Lファンタジア第七話「破滅の帝王が蘇りし時」 投稿者:風見 ひなた
 復讐と嫉妬に燃える伝説の暗黒魔道士OLH……。
 壮絶な負の力を解き放った彼の攻撃により、勇者智波は暗黒に閉ざされてしまった。
 ここで、少しばかり時間を遡り別の場所を映してみよう。

 シズク山脈中腹デンパ鉱山。
 かつては金・銀・エメラルド他数多くの宝石類をも産出していた優秀な鉱山であった。
 だが、この鉱山は資源を埋抱したまま見捨てられることになる。
 ある時を境に出現した無数の化け物達によって。
 それから数十年、この鉱山は見捨てられてきた。
 しかし近年、ある国の調査隊によってこの鉱山の地下に古代遺跡が眠っていることが分
かるとたちまちここは重要な政策上の拠点となる…はずであった。
 魔道士教会による情報の隠蔽……これにより調査隊は全滅させられ、鉱山は再びモンス
ターの生息地として立入禁止となった。
 魔道士教会は、この遺跡を発掘するよりも時代の闇に埋もれさせる方を選んだのである。
  その見捨てられた場所に、今数百にも及ぶ人影が揺らめいている。
 どれもこれも、みな生気のない顔をした男達で……抗夫というにはあまりにも貧弱な体
つきをしている。
 それもそのはず、彼等はみな近隣の村からさらわれてきた単なる村人達なのだ。
 そしてそんな彼等を見つめている連中こそ……。
 この辺境の影の支配者、楓解放連盟だった。
「いやいや、アヤカ様が協力して下さって実にありがたいことです」
 そう言うと、男はにこにこと笑った。
「まさかこんなところであなたに出会うとはね……XY−MEN」
「偶然とは恐ろしいものですね」
 アヤカと親しげに会話している男……XY−MEN。
 彼はかつてはレザムヘイムに仕えていた騎士であった。
 その太刀筋は壮麗の一言で、剛と美とを併せ持つ。
 だが、数ヶ月前にメイプルキングダム前政府が崩壊すると同時にどこぞへと姿をくらま
してしまったはずであった。
 それが、今ここで盗賊団の首領として君臨しているのである。
「それよりXY−MEN、遺跡の主を復活させた暁にはちゃんとあたしの頼みも聞いてく
れるんでしょうね?」
「心配なさいますな。勇者の首、きちんと取って見せましょうぞ」
 二人はそう言ってから目を交わし合うと、くくっと喉の奥から笑い声をあげた。
 純然たる悪人笑いである。
 そんな二人を見ている影があった。
 口に猿ぐつわされてうんうん呻っている琴音と貴姫である。
 恨めしげにアヤカを見つめるその視線を受けて、アヤカは申し訳なさそうに呟いた。
「ごめんなさい、二人とも。でも……あたし、どうしても智波にだけは復讐しないと気が
済まないのよ」
「むーーっ!むーーーーっ!」
「あいつ……人の人生をさんざっぱら弄んでっ……!あたしの命に代えても、ヤツだけは
倒さねばならないのよ!そう……世界のために!」
 誇張でも何でもない内容を、アヤカは固い決意を込めて叫んだ。
 琴音はじたばた暴れ、貴姫は困ったような表情でアヤカを見ている。
 そこに、盗賊の下っ端が走り込んできた。
「親分!ついにディアルトの旦那がそれらしい遺跡を発見なさいましたぜっ!」
「おおっ!よし、聞いての通りだ!早速参りますぞ、アヤカ様!」
 事態はもう止めようもないほど進展していた。


 Lファンタジア第七話「破滅の帝王が蘇りし時」


 沙耶香は目の前で起こった事態を把握しきれないでいた。
 OLHの身体から立ち上った『暗黒』が智波を包み込み、それによって智波のいた場所
だけが深淵の闇に包まれた……ただそれだけのことでしかないのに。
「あ……う、嘘………!?」
 まるでその声が、自分の声でないような気すらした。
 OLHはぜぃぜぃと荒い息を吐くと、額の汗を拭った。
「ざ……ざまぁみやがれ……これでも足りねぇくらいだがなっ……」
 その声にはっと我に返った沙耶香は、感情のこもらない目でOLHを睨んだ。
 OLHはそんな沙耶香をちらっと見る。
「君には気の毒だが、ヤツは生かしておくわけには行かない。あいつは世界の……」
「智波さんを……殺したんですね?」
 わずかだが、沙耶香の瞳に感情の色が戻ってきていた。
 それは怒り。紅く燃える、激怒の炎。
 それは悲しみ。蒼く燃える、憤怒の炎。
「許さない……よくも……よくも智波さんをっ」
「…別のヤツを捜すんだな」
