Lメモ外伝「Leaf学園におけるラブコメ」 投稿者:風見 ひなた
 ずっと、信じ込んできた。
 自分は誰に知られることもなくささやかで静かな人生を送るのだと。
 表に出ることもなくただただひっそりと終わるのだと。
 それで良いとさえ思っていた。
 自分に価値など見つけられなかったあの頃、夢など見なかったあの頃。
 今では忘却の彼方に消えようとするあの頃の自分。
 それまでは考えもしなかった日々の中に今自分がいる。
 そしてこの自分はあの日あの瞬間、あの言葉と同時に始まったのだ。
「一生草で終わるつもりか?」


 終業のチャイムが鳴ると同時に…今日も破壊が訪れる!
「外道メテオ!」
 相も変わらず後頭部に砲丸やら鉄アレイやらの直撃でゆきたち同級生を血の海に沈め、
風見ひなたはパートナーの赤十字美加香を連れ教室から走り出た。
 四時間目が終われば学園は一種の無政府状態に突入する。
 そこには風紀委員も一般生徒もss使いも教師もない。
 ともかく急がなくては食いっぱぐれるのだ。
 昼御飯にありつくためなら仲間も蹴落とす!
 実に正しいLeaf学園生徒の在り方であろう。…もちろん嘘である。
 まあ何はともあれ、風見が食堂に全力移動しているのは間違いのないところではあった。
「美加香、さっきの攻撃の被害者は何人ですか?」
「大体の一年生集団は撃破しました!やーみぃさんも被害者枠に入っています。なお、
Tasさんは何故か回避、まさたさん、m・kさんはお弁当のため被害ゼロ!光さんは脳
天からだくだくと出血中、紫音さんがつついています!るーんさんは机の下に隠れました
が貫通した砲丸を後頭部にくらい生死不明!」
「よーし、狙い通り!このまま食堂までノンストップで駆け込みますよ!」
 そう言うと、走りながら器用にハンマーを取り出す。
 美加香はそんなパートナーを半眼で眺めながら、息をついた。
「ひなたさん、別に学食に行かなくてもお弁当なら私が作ってきているのに…」
 それを聞くと風見は剣呑な眼で美加香を見ると、その手から弁当箱を奪い取った。
 美加香の顔が一瞬喜びに輝く。
「そういう産業廃棄物より危険な毒物を…」
 全速で走りながらも弁当箱の蓋を開け放つ。
「食えというのはこの口ですか!?」

 美加香はその後息を吹き返したゆきたちに踏まれ全身足形だらけになってプレスされて
いたが、やがてむくっと起きあがると口の中の弁当を吐き出した。
「うえ…ぺっぺっ。もう、ひなたさんたらこんなもの食べさせて…殺す気ですか?」
 なんだかとっても矛盾を感じる言葉である。   
  と、そこで美加香ははたと気が付いた。
 最近風見にまともな食事をさせていないような気がする。
 家でも風見が三食作っているし…
 ルーティに下手に料理をやらせると火事を起こすし、美加香は殺人料理ばかり作るので
恐ろしくて風見が台所に立たせないのだった。
 ひょっとして、私ったらひなたさんに信頼されてない?
 もしかしても何もその通りなのだが、美加香はちょっとショックを受けた。
「ちょっとふざけすぎたかな…明日のお弁当はひなたさんの好物にしてあげよ…」
 美加香は実は普通の料理も作れる。
 ただ殺人料理を作るのが何よりの趣味なのである。
 美加香はひなたの好物を考えながらゆっくりと歩き出した。
「和食系統で…お魚が好きなんだけどお弁当には…コロッケなんかも好きだったかな?」
 一人ぶつぶつと呟きつつ…美加香は大きく跳んだ。
 そして一瞬遅れて足があったところにたたっと棒手裏剣が打ち込まれる。
(棒手裏剣…やーみぃさん?いえ、彼は気絶しているはずだから…)
 地面に降り立ちながら、美加香は恐ろしい考えに気付き愕然とした。
「まさか!?」
 その考えを証明するかのように一人の男が美加香の前に音もなく浮き出した。
 まるで、その空間に突然現れたかのように。
「楽しそうだな、赤十字美加香…いや、雅史に手紙を渡す少女A!」
 かつての名を呼ばれ美加香は息を呑む。
 その声はよく見知っていた者の声…。
「あ、あなたは…田中先輩!?」
 田中は二枚目調に整った顔立ちをすっと歪め、嘲笑を浮かべた。
「田中先輩、だと?しばらく会わない内に俺の呼び名も忘れたようだな…俺は、首領だろ
う?」
 美加香はじりっと後じさりした。
 奴の実力は十分知っているつもりだった。
「あ、あなたがここに来たという事は…」
 田中はにやっと笑うと指を打ち鳴らした。
 とたんに周囲に殺気の固まりが生まれる。
「闇に生まれ、闇に死す…」
「一族の掟を汚した裏切り者め…」
「その死をもって罪を購え…」
 その恨みがましい声に美加香は戦慄した。
 いづれもよく見知った者の声だった。
「赤十字美加香…少女A!粛正の名の下に死ね!」
 田中の叫びと同時に三つの殺気が動く!
