Lメモ雨月学院時空 第一話『幼き罪』(後編) 投稿者:風見 ひなた


「きゃっ!?」
 気が付けばアユミは空中から放り出され、堅い地面の上に投げ出されていた。
 ついつい尻餅をついてしまい、お尻を痛めてしまう。
「あいたぁ〜〜〜っ………」
「大丈夫だムー?」
 気が付けばハムハムが心配そうに目の前に座っていた。
「う、うん大丈……」
 言いかけてアユミは慌ててスカートの前を押さえた。
 じとーっと半眼でハムハムを睨み付ける。
「……今、見たでしょ?」
「え?あっ、み、見てないムー!!」
 たちまち真っ赤になったハムハムが抗議の声を挙げた。
 だがアユミは不審そうな顔でハムハムを見ている。
「でもあなた男の子みたいだし……大体、何で語尾に『ムー』なんて付けてるのよ?」
「そ、それは変身魔法の副作用だムー!それに大丈夫だムー、僕は紳士だから!!」
「紳士だぁ〜〜?」
 アユミは思いっきり胡散臭そうな顔を作った。
 ハムハムは力一杯落ち込んでいる。
 くすっと笑って、アユミはハムハムを持ち上げた。
「まあいいや、信じてあげる。でも今度は疑わしげな事はしないようにね」
「アユミちゃん、ありがとうだムー!」
 ハムハムは感動したような眼でアユミを見上げている。
 苦笑一つ浮かべて、アユミは彼を頭の上に載せた。
「それにしても……」
 スカートをはたきながら彼女はゆっくりと立ち上がる。
「変わった服よね、これ。こっちの人間はこんなのを着て勉強するの?」
 そう言いながらいつの間にか着せられているブレザーを眺め見た。
「それは学生服っていうモノらしいムー。前の勇者大戦で勇者智波様が身につけていたっ
ていう由緒正しいアイテムだムー」
「ふーん。ハムハムって博識だね」
「任せるムー!」
 ハムハムは自慢そうに胸を反らして見せた。
 お調子者なんだな、と思いつつアユミはゆっくりと周囲を見渡した。
 白く大きな建物の蔭になって、あまり日当たりがよいとは言えない場所のようだ。
 アユミは建物を眺めて感嘆の声をあげた。
「へえ、こんな大きな建物で勉強するんだ……!」
「これが明日からアユミちゃんが通う『雨月学院』だムー。既に編入手続きはされてるか
ら、アユミちゃんは素知らぬ顔で学生に成りきればいいムー」
「やっぱり大神殿のやることはソツがないわね」
 うんうん、とアユミは得意そうに頷いた。
 そこに大きな声で声が掛けられる。
「あ!もしかしてあなた、転校生!?」
「え?」
 振り向くと、そこにはアユミとは全く違ったブレザーに身を包んだ女の子が立っていた。
 大体歳の頃は16、アユミと同じくらい。きちんと整えられた短めの髪をとった、可愛
らしい感じの女の子だ。茶色がかった髪に白いヘアバンドがよく似合っている。
 にこにこと人懐っこそうな笑みを浮かべてアユミを見つめていた。
 アユミはちょっと退け腰になりながらも頷いた。
「え、ええ。そうなの」
「やっぱり!制服が違うからすぐ分かっちゃった、今度ウチのクラスに転入してくる子っ
てキミでしょ!あ、私弘美!高見津弘美ってゆーの、ヒロちゃんでいいよ。別にヒロりん
やヒロぼーでもいいんだけどね!あ、でもタカミっちゃんとかは勘弁してね!あ、この髪
は別に染めてるんじゃなくて地毛なんだ。でもたまにシスターに怒られるの。黒く染めな
さいって。そんなのおかしいよね、あ、ウチはシスターが生活指導するんだよ。キミも大
変そーだよね、その赤毛。あ!ねえねえ、もしかしてハーフなの?」
「う、うんまぁ……」
「えーっ!すっごーい、ホントにハーフ!?あ、じゃもしかして私達仲間!?私もね、実
はクォーターなんだ!おばあちゃんドイツ人なの!断然親近感湧いてきちゃった、ラッキ!」
 よく喋る娘だ。
 上位世界の人間というのはみんなこんなによく喋るものなのか?
 アユミが呆れている内に弘美はぺらぺらと話を続けて行く。
