Lメモ未来編『望まれぬ生命 ――罪鬼――』Bパート 投稿者:ジン・ジャザム
 ゲートを開けると、そこは金属的にして有機的な質感を持つ通路だった。
「ここからは半異世界か……ヨークの技術の応用だな。鶴来屋もよくやる」
 哭嘴は皮肉げな口調で呟きながら、通路を進み出した。
 直線が続く。先に量産型ジンの集団。
「邪魔だ」
 叫ぶと同時に、哭嘴のショルダーアーマーが開く。
 開いた場所から無数のミサイルが発射された。
 ミサイルは先頭集団に命中し、爆砕する。
「ふん……」
 そのまま、バーニアの速度を下げずに、哭嘴は右手を前に突き出す。
 そこに光が集い、形を作る。
 光が止んだとき、哭嘴の手には巨大な斧が握られていた。
 身の丈を越えるほどの斧を、ミサイルの直撃を免れたジンたちに向けて振り
下ろす。
 その一振りで10体のジンが両断され、爆砕した。
 返す斧で、また10体。
 群がるジンをことごとく破壊しつつ、哭嘴は通路を駆け抜ける。
 通路が終わる。
 哭嘴は大広間に躍り出た。
 そこにひしめく、ジンの大群。
 一番先頭のジンが広間の奥にある巨大なゲートを、今まさに撃ち抜かんとし
ている寸前だった。
 数十体のジンが一斉に哭嘴の方に振り返る。
 哭嘴の紅の瞳が、その総ての瞳とぶつかった。
 瞬間。
 哭嘴の全身から、無数の砲身が出現した。
「72の悪夢!!」
 哭嘴の叫びと共に、それらが一斉に火を吹く。
 弾丸が、ミサイルが、紅い閃光が、粉砕の嵐となり、広間に荒れ狂う。
 それは純然たる破壊そのものであった。
 爆音が、爆風が収まった後に残ったのは哭嘴だけ。
 ジンたちは破片すら残さず、完全に消滅した。
「脆いな」
 呟き、哭嘴は誰もいなくなった広間の奥に視線を向ける。
 そこにあるものは、巨大なゲート。
 世界を支える『プラント』に通じる、天国への扉。
 もしくはあらゆる苦痛に通じる、地獄門。
「この奥に……」
 哭嘴はゲートを吹き飛ばすために、右腕を突き出し、そこに力を溜める。
 哭嘴の掌から紅い閃光が放たれる、その寸前だった。
「その先に行ってはなりません、哭嘴さん」
 燐とした女性の声が、広間に響き渡った。
 後ろを振り向く。
 そこには千鶴とゆきが立っていた。
「思ったより早かったな」
 事も無げに哭嘴が言う。
「ええ。貴方がほとんどの敵を倒してくれましたから。そんなことより……何
が目的かは知りませんが、何人たりとも『プラント』内に踏む入ることは許し
ませんよ……」
 鋭い視線を飛ばす千鶴、だが哭嘴は皮肉るような口調で返してきた。
「許さなかったら、どうするつもりだ? 力ずくで止められるとでも言うのか
な、この俺を?」
「………………」
 ゆきが千鶴を庇うように構える。
 だが、哭嘴がそれを手で制した。
「止めておけ……お前では勝てんよ、ゆき」
「僕の名前も知っているんですか……でも、それなら分かってますよね? エ
ルクゥ同盟は、決して退かないことも」
 ゆきの躰から闘気が立ち上る。
 哭嘴が白い仮面の下で笑った、ような気がした。
「清廉だな……その心意義や善し。だが、お前は知るまい。『プラント』の正
体をな」
「!?」
「守護者にすら伝えられない秘密がこの奥にある。いや……守護者『だからこ
そ』、伝えられないのかな? 千鶴さん……」
 強ばる2人に、哭嘴は嘲笑するような口調で続ける。
 いや、嘲笑とは違うのかもしれない。
 あるいはその笑いは、自嘲、なのだろうか。
 哭嘴が再び扉に向き直った。
「去った方がいいかもな、ゆき。さもなくば……醜いものを見ることになる」
「!? ……止めて!!」
 その台詞の意味が気付いた千鶴が、悲痛な懇願に近い叫びをあげる。
 だが、哭嘴はその叫びには耳を傾けない。
「……帰ってきたぞ」
 哭嘴が呟く。
 その呟きが誰に対するものか?
 ゆきがその疑問を抱く前に、紅い閃光が『プラント』のゲートを貫いた。

