Lメモ 超私的外伝その二『新たなる旅立ち』 投稿者:岩下 信
    Lメモ  超私的外伝その2『新たなる旅立ち』

   〜時はSGY大戦の目前の事である〜

「あっおはようございます。」
瑞穂が岩下を見てお辞儀をしながら挨拶をした。
「あぁ、おはよう。」
岩下が続けて挨拶を返す。
場所はL学園から近い公園、浩之達が花見をした公園である。
そこで岩下と瑞穂は待ち合わせをして、登校するのが日課であった。
そう、彼らは付き合い始めたのだった。

「………」
公園を抜けようとしたその時、瑞穂と歩いていた岩下が不意に足を
止めた。
「…信さん、どうしたのですか?」
不思議そうに瑞穂が岩下に聞く。
「……あっ…悪いのだが先に行ってくれないか?」
瑞穂に岩下が言う。
「?」
ますます不思議そうに瑞穂が岩下を見る。
「すまない、仕事が出来た。」
それだけ言うと、岩下は公園の中へと走っていった。
「えっ?あの……。」
後に残された瑞穂は走って行く岩下に何かを言おうとしたが、結局は
何も言えなかった。

『おかしい…ここの所、妖魔が増え過ぎている…』
公園を走り抜けながら岩下は考えた。
昨日は4体妖魔を焼き払った。
今まではこんなに頻繁に妖魔に出会わなかったのだが、2.3日前から
妖魔の気配が増えている。
『何も、こんな時に…』
岩下は舌打ちをしながら思った。
そして、間もなく岩下の目の前に妖魔が現れた。
殺気立ち、目の前の岩下に今にも襲いかからんとしている。
「…まったく、藍原君との時間を邪魔してくれたものだ…」
岩下の口調は柔らかいが、かなりの怒気が込められている一言が妖魔に
向かって発せられる。
『炎の精霊達よ!すべての力を解放せよ!』
岩下が低く詠唱すると岩下を取り巻くように蒼い炎が生じる。
それを合図に妖魔が岩下目掛けて飛び掛かってきた。
岩下は妖魔の繰り出す爪を避けながら、詠唱に入る。
『炎の精霊達よ、天界の灯火と共に、古よりの闇・邪なる力を食らう、
聖なる劫火と化し、彼の敵を滅ぼせ!!』
岩下を中心に蒼く輝く炎が激しく燃え上がった。
妖魔は岩下の炎を気にせずに向かってくる。
岩下は妖魔に狙いを定めると、一気に炎を解き放った。
「烈火・滅却炎儘っ!!」
岩下の伸ばした腕から、巨大な火球が妖魔に向かって飛び出す。
そして、岩下の放った火球が妖魔を飲み込むように包み込む。
『…終わったな…』
岩下が炎を見つめながら思った。


その日、セリスはふと岩下が来ていない事に気づいた。
『どうしたのだろう…』
本来、岩下の席となる席は空席のままであった。
もうそろそろH・Mが始まる時間である。
この時間に岩下がこない事は滅多に無い。
「あの…すいません。」
セリスはドアの所に立っている瑞穂に声を掛けられた。
「ん…なんだい?」
セリスは瑞穂に向き直って答える。
『確か…この子は岩下さんのお気に入りの娘だったかな?』
「あの…信さ…あっいえ、岩下さんは来ていますか?」
瑞穂はいつもの癖で岩下の事を『信さん』と呼んでしまい、慌てて
訂正しながらセリスに聞いた。
「いや…まだ見ていないけど…朝は一緒ではなかったの?」
「はい…一緒に来ていたのですが、『仕事が出来た』といってどこ
かに走って行ったので…」
「『仕事』ねぇ…」
瑞穂の言葉をいぶかしげに繰り返すセリス。
『そういえば、岩下さんは、よく『仕事だ』といって姿を消してい
たなぁ…』
セリスはいつもの岩下の言葉を思い出した。
だったら、心配は要らない。
セリスはそう判断した。
「そんなに心配しなくても、大丈夫だよ。」
セリスがそう言った時、予鈴が鳴り響いた。
「あっいけない、では、失礼します。」
予鈴を聞き、瑞穂はセリスに礼をするとぱたぱたと廊下を走って行
った。