 美加香は身を翻すと素早く逃走に転じた。

「Dセリオ!今日こそお前の息の根を…」ばきぃ!
「雅史ぃ!佐藤は一人で充分…」どこぉ!
「Hai!何をそんなに急いで…」ずがっ!
「ちょ、ちょっとカツサンドと私とどっちが…」べしっ!
「なあ、俺…主役なのに…」ごぐしゃあ!
 目の前の生徒達を轢き倒しつつ美加香は全力で逃走した。
 が、殺気は消えない。
 どこまでもしつこく美加香を追跡してくる。
 とうとう美加香は諦めて拳を固めた。
「少女A!今こそ貴様の命日だぁ!」
 柳川に殺されたサラリーマン…ここでは教師Aが拳を振り上げる。
 美加香はたんっと地面に手を突くと素早く跳躍し、その頭上を越えた。
 が、そこに不意にあげられるほっそりした足。
「あなただけ名前があるなんて許せない!」
 教室の団子頭の少女Bが蹴りを繰り出していた。
 何とかブロックしたものの、美加香は吹っ飛ばされる。
「死ね」
 バレー部員の少女Cが必殺の突きを繰り出す。
 めきっという音を立て、美加香のあばらが軋んだ。
 呼吸を逼迫され美加香は苦悶にあえぎつつ、少女Cの腕を取ると一気に引き寄せ、首に
手刀を入れた。
 がほっ、という呻きをあげて少女Cは地面に倒れ込む。
 気道を攻撃され、一時的に呼吸困難に陥ったのだ。
 美加香は自分の腹を叩いて横隔膜を刺激し、呼吸を治すとすかさず教師Aに体当たりを
掛けていった。
 だが、その目の前に少女Bが立ちはだかる。
 その手には銀色に輝くナイフが握られていた。
 だが、それこそが美加香の狙いだった。
 美加香は不意に前転すると、ロケットキックをぶちかました。
 少女Bのナイフが空を切る。
 そのすぐ下を美加香の跳び蹴りが通過し、少女Bは教師Aを巻き込んで吹き飛ぶ。
 美加香は会心の笑みを浮かべ、再び立ち上がろうとした。
 だが巨大な図体がその上に覆い被さる。
 吹き飛ばされたはずの教師Aが美加香の上に降ってきたのだ。
 美加香は首をつかまれ、再び呼吸を止められた。
 目に涙が浮かんでくる。
 徐々に意識がぼやけていくのが分かった。
 そこにさらに過重が増える。
 教師Aの上に少女BとCが乗っていた。
 だが…
「こんな所で、死ぬもんかぁぁぁ!」
 しかし美加香は渾身の力を振り絞って三人を宙に吹き飛ばす。
 美加香は傍らで野次馬モードに入っていた榊委員をひっつかむと思いっきり投げ飛ばし
た。
 鬼畜ストライクとまではいかなくとも、それなりのスピードで飛んでゆく。
   「がぼっ」
 なんだかとってもデンジャラスな音をあげて、榊委員は撃墜された。
 さすがにこれくらいじゃ当たらないか…。
 そのとき、背後に殺気が生まれた。
「背後ががら空きだな」
 田中の声と共に、美加香は吹き飛んだ。
 三つの殺気が美加香に向かって向かってこようとしていた。

 さて、美加香がピンチに陥っているその頃。
「どうして初等科には給食があって高等部にはないんだろうな?」などと訳の分からない
呟きをしつつ学食から出てくる風見の姿があった。
 ぐぅ、ころころ。
 風見は腹を押さえため息をついた。
「美加香に構ってるんじゃなかった…」
 そう呟くと、突如ひょいとそこらの茂みに身を隠した。
 もちろん風見がこんな格好をするときは限られているわけで、案の定その視線の先には
…。
 弁当を差し出す沙織とそれを受け取る祐介の姿があった。
「あの、祐君…これ、作ってみたんだけど…」
 祐介はぺちっとそれをはたき落とす。
「瑠璃子さんの味じゃない」
 沙織は泣きそうな表情を浮かべた。
 構わず祐介はそっぽを向いて呟き続ける。
「ご飯が軟らかい、だしまき卵に海苔が入ってない、ピーマンが入ってる、ウインナーが
たこさんじゃなくてかにさん、りんごの塩水がちょっと辛い…」
「う、う、う………」
「瑠璃子さんのよりまずい、食べたくない」決定打。
「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」沙織は泣き出してしまった。
(野郎…ぶっ殺す!)
