Lメモ外伝「君の生命(いのち)に祝福を」 投稿者:風見 ひなた
 4月29日みどりの日。
 この日はHMX−212マルティーナを知る者にとっては多少特別な日となる。

 風見は普段滅多に訪れないケーキ屋から大きな包みを受け取ると、目尻を下げながら愛
おしげにそれを抱えて歩き出した。
「あの子達にとっては記念すべき初めての誕生日……一ヶ月前から注文した甲斐があった
な」
 4月29日はマルティーナの誕生日である。
 風見と美加香はこの日のために精一杯の演出をしようと準備を重ねてきたのだ。
『ひなたさん、ケーキを受け取ったら出来るだけ早く帰ってきて下さいね?』
 出かける際の美加香の台詞が頭に甦り、風見はわずかに苦笑した。
(当たり前だろうが。可愛い娘の誕生日に誰が寄り道なんてするもんか)
 そんなことを思いつつ足早に街を通り抜けていく。
 もちろん人にぶつかってケーキを壊してしまっては元も子もない。
 風見は素早く人と人の合間をくぐり抜けていった。
「あ、風見君」
 商店街を半分まで来たとき背後から声を掛けられ、風見は振り返った。
「あっ、ティーさんじゃないですか」
「やあ。元気ですか?」
 眼鏡を掛けた温厚そうな青年がのんびりと歩いてくる。
 風見は珍しく愛想良く笑いながら頷いた。
「ええ。今日、マルティーナ誕生日なんですよ。良かったら一緒に来ませんか?」
 これほどの上機嫌は珍しい。
 ティーはにこっと笑って頷いた。
「うちのてぃーくんがもう行ってますけど……いいんですか、僕も行って?」
「どうぞどうぞ。人は多いほど良いですし」
「そうですか……じゃあ寄らせて貰いましょう。プレゼントでも取ってきますか」
「はい、お待ちしてます」
 風見の笑顔にゆっくりと手を振ってティーは歩き出した。
 と、その足が止まった。
 もう一度風見の顔をじーーっと見て、それからぽつりと呟く。
「風見君、すごく良くない卦が出てますよ」
「え?」
 ティーは風見の顔を品定めするように眺め回しながら言った。
「女難の相です。しかも強烈な……いいですか、今日は決して女性に接触してはいけませ
んよ?」
「じょ、女難!?」
 風見は思いっきりひきつった表情をした。
 その顔を見てティーはぱたぱたと手を振ると、あははははと空笑いを上げた。
「いやなに、ちょっとした占いですよ。まあ当たらぬも八卦当たらぬも八卦ってヤツです」
「はぁ……」
「まあ、占いですからね。因果の流れの動きを完全に把握するのは人ならぬ身にも難しい
ことですからあまりお気になさらずに、ね?」
「え、ええ」
 ティーはもう一度空笑いを上げると足早に歩き出した。
「じゃあ僕は後から行きますので!!」
「はーい!」
 風見も無理矢理笑顔を作るとぱたぱたと手を振った。
 やがてティーが見えなくなってからもう一度呟く。
「女難、ね………」
 日頃から決して良くはないと思っているのだが。
 まあ知り合いにはとことんまで女難が悪いのに女癖が強いって人もいるからさほどは気
にしていない。
(まあ、気を付けておきますか)
 そう思って歩き出した矢先、風見は人にぶつかりそうになって思いっきりよろけた。
 危ないところで身をかわしたが、何か冷たいものが腕にべったりと貼り付くのが分かっ
た。凄く気持ち悪くって、思わず声が出る。
「うわあああああ!?」
「きゃあっ!?」
 ぶつかったところに更に風見の声に驚いて、向こうの方も悲鳴を上げる。
 その声に聞き覚えがあるのに気付き、風見は目を丸くした。
「……新城先輩!」
「……あー、びっくりした……風見君?」
 沙織はほうっと胸をなで下ろしてから、自分の手を見てぎょっとした顔をした。
 そして周囲の地面をきょろきょろと見渡し始める。
 通行人達がそんな沙織を興味深げに見つめていた。
 風見は困惑した表情を顔に浮かべて沙織の肩を叩いた。
「あの、先輩?何をしてるんです?」
「え?あ、うん。アイス手に持ってたんだけどどっかに落としちゃったみたいで……」
 そう言ってから風見の腕に目をやって、ああっと声をあげる。
「ああーーっ!!私のアイス!?ごめん、風見君!!服汚しちゃった!!!」
「いや、別に良いんですけどね」
 本当にそれはどうでもいいと思っていた。
 むしろ憧れの先輩と会話できて幸運とさえ感じる。
 だが沙織はおろおろと心配そうな顔をして、風見の服をハンカチでごしごしとこすり始
めた。
「ごめんねぇ、どうしよ……汚れが取れないよ」
「いや、本当に良いですってば。家に帰って洗いますよ」
「駄目よ!ほっとくとシミになっちゃうんだから!!」
 なんだか怒ったように沙織は言った。
(………何故僕が怒られるんだろう?)
  風見は首を傾げながらため息を吐いた。
 そのため息がさらに沙織のパニックを誘発させたらしく、沙織は突然立ち上がるときっ
ぱりと宣言した。
「風見君、今からドライクリーニングに行こう!!」
「は?」
 突然のことに風見が呆然としていると、沙織はぐいぐいと袖を引っ張って風見を連れて
いこうとする。
「今すぐドライクリーニングに出せば大丈夫だよ!!帰りの服は私の貸したげるから!!
安心して、私男の子でも着れる服結構持ってるんだ!!」
 風見は一瞬どきっとして迷いを顔に出した。
(新城先輩の家に……?しかも服を貸してくれる?)
 行きたい。すごく行きたい。
 だが、そういうわけにはいかない。
 風見は腕の中の包みを見ると決意を固めた目で一つ頷いた。
「済みません、僕今すごく急いでるんで!」
「駄目よ!クリーニング代私が出してあげるから、ね?」
 そう言って沙織はウインクして見せた。
 何故こういうときに限ってすごく美味しいシチュェーションに遭遇するんだろうか。
 風見は内心で号泣しながら沙織の手を強引に払うと、一礼して走り出した。
「すみません、新城先輩、僕は少しでも早く帰らなくちゃいけないんですっ!」
「あ、ちょっと風見君!!いつも『さおりん』って呼びなさいって言ってるでしょ!!」
「さ、さおりんまた今度ーーーーっ!!」
 風見は未練を断ち切るようにしてそう叫ぶと、後ろを振り返らずに走っていった。
 ちなみに風見が着ているのはクリーニングに行かなくても綺麗になる生地だったりする。
 恐らくこんなチャンスは二度とは巡ってこないだろう。

