サバイバルホラーLメモ『大長編 イクサバ☆サーガ〜ラストエスケープ〜』 後編 投稿者:軍畑鋼

宙を舞うヒゲゾンビ、否、ヒゲタイラントの巨体。
それを迎え撃つ、いや、迎え撃つしかなくなった軍畑鋼。
勝ち目などないはずのこの男にいったい何ができるのか?



サバイバルホラーLメモ『大長編イクサバ☆サーガ  〜ラストエスケープ〜』 後編



『ウヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲッ!!!』

「バタ子、逃げてっ!」

志保の叫びが響いた。
だが逃げることは許されない。
迫りくるヒゲタイラントの巨体を目の前に鋼はこの一撃に賭けるしかなかった。
失敗すれば多分、自分はあの巨体の下敷きになるだろう。
いや、結果なんかどうでもいい、今はやるしかない。

ぎゅっ!

拳を握りしめ、鋼は動いた。

                            ゆらぁぁぁ・・・・・

「北○神拳奥義・・・」

『ヌゥッ!?』
「・・・はい?」

思わず志保は自分の耳を疑った。
そして鋼についてのある情報に思い当たった。

・・・そういえばバタ子ってオタクで『北○の拳』マニアだったっけ。

この学園にはロケットパンチ装備などの特殊な力を持つ者がいる。
だが、この時点で志保は鋼にそんな期待しようなんてこれっぽっちも思ってなかった。

・・・もし、奥義が成功したらバタ子は世紀末救世主になるのかな?

もう志保は校舎からの脱出などどうでもよくなっていた。

「天破ぁっ、○殺っ!」


                      ひゅうぅぅぅぅぅ・・・・・ぷちっ!


なにかがつぶれる小気味のいい音が階段に響いた。
奥義不発。
所詮『北○神拳』なんて空想の産物でしかなかった。
当然の事ながら鋼はヒゲタイラントの下敷きとなってしまった。
この状況を哀れと言うよりバカとしか言いようがなかった。

『・・・・・・』

一方、ヒゲタイラントの方は奥義が不発だったことに当惑していた。
今、自分の下でもがいてる男がそれなりにがんばってくれると思っていたらしい。
だから思い切りボディプレスを仕掛けたのだろう。

「「『・・・・・・』」」

そしていつものように訪れた偉大なる沈黙様。
今のこの状況は三者三様それぞれに哀れだった。

「お、大物発見!」

階段の下の方から男の声がした。
志保とヒゲタイラントは(鋼はヒゲの下でもがいてる)声のした方に注目した。
そして階段の下からのっそりと現れたのは・・・

「きゃぁぁぁぁぁっ!!ここ、今度は柔道ゾンビぃっ?!」
「誰がゾンビだ?!俺は山浦だっ!」

脅える志保に柔道ゾンビが吠えた。
山浦(自称)は自分はゾンビじゃないと否定するがその姿ではかなり信じがたかった。
山浦(もしかしたら)が着ている柔道着(推測)は何かの液体に染まり、
その上ところどころに肉片っぽいものまで付着していた。
はっきり言ってぱっと見ではゾンビに見える。

『ウヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲッ!!』

さっきまで黙っていたヒゲタイラントが山浦(8割確定)めがけて飛びかかった。
どうやら無視されていたのが相当しゃくだったらしい。

「っ!!」

・・・セバスチャンさん・・・

飛びかかってきたヒゲタイラントを見て山浦(面倒なのでもう確定)は一瞬複雑そうな顔をした。
しかしそれは決意のそれへと変わった。

・・・いきますよ!

「うりゃっ!」

山浦は冷静に突然のそれをさばいた。

                                   どぉぉぉんっ!

そしてそのままヒゲタイラントを床に投げふせた。
相手の勢いを利用して繰り出された巴投げ。
まさに華麗とも言えるような見事な技だった。

『カハアッ・・・』

床に投げふせられたヒゲタイラントは苦しそうに息を漏らすと動かなくなった。

「ふぅっ」

山浦は一瞬崩れ落ちそうになったが、すぐに立ち上がり一息漏らし志保の方へと歩いていった。
ちなみに鋼はヒゲタイラントが山浦に飛びかかる時に土台にされたのかのた打ち回っていた。
それは置いといて、

「さっすが柔道部最強の男、山浦ね」
「・・さっきまで俺の事、ゾンビ呼ばわりしてたのは誰ですかね?」

山浦は苦笑いを浮かべた。
胴着から肉片をはたき落したのでいくらかは見られるようになっていた。

「まぁ、さっきの事は気にしないで・・・んで、なんであんたがこんなとこに?」
「いや、部活勧誘で教室回っていたんだけど。
  で、なんかでかい物音がしたから大物ゾンビがいるのかなと思って」

山浦は視線を倒れているヒゲタイラントに向けた。

「したらセバスチャンさんの顔したゾンビがいるんだもんな・・」
「・・あたしたちはさっきからあの顔のゾンビにしか会ってないんだけど」

山浦がヒゲタイラントがいた事が意外そうな顔をしたので、
志保はさっきまでの事を簡潔に説明した。

「でも流石セバスチャンさんのゾンビ、あの一瞬に三発も腹に叩き込んでくるとは・・」

そう言って山浦は自分の脇腹を撫でた。
山浦はセバスチャンを格闘家として越えなければならない壁としていた。
だからセバスチャンに似せただけのゾンビとは言えそれなりにやってくれた事がうれしかったようだ。

