シャッフルL「夢路、来た道、戻る道」(後編) 投稿者:風見 ひなた

 千鶴先生が部屋を辞してしばらくしてから、部屋のドアがノックされた。
「お食事でーす」
「あ、はい。どうぞ」
 僕が返事をすると、声の主はてってっと料理を持って入ってきた。
「失礼しまーす」
 声の主は学園でもよく見掛ける人物だった。
 第二購買部の主、beaker君である。
「……ってエルクゥ同盟ともかく、何であなたがいるの?」
 僕が訊くと、beakerは朗らかに笑いながら答えた。
「とりあえず鶴木屋とは仲良くしようってことで、奉仕活動中なんです」
 あああ、信じたいのに信じ切れないのが凄く悲しいよbeaker君。
「……で、本当の目的は何?」
「……聞かせて欲しいですか?」
 beaker君はにこっと笑って、ちょっとマジな顔でつらつらと答えた。
「ていうかいくらキーワードが北の温泉宿とはいえきたみち親娘だけじゃLとは呼べ
ない代物になっちゃうから無理矢理出演中なんですけど」
「じゃあ愛娘と二人きりの甘い雪の温泉旅行を楽しむ僕の計画はどーなるの?」
「無視です」
「………」
 ううっ、どーせこんなことだろうとは思ったけどさ。
 僕がいじけていると、beaker君は僕の後ろを覗き込んで呟いた。
「おや、靜ちゃんはお休み中ですか?」
「うん、ここまで来るのに疲れたみたいだね」
 むしろ普通は死ぬけど。
「そうですか……では後で靜ちゃんには別にお出しするとして、貴方には先にお料理
召し上がって戴きましょうね」
「え、いいんですか?」
 僕がそう言うと、beaker君は苦笑して肩を竦めた。
「どうせこの宿に泊まってるモニターさんの人数なんて知れてますから、こんなサー
ビスくらいなら支障も出やしませんよ。お腹も空いてるんでしょう?」
「あ……」
 その言葉を聞いた途端、僕は猛烈な空腹感を覚えた。
 よく考えれば昨日の昼からこの深夜まで、食べたのはビスケットが3欠けとチョコ
1欠けくらいのものだった。なんせ遭難しかけてたし。ちなみに靜にはちゃんと僕の
分まで食べさせている。何があっても靜だけは飢えさせるわけにはいかない。
 僕は照れ笑いを浮かべながら、ぺこりとbeaker君に頭を下げた。
「うん、じゃあお願いします」
「分かりました、では直ちにお持ちさせましょう。……おーい」
 beaker君はぺんぺんと小気味良い音を鳴らした。
 途端に座敷の向こうから沢山の足音が聞こえてくる。
「はいはい、お待たせしましたー!!」
 どうやら既に控えていたらしく、料理を持った臨時従業員達が列を作って料理を運んで
来る。障子越しに彼等が何を運んできているかが分かり、僕は空腹感を堪えるのにかなり
の労力を要した。
 あれはご飯と味噌汁とおしんこ、あれはコップとジュース、あれは小鍋かな。
 それから天ぷらと、お刺身と、人体と……人体?
「ってストップーーーっ!!」
 僕はびしっと待ったコールを入れた。律儀にみんな障子の前で止まってくれる。
 きょとんとするbeaker君に向かって、僕は障子の向こうを指さしながら叫んだ。
「人体って何だっ、人体って!?」
「ははは、きたみちさん。あれは人体ではありません」
 beaker君は至って冷静な笑顔で答えた。
「あれは当旅館自慢の一品、キノコの船盛ですよ」
「ふな……もり?」
「はは、きたみちさんも聞いた事がおありでしょう。男性だけが食せる珍味……」
 beaker君はくわっと目を見開いて叫んだ。
「『女体盛り』の事を!!」
「にょ、にょたいもりとなっ!?」
 僕は思わずオウム返しに叫んだ。頭の中にはあまりの驚きにお星様が大乱舞だ。
 女体盛り……それは政治家や大企業の重役がバブル絶頂の頃好んで喰したとされる、
古来より伝わるいわば伝説の珍味。冷静に考えればいくら念入れて冷水で身体洗った
ところで直接肌に乗せた刺身なぞ食らう気も起こらないし、女性から見たら超最低に
