眠っている。 ジン・ジャザムが眠っている。 戦士の休息。 闘星の輝きの下で生きるジンにも、戦いに疲れ果てるときもある。 そんなときは風に抱かれ、鋼鉄を休める。 戦いの運命を忘れ、優しき刻の流れに身を委ねる。 母に抱かれる赤子のように無垢な寝顔。 無防備な寝顔。 無防備な……隙だらけの寝顔。 そう、隙だらけな…… 「……って、殺気ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」 何やらもの凄い形相で目覚めたジンは、即座に起き上がり、ベットから飛び退いた。 一瞬後、ジンが先程まで寝ていたベットに何かの影が落ちてくる。 がごおおおおおおぉぉぉぉんっっっっ!! そんな轟音を上げながら、ベットが容易くへし折れる。 へし折れたベットの上には、落ちてきた影……四季が佇んでいた。 「ちっ……避けたわね」 「避けるわい、そりゃ!!!!!!」 心底悔しそうな表情を浮かべつつ、そんなことを宣う四季にジンは突っ込む。 だが、ジンは冷や汗たらたらだった。 「別に何をするってワケじゃ、ないじゃない……ただ、メンテナンスするだけで」 「そのワリには異様な情念を感じるんだよ、ひしひしと! だいたいこんな場所まで嗅ぎ つけやがって! 俺を熟睡させてやろうという気遣いはないのか、貴様らには!?」 こんな場所とは……ここ、仮眠室の貸部屋である。 ここ数日、『あること』が原因でジンはまともな睡眠をとっていない。 そこで幻八に頼んで仮眠室の、賭博場もあるシークレットフロア、そこの一室に匿って もらったのだが……『あること』はジンの一時の安らぎの中にまで侵略してきた。 「眠ればいいじゃない。部室で。遠慮しないで」 あっさりと笑顔で答える『あること』=四季。 だがジンには、その笑顔の裏側に、何かとてつもなく邪悪っぽいものが潜んでいる気がし てならなかった。 「……貴様らの前で決して隙を見せてはいけないと、俺のエルクゥが告げている」 「大丈夫。痛くしないから☆」 「やっぱり、何か良からぬことを考えてるじゃねぇかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 貞操の危機? そのような予感に戦慄しながら、ジンは後ずさる。 ジンが後ずされば、四季はにじり寄ってくる。 戦闘のそれとは違う緊張感が、ジンを支配していた。 ……と、そのとき。 どごおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉんっっっっ! ジンの背後の壁が、そんな重い音を立てながら崩れる。 ジンは恐る恐る振り向いた。 「ふふ〜ん♪ ジンさん、はろはろ〜♪」 崩れた壁の向こうに立っていたのは、EDGEだった。 『あること』第2号。 「何で……俺が関わる女って、どいつもこいつも似たようなタイプなんだろうな……」 ジンの呟きは、冷たい。 だがそれは感情の冷たさではなく――むしろ、運命に底冷えする冷たさであった。 「もう、ジンさんも子供じゃないんだから、大人しくしてくれなきゃ……(ぼそっ)サイ ボーグって、どんな躰の構造をしているのか、気になるのよね。純然たる知的好奇心とし て」 絶望と、もうあり得ない未来への、うす寒い羨望。 「「ふふふふふふふふふふふふ……」」 前方からは四季。 後方からはEDGE。 絶望と、もうあり得ない未来への、うす寒い羨望……。 「ふざけるな! 我は消えぬぞ!」 叫ぶとジンはバーニアを吹かせ、扉を開ける手間を省略しつつ、廊下に躍り出た。 砕けた扉の破片が宙を舞う。 その破片が床に落ちるその前に、バーニアを全開。廊下を突っ走る。 衝撃波が、廊下の壁にひびを入れる。 一瞬後。 「『疾風怒濤』!!」 「黒の牙!!」 ばごおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉんっっっっっっ!! 部屋の方から放たれた2つの攻撃は、壁を粉々に粉砕した。 扉の破片に、壁の破片が混じった。 出入り口というか、もうすっかりただの大きな穴から四季とEDGEが飛び出す。 「速いわね、ジンちゃん!」 「でも……逃がさないわ!」 もはや廊下の角に曲がり、姿を消そうとしているジンを、2人は超高速で……それこそ ジンのバーニアにも劣らないほどのスピードで追いかける。 