体育祭Lメモ『フォークダンス』 投稿者:ジン・ジャザム
 色のない光景。
 モノクロの映像。
 夢というものは、大抵そういうものだ。
 ただひたすらに流される古いフィルム。
 大した意識もなく、ただただ、それを見つめ続ける自分。
 だから映し出される物語は、それがどんな凄惨な悲劇であっても……滑稽な
ものだ。
 夢を見る者は傍観者である。
 それは人類にとっての月のように。
 傍観者はいつも、心の何処かで、当事者たちを嘲笑う。
 だが、いずれは嘲笑うのも億劫になってきて……再び、ただただ、見つめ続
ける。
 色と、音のないフィルムを。
 ……違う。
 夢というものは大抵、音がないものだが――たとえ夢の中の誰かが喋ってい
たとしても、それはただの意味、ただの情報として伝わるのであって、断じて
音ではない――この夢は違ったようだ。
 耳を澄ます。
 遥か遠く……久遠ともいえる、遠くの何処から、音楽が聞こえる。
 オペラだ。
 テナーの歌声が、美しく、何処か哀しげ……いや、そんな立派なものではな
い、寂しげな歌声が、耳に届く。
 心に染み渡る。
 でも、そのオペラも結局は酷く退屈で、耳を傾けるのも億劫だった。
 オペラの音色に心を適当に漂わせながら、夢を見る者は、ただただ、色のな
いフィルムを見つめ続ける。
 総ての悲劇の傍観者として。
 そして実は、総ての悲劇の当事者として。

・
・
・

 モノクロの映像の中、オペラの音色の中、何故か白衣姿の西山英志が、月を
抱くように両腕を広げ、歓喜に打ち震えるかのように叫んでいる。

「Lメモは我々に栄光の光を与えてくれた! そう、ついに総ての悲劇を克服
できる時が来たのだ!」

 誰に叫んでいる?

「前世では鬼と人との摂理に愛を剥奪され、現世では忘却が純粋な想いを苛ん
だ! そして鬼の血の暴走!!」

 月にか? 世界にか?
 それとも…… 

「いつ如何なる時も、楓への愛は悲劇と隣り合わせだった!!」

 愛する者にか?

「だが、これからは違う! 何の恐れもない愛を、俺は手に入れたのだ!!」

 彼は叫び続ける。

「今度こそ、美しい愛を!! それは、幻ではない!!!!」

 運命への勝利を確信して。

・
・
・

 踊る影。
 影が慌ただしく、入り乱れ、明滅する。
 そして怒声。罵声。悲鳴。

「止めろ! 西山を止めろ!!」
「彼は暴走している!!」
「引き離せ! 彼を楓に近づけるな!!」

「何もかもが失敗か!!!?」

「そうだ!」
「SS不敗は完全ではなかった! 無謀すぎる!!」

「もう遅い!!!!」

 西山が自分を取り押さえる男たちを……真実の愛を求めることの出来ぬ臆病
者たちを突き飛ばした。
 侮蔑の瞳で彼らを見下し、西山は告げた。

「楓は待っているのだ! SS不敗の完成を! 俺は一刻も早くSS不敗を極
めなければならないのだ! そのためには、何の恐れもいらん!!」

 臆病者たちは脅えと畏怖を顔に張り付かせ、駆け出した。
 西山から、絶対的な恐怖から逃れるために。

「今となっては、我々はこの場を放棄する!!」

「よかろう! お前たちに楓の守護者たる資格はない!!!!」

 西山は歓喜の表情で……しかし、一筋の涙を流しながら、宣言した。
 月へ!
 世界へ!
 そして、愛する者に!!

「そう! 俺は楓と共に生き、楓と共に死す!! 今さら何の躊躇いがあろう
っっっっっっっっっ!!!!!!!!」

 刹那。

 世界は。

 闇に。

 包まれて。

・
・
・

「楓ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ
ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ
ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

ふごぉあああああああああああああああああああああああぁぁぁぁんっっ!!

