テニスエントリーLメモ「テニスでGO!!」 投稿者:風見 ひなた
「うっ………」
 風見は学校に戻る途中、塀に寄り掛かると口元を抑えて天を見上げた。
 青い。あまりにも空は高く青い。
 それに引き替えこの自分と来たら……。
「世界が敵色って、つまりこんなブルーな気分の時の雲一つない青空の事を言うんだって
知ってたか?」
 作者は嫌になるくらい知っている。
「くっ……僕って奴はなんてちっぽけで情けないんだ」
「ピザ食べ過ぎて気分が悪くなっただけでそこまで言いますか」
 美加香は呆れた顔で風見の背中をさすっている。
 元々ピザ生地やチーズなどの洋食系統が身体に合わない風見が1000円ピザ食べ放題
で調子になって食べた結果がこの始末である。
 胃の中が油っこくて吐き気がすることこの上ない。
「ひなたさんもみんなにおだてられたからって早食いに挑戦しなくてもいいのに」
「一番よく喰った奴に言われたくないっ!!」
 ちなみに美加香は37枚食べた。
 この食欲が満たされる様を見ていたのも吐き気の一因かも知れない。
 風見はふらふらとふらつく足取りでなんとか学園内に入った。
 その途端に足下にばさばさと音を立てて紙切れが飛んでくる。
 未だに震える手でそれを拾い上げると、でかでかと赤インクで『テニス』の文字が眼に
飛び込んできた。
「テニス……大会?」
 横から覗き込んだ美加香が呟く。
「一体どこから飛んできたんでしょうか?」
 その言葉を口に出すよりも早く、鼓膜を振るわせるスピーカーの大音響が校庭に轟いて
きた。
『えーっ、この度鶴来屋グループの粋な計らいによって全校を上げたテニス大会が開催さ
れることになりました!!優勝賞品は鶴来屋温泉無料宿泊券!!出場者資格はありません、
有志はこぞってご参加下さい!!』
 ハンドスピーカー片手にそうやってビラを配り歩いているのは言わずと知れた風見の
親友こと、Hi−Waitとパートナーの月島瑠香だった。
 ビラを大量に配っている……と言うよりもまき散らしている、と言った方がこの場合は
断然正しいだろう。緑帝歴初期の新聞屋が号外を配るようなやり方である。
 つまりは単にビラを上空に向けて投げて歩いているだけだ。
「おいおい、お前何やってるんだ?清掃委員会に見つかったら殺されるぞ」
 見かねた風見が声を掛けると、Hi−Waitはさっと振り向いた。
「おぅ、ひなたか。何かえらく顔色が悪くないか?」
「僕の顔色なんてどうだっていいだろ。それより……何してるんだ?」
 風見が訊くと、Hi−Waitは胸を反らしてニヤリと笑った。
「見て分かるだろう!広報活動だ!!」
「広報活動?それはもしかして……」
 風見は呆れた顔で周囲を見渡して言った。
 グラウンドは大量にばらまかれたチラシで真っ白に埋まってしまっている。
「……このゴミ撒きのことか?」
「どうだ!!大量に配布してしかもインパクトが強い、まさに僕でなければ思いつかない
究極の配布法は!?」
「…………お前、実は馬鹿だろ」
 風見が半眼でしみじみと呟くと、瑠香がはあっとため息を吐いた。
「こんな真似せずに普通に配りましょうって私は言ったんですけど……」
 美加香は何も言わずにぽんぽんとその背中を叩いていた。
 Hi−Waitはむっとした顔で風見の顔を見ると、不満たらたらという口調で言った。
「だってこれ全部配りきらないと帰れないんだぞ!!」
「めんどくさいんならそんなバイト受けなきゃいいだろが!!清掃委員が来たら……」
「大丈夫大丈夫、たかが清掃委員くらい僕の力があれば………」
 そのとき音もなく突然Hi−Waitの首に細く白い手が廻され、銀色に輝くサバイバ
ルナイフが彼の頸動脈の上に差し出された。
『うああああああああっ!?』
 あまりの事に一瞬頭が真っ白になった一同だったが、何が起こっているのかを把握して
思わず叫び声を上げながら後ずさりしてしまった。
「学校はキレイに………ネ?」
「は、は、はいぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」
 Hi−Waitは恐怖のあまり震える声でそう呟くことしかできなかった。
 シンディ宮内。
 どこからともなく現れて、校内を汚す者には静寂の内に制裁を与える恐怖の狩猟民族。
 その生態及び思考内容は未だ謎が多い。
 ミヤウチ星人の内でも最も恐るべき個体である。

