自己紹介Lメモ第壱話 『赤い記憶』 投稿者:軍畑鋼

それは軍畑鋼が試立リーフ学園に転がり込んでくる前日の事、
カチワリ用の氷を買い付けみ出かけた帰りに起こった悪夢のような事件だった。


            自己紹介Lメモ第壱話 『赤い記憶』


ガタンゴターン・・ガタンゴトーン・・・

「ぎにゃぁぁぁ・・・」
下町まで氷を買い付けに行った帰り、鋼はラッシュに巻き込まれていた。
夏の某イベントのおかげですし詰め状態に慣れてはいたが、やっぱりこの状態はつらい。
現在鋼の立っているポジションは車両のド真ん中、最悪のポジションである。
ついでに言ってしまえば鋼は氷の入った大きなクーラーバックを持っていた為、
周りから非難の目を集めていた。
『次は・・、次は・・・でございます・・・』
車掌からのアナウンスが流れた。

・・こりゃ次の駅で乗り換えた方がいいっスね

周りからの非難の目に耐えられなくなったのか鋼は電車を乗り換える事にした。

・・・キップ、出しとこ

鋼はキップを出すためポケットに手を突っ込みゴソゴソと動かした。
「・・・!!」
その瞬間、鋼は周りからの非難の目とは何か違う視線を感じた。
視線の主を探して周りを見ると視線の主をすぐ見つける事ができた。
「・・・・」
隣にいたショートヘアの女の子だった。
女の子は非難半分、怒気半分の冷ややかな眼差しを鋼に向けていた。

・・・なンスかね、この娘?

鋼にはその視線の意味があまりよくわからなかった。
ただ周りより強い非難の視線だ、という事くらいしか鋼にはわからなかった。

・・・アイスボックスが足とかに当たったンスかね?

鋼がそう考えていると駅が近づいてきたのか電車のスピードが緩くなってきた。
そこで自分がキップを探してた事を思い出し、再びポケットの中のキップを探した。
「!!」
鋼はまだ気づいてなかったが再びキップを探しだした瞬間、
女の子のこめかみにピクッと血管が浮かび、視線が怒気100%のものへと変化した。

・・お、あったあった

キップを探しているうちに電車は駅に着き、ドアが開いた。
人が外へと流れ出しその流れに身をまかせ鋼は電車から降りようとした。
が、

グイッ!!

「ををっ!?」
誰かに襟首を捕まれ車内に引きずり戻された。
誰?、と振りかえると、
「・・・・」
さっきから鋼に非難の視線を浴びせてた女の子だった。
そしてその表情はまさに『鬼』と言ってもおかしくない程だった。
「あ、あのぅ・・・オイラここで降りたいんスけど・・?」
その表情に脅えつつも鋼は女の子にそう抗議した。
ちなみにこの時点ではまだ鋼は女の子がキレかかっている理由に気付いてなかった。
「言いたい事は・・・」
「は?」
女の子はわなわなと震え、そして・・・
「言いたい事はそれだけかッ!!!」
爆発した。

ヒュッ!!

「ぎにゃっ!?」
鋼はかろうじて・・正確にはあごをかすめていたが、女の子が繰り出した一撃をかわした。
まぁ、あまり機敏ではない鋼があの一撃をかすっただけですんだのは奇跡とも言えるが・・・
「な、ななな・・何をいきなりッ?!」
今の一撃で鋼はパニック状態に陥っていたが、女の子の次の言葉は鋼をさらにパニック状態を進行させた。
「いいわけなんか聞きたくないっ、この痴漢ッ!!」
「へ?痴漢っ?オイラがっ?!」
『痴漢』という犯罪用語が出てきたため鋼の思考はパニックモードから、さらに進化したヤバイですモードに切り替わった。
「満員電車という事をいい事に私の・・・お尻、もぞもぞ触わってきてっ!」
「ご、誤解っスよ、オイラそんな事するほど甲斐性ないっスよ!!」
甲斐性がない、なんて自分で言う事じゃないが鋼は必死に抗議した・・
が、
「そんなこと誰が信用するっていうのよ、そうやって言い逃れするつもりでしょっ!!」
当然、相手は聞く耳持たずだった。
「だから・・ほらっ、キップ!キップをポケットから出そうとしてたンスよ!」
鋼は事実をありのまま相手に伝えた。
が、当然ながらそれでお互いが理解できるはずもなかった。
「どうだか、どうせそうやって言い逃れするつもりでしょ」