その頃岩下は…
「…これは、完全な遅刻…だね。」
L学園に向かって走りながらつぶやいた。
あの後、いきなりもう一体妖魔が現われ、手間が一つ増えてしまったのだ。
「…仕方が無い、急いで駄目だったらあきらめよう…」
岩下は全力疾走をしつつ、またつぶやいた。
『しかし…ここの所の妖魔の増え方をどう説明するのか…』
急に岩下の頭の中に疑問が浮かぶ。
『…あの人がここまでの妖魔を呼び出す筈もないし…』
…などと考えていたその時、岩下は、奇妙な感覚を覚えて足を止めた。
『…奴等か?…いや、違うな…』
妖魔の独特の気配に似た何かの気配を岩下は感じた。
『…何か気になる…行ってみよう。』
岩下はその奇妙な感覚の方へと走り出した。


時を同じくして…
「…大変なことになったようだね…。」
「えぇ、こんな事になるとは…」
「…起こってしまったことはしかたが無い、とりあえず対策…だな。」
生徒会室で、ふたりの人物が苦渋を浮かべていた。


一方、岩下は…
奇妙な感覚の方へ走ること数分、たどり着いたのはL学園の校舎裏だった。
むせ返るような香気が辺りに漂っている。
『!!』
其の現場に居た者を見て、岩下は、息を飲んだ。
かろうじて人だと分かる者がそこに居た。
あたりには、桃色の気が立ち上っている。
「…魔に魅入られたか…」
その相手からわずかに出ている人の気と、激しい得体の知れない気を読み取
って岩下はつぶやくように言った。
「大丈夫ですか?」
問いかけに相手は何も答えずに、じっと岩下の方を見ているだけである。
『これは…急がないと…』
岩下はその者の反応から何かを読み取った。
『火使い』特有の勘というべきであろうか。
この相手を放っておく訳にはいかない。
警鐘ともいえる予感が岩下の脳裏を刺激していた。
この者の気が妖魔達を集めている。
その上、この者が何か災いとなる…と…
「…あれで、救えるだろうか?」
そう言うと、岩下は詠唱の構えを取る。
『大気に宿りし炎の精霊達よ、その力を解放せよっ!』
岩下の周りに蒼い炎が現れる。
『天界の輝きを纏い、我が力となり、すべての悪しき存在を浄化せよ!』
そして、周りの蒼炎が、その者に向かって伸び、取り囲んで行く。
『…上手く行ってくれよ…』
そう念じながら、炎の精霊達を短時間で集約してゆく。
“霊火・天儘!!”(れいか・てんじん)
相手の周りの炎が岩下の声と共に、天へと伸びる炎の柱となって、燃え上がる。
「……効いていない!?」
燃え立つ炎の柱を見て、岩下はうめくように言った。
本来なら“霊火・天儘”を受けた魔の属性の者は炎によって浄化される筈である。
しかし、目の前の相手からは依然として奇妙な気が放たれている。
『魔では無い!?…だとしたら一体…』
炎の柱の中から相手がゆらりと姿を現した。
魔の者を燃やすのみなので、当然相手はなんのダメージも受けていない。
「…あなたは一体…」
岩下は相手に問い掛ける。
しかし、相手は答えず、先ほどより激しく気を放ちながら岩下へと歩み寄る。
相手の気に当てられ、岩下は目眩を感じた。
『くっ…一体、何者?』
得体の知れない相手に岩下は戸惑った。
魔の者ならここで、大技を放って滅ぼす事も可能だが、相手からはわずかながら
人の気配を感じている。
無理に大技を繰りだそうなら、相手ごと滅ぼしてしまうに違いない。
岩下はその事態だけはどうしても避けたいと思っていた。
『しかし…霊火・天儘が効かない相手を救うには…』
必死で相手を救う術を模索する岩下。
そんな岩下に相手はどんどん近づいてくる。
『どうすれば…』
岩下の頭は術を模索し続けている。
「ふしゃあぁぁぁぁぁぁーーーー」
相手が不意に吠え、岩下に飛び掛かってきた。
「!!」
岩下は相手の一撃を後ろに素早く飛んで逃れる。
『仕方が無い…やるか…殺さない程度に痛めつけて、その後考えよう…』
着地と同時に岩下は考えを変え、相手に仕掛けた。
「ぬうぅぅぅん!」
一吠えとともに、相手に向かって炎を放つ。
通称『鬼焼き』と呼ばれる技である。
飛び込む岩下に相手の一撃が飛んでくる。
『鬼焼き』のヒットともに、強い衝撃が岩下を襲う。
「…ちっ!」
その衝撃を上手く逃して、岩下は着地する。
着地した岩下目掛けて、相手が追撃を仕掛ける。
「!早いっ!」
相手の追撃をもろに食らって、岩下の体が宙に飛ぶ。
その一撃に逆らわずに岩下は上手く体制を立て直し、相手を見据える。
岩下との距離は数メートル離れて、相手は立っている。
『いけるっ!…まぁ死にはしないだろう…』
直感的に岩下は思うと、
「遊びは、終わりだっ!」
岩下の天へと交差させながら伸ばした腕から光が爆ぜた。
そして、次の瞬間岩下は相手の懐まで飛び込むと、
「泣けっ!叫べっ!そして…」
掛け声と共に相手に拳を繰り出し引き裂く、
「死ねぇっ!」
最後に吠えながら、相手を焼き払う。
通称『八雅女』と呼ばれる技である。
岩下の思惑では、ここで相手が倒れる…筈だったのだか、相手は炎に焼かれ
ながらもダウンせずに立っていた。
多少のダメージは与えただろうが、動きを止めるまでは到っていない。
「…八雅女も駄目かっ!」
はき捨てるように岩下が言う。
『接近戦で最大の威力を持つ『八雅女』が通用しない相手…さて、どうする?』
岩下の頭の中をありとあらゆる手段が駆け巡る。
『人でなければ烈火系か“あの力”でけりをつけるのだが…』
舌打ちをしながら岩下は相手を見る。
「ふしゃああぁぁぁぁぁーーーー」
相手が『今度はこっちの番だ』と言わんばかりに襲い掛かってくる。
「!!“炎壁!”」
岩下はそれを見て防御壁を張る。