 その一言が沙耶香の引き金になった。
「あなたなんて……消えてしまええええええええええええええっ!」
 瞬間、沙耶香の身体から屋敷を揺るがさんばかりの魔力風がわき上がった。
 魔道士は通常その場のマナの動きを視覚的に捉える能力を持つ。
 OLHはその圧倒的な魔力の暴風に思わず気圧された。
「なっ……何!お前も……魔法神族なのかっ!?」
 魔法神族。
 この世界に少数のみ存在する、異常なまでの魔力を備えた種族。
 その魔力は女神の祝福を受けた者、或いはそれ以上にまで匹敵する。
 普通はその能力を潜在し、ある状態に置いて神族特有の力の解放を行う。
 例えば……理性のたがが外れたときなどに。
 沙耶香の身体から立ち上った魔力は、加工もされず未分化のまま、純然たるエネルギー
としてOLHに向かってゆく。
 OLHは顔面を蒼白にして、その攻撃に備える。(あばらの5本で済めばいいが…)。
「そこまでだ」
 そんな涼やかな声がして、場の魔力は一気に拡散した。
 沙耶香の後ろから聞こえてきた声が、ただその声だけで魔力を還してしまったのだ。
 OLHはごくっと唾を飲んで、沙耶香の後ろの人影を見た。
「西山王……」
「…………………私は既に王ではない。が……ここは私の家だ」
 そのままつかつかと廊下を歩き、『暗黒』に向かい腕を振るう。
 たちまちその場にわだかまっていた闇が霧消し、中から呆然と突っ立っている智波が現
れた。
「智波さん!?」
 沙耶香が驚いた声を上げて智波にとびつく。
 西山はふうっとため息をつくと、一同を見渡した。
「人の家の中で暴れないで貰いたいな……どうだ?」
 OLHは黙って膝を突くと、敬礼の姿勢をとった。
 智波は怪訝そうに西山を見つめている。
「あんた……何者だ?」
「私か?」
 西山はそう聞き返すと、にやっと笑った。
「単なる刀鍛冶さ」
 智波はそれを聞いて、けっと吐き捨てるように呟いた。
「嘘吐け」
「ほぉう?何故、そう断言できる?」
 智波はがりがりと頭をかきかき、西山を半眼で睨む。 
「あんたが単なる刀鍛冶であるはずがない。なんせ……あんたはカザミ王の師匠だろが」
 その言葉を聞き、ぴくっと西山の眉が痙攣する。
「何故……それを?」
 聞かれて智波は言葉に詰まった。

 こっからはまた俺の一人称だ。
 さーて、どう答えるよ?
 まさか「L学園で風見の師匠だから」なんて言えねえよなぁ……。
 よし。ここは一つ誤魔化してやれ。
 俺はふうっと息を吐くと、髪を掻き上げた。
「貴姫が俺を引っ張ってきた理由も分かるよ。大方あんたをメイプルキングダムに連れて
くることだったんだろ」
 答えになっていない。
 だが、会話を続けることは出来る。
 西山は苦々しげに首を振ると、下を向いて呟いた。
「それはできん。……たとえカザミやセリスの頼みでもだ。今更あそこには……」
「何故?」
 俺が聞くと、OLHが立ち上がって答えた。
「それは、西山様がもともとメイプルキングダムの国王であられたからだ」
 …………………え?
 ええええええええええええええええええええっっっ!?
「だ、だって話じゃメイプルキングダムの王はカザミのクーデターで殺害されたって…」
「表向きはな。違うね……西山様は弟子であるカザミに王位を譲ったのだ。元々王家の血
を引くわけでもないカザミに王位を譲るにはこの手段が一番いい。カザミに英雄としての
箔を付けるためにもな」
 OLHの話は、俺を驚かせまくった。
 貴姫もセリスさんもひなたん本人もそんなこと一言も言ってないじゃないかぁ!
 しかも西山はいちいち頷いている。
 事実なのだ……これは。
「で、でもなんでひなたんに王位を譲るんだ!?」
 OLHは一つ咳をすると、続ける。
「カザミ、セリス、岩下は宿縁だか何かはわからんが、ともかく魔界の魔王を倒さねばな
らないようだ。そのためには人界に一つの軍事帝国を築く必要があった。……魔界の魔王
軍に負けないぐらいの、な。そのために王位を譲られたのだ……それに」
「それに?」
 そのとき、ぎしっと背後で音がした。
 振り返れば、真剣な表情をした楓が立っている。
「続きは私がお話しします」
「楓!」
 慌てて西山が声を上げるが、楓はふるふると首を振った。
「いえ……私が話さねばなりません。まず……私は、レザムヘイムの第三王女でした」
 ……………げっ!