 風見は拳を固めた。
 人が腹減ってる時に弁当を捨てた上にさおりんを泣かせるとは…万死に値する!
 他人の事を言えた筋合いなのだろうか。
 まあそれはそれとして、祐介がすてすてと歩き出して茂みの外に出ていったとき、風見
の金槌が祐介の頭部を襲った。
「げげっ!?」奇跡的に回避し、祐介は心底びびった叫びをあげた。
「ちっ、避けましたか…」風見は舌打ちすると、金槌を放り投げノミを取り出す。
 祐介の頭に直感的に(こいつはやばい)という考えが浮かんだ。
「死ねぇぇぇぇ!」本能的に祐介は電波を繰り出す!
 これならどんな敵でも一撃で沈められる。
 もちろん格闘属性の風見が耐えられるわけがない。
 はずだった。
 ノミの柄をこめかみにくらい、祐介は吹き飛ぶ。
「ば、馬鹿な…なんで電波が効かないんだ…」
 そう呟き、閉じそうになる眼を何とかこじ開ける。
 そこで祐介は信じられないものを見た。
 風見は鳥かごを頭から被っていた。
「長瀬先輩…静電遮蔽って…知ってますか?」

 静電遮蔽とは?
 導体に中空部分がある場合でも外部の電気力線はそこに入り込まないから、中空部分に
電気がないときはそこに電場が生じないし、電気があるときでもその電気による中空部分
の電場は外部の影響を受けない。…という物理現象。

「んな…あほな…」祐介はばたっと倒れ伏せた。
 風見はひょいと鳥かごを投げ捨てる。
 月島には通じなかっただろうなぁ、と思った。
 もちろん、それで防げるわけがない。
 まさに「んなあほな」である。
 ようは言霊の力で無理矢理に物理法則をねじ曲げたに過ぎない。
 この世の中、押し切った者が勝ちである。
 ぐぅぅぅぅぅぅぅぅ…。
 風見は腹を押さえると、ふらふらと沙織の所に近付いていった。
 沙織ははっと下級生を眺めた。
 風見はその前にぱたっと倒れ込むと、尋ねた。
「あの…これ、食べちゃってもいいですか?」
「う、うん」
 同時に風見はがばっと起きあがると、ものすごい勢いで弁当を空にし始めた。
 沙織は呆気にとられてそのたべっぷりを眺めていたが、くすっと笑うと傍らの水筒を拾
い上げた。
「お茶、呑む?」
 風見があわただしく頷いたのは言うまでもない。


 さて、風見がそんな風に昼飯にありついた頃。
 美加香は…。     
「うきゃあああああああああ!?」
 相変わらずピンチだった。
 周りにはbeakerやらきたみちやら耕一やらのの亡骸が倒れていたりする。
 すべて、巻き添えを食った連中だった。
 それでもまだまだ立っている連中がいる。恐るべき野次馬根性だった。
「いい加減に往生するがいい!」教師Aの鉄拳が美加香に振り下ろされる。
 美加香が跳び避けると、石畳に穴が空いた。
「生意気なのよっ!ビジュアルもないくせに名前なんて!」
「どちらもない奴の気持ちが分かってたまるかぁ!」
 そこに両側から少女B&Cの攻撃が繰り出される。
 美加香はこのとき疲労の頂点に達していた。
 避けきれない…。
 両側から無数の突きが美加香を襲う。
 どちらに吹き飛ばされることも許されず、美加香は宙に浮いたまま間断なく攻撃を浴び
せかけられた。
 一撃で瓦5枚を砕くパンチの連打である。
 さすがの頑丈ミサイル娘もぐったりとしていった。
 美加香はかろうじてその腕を伸ばす。
 二人の体に手が触れた…その瞬間、今までとは比べものにならない強烈な一撃が美加香
の体を両側から砕く!