ひびの入った廊下の壁に、追い打ちの衝撃が走る。 このフロアが自壊するのも時間の問題だろう。 『修理費かかるね、幻八』 「いいよ、別に……科学部に請求書送るから」 廊下の、ジンたちが去っていった方の反対側に立っていた幻八が、自分の体内……ナノ マシンのコア『まや』と共に溜め息を吐く。 その後ろでは、川越たけるがはしゃぎながら手帳にメモを取っていた。 無論、HMX−13−G:開発名グレース・セリオ・プロトタイプ面倒くさいから通称 セリオ@電柱さらに略して電芹も一緒である。 「わーわー凄いね強いね速いね面白いね! ねえ、電芹!?」 「それよりも早く逃げないと危険ですよ……」 たけるが持つ手帳には『たけるちゃんの○秘スパイ手帳☆』とかのタイトルが付いてい る。電芹はメモをちらっと覗き込んだ。 『○月△日(晴れ)。ハイドさんへ報告。今日もジンさんは四季さんとEDGEさんと鬼 ごっこしていたよ。派手で凄いんだよ。3人ともとても私じゃ目で追えないスピードで走 り回るんだから。それに炎とか爆発とか起こって映画みたいなの。いーな、いーな、楽し そうだな。私も参加したいな。でも私、あそこまで足速くないし。爆発とかに巻き込まれ たら痛そうだし。痛いの嫌だし』 あえて何も言わないことにした。 廊下の角の向こうからは、悲鳴やら怒声やら歓声やら爆音やらが、なかなか愉快に入り 交じり、見事なハーモニーを醸し出している。 「じゃあ、そろそろ崩れそうだし、逃げますか2人とも?」 幻八が後ろの2人に声をかけた。 電芹が頷いて、たけるの肩を叩く。 「さあ、行きますよ。たけるさん」 「ええ〜、もう?」 「ここは危険ですから……さあさあ」 電芹はたけるの背中を押して、エレベーターに乗った。 先に乗っていた幻八がエレベーターの扉を閉め、一階へのボタンを押す。 エレベーターが動き出す。 そして、エレベーターのランプが一階を指す頃……案の定、ジンたちのいるフロアは崩 壊した。 「何故だ……何故、こんな目にばっかりに遭う、俺?」 瓦礫の中で、ジンは自問自答する。 答えはすぐに出た。 というか、最初から分かりきっていた。 アレだ、アレ。 科学部で出した、メカニックの募集。 柳川先生が、そろそろ一人では仕事にてが回らなくなってきたということで、自分の助 手として募集したんだけど。 ゆきと空は「絶対、誰も来ない」って言っていたけど。 でも、来たんだ。これが。 四季、EDGE、川越たける、電芹の4人が。 それで今、俺はこういう目に遭っている。 ジンは溜め息を吐く。 そして、また自問自答を……この4人のメカニックに会ったときのことを思い出す。 そう。つまりは……それだよな。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 束の間のやすらぎも振り切って ひたすら真っ直ぐに走り続けた ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 【ケース・バイ 川越たける&電芹】 第2茶道部室。 「おたけさん。電芹。これを見ろ」 と、ハイドラントが2人に渡したのは、今、校内に張られている科学部メカニック募集 のポスターだった。 「……これが、どうかしましたか?」 電芹の問いには答えず、ハイドラントがくぐもった、低い笑い声を上げる。 「ふっふっふっふっ……愚かなり。エルクゥ同盟リーダー、ジン・ジャザム。我々に付け 入る隙を見せるとはな」 ばさっ! ハイドラントの黒い外套がなびく。 風もないのに。 外套が創り出す闇は、底知れず、深い。 「我らは、闇。闇はすぐ其処に潜んでいる。光を照らし、闇を駆逐しようとすればするほ ど、闇はより暗く、深く、存在を確かにするのだ」 「あのぅ……ハイドラントさん?」 「思い知るがいい。我らの刃は常に貴様たちを狙っていることを。闇は何処にでも在る。 背中は誰にでもある。我らに敵対する者に安息は……無い」 「だから、ハイドラントさんってば」 「おたけさん! 電芹!」 「ひぃやあっ!」 今まで自分の世界に没頭していたハイドが、いきなりたけると電芹の方に振り返る。 2人が悲鳴を上げた。 「驚かさないで下さいっ!」 