 このつまらないボケ女が第三王女だぁぁぁっ!?
「だ・れ・が・つまらないボケ女かぁ〜〜〜?」
 ぎゅううう。
「に……にじやまざん、心を読んでくびをしめないでぇぇぇっ」
 楓はそんな俺達を見て、こほんと咳払いした。
「……いいですか?私はこの英志さんをお慕いしていました…ですが、王家と王家の問題
……。先代が憎み合っていた私達は、結ばれることが出来なかったのです」
 ははぁ。ロミオとジュリエットの世界に浸ってるわけね。
 ふんふん、それで?
「とゆーわけで、駆け落ちしました」
 ………………………………………………………………………。
 あれっ?
「あのぉ〜、今何か恐ろしいくらい飛んだような気がするんですが」
「どこかおかしいですか?」
 おかしいもおかしくないもないってばよ。
「何でいきなりそこに飛ぶんだよっ!普通、王家のしがらみとか民衆のこととか色々説明
とか心理描写があるだろっ!?」
「だって好きなんですもの」
 そう言うと、楓は西山の腕に自分の腕を絡ませ、眼と眼で会話した。
「ねえ」
「ああ」
 ………………こんな自分勝手な奴等を君主にした人民は不幸だな………………。
 こーゆー王を王位に就けるよかまだしもひなたんの方がましかも……。
「ううっ……何て感動的なお話なんでしょう」
 ……何故泣ける、沙耶香。
 OLHは一つ頷くと、締めくくった。
「とゆうわけで西山様も楓様もいまさら帰るわけにはいかんのだ」
 うーん……そうだなぁ。
 さすがの俺もようやく幸せに暮らせるようになった恋人を引き裂くというのも……。
 かといってこのままだとメイプルキングダムの負けは明らかだし……。
 俺が迷っていると、沙耶香が俺をじっと見つめていた。
 ……はぁ、一度抱いちゃった女の子の頼みは断れないなぁ。
「わーーった、わーーーったよ。諦めてみんなを捜して帰るよ」
 俺がそう言うと、沙耶香はぺこっと頭を下げた。
「すみません、智波さん」
「いや……いいけどな」
 俺ってば本当に嘘つきだ。
 あーあ、貴姫やひなたんが怒る顔が目に浮かぶぜ。
「そうだ、みんな……といえば」
 OLHが突然声を上げる。
 俺はいかにもめんどくさげ、といった風を装って頷いた。
「ああ。ちゃんと惚れ薬は飲ませる。安心しとけ」
「いやぁすまないなぁ、勇者」
 いかにもうれしそーな顔しやがって……。
 あーあ、俺の人生こんなんばっかか?
 とりあえず場が丸く収まりかけたそのとき、向こうの方からばたばたと誰かが走ってく
る音が聞こえてきた。
 ん……あれは……。
 光と紫音じゃねえか。
「西山師匠!大変です、楓解放戦線の連中が攻めてきましたっ!」
「なんだかとんでもない妖気を発してる化け物も一緒です!」
 うーーん、そっくりだな、同じ服着てると。
 西山は俺のほのぼのした感想とは全く関係なく叫び声を挙げた。
「な、何っ!?XY−MENのヤツかっ!?」
「はいっ!」
 俺はOLHの方を振り返って、訊いた。
「なんだ……そりゃ?」
「XY−MEN……元レザムヘイムの騎士だったが、楓様に横恋慕していてな。婚約者だ
ったんだよ。ところが、結婚式の一週間前になってお二人が駆け落ちされてから嫉妬の鬼
になってはるばるこんな辺境まで追ってきたんだ……盗賊団の親玉になって」
「げっ」
 うーん……琴音あたりが相当嫌がりそうなヤツだな。
 しつこい男は嫌われるぞ、全く。
「こうしてはいられん……!光、防衛団を召集しろ!持久戦だ!」
「はいっ!」
 ………防衛団?