下品な料理である。僕だって野郎の裸に盛られた料理なんて嫌だ。
 しかし僕はbeaker君のあまりの迫力に呑まれてしまっていた。
「い、いや、しかし……それは」
「きたみちさん……今食さねば、一生食す機会はないでしょうね」
 ぼそりと呟かれるbeaker君の台詞が僕の良心を攻撃する。
「だ、だけど靜だっているし……」
「ぐっすりと眠ってますよ」
 うううううう。
 僕はちらっと奥で寝ている靜を見て、そわそわと肩を動かした。 
 beaker君は天使の皮を被った悪魔の表情で僕にとどめの一言を囁いた。
「きたみちさんだって、興味はおありでしょう?」
「……うん」
 僕は靜を振り返ると、ごめんね、と心の中で頭を下げた。
 これは決して浮気なんかじゃないんだ。ただ漢には一度は経験しなければならない
未知のワンダーゾーンがあるだけなんだ、それが終わればすぐに帰って来るからね。
今日のこの経験が君との新しい愛のステップとなる事を信じて、僕は行くよ!!
「beaker君……お願いします!!」
「それでこそ漢!! さあ、ではどうぞーーー!!」
 beaker君が指を鳴らすと、どこからともなくスポットライトが現れてキノコ盛りを
照らした。おまけにデラデラデラ……とタイコの効果音付きだ。
 僕はごくっと喉を鳴らして、食い入るようにライトに照らされたシルエットを観察
した。確か、この旅館に居るのは柏木一族とエルクゥ同盟、第二購買部だけのはず。
 結構背は高い。とすると美加香さんや沙耶香さん、初音ちゃんに楓ちゃんは違うな。
もっともパートナー達が承知しないだろうけど。
 それにショートカットか。とすると千鶴先生は違うな。
 じゃあ残ったのは梓さんと良江さんか……悪いけど良江さんはあまり嬉しくないな。
 案外大柄みたいだから、良江さんは違う、と。
 ……とすると、梓さんか!? あれは梓さんなのかぁぁぁぁぁぁぁ!?
「さあ、では行ってみましょう!!」
「どきどきどきどきどき」
 僕は大人への階段を上るにあたって口からドキがムネムネするほどヒートアップ!! 
 キノコ盛りの正体や如何にっ!?
(……ん? キノコ?)
 僕はふとひっかかるものを感じて、ちょっとクールダウンした。
 何かがおかしい。僕の十八年におよぶ不幸人生裏街道を歩んできた危機感がそう告げて
いた。盛るのなら刺身で良いはずだ。何故わざわざキノコ?
 ここが山だからか? いや、しかし刺身を出すくらいだから別に刺身を盛っても……
 キノコ……盛り……裸……ショートカット……大柄?
 その時、僕は今障子の向こうで何が起ころうとしているかを理解した。
「はい、それではショーアップだあぁぁぁぁ!!!!」
「ちょ、ちょっと待ったぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 僕は必死にbeaker君を遮って、障子に向かって指を突きつけた。
「もしかしてアレって、エルクゥユウヤじゃないのかぁぁぁぁ!?」
「な、な、何を証拠にぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」
 ぎくっとするbeaker君のうろたえ加減が微妙にその正体を雄弁に語っている。
 その時、障子の向こうのシルエットの人体が突然クネクネと蠢きだした。
「ああっ、寒い、寒いわっ!! 早く貴方の熱い視線でユウヤの身体を温めて!!」
「やっぱりかぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?」
 今日も僕の不幸は絶好調ですかお母さん!?
 beaker君はちっ、と舌打ちしながら乾いた笑いを上げた。
「はは、特製『魔法少女体盛り』女将からナイスジョークのプレゼントだそうです☆」
「ナイス違うーーーーーーーーーーーーーっ!?」