「何のことだ? そんなことより、2人に重大な任務を授ける!」 びしっ! と右手をかざすハイド。 「「任務?」」 ハモって聞き返す2人に、ハイドは頷いて答えた。 「そう、任務だ。お前たちは、これからメカニックとして科学部に潜入。我らの敵、エル クゥ同盟の構成員、ジン・ジャザムとゆきの行動を見張り、逐一私に報告しろ。つまりは ……諜報活動だ」 「はあ……」 唐突な命令に面食らい、そんな間抜けたため息を洩らす電芹とは対照的に、たけるの方 は喜色満面の笑みを浮かべ、はしゃぎだした。 「きゃあ! 電芹やったね! スパイだよ、スパイ! 007だよジェームズ・ボンドだ よサイボーグだよ!(←それは009) カッコイイよ〜!」 「たけるさん……」 冷や汗を浮かべる電芹。 たが、たけるはすっかりその気だ。 「そうだ! スパイだ! なお、このテープは返却時には巻き戻して下さい! ふはーは っはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ!!」 ハイドの高笑いが第2茶道部室に響き渡る。 ある意味、いつも通りの光景だったと言えよう。 ・ ・ ・ 「……というワケで、志望動機はスパイ活動ですっっっっ!」 どんがらがっしゃあああああああああああああんっっ! はっきりとした、たけるの返答に、科学部の面々はなかなか古典的にズッコケた。 「たけるさん……ばらしてはいけないと思います」 「はっ! いけない喋っちゃったよどうしようどうしようハイドさんに怒られるよ恐いよ でも嘘吐きは泥棒の始まりだし泥棒は悪いことだし悪いことはしちゃいけないからやっぱ り嘘は吐けないよでもそれじゃあスパイにならないし……」 溜め息を吐く電芹。 うっかり全部ばらしてしまい、混乱するたける。 その間にようやく科学部の面々は起き上がり、自分を落ち着ける。 「くっ……ハイドさんめ。また、どうしようもないことを……」 身体についた埃をぱんぱんと払いながら毒突くゆき。 その隣で、ジンがゆっくりと起き上がった。 「それでも一応、敵として認められているんだな。なんか世間一般っていうか、うちの構 成員の間にも『ジャッジ=シリアス』『エルクゥ同盟=ギャグ』っていう認識が定着して いるらしいけど」 それはきっとリーダーがこんな奴だからだ。 同盟過去編まだ書いてないし。御免ね、みんな。 でもさ〜、「ギャグで油断させといて、シリアスでバシッと決める」ってやり方、あざ とくて、おいしいと思わない? 今は黙って牙を磨き、いつかカッコイイところ全部持っていこうぜ、みんなっ! 「誰に言ってんですかっ!?」 君と他2名+いつか加わるだろう1名に。 「まあいい……採用」 どぐらしゃあああああんっ! さっきまでナレーターに突っ込んでいたゆきが、柳川の台詞に不意をつかれて、またズ ッコケた。 「えっ……本当ですか!? やったー!」 「って、何考えているんですか、先生ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」 喜ぶたけるは余所に、ゆきは柳川の胸ぐらを掴んで詰め寄った。 だが、柳川はいつもの冷静な表情であっさり言ってのける。 「だって、エルクゥ同盟がどうなろうと、俺には関係ないもん」 「『関係ないもん』じゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!! ええい! ジン先輩も何か言って 下さいよ!!」 ゆきはジンに助け船を求めた。 だが、ジンはあっさりと…… 「別にいいんじゃない?」 どべらがっしゃああああああんっ! 「うっわー。リアクション派手だな、お前」 「って待てや、エルクゥ同盟リーダァァァァァァァァァァァァ!!」 今度はジンの胸ぐらを掴むゆき。 しかし、ジンはその手を掴み、まあまあ落ち着けと言わんばかりの表情でゆきに告げる。 「冷静になってよく考えてみろよ、ゆき……」 「何をです!?」 「俺たちの同盟に、隠さなきゃいけねぇような秘密が何かあったか?」 ひゅおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ…… ゆきの表情が凍りついた。 「さ、寒い……」 「そんなもんだよ、人生」 ポンポンとゆきの肩を叩くジン。 