L学園の長い一日 序章 投稿者:岩下 信
その日は、平和だった…
数々の騒動が何一つ起こらずに、ただただ時間が流れていた。
…ただ一人の訪問者が来るまでは…

「平和だねぇ…。」
生徒会室で瑞穂の入れたミルクティーを飲みながら岩下が言う。
「そうですね。」
微笑んで岩下に答える瑞穂。
そのとなりで、同じように紅茶を飲んでいる桂木、吉田も思い思いの時間を
すごしていた。
「ところで、月島さんは?」
「あの人なら『暇だから、瑠璃子の所へ行ってる』と言ってどこかに行きま
したよ。」
岩下の言葉に、吉田が答える。
「…………。」
岩下はただ、苦笑するしか無かった…
「では、今日は仕事も無い事だし、ひとつトランプでもしようか?」
「はいっ!やりましょう。」
「いいですね。」
「たまには、遊びましょう…。」
岩下の提案により、岩下を含める四人はトランプに興じる事となった。
…断っておくが賭けてはいないし、脱衣でもない…(笑)

しばらくして…
「ここか…我が同胞が多く居るのは…」
一人の男がL学園の校門に立っていた。
その脇を…
「食らえっ!…ロケットパーンチ!」
「…甘いです。」
とDセリオとジンが闘いながら通り過ぎて行った。
その際に流れ弾が立っている男へと向かっていた。
当然ながら、二人はそれに気づかない。
「…ふっ…。」
その男は一笑すると、流れ弾をいともたやすく弾いた。
「…見つけたぞ…我が同胞の一人を…。」
男は低くつぶやくと、ジン達が走り去った方へと走り出した。
その様はまさに、黒い疾風であった。

その頃柳川は科学室でジンの新たなパーツを作っていた。
「……!?……同族か?」
パーツを作る手を止め、低く柳川はつぶやいた。
同じ、鬼の力を持つ者が近くに居る…
柏木の者とも違う、エルクゥ同盟のものとも違う気。
「…面白い…出迎えてみるか…」
柳川は低く笑い、白衣のまま科学室を飛び出していった。
科学室に残されたものは、作りかけのあやしいパーツと割れた窓ガラスで
あった…


L学園の校庭で、三つの人が大規模な戦いを展開していた。
一人はジン・もう一人はDセリオ・そして、先ほどの男だ。
「邪魔をするなぁー!ロケットパーンチっ!」
「うふふ…ファイナルガーディアン!」
ジンとDセリオは同時に男に仕掛けた。
闘っている二人の間に乱入した男は、不気味な笑みを絶やさぬまま、二人の
攻撃をあっさりと躱している。
Dセリオのファイナルガーディアンを避け、ロケットパンチを叩き落とす。
そして、男は黒い疾風となってDセリオに飛び掛かる。
「…ふふ、邪魔だからな、狩ってくれようぞ…。」
低い呟きと共に、男の手の爪が鋭い刃となり、風が唸りを上げる。
「!…マグネティックフィールド!」
Dセリオは突っ込んでくる相手を見て、自分の周りに電磁フィールドを張る。
「ぬおぉぉぉぉぉぉぉぉ…。」
Dセリオの張った磁力フィールドに囚われて、男の手が一瞬止まる。
男とDセリオの間に一瞬だけ紫電がいくつも走る。
「くっくっくっ…雷撃か…。」
男はすぐに手を放し、干渉外へと飛び引く。
その隙をねらってジンが仕掛けた。
「もらったぁ〜!」
叫びと共に、ビームランチャーを放つジン。
男はそのビームをすばやく横に飛んでかわしつつ、ジンの間合いに飛び込む。
「!」
男のあまりの速さに、反応出来ないジン。
男はジンの間合いに入ると共に、ジンの胸倉をつかむ。
「…なにを…。」
「ふふ、我が同胞よ、その力を解き放つのだ…。」
男の言葉と同時に、男の目が怪しく光る。
「……ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁーーーー!」
男の目を見ると同時に、ジンが叫び声を上げた。
「くっくっくっ……。」
そんなジンを見て男は低く笑い、その場を去ろうとする。
「サウザンドミサイル」
Dセリオが飛び去ろうとする男にミサイルを飛ばす。
Dセリオのミサイルを一笑と共に避け、そのまま男は黒い疾風と化してどこか
へ飛び去っていった。
そして、Dセリオはその後を追って行った。
倒れているジンは気にしていない。
その為、不気味な笑いを浮かべて立ち上がるジンを誰も見てはいなかった…

その後、男はDセリオの追撃を振り切って、柳川や、耕一・千鶴・楓・そして、
西山らエルクゥの力を持つ者すべてに接触し、彼らの本能とも言える「狩猟欲
望」を次々と解放していった。
その結果、エルクゥの力を持つ者は皆「狩猟者」と成り、手当たり次第人を
狩り始めた…
「くっくっくっ…獲物も大量に居る事だ…私も始めるとするか…」
男は次々と狩りを始める同胞を見届けると、自らも狩猟へと駆け出した。

