男子一度門を出づれば七人の敵有りっ! 敵とは己の進む道を阻む者の事を言う! しかしてその種類はまさに多種多様多岐に渡るっっ! 人生で幾度も渡り合う者を宿敵と呼ぶっ! 互いに力を示し共に高みに向かう者を好敵手と呼ぶっ! そしてっ、人生において決して勝てない強敵のことを天敵と呼ぶぅぅっっ!! 僕が結局の所何が言いたいのかという事はまさにこの一点に集約されるっっ! つまりっ……………! 「もうっ、ひなたちゃんったら照れちゃって可愛いっ!」 「ぜぇったいぜつめぇぇぇ!!!!」 前回までのあらすじ!! 親友のために新たなる設定を作り出した風見ひなた! だがよかれと思ってのその行動は却って友の怒りを買ってしまったのであった! 何たる運命の皮肉か、その男やーみぃは奸計を張り巡らし風見の天敵たる四季にその身 柄を引き渡してしまったのであった! 今、風見が己の命と貞操を掛けて動き出す………。 すすめ、風見!史上最悪の魔手から逃げるのだ! 「……ってな具合にナレーション入れたくなるくらい大ピンチィィィ!!」 風見が絶叫すると、その襟首を捕まえていた四季がにっこりと笑った。 「ひなたちゃん、そろそろ観念してね☆」 その微笑みに風見はとびきり危険を感じて総毛立った。 危機である。そう、いろんな意味で…! 四季の笑みは客観的には決して不快ではない。むしろ魅力的ですらある。 だが風見はそれが怖いのだ。何故なら、四季は男だから! 実際には四季は女性型強化人間である。身も心もれっきとした女性だ。ただ単に内部に 男性型である春夏の人格とボディを内蔵しているに過ぎない。 それでも風見は四季が苦手である。男性に可変する時点で駄目なのである。自分も似た ような者のくせに、敵なのである。 そして四季の笑顔は男の笑顔としか思えないのだった。 風見が受け取っていい男の笑顔は熱い闘いの後の友情の笑顔のみ! (それ以外は………敵だぁぁぁ!!) 必死に身体に絡められた縄をほどこうとするが、上手くほどけない。 迫り来る恐怖と焦りの中で風見は必死にこの状況から逃げる手段を考えていた。 隙をついて逃げるとしよう。だが、その後どうする? はっきり言って四季のスピードは並ではない。風見もスピードには自信があるが、生憎 持久力がない。疲れ知らずの四季から逃げ切れるわけもなかった。 しかしこのまま捕まっていてはいずれ喰われてしまう。それだけは絶対に避けねばなら ない。男の相手だけは絶対にしたくない。 どうする?どうすればいい? 決まっている、逃げる方法は一つしかないのだ。 もしもサバンナで猛獣に襲われたなら、もっともよい逃げ方は何だろうか?必死に走る こと?応戦すること?説得すること?……馬鹿げている。全部死に至る手段ばかりだ。 答えは一つしかないのだ。 (自分よりももっと美味しく、もっと捕まえやすい餌を囮に使って逃げればいい…!) 風見はごくっと唾を飲んだ。 果たして、そんなことが許されるのか?それが正しい人の行動か? もちろん…… (もちろんいいに決まってんじゃないかっ!) 風見は断言した。当然である。 他人が死んだところで痛くも痒くもないが、自分が死んだら主観的な世界が終わっちま うだろうが!所詮人間は自分一人可愛いんだよっ!! どこぞの浮気勇者のような事を考えながら風見はそっと腕のロープを摺り合わせた。 密かにナイフで傷を付けて置いた手首のロープは簡単に千切れる。 あとは隙を見つけるだけだ……。 「ねえ、四季さん?」 風見は出来るだけ中学時代のようなショタが入ったあどけない笑顔を作った。 間髪入れず四季が振り向く。 「なぁに、ひなたちゃん♪」 その笑顔にちょっとだけ風見は罪悪感を覚えた。 (根は悪い人じゃないんだけどねぇ……) ま、枝葉が悪い人だしいっかぁ♪ 「あのー、ちょっと縄が食い込んで痛いんですけどぉ……」 「大丈夫よ、もうすぐほどいたげるから☆」 この場合の『もうすぐ』とは相手の目的地に着いたら、という意味である。 「四季さん、でも痛いどころか腕に感覚がなくなってきたよ。このままじゃ鬱血して壊死 を起こしちゃうと思うなぁ………腕が落ちるの………やだなぁ………」 これはなるたけ同情を引くように弱々しく言ってみた。 