「こんなんだから、ギャグオンリーって思われるんですよ……」 「んなコト言ったって、無いもんは仕方がないだろ? そんなことより気になることがあ るんだ」 「……何です?」 唐突と切り出すジンに、ゆきは頭の上に疑問符を浮かべる。 ジンは契約が成立して、さっそく柳川から仕事の説明を聞いている電芹たちの方を指差 して言った。 「なんで、あのセリオは電柱の影に隠れているんだ?」 「……………………」 確かに電柱の影に隠れていた。 さっきからずっと。 「あっ……それは電芹、恥ずかしがり屋だから」 聞こえていたのか、代わりにたけるが答える。 「いや、それはどーでもいいんだけど、ここは科学部部室内だし、いったい何処から電柱 が……」 「だってだって電柱がないと『セリオ@電柱』にならないし……」 そーゆーことらしい。 映像が想像できない一幕であった。 ・ ・ ・ いや、まあ、コレは別にいいんだよ。 些細なことだ。 たとえ13使徒のスパイだろーが、何だろーが、遅れをとる俺じゃねぇしな。 問題はそのあとだよ……。 【ケース・バイ 四季】 「……という理由で、この仕事に大きな興味を持ちまして……」 柳川の面接を受けている少女を、ジンとゆきは遠目で見ていた。 「あの人、四季さんですよね……」 ひそひそ声で話しかけるゆき。 「ああ……この前、あいつに吹き飛ばされたんだよな、俺」(春夏秋雪さま『Lメモ私的 英雄伝6』参照。) 何か企んでいるのかなぁ……そんなことを考えてしまうジン。 どうやら結構トラウマらしい。 「では、採用。仕事、頑張ってくれよ」 「あっ……採用が決まったらしいですよ」 柳川と四季の会話に聞き耳を立てていたゆきが、ジンにそのことを告げた。 ジンは少しだけ「うっ……」という顔をしたが、すぐに気を取り戻したらしい。 椅子に座ったまま腕を組み、瞳を閉じた。 「まっ、いいや。気にしていてもしゃあない。しばらく寝るわ、俺」 毎日毎日Dセリオと戦っているジンは、体力回復のため、昼休みや放課後は仮眠をとる ことが多い。 今日もその疲れを癒そうと、睡魔に身を委ねる…… 「ところで、メカニックの件ですが……」 だが、意識するわけではなく、四季の声が耳に届く。 「メカニックっていうからには、ジンちゃんのメンテナンスの手伝いもするわけで……」 ………………。 「となると、必然的、運命的にジンちゃんの肌に触れなければならないんですよね(じゅ るるる……)」 ………………待て。 「いや、ジンの躰には俺でないと分からない改造箇所も多いから、そう頻繁には……」 ……聞き間違いか? 「(ぎょろりっ!)触・れ・な・け・れ・ば……ならないですよね!!?」 ………………。 「(びくっ!)は、はいぃぃぃぃっっっっ!」 ……悪寒? 殺気? 「ですよね〜。うふふふふふふふ……(にっこり)」 ………………(汗汗) 「ジン先輩。非常に個人的な意見なんですけど」 ……何でしょう、ゆき君? 「逃げた方がいいと思います」 「言われるまでもないわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 どべごべしゃあ! 間一髪、さっきまでジンの座っていた椅子が、四季の斧によって粉砕されていた。 「いやん、避けちゃ嫌☆」 「避けないでか! 何だ何だ! 貴様、俺に何か恨みでもあるのか!? それとも俺の殺 すため送り込まれた、新手のスタンド使いか!?」 どきどきどきどきどきどきどきどきどき……! 激しく脈打つ心臓を押さえながら、ジンが涙目で訴える。 だが四季は、いかにも意外といった表情を浮かべ、答えてきた。 「そんな。別に殺すつもりなんて無いわよ。ただ、ちょっと気絶させて、その間に色々、 とても人には言えないよーな思春期の悩みを解決しようと思っただけ☆」 「何だ、その思春期がどーのこーのっていうのは!?」 ………………。 しばし、無言で見つめ合う2人。 嵐の中で歌うようなものだ―― 歌は誰にも聞こえない。自分にも聞こえない。 それでも歌っているのだ! 聞いてもらうために! 四季が、ぽっ……と頬を染めるのが見えた…… 「……おしべとめしべの秘密(はぁとまーく)」 「先生! 