Lファンタジア第二話「美少女魔道士の憂鬱」 投稿者:風見 ひなた
 名剣「一葉」。
 東の果ての国からはるばる海を越えてやってきた伝説の刀鍛冶西山英志が精魂込めて鍛
え上げた当代最高の一品である。
 茜色に燃えるその刃はたとえストーンゴーレムに斬りつけても決して刃こぼれすること
はなく、固い鉄扉をもたやすく切り裂く。
 それどころか掛けられた自己再生魔法は刃こぼれを完全に防ぎ、研ぐ必要をなくしてい
る。
 しなやかなその形状は見る者の心を捉えずにはおかない。
 実用性に富み、美術品としても相当の価値を誇るまさに名剣。
 それが「一葉」である。

「ありあとやんしたー」
 その声と共に出てきた俺を、アヤカは信じられないものを見る目で見つめていた。
 あぐあぐと開く口を必死に閉めようと努力しながら、ふるふると俺の右手を指さしてい
る。
「あ…あんた…売ったのね………」
「結構良い金で売れたぞ」
 あっけらかんと言う俺の顎に、アヤカの強烈なアッパーが決まった。
「この大馬鹿者ぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーっっ!!!」
「げほおっっ!?」
 俺はばきっと武器屋の壁に叩きつけられた。
 アヤカは怒りに震える拳をわなわなと握りしめ、俺の胸ぐらをひっつかんだ。
 あ、泣いてる。
「いきなり何しやがるんだ!?」
「アホかっ!どこの世界に当代随一の名剣を売りさばく勇者がいるっ!」
 俺はふっと笑うと立ち上がり、堂々と胸を張った。
「ここにいるっ!!」
 がすっ!
 あぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ〜〜〜。
 俺はアヤカに無言で愛のチャランボを喰らい呻いた。
「えー、だって俺魔術があるから武器なんて要らないし〜」
「使わなくてももっときなさいよ!あんたアレ作るのにどれだけのドラマがあったと思っ
てんの?」
 そう言うと、いきなりアヤカは自分の両手を合わせて夢見るような目つきになった。
「西山英志がこれを鍛えるために恋人と3ヶ月の逢瀬断ちをし…その間に離れ掛ける心と
心。それでも恋人は一心不乱に女神に祈り続けたわ。そしてふらふらと工房から出てきた
彼を待っていたのは……!!」
 かぴーかぴー。
「寝るなっっ!」
 ごすっ!
 はぎゅうううううううううううううううう。
 俺は下腹を蹴りつけられごろごろと転がった。
「何すんだよぅ暴力女ぁ〜〜〜」
「あんたがいちいち人を怒らしてんのよ!」
 畜生この女いつか覚えてやがれ。
 俺は内心で牙を剥きながらキルサインを繰り出した。
「いいじゃんかよ〜〜貰ったもんは俺のもんだしぃ〜〜」
 本気でそううそぶく俺に、アヤカは思い切り疲れたような表情をした。
 ついに諦めたか。
 ふふふん、俺の勝ちだ。
 え?お前その理論は欧米諸国のビル買い取って伝統ある街の風景を破壊しようとしたバ
ブル期の日本企業と同じだって?
 へっ、それがどうした。世の中ずーずーしい奴が勝つんだよんうけけけけけけけけ。
 アヤカはよろよろと武器屋に入っていく。
「ん?何するんだ?」
 アヤカはがばっと振り返ると噛み付くように言った。
「あんたがうっぱらった一葉を取り返しに行くのよっ!」
 えー?でも、それって………。
「さっき魔道士の姉ちゃんが即売でもってったぞ」
「がびーん」
 アヤカはふらふらとよろめくと、その場に倒れ込んだ。
 ヤワな女だぜ、けっ。

 Lファンタジア第二話「美少女魔道士の憂鬱」

 まぁそんなこんなで俺とアヤカは町中を歩き回っていた。
 このクソ暴力女がどーしてもあのがらくたを返して貰いたがってるから仕方なく心の広
い俺が付き合ってやってるわけだな。
 全くわがままな連れを持つと苦労するぜ。
「……………あんたって奴は……………」
 アヤカはとっても何か言いたそうな顔をしていたが、諦めたらしくぷいっと顔を背けた。
 ふふん、俺に逆らっても無駄と言うことが分かったらしいな。
 L学園で俺に対抗できる奴などひなたんやハイドラントぐらいしかいないぞ!
 …………威張って良いのか、こんなこと?

