Lメモ私的外伝11「Missing Love」 投稿者:ハイドラント
「今日も部活? 頑張ってね」
「ありがとう! じゃあ」
 部室までの道すがら、すれ違った級友と軽く挨拶を交わす。
 松原葵は上機嫌だった。今日だけに限らず、ここ暫くはずっとそうだったが。
 彼女の所属する格闘部が、最近俄かに活気を帯びてきたことがその最大の理
由である。
 天気もいい。絶好の部活日和だ、と胸中で思う。
 専用の道場を活動の場とする格闘部に天候など関係なかったが、まあ気分の
問題だ。
 鼻歌を歌うような気分で――流行の歌など知らない彼女が鼻歌を歌う事など
ないが、ともあれそんな気分で、見慣れた道場の扉を開く。
「こん――!」
 いつもの如く元気に挨拶しようとして、彼女は声を飲み込んだ。
 道場の中央で、二人の人間が差し向かいに立っている。
 葵に正面を向けている方は、新入部員のそーしゅ。
 もう一方、有り体に言って格闘者らしくない長い髪の彼女は……こちらに背
を向けているとは言え、葵が見間違える筈もない。
 二人とも、入ってきた彼女には気付いていないようだった。
「こ……」
 改めて、今度はやや控えめに挨拶しようとして…葵は再び言葉を止めた。
(…え?)
 何かが、おかしい。
 違和感がある。
(…えっ?)
 あれは…何だろう。
 彼の表情…怒ったような、脅えたような、そーしゅの引きつった顔は。
「てぇぇぇ!」
 違和感の正体に気付くより早く、そーしゅが動いた。
 左の突き。右の回し打ち。そして前蹴り――と見せて踏み蹴り。
 対する彼女は、その全てを軽々と捌いた。
 左右の打ちを受け、右足の甲を狙った踏み蹴りを躱しつつ、彼の側面に回る。
 そして、首を捕らえ――
 ごきり。
 ――躊躇なく、折った。
「はぁ?」
 葵はぽかんと口を開けた。
 その目の前で、彼女は倒れたそーしゅの頭を踏み砕く。
 スパークが弾け、散った。
「…ええと」
 物言わぬガラクタと化したそれを、彼女は無言で見下ろす。
 床に転がる塊と彼女とを交互にきょろきょろと見ながら、葵はぎこちない笑
みのようなものを浮かべ、問いかけの言葉を発しようとした。
「その、これはいったい……!」
 その時。
 ようやくそれが、目に映る。
 胸部を深く陥没させた姿で、壁に寄りかかっている坂下好恵……だったもの
が。
 既にそれは、死体というモノでしかなかった。
 ――ぷつん。
 と、葵の中で何かが切れた。
「あ…あう……」
 視界が揺れる。
 膝が震えているからだというのは分かっていたが、分かっていても震えは止
まらない。
 歯ががちがちと鳴るのも、どうにもならない。
 よろめいて、彼女は無意識に、何かに掴まろうと後ろに手を伸ばした。
 何もない。
 どたん!
 木の床が鳴る。
 決して大きな音ではなかったが、静寂に包まれた道場においては轟音に等し
かった。
「………」
 ――ゆらり。
 と、彼女が葵の方を向く。
(誰――!)
 一瞬、葵には分からなかった。
 強い気性を偲ばせる瞳と、風のように捉えどころの無い微笑。彼女の顔には
常にそれがある筈だった。
 だが今、葵を見下ろす彼女の顔にそれはない。
 あるのは、くすんだ瞳と、寒気を呼ぶ笑みだった。
「なんで…どうして……」
 かすれた声で、必死に言葉を紡ぐ。
 分からない。
 何故あの人はそんな顔をしているのか、何故そーしゅを殺したのか、何故坂
下が死んでいるのか。
 分からない。何も分からない。
「どうして、こんな事……綾香さんっ!」




              Lメモ私的外伝11




 単発未来編、第二弾。
 今回は綾香が主役のダーク物です。
 元は悠さんに贈呈するはずの初夜SSだったんですが、書いてる途中で方向
性が変わってしまったので、十八禁描写を取っ払って私的外伝にしました。
 つー訳で悠さん、これで許してね(笑)