・
・
・

「無様だな……セリス?」
「くっ……」
 ジン=柳川は満身創痍のセリスの頭を掴みながら、彼の躰を持ち上げた。
 もはや躰は動かず、抵抗する術もないセリス。だが、その瞳は未だ憎しみの
光を失ってはいない。
「しかし、流石は元ジャッジ。お前たち2人に100体ものジンを失う羽目に
なろうとはな」
 と、ジン=柳川は背後を見渡す。そこに広がるのは破壊されたジンの残骸。
 そして。
「岩下さん……」
 力尽き、気絶した岩下の姿があった。
 セリスの中の憎しみが、更に激しく燃える。
「許さないぞ、柳川……ジンの死を汚す貴様を……何があっても貴様だけは、
ぼくの手で……かはっ!」
 セリスの言葉は最後まで続かなかった。ジン=柳川の拳がセリスの腹に決ま
ったからである。
 セリスの吐いた血が、びしゃっ、と地面に飛び散った。
 ジン=柳川の瞳が、鈍く暗い金色に輝く。
「貴様の脳味噌には蛆虫でも湧いているのかね? 低脳が偉そうに吠えるな、
と俺は言ったよな? もう忘れてしまったのかな? 物覚えの悪い生徒は嫌
いだよ、セリス君!!」
「ぐ……がぁっっ!!」
 2発目の拳が、セリスのあばらをへし折った。
 悲鳴がセリスの口からこぼれる。
 そんなセリスを眺めながら、ジン=柳川は突然、何か名案でも閃いたかのか、
ふむ……と顎をさすり始めた。
「そうだ……面白いことを思いついたぞ」
 言って、凄惨な笑みをセリスに向ける。
「貴様にも見せてあげよう、『プラント』の正体を。そうすれば、如何に貴様
の救いようにない脳にも理解できるはずだ……ジンの親友を気取ることが、ど
れほど自惚れているかということを」
「なっ……?」
 何を言いたいのだ?
 セリスには理解できなかった。
 だが、とてつもなく嫌な予感がした。
 まるで自分が禁断の領域に踏み入ろうとしているかのような、そんな漠然と
した畏怖。
 セリスの頭を掴んだまま引きずるように、ジン=柳川はエレベーターに乗る。
 エレベーターが動きだし、地下へと降下する。
 そこにあるのは、来栖川が持つ最後の『プラント』。
「そして、そこに、お前たちの罪が封じられているのだよ」
 エレベーターのランプが最下層を指す。
 扉が静かに開いた。
 開いた扉の先は、また扉。
 『プラント』と下界とを隔てる最後のゲート。
 そしてその巨大なゲートの前に佇む人影を見たとき、ジン=柳川の表情が明
らかに歪んだ。
 怨磋のこもった声で、ジン=柳川が呟く。
「来栖川……芹香!」
「…………」
 外套に身を包んだ芹香が、いつものように無言のまま、ジン=柳川をじっと
見つめていた。
 芹香の姿を認めたジン=柳川は先程まで見せていた侮蔑の態度はどこへやら、
怒り一色に顔を染め、芹香を睨み付ける。
「貴様か……貴様が『プラント』の理論を完成させたのだよな?」
 ジン=柳川は震えている。
 ドス黒い憎しみと歓喜のために。
 だが、そんなジン=柳川の様子を見ても、芹香は無表情だった。
「貴様さえいなけば、ジンは永劫の苦しみに堕ちずに済んだのだ。貴様が……
貴様の存在が総てを狂わせた! 来栖川芹香! 貴様に永劫の苦しみが如何な
るものか教えてやる!!」
 突き出したジン=柳川の右掌に、急速に光が集結する。
 高密度のエネルギーが、芹香に向けて放たれようとしていた。
「いけ……ない……。芹香さん、逃げて……」
 セリスが必死に声を振り絞る。
 だが、芹香は動こうとしなかった。
「……臓腑をえぐりながら、犯してやる!!」
 そして、光が弾ける。