案の定、四季が心配そうに腕に抱えた風見を見下ろす。 「そ…そう?じゃあ腕だけ緩めようかなぁ……」 ちゃーーんす! 風見は四季が手を緩めた隙に地面に転がると、腕の縄を引きちぎった。 呆気にとられる四季の顔面に、予め携帯しておいた癇癪玉を投げつける。 「きゃっ!?」 「ごめんねっ!」 そう叫ぶと風見はめくらましが効いているうちに猛烈なダッシュをかけ始めた。 もちろん足も縛られているので跳ねて進むしかないが、ある程度は逃げられるという自 信があった。 何故なら、あの癇癪玉の中身は少量の火薬と催涙ガスだったからである。 風見はすぐ側の男子トイレに駆け込むと素早く足の縄を切り、自由の身になった。 (いや……自由、というのはまだ早いかも知れないな。なにせ……) 突然だだだだだだだだ!という足音が聞こえたと思ったら、勢いよくトイレの壁がぶち 破られた! 「ひなたちゃーーーん、逃げちゃだめぇぇぇ!!」 「まだ逃げ切ったわけじゃないからなぁっ!」 壁を破壊して突撃してくる四季をサイドステップで素早くかわすと、風見はそのまま出 口に向かって走り出す!後方からさらに何か大質量の物が壁にぶつかる音がしたが、構っ てはいられない!壁は生きてないが自分は『とりあえずまだ』生きているのだから! 四季の立ち直りは早い。ドアを走り抜けた瞬間、後ろの方で再び風見の名を呼ぶ声が聞 こえた。 (化け物め…………) 風見は一応人間である。壁を殴って走り続けるなんて真似は残念ながら「今は」出来な い。つまり、あっちの方が圧倒的に有利なのだ。 何故だか知らないが今日はやけに自分にご執心で、ちょっとやそっとでは諦めてくれそ うにない。ここは心を鬼にして足止め役を見つけるしかないのだ。 「てなわけでとりあえずごめんねゆきちゃんっ!」 「なにいいいいいっ!?」 そこらを歩いていたゆきにでかはんまーで一撃を喰らわすと迷わず後方へと放り投げる! わずかに遅れて血を吐くような絶叫が迸るが気にしない! (ごめんねゆきちゃん!君の尊い犠牲は決して無駄にしないよ!) だだだだだだだだだだだだだだっ……………。ぴたっ。だだだだだだだだだだだっ……。 「ひなたちゃん待ってーーーっ!!」 「ちっ、ゆきちゃんじゃ役不足か!」 ひでえ。 風見は全力疾走しながらもそこらをぶらついている一般生徒達を次々に後方へと投げ飛 ばして行く。 だが、今度は足音の止まる音は全く聞こえずただただばきょ!だのぼきっ!だのと何か が潰れたり折れたりする音が聞こえるばかりであった。 「見くびって貰っちゃこまるわね!私はこんな有象無象では満足しないわ!」 「贅沢な奴……!」 風見は舌打ちすると、走りながらもごそごそと袖口から小さなボールを取り出した。 ひょいと地面に転がすとたちまち変形して、無数のガス噴出口を露にした。 言うに及ばずの催涙ガスボールである。この手の小道具は潤沢に用意してある。 後方でぶしゅーーーっ!という音がして、風見は内心しめたと思った。 だが、それだけだ。足音は未だに弱まらない………。 「何でっ!?」 振り向いた風見が見たのは、催涙ガスの壁から元気よく走り寄ってくる四季の姿であっ た。全くぴんぴんしている。 「うふふふふ、お・ば・か・さん!戦闘用強化人間にガス分解機能が装備してないはずな いでしょ!」 「あ……そっか……」 呟きながらも、風見はさほど余裕を崩した風もない。 これが効かないということは、より強烈な攻撃を喰らって貰うことになるのだから。 風見は問答無用で粘着剤の付いた小型爆弾を四季に向かって投げつけると、素早くスイ ッチに手を伸ばす。 「くらえっ!冷血グレネード!」 美加香が居なくても使える数少ない必殺技が炸裂した。 廊下という左右がふさがれた空間に置いては爆薬の効果は数倍に高められる! 曲がり角に入り込んで爆風をやり過ごした風見はふうっとため息をついた。 なんとか………倒せたようだな………。 「いたいの」 風見の背中がぴんっと跳ね上がった。 振り返りたくない振り返りたくない振り返りたくない振り返りたくない振り返りたくな い振り返りたくない振り返りたくない振り返りたくない振り返りたくない振り返りたくな い振り返りたくない振り返りたくない振り返りたくない振り返りたくない…。 