「も……勿体ないぃぃぃ」
 風見は充分走ったところで泣きながら歩いていた。
 若干スピードも落ちている……人は避けてはいるが。
  どうやら娘の誕生日のためには多くの犠牲を払わなければならないらしい。
「あ!なんや、ひなた君やないの!」
「うっ、その声は……」
 風見は若干びびりながら後ろを振り向いた。
 案の定、見知った人が笑いながら立っている。
「やっぱり智子さんですか……」
「なんやのなんやの、その世にも不景気な顔はぁ。もっと明るくせなインフレも巡ってこ
うへんで?」
「明るくしてインフレが来るんならTaSさんのアフロ天国は今頃バブル絶頂期ですよ」
 何故かお笑いの方へと持っていってしまうのは関西人の習性である。
「アフロ天国のバブルってどんなんやの?」
 うずうずした表情で智子が問う。
「そりゃもちろん通貨がアフロなだけにそこら中アフロだらけ!!道はアフロで50セン
チも積もり、金庫の中はアフロの巣!!銀行の名前はアフロ行に改名して成金親父は成り
アフロ親父!!玄関照らすときはアフロに火を付けて『これで明るくなったやろ』そした
ら芸者が『かなわんわぁ、有毒ガスが出てますやん』たちまちアフロバブルは成金親父の
毒ガスバブル!!」
「あんたはどこぞの宗教団体かーーーーっ!!」
 ぱしーーん!!
「どひぇぇぇぇぇ!?」
 関西人法則1、関西人はボケをかますときにとてつもなく饒舌になる習性がある。
 関西人法則2、そして関西人ははボケを聞くと思わずツッコミを入れずにはいられない!!
 信じろ、関西人が言うんだから。何、信じないのか。
 信じる者は救われる、信じない者は大阪を疑う者ぞ!!(意味不明)
 ともかく智子の繰り出した炎のツッコミは猛スピードで風見を襲った。
 当然風見は包みを持って大きくかわす。
 それが智子のご機嫌に触れたらしい。
「なんや風見君……ツッコミをかわすとは……君、神戸人の誇りを忘れたんか?」
 思いっきり不機嫌な顔である。
 まずい。
「い、いやその、僕は今ケーキを持ってるわけで……」
「どんな状況にせよ、漫才中にツッコミをかわしてええと思っとるん?」
 関西人法則3、関西人は即興漫才の途中でツッコミをかわしてはならない!!
 ちなみにつまらないボケを言った者は周囲全ての関西人から袋叩きだ!!
(註:美加香「それはウソです」)
 智子はふっふっふと楽しそうに暗く笑いながらどこからともなくハリセンを取り出した。
「ちょうどええわ……前から君の似非標準語叩き直したいと思とってん……」
「ひ、ひぃぃぃぃぃぃ!?」
 智子はにっこり笑うと、ハリセンでぺしっと掌を叩いて走り出した。
「待てひなたぁぁぁぁぁ!!根性叩き直したるーーーっ!!」
「ひえええええええええええええええええええええええええええええええ!?」
「逃げるなぁぁ!!これが私の愛の鞭やぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「今は勘弁してくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
 風見は牙を剥いた智子から全力で逃走を始めた。
 今殴られると確実にケーキは壊れる。
 逃げろ風見、ケーキを守るんだ!!
「待てーーーーっ!!」
「ひーーっ!?」