 爆音。

・
・
・

 『プラント』は虚ろだった。
 闇だけに満たされていた、がらんどうであった。
 それが世界を支えるシステムのさらけ出した姿だった。
「5年前のヨークの死が、世界に欠落を生み出し、混沌より廠気が流れ込むよ
うになった。死の灰が降り注ぎ、海は燃え、空は堕ち、太陽は死んだ」
 哭嘴の声が虚ろな空間に幾重も響き渡った。
「世界構成そのものの崩壊。生命が生命でなくなり、存在が存在でなくなる…
…崩壊の波は総てを飲み込もうとしていた」
 彼の演説の聴衆は2人だけ。
 2人とも、『プラント』の奥に待つものを予感してか、微動だにしない。
 哭嘴はかまわず続けた。
 元より、それは独白に近いのようなものなのだ。
「だが来栖川と鶴来屋は諦めなかった。崩壊する世界を支える、新たなる創造、
新たなる生命。その源となるシステムを造り出したのだ。9つのメイン・ユニ
ットを利用することで」
 語りながら、哭嘴は『プラント』の奥へと足を踏み入れる。
 がしゃ、がしゃ……と、金属同士がぶつかり合う重い音が響く。
「……待って」
 奥へ歩き出す哭嘴を、千鶴が消え入りそうな声で呼び止める。
 哭嘴は止まらない。
「……待って!」
 今度は強く、と言うよりは悲痛に、千鶴が叫ぶ。
 哭嘴は止まらない。
「……お願い! 許して……私がすべて悪いの……だから許して!」
「千鶴さん!?」
 泣き出し、取り乱す千鶴に、ゆきは慌ててなだめる。
 それでもやはり、哭嘴は止まらない。
 だが、千鶴の慟哭には答えた。
「5年前に覚悟は決めていたのだろう? 今更、何を恐れる?」
 冷たい口調ではない。
 何かを覚悟した――それは諦めにも似ていた――者の、静かで重い口調だ。
 そんなことは千鶴には関係なかったのだが。
「覚悟なんて! そんなに……そんなに凄惨に強くなれれば、最初からこんな
ことにはならなかったんです! それに、ジン君をこんな目に合わさずに済ん
だ!!!!」
 泣き崩れる千鶴。
 ゆきは、どうしたらいいのか分からなくなっていた。
 ただ黙って、哭嘴の背中を見ているだけだ。
 あくまで振り向かず、哭嘴は進む。
「……刻は戻らない。そして止まるわけにもいかない。俺も貴女も……そうだ
ろう?」
 その台詞は、自分に言い聞かせているようでもあった。
 千鶴は答えない。
 哭嘴も答えを聞くつもりがない。
 ゆきの視界から哭嘴の姿が、闇に溶け込み見えなくなろうとしていた。
 だが、その直前。
 いきなり哭嘴が歩みを止め、ゆきたちの方を振り向いた。
「?」
 怪訝に思うゆき。だが、それも一瞬だった。
 ゲートの方、つまりゆきたちの背後から何者かが現れ、高速で哭嘴に迫る。
「量産型!?」
 ゆきが哭嘴に迫る影を見て叫ぶ。
 確かにそれは、柳川の造った量産型ジンに他ならない。
「まだ残っていたか」
 つまらなそうに哭嘴は右手を突き出し、ビームを放つ。
 しかし、ビームが触れるその瞬間、量産型ジンは消えた。
 否、哭嘴が量産型ジンの動きを目で追えなかったのだ。
「なっ!?」
 驚愕の声も終わらないうちに。

斬っ……!

 量産型ジンの爪が、哭嘴の突き出した右腕を切断する。
 血と鉄を撒き散らしながら、腕が落ちていく。
 哭嘴の眼前で、量産型ジンが、にたり、と笑った。
「!!!?」
 刹那、哭嘴の胸に量産型ジンの拳が叩き込まれる。
 更に、拳から直接に力を注がれ、哭嘴のアーマーは爆砕した。
 視界がぶれ、哭嘴の躰が宙を舞う。
 そのまま哭嘴は『プラント』の地面に転がった。
「く……はっ……!」
 胸を押さえ、何とか起き上がろうとする哭嘴を、量産型ジンは不敵な笑みを
浮かべつつ、見下していた。
「何奴かは知らぬが、白いの。貴様にメイン・ユニットは渡さぬよ」
 量産型ジンが口を開く……柳川の声はない。
「柳川先生じゃない? ……あんた、一体、何者だ?」
 今まで呆然としていたゆきが、気を取り戻したのか、量産型ジンに向かって
問う。
 量産型ジンが、ゆきの方を振り向いた。
「ほう? 我のことを忘れてしまったか? 現世(うつしよ)に生きるリネッ
トの守護者よ……」
「!!!?」
 その台詞で、ゆきは目の前に立つ量産型ジンの正体を悟った。
 千鶴も泣き濡れた顔を上げ、躰を強ばらせる。
 ゆきがその者の名を呼んだ。