 うっせええええええええええええええええ!!!!(BY風見&ハイド)

 今またどっかから泣き声が聞こえたよーなきもするが、幻聴だな。
「んで、どうすりゃいいんだ?歩き回ってても仕方ないぞ」
「そーねー。まぁ取り合えず盗賊ギルドか情報屋に当たってみるのが一番ね。とりあえず
あたしは情報屋に回るから、あんたは盗賊ギルドに……」
 言いかけるアヤカに、俺はにっこりと笑いながら呟いた。
「盗賊ってのは勇者様に上前跳ねられるためにいるカネヅルのことだよな☆」
 ひきっとアヤカの動きが止まる。
 しばらく何か考えるようにしゃがみ込んだ挙げ句、立ち上がってぽんと俺の肩を叩いた。
「やっぱり情報屋に……」
「俺は勇者様だから情報出し渋るようなら殴り殺して良いんだよな」
 ぐわしっとアヤカは俺の両肩を掴んだ。
 ぎりぎりと力を込めながらアヤカは泣いて頼んだ。
「お願い何もせずただただ宿屋で惰眠を貪ってて!」
 はっはっは、言い方はすっげー気になるけど良きに計らえ軟弱者☆
 これしきのジョークも解さないよーな馬鹿はこき使われても文句は言えねーんだ分かっ
たか劣等文化社会人☆
 おっと、またやばいことを言ってしまった。
 発展途上文化社会人だな。日本語は正しく使わねばならん。
 ………そーいやこの世界、よく日本語が通じるよな。
「わーーっわーーっ、そのツッコミは駄目ぇっ!!」
 途端にアヤカはわたわたと手をあわただしく動かした。
 全く人の考えを読むなというのに。
「いいから大人しくしててね?いい?何もするんじゃないわよ?」
 ちっ、ガキにしつけてんじゃねーんだ、何回繰り返してやがる。
 ………待てよ?
 もしここでそれでも事件起こしたら、俺ってば幼児以下?
「………………………………………」
「どーしたの?」
「あ、いや…………大人しくしてるよ」
 ちょっと嫌な考えになってしまったので、俺は大人しく言うことを聞くことにした。

 宿屋に向かう途中で道の真ん中をごっつい連中が塞いでいた。
 邪魔だな。
 俺は勇者なので一般ピープルは蹴散らしていいに違いない。
 ずかずかと連中に近付いて行くと、中の一人が俺を指さした。
「いたぞ、浮気勇者智波だ!」
「なにっ!?うむ、手配書どうりだ!」
「アヤカがいねーぞ?」
「大方別行動してんだろうよ!」
 四人のでっけー肉の塊はわらわらと俺の前に立った。
 くうっ、夏場に筋肉質通り越した身体見せつけんじゃねーよ暑っ苦しい奴らめ。
「浮気勇者智波!一緒に来て貰おうか!」
 むっかー。むかむかむかー。
 俺は迷わず右手を突き出して叫んでいた。
「我は放つあかりの白刃!」
 ちゅごっ!!
 とりあえず一人顔面灼いてから、俺はその頭をぐりぐりと踏みにじった。
「いきなり出てきて人を浮気浮気呼ぶな筋肉達磨が!」
 ふっふっふ、我ながら悪党ポーズだ。
 ひなたんがいつもやってる事の真似なんだけどね。
 残った三人の連中はびくっと竦み上がり、俺を恐ろしげに睨み付けた。
「い、いきなり撃ちやがったぞ!」
「決闘前は攻撃の意志を相手に伝えることってルールをしらねーのか!?」
 笑止千万!
「てめーら冒険者だって名乗らなかったじゃねーか……」
『あっ』
 ……馬鹿だ、こいつら。
 そう思いながら、俺は別のことを考えていた。
「なぁ…ってことは、相手に攻撃の意志を伝えさえすれば何しても良いんだよな☆」
『へっ?』
 すぅーーーーーーっ。
「我は放つあかりの白刃我掲げるはセバスの拳悪焼き尽くせソドムの炎!!!」
 推定150MP消費。

