L学園の長い一日 岩下編(前) 投稿者:岩下 信
「それでは、無理をしないようにね。」
それぞれの目指す相手へと向かって行く二人の背中に声を掛ける岩下。
「さてと…まずは…」
ジャッジ本部の扉をしっかりと閉めると、岩下はポケットから数本の小刀を
取り出した。
「?それは?」
岩下の取り出した小刀を見て、瑞穂が岩下に聞く。
「あぁ、これは結界刀というものだよ。」
取り出した小刀を扉に星型に刺し並べながら岩下は答える。
「よし…“秘められし封じの力よ、その力を七門の方位によって解き放て!”」
岩下の詠唱と共に、星の形に刺した刀が輝き、光で扉を覆いはじめた。
「…これでよし…っと、それでは藍原君、行くよ。」
「はい。」
「ここだったか、探したぞ。」
二人の元に一人の男が近づく。
「悠さん…なにか?」
近づいて来た男…悠に岩下は答える。
「なに、ごたごたとうるさいのでな…おまえ達も動いているだろうと思ってき
ただけだ…どうだ?手伝うか?」
二本の刀を目の前に出し、悠は岩下に言う。
「お願いします。」
岩下は頭を下げて言った。
「任せとけ、奴等を倒せばいいのだろう?」
にやりと楽しそうに笑い、悠は答える。
「…殺さないようにして下さいよ…。」
「あぁ、気を付けるよ。」
悠はそう言い残すと、その場を走り去った。
「さぁ、私達も行動を開始しよう。」
岩下が瑞穂に向き直って言った。

二人は目指す男の居る所へと移動し始めた。
男の場所は本部の桂木からの連携で、瑞穂に伝えられる。
「…信さん、例の人はB棟の二階ですっ。」
「了解、急ぐよ…。」
二人は学園内を目標めがけて進んで行く。
学園内はエルクゥの血を引く者達によってあちらこちらと破壊されていた。
そして、所々残る血の跡が痛々しい。
『急がねばならない…』
焦る心を押さえつつ、中庭をB棟に向かって進む岩下。
『それにしても…何故あの者の気配を感じられなかったか…』
現世を守護するのが目的の“使い人”は悪しき力にはすぐに反応するものであ
る。
それが今回の一件では叫び声がするまで気が付かなかった。
『気が付いていれば…こんなに被害を出さなかった…』
ぐっと唇をかみ締める岩下。
「…あの、信さん。」
瑞穂の声にふっと我に返る岩下。
「ん?なんだい?藍原君。」
「…どうしたのですか?恐い顔をして…」
「…いや、何でもない……。」
岩下は瑞穂に笑顔で答えようとしたその時、表情が一段と厳しくなる。
「…藍原君…お客さんだ…。」
「?」
瑞穂は岩下の視線の方へと目を向ける。
その瞬間、黒い疾風が瑞穂へと迫る。
「!藍原君!。」
きぃぃぃぃぃぃぃんん……
甲高い音が無人の廊下に響き渡った。
「きゃっ!」
その甲高い音は瑞穂の持つ「守りの石」の力が作用して、飛び掛かってきた男
の一撃を防いだ音だった。。
「…柳川先生…貴方でしたか…。」
岩下はその姿を見て低くつぶやきつつ構えを取る。
「…くっくっくっ…美しい命の炎だ…。」
岩下の呟きに柳川は岩下へと向き直る。
「こうなってしまったからには仕方がありません…貴方を倒します…」
岩下が言葉を発し構えを取った瞬間、
「見せてもらうぞ!貴様の命の炎を!!」
柳川が叫び、岩下に向かって突進してきた。
「…藍原君への一撃、許す訳にはいかない…。」
飛び掛かってくる柳川を見据えて岩下は腰を低くする。
完全に迎え撃つ体制だ。
「どうしたっ!」
野獣のごとく飛び掛かってくる柳川に向かって岩下は闇払いを放つ。
岩下の放った闇払いを飛んでたやすく避け、上空から柳川が襲い掛かる。
「…死ねっ!」
「くっ!」
岩下は後ろにすばやく飛んで柳川の一撃を避けようとする。
しゅぱっ!
紅い霧が辺りに舞った。
柳川の一撃を避けきれずに、岩下は腕を浅く切られていた。
ガードした腕が激しい風圧で切り裂かれたのだ。
柳川との間合いをすばやく取り岩下は思考を始める。
『…あの男との戦闘を控えている以上、ここで力を温存しなくては…しかし、
柳川先生とて楽な相手ではないし…早めに決着を付けない事には…』
「ふっふっふっ…殺してやるよ。」
岩下の思考は柳川の言葉で遮られた。
疾風と化して岩下に飛び掛かる柳川。
「…やるしかないようだな……遊びは終りだっ!」
向かってくる柳川を見て、岩下は八雅女を発動させる。
天へと伸ばした腕から光が弾け、柳川へと飛び掛かる岩下。
「さぁ、見せてみろ!貴様の命の炎を!」
「泣けっ!叫べっ!そして、死ねぇ!」
共に叫びつつ技を繰り出す二人。
二つの影が交錯した瞬間、砂埃が舞いあがり視界を遮る。
ぼおぅっ!
最後にそんな音がして砂埃の中から蒼炎が浮かび上がる。
砂埃が晴れゆく中、二人はにらみ合うように対峙していた。
柳川はあちらこちらにやけどを負い、岩下は所々血を流している。
「くっくっくっ…面白い…こうでなければなぶりがいが無いという物だ…
久々に本気を出せそうだ…。」
柳川が低くつぶやくと柳川の体が変化し始める。
「くっ!させるかっ!」
その様子を見て岩下は柳川に向かって仕掛けた。
柳川の間合いへと飛び込み、渾身の力を込めて鬼焼きを柳川に向かって放つ。
「くっくっ…甘いぞ。」
「がっ!」
半ば鬼と化した柳川の拳が岩下の腹に食い込んでいた。
ごぼっと紅いしたたりが岩下の口からこぼれる。
それを見て岩下の首をつかみつつうれしそうに笑う柳川。
「信さんっ!」
岩下が血を吐く様をみて瑞穂が叫び声を上げ、駆けつけようとする。
「くっ…来るな…」
瑞穂が駆け寄ろうとするのを見て、岩下はそれを遮る。
そして、次の瞬間、
とごっ!
鈍い音がして柳川の体が揺らいだ。
「!?」
首をつかむ腕の力が緩んだのを機に、岩下は柳川の体を蹴り上げ間合いから
離脱する。
「…岩下様、大丈夫ですか?」
柳川の後ろにビームモップを手にした貴姫が立っている。
「…こほっ…貴姫さん……。」
軽くせき込みながら岩下は自分を救った貴姫に声を掛ける。
「…細かい事は後にしませんこと?いまは…あの鬼を止めるのが先ではあり
ませんか…」
「そうですね…。」
口の端の血をぬぐいながら、岩下は答える。
「では…行くぞっ!」
「はい…」