「……この人、刀鍛冶じゃなかったのか?」
「いや、実は密かにここいらの領主だったりもする」
 ……………なんだかなぁ。


 そしてもう一度時間を巻き戻す。
「これが…………伝説の…………」
 ディアルトはごくっと息を呑んだ。
 盗賊団楓解放戦線に雇われた、流れのトレジャーハンターである。
 今彼等は鉱山地下の遺跡の中央にいた。
 XY−MEN、ディアルト、琴音、貴姫、そしてアヤカ。
 アヤカはどこかで足を痛めたようで足に包帯を巻いていたが、痛みを堪えて琴音を前に
押し出すと、耳元に囁く。
「さあ、解呪の呪文を唱えて」
「…………………アヤカさん、お願いです考え直して下さい」
 だが琴音の懇願にも関わらず、アヤカは首を振った。
「いいえ。それだけは……聞けないわ」
 その表情は固く、決意に溢れている。
 琴音はうなだれると、悲しげな表情を浮かべた。
「そんな……私達折角仲良くなれたと思ったのに」
「……あいつさえいなければ、いつまでも友達でいれたわよっ……」
 そう憎々しげに呟くと、アヤカは琴音を押した。
「さあ、唱えて!唱えれば智波に会わせてあげる……断ればここで死ぬわ!」
 そのやりとりを横目で見ながら、貴姫は必死に頭を働かせていた。
 そうやらここに眠る封印の中身は、魔道士教会高位の魔道士琴音レベルにしか解けない
強大なものらしい。そして、ここに巣くうモンスター達。
 そのどれもがまがまがしい気を放つ者ばかりだ。
 彼等はこの場の魔力に引き寄せられているそれだけここに眠る者の魔力が…。
 待て。
 何かがおかしい……?
 何故、こんなにも邪悪なモンスターばかりが集うのだ?
 そして植物も全く生えていないここは、まるで廠気の吹き溜まりで……。
「待って!ここに眠る者を解放しては……!」
 遅かった。
 琴音はもうすでに呪文を完成させていた。
 呪文は簡単であった。
 強い魔力を乗せて、封印されし者の名を叫ぶだけでいいのだ。
 すなわち……………………。


 防衛に加わった俺達が見たのは、凛々しい元騎士ことXY−MENと、その一味。
 そしてその後ろに立つアヤカと、猿ぐつわを咬まされて捕虜になっている琴音と貴姫。
「アヤカ……………!?」
 俺が声を漏らすと、アヤカはきつい視線で俺を見据えた。
「智波……これは、逆襲よ!」
 俺の横では沙耶香が驚愕に打ちふるえてる。
 OLHが琴音に向かって呼びかけたが、ぷいっとそっぽを向かれてしまった。
 薬の効果は思いっきり健在のようだ。
 そして、西山が叫んだ。
「XY−MEN!貴様っ!」
「西山……楓様は私の者だ!誰にも渡しはせん!」
 おーい、それじゃあ解放とは言わないぞー。
 独占者が変わっただけじゃん。
 などと俺のツッコミが聞こえるはずもなく……。
「先生っ!どうぞーーーっ!!」
「はぁぃ☆」
 そこに現れた人影を見て、俺は硬直した。
 俺はこいつをよーく知ってる。知りたくないのに知りまくっている。
 そう、こいつこそ学園最大の恐怖……!
「愛と勇気と欲情の魔法神族エルクゥユウヤ、お呼びに預かり参上でぇす☆」
「でたああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?」
 俺はがたがたと震えながら後ろの方に隠れた。
 こいつの恐ろしさを知らない連中は相変わらず強気だ。
 ただ、OLHだけがぎょっとした目で唾を飲み込んでいた。
「な……なんだ、ヤツの恐ろしいまでの魔力は………!?」
 さすがにOLHはヤツの恐ろしさが理解できるようだ。
「そんな変態さんを呼んだところでどうなるっ!XY−MEN、ついに狂ったか!?」
「何とでも言うがいい!さあ先生、やっちまってください!」
「オッケーダーリン♪」
 ………今回はXY−MENが狙われてんのか。哀れな。
 って、呑気に見てる場合じゃねえな。
「伏せろぉぉーーーーーーーーっ!」
 俺は沙耶香を引き倒して地面に押さえ込んだ。
 その直後、ぞくりとする程の魔力嵐が俺の背筋を這って行く。
「ひっさぁつ☆エルクゥスターダストレインボー☆」
「ひいいいいいいーーーーーーーーーーーっ!?」
 世界が朱に染まった。
 文字通り、星くずのように無数の魔力弾が俺達に向かって繰り出されたのだ。
 そこらじゅうに破裂音が響き、防衛隊の悲鳴が上がって行く。
 地獄のような攻撃は十秒そこらしか続かなかったようだが、モロに喰らっている連中に
して見ればこの世が終わるほどの時間に思えただろう。
 ようやく俺が顔を上げたときには、辺りは黒こげになった隊員達でいっぱいだった。
 ……西山は?
 俺は彼が立っていた辺りを見た。
 そこには炭と鮮血で汚れた男のオブジェがなお雄々しく立ちつくしている。
 なんて…頑丈なヤツ!