 いや、ウソだけど。


「し……死ぬかと思った……」
「ある意味凶悪なキャラクターだな……」
 風見は呆れた顔でシンディの後ろ姿を眺めていた。
 Hi−Waitはなんとか呼吸を整えると瑠香の差し出したハンカチで冷や汗を拭った。
 美加香はというと何もなかったような顔で平然とチラシを読んでいた。
 もしかしたら『塔』の出身者にはあれくらい当たり前のことなのだろうか、と風見は思
った。無論そんなわけはないが。
 美加香は瑠香に向き直ると、チラシの一部を指さして言った。
「ねえねえ、コレって誰でもいいの?」
「はい、そうですよ。男女ペアダブルスなら誰でも参加可能です」
「へえ………温泉かあ。そう言えばもう何年も行ってないなあ……」
 呟く美加香の目はわくわくとした輝きに満ちている。
 そんな彼女の意志を察知したHi−Waitは風見の方を向いて言った。
「なあ、ひなたよ。お前達出てみたらどうだ?」
「え?僕!?」
 話を振られた風見は何故かびくっとした様子で早口に聞き返した。
「ああ。お前だって温泉に行きたいだろ?参加して損はないんじゃないか?」
「ええっと……いや、しかし……」
 歯切れ悪く呟く風見に、美加香は首を傾げて訊いた。
「ひなたさん、どうしたんです?何か都合の悪いことでも?」
「……あー、その……別に悪いことはないんだが……」
 そう言う風見は明後日の方向を向いて非常にばつが悪そうだった。
「風見先生、出ないんですか?」
 瑠香の言葉に、風見はゆっくりと頷いた。
「まあ、そう言うことになる、かな?」
 その言葉にHi−Waitと美加香は失望を隠せない顔をした。
「何でだ?別にテニスくらい出たっていいじゃないか」
「そうですよ。私、一生懸命サポートしますから!」
「あ……気持ちは嬉しいけど……」
 冷や汗を流して遠慮する風見を後目にHi−Waitは美加香の方を向いた。
「……あれ?美加香、お前もテニス出来たのか?」
「当たり前じゃないですか。こう見えても実家では心得として物心付く前から叩き込まれ
ましたし、部には入ってなかったけど昔は球技大会でいつも上位に食い込んでましたもん」
「へえ……人は見かけによらないもんだなぁ」
 Hi−Waitが感心したように言うと、美加香はぷっと吹き出して笑いながら言った。
「もう、やーみぃさんったら。大体高校生にもなってテニスのルール知らない人なんてそ
うそういるわけがないじゃないですか!」
「そりゃそうか。ま、どんな馬鹿でもテニスくらいは絶対に覚えるよな、はははは!!」
 そんなやりとりをして、瑠香を加えた三人はけらけらと笑いあった。
「……馬鹿で悪かったな」
 そんな笑いの輪に水を差すように陰気な声がひやりと響いた。
 三人は黙り込むと、慌てて口を押さえる風見の顔をまじまじと見つめた。
 最初に口を開いたのは美加香だった。
「あの……まさかひなたさん、テニスのルールを知らないんですか……?」
「え……いや、その……」
 次にHi−Waitが口を出す。
「どうりでお前テニスの話題を振ると黙り込むと思ったら……」
「…………………………」
  完全に沈黙した風見に瑠香がとどめを刺した。
「風見先生、テニス出来なかったんですか……?」
「………うう」
 風見は小さく呟くと、がくりと地面に膝を突いた。
「そうだよっ!!どーせ僕はテニスのテの字も知らないよぉぉぉぉぉぉ!!!」
『えーーーっ!?』
 全員はしまったぁぁぁ!!という顔で叫んだ。
 思いっきり落ち込む風見の肩によってたかって手を置くと、勢い良く慰めにかかる。
「気にするなひなた!!テニス出来なくても死んだりするか!!」
「そうですよ!!ただちょっと社会的に困るなぁって程度ですから!!」
「接待テニスでへっと笑われるくらいの影響しかないですよ!!」
 風見はあんまり慰めにならない熱い言葉を受けながらそっと空を見つめた。
 青い。とても高くて青い。
「世界が……敵色だ……」
 なんかヤバげな呟きである。
 三人はそっと耳を寄せあうとひそひそと相談にかかった。
(おい、どうするよ!完全に落ち込んでるぞ!)
(なんか首吊りそうですよね……)
(やーみぃさんが出来ないとバカだなんて言うから!)
(高校生でテニス出来ない奴なんていないって言ったのはお前だろ!?)
(どうしましょう、どのみちこのままにしとくわけには行きませんよ)
(やーみぃさん、責任とって下さいね)
(仕方ない……)
 Hi−Waitは風見に向かって指を突きつけると叫んだ。
「風見!!こうなったら僕がじきじきにテニスを教えてやる!!」
「ええっ!?」
 我に返った風見は目を丸くして飛び上がった。
「僕が、テニスを!?」
「ああ、仮にも僕は中学時代テニス部!!一通りは教えられるつもりだ!!」
「テニス……あの軟派な兄ちゃんの代名詞とも言えるスポーツごときを僕が……」
 口調は毛嫌いしているように見せかけて、実は眼はキラキラと輝いている。
 本当は一度やってみたくてたまらなかったらしい。
「まあ一番良いのはセリスさんに教えて貰うことなんだがな………あの人のテニスは筋が
しっかりしてそうなんだが。まあ出場で忙しそうだからな」
「セリス兄も……!」
 尊敬する兄弟子の名を出され、風見は俄然やる気を増した。
「僕の邪道テニスでも力にはなるだろう……僕の教えは厳しいぞ!」
「はいっ、コーチ!!」
 風見は輝く瞳でそう叫び返した。
 すっかり自分の世界に入り込んでしまっている。
「……風見先生って案外単純なんですね」
 瑠香が呟くと、美加香はくすっと笑って答えた。
「こういう熱血ノリが好きなんですよ。子供っぽいでしょ?」
 そう答える眼は案外まんざらでもなさそうだった。


