Lメモ第2話「Crocodile Lap(Get away)」−午前−  投稿者:JJ(J)
――あくる日 7:30 自宅――

 JJは見上げていた。そこには存在しない何かを。
 いや、それはそこだけにはいなかった。JJが部屋(小屋)へ戻ったときも、
散歩をしているときも、寝ているときですら。
 「それ」は――そこに存在するはずのないそれは、そこにいた。
 それを見つめ、JJは再び思う――

 いわゆる――「妄想」というやつだが。

 あなたのことを、思い出すまでもないのです。あなたはそこにいるのですから。
しかし――ああ、やはりあなたに逢いたい。
 我が最愛の人。秋の名を持つ、麗しき、おかっぱ頭の君。

「……惚れた」



・
・
 ――ダイニングルーム。
 天井にシャンデリア、壁際に甲冑、そして扉の横に使用人と、洋風インテリア
の3神器が揃っていれば、食事をしている本人らがあやしい雰囲気を醸し出して
いる姉妹だとか馬だとかでも、なんとか洋風な食事風景に見えることだろう。

 馬はちょっと無理があるかもしれないが。

 さすがに椅子には座れないので地べたに料理を置いている――盛りつけられた
そのままの姿で。つまり一口も食べていない。かといっていつものように姉妹に
虐められたわけでもないし、消化器に重大な損傷を負ったわけでもない。
 が、姉妹はJJを気にするでもなく、黙々と食事を摂っていた――

 のだが。

 こうなった以上、もはや無視するわけにはいかない――若き姉妹は認識した。
もしかしたら後ろに控えている使用人もそう思っていたかも知れない。

 最初に動いたのは姉の姉子だった。いつもの無表情(?)で席を立ち――部屋
から出ていく。
 次に動いたのは妹のさいこ。近くに待機している使用人に声をかける。

「悪いけど、私の部屋にある棍棒の、一番大きいヤツ持ってきてくれませんか?」

 動揺しているせいか、言葉遣いがおかしい。
 「かしこまりました」と部屋を出ていく使用人。かしこまるな。
 JJはその間、黙って宙を見つめたまま。
 そんな彼を、一時も目を離さず――だが青い顔で――気丈に睨む妹。
 程なくして、使用人が二人がかりで棍棒を持って来た。
 軽く礼を言い、柄に「Dagda」と字が刻まれている棍棒を受け取る。
 がちゃっ!
 と、反対側の扉が開く音。扉の開け方で、姉だとわかる。
 戻ってきた姉に振り返り――

「姉さん……今日は『ダイナマイト刑事』……?」
「なんか文句ある?」

 毎度のことのように「得物」を肩に担ぐ姉。いやマジで毎度のことだが。
 二人は無言で、いまだぼ〜っとしたままのJJの背後に回ると。

 高々と、巨大棍棒と巨大柱時計を振り上げた。



 Lメモ第2話「Crocodile Lap(Get away)」−午前−



「――本当に久しぶりだなー」
「そうだねー」
『もう五年も経ったんですね』
 「ほのぼの」という擬音がそのまま現世に現出しそうな、そんな空気。
 一頭の馬。と、一体の精霊。
 そして一人の男子。

 一見、何の特徴もない普通の男子生徒に見えるが、彼の肩に一人の小さな精霊
を見ることができたら、大抵の生徒たちは、彼が「東西」という名を持つ生徒で
あることに気付くだろう。
 それ以前に剣を携行しているからわかるか。
 で、JJと東西と命の三人(?)は、今まで思い出話に耽っていた。
 簡単に言えば東西とJJは古い友人だったわけで。
 ちなみにJJは図体が大きくて教室には入れないので、教室の外から、教室に
顔だけを覗かせている。しかも。

