・ ・ ・ Leaf学園。 僧の眼前に、記憶の果ての光景が甦る。 幸福であったときの光景。 五年前なのに、何故か遠い遠い……前世のまた前世よりも遠い過去のことに 様に思える。 あの平和の煌めきは、何かの夢か幻。 自分が生み出した妄想の産物。 そんな哀しすぎる錯覚を受ける。 ――なのに、その夢の篝火は、何より熱く我が胸に燃ゆる。 意識を現実に戻す。 目の前に広がる光景は、確かにLeaf学園。 失われたはずのLeaf学園。 だが、彼の瞳に映る学舎に、かつての面影はない。 闇。 ひたすらに闇。 学舎を照らすのは、時折、光る雷のみ。 それは閉ざされた世界の光景だった。 「学園の何処かに、マザーは居る。そして……柳川も」 独りごち、僧は校舎を目指して、歩き出した。 吹き荒れていた異界の風が、ふと、何の前触れもなく止む。 僧は立ち止まる。 「ドブネズミが紛れ込んだか……」 正面から声が聞こえる。 校門を背に柳川が、これまた何の前触れもなく、其処に立っていた。 「柳川……」 僧の表情は編み笠に隠れ、窺い知れない。 だが、その声には万感の想い。 「……何をしに来た、下等生物が。此処はお前如きが踏み入って良い場所では ないぞ」 殺気が放たれる。 僧はその殺気を正面から受け止める。 「マザーは……何処だ」 「!?」 柳川の瞳が、驚愕に見開かれる。 そして直後に更に膨れ上がる殺気。 否、狂気。 「貴様、来栖川の手の者か!? それとも柏木千鶴か!? また……また、あ いつを凌辱するつもりだな! 畜生がぁぁぁぁ!」 柳川が駆ける。 一足飛び。 本当に一足飛びで、柳川は僧を己が間合いに捉える。 「……狩るッ!」 しかし、振り下ろされた柳川の爪は空を切った。 「!?」 消えた僧の影を追う。 頭上に気配。 「そこかっ!」 柳川が爪を薙ぐ。 風を裂く衝撃波が、気配を目がけ飛んでいく。 だが、気配は衝撃波に触れることなく、霧散した。 「何っ!?」 「……お前が斬ったのは、我が影に過ぎぬ」 「! ……ぐっ!」 気付けば目と鼻の先に、僧の編み笠があった。 僧の錫杖が柳川の腹に叩き込まれる。 「雷!」 叩き込んだ錫杖はそのままに、僧が片手で印を結ぶ。 同時、錫杖が雷を纏い、紫電が柳川を包み込んだ。 「ぐああああああああああああああああ!」 絶叫。 それでも、柳川の瞳は僧を睨み付けたままだった。 「お……のれ……!」 「教える気がないのなら、それでも構わん。大人しく寝てろ」 紫電が閃光へと変わる。 刹那、耳を劈(つんざ)く爆音が轟いた。 柳川の躰が崩れ落ちる。 「さてと……終わりにしよう、マザー」 倒れた柳川をそのままに、僧は校門に向かって歩き出した。 校内に足を踏み入れる。 そして……違和感を感じた。 「何だ? ……揺れている?」 常人には分からないほど小さい揺れ。 単なる地震ではないと、直感が告げている。 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……! 揺れは次第に大きくなり、終いには立ってもいられないほどの激震となる。 そして、僧は見た。 学園の中心に迫り上がってきた、その巨大な建造物を。 「これは……! そ、それに……」 更に知る。 その建造物の壁の中、無数に『埋め込まれた』、『屍』たち。 建造物を包み込む『死霊』たちの怨念の声。 地獄の光景。 「こ、こんなことを! 柳……ぐはっ!?」 愕然とする僧の躰を、熱い何かが貫いた。 見れば、腹に大きく空いた虚ろな穴。 肉の焦げる嫌な臭いがした。 僧が後ろを振り返る。 「悪いな……私は『足癖』が悪くてね」 柳川が倒れたまま、不敵な笑みを浮かべていた。 