 西山は大きく息を吸い込むと、じりっと一歩踏み込んだ。
「XY−MEN……もしや、そいつは……」
 XY−MENもさすがにびびったのかごくっと唾を飲み込んだが、思い返すと強気な姿
勢で顔を歪めて見せた。
「そう、この方こそ伝説の破滅の帝王……エルクゥユウヤ様だ!」
 そりゃまあ破壊…だろぉなあ。
 西山はしばし黙り込んでから、一言呟いた。
「馬鹿め」
「何っ!?」XY−MENはぎくっとした様子でたじろぐ。
 西山はここぞとばかりに畳みかけるように言葉を叩きつけた。
「自分では勝てぬから助っ人を呼ぼうというのか!しかも古代王国を破滅に追い込んだ、
という肩書きを持つだけの変態を!そんな自力でかかっても来れぬ情けないヤツが私に勝
負を挑もうなどとは笑止千万よぉ!恥を知るがよい……貴様など楓には到底釣り合わぬ器
に過ぎぬわっっっ!!!」
 うわー……辛辣。
 XY−MENはぴくぴくと額に浮いた血管を痙攣させると、震える声で呟いた。
「き……貴様、俺が人に頼らねば何も出来ぬ、と……!?」
「その通り!貴様など所詮はライオンの毛皮のダニ!虎の威を狩る狐どころかイカの腸に
寄生するのが精一杯のアニサキスごときにしか過ぎんのだあっーーー!!!」
 ア……アニサキスとまで言うか……。
  XY−MENはなおぶるぶると瘧が起こったように震えていたが、やがて身体の奥の方
から大きな音を立てて止まった。
 ぶちっ。
「にぃぃぃぃしやまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!貴様だけはこの手で殺してくれ
るうううっっーーーーーー!」
「ふっ、出来るのか?貴様などがこの私に傷を付けられるのか、寄生虫めが」
「ぶっっっっっっっ殺す!」
 うーん、これを心理作戦と呼んでいいものか……。
 まぁ、いいか。これでエルクゥユウヤも大人しく……大人しく……なるか………?
 その疑問に行き当たったとき、俺はヤツの視線がこちらを向いていることに気付いた。
 ま…まさか?
「きゃーっ、この子可愛いーっ☆」
 俺の顔面から本当に音を立てて血の気が引いていった。
 まずい、このパターンは……。
「ダーリン私を受け取ってぇぇーーーーーーーっ☆」
「うぎょえええええええええええええええええええええええええええ!?」
 次の瞬間俺は血涙を流しながら全力で逃げ出そうとした…が、沙耶香が俺の服をしっか
りと掴んでいる。
 や、やべぇぇぇぇっ!?
 数秒後に襲って来るであろうヤツの求愛行動の数々を予感し、俺は立ちすくんだ。
 絶体絶命ーーっ!
「智波さんに……さわらないでえっっ!!」
 ばこきっ!
 沙耶香の怒りの一撃がエルクゥユウヤを吹っ飛ばした。
 ……つええ。
 さらにいつの間にか縄抜けしていた琴音と貴姫が二撃三撃を加えて行く。
 そしてどこからか現れた小さい琴音がハリセンを振りかぶってエルクゥユウヤを殴りつ
けた。
 ……あれ、笛音か?
 なんだかもじもじして俺の方を見ている。
 もしかして、あいつにも惚れられたんだろーか……?
 と、そのときエルクゥユウヤががばあっ!と立ち上がった。
「何をするかぁぁぁぁーーーっ!」
『きゃーーーっ!?』
  アレぐらいでヤツが死ぬわけないっ!
「お前達、こっちだ!逃げるぞっっ!」
 俺は大声で彼女たちに叫んだ。
 途端にだだだだだっと四人が走り寄ってくる……って、あれ?
「アヤカ、なんでお前も付いて来るんだ?」
「…………いくらなんでもあんなヤツの仲間はヤに決まってるじゃない!」
 その気持ち…なんか、凄くよく分かるぞ。
 ともあれ俺達は全力で逃げ出した。
 もう後ろがどうなろうと知ったこっちゃない。ともかく逃げるのが先だ!
