Lファンタジア・ジン外伝 第一話『夢をユニゾン!』Aパート 投稿者:ジン・ジャザム



 薄紅。
 薄紅色の華を俺は見た。
 如何なる華よりも美しく、毒々しいその華を。
 無力な世界を嘲笑うように
 そんな世界に縛られる人間を憐れむように
 華は咲き乱れる。
 無窮の空を、嵐に舞う花弁が埋め尽くす。

 薄紅に染められた空の下、白亜の城がそびえ立つ。
 城の中、人々は慌てふためき、逃げ惑う。
 だが力の奔流は無慈悲にも彼らを包み込む。
 総ては光の中に砕けていく。

 城の中心部。
 巨大なコンピューターの前で、神官衣のようなものを身に纏った人々が、右
へ左へ奔走する。
 広いこの広間中に響き渡る怒号と悲鳴。
 端末に幾つもの映像が、データが映し出され、それを覗き込むたびに彼らの
表情は絶望へ染まっていく。
 広間にはむせ返るような、華の香気が漂っている。

「どういうこと? 女神のシステムに介入出来る者がいるなんて……こんなこ
とは智波叛逆のとき以来……」

 コンピューターを見下ろす位置、司令室の椅子にその女性は座っていた。
 端整な顔立ち。長く美しい黒髪……俺のよく知っている顔だ。
 そして、彼女の呟きに応えるかのように

『そのような小者と一緒にしてもらっては困るな。魔法神族の女王よ』

 声が響き渡った。
 それと同時、広間にあの薄紅色の嵐が吹き荒れる。
 舞い踊る花弁に身を隠すように、ソレは佇んでいた。

「……貴方は?」

 女王と呼ばれた彼女が誰何する。

 ――にたり。

 ソレは嗤った……ような気がした。

『女神を……喰らう者!』

 ――業ッッッッッッ!

「なっ……!?」

 ソレの躰から、この世界を構成するマナが溢れ出す。
 マナは残酷に、理不尽に、総てを蹂躙する。
 破壊崩壊決壊。
 マナの暴走。
 失われていく生命。
 世界。
 因果。
 世界を構成する因子が、情報が、一気に流出する。

「この力……神話級! 世界を……このレザムヘイムを崩すと言うの!?」

 女王は己の構成因子を必死に世界に繋ぎ止めようとする。
 だが圧倒的な情報の洪水は、彼女を激しく打ち据えた。
 彼女の姿が、まるで映りの悪いテレビのように、崩れ、掠れる。
 総てが混沌の渦に飲まれていく……

『……ゥゥゥゥゥゥ……ギィィィ……ギYYYYYYYィィィィィィYYYY
YYYYYYYYYYィィィィィィィィィィYYYィィィィィッッッッッ!』

 破壊者の咆吼。
 聞く者に生理的嫌悪を催す不協和音。
 その咆哮とともに流れ出す力に混じる波動を察し、女王は最期の呟きを洩ら
した。

「これは……同じ魔法神族……!?」
 
 ――刹那。

 閃光。
 漆黒。
 爆音。
 静寂。
 活動。
 停止。

 ――そして、世界は一度死んだ。


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 ――Lファンタジア・ジン外伝――

           第一話『夢をユニゾン!』

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 ピピピピピピピピ……!

「はぐわっ!?」
 突然鳴り響いたけたたましい電子音に驚かされ、俺はベットから跳ね起きた。
 寝惚けた頭で、何とか周囲の状況を把握しようとする。
 ……いつもの、俺の部屋。
 カーテンの隙間から、朝日が射し込んでいた。
「……夢?」
 薄紅色の華。
 白亜の城。
 女王。
 破壊者。
 そして、砕ける世界……
 それらの総てが、急速に現実感を失っていく。
 まるで手のひらに乗せた粉雪が淡く消え逝くように。
「……夢か」
 と、もう一度、確認をする。
 それでようやく、頭の中がはっきりしてきた。

 ピピピピピピピピ……!