「やっぱり、それかよぉぉぉぉぉぉ!!」
「しかも今回、何か爆発が黒いぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」

 つまり、惨劇。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――



     どこがフォークダンスだ、俺?(先に自分で突っ込む)



―――――――――――――――――――――――――――――――――――
=== +++ ===
(注意・↑わざと)


 この話はLメモ体育祭ダークサイド・ストーリーです。
 そちらの方面の話が苦手な方は、どうか読み飛ばして下さい。
 いや、嘘。

追伸 悠朔さん、すまん(爆)


(注意・↓わざと)
=== +++ ===


「ほら……浩之ちゃん、そろそろ復活しないと殺されちゃうよ?」
 総ての悲劇の傍観者であり当事者だった藤田浩之は、くたばっていた。
 至近距離で英志の暴走に巻き込まれたのである。
 いっそのこと、このまま死なせてくれ……と思わないでもなかったが、神岸
あかりに揺さぶられる。
 確かにこのまま死んでいたら、なんちゅーか、こー、安らかな眠りとはほど
遠い、検死官とかが「こんな酷い仏さんは初めてだな」とか宣いそうな、そん
な素敵な惨殺死体が出来上がってしまうであろうことは想像に難くない。
 だから復活した。
「しっかし……たまには違う展開ってもんがないのか、この学校には?」
 未だに西山の暴走による黒い爆発は、グラウンド中を阿鼻叫喚の渦に陥れて
いる。
 きっと今日から一週間は、学園中停電だ。
 いや、何となく。
「さぁぁぁぁぁぁて! 『次はようやく楓とだ! わくわく☆』な状況で、
『は〜い。ここから逆回転で〜す』とかいう状況になって、『楓ぇぇぇぇぇぇ
ぇぇぇぇ!』な状況になった、体育祭フォークダンス! これからが本番よ☆」
 安全圏から放送している志保の声は、やたら楽しげだった。
「現在のパートナーとはぐれないように、音楽終了まで踊り(逃げ)続けるの
よ! 生存カップル一組につき、5点が入るから頑張ってねぇぇ☆」
「暗躍ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」
 浩之が血でも吐きそうなくらい、怨磋のこもった声で叫んだ。
 どうでもいいけど、こんな競技ばっかりだね。うちの学校。
「くそ! 何が何でも生き延びてやる! 主人公嘗めんじゃねえぞ! よっし
ゃ! あかり行くぜ!」
 自暴自棄になって、やたら気合いが入りまくる浩之。
 だが、あかりは困った顔で首を横に振る。
「浩之ちゃん……ダンスのパートナー、私じゃないでしょ?」
「あれ? そうだったっけ? 何か速攻で暴走に巻き込まれたから、ワケ分か
らなくなっちまったからな……で、俺の本当のパートナーは……?」
 あかりが「しょうがないなぁ、浩之ちゃんは」ってな表情で、浩之の後ろを
指差した。
 同時に、ちょいちょい、と肩を叩かれているのに気付いて、浩之は背後を振
り返る。
 そこに立っていたのは……
「はろぅ☆」


 EDGE。


・
・
・

「楓様は何処です!? 師匠を止められるのは楓様しかいないんですよっっっ
っ!!!?」
「楓ちゃぁぁぁぁぁぁんっ!!」
 風見ひなたとXY−MENは、柏木楓を捜していた。
 ひなたは西山の暴走を止めるために。
 XY−MENは、ただ単に楓と踊るために。
 西山の暴走が引き起こす爆音は、更に激しさを増してきている。
 このままでは、生徒全滅も時間の問題だった。
「くそ……いったい何処に…………いたぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 そろそろ焦りが生じてきたとき、ひなたは彼女の姿を見つけた。
 だが、彼女は1人ではなかった。
「ふははははははは! 柏木楓は預かった!!」
 薬か何かで眠らされたであろう楓の身体を、白コートの少年が抱えていた。
 XY−MENが少年の名を叫ぶ。
「Rune君!!!?」
「また暗躍生徒会ですか!? Runeさん、楓様を離しなさい!」
 ひなたの台詞に白コートの少年――Runeは、さも意外といった表情をわ
ざとらしく作った。
「ん……? 何でそんなことしなきゃなんねぇんだよ? 俺のパートナーは楓
先輩なんだぜ? 離れちまったら得点にならねぇじゃねーか」
「ちっ……なら実力行使に移るまでです。美加香!!」
 ひなたが己のパートナー、赤十字美加香を呼ぶ。
 ひなたと美加香は一蓮托生。
 美加香なしにひなたの勝利はありえない。
 だが、しかし……
「うるうる……酷いわ、ひなたちゃん。今のパートナーは美加香ちゃんじゃな
いの。私なの」
「……………………………………」