 お茶を飲んでいたりもする。

 両前足で湯飲みを器用にはさみ、ずずずとすする。
 しかも挙げ句の果てには、「結構なお手前で……」ときたもんだ。

 それを見、青い顔で教室から逃げ出すかのように走り去った生徒、数名。

「どうだ? あれから」
  ドドド……
 湯飲みを置きながら、JJはに5年前の東西の姿を思い出していた。懐かしさ
に身を浸らせていた――というわけでもないが、何となく憧憬の情を覚える。
「あの頃は……まだ小学生だったんだよな」
 ドドドドド……
「……ああ、そんな頃だったっけ」
 苦笑する東西。JJはその苦笑の意味を計りかね、あえて返答しなかった。
 ドドドドドドド……
「いろんな精霊とも契約を結べたし、これも使いこなせるようになったしね」
 と「精剣」を取り出す東西。それを見、突然顔を蒼白にするJJ。
「東西……いつもそんなモン持ち歩いているのか?」
「そうだけど?」
 ドドドドドドドド……
「持ち歩くな! 恐いからッ!」
「ココじゃこれぐらいの装備はしておかないと。いつ、どこで、何が、おきるか
わからないんだし」
「ンな大袈裟な」
『大袈裟じゃなくて、本当にそういうとこですよ。ココは』
 命が、しみじみとため息をつく。
「なん――てそりゃ、確かにオレも昨日金髪のコに追いかけ回されたけど……」
 ドドドドドドドドドドドドドドド……
「ああ、それはレミィ先輩。レミィ先輩はまだ序の口だから」
「……………………」
 ふう、と軽いため息を一つ。
 意味もなくあさっての方向を見やり――
「『ドドド』って何」
 振り向いたJJの、その問いとほぼ同時に――東西は無言で身構えた。
 ドドドドドドドドドドドドドドドドド……
「……西山先輩か?」
 東西の頬を、冷や汗が伝う。
「何だ!? またか!? またやられるのかッ!?」
 とてつもなく嫌な予感がして、錯乱気味のJJ。
 そして。


「「「(葵ちゃんもしくは松原さんを)『青い人』ってバカにする奴ぁ誰だあああ
あああぁぁっ!!!!」」」


 廊下側の壁を粉砕しながら轟音とともに現れたのは、T-Star-Reverse、佐藤昌斗、
ディアルトの三人。
「なんだ……びっくりした……」
 言葉とは裏腹に呆れ顔で構えを解く東西。
「何だとは何だ! 今、この辺に葵ちゃんをバカにしたヤツがいただろう!?」
「……何を根拠に?」
「これです!」
 どん、とT-Star-Reverseが、回転灯のついた妖しげな機械を机の上に乗せる。

「これこそ『松原さんを青い人とか蒼い人とかいろいろバカにした奴自動で発見
してなおかつ本日のサクリファイスに仕立て上げ機』!! 略して、松原さんを
青い(中略)機! メード・イン・科学部!」

 ズッギャーーーーーーーーーーーーーン!

 という効果音がいまわの際に聞こえてきたような気がしない。でもなかった。
「しかも『略して』とか言って実は全然略していないところがグッド。プッ」

 面白いのか佐藤昌斗。

「さあ! 葵ちゃんを青いマルチだとか胸がないとか」
「あなたが一番バカにしていると思いますが……」
「なにぃ! そんなバカなッ!?」
 うろたえるディアルト。と、唐突に妖しげな機械についた妖しげな回転灯が、
ピコピコと妖しげに回転し始める。
「むぅっ、『松原さん(中略)機』からまた反応がッ!?」
「往くぞ!!」
「「応!!」」
 と、また違うところの壁を粉砕しながら――去っていく三人。
「……なんだったんだ……」
 ぽつりと、JJ。
『まあ、こういう所ですここは』
 と、そこへ耕一がやってくる。
「ほら、授業始めるぞー」
 壁に空けられた二つの穴を見事なまでに無視して授業を始めようとする耕一。
げに素晴らしきは教師根性か、はたまた現実逃避か。


 さらにそのころ、というかほんの30秒ほど前。
 一人の赤い男が、コンクリートに寝そべっていた。
 仰向けになって空を見上げ、赤い男は呟く。
「今日も……青いですね……」
 男の名は九条和馬。

 自分の血で真っ赤になっている。

 空を見上げながらうっかり大量に吐血してしまい、しかも量が多すぎたため、
体が動かなくなっている、というしかけである。
 ……空を見ていると、空に吸い込まれそうになる。
(ああ……)
 そのまま――

『いくなーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!』

 と、メガホンで叫んでくれる某単細胞表計算女のような人がいるわけでもなし。
「空はあんなに青いのに……げふっ」
 再び――ぱあっ、と、青い空を赤く染め上げる和馬。

 この直後。
「ここだ! ッてうわーーーッ!?」
 屋上にて、血の泉に身を横たわらせている九条和馬が発見された。

「「「怖っわーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」」」

 さらにその頃、『試作一号、言語アルゴリズムに問題あり 改良の余地あり』
とメモを取る狂科学者がいたが、ちなみに誰も気付かなかった。

 ともあれJJらのクラスは、二時間目も、何の問題もなく日本史の授業だった。


 ――再び休み時間。
「まあ……ココがどういうトコかの片鱗は見えたよーな気がする」
「わかった? まあホントに片鱗だけど」
 東西の言葉に偽りはない。
「ところでさ……」
 その時!

