ある晴れた日。 JJは一枚のパンフを眺めていた。 (Leaf学園テニス大会……) 出場規定が色々と書かれていたが、JJはそんなところにはまったく目を通していない。 あるのはただ一つ、「優勝商品」の項目である。 『なあ東西、この――「ダブルス」ってなんだ?』 『あれ、知らないの? ダブルスって言うのは二人一組でするテニスのことだよ』 『二人一組……なんかそれはそれで大変そうだよな』 『でもみんな、優勝商品を狙って頑張ってるよ』 『ふ〜ん、ご苦労様だなぁ〜――ちなみに優勝商品って何?』 『隆山温泉郷2泊3日の旅、しかもペアで』 『なんだ温泉かってペアッ!? それはつまりダブルスで組んだペアということか!?』 『うん』 ズッギャーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!! 『ちょっちょっと待てそれはだなつまり宿に二人で仲良く寝泊まりとゆうことでその間の 人的保障及び双方の許諾が必要とされる状況下で――』 『なんで人的保障が絡んでくるかな』 『下心見え見えですね』 『ああちょっとまって命さん違うんだつまりこんなことを黙認する学園側として若い男女 が温泉宿で二人きりなんていう……』 ――とゆうわけで、まだパンフレットを眺めている。 ちなみに主催が学園ではなく暗躍生徒会だということは、その後知った。 (温泉宿に二人きり……) あながち外れいているのだが。 (二人きり……楓さんと二人きり……) 実はこの時点で西山が楓にOKをもらっていたりして、知らぬがパラダイスのさぞかし 滑稽であろう道化師なJJに合掌もしくは黙祷。十字切ってもOK。 そこへちょうど良く、彼の飼い主「さいこ」登場。 「あ、おーいさいこ!」 すたすたすたすた……げしげしげし# 「なに?」 「人のことさんざん蹴っといて何もクソもあったもんじゃないと思うが……まあいいや。 ちょっとだけ、この『テニス』ってヤツを教えてくれないか?」 その言葉に目を丸くするさいこ。 「……私が?」 「ああ」 「うーん……教えてもいいんだけど、私運動苦手だから……」 嘘こけ。 とJJは心の中で思ったが、あえて口には出さなかった。 (とゆうか、これは単に本人に自覚がないだけか……?) と、そこへ。 「姉さーん! ちょっと来てくれない?」 のろのろと姉子登場。 「なに?」 「今暇でしょ?」 「文句あんの?(ぎろ)」 「(さらっと受け流し)ないけど、暇だったらJJにテニスを教えて欲しいんだけど」 「JJに」の時点ですでに露骨に嫌な顔をしていたりするし。 「私運動苦手だし、これから部活だから……」 最初は嫌がっていた姉子も、最後には「仕方ないわね」と腰を折った。 (ココだけの話、本当に折れそうな腰である。どうでもいいが) 「じゃあ、後はお願いね姉さん」 さいこ退場。 「お願いします、姉子さん」 JJも神妙に頭を下げる。迂闊に機嫌を損ねると何が起こるか解らない。 いや、かえって解りきっているか。 「……まーいーけど。じゃテニスコートに行くわよ」 数分後、テニスコート。 「ところで」 「はい?」 「あんたどうやって板持つの」 ラケットのことらしい。 「そこは大丈夫! オレこう見えても顎強いんで、口に加えてがっちりと――」 と、ラケットを口に加えて構えてみせる。 「あそ」 姉子はそれだけ言うと、さっさとコートの反対側に移動した。 あーまったくめんどくさいわ大体なんで私がこんなことしなくちゃならないのよ。 それに私テニスしたことないのよね。 ……考えてみたら、「したことない」ってゆえばそれだけで済んだかしら? まーいーわ。えと……こ〜だったかしら? いくわよ〜、JJ〜。 「はい! お願いします!」 ……なんか燃えてるし。 え〜と、確かボールを放り投げて…… バキッ!! なぜかそんな不快音をたて、ボールは急加速を開始した。 迎撃すべく腰を低くするJJ。が…… ボールは鬼のようなドライブを描くと、JJの足下を急襲した! 「どわああっ!?」 咄嗟に避けるJJ。 そしてそのままバウンドし、突き刺されといわんばかりに壁に激突するボール。 「………………(汗だらだら)」 「避けてどーすんのよ。ちゃんと打ち返しなさいよ」 「い……今のをどーやって打ち返すと?」 「根性に決まってるじゃない」 「そーなのか……?」 「もう一発、いくわよ」 再び構える姉子。 「あ、えと……その前に聞きたいことが……」 「あん? 何?」 「今、この板……ラケットの、枠の部分でボールを叩きませんでした?」 「? ……そーだけど?」 「じゃあ、この網の部分の意味は……?」 「……………………ないわ」 本当か? 本当にそうなのか!? 「じゃ続けるわよ」 再びボールを上に放り投げる。 ガキッ!! (来た……低い!) 掬うようにラケットを前に突き出そうとした。 が、今度はボールはえぐるようにホップする! 「んなーーーーーーーーッ!?」 そのままボールは顎にクリーンヒット。 一瞬、JJの脳裏に「JET」の三文字が閃いた。なぜかは解らないが。 「ボールにアッパーもらってどーすんの」 「だ……だってあんなメチャクチャえぐい球……」 「小理屈いってる間にもう一発いくわよ」 「わっ、わわっ! ちょっと待って――」 バキッ! ドカッ! バキン! 次々と襲ってくるボールたち。 「ひィィィィ〜ッ!? グゲッ! ギャブッ! ムゲッ!」 それらは思い思いに(?)えぐい弧を描き、だが確実にJJにヒットしていった。 そう、その様はまるで―― 「てゆーかあなたファンネルとかビットとか仕込んでませんかッ!?」 だが姉子は。 「暗くなってボールが見えなくなるまでやるからね」 「のひいぃぃぃぃぃーーーーーーーーーーーーーー――」 この後JJ、「テニスボール恐怖症」となる。