 ちよっと………やりすぎたかなぁ。
 なんか跡形も残ってないし。
 まっ、生きてるだろきっと。
 そう思って立ち去りかけた俺の服の裾をむんずと何者かが掴んだ。
 ちなみに俺の服は未だに学生服である。まぁいいけど。
 勇者ルックとか言って流行るかな?
 いやんなことはいい、とりあえずこいつだ。
 俺の服を掴んでいたのは黒ローブを頭から着込んだ怪しい奴だった。
「ううっ、お願いですお力をお貸し下さい〜〜」
「な、何だお前っ!?」
 いきなり魔術を撃ってやりたくなったが町中なので自制する。
 さっきあんだけやったけどな。
「な、何を手伝えっていうんだ!?」
「ま……魔法の実験に……」
 パス!
 冗談じゃない!魔法の実験は芹香様の実験でもうこりごりなんだよ!
「おっさん、悪いけど………」
「あぅ〜、お願いです〜!引き受けてくれないと俺はこの場で首かっきって死にます!」
「んじゃ死ねば?」
 …………ひきっと男の身体が固まる。
 へっへーん、悪いけど俺も作者も自殺するとか言って騒ぐ奴は大嫌いなんだよーん。
 男はがくっと首をおろすと、陰鬱に笑い始めた。
「そうですか……仕方ないですよね……ふふ、ふふふふっ」
 こええ。怖いぞこのおっさん!
 って、よく見りゃフードの中はまだ若いな。
 どーも16、7に………!?
「あーーーーーっ!?」
 俺は思わず指さして叫んでいた。
「てめえ、OLH!?」
「えっ!?何故俺の名を!?」
 まずい、こいつがいるってことは………。
 むんずと何かが俺のズボンの裾を引っ張った。
 笛音がうるうるとした眼でこちらを見つめている。
 う………ううっ。
 弱いよなぁ、こういう眼は。
「ちっ……しょーがない、話だけなら聞いてやる!」
 んで、結局引き受けることになるんだろーなー。

 OLHはことんと机の上に瓶を置いた。
 ピンク色の怪しい液体が入っている。
 ううっ、呑みたくない色だ。
「これをある方に呑ませていただきたいのです……」
 OLHは黒いローブを羽織ったまま言った。
 うーん、学園で見るとそうでもないが暗い部屋の中ローソク一本の状況で見ると邪悪な
までに怪しい奴。
 いや、そんなこと言ってる場合じゃなかったよな。
「俺に暗殺の手伝いしろってのか?悪いが俺は勇者だぜ?」
 だがOLHは眼をぎょっと見開いてわたわたと手を振った。
「と、とんでもない!これは……惚れ薬です」
 ほれぐすりだぁ?
 はっはーん。なるほどね。
 俺は剣呑な眼をして訊いた。
「この世界の女神様ってのは純愛の女神だろ?いいのかよ、惚れ薬で無理矢理モノにしち
ゃって?許されるのか?」
 だが、OLHはがばっと俺の肩を掴んで血走った目で睨み付けてきた。
 怖い、こいつひたすらに怖いぞっ!?
「俺のこの思いは純粋なものっ!手段はどうあれ俺のこの気持ちに一片の嘘偽りはないっ!」
 その迫力に負け俺はただひたすらに頷いていた。
 うーん、恋で前が見えなくなってる男は恐ろしいな。
 俺もこんな感じか?やだやだ。
「だけど、惚れ薬使わなきゃ無理なほどその娘はあんたを嫌ってるんだろ?それとくっつ
いて彼女幸せなのか?」
 だがOLHは哀しそうにふるふると首を振った。
「いえ、まだ彼女に告白したことすら………」
 …………おい。
「順序が違うぞ!?普通は断られてから強硬手段に踏み切るだろう!?」
「そ……そんな勇気俺にはありませんっ☆」
 て、てめえは少女漫画の根性ない腑抜けヒロインかっ。
 可愛くねえぞ、いっとくけど。
「実は彼女も魔道士なんです。ホムンクルスの実験でこの子を作った実験からの片思いな
のですが……」
 そう言ってOLHは笛音を抱き上げた。
「彼女、全く隙がないんです!」
 誰の事を言ってるのか、大体分かった。
 念のためいっとくがOLH、お前良くあんな根暗女に恋できるな?