 と、走っていると前の方にOLHが見えた。
 なにやら大きく手を空に向けて振っている。
 一体、何があるんだ……と空を見上げると、とんでもないものが下りてきていた。
 ほんの数時間前に俺達を撃った飛行船だ。
「この船ならヤツの追撃を免れるはずだ!みんな、乗れ!」
 OLHの叫びに、琴音と笛音は思いっきり嫌そうな顔をした。
 薬の効果はまだまだ健在のようだ。琴音あたり本気で嫌ってるのかもしれんけど。
「今は手段を選んでいる場合じゃない!乗るぞ!」
 俺が叫ぶと、琴音は頷いた。
 笛音だけがまだ難色を示している。
「ほら、乗って」とOLHが笛音の胴を持ち上げると、じたばたと暴れた。
「やだーーっ!お兄ちゃんなんて嫌いだっ、離してーっ!」
 その間にもエルクゥユウヤは砂煙を上げて走ってくる。
 幸い、あまり足は速くないようだ。
 貴姫と琴音はもう乗り込んでいる。
 アヤカだけが足を痛めているようで若干走るのが遅い。
「おい、アヤカ早くしろ!」
「ちょ、ちょっと……あっ」
 どさっ、とバランスを崩したアヤカが地面に倒れ込んだ。
「アヤカ!?」
 アヤカはくっ、と自分の足を忌々しげに見てから、声を上げた。
「もういい!あたしは捨てて早く逃げなさい!」
 船の中から見ていた貴姫と琴音がうろたえたように叫び声をあげた。
「アヤカさん、何を!?」
「諦めずに走って!」
 だがアヤカは、ふふっと口元に笑顔を浮かべると強い瞳で俺達を見上げた。
 その姿は、気品に溢れた凛々しい姫君の姿。
「――お姫様扱いが嫌で冒険者なんてやってみたけど……所詮はお姫様でしかなかった
みたいね。王国が滅びたらお姫様もいなくなる……お願い。あたしを………………………
お姫様のまま死なせて」
 俺は――天の邪鬼だ。
 そんな言われると、助けたくなっちまいたくなるだろうが!
 俺はアヤカの腕をひっつかむと、面食らう彼女の顔を見つめた。
「智波……!?」
「勝手に死ぬんじゃねえよ。今のお前はお姫様なんかじゃない。俺の……第二婦人だっ!」
 そう叫んで、俺はアヤカを抱えて走る!
 瞬間、ぶんっ!と鋭く空気が避ける音がして、背中に熱い衝撃が走った。
 だが、ここで諦めたら二人とも死ぬ!
 俺は自分でも何を言っているのか分からない絶叫を挙げて、笛音とOLHに体当たりを
仕掛けた。
 頭の後ろで空を切る音。
 間一髪それを逃れて、俺達は船に転がり込む。
「今だっ!飛べえっ!」
「ラジャー!魔道戦艦冬月、発進!」
 ごうん、という音がしてハッチが勢いよく閉まった。


 なんとか難を逃れ、俺達は空の上にいた。
 ハッチをひっかいていたヤツも、なんとか諦めたようだ。
 なかなかスリルを味わえたけどな。
 俺は沙耶香に背中の傷を治療して貰いながら、こっちをじっと見ているアヤカに笑いか
けた。
「どうだ?俺、かっこよかっただろ?」
 アヤカは瞬間的に真っ赤になると、俺を凄い剣幕で睨み付けた。
「何で助けたのよ!あたし、あんたを裏切ったのよ!?」
「だーかーらー、さっきも言っただろが」
 俺はがりがりと砂にまみれた頭を掻くと、大したこともないような風を装って、言った。
「お前は俺のものだ。持ち主には自分のものを管理する義務があるからな」
「なっ……!」
 アヤカはさらにこれ以上はないというくらい赤くなると、俺に叫んだ。
「あんたなんか、大っっっっっ嫌いよっ!!!!」
 照れとるなー、こいつは。
 って……………あだだだだだだだだだだだあああああっ!?
「さ、沙耶香あああっ!?痛いぞっっ!?」
 俺の後ろの沙耶香はことさら無表情に俺の傷をざりざりと強く撫でている。
 って、これ撫でていると言うよりはひっかいていると言った方が近いぞっ!
「すみません、私、ヒーリングが下手なもので。琴音さんと代わっていただきましょうか?」
 うっ……そ、それはなお怖いような気も。
 モテ過ぎるってのも考え物だなぁ……。
 向こうの方ではOLHが笛音とケンカ中だ。
 というか一方的に嫌われている。
 あんまり可哀想なので詳しい描写は省こう。
 操舵室の方では貴姫と冬月、麗がなにやら話し込んでいるようだ。
 ふうっ……しかし……どうするかな?
 結局西山は連れて帰れなかったし…。
 この際この船乗っ取ってレザムヘイムに砲撃かけちまうか!?
 などと俺が考えていると、ビーーッ、ビーーッと真上からサイレンが聞こえてきた。
 しかも通常灯が消え赤いランプが輝いている。
 こいつはまさか……エマージェンシーコール!?
 扉が開き、貴姫がドアの向こうから叫び声を挙げる!
「大変です!皆さん、直ちに操舵室へ!」
「何があった、貴姫!?」
「この船が……攻撃を受けています!」
「なにぃぃぃっ!?」
 駆けつけた俺達の目の前にはモニターがあった。
 そこに映し出されているのは地上の風景と、エルクゥユウヤ!