「……とゆーわけでよーこそ、この堅苦しいミッションハイスクール雨月学院へ!!で、
キミの名前は何て言うの?」
「あ、あたしの名前は……アユミ。高道歩美っていうんだ」
「タカミチ!?あ、私の名字のタカミツと似てる!?すごいすごい、私達似たもの同士だ
よね!!もしやこれが運命ってヤツ!?あ、出席番号もすぐ隣だよ、すっごーい!!」
 なんだか勝手に感動されている。
 賭けても良いが、アユミの人生史上最も奇天烈な人物だと断言しても良い。
 さんざん一人で飛び回りまくった挙げ句、弘美はぜいぜいと肩で息をしながら言った。
「ふぅ……なんか疲れちゃった」
 そりゃそうだ。
 弘美はその割には全く疲れていなさそうな顔で言った。
「ところで、早速友達になったキミに一つ質問があるんだけど……」
「う、うんいいよ。何?」
「さっき誰と話してたの?」
 アユミはぎょっとして立ちすくんだ。
 弘美はにこにこしながらアユミを見つめている。
「さ、さっき……って?」
「ほら、今校舎の方見ながらブツブツ言ってたじゃない」
 しっかり聞かれていたようだ。
 アユミはだらだらと汗を流しながらうそぶいた。
「えっと……あ、あたし感激すると独り言言っちゃう癖があるから……」
 白々しい嘘である。
 しかし弘美はがしっとアユミの手をひっつかみ、固まったアユミの目を見て叫んだ。
「あ、それ私も!私も感激するとよく喋っちゃうようになる癖があるの!!みんなにうる
さいうるさいって言われるけどこれだけはどーしても止められなくて困ってたんだけども
う決定!キミは私の運命の友!!あ、言うなれば親友!?今日から私達は友達よね!キミ
がアンなら私はダイアナ!!もうこればっかは決定事項よね!!ね!?」
「そ、そうかも……」
 アユミは彼女に圧されまくってたじたじになっている。
 ハムハムはアユミの頭の上から呆れてその光景を見ていた。
(世の中には異様になれなれしいヤツもいるんだなぁ……)
 と、異様な悪寒を感じてハムハムの気が総毛立つ。
 一対の輝く獲物を狙うハンターの目が彼を射すくめていた。
「かわいーーーーーーーーっ!!」
「きゅーーーーーっ!?」
 黄色い声を挙げて弘美がハムハムの身体を捕まえ、頬摺りする。
「憧れのハムスターーーっ!!テンジクネズミーーーーーっ!!ああもう可愛い可愛いっ!!
あ、これひょっとして歩美ちゃんのペットなの!?」
「ひょっとしなくてもあたしのペットだよ」
 言った後でパートナーをペット呼ばわりして良いのかな、と思ったが疑問は呑み込んで
おく。まさか実は魔法界からやってきた魔法神族の仮の姿なんです、などとは言えない。
「でもダメだよ、学校に動物持ってきちゃ。シスターに怒られちゃうよ?あ、でも可愛い
から私は許すよ!ポケットに入れて出さないようにしてればバレないし!!」
「う、うーんそうねぇ……」 
 余計なお世話だとハムハムは思った。
 全く、妖魔退治に来たのにこれじゃあこの娘の方が妖魔よりも厄介だ。
 そう思った矢先に、今度こそ全身の気が総毛立つ悪寒を感じる。
 明白な殺気!
(アユミちゃん!!)
 ハムハムは念話でアユミに話しかけた。
(妖魔だムー!僕達を狙ってる。気を付けるムー!)
(えっ!?)
 アユミは素早く戦闘態勢に移ると、お得意の魔法詠唱のスタイルに入る。
 だがそれは弘美に見られている。
 突然のポーズに怪訝そうな顔をしている弘美の顔を見ながら、ハムハムは警告した。
(駄目だムー!この子に姿を見られるわけには行かないし、そもそもその人間の姿では
マナを集めることが出来ないムー!!)
(じゃあどうすればいいの!?)
(僕に任せるムー!!)
 ハムハムはすーっと息を吸い込むと叫んだ。
『時間と空間を司る虚なる異相の精霊よ、我に朧の世界を開け……ハムハム時空発生!!』