 そして教師Aの剛拳が正面から美加香をふっとばす!
 その腕を掴んだが、間に合わない。
 美加香は校舎の壁に激突すると、数センチその体をめり込ませた。
 そして、さらに校舎の裏側から放たれた田中の一撃が美加香に叩きつけられる。
 美加香は校舎の壁ごと地面に転がった。
 三人が美加香を見下げ、笑う。
「かつての一族最強の拳の持ち主も堕ちたもの…」
「所詮は過去の人か…」
「名前などあなたにはもったいないわね。私の名前でも登録した方が有意義だわ」
 バレー部の女がにやっと笑うと、口を開いた。
「どうせならここらでオリキャラになろうかしら?私は…」
 喋るな…。
 その声に、ぎょっとして少女Cは一歩下がる。
「喋るんじゃありませんよ…これ以上オリキャラを増やされてたまるもんですか…」
 美加香が血の混じった唾を吐くと、立ち上がろうとしていた。
 慌てて少女Cが取り押さえようとする。
「触るなっ!」
 その迫力に驚き、ついつい少女Cは一歩引いてしまった。
 美加香は不敵な笑みを浮かべ三人を見た。
「出来るなら話し合いで解決したかった…だけど、そうも行かないようですね…」
 かっと美加香は目を見開くと、手の中に握られていたスイッチを掲げた。
「洒落で済むのもここまでよっ!」
 洒落と書いて、コメディと読む!
 美加香の手のスイッチがONになると同時に、三人の体は紅蓮の火柱をあげた!
 風見直伝、人体爆破!
 格闘に見せかけて小型爆弾を取り付け、一気に吹き飛ばす豪快かつ非人道な技である。
 野次馬達を巻き込んで、中庭からはきれいさっぱりと敵は消えた。
 美加香はぼろぼろの体で立ち上がると、きっと最後の敵を見据えた。
「あなたを倒して、私は今度こそ過去と決別する!」
 田中はふっと笑うと、構えを取るでもなく美加香を眺めた。
「そんなに今の生活が大事か?風見に殴られ、蹴られ…人間としての扱いも受けられない
毎日をそこまで大事にする…わからないね…」
「あなたには分からない…分かるわけがない。日陰の道しか歩いてない人間には!日の当
たる生活のすばらしさなんて理解できるはずがない!」
 美加香の言葉に田中はふっ笑うと、首を振った。
「俺とは分かり合えない、ときたもんだ。俺は未だに君を忘れていないというのにな…」
  そう言うと田中は胸からペンダントを取り出すと、そのロケットを開いて見せた。
 その中には笑っている美加香の写真が入っていた。
「俺は本当は君を殺すつもりなんかなかったんだぜ?君を迎えに来たんだ、我が婚約者殿」
  そういって田中は歪んだ笑みを浮かべる。
 美加香は気味悪そうにはっ、と吐き捨てると田中を半眼で見つめた。
「婚約者?あなたが勝手に名乗っただけじゃない、このストーカー!」
「勝手に…違うね。俺は『草』の首領だ。一族のものはすべからく俺に従う義務がある。
俺の決定はお前達の絶対だ!」
 美加香は激しく過去の自分を後悔した。
 あのとき…あのとき、草になどならなければこんなことには!
 西山の誘いに乗ったことがこんな悲劇を生み出すのなら、初めから彼になど会うべきで
はなかった!
