強化人間シリーズ。『塔』の生み出した戦闘機械達。 私はその作成に従事してきた。 幼い頃から、ずっと研究してきた。 だけど、私が本当に作りたかった物はそんなものなんかじゃなかった。 私は、神を作りたかったのだから。 4月25日 『本日よりマルティーナ計画の最終段階に入った。 既に三体の素体は完成している。これまでのHMとは全く違う、魔力を主燃料に稼働す る全く新しいボディだ。強化人間プロセスを応用した魔道と科学の融合と呼べるだろう。 ただしこの膨大な魔力の源をどうすればいいのかまだ分からない。 早くしないと、彼がもたないだろう。妖魔達はますます増えている。心配だ』 「アストラルゲートから魔的存在三体を確認!緊急警報発令します!」 オペレーターの叫びに、途端にラボ内が真っ赤に染まる。 素体の前に陣取っていた白衣の男達はちっと舌打ちをした。 「またか……いつになったらゲートを固定できるのか……」 「時間の無駄だ。早く彼を呼べ」 冷たい声。 そんな機械じみた声を聴きながら、最後までコントロールパネルの前に座っていた少女、 赤十字美加香はこくりと頷いた。 男達とは違った意味で苦い、そんな表情を浮かべながら。 (エマージェンシーコール………。また………闘うのか………) 現実世界とは又違った世界、アナザーワールドの一つにその世界はあった。 魔法界レザムヘイム。魔力が満ち満ちた世界。 そこには多くの魔道士や戦士が生息していた。 そしてまた、それよりも数多くの魔物達も。 魔物は魔力に惹かれやすい。強力な魔力あるところ彼らは常にやってくる。 その場にある魔力を吸い取り、自らの力とするために。 このゲートに目を付けた彼らも、そんな魔物達の群れの一つだった。 がん、がん、と金属製の廊下を踏み鳴らしながら、オーガー達が歩いて行く。 目指すは最も魔力の高い場所。そこにある物を破壊し、その中に満ちる甘い甘い魔力を 喰らうために、彼らは狭い廊下を半ば破壊するような形で歩いて行く。 そんな彼らの前に、一つの影が立ちはだかった。 ちっぽけな影。ニンゲンだ。 もちろん恐れることはない。彼らは愚かな種族かも知れなかったが、本能的にこの世界 が自分たちの世界とは違うのだと知っていた。そして、そこに住むニンゲン達がいつも自 分たちを襲いに来る魔道士達のような力を持たない、弱い生き物だという事も。 ましてそいつは普通のニンゲンのオスよりも遥かに小さかった。 だから、彼らは直進した。 命が惜しければ避けるだろう。愚かなら踏みつぶしてしまっていい。 そいつは避けることも向かってくることもしなかった。 ならば殴り殺そう。そう考えて、彼らは雄叫びを上げながら歩みを早めた。 不意に……そいつが顔を上げた。 その眼に凶暴な魔獣の光を、その表情に猛々しい狂戦士の狂乱を、その背後にまがまが しい邪鬼の闘気を見たとき、彼は恐怖と脅えの声を上げる間もなく真っ二つに切断されて いた。 突如出現した仲間の惨たらしい死体を見て、残りの二匹が声を上げた。 だが、それは少しばかり遅かった。 (憎い) 何が。 (全てが憎い) 何故。 (みんなが僕を虐めたから。理不尽な理由で家族を、従妹を、殺されたから) それから? (裏切られたから……!あの人だけは、僕を、裏切らないって……信じていたのに!) なら……どうする? そうとも。一つしかないんだ。お前が…僕が、出来ることは。 (みんな……殺してやる) 「死ね。死ね。死ね死ね死ね死ね死ね!!!貴様等………くたばれええええええ!!!!」 美加香がそこにたどり着いたとき……噎せ返るような血の臭いが周囲を満たしていた。 馴れた臭い。だからこそ、嫌な臭い。 その真ん中で、返り血でずぶぬれになった少年が荒い息を吐いていた。 彼の周囲には切り刻まれ肉片と化した物言わぬ妖魔達。 「まるで、ケモノだな」 そんな侮蔑の声。誰か他の研究員のものだ。 美加香はぎゅっと唇を噛むと、いまだ興奮の極みにある少年にゆっくりと近付いていっ た。 「ひなたさん。ご苦労様でした」 「う……がぁぁぁぁぁぁぅっっ!!」 