「お前は……ダリエリ!!」

・
・
・

 爆音は、芹香を吹き飛ばしたものではなかった。
 力を放とうとしていたジン=柳川の背後。エレベーターを吹き飛ばし、ジン
=柳川に迫る爆風が、その音源だった。
 背中からの、思わぬ衝撃に吹き飛ばされるジン=柳川。
 吹き飛ばされたついでに、セリスを手放してしまう。
「くっ……何だ!?」
 それでも転倒だけは何とか堪え、ジン=柳川は背後を振り返った。
 壊れたエレベーターの入り口にいたのは、1羽の不死鳥だった。
 真紅の炎に包まれた、美しい異形の鳥。
 しかしその姿も見る見るうちに崩れ、1人の青年の姿になる。
「ご主人様! 無事ですか!?」
 青年――智波が叫ぶ。
 主人の無事を認めると、とりあえず安堵の息を吐き、即座にジン=柳川に向
き直る。
 ジン=柳川が毒突いた。
「ちっ……よくここまで来れたな、猫」
「悠さんや、綾香さんたちが、他の量産型を食い止めてくれたからね……」
 そして智波自身は不死鳥に擬態し、エレベーターの穴をそのまま降ってきた
のだ。
「柳川先生! ご主人様には指一本触れさせませんよ!」
 智波が攻撃的な魔術の構成を編みながら、叫んだ。
 ジン=柳川は心の中で舌打ちする。
(稀代の天才魔女に、その使い魔か。倒すのは容易いが、その魔力を『プラン
ト』の守護に回されると厄介だな。ならば……)
 ジン=柳川は再び力を集める。
 そして、アームランチャーを放った。
「メイン・ユニット回収が最優先事項! 貴様らの遊び相手をしている暇はな
い!!」
「なっ……しまっ……!」
 エネルギー波は芹香の遥か頭上を過ぎ、背後のゲートを粉砕する。
 ゲートの真ん中にできた穴に、ジン=柳川はバーニアを吹かし、飛び込んだ。
「………………!」
 芹香が飛翔するジン=柳川に向けて、魔法を放つ。
 だが、魔法は僅かにジン=柳川をかすめただけだった。
「くそっ……!」
 智波が後を追おうとする、それより早く。
「M.A.……フィールド!」
「!? セリスさん!!!?」
 満身創痍で倒れていたセリスが、M.A.フィールドを下方に展開し、飛翔
する。
 そしてそのまま、ジン=柳川が消えた穴へと飛び込んだ。
「まったく……無茶をする!! ご主人様!!」
 智波が呼びかけると、芹香はこくん……と頷き、魔力を解放する。
 同時に智波も。
 2人は飛翔し、セリスたちの後を追った。