・・・本物のセバスチャンさんだったらこんなんじゃ済まなかったろうな

脇腹の痛みが山浦にそんな風に感じさせていた。
格闘家は傷つくたびに強くなる。
この戦いが格闘家としての山浦を大きく成長させた。
そして山浦がセバスチャン、そして来栖川芹香に一歩近づいた瞬間だった。


「・・・・ぎにゃぁ、オイラを忘れてもらっちゃ困るッス」

復活の軍畑鋼。
忘れかかっていたが一応この話では鋼が主人公だった。
このまま続けていたら多分、山浦話になっていただろう。

「あ、バタ子。」
「あ、軍畑、生きてたみたいだな」
「いやぁ、あのまま落ちてたらこの話のいいところを
  全部山浦ちゃんに持ってかれるとこだったっスから、それだけは避けねばならないっス」

やっぱりいつものように訪れた偉大なる沈黙様、そして・・

「「「はっはっはっはっ・・・」」」

笑いの神様光臨。
で、方向修正完了。

「・・んでさっきの話だと下には違う顔のゾンビがいたって事?」
「まぁ、そんな事になるのかな」

どうやらいろんな要素から察するに山浦は適当にゾンビをあしらってくれたらしい。

「んじゃ、今のうちに外に出ちまうっス」
「そうだな。いい加減この状態が気持ち悪くなってきた」
「んじゃ、さっさと行きましょうか!」

歩き出す志保と山浦。

「あ、ちょっち待つっス」

何故か鋼がそれを制し、倒れているヒゲタイラントの前に立った。
そして制服の内ポケットから何かを取り出し、それをヒゲタイラントに握らせた。

『仁丹』

御老人の友だった。
そしてさも自分が倒したように一言。

「ヒゲタイラント、お前もまさしく強者(とも)だったっス・・」

                              びしっ!

鋼は志保と山浦に思い切り叩かれた。

こうして鋼達は危機を脱し、校舎から脱出したのであった。












・・・・・んな事はなかった。
ここまで来て鋼に一花咲かさせずには終われない。
と、いうことで・・・・

「理緒ちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!!!!」

鋼は疾走していた。
なぜ疾走してるのかというと・・・

校舎から脱出している時の事。
「・・・あれ?」
走る鋼の目にある光景が映った。
ゾンビが群がる第二購買部。
そして脳裏に写った第二購買部にいる自分の思い人の姿。

『雛山 理緒』

「あ、ちょっとバタ子?どこ行くのよっ!?」
「おいっ?軍畑っ!?」

二人は鋼を呼び止めたが、鋼はゾンビ群がる第二購買部へと駆け出していた。
そして望まずとも鋼に立ちはだかるはゾンビ(ヒゲではない)軍団。

「ぎにゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
『ウヲヲッ?!』

                 ぐびちゃぁっ!!・・・ぼたっぼたっ

鋼の前に立ちふさがったゾンビは筆舌しがたいくらい見事なまでに四散した。
しかしゾンビがとうせんぼしたくらいで鋼は止まらない。
だって今の鋼は無敵の『愛って盲目』モードだもの。

「ぎにゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
『グギャァッ!!』

               びちぶちゃぐちゃぁっ!!・・・びちゃっぐちゃっ

続いて二体目も粉砕(以下、めんどくさいので行殺)

ぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぶちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃ・・・・・・・・・・

数え切れないほどのゾンビを筆舌しがたいくらい粉砕した鋼は勢いそのまま第二購買部につっこんでいった。

「ぎにゅぉぉぉぉぉぉっ、止まらんちんんんんんんっ!?」

                           がっちょぉぉぉんっ!!

そしてお約束のガラスを破っての珍入。

「理ぃぃぃぃぃ緒ぉぉちゃぁぁぁぁ・・・・」
「むっ、ゾンビかっ!?」
「撃て撃てっ!!」

どどどどどどどどどどどどど・・・・・!!(ぷちゅんぷちゅんぷちゅんぷちゅん・・)

「あっきゅぶえりゃぽぽぽっ!!!」

・・・そういえばここは武器でマンドラゴラでもなんでも揃う名高い第二購買部だったっけ
でも・・・なんでオイラが撃たれなきゃならないっスか・・・あぁ・・理・・

鋼の意識、ぶらっくあうと。












「んに・・・・・」

気が付くとそこは保健室だった。
確か自分は第二購買部で撃たれたはずなのに、そう疑問に思ってると手に何か握ってる事に気がついた。

「これは・・」

空になった仁丹のケースだった。

「・・・・あのヒゲ・・・」

鋼の顔に自然と笑顔が浮かんでくる。

・・・やっぱあいつを強者(とも)として正解だった。

天井を見上げ、鋼はそんな風に思っていた。
そしていつかもう一度ヒゲタイラントに会ってみたいとも。

                           がらららっ・・・かしゃん

カーテンの向こう側から戸が開く音がした。
足音はまっすぐにこっちに向かい、そして足音の主がカーテンを開いた。

「あら、軍畑くん。やっと目覚めたのね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

                              ぶくぶくぶくぶく・・・

そこには『おかゆらしいものを持った』千鶴先生が立っていた。
もう一度言う、そこには『おかゆらしいものを持った』千鶴先生が立っていた。

そう、ヒゲタイラントが運んだ先は第一保健室だった。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

それでは皆さんご一緒に、
合掌。

                                  鋼・表編・・・END