ざわざわざわ・・・

『いやねぇ、痴漢だなんて』
『最低ねぇ』
『誰か駅員を呼んできたほうがいいんじゃないか?』

女の子は当然として、周りの人間も誰一人として鋼の味方につくものはいなかった。

・・・オイラは何もしてないのに
・・・オイラはただ、キップ探してただけなのに
・・・アイスボックスが邪魔になってると思って降りようとしてただけなのに
・・・・・・なぜ?

鋼は自分がとろうとしてた行動は間違ってはいないと確信していた。
それだけに誰も鋼の味方についてくれない事の不条理さが鋼の中で膨らんでいった。

・・・・・・・・・・なぜ?

ちなみに鋼は『よいしょ』型人間であった。
このタイプの人間が精神的にドン底まで落ちていくとどうなるか。

『ホワァァァァァァァイ?!』

当然というかなんと言うか、お約束通りプッツーン、といってしまうのである。

『オイラほんとに何もしてないっスよゥ!?』
「!?」
『ほんとにキップ探してただけっスよゥ!!?』(ぶわっ!)
「え、あの?」
『だから痴漢なんて誤解っスよぅ!!??』(ぶわわっ!)
「あの・・もしもし?」

『だからオイラほんとに何もしてないっスよぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!』(ぶわわわわ・・)

しぃぃぃぃん・・・

電車の中は静寂、もとい恐怖に包まれた。
プッツンしちゃった鋼の血の涙流しながらの絶叫抗議。
それは泣く子も失神するほどの恐怖だった。
あれだけ怒り狂っていた女の子も鋼の豹変にただ呆然としていた。
「なぁ、ねえちゃん・・」
「えっ・」
女の子のそばにいたおやじが女の子に話しかけた。
「・・・あれ、誤解ってことにした方がええんとちゃう?」
「・・・・そう・・ですね」
これ以上鋼に何か言うと何が起こるかわかったもんじゃない、
とおやじも女の子も考えたのかとりあえず鋼にさっきのは誤解だった、という事にした。

「あの・・」
「えぐえぐ・・・」
女の子が鋼に話しかけようとしたが、まだ鋼は泣いていた。
いつまた爆発するか、そんなことに少し怯えつつ女の子は言った。
「さっきの痴漢したってやつ、私の誤解だったみたいだから」
女の子の一言一言は重かった。
誤解と認めたくないという気持ちが言葉の重々しさに現れてた。
「誤解・・・?」

ピクッ!

「ふ、んふふふ・・・」
「!?」
鋼は突然笑い出した。
女の子は何が起こったのか、と鋼から距離をとった。
「そぅっスよ、オイラがそんな事するはずないじゃないっスか!!!」
「え?」
最低まで落ちていた鋼のテンションは一気に最高値まで駆け上った。
駆け上ったついでに鋼は増長した。

『そうっス、オイラは完全に無実なんスよぉぉぉっ!!!』

鋼のテンションが最高潮に達し、女の子に怒りがが戻ってきた時、神は鋼を見放した。

ガクッ!

「ぎにゃっ!?」
「きゃっ?」

ぷにっ・・・

『あ』

ぷっちーん。

現行犯だった。
たとえ不幸な事故だったとしても現行犯は現行犯だった。
たとえ電車の運転手がいきなりブレーキかけたからなんて言っても現行犯は現行犯。
不幸な現行犯である。

『こンの最低痴漢男がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!!!!!』

『ぎにゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!』



・・・その次の瞬間、どうなったかなんて言うまでもあるまい。


                                  つづく