 ぎぎぎぎぎぎぎぎ。

 錆びついた音を立てながら、ひなたの首が回転した。
 振り向いたその先にいたのは……
「……もしかして、このLメモ、始終この調子ですか?」
 多分。
「ひなたちゃあああああああああああああああああああんっっっっっっ!!」
「なぎゃああああああああああああああああああああああああああああ!?」
「あう〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」
 超高速で逃げ出すひなたと超神速で追いかける四季と2人に跳ね飛ばされる
XY−MEN。
 その場にはRuneだけが残された。
 しばし冷や汗を垂らしつつ呆然としていたRuneだったが、気を取り直す
や否や大声で叫んだ。
「さあ、生徒諸君……体育祭フォークダンス本番の始まりだ。精一杯、始業1
分前にレポートの課題があることに気付いてしょうがないから昔に書いた全然
関係ないレポートをそのまま提出し殺すまで(俺的実話)、健闘するがいい!」

・
・
・

 ちなみにその頃、美加香は
「雅史せんぱ〜〜〜い☆ ……ぐふぅっ」
「ははははは。近寄るんじゃねえよ。この重装甲弾道弾娘が☆」
 佐藤雅史に、鳩尾に突き刺さるようなブローを喰らっていた。

・
・
・

「楓ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

ぶあごおおおんっ! ぶあごおおおおんっ!

「なんていうか……相変わらず凄いなぁ」
 西山の暴走を眺めつつ、ディアルトは呟いた。
「でも、転校してきたときは毎日驚かされてばかりだったけど……私もこの学
園に慣れたもんだな〜」
 妙にのほほんとした雰囲気のディアルト。
 口元に微笑さえ浮かべている。
 そんなディアルトに、彼のパートナーが語りかけてきた。
「ディアルト先輩、危険です! 早く校舎裏とか体育倉庫とか、とにかくそう
いう人気のないところに逃げましょう!」
「あははははははは……っていうか何者だ、貴様」
 のほほんとした雰囲気はそのまま、口調だけは研ぎ澄まされた刃よりも冷た
く、鋭く、パートナーに問いかける。
「? 何言っているんですか、ディアルト先輩? 私、格闘部の後輩の松原葵
じゃないですか?」
 ああ、そうだな。
 髪も青いし、いつものグローブもしているし、体育祭だから当たり前かも知
れないけど、いつものブルマー姿だ。
 まあ、あえて難点を述べるなら、躰と顔がセバスゥナガセとかセバスゥナガ
セとかセバスゥナガセとかあとセバスゥナガセとかもう一つセバスゥナガセと
か何て言うかセバスゥナガセとかむしろセバスゥナガセとかするけど、小さな
欠点だ。問題ない。
 ディアルトは優しい微笑みを浮かべたまま、松原葵と自らを呼称する物体の
真っ直ぐな瞳を、正面から見つめ返した。
「や、やだ……先輩、恥ずかしいです……」
「何から言えばいいだろう……私のこの熱い想いを、どうすれば君に伝えられ
るだろう……分からない。どんな言葉を用いても三分の一も伝わらないだろう
から。それでも精一杯、私の想いを伝えるとしたら………………死ね」

 1分後。

 校庭には倭刀で心臓を貫かれた化け物の屍体が転がっていた。
 しかも、ご丁寧に頬の十字傷付きで。

・
・
・

 一方。
「beaker! 危険だから、放課後の夕陽が射し込む教室とか都合良く先生のい
ない保健室とか、とにかくそういうシチュエーションな場所に逃げるわよ!」
 beakerと坂下好恵を自ら呼称するエルク(略)
「はっはっはっ……てめぇは事故で死ね」
 beakerはデザートイーグルのセーフティロックを解除した。

・
・
・

 拝啓
 日増しに秋も深まって参りましたが、いかがお過ごしでしょうか。
 私の方は元気にしておりますので、ご安心下さい。ええ、多分。
 さて、早いもので、もう10月。
 Leaf学園では体育祭が行われています。
 プログラムもそろそろ終盤に差し掛かり、今はフォークダンス。
 色々な女性とダンスを踊るというのは、少し照れくさいですが、楽しいもの
です(*^^*)
 でも、いつものように、西山さんが暴走を始めてしまいました。
 しかも今回は気合いの入り方が違います。
 爆発、黒いし。
 それで、どうやら、この騒動を最後までパートナーと逃げ切ったら点数にな
るようです。
 うちの学園らしい、お祭り的なフォークダンスですね(笑)
 それで無論、僕にもパートナーがいるんですが……