ばしゅうぅぅぅぅ……

「何!?」
相手が岩下の防御壁をいともたやすく打ち破って突進してくる。
つづいて、驚愕のあまりに隙の出来た岩下に向かって攻撃を加える。
「…そんな…馬鹿な……」
攻撃をもろに食らって膝を着きながら岩下はつぶやいた。
膝をつく岩下にその者は容赦無い攻撃を加える。
相手の攻撃のなすがままに宙を飛んだり、地に叩き付けられたりする岩下。
『このままでは…』
地に伏したまま岩下はそう思い、一つの決断をし、すぐに詠唱に入る。
相手は今にも岩下に止めを刺そうとしている。
『炎の精霊達よ!怒れる炎となり、彼の敵を焼き尽くせ!』
“蒼炎弾!”
岩下の手から蒼炎がほとばしる。
炎に焼かれ、一瞬相手の動きが止まる。
その隙をついて、岩下は素早く相手の間合いから逃れる。
続いて、
『炎の精霊達よ!天界のかがり火を纏い、聖なる五方位を描き、すべての
魔、すべてのものを食らい尽くせ!』
相手の周りから、五本の炎の柱が生まれる。
“烈火・五方炎柱!”
岩下の声と共に、五方位からなる火柱が相手に襲い掛かる。
「これで、どうだっ!?」
叫び声がその場に響き渡った。
燃え盛る炎の柱を見て、岩下はまたもや、奇妙な感覚に陥った。
『手応えが…ない?』
普通ならば、炎が何かを燃やす手応えというべきものがあるのだが、それが
まったく感じられない。
『炎の精霊達よ、静まれ』
岩下の詠唱に答えて、炎の柱が掻き消える。
その中心に居るべき相手の姿が無い。
『逃げた!?…いや…』
急いで辺りの様子をうかがう。
しかし、相手の気は感じられない。
『…今のは一体??』
キツネにつままれた様に岩下はその場に崩れる。
相手の消えたという事実が今までの緊張感を解き放った為、今までのダメージ
が一気に出てしまった為である。

それから、数時間後、岩下は『SGY討伐隊』に抜擢され、久々野らと共に
SGYと交戦する事となる。
そこで、先の相手がSGYである事を岩下は知る事となる。
SGYから受けた傷は『念治療』でどうにか直したものの、『念治療』による
精神力の低下で大技を放つ事が出来ないで居た。

討伐隊が追いつめられた食堂で、岩下は周りが焦り、混乱するのを尻目に一枚
の写真を見ていた。
打ち合わせも済み、後は奴…SGYの現れるのを待つだけである。
「…守るべき物…か…」
誰に聞かせる事もなく、岩下はつぶやく。
『負ける訳にはいかない…学園の為にね…そして、彼女の為に…』
すこし、離れた所で橋本という男が悪態をついている。
拳を握り締め、写真を見つめる岩下。
『最悪の場合は…忌しき力を使う他はないな…』
万が一の可能性を考えて、岩下は覚悟を決めた。
…しかし、SGY大戦は久々野と拓也の力によって幕を閉じる事となって
岩下の覚悟は無用の心配に変った。