びゅっと鋭い音を立てて、先ほど妖魔達を切り刻んだ手刀が繰り出される。 美加香はそれを落ち着いて見つめ、ついっと右手を突き出した。 鎌鼬で美加香の頬が切れ、一筋の紅い線が走る。 だが手刀自体は美加香の右手に止められていた。 「ひなたさん。もういいんです。妖魔は全滅しました」 「グ……ウ………お……おわ……った?」 ゆっくりと、ケモノの眼に光が戻って行く。 名もない修羅のそれから、風見ひなたと呼ばれる少年のそれに。 理性を取り戻して行くに連れ、いつもの痛みが風見を襲った。 「う……ああああああああっ!!!」 脳が焼き切れそうな、全身の骨が砕けそうな、関節という関節がぶちきれそうな、そん な急激な激しい痛み。 「ひなたさん!ひなたさん!」 美加香の声が急速に遠ざかる。脳がフラッシュバックを起こして白く染まる……。 差し出された緑色の小瓶が視界の中を横切る。 風見はそれをなんとか受け取ると、震える手で喉の奥に流し込んだ。 やがて……じわじわと、痛みが引いていく……。 いつもどおりだ。 この、飲んだ後に僕を嘖む、嫌な感じも、同じ――――――。 風見はぎりっと奥歯を噛みしめると、思い切り床に叩きつけた。 飛び散った破片が美加香の腕を傷つける。 だが美加香は眉一つ動かさず、じっとそんな風見を見つめていた。 それは風見に強く肩を掴まれても変わることはなかった。 「また……飲ませたのか」 美加香は答えなかった。 「僕に…また、薬を飲ませたんだな!?」 「鎮痛剤です。飲まなければ、痛みで神経をやられますよ」 ぱんっ、と美加香の頬がはたかれる。 こんな光景を研究員達は蔑んだ笑いともに眺めていた。 長瀬主任以外は。 彼だけは、美加香の痛みを知っていた。 4月26日 『マルティーナのDVDに搭載する心プログラムのドナーが決定した。 HMV−12型マルチの精神を三つの部分に分割し、それぞれに素体を与える。 だがこれだけでは心プログラムは動かない。まだ何か必要だ……。 魔法界とは未だに交信できない。ゲートを彼女たちの精神の中に作ることさえ出来れば 無限の魔力を得られることもできるだろうに……。 彼の症状はますます酷くなる。あと何日もつのか、私にはわからない……』 (今日は……何匹殺せばいい。三匹か。五匹か。十匹。二十匹。百匹。 何匹でもいい。とにかく……殺せばいい) (みんな死ね) 心臓を引きずり出し、握り潰す。 腸を引きちぎり、骨を砕き、鮮血のプールの中で、僕は哄笑を上げる。 もう……僕には分からない。 これが本当に僕なのか。武術を志したのは、こんなヤツになるためなのか。 それでも心のどこかで僕は、こうやって悪夢に酔い命を狩ることに悦びを感じる自分が 居るということを知っている。 そしてこの紅い紅い血泥だらけの夢から覚めれば僕は死んでしまった方がマシだと思え るような肉体の痛み、精神の傷に絶叫を上げながら。 自分を呪う。 「はぁ……はぁ………」 風見は昨日よりも多い屍の中で息を上げていた。 二十時間前はオーガー3匹。今はオークとゴブリンを合わせて30匹。 日増しに多くなる。とんでもないスピードで。 「バケモノだ」 「正気じゃない。あいつの眼は人間以外のモノだ」 「あんなヤツを飼っているなんて……芹香様は何を考えておられるのか」 そんな畏れと侮蔑の入り交じった遠巻きの中傷の中を、美加香は歩いて行く。 背中にぴりぴりするような非難の視線を浴びながら。 彼を連れてきたのは自分だから。 研究員達にも、風見自身にも、負い目を感じながら彼女は瓶を持って彼に近付いて行く。 「ありがとうございます。今日の仕事は終わりです」 「う…………がああああああああっ!」 叫びを上げて、風見は頭を抱えた。 悪夢から覚めて、急激な痛みが彼を襲い、それから逃れるためにさらなる鮮血を求めよ うと心の中に巣くった鬼が彼をけしかける。 人と獣の境でもがき苦しみながら、風見は床の上をのたうち回った。 「あ…あ……ああああああああっ!!!!!」 「ひなたさん!早く、鎮痛剤です!