 ぜーぜーぜーぜーぜー。
 風見は廃ビルの裏側に逃げ込むと荒い息を吐いた。
「撒いた……かな?」
 ちらっと表を見て誰もいないことを確かめると風見はずるずると地面に崩れ落ちた。
「智子さんはいい人なんだけど相手すると疲れるんだよなぁ……」
『女難の相が………』
「……まさかな」
 一瞬ぞくっとした寒気を感じて思わずそう呟いた。
 ばんっ!どさっ!
 風見はなにやら物音を聞いたような気がして裏道の方を見た。
 どこかで見たような光景が広がっている。
 恐喝だ。
「おらおらっ、坊主金持ってるんだろ?」
「可愛い顔に傷が付かない内に出す物出した方がいいよん」
「まあその顔で稼がせるのも良いけどなぁ!!」
 その下品な冗談と共に一斉に周りの連中が笑い出す。
 知り合いのYOSSYFLAMEが一番大嫌いな連中だ。
 あいつが見たらきっと血の花を咲かせていただろう。
 だが、風見の考えは同じではない。
(僕が関わる事じゃない。自分で乗り越えなければ……意味はない)
 風見は表通りの方へ歩いていこうとして背中を向けた。
「ん……んんーーーーっ!!」
「はははは、何だこいつ抵抗しようとしてやがるぜ?」
「いっちょ前によくやるねぇ」
「無駄なんだよ、いくらやっても駄目なヤツは駄目なんだ!」
(……………)
 風見の足が止まった。
「んーーーーーーーーーーーっ!!」
「それが精一杯かよ?ははぁ、ざまぁねえぜ!!」
 ざっ……。
「おい」
「ん?」
 振り向いた瞬間、被害者を抑えつけていたちんぴらの顔が壁に叩きつけられた。
「ったくよっしーも日陰も少し考えて欲しいなぁ……次から次に殺してちゃ最下層の連中
の統制取るヤツがいなくなるでしょうに」
「何だてめえっ!!」
 ちんぴらの問いに風見は鼻で軽く笑うと、そいつを無視して後ろに居ると思われる被害
者に話しかけた。
「君は十分に抵抗しただろう?じゃあ今から起こるコレは……君が起こした結果だよ」
 それから風見はにっと笑うと袖を捲り上げた。
(やれやれ……思わず出て行っちゃったよ)
 そんなぼやきを自分に聞かせながら。