・
・
・

「ダリエリ……そうか。お前も生きていたのか」
 ゆきが、緊張した声で、ジンの姿をしたダリエリに話しかけた。
 ダリエリが頷いた。
「とは言っても、この機械の器を借りて……だがな。それでも我が力を振るう
にこの躰、申し分ない」
「確かお前も聖徒界……ふん。500年前の亡霊が、未だに未練がましく、生
に縋って……哀れだね」
 ゆきが嘲笑の笑みを浮かべる。
 しかし、ダリエリは動じない。
「それは貴様らも同じこと。我はな……最も美しき生命の炎に包まれているの
だよ。それは真なる生命の輝き……生命の本質なのだ」
「ちっ……聖徒界に魅入られた、堕落の鬼王か……」
 ゆきが毒突き、ビームモップを構える。
 ダリエリが、笑った。
「メイン・ユニット奪回が我の役目。だが久しぶりに少々、狩りを楽しませて
もらうぞ、同族よ。エルクゥの輝きを我に見せてみよ!」
 言い放ち、ダリエリはアームランチャーを撃つ。
 ゆきと千鶴が飛び退いた場所に、ビームは被弾し、爆発する。
「HSD!フィールド!!」
 飛び退き着地した瞬間、即座にダリエリに向かって駆け出しながらゆきは、
力を解放する。
 電撃を纏ったゆきの拳が、ダリエリに向かって振り下ろされる。
 放電が闇に軌跡を描きながら、ダリエリに襲いかかった。
 だが。
「甘いな!!」
 ダリエリが右手を前にかざすと、不可視の障壁が彼の前に展開され、ゆきの
攻撃を跳ね返した。
「ぐあああああああ!!」
 自らの攻撃を受けて、ゆきは吹き飛んだ。
 電撃のため、身体の至るところが火傷している。
「ゆき君!!」
 千鶴が倒れたゆきを助け起こそうとする。
 その2人に向かって、ダリエリは容赦なくアームランチャーを放った。
「くっ……!?」
 ゆきはまだ動けない。
 千鶴はアームランチャーを防ぐような力は失っている。
 絶体絶命。
 だが、2人が死を覚悟したその刹那。
「………………!!!!」
 ダリエリの背後で蹲(うずくま)っていた哭嘴が、アームランチャーよりも
速く、2人の前に躍り出る。
 アームランチャーは哭嘴の背中に被弾し、爆発した。
「哭嘴さん!!!?」
 爆風から顔を庇いつつ、千鶴が爆炎の中の哭嘴に向かって叫ぶ。
 爆炎の向こうからは返事がない。
「……いきなり何を血迷った」
 2人を庇った哭嘴の不可解な行動に疑問を持ちつつも、嘲笑う表情を作るダ
リエリ。だが、その笑みは途中で凍りついた。
「何だ……あれは?」
「!?」
 千鶴たちも驚愕する。
 爆炎の中から、光を帯びた一対の白い翼が現れたからだ。
 翼が一度、大きく羽ばたく。
 それだけで爆炎は跡形もなく消え失せた。
 そして、そこに立っていたのは。
「哭嘴さん……その翼……」
 光り輝く哭嘴。
 翼は彼の背中から生えていた。
 そして、ゆきはさらに気付く。
「機械の翼? ……!! ま、まさか!?」
 まるでゆきの叫びに応えるが如く、白い鉄の破片が、まるで細胞が増殖する
かのように、哭嘴の右腕を型作る。
 そして再生した右手、その手の甲に、何かの紋様が光り輝く。
 その中心に、千鶴に似た女性の肖像が刻まれた紋章。
 ダリエリが叫んだ。
「その忌まわしい気配……そうか! 貴様はリズエルの守護者……!!」
 そう、その紋章は守護者の証。
 柏木の女子、皇族の女子に仕え、守護せし者。
 エルクゥ同盟の証。
 そして哭嘴に輝く紋章は、柏木千鶴の守護者のもの。
 エルクゥ同盟の長が持つ紋章。
 その紋章を持つ者は、世界で唯一人……ゆきがその名を呼ぶよりも早く、千
鶴が彼の名を叫ぶ。
 自分が死なせてしまった、守護者の名を。

「ジン君っっっっっっっっっっ!!!!」

 その叫びは、咎人の悲鳴にも聞こえた。


・
・
・

「何だよ……これは……」
 セリスの声は冷たかった。
 それはまるで、絶望に魂の炎を奪われたかのように。
「何なんだよ……これは……!!」
 セリスの瞳は凍りついていた。
 それはまるで、最も忌むべきものに魅入られたかのように。
 震えるセリスに、ジン=柳川は振り返った。
「分かったか? 総ての真実が。お前たちの罪の重さが」
 先程までの侮蔑はない。
 彼の声もまた、酷く酷く、冷たい。
「こんなのって……こんなのって……!!」
 目を背きたかった。
 しかし、背けられなかった。
 セリスの瞳は釘付けになっていた……『プラント』のメイン・ユニットに。
 セリスが、がっくりと膝を突く――メイン・ユニットを見上げる顔はそのま
まに。
 地面に突いた手に、膝に、生暖かい液体が付着した。
 メイン・ユニットの流す血だ。
 膝を突くセリスの背後、芹香と智波がいた。
 芹香は悲痛に、その美しい顔を歪める。
 智波はメイン・ユニットの正体に畏れ、震えている。
「まさか、これが……これが『プラント』の正体なのか……!?」
 何を僕は畏れているのだろう?
 『彼女』を?
 それとも自分の罪を?
「そうだ……お前たちは、許されざる存在なのだ」
 そうなのかもしれない。
 セリスも智波も本気で思った。
 智波は畏怖のために。
 そしてセリスは『友』の姿のために。
 セリスが語りかけた……メイン・ユニットに。
 『友』の断片に。
「君は……」