それでもゆっくりと背後を省みれば、煤だらけになった四季が案外元気そうに立ってい た。顎の下に両手を持ってきて、目をウルウルさせている。 「とっっっっっっってもいたかったの」 そう言いながら、ふるふると小さく首を振る。 可愛い。この仕草は可愛すぎる。……この女が、強化人間でないのならば。 風見は青ざめた顔で一歩、二歩と後じさる。 四季はそれと同時に一歩、二歩にじりよる。 「でも、それでも許しちゃうのは……」 ぽっと四季の頬が紅く染まった。 「ひなたちゃんを愛してるカ・ラ☆」 その瞬間………風見は絶叫をあげて逃げ出した。 イヤダ、イヤダ、イヤダ、イヤダ、イヤダ、イヤダ、イヤダ、イヤだ……! 「ひなたちゃーーーん!待ってーーーっ!」 「絶対にいやだぁぁぁぁーーーーーーーっっ!!!!」 ぼたぼたと涙が慣性の法則に従って放物線を描きながら後方へと落下して行く。 さらにその後ろからは四季が相変わらずの元気さで迫ってくる! (冗談じゃない、あの爆弾はSS使いを一撃で倒すための特別製だぞ……!?) 風見は生命を脅かされる恐怖と未知なる者への脅威にさらされながら逃げまどう。 はっきり言ってあの頑丈さは反則的ですらある。 (美加香並だな、奴のしぶとさは……) そうだ……美加香だ。 パートナーがいればたとえ強化人間といえど対抗できるかも知れない。 頭の中で捜索対象を二人に拡げながら、一縷の希望を求めて風見は逃げて行く。 まずい……追いつかれる……。 風見はぞくぞくと悪寒を背筋に感じつつ必死に走る。 ふと、目の前の廊下の角に見知った少年の顔が見えた。 「OLH!」 そう叫びながら、風見は親しげに娘婿に向かって走り寄っていった。 向こうも風見に気付いて驚いたような表情をする。 「ん………おや、義父さん?どうしました、そんなに息せき切っ……て……」 驚いた表情は風見の背後に迫る四季を見るまでだった。 風見は立ちすくむOLHの顔面に無言でメリケンサックの一撃を入れると背後に蹴り飛 ばした。 声にならない絶叫をあげ、OLHの理知的な顔が恐怖に歪み……。 死が回廊を満たした。 強烈な抱擁によりあばらを5本折ったOLHの亡骸を床に投げ捨てると、四季はうるう ると遠ざかる風見の背中を見つめた。 「やっぱり……やっぱり違うの。風見君の背中がいいの……」 台詞は純情な恋する乙女だったが足下で死んでいるOLHの遺体が凶悪だった。 そして、追撃が開始される。 風見は半泣きで走りまくった。 来る。奴が来る。僕を殺しに来る! 向こうから歩いてきたRuneと健やかを叩きのめして床に転がしておいたが、数十秒 しないうちに絶叫の二重奏に変わった。 さほど関係の深くないはずの二人でさえこうなのだから、風見自身が捕まったらどうな るか……想像するだに恐ろしい。 もはや女装男はおぞましくて嫌い、のレベルではない。命がけであった。 誰か……誰かもっと時間稼ぎになるような奴を捜さなくては………! ちなみに時間稼ぎになる奴ほどダメージがでかいが、深くは気にしないように。 (いや……別にかっこよくなくてもいいんだ。強い人でも……) 考えながら走っていると、見覚えのある人が歩いて行くのを発見した。 名前を確か……ディアルトとか言ったか。個人的な面識は殆どないが……。 噂によると相当の使い手らしい。ルックスも良さそうだし、いい餌だ。 風見はにやっと笑うと、ディアルトの耳元に走り寄って「逃げろ」と囁いた。 きょとんとした表情だったが、風見に釣られて走り出す。 「あ……あなたは一体?何で逃げろって……」 訊いてくるディアルトに風見は真剣な顔で囁く。 「悪いが詳しくは語れない……ただ、危険が近付いて居るんだ」 確かに危険ではある。風見にとっては。 だが、この状況に置いてはディアルトにとっての危険と判断されても仕方なかった。 後ろから迫る足音に気付いたディアルトが、はっと顔を強ばらせる。 ディアルトは迷わず戦闘の態勢に移り、そして……。 ばきばきばきばきばきばきばきばきばき………………………………。どさっ。 風見は破滅の音を後方に聞きながらそっと涙した。