「はっはっは、まさか5wayスリングが出てくるとは思わなかったでしょ?」
 風見は累々と倒れているちんぴらに向かってそう語りかけた。
「今日は特別に持ってたんですよ。いやあ、結構効くんですねぇ」
 そう言われても至近距離から鋼球弾を急所にぶちかまされた男は悶絶して聞いていない
ようだ。弱い連中で助かった。
 風見は包みが壊れなかったことに安堵しながら後ろを向き直った。
「それで、君は大丈夫か?」
「はい!大丈夫です〜!!」
 キラキラと目を輝かせながら水野響は手を組んで風見を見上げていた。
「なっ……水野君だったのか!?」
「はい〜!おかげで助かりましたぁ!」
 SS不敗流の弟弟子、水野は涙に光る眼で風見を見つめている。
「やっぱり風見さんは強いんですねぇ!!」
「連中が弱かっただけですよ。ま、SS使いが一般人に勝っても自慢にはなりませんしね。
……それより、何で君が脅されてたんです?」
 咳払いしながら風見が聞くと、水野はにこにこ笑いながら答えた。
「はい!あの人達が僕を小学生扱いしたから僕は高校生だーって言ったら、そっちの趣味
の先輩がいるからとりあえず付いてこいって言われたんですー!」
「………そーゆーときは何も言わずに逃げろ」
「はーい!」
 とてつもなく危ないところだったらしい。
「ところでそっちの趣味ってなんですか?」
「え?」
 そりゃあもちろん、と風見は言いかけて口をつぐんだ。
 高校生同士のはずなのに教えるのがひどく恥ずかしいことのような気がする。
 風見は首を振ってすっとぼけた。ちょっと顔が火照っている。
「さあ?それより水野君、こんなところにいつまでも留まらずにとっとと逃げよう」
「………………」
「水野君?」
  風見が声を掛けても水野は動かずじっと風見の持った包みを抱えている。
「いい匂い………」
 そう言って水野はふんふんと鼻を鳴らした。
 風見は内心目を丸くしながらそんな水野君を見つめていた。
「ふにゃあああ、美味しそうな香りです〜」
「水野君は鼻が利くなぁ……これ、ケーキなんだけどね」
「美味しそうです〜」
 そう言って水野はちらと風見を見上げた。
 ……まずい。ねだられている。
「駄目だよ、これはマルティーナの誕生日のケーキだから」
 風見が目をそらしながら答えると、水野は指を口にくわえてしょぼんと肩を下げた。
「そうですか……じゃあせめて表に出る間だけでも匂いを味わいます〜」
 水野は風見の腕に自分の腕をからめるとすりすりと包みに頬摺りした。
「うーん」
 内心で風見は困っていた。
(でも……なんか猫にマタタビあげたみたいだなぁ)
 お菓子でつられる高校生もかなり危険だと思うのだが。
 まあかなり上等のケーキだし、と思いながら風見は表へ歩みを進める。
『女難の相が……』
 一瞬脳裏にそんな言葉がよぎったが、一笑の内に吐き捨てる。
(水野君はまがりなりにも男だから平気だな)
 そう思って風見は表通りに出た。
 楓が立っていてこちらを見ていた。
 呟く。
「風見さん、お稚児さん趣味ですか?」
「へ?」
 視線を手元に移すと水野がすりすりと擦り寄ってきている。
「………………」
 返事のしようもなく黙っていると、楓は微かに笑って言った。
「えんがちょきっていいですか?」
「いや、それはちょっと」
 そう言いかけた途端、ずどどどどどど……と向こうの方から凄まじい音が聞こえてきた。
「楓ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!
そっちには染まるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
「げ」
 風見は慌てて水野を押しのけると、その手に包みを持たせて眼を閉じた。

 くるくるくるくるくるくるくるくるくる……………と風見は空高く回転しながら舞い上
がった。落ちるときもやっぱり回転していた。


「風見……自らの身を犠牲にしてまでケーキを守るとは、その心意気天晴れな奴」
「そう思うんなら轢くなぁぁぁぁぁぁ…………」
 風見はずたぼろになりながらも震える手で水野の手からケーキを回収した。
 あと5秒目覚めるのが遅かったら喰われていたらしい。危ないところだった。
「それより師匠……大人しく家で待っててください………」
「むぅ。手伝おうか?」
「どーせあなたは楓様を家まで送るまでは満足しないでしょうが……」
「その通りだ!」
 西山は堂々と胸を張って、楓を連れて去っていった。
 水野はじーーっと風見の包みを見つめている。
 ふうっと息を吐くと、風見はゆっくりと家に向かって歩き出した。
 いや、だそうとした。
「ひーなちゃーーん!!」
「次は貴様かぁぁぁ………!」
 荒い息を吐きながら背後を振り向くと案の定四季が笑っていた。
「ねえねえひなちゃん、天気もいいことだし……どっか遊びにいこっ!!」
 何故周りは全てこんな奴等ばっかりなのだろうか。
 休日だというのに何もすることがないのか。
 勘弁してくれ。
「ごめん、今僕は忙しいんだ。また遊んであげるから次の機会にね」
 わかっている。
 四季はこんな言葉で納得するキャラではない。
「今・遊・ぼ?」
 ああ、やっぱり。
 四季はつぶらな瞳をうるうるさせながらこちらを見上げている。
 普通ならこいつに上目遣いで頼まれたら喜ぶところなんだろうな、やっぱり。
 しかし風見は現在それどころではない。
「四季さん、僕は急いでるんですがね」
「だって、今遊びたいんだもん!!来週には気が変わってるかもしれないし!!」
(頼むからずっと変わっててくれ……)
 その方が心をかき乱されずに済む。
(まったく、中途半端に好かれてもなぁ)
 風見はため息と共に度胸を決めると、ゆっくりと後ろを向いた。
 そして……最後の力を振り絞って走り出す。
「僕は帰る!!おうちに帰るんだぁぁーーーーーーーっ!!」
「ひーなちゃーーん!待ってーーーーーっ☆」
「ケーキ〜〜!」
 四季のみならず、何故か水野までが風見の後を追ってくる。
 何故か非常に嫌な予感がした。