 芹香様だって暗さじゃ五十歩百歩じゃねーか………。

 おいこらあっ!今そこでたわごとほざきやがった読者A!
 今すぐぶち殺してやるからここに降りてきやがれ!
「あ…あの、どなたに怒ってらっしゃるので?」
「いや、別に……」
 ちっ、命拾いしたな読者A。
 笛音が脅えてるからなかったことにしてやろう。
「それに、あなたはお強い。あなたなら彼女の守護霊にも負けないでしょう」
 守護霊………?ああ、なるほど、アレね。
 俺はひょいと惚れ薬の瓶をポケットに入れた。
「んで、俺への報酬は?」
「ヨークのタリスマンなんてどうでしょう?」
 OLHは机の上に青い水晶のようなモノをおいた。
「これは魔術の破壊力を飛躍的に高めてくれるアイテムですよ。魔術が使えない俺には意
味のないアイテムですからね………結構凄いものなんですよ?」
 言われなくても分かる。こんな凄いモノ学園の購買部にすらなかったぞ!
「本当にもらっていいのか?」
「成功報酬ですが」
 うっ………。
 欲しい、確かにこれは喉から手が出るほど欲しいぞ。
 俺にとってはあんながらくた剣よりもこっちの方が100倍役に立つ。
 うーん、何とかして先にもらえないかなー。
 いや、もちろんまともに仕事すればいいだけの話だけどさ。
 仕方ない、たまには堅実にやるか。
 俺は席を立つと、つかつかと部屋を出た。
 全く薬の保管上の問題かどうだかしらんが陰気なことだ。
「受けた。……タリスマン磨いて待ってな」
 OLHの研究所を出たとき、ぐいっと何かに再びズボンを引っ張られた。
 黒いローブのちびが取りすがっている。
「何だ?」
 笛音は袖口からさっと緑色の液体の入った小瓶を取り出した。
「こっちの方を呑ませて欲しいの」
「なんだ、これ?」
「反惚れ薬」
 え?それって……。
 惚れ薬は確か薬に魔法を掛けて術者を好きになるようにさせるモノだ。
 その反対って事は嫌いになるって事か?
「OLHお兄ちゃんは私のものなの。ママには渡したくないの」
 その眼を見てしまって、俺はぞくっときた。
 眼の中に青白い嫉妬の火がめらめらと燃えている。
 こんな小さいガキでも好きな男のためなら他人を引きずり落とすことを厭わない。
 怖いね、女って。
「だから、ね。こっちをママに呑ませて。ちゃんとタリスマンはあげるから。……約束よ」
 俺は思わず頷いていた。
 これがティーンの少女だったら俺は先にタリスマンを要求しただろう。
 だけど、俺は年端の行かない少女がこんな行動に走ったことに呑まれて、思わずそんな
手口すら忘れていた。


「勝てると思ったの?」アヤカはふっと息を吐いた。
「あなたの腕じゃまだまだあたしには勝てないわね」
 その向こうで地に這いつくばった剣士がよろよろと起きあがろうとする。
「ま……待て。俺は……っ」
 がくりと男は倒れた。
「ハルカ、もっと腕を磨いてから来なさいな」
 そう呟くと、アヤカは反対側に走り出した。
 その手には手配書が握られている。
(やられたわ……よりにもよって、120万アクアですって!?ハイドラントめっ)
 智波が心配だ。
 あれで結構強いようだから負けることはないだろうが……。
 いくら何でも数が多ければ危ないだろう。
(急がなくちゃ……)