「だぁぁぁぁぁぁ! うるさい! 分かったつーのっ!」
 俺は枕元の目覚まし時計を止め、時間を確認する。
 ――七時三十六分。
 まっ、こんなもんだろう。
 俺はカーテンと窓を開き、朝の空気を思い切り吸い込んだ。
「んーっ……よしっ! 今日もいい朝だ」
 大きく伸びをしてから、俺は掛けてあった制服に着替え始める。
 ……しっかし、奇妙な夢だったなぁ。
 ファンタジーつーかSFつーか。
 まっ、所詮は夢だ。深く考えても意味はあるまい。
 制服に着替え終わった俺は、鞄を持ち、部屋を出る。

 今日もいつも通りの日常が始まる。

 ……おっと、自己紹介がまだだったな。
 みんな、おはようっ!
 俺の名前はジン・ジャザム!
 熱血とロボットをこよなく愛する、ご存知、試立Leaf学園に通う美少女
小学生だっ!















      バシュタール現象により、地球は完全に静止した。















「待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇいっっっっ!!
 今何を口走りやがりましたか俺ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
 しょしょしょしょしょしょしょしょしょ小学生って何だっ!?
 あと美少女つーのも!!
 かかかかか鏡っ! 誰か鏡っ! 鏡持ってこいッッ!! コルトパイソンで
も可ッ(駄目です)
 いやいやいやいやいや! 落ち着け俺!
 深呼吸! 深呼吸ッッ!
 吸ってぇぇぇぇ……吐いてぇぇぇぇ……
 吸ってぇぇぇぇ……吐いてぇぇぇぇ……
 吸ってぇぇぇぇ……はい、そこで止める。
 ふぅ……とりあえずは落ち着いた。
 そうさ、冷静になれ……まだ頭が寝惚けているのさ。
 ははははっ。お茶目だなぁ、ボクって!
 コツンッ☆ミ(自分の頭を小突く)
 ………………。
 鏡はちゃんと目の前にある。
 大丈夫だ……何の心配もいらない。
 俺は俺だ。それ以外の何者でもない。
 よし……!
 俺は鏡を覗き込んだ。

・
・
・

 物語の開幕早々、主人公が喀血して果てる手法は、さすがにノックスの十戎
にもない。

・
・
・

「なぎゃああああああああああああああああああああああああああああ!?」
 我ながら意味不明な絶叫だが、叫ばずにはいられなかった。
 そもそも絶叫に深遠な意味を持たせても何の意味はねぇ。
 ととととにかくっ!! 今、鏡に映っている、いわゆるミッション系てな感
じの制服に身を包んだ十歳前後の妙に髪の毛がトゲトゲした美少女(ただし、
先程の喀血で血塗れ)をどうしてくれるよっ!?
 一体全体何が起こってるんだっ!
 だいたいよく見たらこの部屋も、燃える漢の浪漫(=ロボット関係のグッズ)
が詰まった聖域(サンクチュアリ)から、ピンクをベースにした可愛らしい、
如何にも女の子な部屋に変わっている。
 ヌイグルミなんぞ飾っていやがるし。
 全然、『いつもの』俺の部屋じゃねぇぇぇぇっ!
「だあああああああああああああああああああああああああああああああ!」
 混乱して、俺は今度こそ部屋を出る……つーか飛び出す。
 階段を下って一階へ――って、だいたい何で二階があるんだぁぁぁぁっ!?
 今まで全然描写したことは無いが、俺はマンションで一人暮らしという設定
だっ! エロゲーの主人公よろしく!
 というワケで、こんな至極真っ当な中流階級的一軒家とは全く縁はない!
 もちろん今、下の階から漂ってくる美味しそうな朝飯の匂いにもだっっ!!
 転がり落ちるように階段を下った俺は、リビングと思わしき部屋に突入する。
 そこで見たものはっ!!
「何だ何だ……朝っぱらから騒がしいな」

 ――学生服の上からエプロンをつけたセリス。

「どぐわああああああああああああああああああああああああああああ!!」
 勢い余って食卓テーブルなぞに激突してみるリトル愚かな俺。
「……ホントに騒々しいな、お前」
「セリスゥゥゥゥゥゥゥ! 何で貴様が此処にいるぅぅぅぅぅぅぅ!!!?」
 ついでに何で俺は此処にいる。
「『貴様』ってお前……実の兄の顔も忘れたのかぁ? あんまり寝ぼけている
んじゃないぞ」
 ベーコンエッグを皿に乗せてやって来たセリスは呆れ顔で、んなコトを言い
出す。
 ……実の、兄?
「………………はい?」
「あとジン。母さんがまだ眠っているんだから、静かにしろよ」
 ……母さん?
 母さんって、何だ?
「んー……どおしたのぉ? 何かあったのお?」
 そのとき、廊下の方からそんな眠そうな声が聞こえてきた。
「ほーら。母さん、起こしちゃったじゃないか」
 セリスが俺を責めるような口調でそう言う。
 いや、だから母さんって何よっ!?
「おはよー、二人とも☆」
 そんな明るい調子で、リビングに入ってきたその女性は……