一気に飲み干して下さい!」 ひったくるような動きで、美加香の手から瓶がもぎ取られる。 がくりと両手両膝をつきながら、風見はその得体の知れない液体を一気にあおった。 喉の奥から漏れ出ていた獣じみた呻りはやがて聞こえなくなり、ただ後にはぜいぜいと 憔悴しきった人間の声が残った。 「大丈夫ですか……?」 美加香は風見にゆっくりと近付いて行く。 突然風見が起きあがって美加香の肩を激しく揺さぶった。 目は血走り、腕はがくがくと振るえている。 「答えろ!いつまでだ……いつまで僕は生きていられる!?」 いつか来ると思っていた、質問。 そしてそのために用意しておいた答え。 美加香は軽い微笑と共にゆっくりと、諭すように答えた。 「死にはしませんよ。あなたは病気なんです。与えられた薬さえ飲んでいれば……」 「嘘をつけ!自分の身体だ、一番よく分かる……僕の命はもう残っていないんだろう!?」 分かっている……この人はもう自分が長くないことを知っている。 だが、それでも私は嘘を付かなければならない……彼のためにも。 「いいえ。大丈夫です、私がきっとあなたを殺させは……」 「嘘だ……嘘だあっ!お前は…お前はどこまで僕を騙す……!?僕はいつまで…いつまで ここで殺人鬼のまねごとをしなくちゃいけない!?」 そうだ。 来栖川につてがある、そう言って彼をここに連れてきてもう一ヶ月。 それ以来彼はずっとこの生活を続けている……。 自分は、彼を騙したのだ。 風見は美加香を涙の浮かぶ目で睨み付け、言い放った。 「お前は…最低の人間だっ!」 美加香には…笑っていることしかできなかった。 夕方の実験。 もうこれ以後はゲートをつなぐ実験はしないので、風見の出番はない。 「HMV−12が心を得るに至ったのは多分に偶発的要素が強かったからだと思われます。 同じプロセスを踏んでもいいのですが、それではマルチの心を三分割したことにはなりま せん。どこかのアナザーワールドから『心』を召還することが最良の手段でしょう」 美加香が自分の立てた計画を並み居る研究者達に説明してゆく。 それに対してのいくつかの質問、反論は予想されてしかるべきだ。 「そんなに『心』は大事なのか?制御は通常のDVDで十分では?」 「魔力は肉体的な部分もさることながら、精神にも強く影響されます。素体が肉体的な魔 力制御機構を持たないのであれば、精神的な部分、つまり『心』の存在は必須です」 自分はこんなことをしている場合なんだろうか……。 そんな考えがふと脳裏をかすめた。 自分のエゴのために苦しんでいる人だって居るのに……。 「ちょっと待った!『心』を召還するたって、どうすればいいんだ?残念ながらそんな力 を持つ輩はしらん。君は知っているのか?」 美加香は言葉に詰まった。 一番の問題点だ。 自分は召還魔術を扱えない。かといって『塔』の人材は頼れない。 強化人間プロセスが応用されたマルティーナが見つかれば、ただでは済むまい。 だが『塔』に知られずに魔道士を捜すというのは至難の業だ……。 「どうなのかね?赤十字美加香ちゃん」 自分が軽く見られていることは重々承知だった。 ここでは自分は天才でもエリートではない。たかが一開発室の主任の助手に過ぎない。 この計画も芹香に直に提案して成立したもの。周囲の反感はあつかろう。 そう覚悟してはいたものの、壁は相当に高いものだった。 だが、それは何としてでも越えねばならないのだ。 どうすればいい。 芹香に頼むか?だが、この上に芹香に助けを求めればきっと何か不利なことになる。 どうすれば……。 「そうそう。私の知り合いに新しい魔道士がいましてね……彼に頼んでみますよ」 長瀬主任が、相変わらずの人を食ったような笑みを浮かべてぽつりと言った。 美加香が驚いて目を向けると、彼はぱちっと似合わないウィンクを返して見せた。 結局会議は長瀬がその魔道士に依頼を掛けると言うことで終了した……。 「ありがとうございます、主任!」 ミーティング終了後。二人しか居ない長瀬ラボ。 美加香がぺこっとお辞儀すると、長瀬は照れくさそうに笑った。 