風邪でも腹痛でも忌引きでも何でもいいですけど、俺はバイパールウの無垢な 願いに応えるべきだと思いますので、早退しますっっっっ!!」 支離滅裂というか錯乱した言い訳をしつつ、逃げだそうとするジン。 「逃がさないわよ! プログラム『七転八倒』!!!!」 どがべしっ! 四季のプログラムが、ジンの足を捕らえ転ばせる。 「ジンちゃん、げっとだぜぃ!☆」 その上に四季が覆い被さろうとする。 ジンは転がりつつ、それを避けた。 四季と距離を取り、立ち上がる。 「何故、俺を狙う!? 浩之はどうした!!!?」 「……硬派、ショタ、プレイボーイ……よりどりみどり(じゅるるるるるる……)」 「儂だけが何も知らず道化だったというワケかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 なおも襲い来る四季の攻撃を避けつつも、ジンは絶望的に吠えた。 柳川とゆきは、どうしているかというと、暖かく見守っているだけだった。 「ははははは。モテるじゃないか、ジン。秋山以外にも」 「ごめんなさい、ジン先輩。いつもの通り、一人で切り抜けて下さい」 「志無き者を導こうとした俺が愚かだったぁぁぁぁぁぁ! 行け、ガトーぉぉぉぉ! 俺 の屍を越えてぇぇぇぇぇぇ!」 でも、こんなところで死ぬつもりはない。 とりあえず、避ける。避ける。避ける。 そして攻撃の合間を縫って、廊下に出ようと扉に手をかけた、そのとき。 こんこん。 ノックが聞こえた。 そして、扉が開く。 「あっ、失礼します。募集のポスター見て、来ました〜」 【ケース・バイ EDGE】 「敵がインフレして、神より強い女が現れたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 ジンの絶叫には血涙すら込められていた。 ・ ・ ・ ……しかも、なぁぁぁんで採用しちゃうかな、柳川先生も。 おかげで俺は四六時中、四季とEDGEに追いかけられるハメになった。 ……男を剥くことに何か使命感でもあるのか、あの2人は? っていうか、ぜってぇぇぇぇぇぇ楽しんでいやがる。純粋に。 ジンは再び溜め息を吐いた。 まあ、不幸中の幸い。 瓦礫に埋もれてしまったからには、あの2人も俺を見失ったはず。 今のうちに逃げ…… がらがらがらがら…… 「……エルクゥレーダーに反応有り。つぴぴぴぴぴ……」 「ジンちゃん、見〜〜〜〜つけた☆」 目の前の瓦礫が取り除かれたジンの視界に入り込んできたのは、言うまでもない例の2 人だった。 「……お前ら。本当はただの怪しい生き物だろ?」 どっちにしろ絶体絶命。 「さあ観念してもらいましょーか?」 「ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……2メートルだ。2メートルまで近 寄ってこい。何もできないけど」 しかも錯乱。 いや、待て。 たったひとつだけ、状況を打破できる方法があった。 「……仮にもSS使いのプライドとして、他人のネタの使い回しってのは避けたかったけ どな……。」 そんなことを呟いてみる。 だが、背に腹は代えられない。 ジンはすぅーと息を吸い込むと、大声で叫んだ。 「『第2次SGY大戦IF』の主役は、藤田浩之なんだぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」 「ホントかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」 「ああ! ダァァァァァリィィィィィィィンッッッッッ!!」 「藤田浩之!!!!!? ……殺すッッッッッッ!!!!」 「な、何だ!? この状況は……ぐぎゃあああああああああああああああああああ!!」 「ああ〜ん!! ダーリンに何するのぉぉぉぉぉぉ!?」 「ええい! こんな男、地上から抹殺するのが世界のためなのよっっっっ!!」 「だ……誰か……助け……うぎゃああああああああああああああああああああああ!!」 絶叫。怒声。断末魔。 修羅場と化したそこから離脱し、ジンは心の中で浩之に謝った。 「すまん……浩之。さっきの嘘な」 浩之が活躍する予定は、現在ありません。(←ひでぇ) ・ ・ ・ 「ははははははは。さすがジンさん、『人間磁石』」 「何だ、そのコンバトラーVを彷彿とさせる二つ名はっっっっ!!」 