「とゆーわけでテニスのルールを解説するとだ、まずバレーボールのサーブと同じように
コートの外側の線から対角線上の相手の陣地にサービスをくれてやる」
「ふんふん」
「敵は飛んできたボールを返してくるから、それをワンバウンドで打ち返すんだ。その際
狙う相手には色々制約があるんだが…今のお前には理解しきれないだろうから省く」
「ふんふん」
「とりあえずこうやって四人で何回も打ち返し続ける。でもってどっちかが気を抜いて、
ボールをツーバウンドさせたり打ち返せなかったり相手陣地の外や自分陣地に打ったり、
そんなことをすると点数を取られる。その次はサービス選手が替わるが、問題ない」
「……ふんふん」
「一発で15点、二発で30点、三発で40点、四発喰らうとゲームで1セット終了」
「……ふ、ふん……」
「でもって規定のセット数以上を敵に取られると負けだ。理解したか?」
「…………………………」
 Hi−Waitははあっと息を吐くと期待しない表情で風見に訊いた。
「覚えきれなかったんだな?」
「……うん」
 がくううう。
 Hi−Waitは涙目になると風見の肩を取って何度も揺さぶった。
「いい加減に覚えろぉぉぉ!!もう4回目だろーが!!これでもずいぶんはしょってるん
だぞ!!」
「だって何で一発で15点なのに三発で40点なんだ!!45点じゃないのか!?」
「それは単なる呼称なんだよ!!それよりも大事なことを覚えろよぉぉ!!」
 Hi−Waitが涙目で絶叫すると、美加香がうなだれて呟いた。
「これだけ覚えてもテニスにならないってレベルなのに……」
「下手に点数制まで教えるからこんがらがるんじゃないですか?」
 瑠香の呟きを聞いて、Hi−Waitはしばし目を閉じて考え込んだ。
 風見はそんなHi−Waitを心配そうに見つめている。
 しばしの時間が流れた。
(僕の言い方が悪いんだ……そう。こいつが一番燃える戦いってのは負けないようにする
試合なんかじゃない。『何々されると負け』というよりは……)
 Hi−Waitは何かを吹っ切ったような眼で風見に叫んだ。
「つまりテニスってのは、相手が打ってくる弾を全部防いで敵陣地に返せない弾を叩き込
んだら『勝ち』なんだよ!!」
「そんな乱暴なぁぁぁ!!!」
 美加香は絶叫を上げてツッコミを入れた。
 瑠香は開いた口が塞がらないようだ。
 しかし風見はおおーーっと呟いて手を打ち鳴らしている。
「なーんだ、テニスはそんなゲームだったのか!」
「そうだ!!そーゆーゲームなんだ!!」
「まどろっこしいこと言わずそれならそうと早く言ってくれれば良かったのに。これなら
僕でもプレーできそうだ!!」
 自信満々に言う風見に美加香は思わず口を開いた。
「そんなワケある……もがあっ!!」
(しーーっ!折角やる気出してるんだから変なツッコミ入れるな!!細かいところはお前
がカバーしてやれ!!)
 既にこちらも滅茶苦茶を言っている。
「どーしたんだ?」
 きょとんとした表情でこちらを見る風見にHi−Waitはぱたぱたと手を振った。
「何でもない何でもない!!さ、次はラケットの握り方だな。もうロブとかフラットとか
バックハンドとか何も考えなくて良い、とにかく効率よくラケットの中央の一番良く飛ぶ
場所に当てる方法を……」
 その時、美加香は悟った。
『駄目だこいつの教え方!!』
 このままでは風見のテニスはとんでもないテニスになってしまう。
 本人はともかくもパートナーを組む自分はたまったものではないだろう。
 ではどうすればいい?そう、もっといいコーチを付けなくては。
 密かに決意した美加香はこっそりとグラウンドの片隅を抜け出していった。