走りながら。 「ああっ、自主的に悪に立ち向かってくれるなんて……なんていい人だったんだ。あなた の犠牲は決して無駄にはしないよっ………」 ディアルトは自分から四季に立ち向かい、そして散った。 そう言う風に責任逃れするつもりの風見だった。こんな状況下でも実に姑息である。 同じ手口でさらに幻八、智波、佐藤、悠、ハイド、へーのき、beakerらを血に染 めた後、風見は格好の餌を発見した。(なんだかさっきからディアルトさん以外ひどい目 に遭わされた人ばかり選んでるような気がするが気のせいである。多分……) 「やぁYOSSYさん!お久しぶりですねっ!」 「その声は風見……」 「実は今後ろからYOSSYさんが好きで好きで好きで好きでたまらないという女の子が やってきてるんです!是非お声を掛けるべきですよっ!」 皆まで言わさずに被せられた言葉にYOSSYの瞳が輝く。 「えっ!?本当にっ!?」 「ええ、さあどうぞっ!」 そう言うと風見はYOSSYの背中をを思いっきり四季へと突き飛ばす! なにせ日頃何かと四季と関係の深いナンパ師YOSSYだ、きっと時間のばしを……。 「ひっ………し、四季ぃぃぃっ!?」 「YOSSY、邪魔ぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!」 会心の一撃!YOSSYは天井にめり込んだ! ……ぐちゃっ。(←あんこの出る音) ………あれ? 風見が目を丸くしていると、四季はふっと笑って見せた。 「YOSSYは私のおもちゃっ!……さあ、ひなたちゃん行くわよーーっ!」 「げげっ、大誤算っ!?」 再び逃げ始める風見だが、今度はもっと強い人を発見した。 廊下の真ん中で肉を蠢かせていた秋山である。 (この人は強い!だ……だがっ……) 「不合格ーーーーっ!!!」 「なんだいきなりぃぃぃぃぃっっっ!?」 秋山の横っ面にロケットキックを叩き込むと、風見は全力で逃げ出した。 ………しばらくしてから、後ろで四季の絶叫が聞こえた。 「筋肉は嫌いっっっ!!!!!!!!!」 「うぎぇっ!」 ……………………首の骨折れたんじゃあるまいな………………。 風見は逃避行の果てついに二番目にいい餌に巡り会った。 そう、風見のことも忘れてくれるほどに素晴らしい餌に。 風見は涙を散らしながら彼の方へと駆け寄った。 「せ、せんぱーーーーーい!」 彼の方もはっとして風見を見る。 「風見ーーーーーーーーっっ!」 たたたたたた…………………………二人はお互いに腕を拡げて駆け寄っていき……。 じゃぎぃぃぃぃぃぃぃん!!!! 「あなたをずっと捜していたんです、ジン先輩!」 「はははははは、そりゃ光栄だなぁ。ときに……こいつは何だ?」 二人の間ではぎりぎりぎりと火花を散らす物体がある。。 風見は涙に濡れた顔でふるふると首を振った。 「さぁ、僕には分かりかねます」 「なら教えてやろう。こいつはチェーンソーという人をぶったぎるための機械だ」 「わぁ、何て恐ろしい。何でそんなものがこんな所にあるんでしょうね?」 「それ以前に何でてめーはこのチェーンソーを俺に向かって近づけて来るんだ?」 「全く不思議ですねぇ。僕にはさっぱり分かりません」 二人はにっこりと微笑みをかわし合った。 「そーかー、わかんないか。ははははははははははは、こいつぁおかしいや」 「あはははははははははははは」 チェーンソーとエルクゥの爪の間の火花は一層大きくなる。 そう、二人の笑顔が大きくなるほどに。 やがて………それは臨海点を突破する。 「僕のために死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」 「誰が死ぬかぼけやろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」 二人は壮絶なにらみ合いを繰り広げ始めた。 その間ではチェーンソーと爪がお互いの身を削り合っている。 「風見ぃ……てめえ、リーダーにこんなことしやがって……覚悟できてんだろぉなぁ!?」 「よく言えたもんですねぇ……夏休みに地球侵略しようとした人が……」 くくくっとジンの口から笑いが漏れた。 