           「Missing Love」




 幸せって何だろう。
 悩みがないということか。
 自分の居場所に不安を覚えずに済むことか。
 なら、今の私は……幸せなんだ。




「どうして、こんな事……綾香さんっ!」
 どうして。
 こんな事。
 葵が発した問いを、私は脳裏で反復した。
 答えは簡単に出た。考えるまでもないことだ。
 彼が私に命じたから。
『間もなく計画を発動する。その前に、邪魔になりそうな連中を排除せねばな
らない。
 まずは……格闘部だ。
 殺してこい、綾香』
 彼の命令に従う。それが今の私の、唯一のアイデンティティ。
 だから私は、道場に行き、そこにいた好恵とそーしゅを殺した。
 簡単だった。
 戦って勝つことは決して楽ではないのに、何故殺すことはああも簡単なのだ
ろう。
 二人の攻撃は私にかすりもせず、そして私の攻撃は二人の体を速やかに破壊
してのけた。
 ……彼女を殺すのも簡単だろう。
「どうしてなんですか!? どうして!」
「葵」
 狂ったように繰り返す彼女に、私は告げた。
「あなたも、殺すわね」
「…!」
 その言葉が引き金になったように、葵はだっと立ち上がる。
(逃げる――? なら、背後から捕まえて引き倒す。
 攻撃してくるなら――)
 葵は飛び掛かって来た。
 動転している為だろう、その動きは素人より酷い。
 私はその腕を掴み、足を掛けて投げた。
「っ!」
 無様に倒れる葵。
 その背中に、跨るように飛び乗る。
(このまま――)
 無防備な急所が、手の届く位置にある。  
(首に肘を打ち込めば、死ぬ)
 私はそうした。