「……って、YOSSY。さっきから何、1人でブツブツ呟いているのよ?」
 傍らの女性……パートナーである来栖川綾香に声をかけられて、YOSSY
FLAMEは自分の世界から帰ってきた。
 綾香の方をじっと見つめる。
 どこか悟りきった表情で。
「分からないのかい?」
 責めるのでもない、侮蔑するのでもない、穏やかな口調でYOSSYは語る。
 いつもと違うYOSSYの様子に気圧されながらも、綾香は尋ね返そうとし
た……と、そこでYOSSYの背後に立つ、二つの影に気付き硬直する。
 そして総てを理解した。
 綾香は気の毒そうにYOSSYを見つめる。
 YOSSYの穏やかな表情は崩れない。二つの圧倒的な殺気を背後に叩きつ
けられながらも。
 YOSSYが続けた。

「遺言だよ」


 よく交通事故とかで、車に轢かれる瞬間、時間がゆっくりと流れるっていう
話を聞きますよね?
 あれ、どうやら本当です。
 僕はどうやら点数を稼げそうにありません。ごめんなさい。
 では末筆ながら、皆様の健闘をお祈りしています。
                               かしこ
 緑葉帝73年10月10日
                        YOSSYFLAME

・
・
・

「ええい! いつもいつもこの程度で死んでたまるか!! 俺は……主役だぁ
ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
 血塗れの浩之が、それでも2本の足で大地を踏みしめる。
 ――ここで生き残ることが主役復権の第一歩になる。
 その想いが、不屈の闘志が、生への執念が、今の彼を支えていた。
「EDGEぃぃぃぃ! 最後まで付き合ってもらうぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
 血塗れのまま佇んでいた浩之は、一歩一歩、EDGEの元に歩み出す。
 だが

「影の虎」

 鬼。

・
・
・

「なぁぁぁぁぁんで今回はオメェばっかり関わってくるんだぁぁぁぁぁ! こ
の無自覚女ぁぁぁぁぁぁ!!」
「ふふ〜ん、照れちゃって☆」

 らぶらぶ。

(直後、笛音とティーナの2人によるダブル瞬獄殺でKO)

・
・
・

 はあ……はあ……はあ……はあ……

 どくん……どくん……どくん……どくん……

 乱れる呼吸と、心臓の鼓動を必死に整えながら、ジン・ジャザムは待ってい
た……爆風に身を潜めながら。
 チャンスは一度。
 それを逃せば、後はない。
 だから……一撃で仕留める。

 キュィィィィィ……ガシン

 手をゆっくりと開き、また閉じる。
 いつもと同じだ。
 問題ない。
 そして力を身体中に収束させる。
 総てを……この一撃、この力に託して。

 はあ……はあ……はあ……はあ……

 どくん……どくん……どくん……どくん……

 まだか……。
 奴はまだか。
 頬の汗が流れ、顎を伝い、地に落ちる。
 永遠にも思える刻を待ち続ける。
 そして……

「見えた!」

 爆風の向こうに『奴』の影を見つける。
 ジンは即座にその影の正面に躍り出る。
「!?」
 『奴』の顔が驚愕に歪む。
 ジンは凄惨に微笑みながら、総ての力を解放した!
「ナイトメア・オブ・ソロモン!! さりげなく零式ぃぃぃぃぃぃ!!!!」
 最強奥義、ナイトメア・オブ・ソロモンの零距離射撃。
 俺もただでは済まないが、これなら『奴』も滅びるしかあるまい!!
 勝利を確信し、ジンは本当に総ての力、身体に残る力の最後の一滴まで絞り
出し、この一撃に注いだ。

がごおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉんっっっっっっっっ!!!!

 大音響が辺りに響き渡る。
 巻き添えを喰らったっぽい生徒たちの悲鳴も聞こえるが(「くっ……まだま
だぁ! 主役は決して地に膝を突か……ってぎゃあああああああああ!」)、
ジンはまったく気にしなかった。
「こ……これで……細胞の一片すら吹き飛ばせば……」
 バックファイアでボロボロになりながらも、ジンは安堵の息を吐こうとした、
そのとき。