右脚が、硝煙を上げている。 義足。 脚の関節を取り外した其処が銃口となっている。 撃たれた僧は、そのまま血を吐いて倒れた。 「安心しろ。死んだら、彼らの仲間にしてやろう。そう、マザー復活のための 大切な『生贄』としてな!」 義足を元に戻し、立ち上がりながら柳川は、天を貫くように聳(そび)える その建造物を愛おしそうな瞳で見上げた。 「美しい『城』だ。このような城、闇の使徒どもの墓標にしては勿体ない…… 私が有効にリサイクルしてやるよ」 凄惨に笑う。 今の彼にとって、死霊たちの怨念も、美しい賛美歌に過ぎない。 そう、母の復活と審判の日を喜び謳う、賛美歌…… 「……ふははははは! なかなか、良い攻撃だったぞ。柳川!」 「!?」 恍惚とした柳川の夢想は、その哄笑によって妨げられた。 慌てて視線を、正面に戻す。 そこに、僧は立っていた。 腹に風穴を開けたままで。 「馬鹿な! 生きているだと!?」 驚愕する柳川を余所に、風穴は急速に塞がっていく。 細胞が増殖、再生し、筋肉が脈動する。 「だが、まだまだ! 七八点! 今後に期待しよう!」 僧が編み笠の下で笑う。 柳川は気付いた。 「そうか! 貴様はぁぁぁぁ!」 「YES! I AM! チッチッ!」 人差し指を左右に振り、舌を鳴らす僧。 先程までの厳粛な雰囲気はない。 「チィィィィィ!」 柳川が爪を払い、衝撃波を飛ばす。 だが柳川が裂いたのは、僧の服だけだった。 影が柳川の頭上を飛び越える。 放たれた飛び道具……手裏剣を柳川が払う。 影が地に降り立つ。 絶え間なく落ち続けている雷が、影を照らす…… 黒鋼の手甲と脛当て。 背中に背負った忍者刀。 黒い忍者装束。 その左胸に書かれた「忍」の一文字。 「そうか。貴様も生きていたのか……!」 柳川に応えるように、男は不敵な笑みはそのままに、胸を張り、雷鳴にも負 けぬ大声で叫ぶ。 「如何にも! 影に生まれて影に死す! 愛と正義を貫く忍! その名も、秋 山登でござ候!」 ・ ・ ・ 「こんなことが……こんなことが! 貴様か! 貴様の仕業なのか!? 答え ろ芹香ぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 「セ、セリス君!?」 力を使い果たし、医療室に運ばれたはずのセリスが、扉を霊波で吹き飛ばし て、会議室の中に踏み込んで来た。 尋常ならざるセリスの雰囲気に、会議室にいる全員が色めき立つ。 岩下が慌てて、セリスの元に駆け寄った。 「お、落ち着け、セリス君! 躰もまだ万全じゃないだろう!?」 「どけ、信! ぼくは芹香に話があるんだ!」 岩下を押しのけ、セリスが芹香に近付く。 ひゅん……! 風が芹香の頬を浅く切り裂く。 一筋の血が流れた。 セリスは霊波刀を芹香の喉元に突きつけている。 「セリスさん!?」 智波の叫びも、セリスには関係ない。 憎悪のこもった瞳で、じっと芹香を睨み付けている。 しかし芹香はいつも通り沈黙したままで、その瞳を真っ直ぐに見つめ返して いた。 その奥に僅かな憂いを秘めながら。 「騙していたな……貴様、ずっと、ぼくたちを騙していたな!」 「………………」 ぎりり、とセリスは奥歯を噛み締める。 「……殺してやる! 殺して、ジンの奴に詫びを入れさせてやる!」 霊波刀を振り上げる。 智波が慌てて、セリスに飛びかかった。 「止めて下さい、セリスさん!」 「邪魔だ、智波!」 セリスが智波の顔面を殴り飛ばす。 智波は、鼻血を流しながら、後方に吹き飛んだ。 「ぐっ! ……カッコ悪ぅ……」 「智波君、大丈夫か!? セリス! いい加減にしろ!」 