「そんなこともあったかなぁ〜〜?」 「ははははは、あの後片付けで人がどんだけ苦労したと思ってる………」 ぎりいっ!! 「死んで償えええええっ!!!」 「粛正してやるっっっっっ!!」 二人の武器が互いに燃え上がった。 そして、お互いに魂を込めた一撃が繰り出される……。 「あ〜ん、かっこいい〜〜〜〜〜〜〜☆」 ぴきっと二人の動きが固まった。 続けてぎりりりりりっと首を動かす。 「魂をかけて闘う男達……やーん、もうメロメロ〜〜!」 四季が目にハートを浮かべて立っていた…………。 ぎりりりりりっとジンが首を元に返す。 「風見………死ねって………そういう意味か?」 無言で風見が頷き返す。 そしてしばしの沈黙の後…………。 「お前が死ねええええええええっっ!」 「ジンさん死んでくださいっっっっ!」 同時にお互いが叫んだ。 四季はしばし止まったが、やがてそんな二人を見てにっこりと笑った。 「それなら大丈夫よ。私……二人とも好きだから」 どうしようもないほどの究極的な寒さが二人を襲う。 今すぐにでも氷河期が来そうな寒さ。 凍り付く二人を前に、四季はうきうきと手を組み合わせた。 「そう……女の子の夢、両手に花………ハーレムエンドよぉぉぉぉっっ!!」 シュハキマセリ。ハレルヤ。ハレルヤ。シュノイダイナルカナ。ハレルヤ。 『いや゜ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!』 二人は全く同時に逃走を始めた。 四季の制止の声を遥か後ろに聞きながら涙をぼどぼど流して逃げまくる。 「ひ、浩之は………浩之はどこだーーーっ!?」 「知らないっ!知ってたら今頃追われてないっ!」 「馬鹿野郎!あいつの呼び出し方なんて簡単に分かるだろーが!」 そう吐き捨てるように言うと、ジンはすーーっと息を吸い込んだ。 「今回のLメモは浩之が主人公なんだってよーーーーーーっ!!!」 「どこだーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?」 ぐわしっ! 『とんでけーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっ!!』 「どひいいいいいいーーーーーーーーっ!?」 二人分の力を受け、すっとんでゆく浩之。 四季は遠慮なく彼を全身に受け止めると、愛の抱擁スペシャルをカマしつつ感極まった ように言った。 「ああっ!三人の愛が私の物にっ!」 『諦めてねぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?』 ぐったりする浩之を抱きすくめたまま時速70キロで突っ込んでくる四季。 知ってるかい、人間の身体は70キロの衝撃を突然喰らうとおもいっきり吹っ飛ばされ ちゃうんだぞ。だから台風の日なんかは行方不明者がたくさん出るわけだね。 ……………何故か国営教育番組のフレーズが頭に浮かんだ。 「ジンさーーーん!ひなたちゃーーーーーん!」 『もう駄目だーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!』 空間が揺らいだ。 円形を為す衝撃波を喰らって吹っ飛んで行く。 四季はさほど衝撃もなかったように体を起こすと、ぺっと口の中の紅い体液を吐いた。 「突然現れてやってくれるわね」 「こっちの台詞です!」 助っ人の姿を見て、風見は目を丸くした。 「……美加香」 美加香は工作部のユニフォームで身に包んだまま、半眼で四季を睨んでいる。 当の四季はといえば憎々しげに美加香を睨み返していた。 「ひなたさんは思い切り迷惑してますから、愛を押しつけるのは止めて下さい」 「あら?そんなことないわよ。ねえ、ひなたちゃん?」 ぶんぶんぶんぶんぶん。(←首を思いっきり横に振ってる) 「ほら」我が意を得たり、というように頷くと四季は言った。「相思相愛だって」 「どこがだっ!」 美加香のツッコミに風見がぶんぶんと首を大きく縦に振った。 四季はふっと儚げに笑うと、髪を掻き上げる。 「醜いわ………女の嫉妬って」 ぴきっ。 「言ってくれるじゃない………この失敗作」 ひくっ。 