「えっ!?」
 アユミはぎょっとして周囲を見渡した。
 どこにも弘美がいない。彼女が居た位置にはハムハムが立っているだけだ。
 そして、周囲に満ちるこの圧倒的な邪気とマナ。
「ハムハム!?弘美ちゃんは何処に行ったの!?それに、このマナは!?」
「大丈夫だムー!時間の狭間に無人のパラレルワールドを展開し、僕とアユミちゃん、そ
れに敵だけを転送したんだムー!!この世界でどれだけ動こうと元の世界では時間は経た
ないし、この世界のモノをどれだけ壊そうと元の世界に影響はないムー!!」
 アユミは理解しようとしたが一秒で放棄した。
 伊達に攻性魔法以外の成績はオールDランクというわけではない。
「まあ、つまり……好きなだけ暴れて良いってことよね!!」
 アユミはにっと笑うと殺気のする方向を睨み付けた。
 地面が大きく盛り上がり、巨大な鬼の顔が現れる。
 レザムヘイムに生息する妖魔、『オーガヘッド』。
 地面に潜んで待ち、旅人が通りかかった所を捕食する生けるトラップ。
「アユミちゃん、変身だムー!!」
「オッケー!」
 ハムハムの投げたマントを手にとって大きくなびかせる。
 一度それにくるまり、再び現れたときには既にヴァルキュリエ専用の戦闘服に着替えて
いる。北欧風独特の軽甲冑に身を包み、アユミは妖魔に指を突きつけた。
「東鳩SSなら力を合わせて苦労して倒すようなシリアスな敵だけど、Lで妖魔が幅効か
せようなんて10年早い!この魔法少女ラブリーアユミがせめて一華咲かせてあげるっ!!」
 大口上を述べてから、アユミは頭痛を抑えるように頭に手を当てた。
「ラブリーアユミ……我ながらなんて恥ずかしい変身名なんだろ……」
「アユミちゃん、悩んでる暇はないムー!」
 ハムハムの声で我に返り、アユミは大きく飛び上がった。
 彼女の立っていた地面があっさりと妖魔の牙に砕かれる。
「………頑丈なお口で何よりね」
 アユミはハムハムを拾い上げて頭の上に載せた。
 それと同時に妖魔は地中に潜行する。
 これでアユミの側からは妖魔が何処に現れるか一切わからなくなった。
「アユミちゃん、まずいムー!」
「冗談!知ってる、もしも敵が森の中に隠れたら………」
 アユミはそう言いながら、空高く舞い上がった。
 地上3階くらいまで軽々と飛び上がると、最上点で下を向いて呪文の詠唱に入る。
『嵐を司る猛々しき風の精霊よ、汝の力もて我が前の全ての敵を吹き飛ばせ!』
「森ごと吹っ飛ばせばいいのよっ!『風爆撃!!』」
 叫びと同時に彼女の掌から凄まじい風の魔力弾が放たれる。
 それは地面に接触すると同時に、拡大炸裂して地面の土砂ごと隠れていた妖魔を空中に
放り上げた。
「さあ、必殺技でカタ付けてあげるわ!!」
 アユミは不敵な笑みを浮かべて、彼女の頭上に舞い降りる土砂に向かって呪文を唱えた。
『赤き瞳持つ魔王よ、汝の力もて我が前の全ての敵を喰らい尽くせ!!』
 彼女の腕から白い輝きが生まれ、まるで蛇のような大口となって上空へ突き進む。
 不意に彼女の目に残忍な光が宿り、次の言葉と同時に炸裂する。
「禁呪『白蛇王』」
 白蛇の幻影は妖魔の嗚咽を全く残さずに、その身を文字通り『喰らい尽くした』。
 敵の消滅を知り、アユミは跪いて祈った。
「女神よ、今日の勝利をあなた方に捧げます……」
 と、変身を解いてハムハムにVサインを作ってみせる。
「どう!?楽勝でしょ!!他はカスだけど、攻性魔術の腕とキャパは天才よ!!」
「凄いムー!!でも、禁呪って……」
 ハムハムの言葉に、アユミは照れ笑いを浮かべて舌を出した。
「えへへ、誰も見てないから思わず禁呪の『魔王召喚』撃っちゃった。私、あと二つこれ
使えるんだ。あとの二つは『金瞳王』と『炎蛇王』って言うんだけどね。……神官長様に
は内緒にしててね」
「勿論言わないムー!僕とアユミちゃんだけの秘密だムー!」
 ハムハムはそう言いながら思っていた。
(禁呪をあっさりと……なんて魔力容量(キャパ)だ……!)