岩下が後ろからセリスを羽交い締めにする。 セリスは霊波刀を振り回しながら、出鱈目に暴れた。 「信、離せ! こいつには……来栖川には、償わせなきゃならないんだ! こ いつら、自らの保身のために、ジンを! 遊輝を!」 暴れるセリスの正面に、セバスが静かに立った。 拳をセリスを腹に叩き込む。 「ぐふっ!」 「もう少し寝ていろ」 あまりもの激痛に、セリスは気絶した。 倒れるセリスの躰を岩下が支える。 「お父さん……そこ、セリス君の骨が折れているとこ……」 源五郎がやや呆れた声で突っ込むが、セバスは気にも止めない。 セリオを呼びつけ、短く指示を出す。 「セリオ。この場かをもう一度、病室に運んでやれ」 「分かりました」 セリオはセリスを担いで、会議室を出ていく。 ようやく会議室が落ち着きを取り戻したところで、芹香が口を開いた。 「………………」 「え? 『彼が怒るのも無理はありません。聞いての通り私たちは、彼女を犠 牲にすることで、今の世界を守ってきました。しかも、その事実を隠して』… …ですか……」 場にいる全員が沈黙する。 彼らの胸中は複雑だった。 確かに、そうでもしなければ、世界は崩壊していただろう。 だが、だからと言って、それは必要な犠牲だったと割り切れるほど、彼らは 冷酷でもなければ、脆弱でもない。 五年前。 彼がいなければ、 彼女がいなければ、 自分たちは、こうして生きていられない。 戦友……掛け替えもない戦友。 それを見捨てられるほどに冷酷では、 それから目を逸らすほどに脆弱では、いられない。 「裁きは受けよう。総てが終わったら、私を君たちの気が済むように、好きに してくれ給え」 セバスが厳粛な声で告げた。 「……貴方をどうこうしたって、しょうがないでしょう。全ては来栖川と鶴来 屋の責任……」 岩下の声は冷たい。 「主人を守るのは執事の務めだ」 事も無げにセバスは答える。 そんなセバスの態度が癪に障ったのか、岩下はセバスを睨んだ。 険悪な雰囲気。 そこに悠が割り込む。 「それを言ったら、私にも責任があるな。私もプラントのことは知っていた。 知っていて、君たちには黙っていた」 「……ゆーさく」 「だが、今は揉めている場合か? 全てのプラントが落ちた。世界は確実に崩 壊する。それも急速な速度でだ! 今、我々がやるべきことは……何とかLe af学園に向かう方法を見つけ出し、柳川を止めることだ!」 ・ ・ ・ 『城』を背景に、柳川と秋山が対峙する。 苦悶の表情を浮かべた死者たちが、埋め込まれている城の壁を横目に見やり、 秋山は柳川に問い詰める。 「これは……どういうことだ、柳川? 何故、『コレ』が今ここにある?」 柳川は冷笑を浮かべ、その問いに答えた。 「愚問だな、『ジャック・イン・アズエル』秋山登。マザーの力を以てすれば、 滅びしものを甦らせることなど造作にもないこと。コレはな……『餌』だよ」 「餌……?」 「そう、餌。彼奴らの苦痛と絶望こそが、マザー復活のための活力となるのだ。 マザーは人の魂を喰らうからな」 秋山の目つきが厳しいものに変わる。 死者たちの中には、彼の知る顔もいくつか見当たるのだ。 いずれもLeaf学園に関わりし者たち。 味方もいた。 敵もいた。 戦いに巻き込まれただけの一般生徒もいた。 「お前が世界を憎むのも分かる……だが、いったいお前に何の権利がある!? 世界を裁き、死者を辱める権利が、何処にあるっていうんだ!?」 「無い」 きっぱりと柳川は答えた。 瞳には狂気を宿したままで。 「だが、総てはマザーの御意志なのだよ……」 「魅入られたか、柳川……」 秋山が刀を抜く。 