 僕が絶叫したとき、ばりっと障子を突き破って奴が侵入してきた。
 いくら日頃丁寧な僕でもあの存在に対しては自信を持ってこう呼ぼう!!
『奴(ヤツ)』と!!
「もう、もう辛抱出来ないっ!! 早くユウヤのキノ」
「皆まで言うな超ド下品野郎がーーーーッッッ!!!」
 僕のミラクルパンチが巨大なキノコの塊をぶっとばした。
 そう、エルクゥユウヤは既にキノコ盛りを通りこしていたのだ。
「あの、なんだか既に苗床状態なんですけどっ!?」
 僕はとある有名な怪奇話を思い出して、そのあまりの不気味さに慄いた。
 一方マタンゴと化したユウヤはそのままごろごろと廊下を転がってゆく。
「あれ? 珍しく退散してますね?」
 beaker君はそんなユウヤを見て、不思議そうに首を傾げている。
 一方僕には確信があった。
 いや、まだだ!! あれしきで奴が倒れるはずがない……奴は何か企んでいる!!
 その僕の予感は、不幸にも的中してしまった。
 ユウヤが見えなくなってしばらくしてから、突如地面が思い切り揺れ始めたのだ。
「じ、地震ですか!? それとも雪崩!?」
 beaker君の叫びに僕は首を振り、ゆっくりと庭に出て頭上を見あげた。
 残念な事に、奴は僕の想像通りの行動を取っていたのだ。
 僕の頭上には……身の丈10メートルをゆうに越える巨大ユウヤが全身にキノコを
生やしてそびえ立っていた。
「やはり……奴め、キノコだけに温泉の湯気を浴びて急成長したか!!」
「何でだっ!? 硫黄泉なんだぞーーーっ!?」
 今度はbeaker君がずっこけていた。
 僕は唇を噛みながら、彼に向かって問うた。
「この温泉……もしかして微量のラジウムが入ってません?」
「あ、それはほんの少し……って放射能かーーーっ!?」
「そうだよ、奴はきっと放射能の力で超巨大に成長したに違いないっ!!」
 僕の視界には某ゴリラとクジラを掛けあわせた名前の怪獣のシルエットが浮かんで
いた。去年はハリウッドでティラノサウルスになってましたね。原型ないぞアレ。
 そうこう言ってる内に、怪獣ユウヤの手が僕に向かって伸ばされる。こんな状態でも
本能はまだ残っているらしい。こんなのに寄生するキノコの方もかなり気合入ってるぞ。
って、そんな事言ってる場合じゃない!!
 僕は慌ててその指を斬り裂いた。しかし、うじゅるうじゅるとあっという間に斬られた
部分は再生してゆく。まるでシ○ガミ様のように!!
「わーーっ、気味悪ーーーーっ!?」
「ダーリーーン☆」
 僕は驚いたほんの僅かな隙に、あっという間にユウヤに絡め取られてしまった。
 いくらもがいても異様にヌルヌルしていて、どうしても脱出が出来ない。
「わーーーーーっ、誰かーーーーーーーーっ!?」
「ああっ、きたみちさんがっ!?」
 beaker君は慌てて懐を探りだした。
 ああっ、やっぱり銃器で助けだしてくれるんだよね!?
「きたみちさんに応援エール!! さんさんななびょーしっ!!」
「ってメガホンかぁぁぁぁ!? 物理的に助けてよーーーっ!!」
 僕は眼下で精神的に力づけようとしているbeaker君のなんだか無駄っぽい応援を聞き
ながら叫んだ。
 ちなみに二重人格モードはそろそろ使わないので封印されつつあったり。
 beaker君はメガホンから声を張り上げて絶叫している。
「大丈夫ですきたみちさんっ、せいぜい犯られるだけですからーーっ!!」
「こんなんに犯られたらいろんな意味で即死するわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
 いや、ホント色んな意味でね。
「ダーリン、今こそ誓いのベーゼをぉぉぉぉぉぉ!!!」
「うわあああ、絶体絶命ーーーっ!?」
 まるでラフレシアの花のようなユウヤの唇が迫ってくる。
 僕はそれを見ながら、ふっと意識が白く反転するのを感じた。