 肘を通して、鈍い感触が伝わってきた。

 ――ほら、簡単だった……。




 何故、彼に従うのか?
 誰かにそう問われたとしても、私は答える言葉を持たない。
 ただ、支配されたから、としか。
 あの日、あの時以来……




「よう」
 その日、私を出迎えたのは、彼の歪んだ笑みだった。
 私の家で、家族が待っている筈の部屋で。 
 血と肉塊に囲まれて、手の中にナイフを弄びつつ、彼は立っていた。
「『塔』の命令でね……邪魔になったから、殺せとさ。
『塔』から離れて鶴来屋と結ぶつもりだったらしい。裏にいるのは先生――柏
木賢治だって話だが、どうだかな……。
 まあ、どうでもいいが」
「………」
 呟くような彼の言葉を聞きながら、私は半ば麻痺した頭で、何が起きたのか
理解しようとした。
 父さん、母さん、姉さん……。
 皆、物言わぬ骸となって、床に倒れている。
 やったのは、彼。
『塔』にいた頃からの、長年の付き合いである男――
 親友……のようなものだと信じていた人――
 暗殺者、ハイドラント。 
「な…」
 私は、かすれた声を喉の奥から絞り出した。
「何てこと、するのよ……」
 後から思うと、かなり間が抜けた台詞だったかもしれない。
 彼は肩をすくめた。 
「悪かったな。
 だが俺も、『塔』の命令に逆らう訳にはいかないんでね……今は。
 もっとも、それだけが理由じゃないが」
「……」
 私は何も言えなかったが、彼はその沈黙を無言の問いかけととったらしい。
小さく笑って言葉を続けた。
「お前が欲しいからさ、綾香」
「っ!」
 私は思わず拳を握り締めた。
「ふざけないで! 何の関係があるのよ! こんなことして……っ!!」
 彼を睨み、叫びかける。
 が、彼と目が合った時、私は一瞬びくりと震えた。
 彼の瞳が、私の姿を映している。
 ――いつからだろう。ハイドがこんな目をするようになったのは。
 昏い、だが何かの輝きを湛えた双眸……
「……俺を殺すか?」
 ぐっ――!
 その言葉に、拳に篭った力が強まる。
 だが、続いた言葉は、私の予想を裏切った。
「出来るだろうさ、お前なら。
 お前は戦士で、俺は暗殺者だ。正面から戦うなら、俺はお前には勝てない。
先生が、俺達をそう育てたんだからな。
 ……だが」
 彼の顔から笑みが消えた。
 その時彼の顔にあったのは、憐憫の色……だったろうか。
 ――私への。
「俺が死んだら、お前は一人になるな」
「……っ!」
 その言葉に、一瞬呼吸が止まるほどの衝撃を覚えて、私は愕然とした。
 一人になる…? 私が?
 ハイドは表情を変えずに続ける。
「お前を理解してくれる人間は誰もいない。誰もお前を知らない。
 誰もお前を見ない世界。
 ……そんな世界で、お前は生きて行けるのか?」
 ぞわっ……!
 彼が言った時、私の体にかつてない、強烈な悪寒が走った。
 心の底で、何かが首をもたげる。
 それは、恐怖。
 昔から……ずっと昔から、私の心の奥に巣食っていた恐怖。
「一人になんかならないっ!」
 私は叫んだ。
 心の中にじわじわと染み渡っていく恐怖を跳ね除けようと。
「私を分かってくれる人は、ちゃんといるっ!
 ゆーさくとか……!」
 彼の言葉を認めまいとして、私は咄嗟にその名を口にしていた。
 悠朔。
 何かと私を助けようとしてくれる人……。
「悠か」
 だがその名を聞いても、彼の表情は動かなかった。
「悠は、お前の心に立ち入ろうとはしない。……恐いんだろうな、あいつも。
 お前と同じで。
 お前も、恐いんだろう? あいつに心を開くのが。
 お前は自分を理解して欲しい癖に、人に本当の姿を見せることが出来ない。
 だから、嘘の自分を作り、その顔を晒して人と接する事で、自分は理解され
ていると自己欺瞞し、寂しさを忘れようとする。
 ……お前は、そういう奴だ」
 違う――!
 そう、叫びたかった。
 ……けど、叫べなかった。
 彼の言っている事は事実だと、心のどこかで知っていたから。
 私は、ただ黙って、彼の言葉を受け止めるしかなかった。
「自分を愛してくれる人が欲しい。支えてくれる人が欲しい。
 だが、その為に代償を払うのが恐い。
 いつか、白馬の王子様が現れて自分を救ってくれるのを待っている……。
 それが、お前だ。綾香」
「やめて……」
 私はいやいやをするように首を振った。
「もう、やめてよ……ハイド……」
「綾香」
 彼が一歩、私に近付いた。
 あの瞳が、近くなる。
 私は後ずさりしようとして……半歩と行かず、壁に背をぶつけた。
 彼が私を見据える。
「愛して欲しいなら、代償を払え」
「……代償……」
「そうだ。
 俺に全てを捧げろ、綾香。お前の命、お前の存在、その全てをだ。
 そうすれば、俺がお前を守ってやる。
 いつもお前を見ていてやろう」
 全てを……捧げる。
 ハイドに。
 私が。
 そうすれば……愛される。
 もう、寂しさを感じなくて済む……の?
「それとも」
 彼は、右手に握っていたナイフを投げ捨てた。
 血塗れた刃が床にぶつかり、ちゃらん、と硬質の音を立てる。
「お前は一人で生きて行けるのか?
 なら、俺を殺せ。俺がお前にとって必要でないならば、残るのは俺がお前の
家族を殺したという事実だけだ」 
 ハイドを、殺す。
 私が。
 彼は……父さんを、母さんを、姉さんを、殺した。
「どちらか、選べ。
 ――綾香!」
 全てを捧げる。
 それとも、
 殺すか。
「……う……」
 彼に全てを捧ぐ。愛される。寂しくない。守ってもらえる。彼は殺した。私
の家族の仇。だから殺す。彼はナイフを捨てた。それを拾って、刃を彼の胸に
突き立てる。彼が死ぬ。私は一人になる。悠はいない。助けてくれない。寂し
い。寂しいのは恐い。彼が私を愛してくれれば寂しくない。彼のものになる。
恐い。
 恐い。
 恐い。
 恐い。
 コワイ――――
「うああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
 私は絶叫した。
 両手で頭を抱えて、喚く。
 壊れる――!
 意識のどこかが危険信号を発した。
 このままだと、壊れる。
 そう思った時、私はハイドに突進していた。
 意志はない。
 自分を守ろうとする防衛本能が私の体を突き動かしたのかもしれない。
 重心を低くし、肩からぶつかる。
 彼は避けようともしなかった。
 ドガッ――
 倒れた彼の上に馬乗りになる。
 相手を倒し、上から攻撃する。『塔』で先生が私に教えた、最も単純で効果
的な戦闘技術。
 拳を脇に引き寄せた。
 ハイドの頭の下にあるのは硬い床。顔面に拳を叩き込めばそれで終わる。
 私は、