 田中はすっと構えを取った。草流裏武闘拳七式。
 草武闘の構えは意思の伝達も示すことが出来る。伝令に生きる者の知恵だ。
 意味するところは「絶対の死」ではなく…「捕獲」。
「今からでも遅くない。お館様に従うことだ」
 お館様とはこの場合、風紀委員長を指す。
「幸いにして久々野殿はその座からご退陣なさった。今ならどさくさに紛れることもでき
る…」
 なめられたものね…美加香もまた構えを取った。
 それは、型にない構え。「我が意志のままに戦う」。
 緊迫の空間が二者間に成立した。


 さて、美加香が過去と決別すべく死闘におもむかんとしていたとき。
 風見は…。
「そ、そんなにかしこまらなくてもいいよ」
 ふかぶかとお辞儀をして、さおりんに照れられていた。
「いや、ごちそうさまでした。この義理はいつか必ず返しますから…」
「だからお弁当一つでそこまで感謝されたって…」
 ちょっと困っている。
 風見はそれじゃあ、と真っ赤な顔で立ち去ろうとする。
「あ、ちょっとまって…?」
 と、沙織に後ろから呼び止められた。
 どきっとして風見はそろそろと振り向く。
「風見君、君、どこかで見たような気がするんだけど…?」
「い、いや!気のせいでしょう!初対面です!」
 ん〜〜?
 沙織はじっと風見の顔を見つめていたが、ぽんと手を打った。
「あっ!君、私が祐君に意地悪されたとき絶対に出てきてない!?」
 げ、ばれたっ!
 風見は内心でだらだらと汗をかいた。
 これまで出来るだけ隠密に行動してきたのに…!
 うう、嫌われる…いや、嫌われることは別に構わないのだがそれでさおりんと祐介をく
っつけるのに支障が出てきそうで風見は困惑した。
「さてはこの前祐君に『さおりんを虐めたら殺す』って脅迫状送りつけたのも教室にふた
りっきりにするためにクラスメート全員殴り倒したのも君の仕業ね!?」
「うぅ…まあ、そうです…」風見はここでシラを切れるほど嘘つきではなかった。
「風見君…」
 なんでそんな酷いことするのよ!だいっきらい!
 という罵声を覚悟して風見は悲痛な表情を浮かべた。
「なんで、そこまでしてくれるの?」
「え…?」
 予想された言葉とは幾分違った疑問に風見は拍子抜けし、同時により混乱した。
「風見君には関係ないことでしょ?なのに、どうしてわざわざ祐君との橋渡しをしようと
してくれるの?」 
  何故だろうか?
 風見は自分に問いかけた。
 もちろん、答えは一つしかない。
「好きだから」
 正確には『不幸な女の子が頑張ってるのを見るのが好きだから』である。
 『子供好き』が『子供の笑顔を見るのが好き』なのと動機的には同じだ。
 風見は混乱して省略してしまった。
 もちろん沙織は勘違いした。
「え…」
 風見は自分のミスに気付かない。
 沙織の顔が真っ赤に染まるのを、風見は不思議な思いで見つめていた。
 と、そのとき遅ればせながら風見の背筋に悪寒が走った。
 風見と美加香は西山によって精神の一部を結びつけられている。
 どちらかの身に危機が迫ると直感的に関知できるシステムだ。
 沙織を残していくことに後ろめたさを感じたが、この場合やむを得ない。
(手を焼かせやがって…)
 風見はその場から走り去っていった。
 沙織はうつむいて「どうしようかな」とか「困っちゃったな、えへへ…」とか呟いてい
たが、ばっと振り向いて言った。
「ねえ、もしよかったら明日からお弁当作ってきてあげようか?」
 ………いない。
「…照れちゃったのかな?」
 もちろん違う。
 だがポジティブ人間の沙織は勘違いした。
 いつだって精神的に得するのはこういう思いこみの強い人間である。
 こうして沙織は明日の弁当のメニューを考えながら、祐介を踏みつけて(見えてない)
歩き出した。
 沙織、お前『悪』が嫌いなんじゃないのか?