柳川も白衣の下から、ビームガンを取り出す。 お互いに構えをとる中で、柳川は薄く笑った。 「魅入られたのはお前もだろう、秋山? お前も、五年前からずっと、彼女に 魅入られている。己が護るべき相手の元を離れ、彼女を追い求め続けるほどに」 「……!」 苦虫を噛み締めたような表情も一瞬、秋山は柳川に向かって駆け出した。 柳川の視界で、秋山の躰が八つに分かれる。 『朧八ツ身分身』。 「ほう……見事なものだ」 八人の秋山を眼前にしても、柳川は動じない。 むしろ薄ら笑いすら浮かべ、秋山が迫ってくるのを、ただ見つめているだけ だ。 八人の秋山が柳川に斬りかかる…… 「不死身の躰を持つ君には、どんな攻撃も意味はあるまい。だが……」 怨! 突如、柳川の周囲の地面から影の触手が伸び、八人の秋山を捕らえる。 幻影であった七つの影は霧散するが、触手の一本はしっかりと本体を掴まえ ていた。 「な、何だ、コレは……くっ!?」 触手を電撃で焼き払おうとして、秋山は気付いた。 触手の表面に生えた、無数の『顔』に。 「死霊!?」 「その通り! せっかくの資源なんだ。有効に使わせてもらっているよ。お前 も取り込んで、『城』のエネルギーの一部に変えてやろう!」 「くぅぅぅぅ! こんなもの……!」 慌てて発電能力を解放する。 例え、元が死霊でも実体があるなら、電撃も効くはず……! 「うおおおおおお! 焼き切ってや……!」 ――あっきー…… 「!? ……………………………………………………たける?」 触手の中に、自分の知る者の気配を感じた――それが命取りだった。 秋山の躰が触手に吸収されていく……! 「ぐ、ああああああああああ!」 魂が侵食されていく激痛に、秋山が絶叫する。 惨めな姿の秋山を見上げながら、柳川は 「くふふふふふ……ふはははははは……ぐははははははははははははははは! はっーははははははははははははははははははははははははははははははは!」 笑った。 狂ったように。 「さあ最期に見届けるが良い! 『城』の頂上! 『凌辱者』の降臨! 見ろ ……マザーの復活だ!」 「!?」 飲まれていく自我の中で、秋山は確かに見た。 光り輝く、『城』の頂点。 『最後の審判』の始まりの瞬間を。 ・ ・ ・ 『城』の頂上部にある部屋。 其処に九つの水槽がある。 中央の水槽には白い少女……マザー。 取り囲む八つの水槽のうち、六つには遊輝。 二つは空。 だが、空の水槽に光の粒子が集まる。 粒子は急速に結晶し、それぞれ遊輝の姿をとる。 ――全ての水槽が満たされる。 同時に中央の水槽、マザーが激しく輝きだした。 白い閃光。 否、激光。 否、白い、闇。 眩い、闇。 白い闇は部屋中を蹂躙する。 水槽の硝子を破壊し、部屋の壁を破壊し、そして。 ――カッ! マザーの瞳が開かれる。 その奥に輝くのは、鮮血よりもなお深き紅。 当時に八人の遊輝も、紅の瞳を開く。 九人の白い少女が翼を開き、そして…… 白い闇は爆裂した。 ・ ・ ・ 「……マザー!」 その言葉を最後に、秋山の魂は怨念の海へと沈んでいった。 柳川はその光景を満足そうに眺めていた。 『城』の頂上には、マザーと遊輝。 十八の紅い瞳が、総てを見下ろしている。 柳川が両腕を広げて、宣言した。 「此処に我らが母は目覚め給う! さあ、もはや闇に身を隠す必要はない! ヨークよ! 学園を支えるヨークよ! 今こそ現世にその姿を晒すが良い!」 柳川の叫びに呼応し、学園空間の総てが鼓動した。 それはやがて激震に。 時空が……裂ける。 ・ ・ ・ 「!? 隆山上空に、時空湾曲反応! これは……デカイ!」 