第2購買部。 今度はここに逃げ込んだ。 そこでジンとbeakerは一緒に茶を飲んでいる。 「まあまあ、みんな、見目麗しい女性ばかりじゃないですか。羨ましいくらいですよ」 ずずず……と茶を啜りながらbeakerが言う。 だが、ジンは憮然とした表情で 「そのかわり、全員が全員、その長所を完膚無きまでに叩き潰すほどの問題を抱えている んだよ。……だいたい本職のメカニックが一人もいねぇじゃねぇか。芸能界にデビューす るワケじゃねぇんだぞ。んなに女ばっかり集まっても……ぶつぶつ」 と文句をたれる。 そのとき、ジンの愚痴に黙って耳を傾けていたbeakerが、ぽんっと手を叩いた。 「そうか……それもいいですね」 「?」 突然、そんなことを言い出す。 ジンは訝って、beakerの方を見た。 「いつぞかのDセリオとのユニットは失敗に終わりましたし……」 「いったい何の話……って、ぐあああああああ!?」 いきなり、ジンの躰が光線に包まれる。 途端に躰が重くなり、全く身動きできなくなった。 「うーん。超磁力光線発生装置がこんなところで役に立つとは」 「beaker? ……貴様、何の真似だ!?」 不敵な笑顔を浮かべるbeakerに、ジンは信じられないといった表情を向ける。 beakerは答えた。 「いえいえ。ここはマジックナイトとメカニック・チームの皆さんで、アイドルユニット を結成するのはどうかな〜と思っただけで」 「待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇいっっっっ!!」 また、こういう展開かい! ジンは逃げようと暴れ出した。 でも、動けない。 「大人しくして下さい……たしか、ここに例のキノコの在庫があったはず……」 beakerが奥の倉庫に向かおうとする。 ちょうど、そのとき。 「アイドルとは聞き捨てならぬな……」 「…………何かすごく嫌な声が聞こえましたが」 「だから、こーゆー展開になると、ぜってぇ出てくるんだよ……。毎回毎回、同じパター ンだな、オイ」 後ろから聞こえてきた声に、青ざめるbeakerと疲れ果てた表情を浮かべるジン。 声の主は見ないでも分かっていた。 「今一つだけ 決めたことがある〜 貴方とは離れな〜い〜♪ お待たせしました、みん なのアイドル! エルクゥ……」 「「あああああああああああああああああああああ!!!! 聞きたくない聞きたくない っっっっっっ!!!!」」 同時に耳を伏せて、イヤイヤと耳を塞ぐジンとbeaker。 「もう、そんなこと言わないで……ユウヤ寂しいっ☆ 私、一生懸命、頑張って歌って、 異星人との戦争にピリオドを打ちます! みんな応援してね☆ ……覚えていますか〜 目と目が合ったとき〜♪」 「「聞きたくないって言っとるんじゃあああああああああああああああああああ!!」」 叫ぶ2人。でも後ろは見ない。 恐いから。 「それよりそれよりアイドルデビューってホントかな? だとしたら恥ずかしいな私。で も少し憧れるし、どうしようか電芹〜?」 「私も恥ずかしいですが、たけるさんと一緒なら……」 いきなり前の方から別の声が聞こえてきたと思ったら、いつの間にか、たけると電芹が 目の前に立っていた。 「……どこから湧いてきた、お前ら?」 「あ、でもこの2人がいるってことは、そろそろですかね?」 ばごおおおおおおおおおおおおおおおんっっっっっっ!! 「ジンちゃん見っけ! しかもご丁寧にも身動きが取れないようになっているわ☆」 「チェックメイトですね〜 ジンさん☆」 壁を吹っ飛ばして、四季とEDGEが現れた。 なんかジンの瞳が死につつある。 騒動はそんなジンをほっといて進んでいた。 「そうですね。ちょうど4人揃いましたから、ユニットの結成について話し合いません? あっ、もちろん、その前にジンさんにはマジックナイトになってもらって、後ろにいる化 け物を退治してもらいますが」 「何を! 負けないわ! 今年の音楽祭は私が戴くわよ! エルクゥユウヤ☆」 「僕のことも忘れないでくれよルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥリコッッッッッッ!」 「だあああああああああ! 