「あ、溜まった超能力を発散させてたのに!!」
「うひゃあああああああっ!?」

「そこのアナタ!!ワタシの獲物になるネーーーッ!!」
「絶対に御免だっ!!」

「ああっ、何であなたキック中に割り込んでくるのよっ!!」
「町中でマナちゃんキック出してるんじゃない!!」

「ああっ、何でサンドバックの間に入って来るんですかっ!!」
「だから町中でやるなっつっとろーが!!」

『すみません、刃先が狂いました!!』
「佐藤さんっ!!往来で刀を解放するなぁぁ!!」

「ただ今ジン・ジャザムと戦闘中ですので非常に危険です」
「キケンデス、キケンデス」
「お前等もそれしかないのかっ!!」

「靜を突き飛ばしたのはお前かぁぁぁぁぁ!!!」
「どひぃぃぃぃぃぃ!?」

「よくもナンパの邪魔をーーーっ!!」
「それは逆恨みだ、よっしー!!」

「ははは、俺の胸に飛び込んでこぉぉい風見ぃぃ!!」
「てめえは女じゃねえええ!!(げしっ!!)」

「よくも秋山お兄ちゃんを!!呪っちゃうぞ!!」
「そっちかぁぁぁぁ!!!」

「アナタはアフロを信じますかァァァァァ!?」
「そりゃあんたはアタシって言うけどなぁぁ!!」

「そこの道行く一年生!!特選生写真を買わないか!?」
「とうとう取引の現場を押さえたわよデコイ!!風紀の誇りにかけて今日こそ捕まえる!!」
「僕は無関係だぁぁぁ!!」


 ぜーぜーぜーぜーぜー。
 どれだけ走ってどれだけの被害を被ったことだろうか。
 それでも風見は全ての攻撃を肉体で受けケーキを守り続けてきた。
「ひなちゃ〜〜〜ん!!」
「ケーキ食べたいなぁ〜〜」
 通りすがりの人々を全てぶっ飛ばしてきた四季もちょっとへたれ気味である。
 水野は相変わらず、のほほん元気だが。
 何にせよまだ捕まるわけには行かない。
 このケーキを娘達に届けるまでは。
 ともかくこの角を曲がればようやく家につく。
 栄冠のゴールに!!
 風見は涙さえ浮かべながら角を曲がり、玄関にふらふらと近付いていった。
「待っとったで」
「その声は……!」
 智子はハリセンを構えて家の生け垣から音もなく立ち上がった。
 ツッコミを入れんがためにずーーっと待っていたらしい。
「何て暇人なんですか、あなたって方は」
 風見が若干肩を落としながら呟くと、智子はこれだけに命かけてますと言わんばかりに
ハリセンを大振りに構えた。
「ふっふっふ、風見君……悪いけどどーしてもツッコミ入れさせてもらわんと気がすまへ
んのや」
「ツッコミの鬼」
 風見は半眼で呟いた。
「あ、ひなちゃんめーーっけ☆」
 びくうっ。
 背後からは四季の声。
 前門の智子、後門の四季と言ったところか。 
 ならばここは前に進むしかあるまい。
 だが、何としてもケーキだけは守らねば!!
 一発耐えればそれで済む……だが、ハリセンはあまりにもケーキを破壊しやすすぎる。
 例えるなら、そう……ケーキクラッシャー!!ケーキを狩るためにのみ存在するケーキ
の破壊神であり、100年に一度ケーキを全て破壊し全世界のケーキ好き達を悶死させよ
うと企む大邪神!!しかしシュークリームはどーするの!?エクレアは!?パフェも!?
「……風見君、また何かツッコミたくなるようなこと考えとるやろ?」
 わくわくしたような表情で智子が聞いた。
 とことんまでツッコミの鬼である。
「怨むのなら……その身に流れる血を怨むことや」
「僕が神戸に生まれたとき……全てが始まっていたというのですか」
「そういうことや……人は皆宿業からは逃れられへん。特に私等の血は」
「恐るべきは………我が身に流れるボケ体質!!」
「そして私の身に通うツッコミ体質!!」
『オール・ザット・ギャグ!!』
 決闘開始!!
 双方の繰り出すハリセンは激しく打ち合い、火花を散らす。
 智子は軽く息を吸い込むと勢い良く叫んだ。
「えー加減にしなさいっ!!」
 風見はそれを素早く見切ると俊速の動きでそれを捌く。
「あんたとはよーやっとれまへんわ!!」
 ぱしんっという音を立ててハリセンを通して腕が痺れる。
「んなアホなっ!!」
「どないやねん!!」
「何ゆーとんやっ!!」
「そらちゃいまんがな!!」
「それらみな……大阪弁やないかいっ!!」
「神戸弁で言うと……それらは全部大阪弁やろっっ!!」
 ばきしぃぃぃん!!
 拮抗するハリセンの響き。
 後ろで見る四季もその気迫に押されて思わず見入っている。
 智子はじりっと後退すると、滴る汗を袖で拭った。
「やるなひなた君……似非標準語とはいえ腕は落ちてないようやね」
「僕はこんな馬鹿馬鹿しい勝負誰が読むかとびくびくしてますがね」
 風見は荒い息を吐いて眉をしかめた。
(来る……智子さんの必殺の一芸が!)
 そして……智子の必中の気合いを込めた一撃が放たれる。
「喰らったれぇ!!これが先輩の愛の注入棒やぁぁぁぁぁぁ!!!」
 しかしそれは智子の隙をも露呈する言葉。
 風見は息を吸い、全力を込めて叫んだ。
「あんたは京都名産『精神注入棒』かぁぁぁぁ!!!!」