 数時間経過。


 すぱこーん!

「違う違う!!腰のひねりが甘いぞ、腕で打ってる!!」
「うーん、そう言われても……?」
  風見は全然理解していないようだ。
 いい加減に疲れてきたHi−Waitは顔を押さえて呻いた。
 ここ数時間の指導結果。
 全っ然ダメ。センス皆無。
 どうしてこれほど吸収が悪いのか全く理解できない。
「ひなた、お前フェアスポーツ向いてないんじゃないか?」
「ううっ……」
 風見は自己嫌悪のただ中にあるような口調で呟いた。
  そんな親友を呆れた眼で見つめながら、Hi−Waitは考えていた。
 もうこれ以上やっても無駄だ。
 風見自身から学習意欲が消え去ってしまっている。
 最低でもしばらく休ませなければ使いものにならないだろう。
 美加香は既にどこかへ逃げてしまったし、瑠香は余ったビラを配りに行ってしまった。
 そろそろ虚しくなってきた頃だ。
「わかった。お互いちょい休もう」
 Hi−Waitは額の汗を拭いながらそう言った。
 風見は無言で頷き、地面に座り込む。
「……僕はスポーツドリンク買ってくるからさ、お前自分のフォームの何処が悪いか一度
よーく考えてろよ」
「………………」
 Hi−Waitは風見の返事を待たずに歩き出した。
 後にはラケットを手に持った風見だけが残った。
 しげしげとラケットを見つめる。
 溢れてくるのは行き場のない泣きたくなるような自己嫌悪。
「テニスなんてっ……!!」
 風見は悔しさを込めてラケットを放り投げた。
 ブーメランのような音を立ててラケットの音が遠ざかって行く。
 しばらく後、遠くの方で微かにぱしっと何かを受け止めるような音がした。
 次の瞬間、ざごおっ!!と凄まじい音を立て、風見の足下にラケットが深々と突き刺さ
る!!
「ひっ!?」
 硬直する風見の顔に斜陽の為す影が落ちた。
「危ないな……俺がいたから良かったようなものの、楓に当たったらどうする気だ?」
「そ、そのお声は!?」
 風見の顔が驚愕に歪む。
 声の主ははっはっはと笑って腕を組んだ。
「そう!俺こそはSS不敗、マスターSSこと西山英志だ!!」
「師匠!!」
「どうした風見!!その顔は負け犬の顔、漢の持つべき顔ではない!!」
 風見は投げ返されたラケットを掴み上げ、師の顔をしかと見上げた。
「師匠!!僕は……僕はもう駄目です!!」
「愚か者ぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
 風見の叫びと同時に西山の師弟愛に満ちた熱い拳が風見の顔を直撃する!
「ぐはああああああああああああああああ!!」
「テニスごときで吠えるでないわぁぁ!!よいか風見、よーく聞くがいい!!昔の偉い人
はこう言った、『人生はギターじゃ!!』」
「人生は……ギター!?」
  吹っ飛ばされた風見は唇から滲む血を手の甲で拭って呟いた。
「そう!!人生はギターなのだ!!」
「誰が言ったんですかそんなこと!!」
「タマネギ先生という偉大な武道家だ!!そんなことよりも風見、これこそ神髄なのだ!!」
「神髄!?」
「この語の意味は『消防士だろうとパイロットだろうとチェーンソーだろうと自分の最も
得意な本分の延長だと思えば何も恐れることはない』だ!!」
「はっ!?」
 西山の言葉に風見は天地が砕けるようなショックを受けた。
 人生はギターだ!!
 弟子の反応を見つめながら西山は続けた。
「そして貴様の持つラケットをよく見るがいい!!それはとてもギターによく似ている!」
「しかし師匠!!僕は音痴でギターなどギターフリーク以外弾いたこともありません!!」