 ……すりすり……

「――ひいぃッ!!?」
 腹の辺りを撫で回される感触に、思わず悲鳴を上げる。
「ななななななななななななな……」
「――JJ、久しぶりですね」
 そこにいたのは神無月りーずだった。
「ななな……って……りーずさん!? なんだってこんなトコにッ!?」
「そこからこーゆーふうに」
「イヤそういうこと聞いてるんじゃなくて」
「あの」
 そこへ横槍を入れたのは東西。
「二人とも……知り合い?」
「ええ。一年ほど前に私が……ちょっと間違って召喚しまして」
「JJを?」
 何と間違って召喚したんだろう。ふと、そんな疑問に駆られる。
「はい。それ以来会うことはなかったんですが……まさかココに来るとは思いも
よりませんでしたよ? JJ」
 笑みを浮かべ――JJを再び撫で回すりーず。
「ひいいぃっっっ!!」
 ぞぞぞぞぞっ。
「さてJJ、実は前に会った時に聞きそびれていたことがあったんですが……」
「え……?」
 JJの頬を、冷や汗が伝う。
「いえ、実はですね……」

 そして、鬼のような質問攻めが始まった。


 そんなわけで三時間目は、最初に難こそあったが、一通り古典の授業であった。


 また、休憩時間。
「それでですね――フーイナムの――あと――」
 ……授業中もずっと質問攻めだったわけだが。
 無論、先生にばれないようにメモのやりとりで。
 いー迷惑である。
 東西と命はりーずの説得を諦め、既にどこかへ行ってしまっている。
(誰か、オレを助けてくれぇっ!!)
 そしてその時!

 ギュ〜〜〜〜ッ!

「いでーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!」
 唐突な痛みに、思わず飛び上がるJJ。
「だ、誰だ人の尻尾を思いっきり引っ張るヤツはッ!!」
 がっ!
「……ふひぇ?」
 そして、顎を鷲掴みにされた。
 いつの間にかいた、一人の男子生徒によって。
「あにょ?(訳:あの?)」
 生徒はJJをまじまじと見つめ、やがてぽつりと呟いた。
「……どうやって喋っているんだ?」
「ふぁ?(は?)」
「あの……葛田さん?」
 その言葉はりーずのものであった。どうやらこの生徒は「葛田」というらしい。
 真摯な、そして少年のような葛田の瞳。よく覗き込めば、瞳が緋色であること
にも気づいた。
 が、そんなことはお構いなしに、葛田の言葉は続く。
「この骨格」
「こっかく?」
「そう。この顎の骨格で、どういう風にすれば馬が人間の言葉を喋れるんだ!?」
「いや……オレ、馬じゃないですし」
 無視。
「……気になる」
 葛田の呟き。
「え?」
「気になる。気になる。気になる――解剖させろぉッ!!」
「なぜえええぇぇぇぇっ!?」
 逃げ惑うJJ。
「待てえええぇぇぇぇぇっ!!」
「ちょっと待ってください、JJ――!」
 一緒に追いかけてくるりーず。
(ひいいぃぃぃぃっ!?)
 両方とも洒落にならん! JJは直感した!
 ぴうーーーーーーーーーーーーーーーーーぅ
 あっという間に全速力で逃げ去っていくJJ。
「くそぉ……さすがに馬には追いつけんか……」
「任せてください葛田さん!」
「む、何か方法があるのかりーずくん?」
「はい……! 召喚――『スレイプニール』!」
 ごぅ――っ!
「どおおっ!?」
 風と共に現れたそれは、8本の足を持つ馬。
 言わずと知れた、魔神ロキの息子にして主神オーディンの愛馬である。
「乗ってください!」
「お……おう!」
 ちょっとビビり入りながらも、りーずの後ろに乗る葛田。
(ちなみにこの時点で、チャイムが校内に鳴り響いていた。爆)
「お願いしますよ、スレイプニール……」
 スレイプニールの嘶き。体を大きく持ち上げ、一歩を踏みだし……
 ごぅっ!
 ……一瞬でJJの元へとたどり着いた。
「JJ〜」
「どげらぐぎあぁぁぁぁぁっ!?」
 大いに戸惑うJJ。
「り、りーずさんそれ……スレイプニールじゃないですか!?」
 ぎろり! とJJを睨むスレイプニール。
「あああ! スンマセンスンマセン! スレイプニール様!(ヘコヘコ)」
 げしげしげしげしげし#
「ああああああ(泣)」
 スレイプニールは相当怒っているようだった。
「さあ! 観念してもらいますよ〜」
「解剖(にじりっ……)」
「い――いやだぁっ!! いやなんだあああぁぁぁぁぁぁぁぁーー」
 あきらめの悪いヤツ。
「無駄ですよ! スレイプニールは特殊な場所以外ならどこにでも、一瞬で到達
できるんです。ましてやココは学校の中。あなたがいくら逃げたところで――」
 その時、極限状態のJJの脳味噌に、閃くモノがあった。
「違う……あったぞ、学校でスレイプニールですらたどり着けない場所が!!」
「なんですって?」
「………………#」 ←スレイプニール
 その言葉に一番敏感に反応したのは、他ならぬスレイプニールであった。
「ブヒヒンブヒンブヒン!」
 訳すると、「嘘こいてんじゃねえぞキサマあっ!」と言っているらしい。相当
お怒りのご様子である。
 だっ! と、それを無視して逃げ出すJJ。
 しばらくその場に佇み――
 ひゅんっ!
 と、一瞬にしてJJの元にたどり着くスレイプニール。
「だから無駄ですってば(^^;」
 りーずがさすがに呆れ顔で、JJを見下ろす。
 その後ろでは――
「解剖……」
 とか呟く葛田がいたり。
 だが、再び逃げ出すJJ。
「何を考えているのかは知りませんが――」
 ひゅん――!
「――諦めて僕の質問に答えて下さい」
「解剖!」
 だっ!
「まったく……彼のこういう時の諦めの悪さは知ってましたけどね……」
「解剖、かっかっ――(ガクッガクッ)」
「あ゛あっ! 葛田さんの禁断症状がッ!」
 おひ。
 ちなみに、その隙にJJはぴうーーーと逃げていた。
「待ってて下さい葛田さん。スグ捕まえますから」
 しっかと葛田の手を握り、そしてそっと呟く。
「あなたの為に……」
「りーずくん……」
 そっと見つめ合う二人――
「はっ! いかんいかん、危うくろーずになるとこだった(ぶんぶん)」
 さすがに作者もマズイと思ったらしい。
「スレイプニール! 遊んでないでJJを捕まえますよ! まだ聞きたいことが
山と残っているんですからね」
 授業は無視か。

 JJはそこに立っていた。
(ここなら――この場所なら!)
 大きな扉の前。その先には、不可侵領域ともいえる空間が広がっているはず。
 ――取っ手に手、もとい前足をかける。
 まるで、心の中の開いてはいけない扉を開くような、そんな奇妙な感覚。
 りーずたちが出現するのと、JJが扉を開いたのは――まったくの同時だった。
「!」
 りーずの、そして葛田の驚愕。
 自分たちが現れた「ココ」がいかなる場所なのか、すぐに理解したのだろう。
 いや、このリーフ学園に在学する者として、ココの存在だけは知らねばならぬ。
 だが扉は開く。あまりにもあっさりすぎるほどに軽く、音に例えるならば――
「きい」と。
 その領域の向こうには、大きな中華鍋を持つ、黒く美しい天使が、待っていま
したと言わんばかりに待ちかまえていた。
 一瞬が去り、黒天使――千鶴の口が開いた。
「あらっ、JJ君にりーず君に葛田君。今ちょうどナイスな位にタイミング良く
ホイコーローができあがったんだけど、味見してくれるわよね?(にっこり)」
 ……………………
 誰ともなしに、心の中に『ウェルカム♪』というタイトルが浮かぶ。
 ――はぁ、その鍋いっぱいに作ったんスか。大変ご苦労さまなこってス。
 そんな言葉が浮かぶはずもなく。
 JJの呟き。小さいはずなのに、どこか狂気じみた。
「毒を以て……毒を制す」



 爆。


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 やっとでました第二弾。しかも午前だけ。
 昼食、昼休みをはさんで午後を続けマス。
「どのくらい長い昼休みになるの?」
 ぐ……それは言うな姉子!
「言うな、じゃないでしょ。ほらとっとと書きなさい(がすがす)」
 ひぃぃぃ。