 ぱしぃぃぃーーーーーーん!!!!

「………く」
「………さすがは………先輩です。喰らえば死んでいました」
「ふふ……精神注入棒とはミスったわ……何故かみんなアレ買うてしまうんや」
 倒れたのは……智子だった。
 智子の攻撃は風見より遥かに早かった……しかし、風見はそれをかわし、智子に攻撃し
た。智子は関西人法則3に縛られ過ぎるあまり風見のツッコミを避けられなかったのであ
る。いや……そのままでも避けられなかったかもしれないが。
「完全な関西人であったがために……負けるとはな」
「先輩……違う!僕の、僕の負けです……!」
 智子はわずかに笑うと、片目を閉じて見せた。
「私の屍を越えて行くんや」
「先輩っ!!」
 風見は目尻に涙を滲ませると、ぐっと唇を噛んで先に進んだ。
 そして……ゆっくりと玄関のドアを開ける。
「美加香。今……帰った」


「ひなたさん……遅いですね」
「寄り道してるのかな?」
「ひなたさんはそんな人じゃないよ!!」
「ふーんだ!言ってみただけだもーん」
 マルティーナはわいわいとテーブルに座って好き勝手に喋っている。
 美加香はほうっとため息を吐きながら時計を見上げた。
 もう出ていってから5時間になる。
 日も暮れ始めてしまった。
(ひなたさん……このままだとまたクリスマスの時と同じですよ……)
 美加香は心の中で叫んだ。
 やはり自分が行くべきだったかも知れない。
 風見が本当に楽しみにしていた娘達の誕生日。
 自分の身に起こるどんな出来事よりも楽しみにしていた娘達の笑顔。
 クリスマスの時には味わえなかったそれを、せめて今日だけは味あわせてあげたかった。
 だがそれも叶わぬ願いなのか。
 ひなたさん―――――――――――。
「あれ?表が騒がしいよ?」
 ティーナがふと呟いた。
「あ、ホントだ」
 ルーティも玄関の方を向く。
「何だろ?テレビで良く聞く訛で喋ってるみたい」
「漫才とか新喜劇でお馴染みの関西弁みたいですね」
 マールが呟いた言葉に、美加香は背筋が凍り付いた。
 関西弁――神戸。
 まさか、あの人が…………!
 興味深げに見に行こうとした三人に向かって美加香は思わず叫んでいた。
「駄目よっ!行っちゃ駄目!!」
「えー?なんでー?」ティーナはあからさまに不満そうな顔で言った。
「……駄目なのよ……あの、あの人が……来る!!」
「あの人?」
 美加香は答えずごくりと唾を飲み込むと、一人玄関に歩いていった。
 聞こえる。
 確かにあの人の声だ……そしてもう一つは……風見の物。
 闘っているのだ、風見と智子が。
 そして風見は守っている……大事なケーキを。
(ひなたさん……負けないで)
 美加香は一心に祈った。
 そして、扉が開く。
「美加香……今、帰った」
 何故か懐かしい風見の声がして……美加香は思わず風見の胸に飛び込んでいった。
「えっ?」
 驚いたのは風見だった。
 美加香が飛びだしてくるとは思っていなかった風見は思わず包みを放り出して……。