 ここだな?
 俺は一件の店の前で立ち止まった。
『占い&魔術研究』
 ふん………兼業か。
 俺はゆっくりと中に入っていった。
 その途端。
「あっ、お客さんがバナナの皮にすっころんで金だらいに頭ぶつけた挙げ句鏡に頭から突
っ込む予知がっ!」
 つるがんがしゃああああああああん!
 ……………………………………………………………………。
「なんじゃいきなりーーーっ!!!!!!」
 俺は血をぶしゅーーーっと吹き出させながら立ち上がった。
「ああっ、すみません私ったらまたつい要らない予言を……」
 琴音は恐縮してぺこぺこと頭を下げた。
 ………鏡はともかくなんでバナナの皮と金だらいがこんなところに?
 くそっ、やっぱろくな事がないぞ疫病神め。
 俺は手早く用件を済ませることにした。
 ポケットの中に入っていた薬を……薬を。
「げっ、割れてるっ!?」
 あろうことか、二人に貰った瓶はどちらも木っ端微塵に砕けていた。
 もちろん中身はパアだ。
 しまった………もっかい貰ってくるか?
 そう考えて、俺は待てよ、と反論した。
 あんな大ボケ魔道士に手にはいるのならそんなに貴重じゃないのかも知れない。
 ここはこいつに詰め寄って慰謝料払わせて買った方が得かな……。
 ん……その前にちょっと待てよ?
 俺は気になったことを訊いてみた。
「しかしいいのか?この世界じゃ予言ってのは神様の宣託だろう?一介の魔道士風情が予
言なんて大それた真似して良いのか?」
 ぴきっと琴音の顔がひきつった。
 そして、突然がくがくと震え出す。
 びしいっ!と指を突きつけ、蒼白な表情で彼女は言った。
「あなた、ただ者ではありませんねっ!?」
「いや、勇者だけど……」
 それを聞いて、さらに彼女は強ばった顔つきになった。
「まさか私が女神信仰に相対する魔道士教会の宣教師であると気付くとは、さすが勇者を
箋称するだけはありますね!」
「気付くも何もそんなもんしらんっ!」
 だが彼女は俺の話なんて聞いちゃいなかった。
 紫色のローブを纏ったまま、悪の魔道士独特の独りよがりモードに突入する。
「知られたからには生かしては返せません!」
「だーーっ、タンマタンマ!」
 俺は両手を上げて彼女を遮った。
 不審そうに彼女は俺を見る。
「俺は何も聞かなかった。君が何であろうと俺の知ったこっちゃない。そもそも俺は君に
なんて出会わなかったし、魔道士教会とやらにちょっかいを掛けない。それでいいだろう?」
「え……まぁ、そういうことなら」
 商談成立。
 俺はにこやかに手を挙げると、微笑んだ。
「じゃあさようなら、二度と会うことはないと思うけど」
「はい、じゃあ道中お気をつけて〜」
 ………………………………………………………………………………。
「なーんて言うかっ!」
「わ、我は防ぐ瑠璃の盾ぇぇぇぇぇ!!!!」
 俺の生み出した防御壁はかろうじて琴音の攻撃を防いだ。
 ちぇっ、と琴音は舌打ちする。
「あ、あのなぁお前……いきなり背中から撃ってくるかぁ!?」
「勇者なんて存在はそれだけで見逃すわけには行かないんです!」
 可愛いツラしてとんでもねえ女だ。
 OLH……断言しても良いが、やっぱお前女の趣味悪いわ。
 俺がやむなく戦闘に移ろうとしたとき、ばぁん!とドアが蹴破られた。
「智波、やっぱりここにいたのね!なんだかんだ言ってやることやるじゃない、ちょっと
だけ見直したわ!」
 アヤカ!
 よーし、こいつが居てくれれば怖い者無しだ!
 と、そのときアヤカを見て琴音が再び顔色を変えた。
「あ、あなたアヤカ・クルスガワ!?」