「ああああっ、あんなんに対抗できるのはエルクゥ同盟くらいのもんなのに!?」
 beakerは周囲を見渡して、なんとかきたみちの危機を救おうと手段を探した。
 別に助けようとしなかったわけではなく、助ける方法が見つからなかっただけだ。
 何せ生半可な攻撃は通用しない。下手な攻撃は敵を刺激するだけだろう。
 しかし頼みの綱のエルクゥ同盟は先ほど厨房に出かけたきり帰ってこない。
 困惑の末に、身体を起こしかける靜を見つけたbeakerはせめて靜に父の無残な姿を
見せない事がせめてもの救いだろう、と考えた。
「靜ちゃん、早くこっちへ……」
「…………」
 しかし靜は反応しない。まだ寝惚けているのだろうか。
 beakerは靜の側へ寄って、もう一度声を掛けた。
「靜ちゃん、起きて……」
 今度もbeakerは途中で声を止めた。
 しかし今度は靜が反応しなかったからではない。圧倒的な力の高まりを感じたから
である。
「この波動……一体!?」
 beakerが叫んだと同時に靜の手に自分の身体よりも巨大な両手剣が出現していた。
 靜はぎらんと光る目でユウヤを睨みつけると、高々と跳躍した。
 そしてユウヤの眼前まで飛び上がって、全身のバネを使い剣を振り下ろした。
「ち・ち・う・え・に・触るなぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!!」
「はうっ、あれは奥義鎌鼬!?」
 靜の剣から放たれた剣閃はユウヤのキノコアーマーをたやすく両断した。
 所詮たかがキノコだし。
「いやーん、まいっちんぐ☆」
 古い、古いよエルクゥユウヤ!!
 当の靜は一向に意に解さず、ぴーーっと口笛を吹いてみせた。
「あっ、こんなところに大きなキノコがーーーーーーーーーーーーっ!!」
「むっ、メシか!? メシなのかっ!? メシなんじゃなぁっ!?」
 靜の叫びを受け、どこからともなく白い妖怪が突撃してきた。
 実は口笛には意味がないらしい。
 白い妖怪はそのままユウヤにとびかかり、ばりばりっとむしって食らい始めた。
「むう、美味!! さすが飢えてると何を食っても美味いのぅ!!」
「ああああっ、ユウヤはクラクラ毒キノコなのにぃぃぃぃ〜〜でもポッ」
 なんだか白い妖怪は美味そうに食している。ユウヤ嬉しそう。
「……なんつー伏線だオイ」
 beakerは頭を抱えてしゃがみ込んだ。
 靜には周囲の状況は一際目に入っていないらしく、助け出したもどるに頬擦り
している。
「父上……良かったぁ〜〜♪」
 それを隠れて見ていたジンは、ニヤリと笑って呟いた。
「beaker……お前があの時感じた波動こそ、『愛の電波力』だ!!」
「もうワケわかんないよ、ジンさん……」
 風見はそう言ってしくしくと泣いた。
 『叶』ようやくやってみました。良いですね、雫編。