 さて、風見がラブコメから逃げられなかったとき。
 美加香は…。
「そろそろ諦めたらどうだ?」
 いきなりやられかけていた。
 地面にはいつくばって、せき込んでいる。
 田中、草のくせに強すぎ。さすが首領である。
 美加香のもうろうとする意識は今にもとぎれようとしていた。
 そのとき。
「待てっ!」
 風見がようやく到着した。
 田中はふっと笑い、風見を睨み付けた。
「ようやく現れたな…風見ひなた。人の婚約者を奪った人間の屑が…」
 だがそう言って指を突きつけられた風見はずんずんと美加香に近付いてゆくと、思いっ
きり蹴り倒した。
「アホかお前はっ!いちいち人を呼びつけるな大馬鹿者!」
「みぎゃああああ!?」
 後頭部に蹴りを入れられた美加香はがばっと立ち上がった。
「ひ、酷いじゃないですか!いきなり蹴りを入れるなんて!」
「どやかましいっ!ゴールデンアクスで脊髄が叩ききれるほど活を入れられなかっただけ
ましと思えっ!」
「おい…」田中が後ろから呼びかける。
「そりゃましですけど、蹴りだって充分痛すぎる気がしますよぉ!?」
「痛くなかったら活にならんだろうが、もう少し頭を使えすかぽんたん!」
「人を…」しつこく呼びかけ。
「大体活を入れる必要があったんですか!?」
「人が折角助けにきたのにぐーすか寝てたらむかつくでしょが!」
「無視するなぁぁぁぁぁぁっぁぁぁっぁぁぁぁぁっぁぁぁっぁ!」
 ぴたっと二人の動きが止まる。
 田中はようやく相手をしてもらえると気付き笑みを浮かべ、髪を掻き上げた。
「で、お前をここまでしばき倒した奴はどこにいるんです?」
 風見の問いに、美加香はすっと田中を指さす。
 田中はふっふっふ、含み笑いを浮かべた。
「初めまして、かな?風見ひなた君…」
 風見はぽかっと美加香を殴った。
「おい、何もいないじゃないですか!どこにいるんです!?」
「だから、そこに…」
 田中はもう一度髪を掻き上げた。結構気に入ってるポーズらしい。
 風見は首を傾げると、再び美加香を叩いた。
「何もいないって言ってるでしょう!」
「いますってば」
 風見はまじまじと田中を見て、おおっ!と手を叩いた。
「ああ、あの半透明の奴か!一体いつの間に現れたんだ、気が付かなかったぞ!」
「てめえええええええええええええええええええ!」田中は血涙を流しながら絶叫した。
 泣くな、所詮草の世間一般の認識などこんなものだ。
「いや、だがしかしそれは俺が完璧な草って事じゃないのか?うむ、そうだそうに違いな
いアイアムパーッフェクトォォォォ!」
 風見は指を突き出すと自分の頭の横でぐるぐると回した。
 こくこくと美加香が頷く。
「馬鹿扱いすんじゃねええええええ!」
「きっぱりしっかりはっきりすっきりと馬鹿だと思うぞ」と風見が呟いた。
「ええ、くっきりどっきりにょっきりひょっこりと馬鹿ですよね」と美加香が同意する。
 ひくっと田中の額に無数の青筋が広がる。
「貴様らぁぁぁぁぁぁ!絶対に殺すぅぅぅぅぅぅ!」
「ほう…ここにもダークがいたか…」
 その声に、風見ははっとして上を眺めた。
 ハイドラントが腕組みして街路樹の上に立っていた。
「これならいい材料になりそうだ…」そういいつつ一つの石ころを取り出す。
「ハイドラント…貴様、いつからゾンダーになった…」と風見は半眼でつっこんだ。
 それをあえて無視して、ハイドラントは田中に石をぶつける!
「目覚めよ!ダークなる力よっ!」
 田中が吼え、ダークの使徒が覚醒した。

「そんな馬鹿なぁぁぁぁぁ!」
 ぷち。
 あっさりとハイドラントは踏まれた。
「ss使い以外に覚醒をうながすから…」と風見はつっこむ。
 上の方で巨大なロボが雄叫びをあげていた。
 美加香がちらっとこちらを見る。
 いつでもメイプルガンダムは発動可能です…そう言っていた。
 風見はこくっと頷く。
「美加香…」
 逃げるぞっ!