「……そういうあなたは邪教の宣教師、姫川琴音!?」
「邪教じゃないですっ!」
 俺はアヤカを見て、説明を求めた。
 ごくっと唾を呑み、アヤカは真剣な顔で言う。
「奴等は魔術師教会……女神信仰に反発し、魔法こそが世界の法則と主張するカルト教団
よ」
 やっぱどの世界にも宗教団体ってのは複数いるんだなぁ。
 そりゃそうだよなぁ、宗教って儲かるもんなぁ。
 俺だってカリスマがあったらもっともらしいご託並べて金がっぽがっぽ儲けて美人のね
ーちゃんはべら………ごほん、もとい俺は芹香様一筋だからな、そんなことはしないぞ、
うん。
「………勇者さん、あなた今ものすごく失礼なこと考えませんでした?」
「………あたしも宗教の巫女階級である以上無礼すぎる発言を見逃すわけには行かないん
だけど」
 あっ、険悪な眼でこっち見てる。
 やだなぁ、ただ宗教なんかに引っかかる奴は(危険すぎるので削除)って思っただけな
のに。
『じゅーぶん悪いわっ!』
 二人の息の合った魔術が俺にヒットした。
 …………いてぇぞ、凄く。
 どうでもいいが俺の考えばっかり読むなよなー。プライバシー侵害だぞ。
「有名人にプライバシーなんてないのよ」
「この場合意味が違うと……」
 漫才する俺とアヤカに、琴音が切れた。
「あなた達、いい加減にしてくださいっ!!」
 じゃきーん!と側にあった刀を引き抜く。
 って、あの茜色の刃は………。
「い……一葉?」
「…………………まさか。知らずに入って…………ううん、まさかね」
 アヤカ。実はその通りだ。
 うーん、言われて見ればあれは琴音だ。
 フード被っててわからんかったが。
「はぁぁぁぁぁぁああっ、必殺……夢想楓!」
 叫んで琴音が刀を振ると、無数の細かい茜色の刃が俺に向かって飛んだ。
「我は防ぐ瑠璃の盾!」
 咄嗟にガードしたが、振り向くと壁のあちこちがさっくりとえぐられていた。
「あ、アヤカ!なんだよありゃあっ!?」
「必殺技よ!名剣は魔術を上乗せして超威力の必殺技を撃てるのよ!」
 き、聞いてねぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!!
「アヤカそんなこと一言も言わなかったじゃないか!?」
「自分で気付くまで待ってたのよ!全く、言う前に売っちゃって!」
 いやーん、運命の皮肉って感じっす〜〜〜〜!
 別称後悔先に立たず〜〜〜〜!
「とにかく優秀な魔道士が名剣持ったら手に負えないわ!逃げるわよ!」
 そう言って、アヤカはひょいと跳んだ。
 って、アヤカ、そっちは……………!?
「焼きが回りましたねアヤカさん!必殺、夢想楓!」
 琴音の幾多の斬撃がアヤカを襲う!
 だが、アヤカはにやっと笑うと素早く身を伏せた。
 攻撃は素通りしてアヤカの背後の壁を切り刻み………。
 中世の建築って、柱が木材なんだよな。
 大黒柱ってかなり太いけど、所詮はやっぱり木なんだよ。
 めきめきと強度を失った柱が倒れかかり……。
「逃げるわよ智波!」
「お、おうっ!」
「ちょ、ちょっと待って〜〜置いてかないでぇ〜〜〜!!!」
 うっ…………。
 俺はちょっと迷った。
 このままこいつを見捨てていくのは簡単だが……助けたらあとで何かせしめられるかも。
「アヤカ、先に行け!」
「智波!?」
 俺は素早く琴音に覆い被さると、驚く琴音の耳元に囁きかけた。
「あとで謝礼はいただくからな」
 埃っぽい空気の中、すーーーっと息を吸い込む。
「遠き七教会に届け伝令!」
 同時に俺達の上に屋根が落ちてきて、周囲は真っ暗になった。