 べちゃっ。

「ひ………ひなたさん……………?」
 怒りにぷるぷると震えながら美加香は真っ白に汚れた顔を指先で拭った。
「あ……あの、その……」
 風見はただひたすらだらだらと汗を滝のように垂れ流している。
『強烈な女難の卦が出ている』
 あまりの危機の嵐に風見はすっかり失念していたが……美加香も女の子である。
「その……だ。今日は女難の卦が…………」
「へえ…………」
 美加香はひきつった顔で無理矢理笑顔を作ると、針のように尖って包み込むように柔ら
かい口調で言った。
「それが私にケーキ爆弾喰らわせた言い訳ですか?」
 既に弁解の余地は残されていないようである。
 ドアの後ろではグゥサインを作った智子がびしっと決めていた。
「それやっ!!それが私ら神戸人のあるべきお約束の姿なんやぁぁぁ!!」
「……なんだかなぁ」
「ケーキ勿体ない……」
 四季は呆れて、水野は哀しそうにその情景を見つめている。
 そこへピンポーンとドアホンが鳴ってティーとてぃーくんが顔を出した。
「やあ!!万が一ケーキが壊れたときのために復元の宝貝を持って来て……」
「……もう遅いみたいだよ、ティー」
 てぃーくんは得々と説明を始めるティーに向かって冷や汗を垂らしながら呟いた。
 その後ろからは巨大な山を抱えた電芹、貴姫、誠治にちびまるがやってくる。
「こんばんわー!!ケーキ作ってきたんですけどーー!!」
「………あら?」
「なんかみかちょんが怒ってるみたいだな……」
「あぅー」
「ケーキだぁ〜」水野は嬉しそうにケーキにかぶせた布に頬擦りした。
 更にその後ろから西山、OLH、琴音に靜、きたみち、セリスにマルチまでがぞろぞろ
と続いている。
 とどめにとーるがバイクに巨大な風呂敷包みをくくりつけて長瀬と共に顔を出したとこ
ろで、美加香のクリティカルヒットが風見を吹っ飛ばしていた。
「………なーいすびんた、美加香母さん」
 それを皮切りにして一同はぱちぱちと惜しみない拍手を送った。

「とまあそーゆーわけでっ」
 頬にでかでかと湿布を貼った風見がマルティーナに向かって言った。
「お誕生日おめでとう、マール、ルーティ、ティーナ!!」
『おめでとーーーーっ!!』
 みんな揃ってグラスを打ち合わせる。
「ありがとーーーー!!」
 ティーナは率先して両手をぶんぶん振り回した。
 ルーティはてへへ、と照れた風にはにかんだ笑いを浮かべている。
 ただ一人マールだけが顔を伏せて肩を振るわせていた。
 ぽたりぽたりとその下に煌めく雫がこぼれる。
 美加香はその側に寄ると、ぽんと優しくその肩を叩いた。
「どうしたのマール?何で泣いているの?」
「……嬉しいんです。みなさん……機械の私達に……こんなに優しくして下さって………
私は何て幸せなHMなんだろうって。そう思ったら、皆さんに申し訳なくって、せつなく
って……幸せなのに、嬉しいのに何故か涙がこぼれちゃうんです……」
「馬鹿だな、マール」
 西山は養女の小さな頭を軽く撫でると、心に良く染みる声で囁いた。
「みんなはお前が機械だから何だなんて考えていないさ。お前がお前だから、マールがマ
ールだからお前を祝っている。お前は恥じる必要も恐縮する必要もない、ただ一人の女の
子、マールとしてみんなの祝福を受ければいいんだ」
「……はい」
 マールは涙声で頷いた。
 そんな彼女を見て、一同は優しい笑顔を向けた。
「良かったわね、みんな……あなた達が生まれてこの世に在ることをこんなにも喜んでく
れている人が居る……」
 美加香は誰にも聞こえないような小さな声でそう呟いた。
 事実、その呟きを聞いた者は居なかった。ただ一人を除いて。
 静かに宴の夜は過ぎて行く。
 その明日の朝、今日の終わる瞬間まで。