 風見は美加香を連れて全力でその場を離れた。
「えええ!?ひなたさん、戦わないんですかぁ!?」
「誰が戦うかぁ!人間以外と戦っても武道家の誉れになるわきゃないんですから!」
「だって、ひなたさんは学園の秩序を守るエルクゥ同盟のリーダーじゃ…」
 風見はふふっと笑った。
「真打ちは最後に登場するモンです。それに…」
 もっと血の気の多い奴もいますからね。
 美加香が上を見上げると、なんだかとんでもないことになっていた。
「ふはははははははっ!強敵か!?強敵だな!?大義名分があるから大暴れしていいんだ
な!?クィーン・オブ・リズエルの見せ場だぁぁぁぁぁ!」
「学園の危機!直ちに排除します!…ふ、ふふ…」
 ロボといえばお約束のジャザムマシーンとVセリオ。
「きゅぃぃぃぃぃぃぃぃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
 さらにどさくさに紛れて現れた超ペンギソがブレンパワード化した田中と睨み合ってい
た。
「うーむ、ブレンパワードとはまた最新鋭だな〜〜」と風見は頷いた。
「あれって、人間が乗らなくても動きますモンね〜〜」と美加香が笑った。
 丘の上から学園を眺めると、これを機に月島復権運動を叫ぶ太田や楓を求めて暴走する
西山の叫びとそれに乗るマールのどこか諦めたような笑い声、今回はレオタードで登場な
エルクゥユウヤの哄笑やそれに相対するティーナや榊レンジャーのかけ声、図書館から脱
走した地獄の使徒と戦うエーデルハイドや騒ぎの中心でくっくっと笑う久々野、泣き叫ぶ
マルチやそれを追うセリスのお約束メロドラマ、瑞穂を捜してそこら中を火の海にする暴
走・いおりん・岩下、どさくさ紛れに今度はルーティをさらってみるOLH、ずずっとお
茶をすするカレルレン、ひょっこりと超ペンギソの上にいる春夏、薔薇の戦いを繰り広げ
る鈴木とFool、西山を追うEDGE、その他いろいろな狂乱のエッセンスが見られた。
「いやあ、カタストロフですねぇ〜〜〜」と美加香が呟いた。
「全く。どこまで行っても馬鹿は馬鹿以外の何者にも化けられないわけだ…」
 だけど。
「だけど、この学校で暴れられてよかっただろう?」
 美加香は満面に笑みを浮かべると、こくと頷いた。
 不意に、西山の言葉が脳裏に浮かび、美加香は笑った。
「俺の弟子にこれ以上はないってくらいの大馬鹿野郎がいる。お祭り好きで騒ぎが大好き
で傍若無人で破天荒などうしようもない奴だ。だが、俺はあいつが気に入っていてな…ど
うだ、そいつのパートナーになってみないか?後悔はさせないぞ」
 そうですね、西山さん。
 私、今とっても…満ち足りています。
「何笑っているんですか?」と風見が聞いた。
「さあ?でも…この場所が、いつまでもこのままでありますようにって、そう思って胆で
す」
「そうか。僕は…」風見は何か言いかけて、やめた。
 美加香は不思議そうに風見を見る。
「何でもない」
 美加香は風見の横顔を見つめた。

 本当に、このままならいいのに…。          

                           完
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ひなた:というわけで美加香の過去話でした。
みかか:久々野さん、勝手に田中を使ってしまい、済みませんでしたぁ!
ひなた:さて、これで沙織属性が判明したわけです。
みかか:なんで今沙織?
ひなた:いや、ずいぶん前から久々野さんに言われて何とかしようとは思ってたん
    だけど…
みかか:で、こうなったわけですか…大胆なことしますねぇ…
ひなた:積極的にアプローチかけちゃダメって言った人居たか?こんなものやった
    もんがちでしょう?狙ってるなら積極的にやらなきゃ
みかか:でも、それだと崩壊しちゃいませんか?
ひなた:智波さんが以前言ってたけど、なれ合うよりは波乱があった方がいいと思
    うからこうしたの。この抜け駆けに文句のある人は上記のメールアドまで。
みかか:受験生でしょう?
ひなた:うん、あんまり見られないかもしれないけど、返答はします。
    遅くなるけどね。
みかか:やれやれ…
ひなた:さて、弟弟子が出来たことだし…意地悪な兄弟子でも演じますか。
みかか:そのキノコとマスク…まさか、あれを?
ひなた:そう…キャラウェイモード。別名…光いじめモード!
みかか:わーい!楽しみにしててくださいな!
ひなた:じゃあ、久々野さん…もう少し待って下さいな!(ちび設定)
みかか:ではでは〜!
ひなた:出してくれた方々、ありがとうございました〜!