コンピューターを覗き込んでいた源五郎がいきなり叫んだ。 皆の視線が、そちらに集中する。 そして、驚愕した。 「これは……」 隆山市全体に影を落とす巨体。 ヨーク。 かつてのエルクゥたちの船。 学園を支えていた土台。 それが、今、隆山の上空に姿を現していた。 「しかも……これを見て下さい!」 源五郎がパネルを操ると、画面が切り替わる。 そこに映ったのは、ヨークの上。 Leaf学園の全身。 しかし、その校舎を飲み込むように、その中心に聳える『城』がある。 まるで水晶で造られたかのような、美しい『城』。 しかし、その『城』を包むのは、屍と怨念。 その姿に一同は凍りつく。 「これは……『魔王政変』の際の……」 智波の声は震えていた。 悠も同じく震える声で答える。 「ああ。あれは、かつての風上日陰の居城……魔王城パンデモニウム!」 ・ ・ ・ 「さあ、幕は切って落とされた! 世界よ! 我らを止められると言うのなら、 止めてみせるが良い! その病める躰で出来ることがあればの話だがな! は ーはっはははははははははははは!」 柳川の哄笑は、世界中に響き渡った。 ・ ・ ・ 堕ちていく。 堕ちていく。 闇と苦痛と絶望の海へと堕ちていく。 崩壊する自我。 もう、指先すら動かせない。 凍えていく魂。 「俺には……無理だったっていうことか……」 諦め。 あとは無念を吐き出すだけの存在に堕ちるだけだ。 強大な怨念に飲み込まれて…… ――秋山さん。 自我の存在しないはずの海の中で、秋山は声を聞いた。 崩れ逝く自我を必死に食い止め、秋山は応える。 「その声は……電芹か?」 彼の友、川越たけると共に闇に堕ち、そして朽ちていったメイドロボの名前。 ――ごめんなさい。私はたけるさんを守りきれませんでした。 「謝ることなんかない。それを言ったら、俺も同じよ。見ろ。あいつを、マザ ーを救いにいって、返り討ちにあって……このザマだ」 自嘲する。 だが電芹は、秋山の弱音など聞いてはいなかった。 ――ですが、貴方は助けてみせます。此処から逃れて……今度は私たちを助 けに来て下さい。 「待て、電芹。俺には、もうそんな力なんか………………ッ!?」 拒絶しようとして、秋山は見てしまった。 電芹の姿を。 ――貴方はまだ生きています。まだやれることがあります。 かつての愛らしい姿は何処にもない。 皮膚は剥げ、機械の素体が晒されている。 下半身は無惨にも砕け散り、全身には腐ったような色の血や、精液のような 穢れた何かが付着している。 時折、躰に紫電が走る。 そして小さな爆発も。 ゆっくりと、それでも確実に、電芹は崩れて逝く。 だが、それでも。 それでも、なお。 その腕(かいな)には、泣きじゃくる、たけるを抱いて。 我が子を虐待から守る、母のように。 傷の一つ、血の一滴すらも、たけるには付けさせない。 ただ一人、大切な者を守る、地獄に堕ちた聖女。 「電芹……」 ――そんな顔しないで下さい、秋山さん。私は幸福です。だって…… 表情を奪われたその顔で、電芹は確かに微笑む。 ――紛い物の生命である私が、闇に堕ちた私が、こうやって大切な人を守る ことが出来る。偽物の私には、罪人の私には、出来過ぎた幸福です。 今度は頭の半分が弾け飛ぶ。 それでも、彼女は微笑んだままで。 ――ですが、本当にたけるさんを救えるのは、生きている貴方たちだけです。 だから……生きて。戦って。生命ある限り。 秋山の意識が、光の粒子に包まれる。 暖かくて、優しい……春の陽射しを思わせるような、そんな光。 意識が遠のく。 しかし、それは決して闇に堕ちる感覚ではない。 ――それまで、私は今度こそたけるさんを守りきってみせます。ですから。 秋山は光の中で意識を失う。 電芹のその笑顔を胸に刻んで。 ――ちゃんと助けに来て下さいよ? 秋山さん…… 電芹のその言葉を胸に刻んで。 ・ ・ ・ 「Leaf学園の周囲には、千体を超える量産型ジンが取り囲んでいます。こ れは来栖川の全軍事力を以てしても適わないでしような」 源五郎が溜め息を吐きながら、報告する。 「だからと言って、ただ黙っているわけにもいかないでしょう!」 岩下が机を叩き、大声で叫んだ。 言われるまでもなく、皆、そのことは分かっている。 こうしている間にも、世界は崩壊していく。 一刻の猶予もない。 だが、柳川に勝てる者がいるとすれば、それは五年前の戦いを生き残った者 たちくらいだろう。 そう、それは…… ――Leaf学園の出身者たち。 芹香が僅かに微笑んだ。 「? どうしたの、姉さん?」 姉の表情の変化に、綾香がいち早く気付く。 芹香はいつも通りの、小さな声で告げた。 「『向こうから姿を現してくれたのですから、むしろ、これは好機です』? そ、それはそうだけど、奴らに勝てる連中なんて…………って、もしかして、 姉さん?」 こく。 芹香が頷いた。 今度は皆にも聞こえるくらいの声で告げる。 「そう。同窓会……ですよ」 ・ ・ ・ 十分後、来栖川と鶴来屋は全勢力をあげて、各地に散ったLeaf学園の出 身者の捜索に乗り出した。 だが…… 呼ばれるまでもなく、戦士たちは分かっていたのだ。 戦うべき刻が、再び其処まで迫っていることを。 そして、戦士たちは集う。 つづく …………………………………………………………………………………………… 久しぶりです。 前に投稿したのが何時だったか覚えていないし、思い出したくもねえ(逃避) はろはろ、ジン・ジャザムです。 ぐがあああああ! 際限なく話が長くなっておるわい。 この調子では終わる頃には、どれだけの分量になっていることやら。 今回も予定外の登場キャラがいますです。 ええと一人は分かるでしょうが、もう二人はたける嬢と電芹のコンビです。 色々と悩んだ結果、ああいうカタチでの登場となりました。 三日前までは、生きているのか死んでいるのかも決めてなかったぜ(無計画) 謎の僧の正体は御覧の通り。 これは連載開始当初から決めていました。 何かキャラが違うような気もしますが、気にしない気にしない。 少なくても俺は気にしません(酷え) では次回予告。 次回、ついに生き残りキャラ全員集合です。 逆に言うと、次回で名前の無かった人は死んでいます(笑) 許せ(横暴) …………………………………………………………………………………………… 次回予告 五年の月日を超え、人々は再び戦うべき刻を迎える。 <……衰えてませんね、主> ある者は、今度こそ失わないために。 「お前に、俺の何が分かるっていうんだ……!」 ある者は、己の痕を庇うために。 「もし未来を選べるのだとしたら! 誰もこんな未来は望まなかったさ!」 ある者は、明日を掴むために。 「あの娘、あんな辛そうな顔してるじゃないの。アンタ、バカだよ……」 ある者は、昨日を乗り越えるために。 「生きているんだ……こんなになったって、俺たちはまだ生きているんだ!」 ある者は、生き抜くために。 「この躰……いつまで保ちますかね?」 ある者は、笑いながら逝くために。 拳を 剣を 銃を 勇気を 慈愛を 掲げて、彼らは戦場へと赴く。 次回『望まれぬ生命 ――勇鬼――』 「何故、あいつが……」 ある者は、憎しみゆえに。 「喰らってしまえ……俺の魂など、喰らってしまえ!」 ある者は、愛ゆえに。