増えましたね、環境ホルモンの発生源が!! ええい、2人 まとめてマジックナイト・ジンさんが片付けてくれるでしょう! さあ、ジンさん! こ のキノコをっっっっ!!」 「何ぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!? マジックナイト・ジンだとぉぉぉぉぉぉ!? どこだ、俺 の愛しの君ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!?」 「あっ、あっきー」 「秋山さん……相変わらずですね……」 「そんなことより速く脱いでもらいましょーか、ジンさん〜?」 「ダーリンもひなたちゃんもジンちゃんも私のもの〜☆」 「わた〜しの彼は パイロット〜♪」 「ルリコォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!」 ……ぷちっ 「……………………『ぷちっ』?」 いきなりジンの方から聞こえた何かが切れたような音に、一同は静まり返った。 一斉にジンを注目する。 ジンはみんなの視線を浴びながら、ゆっくりと立ち上がった……超磁力光線に包まれた ままだというのに。 立ち上がったジンは、無表情だった。 瞳も死んだまま……いや、違う。その奥にギラギラとした輝きが見て取れる。 「そうか……そうだよな……」 そして、無表情のまま、静かに語り始める。 誰に言い聞かせる訳でもなく。 「……ここらでいっぺん、誰が最強かとことん思い出させてやるべきだよな……」 「あの……ジンさん?」 beakerが恐る恐る話しかけた。 だが、ジンはそれを無視する。というか、気付いていない。 「……いつもいつも、俺が不幸になって『おしまい☆』的なオチで片付くと思うなよ、貴 様ら。薔薇だか魔法少女だか何だか知らねぇけど、俺に倒せない敵はいないんだよ……」 ジンの異様さに、全員が後ずさりする。 ジンの視線が、ようやく全員に向けられる。 そしてジンは静かな口調のまま、ただしはっきりと告げた。 「貴様ら……綺麗なソプラノの歌声を聞かせてくれよ(にたぁぁぁぁぁぁぁぁぁりっ!)」 「ひぃぃぃぃ!?」 全員が短い悲鳴を上げる。 だが、もう遅い。 「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」 そんな獣の咆哮に似た叫び声を上げながら、ジンの躰が変貌していった。 角が生える。 牙が生える。 鉤爪が生える。 躰が巨大化し、躰の鋼鉄が鈍く光る。 身体の至るところがゲッター線を浴びたかの如く鋭角化する。 そこには……鋼鉄で出来た一匹の鬼が降臨した。 もはや超磁力光線など、ものともしていない。 「お、『お目覚め』!!!?」 beakerが絶望的に叫んだ。 さらに、それだけでは終わらない。 数多の兵器が、鬼の躰から出現する。 それが意味することは、ただひとつ。 「しかも『ナイトメア・オヴ・ソロモン』!!!?」 「ちょ、ちょっと待て!? 本気か、ジン!?」 「きゃああああああああああ!?電芹どうしよう銃で撃たれたら痛いよ恐いよ死んじゃう よ燃えちゃうよ戦争は駄目だよ仲良しがいいよ!!!?」 「おおおおおおおおおお落ち着いて下さい、たけるさんっっっっっっ!!」 「そんなに怒っちゃ嫌なの、ジンちゃん!!」 「ちょっとやりすぎたかしら……」 「ルリィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィコォォォォゥオゥオゥ!!」 「いいぞぉぉぉぉぉ! ジン! お前の思いをぶつけてこいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」 それぞれ自分勝手に恐慌に陥る。 だが、ジンはそこに容赦なく…… ちゅごおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉんっっっっ!! 撃った。 ・ ・ ・ 「きゃあきゃあきゃあきゃあ……あれ、無事……?」 閃光と爆音が収まった後。 メカニックたちは無事だった。(購買部は吹っ飛んでいた) 見れば、人の姿に戻ったジンが不敵な笑みを浮かべて立っていた。 