サバイバルホラーLメモ『大長編 イクサバ☆サーガ〜ラストエスケープ〜』 前編 投稿者:軍畑鋼

            きょろきょろ(上下左右)

「・・・ゾンビはいないみたいね」

志保が廊下の状況を確認する。
現在、鋼達3人は校舎3階まで降りてきていた。
とりあえずゾンビとの本格的接触はまだない。
2階へ続く階段は廊下を曲がってすぐの所にある。

「・・んじゃ、今のうちに行きますか」

浩之の合図で鋼達は階段めがけて駆け出した。



サバイバルホラーLメモ『大長編イクサバ☆サーガ  〜ラストエスケープ〜』  前編



・・・・廊下ってこんなに長かったっけ?

廊下を疾走する鋼はそう感じていた。
走っても走っても二階への階段が遥か先にあるような気がしてたまらなかった。
そしてこの学園の恐ろしさも改めて感じていた。
この学園に転校してから今日で丸二ヶ月、
鋼はそれなりに騒動に巻き込まれてきたが(例・どこからともなくロケットパンチで爆砕)、
ここまで本格的な騒動に巻き込まれたのは当然初めてだった。

・・・・これでケガとかで済むのかな?

               どぉぉぉん・・・がぁぁぁぁぁん・・・

窓の外から聞こえてきた爆音に鋼は我に返った。

・・・・そうだな、なんとか外に出れるだろ

鋼の楽天的思考がさっきまでの恐怖を随分と和らげてくれた。
ここに来るまで荒れた教室はいくつか見えたがまだケガをした生徒はまだ見ていない。
外から聞こえる爆音もロケットパンチの人とかが適当にゾンビをあしらっている証拠だ。
なにがあっても死人は出ないぜ、リーフ学園!
鋼は自分にそう言い聞かせた。

「・・・っ!?」

廊下の角を抜けた時、志保は血相を変えた表情で急に立ち止まって後ずさった。

「志保、どうした?」
「い、いるいる!階段近くにゾンビがいっぱい!」
「な、なんですと?!」

鋼と浩之は角から廊下の方に顔を出して階段の方ををうかがった。

「「・・・・・・・・・・・・・」」

『カァァァァァァ・・・・』

ゾンビの姿を見て、二人は沈黙した。
確かにそこにはゾンビが6体いた。
ただのゾンビだったら沈黙などしない。
問題なのはゾンビの姿、と言うか顔がアレだったのである。

「「「・・・・セバスチャン(ひげ)?」」」

ちなみに今のは志保と浩之が『セバスチャン?』で鋼が『ひげ?』だったりする。
三人が顔を見合わせると誰からとなく笑い出した。

「せ、センパイも酷い事すんなぁ(笑)」
「ま、まさかゾンビのベースをセバスチャンにしてるなんて(笑)」
「ひ、ひひ、ヒゲゾンビっス(爆笑)」

三人は声を殺しつつ、しばらく爆笑していた。
そして三人同時に真顔に戻った。
「で、どうする?」
「う〜ん、あんなに階段の前にいられたんじゃねぇ・・」
「ヒゲゾンビ退治するしか・・って、えぇと」

鋼が浩之の方をチラッと見た。
非常ベルのせいで自己紹介できなかったので鋼は浩之の名前を知らなかった。

「ん、そういやまだ名前言ってなかったな。オレの名前は藤田ひ・・・」

『フジタッ!!??』

浩之が名前を言おうとするとヒゲゾンビ達が過敏に反応を示した。
さっきまで感じられなかった確かな『殺意』がヒゲゾンビ達から溢れ出した。

「ちょ、ちょっとストップ!」

ヒゲゾンビの様子の激変を見た志保が慌てて浩之を止めた。

「なんだよ志保」
「アンタ、いま名乗っちゃダメ!!」
「あ?どうしてだよ?」

浩之は久々に転校生にちゃんと名前で呼んでもらえると思っていたのか志保に食ってかかった。

「今、アンタがバタ子に自己紹介しようとしたらヒゲゾンビ達から殺気が」
「そんなの偶然だろ?オレはきちっとこいつに名乗っておきたいんだ」
「あ、アンタ・・最近自分の扱いが悪くなってきてるからってねぇ」
「・・なんと言われようとオレは自己紹介させてもらうぜ。」

浩之は鋼の方に向き直った。

「んじゃ、改めて言うぜ。オレの名前は藤田ひ・・・」
「ちょちょ、ちょっと?!」

『コワッパガァァァァァァァァッ!!!!』

浩之が名乗ろうとした瞬間、ヒゲゾンビ達が浩之めがけて押し寄せてきた。


『コワッパガァァァァァァァァ・・・・・』
『カァァァァァァァァァ・・・・・』

ガシッ!!

「うををっ!?」
「ひ、ヒロっ?!」
「ぎにゃっ!?」

浩之はヒゲゾンビ達に担がれてどこかに消えていった。
まさに『あっという間』に起こった悲劇だった。

「お、オレに名乗らせろぉぉぉぉぉ・・・・・・・」

哀しすぎる断末魔の悲鳴だった。
そして残された志保と鋼はただ呆然と立ちすくんでいた。

「・・・長岡ちゃん」
「・・・・・・なに?」

鋼が沈黙を破った。

「一般生徒Aって・・・彼の事っスね」
「・・あ、やっとわかった?」

そして再び沈黙。

「「あっはっはっはっはっはっはっはっは・・・」」

そして笑い出した。
ヒゲゾンビが消えて静まり返った廊下に笑い声がよく響いていた。
これが彼らなりの自分達の為に散っていった浩之への弔い方だった。

「じゃ、さっさと下に降りましょか」
「そうっスね」

鋼と志保は何事もなかったのように(っていうか、なかった事にして)一階に続く階段を降り始めた。
この階段を降りきればあとは一階の廊下を抜けるだけである。
多分、ヒゲゾンビの数もここより多いだろうがそのへんもなんとかなるだろう。
鋼はそう考えていた。

『カァァァァァァァァァァ・・・・・』

「「っ!?」」

階段の踊り場まで来た時、鋼達を大きな影が包み込んだ。
振り返ると階段の上にさっきの群にはいなかった巨大なヒゲゾンビが鋼達を見下ろしていた。
はっきり言って、真っ向勝負では鋼と志保ではまったく勝ち目はないと言える。

「ど、どうすんのよ!?」
「んな事、知らねぇっス!!」

『退カヌ、媚ビヌ、省ミヌゥゥゥゥゥゥッ!!!』

ヒゲゾンビの巨体が宙を舞った。



サバイバルホラーLメモ『大長編イクサバ☆サーガ 〜ラストエスケープ〜』  前編
                                                                  ・・・了