SGY大戦から数日後の3年生の教室での事である。
L学園自体は完全とは言えないが、SGY大戦の傷跡から復興していた。
時は放課後、岩下がセリスと話をしていた時である。
教室のドアががらりと開き、月島 拓也が教室に入ってきた。
「…岩下君、ちょっといいかな?」
拓也は岩下に話し掛けてくる。
「なんでしょうか?」
「話がある、ちょっと付き合ってくれないかな?」
拓也が言った。
「……いいでしょう。」
岩下は拓也の目を見て答えた。
「という事だから、セリスさんまた…。」
今まで話をしていたセリスに手を上げて挨拶をしながら、岩下は席を立ち
あがる。
「あっ、今度ゲーセンで勝負しましょうね。」
立ち上がる岩下にセリスは今までの会話に終止符を打つ。
岩下はセリスの声に軽く手を振って答えた。
『しかし…何の用だと言うのだろうか…?』
拓也の後に続きながら岩下は考えた。
『悪意は感じないものの、学園一の騒動主が自分に何の用だと言うのだ?』
岩下は拓也の動きの一つ一つを注意深く見ながら考えた。
最悪の場合、いきなり襲われる可能性もある。
『用心に超したことはないか…』
拓也に気づかれない様に、岩下は精霊達を呼び起こした…

「まぁ、入ってくれたまえ。」
拓也が岩下を促した。
「ここは、生徒会室ですよ。」
岩下は『生徒会室』と記された部屋を見て言った。
「いいんですか?部外者を入れたりして…。」
「いいから、入った、入った。」
戸惑う岩下を拓也は笑いながら促す。
岩下が生徒会室に入ると、拓也は扉に鍵を閉める。
「…どういうつもりですか?」
拓也の動作を見て岩下はさっと身構えた。
「いや、今回は二人だけで話をしたいんだ…まぁ掛けてくれ。」
拓也の表情は真剣その物であった。
岩下は警戒しつつもすすめられた席に座る。
「話と言うのは?」
岩下は拓也に問う。
「…岩下君に生徒会副会長に就任して欲しいのだが…どうだろうか?」
拓也が岩下の目を真っ直ぐ見て言う。
「…私がですか?」
あまりの予想外の拓也の言葉に岩下は戸惑う。
「そう、君なら任せられる、そう判断したんだ。」
「しかし…副会長なら太田さんが居た筈では?」
「あぁ、彼女は…罷免にした。」
「どうしてですか?」
岩下は聞き返す。
「これからは生徒会が非常に大きな権力を持つ、それに際して彼女は
力不足なのだよ。」
拓也が答える。
「で…私には出来ると。」
「そう、君の噂はいろいろと聞いているよ。だから、指名した訳だ。」
「何故ですか?私以外にも候補者は居るのでは…」
「謙遜かい?」
「いえ、そういう訳では…。」
「まぁ、君が不信がるのも不思議はない。はっきり言えば、君の力が必要なの
だよ。…聞けば君はあのSGYと対等に戦っていたと言うではないか。」
「…あなたには敵いませんよ。」
「そんな事はないだろう。」
拓也が笑う。
岩下としては、騒動主の拓也と関わり合いになりたくはなかった。
立場的には、岩下と拓也は対立関係である。
『…待てよ……』
岩下は一つの考えを思い付いた。
『ここで、生徒会に入っておけば、彼の行動を把握できる。そうすれば学園の
騒動の半分は押さえられるだろう…』
「…分かりました、その話受けましょう。」
岩下はそう答えた。
「よし、これで決定だね。では、早速で悪いのだけど明日からここに来てもらえ
るかな?」
「分かりました、ではまた明日にでも…。」
「頼んだよ、岩下君。」
拓也が岩下に手を差し出した。
「はい。」
岩下は差し出された拓也の手をとる。
敵対する筈の二人が手を結び、ここに、新生月島生徒会が誕生した。

                                               〜終わり〜

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どうも、お久しぶりです。
Lメモ岩下の過去編第二弾ということで、SGY大戦、生徒会副会長就任の話を
書いてみました。
前回と同じシリアスです。
多分これで過去編のネタは切れました。
しばらくは過去編は書けないでしょう…(^^;

次はダリエリの話を書こうと思っています。
題して『L学園の危機』
内容は未定、(核爆)
発表も未定(超新星爆)
と言う訳です。
では、失礼します。