            彼の口が、小さく動いた。

 そのまま拳を、

             「……泣くなよ……」

 突き出した。


 彼の頬が、ぺしっ、と鳴った。


 気がついた時、私は泣きじゃくっていた。
 ハイドの胸にしがみついて、子供のように泣き喚いていた。
「泣くなっつってんのに……ばーか」
「ばかじゃ……ないっ……」
 彼が、不器用に私の髪を手櫛で梳かす。
 涙が止まらない。
 しゃくりあげながら、訴える。
「あなたが……悪いんでしょっ……。
 姉さんたちを殺して……あなたを殺せなんて言って……!
 あなたが、悪いのよっ……」
 彼の胸を、拳で叩く。
 何度も。
 弱々しく。
 何度も。
「そうだな。
 俺が悪い」
 彼の手が、私の手首をそっと掴んだ。
 ……冷たかった。
「でも、こうしなければ、お前は手に入らなかった」
 彼がゆっくりと身を起こす。
 押される形で、私は後ろに倒れた。
 私の両腕を掴んだまま、ハイドが私を見下ろす。
「俺はお前が欲しかった……どうしてもだ」
 暗空色の瞳は私の姿を捕らえ、もはや動かない。
 ……捕まった。
 私は、知った。
 ……もう、逃れられない。
 彼の指が、私の胸に置かれる。
 それはゆっくりと動き、数個の文字を描いた。
 ――ミラン・トラム。
 彼の真名が、私の魂に刻まれる。
 その、瞬間。
 痛み……そう、痛みのようなものが、私の体を貫いた。
 それは、幼い頃、度を越した悪戯をして、初めて父さんに叩かれた時の痛み
に似ていた。
 

 そして――




 人が人に支配されるとは、どういうことか?
 その問いに答えを返せる者は、百人に一人もいないだろう。
 でも今の私は、簡単に答える事が出来る。
 即ち――自己の存在意義を一人の人間に依存してしまう事だ、と。




 道場の裏に来たその時、私の足元に何かが転がってきた。
 一振りの日本刀。
 それが「運命」という名であることを、私は知っていた。
 その持ち主は今、剣で胸を貫かれている。
「……許せ。佐藤……」
 その剣を握る男が、暗い声音で告げた。
「許せるかよっ……馬鹿野郎!」
 最後にそう叫んで、佐藤昌斗は倒れた。
 剣がずるりと抜ける。
 刃渡り六尺はあろうかという、長大な漆黒の剣。
 魔王の牙――クスゥレク・ゴル。
 ハイドが彼に与えた魔剣。
 彼は一振りして刃から血を払うと、残る二人に目を向けた。
「……次は、どっちだ?」
「貴様っ!」
 右側にいた男――ディアルトが、怒りの叫びと共に切り掛かる。
 並の人間には残像しか映らないだろう……それほどに、迅い。
 普段の彼であれば躱せなかったかもしれない。
 だが今の彼は、それよりも更に迅く……残像すら残らないスピードで動く事
が出来た。
 ディアルトの刀は、空を裂き――
「がはっ……!?」
 その刃が地を抉った時、背後からの斬撃が体に食い込んでいた。
 血飛沫を上げ、倒れ伏すディアルト。
 ――が。
「……貰った」
 ばしゅっ――!
 ディアルトを切り伏せた彼の脇腹が、深々と切り裂かれた。
 もう一人の男……YOSSYFLAMEの刀で。
 噴き出した返り血がその足を濡らす。
「何があったのかは知らないが、命を狙う者に容赦する気はない。
 ……死ね」
 YOSSYFLAMEが止めの太刀を振りかぶった。
 ――その時。
 ぞぶっ。
「……!」
 異音。
 としか表現しようのない音を立て、彼の傷口が蠢いた。
 肉が盛り上がり、見る見るうちに傷を塞いでいく。
 YOSSYFLAMEが目を瞠る。
「何っ……!」
「剣の力さ」
 驚くYOSSYFLAMEに対し、彼の声は無感動だった。
「この剣は生命を喰らい、持ち主に力を注ぎ込む。
 ……お前も、俺の力になるか?」
「!」
 YOSSYFLAMEは大きく飛び下がった。
 奥歯を噛み締めつつ、刀を構え直す。
「御免だね。自分を殺した男の糧になるなんざ……最悪じゃねーか!」
「……そう。分かったわ」
「!?」
 その声に。
 YOSSYFLAMEが背後を振り返るより早く――
「がっ……!」
 私の拳が、その背骨を砕いていた。