「最高だ……今の攻撃は最高だったぞ、ジン……。100点だ! そんなお前
に100点プリーズっっっっ!!!!」

「ヒィィィィィッッッッッ!!!?」
 ジンが最も恐れていた声が、爆風の向こうから聞こえてきた。
 爆風の向こうに映る影。
 それは最初、単なる焼き爛れた肉片だった。
 しかしそれは瞬く間に、自己再生と増殖を繰り返し、そして……人のカタチ
を象(かたど)った。
 不死身なるモノ……秋山登である。
「……ってグロいぞ、この野郎っっっっ!!」
 身震いしながら、ジンが後ずさる。
 だがジンが一歩引けば、秋山が一歩、歩み寄る。
「ご褒美だ、ジン。俺の(放送禁止用語)を(自主規制)に(検閲)してやる
ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」
「みぎゃああああああああああああああああああああああああああ!!!?」
 飛び掛かってくる秋山。
 ――ジンは
 いや、マジックナイト・ジンは
 まだ棒引きの時の変身が戻っていなかった。


 闘星の 元に生まれし 我が宿命
 安らぎはなく 在るはただ闇


 次回『宿命』(続くのか)

・
・
・

 グラウンドの隅。
 右子、左子、岡田三人衆。
 珍しい取り合わせ。
「右子とか左子とか呼ばないでくれない?」
 そんなことより、貴様らパートナーはどうした?
「あれ……」
 岡田が指差す向こう。

「楓ちゃーんっっっっっっ!!」
「綾香ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」(×2)
「マルチィィィィィィィィィィィィィィィ!!!!」(×2)

 てめぇら、自分のパートナーは大事にしろ。

・
・
・

「ん〜。いつもながら全力で生きているよね〜。うちの学園の生徒」
 遠くからグラウンドの惨状を眺めつつ、健やかが溜め息にも似た感想を述べ
ていた。
 それもそうだ。
 体育祭が始まってというものの、競技の全てが生死を賭けた大バトル。
 まったくもって、よく気力が続くものである。 
「まあ、そこが、この学園たる所以よね……」
 隣の太田香奈子も呆れている。
 しかし、更にその隣のRuneは何か不満そうだった。
「? どうしたの、るーちゃん?」
「うーん、意外とみんな生き延びてるじゃねーか。つまらん」
 みんな点数どころじゃないみたいだけどな。
「あんた……これ以上、何もするんじゃないわよ……」
 香奈子が冷たい言葉と視線で、Runeに釘を打つ。
 だが
「いや、実はもう次の手は打っているんだけどよ」
 と、Runeは、どでかいズタ袋を香奈子の前に出した。
「……………………」
 いや〜な予感がして、袋の中を確認する香奈子。
 その中には……

「カナコ、ゴメンネ……カナコ、ゴメンネ……カナコ、ゴメンネ……カナコ、
ゴメンネ……カナコ、ゴメンネ……カナコ、ゴメンネ……」

「って、瑞穂ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!?」
 ブラックジャックか何かの鈍器で昏倒させられた瑞穂が、壊れたCDのよう
に同じ譫言を呟いていた。
「あんた、何てことしてんのよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
 香奈子がRuneの胸ぐらを掴んだ。
 しかし、Runeの態度は変わらない。
「いや……多分、そろそろじゃねえの?」
「…………何が?」
 Runeの言葉に、香奈子が怪訝そうな顔をしたとき。

「ヌシかぁぁぁぁぁぁぁぁ! 瑞穂をさらいおったのは!? 妖術師ぃぃぃぃ
ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!?」
「ぎゃああああああああああああああああああああああ!!!!」


 ――オロチ覚醒(しかも人違い)


・
・
・

 ……それからはもう何が何だか分からなくなってしまった。
 西山の暴走は相変わらずで、オロチも暴走していて、四季はひなたを追い続
けていて、ハイドラントと悠朔もいつも通りで、セリスと天神昂希がマルチで、
秋山は不死身で、ジンはマジックナイトのままで、エルクゥユウヤにセバスゥ
ナガセにシズクゥユウヤに、レミィが超ミヤウチ星人で、千鶴さんだった。
 まあとにかく嫌ってくらい、スケールのでかい、いつも通りだ(いつも通り
は俺のネタですか)
 どちらにせよ、もう本格的に得点どころの話ではなくなってきた。
 エーデルハイドもすっかり黒こげである……もともと黒猫なので目立たない
けど。
 グロッキー状態で、しばらく地に伏せていたエーデルハイドだが、ふとご主
人様である来栖川芹香の表情が緊張していることに気付く。
 怪訝に思って、エーデルハイドは芹香に語りかけた。
「にゃにゃ? どーしたんにゃ、ご主人しゃま?」
「……………………」
 芹香がいつもの小さな声で答える。
「えっ? 午前、開いた次元門がこの騒ぎで開きそう……ですかにゃ? ……
……………………って、それって……」
 エーデルハイドが、だらだらと冷や汗を流す。
 芹香は困ったように、こくん、と頷いた。