 ――千鶴さん。

・
・
・

 早朝、二連射で喀血するはめになるとは、さすがにリハクの目をもってして
も見抜けなかった。

・
・
・

「相変わらず朝から元気ね、ジンちゃん☆」
「いや……ぼくには死にかけのように見えるけどな」
 とか言いつつも、セリスの野郎は冷静にご飯を装っている。
「しゃげおばあえええええええええええええええええええええええ!!!?」
「落ち着いて、日本語で話せ」
「どどどどどどどういう設定だコレはああああ!? ていうかアレだ! そう
だ! みんなで俺を担いでいるんだろ!? いやそれだとこのロリロリな体型
と丹○桜な声の説明は出来ないけど! とにかく何でもいい! 何でもいいか
ら嘘だと言ってくれつーか言えッ!」
 セリスを襟元を掴んで、ゆさゆさと揺すぶ……ろうとしたが、身長が全然足
りなかった。
「……お前、今日はホントに変だぞ? いや、変なのはいつもどおりだけど」
「まあまあ、セリスちゃん。女の子にはそういう情緒不安定なお年頃なのよ。
 ほら、もうこんな時間。早くご飯食べないと学校に遅刻しちゃうわよ」
「いや学校って! そんな場合じゃなくてっ!」
 取り乱す俺に、困ったような表情の千鶴さんは……
「……駄目よ、ジンちゃん。登校拒否は」
「だから根元的に違ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁうっっっっっっ!!」
「大丈夫! ジンちゃんを苛める悪い子がいたら、お母さんが皆殺しにしてあ
げるから☆」
「わーい、何かもの凄く不穏で頼もしい台詞だけどそうじゃなぁぁいっっ!」
 ジタバタ暴れ出す俺。
 どうすればこの異常な事態に苦悩する俺の魂のシャウト&慟哭を伝えること
が出来るというのだ教えてお爺さんとアルプスの森の樹!!!?

「ジ・ン・ちゃ・ん?」

 そのとき、周囲の気温が三度下がった。
「お母さんの言うことが聞けないのかなあ?(にこっ)」
「………………………………いただきます」
 ……どんな状況に陥っても変わらない、ただ一つの真実がある。
 俺はこの人に逆らえない。
 単純かつ明快だ。
 俺は黙々とセリスの作った朝飯を食うことに専念した。
 セリスの奴は全てを見なかったことにしたらしく、目を反らしている。
 そりゃそうだ。怖いし。
「そうそう。二人とも、ちゃんと朝出ていくときは、お父さんに挨拶するの忘
れないようにね」
 ……………………お父さん?

・
・
・

 ――仏壇に飾られている耕一さんの写真。

 ここで喀血するのはさすがに不謹慎だと思ったが、吐いてしまった以上はし
ょうがないと思った。

・
・
・

 ……こう見えたって、俺も数々の修羅場を切り抜けてきたんだ。
 いつまでも錯乱しているワケにはいかない。現状を分析しよう。
 まずは俺のコトから。
 俺の名前は『柏木ジン』。
 試立Leaf学園の『初等科』に通う、『十歳』の『女の子』だ。
 家族構成は『母』の柏木千鶴と『兄』の『柏木セリス』。
 『父』の柏木耕一は、俺が幼いときに亡くなっている。

 ……くらっ。

 す、すまない。大丈夫……ちょっと目眩がしただけだ。
 血吐き過ぎたし。気を取り直していこう。
 続けて俺が何故こんな状況下に置かれているかだ。
 ……まったく分からん。
 これは一種の平行世界みたいなものか?
 じゃあ、何で俺は此処に迷い込んだ?
 今朝、見た夢が関係しているのか?
 そもそも、まだ夢の続きを見ているのではないか?
 ……夢にしてはリアル過ぎるけどな。 
 一番嫌なのは、俺が所有している記憶――漢としての俺の記憶の方が夢だっ
たってオチだが、その可能性について真剣に思考してみると、怖い結果が導き
出されそうなので止めとく。
 さて、これらの分析結果をまとめて得た結論は……
「結局、事態は何も好転してねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
 錯乱、再び。
「ほら、さっさとしないと置いて行くぞ」
 ぽんっと俺の頭を叩いて、鞄を持ったセリスが急かしてくる。
 ちなみにセリスの方は高校生のままだ。運命の悪意を感じる。
「ほら、ジンちゃん。忘れ物ない? ハンカチとちり紙はちゃんと持った?
 車に気を付けてね〜」
 ……とにかく、学校に行ってみよう。
 今は一つでも多くの情報が欲しいんだ。外に出れば、何か別の発見もあるだ
ろう……だいいち、学校に行かないと千鶴さんが怖い。
「んじゃ母さん、いってきます。仕事に出かけるときは、ちゃんと戸締まりに
気を付けてね」
「はいはい、分かっているわよ☆ いってらっしゃ〜いっ」
「……いってきます」
 そして、俺たちは家を出た。