 私がハイドに支配された時、彼もまたハイドに従う道を選んだ。
 漆黒の剣はその証。
 彼は私に言った。お前がどんな道を選ぼうと、俺はついていくと。
 彼もまた……私に支配されているのかもしれない。




「ご苦労様。ゆーさく」
「……」
 彼――悠朔は、無言で小さく頷いた。
 真っ赤だった。
 三人分の返り血と、自分自身の血に塗れて。
 苦笑する私。
「すごい姿……早くハイドの所に帰りましょ」
「ああ」
 道場の裏にある林に足を踏み入れた。
 ここを突っ切って行けば、人目に触れることなく第二茶道部まで行ける。
 枯れ葉を踏みしめ、乾いた音を立てながら歩く。
「……綾香」
「なに?」
 彼がこちらを見る。
 その目に、何か探るような色があった。
「お前、幸せか?」
 唐突に、そんなことを聞いてくる。
 私は、僅かに沈黙した。
 幸せ……か。
「……うん」
 悠の顔から視線を外し、私は頷いた。
「幸せよ、私……」
「そうか……なら、いい」
 彼は、私からは見えなかったが、俯いたようだった。
 サァー……
 枯れ葉が舞う。
 冷たく乾いた風が、私たちに吹き付けた。
「…寒」
 思わず呟きが口を突いて出る。
 体を撫でる冷気に、私はぶるっと震えた。
「……ほら」
 ぱさっ、と何かが私の肩に掛けられる。
 紅く汚れた、彼の上着だった。
「そんなのでも、無いよりはマシだろう」
「……ありがとう」
 私は小さく礼を言う。
 悠が呟くように答えた。
「気にするな。俺に……」
 俺に出来るのは、もうこれくらいしか――
 声にはならなかったが、彼はそんなことを呟いたようだった。
 風に乗って流れてきた枯れ葉が一枚、彼の頬をかすめて飛び去っていく。 
 冬が訪れようとしていた。




 
  
 

 十三使徒がエルクゥ同盟の前に壊滅し、ハイドラントがRuneに斃された
のは、それから一月後、緑葉帝十二月末のことである。
 綾香と悠は学園を出た。
 一時『塔』に身を寄せていたが、程なくそこも離れたらしい。その後の行方
は、知られていない。
 氷雨がとめどなく降りしきる、酷く寒い冬だった。彼女が姿を消した日も、
冷たい雨は途切れることなく大地を叩いていたのであろう。








        Lメモ私的外伝11「Missing Love」 END


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 うーむ、全国一億二千万の綾香ファンを全て敵に回したよーな気が(笑)
 まあ、一度は書いておきたかったので。Lメモのハイドは綾香をどうしたい
のか、を。
 つー訳で悠さん、綾香を幸福にしたいなら、ハイドから奪って自分のものに
するしかないぞっ!(笑)
 今回のタイトル、「Missing Love」は、ディスカバリーが作っ
た「マリンルージュ」というゲームで使われているある曲の名です。(持って
る人、この曲聴きながらもう一度読もう(笑))
 やったことのある人は分かるかも知れませんが、今回の話はマリンルージュ
裏ストーリーの影響を少し受けてます。王子様云々とか、愛の代償とか。
 持ってない人、興味があったら買いましょう。ダーク好きなら、買って損は
しません(笑)。
 では、今回はこれにて〜。