・
・
・

「違う。ジン・ジャザムは死んだ。俺は哭嘴だ」
 千鶴の叫びに、哭嘴は首を横に振った。
 だが、そんな言葉は千鶴は聞いていなかった。
「本当に……本当に帰ってきたのね? 私の元に……この世界に! ジン君!」
 立ち上がり、千鶴が両腕を広げた。
 恋人を抱き締めようとするように。
 でも、それはきっと愛ではない。
 それを無理に愛と呼ぶなら……それは殉教者が神を想う愛だ。
 哭嘴は仮面の下で、そのことを悲しんでいるのだろうか?
「違う。本当に違うんだ。千鶴さん……」
「そう、違う。敢えて言うなら……迎えに来た、かな?」
 ダリエリの言葉に、哭嘴が振り返った。
 ダリエリが、ジン・ジャザムの姿で、不敵な笑みを浮かべる。
「まさか貴様だったとはな、リズエルの守護者よ。それなら貴様がメイン・ユ
ニットを狙う理由も合点がゆく……」
「!? ……そうだ。何故、メイン・ユニットを狙うんですか、哭……いえ、
ジン先輩……?」
 ゆきの問いに、哭嘴は答えなかった。
 代わりにダリエリが答える。
「これがその理由だよ、リネットの守護者!」
 そう言って、ダリエリは自らの掌に光球を生み出した。
 それはゆっくりと天まで昇っていくと、いきなりその輝きを強めた。
 光球が『プラント』の闇を総て照らす……。
「いきなり何を……………………えっ?」
 最初は眩しくて目を閉ざしていたゆきも、光に慣れ、『プラント』内部が鮮
明に見えるようになった。
 そして照らし出された、空虚な『プラント』の中空。
 そこに浮かぶメイン・ユニットの姿を見て、硬直する。
 思考が停止する。
「そうだ……迎えに来たのだ」
 哭嘴の声は、とてつもなく遠い場所から聞こえたような気がする。
 何も考えられない。
 何も理解できない。
 だが、一つだけ理解していることがある。
 それは、総てを理解したとき、自分に飛来するものは……気も狂いそうな畏
怖であること。
 ゆきもまた、語りかけた。
 メイン・ユニット……彼の断片に。

・
・
・

 セリスの前に。

・
・
・

 ゆきの前に。

・
・
・

 メイン・ユニットの正体がさらけ出される。
 宙に浮かぶ十字架。
 磔の聖者。
 そは9つに裂かれた天使。
 『望まれぬ生命』を司る者。
 そして『望まれぬ生命』そのもの。

 そは白き者。

・
・
・

「君は……」

・
・
・

「君は……」

・
・
・

 君の名は。

・
・
・


「遊輝……」


・
・
・

 凌辱者、遊輝。

                               つづく

……………………………………………………………………………………………

 ……ついにAパート、Bパートに分裂。
 おかしい。
 今回は結構、短くなるはずだったのに……こんなことでは最終回周辺は、ど
れだけの分量になるやら(汗)
 しかも、年内には終わらねぇな、絶対(泣)
 皆様、にいはお。
 ジン・ジャザムです。
 ちゅーワケで続きは気長に待ってください。
 あと次回、あらかたの生き残りメンバーが揃う予定が、次々回にズレこみそ
うです。次回の主役は……謎の僧侶かな?
 では、次回予告。

……………………………………………………………………………………………
 次回予告

 凌辱。
 凌辱。
 凌辱。
 それが『プラント』の正体。
 遊輝。
 遊輝。
 遊輝。
 それが世界を支える者。
 罪。
 罪。
 罪。
 生き延びるために、『犯す』。

「こんなことが……こんなことが! 貴様か! 貴様の仕業なのか!? 答え
ろ芹香ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 どんなに怒っても、
 どんなに畏れても、
 君たちは罪人。
 等しく罪人。
 それでも君たちは、生きている。


 次回『望まれぬ生命 ――戦鬼――』


「同窓会……ですよ」