「それが愚かだというのだぁぁぁ!!!」
「げぶはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
 西山の愛の一撃により風見の身体は再び軽々と宙に浮いた。
 バウンドしながら地面に落ちる風見を睨み付けながら西山は叫んだ。
「物事の一面だけを見るのではない!!貴様が最も得意とするもの、それを活かすのだ!!」
「僕が最も得意とするもの……まさか!?」
「そうだ!!コートは戦場!!ラケットは剣!!テニスとは優雅な上流階級の遊びに見え
ながら実は血で血を洗う情け無用の残虐ファイトなのだぁぁぁ!!」
「そ、そうだったのかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
 今!風見の全身に電撃が走る!!
 全ての明らかにされなかった謎が瞬く間に解明されてゆく!!YU−NOのように!!
 西山は風見に指を突きつけながら断言した。
「テニスとはスポーツに名を借りた格闘技!!それが我がSS不敗流庭球格闘術の極意と
知れい!!」
「ははーーーーーーーーーーーっ!!!」
 風見はがたがたと震えながら平伏した。
 知らなかった!!
 ナンパ男のスポーツだと思ってたテニスが実はこんなに面白い格闘技だったなんて!!
「よいか風見ィィ!!ラケットの撃ち方は腰のひねりを入れて打つ……そう!!さながら
我がSS不敗流の必殺のパンチの如く!!」
「パンチの如く!?」
 風見ははっとした表情でで西山の動きを脊髄に焼き付けた。
 この瞬間風見はラケットの振りをマスターした……そう!!
 本人も気付いていなかったことだが、西山に徹底教育された風見の運動神経は全て格闘
を基準として設定されていたのだ!!
 フィギュアスケートの時も殆ど殺人スピンだったしね!!
「しかも良く聞け風見!!最も返しにくいサービスは相手の身体の中央線に沿った場所!!
つまり、敵の身体のド真ん中を狙い撃つべし撃つべし撃つべし!!」
「ええっ!?それは反則ではないのですか!?」
「違う!!」
 西山は断言した。
「サービスでボールが相手の身体に接触して相手がダウンしてもそれは得点なのだ!!」
「そうなんですか!?」
「うむ!!ここに資料がある!!」
 そう叫ぶと西山は懐から分厚い単行本を取り出した。
「これは著名な男の中の男が記した『燃えるV』という書物だ!!この中にしっかりと、
相手をボールで倒しても勝利と書いてあるのだぁぁ!!!」
「そうだったんですかっ!!!!!」
 そうか!!
 テニスはボールを敵にぶつけてぶちのめす格闘技だったのか!!
 さすが師匠、よく知ってるなぁ!!
「どうだぁぁ!!もうテニスは完璧かぁぁぁ!?」
「はいっ、師匠ぉぉぉぉぉぉ!!この風見、眼から鱗が落ちましたぁぁぁ!!!」
「ならば……ならば敵を倒して見せよ、貴様に誤りを教えた悪の手先を!!」
 西山が指さした先には、冷たいスポーツドリンクを抱えて帰ってくるHi−Waitの
姿があった。
 風見は無言で頷くと、ラケットを握りしめて親友に歩み寄った。
「やーみぃ……コツを掴んだんだ」
「え?」
 Hi−Waitは親友のあまりの変わりようと側に西山がいることに若干の違和感を抱
いたようだったが、風見の迫力に負け頷いた。
(ま、こいつの成果を見せて貰うのも悪くはないか……)
 そんな事を考えたHi−Waitは軽い調子でラケットを握った。
「それじゃあサービス行くから打ち返せよ?」
「ああ!」
 風見がそう答えた瞬間……彼の頭の中でゴングが打ち鳴らされた。

 覚悟完了ッ!!!