 ――その瞬間。

「!!!!!?」

 ――世界は、黄昏に包まれた。

「ま、まさか、また……!!!!!?」

 ――赤。

 全校生徒が一斉に動きを止める。

 ――ただ、ひたすらに、紅い。

 ある者は戸惑い、ある者は脅え。

 ――世界終焉の炎。

「冗談じゃねぇぞ……!!」

 ――破壊を司る神の……帰還。

・
・
・

「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁでぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ
むぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!」

「それ鳴き声ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!?」


 ――でも午前の威厳なし。


・
・
・

「なになになになに!!!? ガディムなの!!!?」
 いつの間にか、ティリアたち――ガディムの後を追って現れた3人組である
――が駆け寄ってきた。
「よかったですね〜。これで無駄足にならないで済みましたっ」
 しかも嬉しそう。
「……っていうか、まだいたの? 君たち?」
 はしゃぐ3人に、長瀬祐介が冷たく突っ込む。
 その一方で。
「どどどどどどどどうするんです! アレ! さっきあれだけ攻撃してもビク
ともしなかった奴なのに!!!?」
 ゆきは、すっかり混乱していた。
「どうするもこうするもない……ご丁重にお帰り願うさ」
 暴走から醒めた西山がそれに答える。
「ふん……あんな化け物がこの世界にいるなど美しくない」
「導師…………いえ、何でもありません…………」
 何故かふんぞり返って、えばっているハイドラントと、何故か諦めたような
表情の葛田玖逗夜。
 さらに。
「はあ……はあ……そうそう……しつこい男は……はあ……はあ……嫌われる
……はあ……ぜ」
 やたら疲れた表情のジン。
 もう男に戻っていた。
「ジン先輩……秋山さんは?」
「焼却炉」
「……そうですか」
 溜め息を吐くゆき。
「そうねぇ……パートナーうんぬんは、もう滅茶苦茶になっちゃったから、最
後にガディムにトドメを刺したチームに得点、ってのはどうかしら?」
 千鶴が、さも楽しそうにそう提案する。
 生徒たちは皆、不敵な笑顔で頷いた。
 この圧倒的な破壊神を、眼前にして。
 そうだ。
 彼らに絶望など存在しない。
 ジンが嬉しそうに、全校生徒に向かって叫ぶ。

「ふん……再生怪人が弱いっていう絶対法則を、ここでも証明してやるさ……
いくぜっっっっ!!!!」

 そして再び、破壊神との戦いが始まる。

・
・
・

 色のない光景。
 モノクロの映像。
 夢というものは、大抵そういうものだ。
 ただひたすらに流される古いフィルム。
 大した意識もなく、ただただ、それを見つめ続ける自分。
 だから映し出される物語は、それがどんな凄惨な悲劇であっても……滑稽な
ものだ。
 夢を見る者は傍観者である。
 傍観者はいつも、心の何処かで、当事者たちを嘲笑う。
 だが、彼は
 藤田浩之は笑えなかった。
 自分は当事者だ。
 そのことが、怠惰で昏い夢の中、はっきりと理解できた。

「なるよ」

 声が聞こえる。
 今度もはっきりとした音として。
 ……なる?
 何になるというのだ?

「なるよ………………になるよ……」

 だから、何に?

「なるよ……脇役になるよ……」

 なっ!!!?
 その台詞に凍りつく。
 嘲笑っているのだ……自分を。
 自分の夢の中にあって、自分は傍観者ではなく、当事者である自分を嘲笑う
傍観者が他にいるのだ。
 浩之は戦慄した。

「臭いがするよ」
「するよ」
「お前にはオレたちととても近い、日陰者の臭いがするよ」

 浩之の眼前に、数多の影が集まってくる。
 その影は……
「橋本先輩……矢島……っていうか、むしろチョイ役な連中……!」

「いるのさ」
「お前の中にはいるのさ」
「男子生徒Aが」

 何が……何が言いたい、お前ら!