 ててて………重いな。
 衝撃は防いだものの………。
「智波……智波〜〜〜〜!!」
 アヤカの声が聞こえる。
 がんっ!という音と共に俺達の上に被さっていた屋根が蹴り飛ばされる。
「智波っ!」
「おう、アヤカ。どうも今日は暗いのと縁があるなぁ」
 俺は安堵するアヤカの前で照れ笑いを浮かべると、残骸の海から身を起こした。
 うーむ、なんつーかすっきりしたな。
 建物なんてもろいモノなんだねぇ。
 俺は妙な感慨を覚えながら琴音を引っぱり出した。
 アヤカの顔が嫌悪に歪む。
「あんたなんでこんな娘助けたの?この娘、敵よ、敵!」
「いや、なんか貰えるかなーって思って」
「何かも何も見なさいよ、これ」
 アヤカの言うとおり、周囲は建物だったものの残骸に覆われている。
 うーむ、こりゃマジックアイテムあっても潰れてるだろーなー。
 ちょっと浅慮だったか。まぁいいや、命はあったしな。
「いえ、あげるものはあります!」
 そんな声がした。
 振り返ると、琴音が俺の後ろに座っていた。
 な、なんか心持ち顔がほんのり赤いような気がするんだが?
 ……………………………………………超絶ヤな予感。
「私、勇者さんの優しさに……あの、勇者さん、私をあげますっ!もらってくれますか!?」
 …………俺、石化。
「なーにいってんのよあんたはっ!勇者は女神の予言に従ってるのよ!?あんたは女神の
存在を真っ向から否定してんでしょうが!」アヤカが鼻息荒く琴音に詰め寄った。
 だが琴音はそっぽを向いてつんとした顔で反論する。
「だから、勇者さんには勇者を辞めていただくんです」
「はぁ?」
 アヤカは間の抜けた顔で琴音を見返した。
 琴音はうっとりと手を組むと、空の彼方を見た。
「こんなに素晴らしい魔術能力を持ちながら魔道士教会に所属しないなんて世界の損失で
す!私、世界のために勇者さんを改心させてきっと二人で邪教を打倒して見せますっ!」
「勝手なこと言わないでよっ!大体誰が邪教よっ!」
「女神信仰」
「あんたねぇ……」
 アヤカは失礼にも俺を指さして、言った。
「この男は称号こそ勇者だけど傲岸不遜、傍若無人、外道極悪な鬼畜野郎よ!いわば人間
の屑!金の亡者!超即物的自己中心主義者!人道の風上にも置けないのよ!」
 その言葉はひなたんかハイドに送ってやってくれ。
 きっと喜ぶから。