「早く言ってくれれば良かったのに……指導なら任せてくれよ」
「急いで下さい!!ひなたさんがやーみぃさんに変なクセをつけられる前に!!」
  美加香はやっとの思いで見つけだしたセリスの手を引いてひたすら走っていた。
 あと少し。
 あと少しで練習場に着く。
 そして一刻も早くセリスさんの正しいフォームを教えて貰わなければ!!
 練習場は……練習場は……見えた!!
 美加香に手を引かれ、セリスは練習場にたどり着く。
「それにしても楽しみだなぁ……兄弟弟子揃って出場か」
 嬉しそうに呟いたセリスの眼に入ったのは…………。

 顔面に強烈なバスターを喰らって吹っ飛ぶHi−Waitの姿だった。


「あ……あ……あ………」
 美加香はへなへなとへたり込むと、言葉にならない呟きを繰り返した。
 Hi−Waitは地面に落下した後びくんびくんと痙攣したが、やがて動かなくなる。
  風見はラケットを握りしめるとくっくっくと顔を押さえて笑い出した。
「これが……これがSS不敗流庭球格闘術の威力か!!勝てる!!師匠に教えられたこの
技によって僕は全ての敵を流血のコートに沈めるんだ!!ふふふ……あははははは!!」
「お……遅かったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 美加香はぼたぼたと大粒の涙をこぼしながら天に向かい絶叫した。
 風見ひなた、殺人テニスに開眼す!!
 セリスは風見の横でうんうんと頷いている西山に突進し、胸ぐらを掴み上げて絶叫を上
げた。
「西山ぁぁぁぁぁ!!今度は貴様、風見君に何を教えたぁぁぁぁ!!!」
「いやあ、この世に一人ぐらい好きなマンガみたいな技を持つプレイヤーがいたら面白い
よな、と思ってウソ吹き込んだのに……まさか本当に出来ちゃうとはなぁ、はっはっは」
「はっはっはじゃねーーーっ!!信じちゃっただろがぁぁぁぁぁ!!!」
 セリスは泣きながら西山の首を締め上げた。
 彼の頭の中には今、殺人テニスで対戦相手を虐殺する風見の姿が浮かんでいた。
「落ち着けセリス、まさか風見とて本気で技を振るうつもりではあるまい!!」
 西山はだんだん青くなってゆく顔で必死に囁いた。
 二人のやりとりを全く気にとめていない風見はまるで聖剣を掲げる勇者のようにラケッ
トを振り上げ、叫んだ。
「さあ!あとはさおりんとペアを組むだけだぁぁ!!」
「……風見よ。新城は城下君とペアを組んだそうだぞ?」
 よせばいいのに西山が呟いた。
 ぴくりと風見の頬がひきつる。
「……何?」
 みしりとラケットが軋んだ。
「さおりんの為に折角強くなったのに……横取りするなんて!!」
 濃密な邪気が練習場を満たして行く。
 殺気が黒い濃霧として実体化し、学園の一部を包み込んでいく。
「殺す!!城下ぁぁぁ!!貴様だけは確実に僕がこの手で引導を渡してやるぅぅぅ!」
「ほらぁぁぁぁぁ!!あんなコト言ってるぅぅぅぅぅぅぅ!!」
 セリスが滝のような涙をこぼしながら西山の頭をがんがんゆさぶった。
「どう責任取るんだ西山!?下手にヘンなこと教えるから闘争本能が異常活性されてなん
か邪悪に染まってきてるぞぉぉぉぉ!!」
「ぬ……ぬう!こうなったら仕方ない……俺がこの手で止めてやるしかあるまい!!」
 西山の叫びに、セリスはぱっと手を離した。
「そうですね……かくなる上はジャッジの名に掛けて!!風見君を正気に戻してみせる!!」
 こうして殺戮の鬼と化した殺人テニスプレイヤー風見を止めるため西山英志が立ち上が
った!!そしてセリスにももう一つの目的が加わる!!
 進め、西山&セリス!!
 明日のテニス界の平和は君たちの肩に掛かっている!!
「あの〜、私もしかして引きずられてます?」
「きっぱりと引きずられてますよ美加香さん」


                   あとは任せた!!

自薦……風見ひなた&赤十字美加香


 師匠はほっといても自薦するだろうから敢えて他薦せず(笑)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 おまけ1

『今日の英志さん』

西山 「………とゆーわけで俺も殺人テニスの練習するか、はっはっは腕が鳴るなぁ」
セリス「あんたも同罪かいっ!!!」

 期待できるのは君だけだ、セリス!!

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 おまけ2

『今日の美加香ちゃん』

美加香「………自分が収拾付けるワケじゃないからせいぜいよっしーさん困らせようと思
    って書いたでしょ、このSS(半眼)」


                   ぎくり(笑)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 とゆーわけで美味しい材料は出しました!!
 あとは活かすも殺すもあなたの技量次第!!
 任せたぞよっしーさん!!

 とーるさんの前に割り込めて良かった(汗)