「追ってきてたのか!?」
「先ほど、左バーニアに攻撃を受けました!バランスを崩し、現在サブバーニアにて緊急
モードに移行しています!」
 冬月が悲鳴を上げる。
 その横では麗がバランサーが、プロペラが、副砲が、と慌てている。
 なにやら凄いことになっているらしい。
「これ、戦艦なんだろ!?何でこんなに簡単にやられるんだ!?」
「ヤツをなめてはいけません!この三倍はある巨大戦艦をも沈めたという逸話がある化け
物です!」
 さすが当時生きていた(らしい)ヤツは違うな。
 って、冷静に観察している場合でない。
「反撃は出来ないのか!?」
「副砲をやられました!もうじきレザムヘイム上空にさしかかるため、下手に主砲を撃つ
と近隣都市を巻き込んでしまいます!」
 うーん、そうか。
 これは困った……って、オイ。
「レザムヘイムだぁぁ〜〜〜?」
 ぎくっと冬月やOLHの肩が震える。
「てめえらっ!ハナっからレザムヘイムに俺達を送りつけるつもりだったな!?」
「わーーっ、この際どうだっていいじゃありませんかそんなのーーっ!?」
 まぁこの際確かにどーだっていーけどな!
 でもしっかり後で落とし前は付けて貰うぞっ!
「ともかく、なんとかしてヤツを振り……わあああっ!?」
 ごぉぉぉぉぉーーーっ!と音がして、何かが爆発するような衝撃。
 なんだなんだっ!?
「あっ……」麗が呟いた。
 冬月が報告を求めて振り向く。
 零は泣きそうな顔で呟いた。
「……エンジン……やられちゃいました」
 ごーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん。
「ふ……副エンジンは?」
「とっくの昔におシャカです」
 全員の顔が蒼くなった。
 そして、冬月が厳かに呟いた。
「………緊急着陸」


 着陸なんてものじゃなかった。
 こいつは明らかに、落下だ。
 なんとか重力緩和装置でダメージこそ防いだものの……。
「けほっ、けほけほっ」
 俺達は煤だらけになりつつもなんとか魔道船から這い出た。
 うーっ、ひどい目にあった……。
 いや……。もしかして、ここからが本格的にひどい目かも。
 俺達の目の前ではエルクゥユウヤがにっこりと笑っていた。
『どっひぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?』
 次の瞬間、俺達は全員逃走を始めていた。
 それにしても、よくここまで体力が続くもんである。
 OLHなどはおんぶした笛音に髪の毛を引っ張られながらも走りまくっていた。
 やがて、一キロくらい走った後に目の前にでっかい都市が開ける。
 アヤカが、驚いたような声を上げた。
「ちょ、ちょっと!?アレってレザムヘイム王都よ!?」
「えっ!?」
 なんか、このまま進むのは……非常にまずいような……。
 俺はちらっとみんなの様子を見て、決めた。
(躊躇してる場合じゃねえや!)


 レザムヘイムの某宿屋……。
 カザミ達は一室に籠もり、ひたすらに西山の到着を待ち望んでいた。
 今日でもう五日目……そろそろメイプルキングダムの陽動部隊も全滅しそうなのではな
いだろうか。
 明日の朝までに連れて帰らないと……負ける。
「所詮、無理だったのか……いくらなんでも……」
「辺境の西山様をただの六日で連れてくるなど…」
 岩下とセリスが絶望的な声を上げる。
 じっと窓の外を見ていたカザミは、すくっと立ち上がった。
 どきっとして一同はカザミの方を見る。
「ど、どうしたんだ!?」
「…………メシ喰いに行きます」
 それだけ呟いて、カザミはゆっくりとドアに向かって歩いて行く。
 驚いたのは岩下とセリスだ。
「か、カザミ君!?潜伏中に命を狙われている一国の王が外になんて……」
 だが、カザミはそんな彼等を不思議そうに見ると、にこっと笑って言った。
「明日の朝には負けるというのに、今更何を恐れるというんです?」
 その顔は恐ろしいくらいに穏やかで……。
 しばし呆然と見ていた岩下とセリスも、思わず吹き出さずにいられなかった。
「く……くくくくっ」
「そうだよな……そのとおりだ。よぉしっ、いっちょ宴会でもやらかすかなっ!」
 うつらうつらとしていたマルチとミズホも顔を輝かせて喜ぶ。
「あっ、ご飯ですかっ?お外に出られるんですねっ!」
「何を食べましょうか……楽しみです!」
 ただ、傭兵時代から常にカザミの側に付き従っていた美加香だけがそんなカザミを哀し