その後、約十分間で闘いに決着が付いた。
貴姫の放った『閃止公』で柳川の動きを止めた後に岩下の「霊火・天儘」で
柳川の中の「狩猟者」としての血を眠らせる事に成功した為であった。
「…これで、大丈夫でしょう。」
霊火・天儘を受けて「狩猟者」の血を眠らされた為、軽いショック状態で気を
失っている柳川を見ながら言う岩下。
もちろんその隣には瑞穂が居る。
「そうでしょう……それにしても岩下様ほどの力を持つ人が苦戦を?」
同じく気を失っている柳川を見つつ、岩下に問う貴姫。
「訳アリでしてね…力を温存しないと行けない訳です。」
「そうなのですか…」
「とにかく…貴姫さん、ご協力ありがとうございます。」
貴姫に向かって頭を下げる岩下。
「そんな…御忘れですの?私が『ジャッジ』に入っている事を…」
ちょっとすねた様に貴姫が言った。
「…あっ…そう言えば…」
岩下は額に冷や汗をかきつつ答える。
「…御忘れになっていたようですね…」
ため息と共に貴姫が言う。
「…すいません…」
再び頭を下げる岩下。
「まぁ、いいですけど…ところでなぜ力を温存しているのです?」
くすりと笑って岩下に聞く貴姫。
「それは…古き因縁の相手…という所です。」
自然と岩下の顔が引き締まる。
「因縁の相手ですの…それでは…『霊癒っ!』」
貴姫の回復治療により、柳川から受けた岩下の傷が回復して行く。
「…かたじけないです。」
「いえいえ…。」
微笑みながら貴姫は言った。
「それでは…藍原君、行くよ。」
隣に居る瑞穂へと声を掛け、岩下は駆け出した。
瑞穂も貴姫にお辞儀をして岩下の後に続く。
「くすくすくす…相変わらず仲がよろしい事で…。」
微笑みながら二人の後ろ姿を見送る貴姫。
「さてと…マルチ様を探さないと…。」
貴姫もその場を後にした…

                                〜続く〜

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どうも、岩下です。
「L学園の長い一日」リレー方式でお送りしてみました。
セリスさん、ひなたさん、本当にお疲れ様でした!

感想とか書きたいのですけど…時間が無いので後程メールにて送らせて頂きます。
それでは失礼します。(ぺこり)