「薄れていくよ」
「こいつがいると」
「どんどん」
「薄れていくよ」
「存在が」

 橋本が、矢島が、田中が、数多もの名もない脇役たちが嘲笑う。
 未だに主役を主張する、身の程知らずを。

「SS使いに吹き飛ばされれば、吹き飛ばされるほど」
「どんどん薄れていくよ」
「男子生徒Aはただの通行人だから」

 影が浩之に、まとわり付く。
 総ての影が浩之に姿を変える。

「そして男子生徒Aはお前に取って代わるのさ」
「薔薇以外、出番のなくなる」
「人のカタチをした、社会の落伍者になるのさ」

 ふざけるな! こんなところで!

「贄」
「贄」
「贄」

 影が浩之の中に入ってくる。
 悪寒と苦痛が、浩之の中を駆け巡る。

「さあ、一緒に……」
「私たちと一緒に……」

 ……やめろ。
 やめろ! 俺に触るな!
 俺は……俺は……!!


「俺は貴様らの同類(なかま)なんかじゃねえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


・
・
・

 そして再び、破壊神との戦いが始まる……その直前。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

「!!!?」
 さっきまで、西山の暴走に巻き込まれたり、EDGEに吹き飛ばされたり、
ジンの流れ弾に当たったり、レミィの覚醒に巻き込まれたり、千鶴の(略)、
とにかく死にまくっていた浩之が、雄叫びを上げつつ甦った!
 そしてそのまま、ガディムに向かって特攻する!
「!?……浩之ちゃん!!!?」
「浩之ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」
 あかりと雅史が悲痛な叫びを上げる。
 だが……!


「見よう見まね……『黄金の安息に眠れ』ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」





 待て。





・
・
・

 戦いは終わった。
「……いいんですか、こんなオチで?」
 さあ。
 呆れまくっているひなた(だけじゃないけど)は余所に、浩之は狂喜乱舞し
ていた。
「だあはははははははははは! 見たか、俺の実力を!! これでもう男子生
徒Aとかは言わせんぞ! これで俺が主役……」
「はいはい、頑張ったわね……黒破雷神槍」
 EDGEの容赦ない一撃が、浩之を沈黙させた。
 他の連中は地ベタに伏せている。
 疲れ果てたのだ。主に精神的に。
「まあ、たしかにこれで一安心ではあるがな……」
 悠朔が本当は認めたくないような表情で告げる。
「これもダーリンの愛の力ねっっっっっっ!!」
 逆に四季はやたら嬉しそうに言う。
 個人的にその意見には反対だが。
「なかった……また出番なかった……」
 ティリアたちはもう完全にいじけてしまった。
 グラウンドの隅で、地面に「の」の字を書いている。
 すっかり気合いの抜けきった生徒一同を見渡し、千鶴がぱんぱんっと手を叩
きながら、気を取り直すように告げた。
「さてさて、これでフォークダンスの時間は終了よ☆ 次はついに最終種目だ
からみんな気合いを入れるのよ〜」
「……へ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜い」
 全然、気合いが入ってなかったが、全員がそれに応えた。
 一応、全部が綺麗にまとまった感じ。

・
・
・

「ん……どないしたん? Fool?」
「ああ、師匠。いえ、せっかくだから、もっとちゃんとしたオチを着けようと
思って……」
「ふーん。何かネタがあるん?」
 Foolはにやりと笑って、カメラ目線になる。
 そして一言。


「……鷹が箪笥に止まりました。これがホントの『ホーク箪笥』(フォークダ
ンス)」


                       SS史上最低のオチ、完

……………………………………………………………………………………………

 得点。
 1年生: 0点。
 2年生:50点。
 3年生: 0点。

 多分、ハイドさんが召喚したガディムのパチモン(笑)
 はろはろ、今月の遅刻王ジン・ジャザムです。
 さて、問題。
 今SSで含まれているパロディは何種類でしょう?
 答えは自分でも分かりません(爆)
 ……いい加減、真剣に俺のLメモ元ネタ帳でも作るべきだろうか?(笑)

 ええ、コレで俺の出番は終わり。
 後続のひなたん、頑張って下さい(笑)
 さて、これでようやく落ち着いて……

 次の学園祭Lに入れます(涙)

 まあ……良い。
 今年末まで受け付けているらしいから、ゆっくり書けばいいさ(そして、ク
リスマスSSと重なり、盛大に吐血)
 『望まれぬ生命』の方も書いていますので、今しばしお待ち下されい。

 であであ〜。