そうに見つめていた。
 美加香は気付いている……この落ち着きが、明日には陥落する城を抱えた王者の悲哀と
師匠に見捨てられた弟子の嘆きと憤怒、それらの裏返しに過ぎないことを。
 そんな彼女を見てことさら明るい調子でカザミはその首に腕を巻き付けた。
「何を暗い顔をしてるんですか!美加香は食べるのが好きですからねぇ……今日は遠慮な
くどんどん食べるんですよ!」
 美加香には、黙って頷くしかできなかった。
 振り向いてしまうと、涙で折角の空気を壊してしまいそうで……。
 一同が表通りに出たとき、そこらは人でいっぱいだった。
「うわぁ、人がいっぱいです〜!」
 目を回したようなマルチの言葉に五人は吹き出しながらも、考えずには居られなかった。
(我々の国にはこんな人通りはない……我々の国作りは、間違っていたのだろうか)と。
 いや……もう止めよう。
 どうせ明日の朝には元の木阿弥だ……。
 だが、しばらく歩く内にどうもこれが普通の人混みではないような気がした。
 次第にそれは確信に代わり、カザミ達はめまぐるしい人混みに押されて目を白黒させた。
「な、なんだこりゃ!?」
「ひなたさん、あれをっ!」
 美加香の声に通りの向こうを見てみると、なにやら爆走してくる人影が見えた。
 どこかで……見た人影のような気も……?
 そう思ってしばらく見る内に、やっと気が付く。
「智波……!?それに貴姫も!?」
 こちらに気が付いた彼等は、ぶんぶんと手を振りながら駆けてくる。
 初めはそれは感激のあまりかと思ったが、その背後から近付いてくるモノを見て一同は
顔を青ざめさせる。
 そのときになってようやく智波達が何を叫んでいたのかが分かった。
「逃げろぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーっ!!!」
 言われるまでもなかった。


 王城内。
 玉座では、千鶴がふっ、と笑みを漏らしていた。
 目の前に置かれたのは現在の兵の勢力地図だ。
「造作もない……魔道士教会の力を借りるまでもありませんでしたね」
 魔道戦艦冬月、そして古代の魔道兵士。
 そのどちらも使うこともなく、メイプルキングダムは墜ちようとしている。
 魔道兵士は既に魔道士教会に返してしまった。
 地図をしまおうとしたとき、なんだか廊下の向こうから何かが迫ってくるような音がし
た。
「騒がしいですね……?」
 眉をしかめて、千鶴は呟く。
 その途端にばんっ!と謁見室の扉が開かれた。
 その先頭から飛び込んできたのは……。
「来ましたね、カザミ王!己の強さも省みないとは、哀れなり!」
 叫びと同時に、千鶴は机の下から血文字で「コトブキ」と書かれた不気味なステッキを
取り出している。
「ウェディングリズエル、お色なおーーーし!」
 キラキラと魔力光が千鶴を取り巻き、やがてそこには見事なウェディングドレスを着込
んだ千鶴が現れていた。
 二段変身はしないのである。
「さあこの愛と正義の花嫁さんウェディングリズエルが現れたからには……」
 だが、その口上を無視してカザミ達はその横を走り去っていった。
 さすがにこれには千鶴もむっとする。
「ちょっと、あなた達!折角私が変身……」
 ずしん。
 嫌な感じの足音がした。
 千鶴がつつーーっと汗をした垂らせて振り向くと、そこには不気味な…。
「へ、変態さんっ!?」
「のんのん☆勇気と煩悩と愛欲の魔法神族エルクゥユウヤでーーっすっ☆そこの婚期も逃
したくせにウェディングドレス着てるババア邪魔だからのいてね☆」
「ば、ババア!?私はこれでも23歳よっっっ!!!!!」
 そして………天地を揺るがす戦闘が開始された。

 約18時間37分経過。
 既に跡形もなくなった城のど真ん中で、二人の魔法神族が殴り合っていた。
「こ……このど変態がっ……」
「い……行き遅れめっ………」
 やがて、ポップコーンも食い飽きた観客が見守る中……。
 どさりと二人は同時に倒れた。
 ダブルノックアウト………勝者はなし。
 やがてレフェリーことカザミが高々と廃墟で剣を掲げ、宣言した。
「今ここにレザムヘイムは倒れたっっっ!!!」
 人界統一の瞬間であった。

 こ……こんなんで本当にいいのかぁぁぁっっ!?


 なお。今日のエルクゥユウヤのお召し物は、アブない水着だったことを付け加えておく。


             さあ、魔界まで後一歩だ!