「ってはあッ!?」
 僕は奇声を上げながら布団から跳ね起きた。
 身体中が汗びっしょりだが、妙にあちこちが痛い。
「父上、気がついたの!?」
 タオルを持った靜が心配そうに僕を見下ろしていた。
 僕はその肩を抱いて、ぶんぶんと恐怖に任せて揺さぶった。
「ユ、ユウヤは!? 愛の電波力は!? 恐怖のキノコ盛りはぁぁぁぁ!?」
「父上……よっぽど怖い夢見てたんだね」
 靜は労わるような目で僕を見て、ぎゅっと僕にしがみついた。
 肩から靜の温もりが伝わってくる。
 それに従って、段々と僕の興奮した頭も静まってきた。
「夢!? 今の夢オチなのか!? ……あんだけ長くやっといて、本当に?」
「……ずいぶん長い悪夢だったんだね……でも、もう平気だからね」
 靜はぎゅっと僕にしがみついたまま離れない。
 そんな僕達に向かって、部屋の入り口の辺りから声が聞こえた。
「やれやれ、見せつけてくれますね」
 さっき聞いたばかりの声だ。
「beaker君……? あの、キノコ盛りはどうなりました?」
「は? キノコ食べたいんですか? 生憎この季節じゃキノコは無理ですよ」
 beaker君はそう言って、肩を竦め苦笑した。
「さて、僕は中てられない内に消えるとしますか。……きたみちさん、かっこ良かった
ですよ」
 かっこ良かった? 僕が? 一体何の話なんだろうか。
 先ほどの夢の余韻でまだクラクラしているようだ。
 とりあえずこれが現実だということだけは間違いないのだが……。
 beaker君が退出すると、すぐに靜が僕に抱きついてきた。
「わっ……どうしたんだ?」
「ふぇぇぇん、父上ぇぇぇぇぇぇ……」
 靜は僕の胸に顔を埋めて、ぎゅっと僕にすがりついている。
「父上はね、雪崩に巻き込まれたときに靜をかばって直撃を受けて……旅館に来てた
お兄ちゃんたちに助けられたときは死にかけてて、二日も寝てたんだよぉ」
「……マジ?」
「うん。beakerお兄ちゃんが特別に売り物のお薬分けてくれて、死なずにすんだの」
「雨が降りそうな話だな……」
 そう言いながら、僕はbeaker君が去り際に言った台詞を思い返していた。
 彼にとっての最高の賛辞、というわけか……。
 そういえば雪崩に押し潰される直前に靜だけでも、と思っていたことを思い出す。
 夢の中では守る事が出来なかったが……。
「何だ…守る事、出来たんだ」
 ぼんやりとそう呟くと、自然に頬が緩んで来るのを感じた。
 靜はまだ僕の胸の中にいる。ちょっと嬉しいけど、ちょっと痛い。
「靜、痛いよ……」
「だって、だって、だってちちうえが靜かばってしんじゃうかもって思ったんだもん」
 そんな靜を見て、僕は可愛さのあまりに苦笑する。
「馬鹿だなあ、靜は。お前のためなら僕の命なんていくらでも捨てて……」
「やだっ!!」
 思いがけない強い拒否の声だった。ついぞ聞いた事のない強い口調に、僕はあっけに
取られる。靜は僕を見上げ、強い意思の光の宿った目をまっすぐに向けて言った。
「冗談でもそんなこと言っちゃやだ!! 父上が死んじゃったら、靜が生きてても意味
ないもん!! 父上のいのちは靜のいのちと同じくらい大事なんだもんっ!!」
「……靜」
 僕の見つめる前で、みるみる靜の瞳が涙で滲んでいく。
 靜はしゃくりあげながら、涙のこぼれる顔で僕をじっと見つめている。
「ちちうえが…ちちうえが、しんじゃうっておもったんだもん……ちちうえがしずかを
かばって、しんじゃうっておもったんだもん……ちちうえがしんだら、しずかのせいだ
って……しずかがちちうえをころしたんだって、おもったんだもん……」
 ああ――
 そうだよね――
 この二日間、靜はずっと心配だったんだ。
 僕が死んだらどうしようと。僕が二度と起きあがらなかったらどうしようと。
 それこそまだ幼い子が二日の間ずっと、冷やしたタオルを眠らずにずっと僕にあて続
けてくれるくらいに。手があかぎれて、指先が真っ赤に腫れてしまうくらいに。
 僕の死を、自分の責任として全て背負い込んでしまうくらいに。
 僕が再び目を覚ますことを願い――