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「ジン・ジャザム。やはり彼が……」
 一人になった千鶴さんの呟きを、無論、ジンが聞くことはなかった。

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 緩やかな春の風が吹く通学路を二人で歩く。
 空は澄んだクリアブルー……やっぱりいい天気だ。
 恨めしいくらいに。
「やっぱり今日のお前、何か変だな……もしかして、ついに『お赤飯』か?」
 反射的に放ったボディブローは風を引き裂く鋭い音を立てながら、セリスの
鳩尾へと突き刺さる。
 非力なこの身で放ったにしては会心の一撃だ。さすが俺。
「ぐお゛お゛お゛お゛お゛……」
 激痛に悶え、蹲(うずくま)るセリス……自業自得だ、馬鹿者。
 そのとき、俺の耳に朗らかな笑い声が届いた。
「はっはっはっはっ……相変わらず元気だな、ジンちゃんはっ!」
「んっ?」
「や、やあ……おはよう」
 苦痛に顔を歪めつつも、セリスは声の主に挨拶する。
 俺もまた、そちらの方を振り向いた。
「貴様が雪兎さん役ちゅーのは全身全霊で無理がありやがると思います俺。
 キャストの変更を切に求む、大川七瀬」
「……? 誰に向かって言っているんだい?」
 笑顔で俺に声をかけてきた巨漢の男は秋山登……俺の天敵だ。
 セリスと同じく高等科の制服を着ている。つまりはセリスの友人という設定
らしい。
 ……神様、ホントにいるんならアンタは敵だ。
「気にするな、秋山。こいつ朝から変なんだ」
 確かに変だ。主に身体と世界の方が。
「そうかそうか! ジンちゃんもついに赤……」
「零式螺旋波紋掌打ァァァァァァッ!!」
「ぎゃばらばっっっっっ!! ……ふはははは! 流石はジンちゃん! 良い
攻撃だったぞっ!」
「秋山、内臓吐いてる、内臓」
 変わってねぇ。
 キャスティング以外何も変わってねぇよ、コイツ。
「ををっ、そろそろ予鈴が鳴ってしまうぞ! じゃ、ジンちゃん! 俺たちは
もう行くからっ!」
 言うや否や速攻で復活した秋山は、セリスを連れて駆け出していった。
 しかし、一度だけ走りながらこちらを振り向き、
「あっ、そうそう! これ!」
 と、何かを投げて寄越す。
 貰ったソレを、俺は確認してみた。


 梅しば。


「………………」
「わあ〜。去り際にプレゼントとは、なかなかやりますぅ〜」
「どわったっ!」
 いきなり背後から声をかけられ、驚いて俺は後ろを振り返った。
「ジンちゃん、おはようございますぅ〜」
 満面の笑顔を浮かべたコイツは……確か、水野響。
 どこから見ても小学生の女の子って感じだが、歴とした高校生の男だ。
 ……昨日まではな。
 今は俺と同じ初等科の制服を着ている。
 しかも女子用の。
「お、おはよう……」
 とりあえず挨拶しておく。どうやら俺と友達らしい。
「頬を染めたジンちゃんの顔……可愛かったですぅ〜(ぽーっ)」
「貴様の目は節穴か」
 何が何でもこの展開か、おい。
「でも私たちも急がないと遅刻するです〜。さあ早く〜」
「あ、ああ……」
 今の俺にはは状況に流されることしか出来ない。
 無力な自分にこっそり涙しつつ、俺は水野と通学路を歩いた。
「そういえば、また新しいMADムービーが手には入ったです〜」
「それが趣味か」
 微妙に原作に忠実だな、おい。

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