 帰る者は帰り、泊まる者は居間で眠りに就いた頃………。
 四季は一人ベランダに出て夜風を浴びていた。
 なりゆきで参加したパーティーで見た子供達への祝福の言葉が頭に残る。
 美加香が一人呟いた台詞を頭の中で反芻する。
(生まれてこの世に在ることをこんなにも喜んでくれる人が居る………か)
 自分にはいるのだろうか。
 生まれて在ることを喜んでくれる者が。
 作れるのだろうか。
 生まれてこの世に在り続けることを祝福してくれる者を。
「眠らないと体に毒ですよ」
「大丈夫よ、私は……機械だもの」
 そう答えると、風見はなんだか酷く辛そうな顔をした。
 四季は表情を押さえ込むと、聞いた。
「ねえ、ひなちゃん」
「何です?」
「私が居て……」
 言いかけて、四季は言葉を押さえ込んだ。
 まだ止めておこう。まだ早すぎる。
「どうしたんですか?」
「ううん、何でもないの」
 四季はちょっと寂しそうに笑うと、夜風に髪をなびかせた。
「良い風ね」
「まだ寒いですよ」
 しばらくの沈黙。
 言葉が続かない。続けられない。
 ただ静寂が満ちる。
 風が止まった。
「終わっちゃった」
「入りませんか?」
「うん」
 四季は答えた。しかしまだ動かない。
 言うつもりは毛頭なかった。言葉の方が勝手に出た。
「ひなちゃん、私がいて嬉しい?」
「え?」
 風見が聞き返したので四季はもう一度言う。
「私が生まれてここに居ることが………嬉しい?」
 四季は内心決めていた。
 拒否されるのならば……姿を消そうと。風見の前には二度と現れるまいと。
 風見は……わずかに微笑むと、言った。
「すっげえ迷惑」
「………そう」
 四季は眼を青く染めると呟いた。
 風見は続けた。
「だけど、すっごく楽しい。あなたが居ると………面白いんだ」
「え?」
 四季が振り返ると、風見は真っ赤な顔をして下を向いたまま喋っていた。
「何かわくわくするんだ。誰も予想もつかないことを平然とやらかして、その騒ぎの中心
にいれば絶対に退屈しない。もちろん迷惑は受けるけど、そんなの大したことじゃない」
 だから、と風見は顔を上げると視線を真っ直ぐに四季に向けて言った。
「あなたの側に行ってみたい。それってつまり、君が居て嬉しいって事じゃないか?」
 四季は何も言わなかった。
 表情にも何も浮かべていなかった。
 ただ風見の側に行ってほんのわずか、微かに微笑んだ。
「ありがと」
 反応に驚いて身構える風見を背に、四季は軽く手を上げてそのまま屋内に入っていった。
「お休み、風見君」
「ああ……お休み」
 風見はただ一人風に吹かれていた。

 ベランダから出て部屋を出るときに四季はもう一度言った。
「美加香ちゃんも……お休み」
 部屋の影に隠れていた美加香は、不安そうな瞳で四季を見上げていた。
 そんな彼女に満月のように優しい瞳を向けると、四季は言った。
「大丈夫よ……取りはしないわ」
「私は別にどうだって……」
 美加香の返事にくすっと四季は笑うと、美加香の頭を軽く撫でた。
「あなたが作り出した命に祝福を……そしてあなた自身の幸せにも」
 そしてゆっくりと四季は歩いて行く。
「四季さん」
 美加香の声に四季は振り返った。
「お休みなさい」
 四季は………笑った。

                  完

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ひ:やべえ!自分で何書いてるのかわからん!!
み:これはギャグなの!?シリアスなの!?ラブコメなの!?
ひ:智子は智子で暴走するしなぁ……ツッコミバトル……ってなんだこりゃ!?
み:既に眠くて自分が何やってるかわからないんですね(苦笑)
ひ:ただ単にマルティーナの誕生日やりたかっただけなのに四季がしゃしゃり出るし!!
み:やはりさっき書いた四季さんにプレゼントしたLの影響ですね(苦笑)
ひ:もう……寝よう。これ以上自分が何やってるか分からなくなる前に。
み:ああ………四季さんの与り知らぬところで何か変な事になってる……(汗)
ひ:「久しぶりのコメディLでした!」風見ひなたと!!
み:「ルーンさん会議に出席できないでごめんなさい!!」赤十字美加香がお送りしました!