 僕に生きて欲しい――と。

「ごめんね、靜。そうだよね」
 だから彼女に掛けるべき言葉は安っぽく身勝手な自己犠牲の『宣言』ではなく――
「必ず幸せになろう。二人で、絶対に幸せになろうね」
「うん……ちちうえっ……」
 共に永きを歩み、いつの日にか必ず幸福を勝ち取るための――『誓い』。
 僕は大事な靜を今度は自分から胸に抱き、その涙を自らの胸に刻み込む。
 決して不快ではない。それが自分の生を願っての物ならば。

「今はこんなだけどさ、傷が治ったらスキーしようか」
「うん」
「それに温泉だって一緒に入りたいしさ、雪だるまも作りたいね」
「うん」
「雪ウサギって知ってる? 雪でウサギの人形を作るんだ。一緒にやろうね」
「うん」
「こたつでミカンも食べたいね。焼きミカンって結構美味しいんだよ」
「うん」
「いっそかまくらの中でみかんを食べてもいいよね。ああいうのって憧れるな」
「………」
「何しろ時間はたくさんあるし千鶴先生が春休み中好きなだけ居ていいって……」
「……………」
「靜? 何だ、寝ちゃったのか」
 僕はそう言いながら胸の中で寝息を立てる靜を見る。
 二日間ろくに寝てなかったのだから、しょうがない。
「……何にしろ、良かったよな。一緒に出来ることが沢山あるんだ」
 僕は呟きながらそっと靜の頬に頬擦りする。
 はにゃぁ〜と寝ながら気持ち良さそうに喉を鳴らす靜を見て、僕はくすくすと笑った。
 靜は胸の中で寝てしまったから、僕は身体を動かす事もろくに出来ない。
 しかし別に構わないと思う。
 ちょっと痛いけど、ちょっと嬉しいな。

                  完

=======================================
……うわ、どんだけ書いてるんだよ(汗)
親馬鹿がシンクロしてしまい、ラストの方どんどん長くなっていきました(笑)
オフから帰ってすぐに書き始めたのに、今は午前四時半だよ(苦笑)
当初の予定では途中の馬鹿なギャグだけ書く予定だったのになあ。
やはり親馬鹿に親馬鹿SS書かせちゃいけませんね。
とりあえずラストの部分はきたみっちへのサービスです。ちょっと過剰かも(笑)
にしても誰が親馬鹿戦隊だよオイ(苦笑)
あと、最初の方できたみっちの一人称を「俺」とばっかり思い込んでて、
かなり直したんですがまだどっか間違えてると思います。ごめんね。

ふー、シャッフルL楽しかったです(笑) 機会があったらまたやりたいですね。
でも最初自分がSSの書き方忘れてるって気付いたときはショックだったなー(苦笑)

=======================================
おまけ「きたみっちが悪夢を見た理由」

靜「じゃあそろそろ靜タオル替えてくるね」
beaker「僕も水を替えなくちゃ。じゃあジンさん、その間頼みますね」
ジン「おう、任しとけ!!」

ジン「……行ったか?」

(エルクゥ同盟、物陰からわらわら登場)


きたみち「すぅ…すぅ……」

ジン「てめえこの白い妖怪っ、雪原に埋めるぞ!!(耳元で)」
きたみち「(びくっ)」

ゆき「キノコ盛りは美味しいぞー(耳元で)」
きたみち「うー、うー」

秋山「俺を見てくれーーーっ(耳元で)」
きたみち「ううっ、ユウヤがぁーユウヤがぁー」

風見「ユウヤが苗床になってますよー(耳元で)」
きたみち「あうーあうーううーー」

まさた「巨大ユウヤがきたよー(耳元で)」
きたみち「うひぃぃぃぃ、だれかーだれかー」

西山「ユウヤはくらくら毒きのこー(耳元で)」
きたみち「しずかが、しずかがーーー」

きたみち「うわぁぁぁぁぁぁぁ……はぅぅぅぅぅぅぅぅぅ〜〜」
六人(楽しい……)

                いい遊び道具にされてました。