鬼に変化したから、服は全て破けているはずなのだが、何故かちゃんといつもの派手な ブレザーを身に纏っている。遊輝の力でも借りたのだろうか? ジンは呆然とするメカニックたちに向かって、笑みは崩さないままに言った。 「ここで、ソロモン吹っ飛ばすほど、無差別じゃねぇよ。俺」 ジンの足元には、きっちり4人分の焼死体が転がっている。(「粉……雪が……空から ……♪」「ル……リコ……」「……請求書はちゃんと送りますよ。商売人の意地にかけて」 「いい……いいぞジン……ハナマルをやろう……!」) 男だけ正確に撃ち抜いたらしい……器用な奴。 ジンはさらに続けた。 「いいか……分かったか。たけると電芹はハイドにもちゃんと伝えとけ。『俺は容易い漢 ではない』ってな」 ジンはメカニックたちを指差している。 鋭い光が、瞳に走った。 「俺の行く道も科学部の行く道も修羅道だ。甘く見ていると火傷するぜ……でも……」 だが、ふとその光が揺らぐ。 何かを堪えるように、何度も瞬きをして、 「それでも付いてくるなら、お前らにも栄光を与えてやる……最強という名の栄光をな」 眠たそうに瞼が降りてくる。 漆黒の衣を纏った睡魔に襲われるのを理解しながら、ジンは最後に言い放った。 「とりあえず……俺はこのまま寝るから、科学部までよろしく。……信頼しているからな! 妙なこと企むんじゃねぇ……ぞ……」 そして ぱたんっ 「ZZZZZZZZ……」 「本当に寝た……。」 ジンがその場に倒れ込んで眠ってしまったのを、メカニックの4人は思わず呆れて見て いた。 「どうします、コレ?」 電芹が困った風に残りのメンバーに聞く。 EDGEが苦笑しながら答えた。 「言われたとおりにしましょう。こんなのでも一応、部長だし。」 「うーん、今日はもう、ちょっかいかけるのは止めてあげる☆」 四季が微笑みながら、ジンを担ぎ上げる……すごい重いと思うんだが。 「なんだかいろいろ混乱しちゃったけど、楽しかったね電芹☆」 メモ帳を取りながら、たけるが歩き出す。 他の3人も歩き出していた。 (たしかに……楽しいわね。見ているのも、からかうのも) たけるの台詞を聞きながら、EDGEは心の中で呟いた。 気紛れでメカニックなんかに応募してみたけど、思ったよりずっと退屈しなさそうだ。 (面白い奴) みんな、そう思っているだろう。 電芹だって溜め息を吐いてるけど、楽しそうにも見えた。 だから、しばらく付き合ってみるのもいいだろう……このメチャクチャな熱血バカに。 その当の熱血バカは、四季の背中で眠っている。 母に抱かれる赤子のように無垢な寝顔。 無防備な寝顔。 無防備な……隙だらけの寝顔。 それは気心の知れた仲間にしか見せない、信頼の証でもあるのだ。 終わり ………………………………………………………………………………………………………… ちょっとだけ、格好良くなってしまった(爆) 皆様、はろはろ。 ジン・ジャザムです。 タイトルはGガンダムの後期OPから。 それはさておき、メカニック募集に応えてくれた四季さん、EDGEさん(西山さん)、 たけるさん、電芹(Sageさん)、どうもありがとうございます!! これがお約束のSSでございます! 色々なタイプキャラクターが揃ってくれたおかげで、書いている俺は楽しかったです、 ハイ(笑) ちなみに今後の科学部のヒエラルスキー。 メカニックチーム>柳川>ジン>ティー>ゆき>空 酷い話ですね(爆) 特に下位2人は悲惨です(生贄だし) よくこんなアウシュビッツにいるものですね☆(核爆) とにかく、なかなかに楽しいチームになったと思うのですが、いかがなものでしょ? でも、シリアスに話を進めると凄そうだな。 たけるさんと電芹は13使徒のスパイだし。 EDGEさんはハイドさんの師匠だし。 四季さんも強化人間だ。 これはこれでヘヴィで面白い話が書けるかもしれない(笑) ええ、前に伝言板でも言いましたが、このメカニックチームは、Gガンダムの『クィ ーン・ザ・スペード』チボデーのチームに倣って作りました。 原作の方は4人にモテモテのチボデーですが、こっちはヒエラルスキーを見れば分か るとおり単なる玩具です、俺(笑) ってなワケで、メカニックの皆さん! これからどうぞよろしくお願いしますです、はいっ! では、また次のLメモで! しーゆーあげんっ!