSSをより強力なものとする。 ・・・・というものであった。 その日、EDGEは弟子を求め、街を散策していた。 ここは、近くにエリート養成校「爪の塔」がある街だ。ここなら、彼女の弟 子となるにふさわしい者も見つかるかもしれないと思ったのだが。 (なかなかいないものね・・・・) 才能を感じさせる者は、幾人か見かけた。 しかし、神威のSSを極めるために必要な、「心の闇」が感じられないのだ。 (そろそろ別の街に行こうかな・・・・) そう思って、荷物を取りに宿へ戻ろうとした時、 「!!」 (これは!?) 彼女の超感覚が、「闇」を捉えた。 深い、陰湿な、「心の闇」を。 (誰・・・?) 辺りを見回すEDGE。 やがてその眼が、とある二人組へと引き寄せられる。 それは・・・・。 「ハイドラント、買うものこれで全部か?」 「まだだよ。あとシャンプーやらボディソープやらも買わねーと・・・」 「はあ・・・まだ荷物が増えるのか・・・・。」 「なあ、彰。なんで俺らがあの姉妹の使い走りをやらねばならんのだ?」 「考えるな・・・。答えなんか出ないし、きっと出ても尚更疲れるだけだから ・・・・。」 「・・・そーだな。」 はう・・・と揃って溜息をつく二人。 (見つけた!) EDGEは心の中で快哉を叫ぶと、二人に向かってずかずかと近づいていっ た。 そして、二人組の一方・・・ハイドラントと呼ばれた方の前に立ち塞がる。 「・・・知り合いか? ハイドラント。」 「いや・・・。あの、どちら様?」 だが彼女は二人の言葉を全く無視して叫んだ。 「ずばり!!」 びっ! と指を突きつけ、告げる。 「あなた、女性からの虐待に苦しんでるわねっ!!」 「うっ!? な、なぜそれを・・・・」 驚愕するハイドラント。 「そりゃまあ、さっきの話聞いてれば分かるだろーな・・・。」 「ていっ!!」 横でぼそりと呟いた久々野を裏拳一発で沈黙させ、EDGEは続けた。 「あなたに、その女たちに対抗する為の力をあげるわ。そういう訳でついて来 なさい。」 「え? あの・・・」 「そんな荷物はその辺に捨てて。」 「えっと・・・」 「さあ、行くわよ!!」 「あのちょっと、て、おおおおおおおおおおおおおお!?」 EDGEはハイドラントを肩に担ぐと、そのままだだーーーーっと駆け去っ ていく。 土煙が地平線の彼方に消えるまで、十秒と掛からなかった。 後には、呆然とした久々野が残された。 ぼんやりと呟く。 「てことは、この荷物、全部僕が持って帰るのか・・・?」 ・・・ハイドラントはどうでもいいんかい、お前は。 それからしばらくの間、ハイドラントの姿は「塔」から消えた。 それから数年後。 Leaf学園の現在・・・・・ EDGEの命でSS不敗流をマークし、すっかり謎のストーカーと化してい る「塔」出身の暗殺者ハイドラント。 西山の支配下から脱し、我流鬼畜拳を編み出すも、DK細胞の侵食に苦しむ 「キング・オブ・エディフェル」風見ひなた。 嵐のように現れて、嵐のように去っていく、こちらは学園における謎のヒー ローになりつつあるSS闘神ライガージョー・EDGE。 周囲の状況はどうあれ、ただひたすらに楓を愛し続ける男、SS不敗マスター カエデ・西山英志。 SS不敗流と神威のSS、決戦の時は近い。 そして、この戦いは、単に正邪二流派の戦いで終わりはしない。 ハイドラントが動けば、彼と同じ「塔」出身者たちも無関係ではなくなる。 最近目に付く、Runeの怪しい動きも気になるところだ。 風見ひなたが敵対している月島生徒会も黙って見ているとは思えない。 また、西山英志を脅かす存在・・・SS闘神ライガージョーの存在が知られ て以来、これまで沈黙を守っていた隠れ楓ファンたちの間に不穏な気配が湧き 起こりつつあるという話もある。 Leaf学園に、動乱の時が迫っていた。 Lメモ私的外伝4「宿命の兄妹」 END