「今…………なんて言ったのかしら?」 「人格設定にミスでまくりの初期型お試し品」 氷界の静寂。全ての分子が動きを止める暗黒の世界の沈黙。それから……。 「上等じゃねえか名無しの脇役がぁぁぁっっっ!!!」 「壊すっ!この暴走欠陥品だけは絶対に壊すっ!」 「うおりゃあああああああっ、プログラム『風林火山』!!」 「くらええええっ、奥義火型『火辰烈鳳』!!」 突然に始まった女の闘い。 その中心に巻き込まれて消し屑になろうとしている浩之を見ながら、ジンは嘆息した。 「結局この学園の騒動は痴話喧嘩に始まって痴話喧嘩に終わるんだ……」 「……そんなものの集合なのかも知れませんねぇ、人生なんて……」 そう返してから、風見はくすっと笑った。 「ま、なんとかこれで安全ですね」 すると、ジンはまじまじと風見の顔を見つめた。 至って不思議そうに、信じられない物を見るかのように。 「お前……本当にそう思ってるのか?」 「へ?」 風見の疲れのあまり鈍っていた勘が復調する。そして感じるのは無数の……。 思い思いの武器を持った報復者達に囲まれ、風見は絶望的に呟いた。 「そ……そんな……ベタなオチが………」 「……そんなものの集合なのかも知れねえなぁ、人生なんて……」 ジンが感慨深げに呟いた。火器のセーフティロックを外しながら。 ずずずずずず……と茶を飲む音が聞こえる。 西山とHi−Waitという珍しい組み合わせが座敷に座っていた。 「茶はいいな。なぁ、Hi−Wait君?」 「僕は紅茶の方が好きですがね」 ふっ、と西山が笑った。 「結局ここまでは風見も来れなかったようだな……」 「ええ」 格子から見える熱く紅い光の中に、明らかに夕日とは異質の光が紛れている。 混ざり込んだ色彩は何故か二人の眼に優しく映って行く。 「一番報復されるべきが逃れ、小悪が誅せられたか……」 「そんなものかも知れませんね」 西山はHi−Waitの真意を求めるように、彼を見た。 少し微笑んだ後、Hi−Waitは呟いた。 「そんなものの集合なのかも知れません、人生なんて……」 「ああ。……だが……俺はそんな人生が…………好きだ」 西山の顔をふっとHi−Waitが見つめた。 ぐいっと茶を飲み干して、首を振る。 「奇遇ですね」 「うむ」 お代わりを注いで、再び二人は黙り込む。 そよそよと秋を告げる風がそよいで行く。 「……旨い茶ですね。何処の茶ですか?」 沈黙と溶け合うようにそっけなく、Hi−Waitが声を出す。 西山は茶葉の入った缶を持ち上げると、読み上げた。 「まさた農園」 がちゃんと湯飲みが床に落ち、音を立てる。 『うっ』 がらがら……と奥の扉が開き、少年が顔を出す。 「そう……そんなものの集合なんですよ、人生は……」 悪戯っぽく笑うと、少年は格子の外に目をやった。 茶道部から見える木々の葉は彩りを徐々に増し、風はだんだん熱さが消えて行く。 紅い光が似合う秋はもうすぐそこに来て、一枚一枚本のページがめくられる。 夏が終わって……そして図書館の書物達は一年の時を得るのだ。 僕たちのページはまだ綴られて行くだろう。 秋近し。 おしまい ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― ひ:ごめんなさいごめんなさい、この作品に出た全ての方、本当に申し訳ないです! み:はぁ……ならやらなきゃいいのに。 ひ:いや、四季さんに連れて行かれて終わりってエンドはあまりにもアレだったから… み:みんなを巻き込まないで下さい! ひ:うーん、今回ばかりは実に申し訳ない。 み:他に何か言うことは? ひ:9月22日は台風が来て休みだった。だからこれが書けた。嬉しい。 9月23日は秋分の日だ。やーみぃと三宮で遊ぶ予定。遊んでばっかりだが、楽しみ み:日記ですか? ひ:いつか振り返ったら懐かしい記憶に…… み:浪人してたらきっとあとで「何でこんなの書かずに勉強しなかったんだろ」っていう 後悔の元になりますよ。 ひ:………人生の恥の記録だな、うむ み:であであ「頼りないパートナーがとても心配」赤十字美加香と! ひ:「とりあえず23日は三宮でのんびりしよう」風見ひなたがお送りしました!