 そんなこんなで彼女たちの初仕事は終わった。


「で、アユミちゃん家はどっち?」
「えーっと……アパートなんだ。ここでいいよ」
 アユミは適当なところで弘美を撒こうと、振り返って彼女に言った。
 何故かその後も長々と付いてきたのだ。
 弘美はうん、と頷いてとたたたっと走り出していった。
「ばいばーい!また明日ねー!!」
「はい、またね!」
 彼女は笑顔でそう呟いてから……ふうっと息を吐いた。
「つ……疲れたぁぁぁ。大体大神殿もアラが多いのよ、全然制服じゃないじゃない。ほら
見てよ、胸のここんとこ『L』って刺繍してあるわよ!」
「そりゃ勇者様の制服を見て作ったんだから仕方ないムー。まさか学校によって制服が違
うなんて思いもよらなかったんだムー」
 ハムハムの言葉に、アユミは深々と項垂れた。
「あーもう……変な子に好かれるし、ロクなモンじゃないわね……早く任務終わらせて」
「歩美ちゃん」
「うわぁ!?」
 アユミはびくっと飛び跳ねた。
 いつの間にかすぐ側に弘美が立っている。
「な、何弘美ちゃん?」
 弘美は不思議そうに首を傾げ、驚くアユミに訊いた。
「そーいえば、さっき学校でハムハム君が喋ったような気がするんだけど……」
「え?」
「…………気のせいだよね?」
 アユミは冷や汗を掻くと、何度もうんうんと頷いた。
「あ、当たり前じゃない!ハムスターが喋ったりしてたまりますかっての!!」
「そーだよねー、ハムスターは喋らないよねー」
「うん、気のせいっ!!あははは、あははははははは……」
「えへへへへへへへへへへ……………」
 二人の笑い声は、初春の空に吸い込まれていった。


「ふん……早速禁呪を使ったか」
「ですが、他の能力は予想通り総じて平均並。ロクな移動魔法も使うことが出来ません…
予定されたとおり、朽ち果てるのも時間の問題かと」
「ふむ……」
 男は報告を聞きながら、胸のペンダントを弄んでいた。
 おぞましさを感じさせるまでに赤い宝石が微かな光に反射する。
「それにしても……あのハムスターは何者だ?代役としか聞いていないが……」
「魔力反応はほぼゼロです。大した障害にはならないでしょう」
「本当にそう思っているか?」
 男は皮肉げな笑みを浮かべて呟いた。
「異相魔法を使って全く疲労していない……並の術者ではないぞ」
「彼女の身を守るには役立たないかと」
 女の声に男は笑い声を上げた。高い声だ。
 嘲笑うような声。
「まあいい……手駒は揃えた。あとはヤツが死ぬのを待つばかり……くっくっくっく」
 闇の中に男の哄笑が木霊する………。
 静かに。静かに忍び寄る陰謀。
 まるでそれは彼女にこう宣告するかのように……。

『この門をくぐる者、汝一切の希望を捨てよ』

                 第一話 完

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えー。
ダークじゃないです。
全然ダークじゃないです。
これからダークになるんです。
まあ、伏線は一応張ってますから(笑)
分かる人にしか分からないでしょうが(笑)
しかしLキャラが全く出てこないLメモ………うーん(汗)
あとアユミの元ネタですけど、これも簡易に出てた人にはわかるでしょう。
やーみぃ君の反転さんです。でもLではやーみぃとは関係ないんだよな(笑)
かろうじて名前を「高道」にしてるところが関係あると言えばありますが(笑)
ヤツはスレイヤーズ魔法を使いますが、さすがにそのまんまはまずい……というか設定好
きのプライドが許さないので結構変えてます。
魔王の力を借りた魔法……無断使用ごめんなさい、ジンさん&岩下さん(苦笑)
ちなみにハムハムはICQでのヤツとの会話から生まれた怪しい少年になってます(笑)
飼い主のシッポさんの登場があるかは不明(笑)
それでは滅茶苦茶好き放題やってて「どこがLか」という気がひしひしとしますが、その
うち多分Lになりますので見逃して下さい(苦笑)
ではまたー!!

あー、それにしても長くなった……(汗)

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とゆー以上の文章を夏休みに書いたままずっとほっぽってました(笑)
いつまでも腐らせておくのも可哀相なので投稿しますが……
今はそれよりも「迷宮」だっ!!(笑)
「迷宮」の文体とどっちが読みやすいかなー?