 帰ってきたらてめえどつき殺すっっ!!(BY風見&ハイド)

「勇者さんは優しい人ですから……照れてるだけです!」
「あんたって奴はぁ〜〜!」
「とゆうわけでこれからは私が付いていって勇者さんを改心させますのであなたは帰って
下さい。しっしっ」
「勝手なことばっかり言うなぁぁ〜っ!」
 石化から解けた俺がどうしてたかってゆーと、ぼんやりと空の彼方を見つめていた。
 ぼつりと誰かに向かって話しかける。
「大人しい娘って……好きになったらとびっきり大胆になるって本当なんだね……」
 女神様女神様、教えて下さい。
 これは……純愛ですか?

「ばっちりぐっ☆」(BY愛の女神)


 言い争う二人を見つめる二組の眼があった。
「ち、ちくしょぉぉぉぉ!あの野郎、殺す!殺してやるからなぁぁ!!」
 OLHは泣きながら復讐を誓っていた。
 その足下では笛音がお祈りしていた。
(神様神様、どうかあの二人を永遠に結びつけてお兄ちゃんとの邪魔をしないようにして
下さい)


「う……うう………」
 ハルカはひくひくと手足を痙攣させていた。
「こ……こんなにあっさりぃぃぃ………」
 ぶみっ!
「ぎゃぁぁっ!?」
 ハルカは誰かに踏まれて叫び声を上げた。
 踏んだ奴は気障っぽい口調で話しかける。
「おっと君、失礼。大丈夫かな?」
「大丈夫じゃねえだろこの……」
 男をはね除けて文句を言いかけたハルカの声がぴたっと止まる。
「お前……カレル!?恋愛勇者カレルか!?」
「そう言う君は剣士のゆーさ……」
 ハルカの怒りの拳がカレルの顔面を強打していた。
 ぽたぽたと拳から血を流しながらハルカは怒りを抑えて聞く。
「………誰が『ゆーさく』だ?」
「ふっははは、ふまんふまんはふふぁふぁじめふんふぁっふぁね」
「何語だ?」
 カレルレンは美形特殊能力「顔面修復」を使い、一瞬で元の美男子顔に戻った。
「久しぶりだね、ハルカ君。お姉さんは元気かな?」
「今日も元気に女神様に仕えてるよ。それより……何だ、その傷?」
 カレルレンの白いマントはズタボロに千切れていた。
「君こそ」
 ハルカのホワイトローブも真っ黒に煤け、泥だらけだ。
 黙り込む二人の間を、かさかさと紙切れが飛んでいった。
 それは勇者達の手配書で……。
 思わず二人の拳がきつく握られ「アヤカ……」という呟きが漏れた。
 そしてふたりはお互いに右手を出す。
「あはははっっっっっっ」
「あっはっはっはっはっ」
 ここに、世界屈指の剣士と勇者の共同戦線が組まれたのであった。


「ねー、勇者はまだこないのー?」
 魔王の呟きに、四天王の一人ヤヨイは敬礼を持って答えた。
「はっ、今朝幹部長閣下が手配書を全世界に発布したばかりです。捕獲には後しばらくか
かるかと」
「ふーん」
 魔王は玉座に腰掛けたままで足をぶらぶらと動かした。
 暗闇の中に黄金の光だけが二つ光っていた。
「ところでよろしいのですか?120万アクアなど……軍予算の三分の一ではありません
か」
「いーのいーの。こんなイベント300年に一度もないんだし」
 魔王はそれだけ言うと、くたっと玉座に倒れ込んだ。
 横の座椅子に座っている少女の頭を撫でてから、魔王はついっと手を動かした。
 下がってよし。
 ヤヨイは敬礼すると、魔王の間から退出して行く。
 魔王は欠伸すると、紗(うすぎぬ)を纏った少女を膝の上に載せる。
「早く勇者来ないかなー。むらさきと遊ぶのも飽きて来ちゃったよ」
「魔王様は……むらさきと遊ぶの……イヤですか?」
 くすっと笑うと、魔王はその顎をついっと引き上げる。
「まさか。むらさきはこんなに可愛いのに」
 甘えた子猫のような声を出して、むらさきは魔王の唇をうっとりとした瞳で貪った。
 だが魔王の黄金の瞳は違う方向へ輝いたままだ。
(勇者と遊ぶのも……勇者を捕獲できるような奴と遊ぶのも楽しみだわ。あの馬鹿王もま
だここには来ないようだし、魔道士教会のあいつも力を温存してる。西山は庵から出てく
る気もないようだし……)
 むらさきの甘えた声が闇に響く。
「魔王様ぁ、むらさきを嫌いにならないでね。むらさきは魔王様好きだよ」
 苦笑して、魔王はその名の通り闇の中で紫色に輝く頭を撫でてやる。
(異世界から来た勇者……か。姫を助ける能力なくば……所詮期待はずれってことね)
 魔王はくくっと笑い………。
 そして謁見の間は闇色に堕ちた。

 客観気分でラブラブモードを楽しんでる場合じゃないぞ!
 なんだか敵はたくさんいそうだ!
 はたしておちゃらけ気分で良いのか智波!?
 敵はマジだ!余すところなく、マジだぞっ!?
 気合いを入れろ、浮気勇者智波っ!!!

            だから続く保証はないっ!!!

智波 勇者  武器:素手  防具:学生服(ブレザー)
LV2
HP500
MP500

アヤカ 武闘巫女  武器:マジックグローブ  防具:女神のローブ
LV45
HP750
MP600
WP200

琴音 魔道士  武器:名刀「一葉」  防具:マジックローブ
LV20
HP300
MP500
WP100

OLH 魔道士  武器:フレアロッド  防具:アブない黒衣
LV30
HP400
MP550
WP0