「…なんだい!今の叫び声は?。」
生徒会室でトランプをしていた岩下がその手を止めた。
どこからかは分からないが、悲鳴が聞こえてきたのである。
「…なんでしょうか?」
瑞穂が辺りを伺いながら言った。
あちらこちらで上がる悲鳴。
そして、爆発音
何かが起こっているのは、疑いが無かった。
「…ちょっと見てくた方が良いかな?…君たちはここで待っているんだ…」
と岩下が扉を開けようとした時、生徒会室の扉が勢いよく放たれた。
「!」
突然空いたドアに岩下は一歩下がった。
「岩下さん、ここでしたか!大変です、あっちこっちで人が倒れています!」
岩下の目の前で血相を変えたセリスが立っていた。
もちろん、その後ろには息を切らせたマルチが立っている。
「セリスさん…どうしたのです?」
何かが起こっているとは気が付いていたが、そこまでの事とは思っていなか
った岩下はセリスに聞く。
「あの…耕一先生達が…人を……。」
セリスの代わりにマルチが答える。
「…とにかく、尋常ではないようだね…。」
「岩下さん、ここは『ジャッジ』を招集かけましょう!」
セリスが言う。
「…そうだね、風見君に連絡を取ろう…では例の部屋に急ごう」
岩下が生徒会室にいる面々に声を掛けた。
三人は緊張した顔でうなずいた。
それから、岩下等は生徒会室の上の階にある部屋へと移動した。
ここはもともと空き教室だったが、岩下が生徒会での権力を利用して表向きは
同好会の部室として、実際は『ジャッジ』の基地として、使用する事となった
部屋である。
内部は学園全体が把握出来るようなモニターや、各個人の武器などが置いてあ
る。
「さて、では現状把握から始めようか…桂木君、頼むよ。」
「はい。」
岩下の声に桂木がモニターへと向かい、キーボードを打つ。
同時に連絡を受けた風見ひなたが部屋に到着した。
「…どうしたのですか?ひどいありさまですよ。」
ひなたの第一声がそれだった。
ひなたの側には美加香が居る。
「…いや、まったく分からないのだよ。」
ひなたに岩下が答える。
「分からないって…僕は襲われましたよ…耕一先生や、師匠、それに、ジン
さんに…。」
「ジンに?」
セリスがひなたの言葉に反応する。
「柏木耕一先生に、柳川先生…それに、西山さんか…共通しているものがある
かな…」
岩下が考え込む。
「岩下さん…それは、たぶん「エルクゥ」だと思います。」
そばに居た瑞穂が声を掛ける。
「なるほど…たしかにそうですね、でも何故いきなりこんな事に…。」
ひなたが瑞穂の言葉に疑問を打ち出す。
しかし、その疑問に答える前に機械音が響いた。
「…現状は、ひどいです。」
モニターから目を離した桂木が岩下らに報告する。
「…どんな感じだい?」
「複数による被害があちらこちらで起こっています。荒らしているのは…
柳川先生、柏木先生、ジン・ジャザムさん、西山さん達ですね…あと、見知ら
ぬ男の人がいます。」
「これに対して、風紀委員会は怪我人の保護、一般生徒の避難を行っています。
来栖川警備保障は活動中、その他数人がこの事件に対して何らかの行動を取っ
ています。」
学園内にあるカメラが捕らえた映像から、吉田・桂木が報告する。
「…その男の姿を見せてくれないか?」
「はい。」
岩下の声に吉田はその男の写っている映像を見せる。
「……生きていたのか……。」
その映像を見て、岩下がつぶやく。
「?…岩下さん、その男を知っているのですか?」
セリスが岩下に尋ねる。
「…あぁ、知っているよ…。」
岩下はモニターを見つめたまま答える。
「どんな……。」
「よしっ!『ジャッジ』はこれより、荒している者を制圧する…と言っても殺
さないように、適当に痛めつけて身動きを取れなくするのが目的です。」
セリスの言葉を遮るようにに岩下が言った。
「岩下さん、さっきの男を知っているのですか?」
こんどはひなたが岩下に聞いた。
「…あぁ…数年前に私を追い込んだ男だよ…。」
うめくように岩下が答えた。
「あの男には、私が当たるよ…いや、決着を付けないといけないからね…」
岩下は自分のロッカーから一本の剣を取り出して言った。
「…藍原君、例のものは持っているよね?」
「はっはい、大丈夫です。」
「そうか…頼んだよ。」
岩下は瑞穂の頭に手を置いて言った。
「はいっ!」
瑞穂は元気よく答えていた。
「…セリスさんと、ひなたさんは…誰を押さえるかは任せるよ、来栖川警備保
障の人たちも動いていると思うから、出来るだけバックアップしてあげて欲し
い。」
「僕は…ジンを止めに行きます…。」
ビームモップを装備したセリスが立ち上がりながら言った。
「僕は…師匠を…。」
ひなたも立ち上がりながら言う。
「よし、では活動開始としよう。」
岩下はそう言って扉を開けた。
「…吉田君と桂木君は、ここで待機、現状を把握の上、メンバーに通達、ちな
みにここから絶対でないで欲しい。ここには、外から入れないように結界を作
っておくから…」
岩下の言葉に二人はうなづいた。
「藍原君、行こう。」
「マルチ、行くよ。」
「美加香、付いてこいっ!」
各々が部屋を出ていった…

                                 続く

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どうも、岩下です。
今回は長編となりました。
この後、各個人編へと続く予定です。
ちょっと嗜好を凝らしております。(笑)
どのように続きかはお楽しみ…という訳で、
ご期待頂ければ幸いです。m(_ _)m

すいませんが、感想はメールにて遅らせて頂きます〜
いつも皆様の作品を楽しみに拝見させて頂いています!
それでは、失礼します。