「何、可愛い助手のピンチだ。私の手の届く場所にいる内は私の娘みたいなものだからね」 「でも……それはそれとして、いつの間にそんな知り合いを作ったんですか?」 不思議そうに美加香は首を傾げた。 魔法とロボット工学。 煙草のヤニでよごれた白衣を掛けた長瀬主任には魔道士なんて言葉は相容れないように 思えた。 「ああ、あれか。私もしらん」 「……………………………え?」 美加香が目を丸くすると、長瀬はわははと豪快に笑いながら頭を掻いた。 「いや、口から出任せなんだがみんなあそこまで簡単に納得してくれるとはなぁ〜」 「しゅ…主任!?嘘なんですか!?」 「何を言う。『私の新しい知り合いに』魔道士が入る予定だ、と言ったんだぞ。嘘はつい とらん」 確かにそうとれないこともない。 だがはっきり言ってペテンである。 美加香はへなへなと椅子に座り込んだ。 「あ…呆れた…。まさかこの期に及んで……」 「そうは言うが、この場合やり過ごすにはこれが一番だろう。お前の危機だったんだぞ」 こう返されると美加香には文句のいいようがない。 「それに……彼のためにも早く作らないとな……」 「えっ」 美加香は驚いて長瀬の顔を見上げた。 そこにはいつもは決して見せない、彼の真剣な表情があった。 「君には済まないことをした……彼も辛かろう」 「知っていらしたんですか…」 長瀬は一つ頷くと、美加香の頭をぽんぽんと叩いた。 「許せ……ここに彼を置くためにはあんな役を押しつけるしかなかったんだ」 「そんなこと…ひなたさんを連れてきたのは私ですから」 そうですよ。 私は本当は分かっているんです。 「早くマルティーナを完成させて…風見君の病を治せるといいな」 「……はい」 嘘。 マルティーナを完成させればひなたさんを病院に入れるお金が出来る? そんなのは自分へのごまかしです。 あなたは自分の研究の後始末のためにひなたさんを利用しているだけ。 ひなたさんが大事なら今すぐ病院に入れればいいのに、そうもしない。 マルティーナを完成させる、そのためだけにあなたはひなたさんの命を削ってる。 本当に……あなたは最低の人間よ。 赤十字美加香……私は。 「分かってたんだよ……」 風見は誰もいない部屋の中で顔を伏せた。 電気は点いていない。必要もないから。 「分かってたんだ……」 僕は鎮痛剤なんて飲みたくない。 それは卑怯者の行為だから。 本当の武闘家は薬などには頼ってはいけない……そう師匠が言っていたから。 僕は、まだ師匠から逃れられない。 裏切られたのに。 「分かってたんだ、僕は……」 本当は美加香が憎かったんじゃない。 彼女はむしろ僕のために薬を持ってきてくれたし、生き延びるための仕事も与えてくれ た。そもそもこんな殺しの仕事を与えてくれと頼んだのは僕だ。 僕の中の獣が、殺戮を望んだから。 ……ごまかしはなしだ。 本当は、僕が望んだんだ。何かを壊したい。殺したいって。 「分かってたんだ……分かってたのに」 僕は美加香を殴った。脅して、非難して。 こんなの僕がなりたかった僕じゃない。 これじゃ僕を虐めていたあいつ等と何も変わらない。 自分が一番嫌なモノに対抗できないから。無抵抗なヤツを代わりに虐めて。 「僕は……分かってたのに……それでも、我慢できなかった……分かってたのに」 分かってたんだよ。 サイテーなのは、自分だって事。 4月27日 『驚くべき来訪者があった。 その名は緒方英二。『塔』において私を逃がしてくれた恩人だ。今では彼も『塔』を抜 け、フリーになっているらしい。 それだけでも充分なのに、更に彼は何処から聞きつけたものかマルティーナの事を知っ ており、それについての恐るべきプランをくれた。 魔法界を下位従属世界に位置させ、そこから汲み出した魔力をエネルギーに変える。 これだけなら私の案に修正を加えたに過ぎないが、更に彼はマルティーナをその世界の 女神に据えた上で『心』を召還するのだという。 彼はこのまま製造計画に参加してくれるそうだ。まさしく天の助けだろう。 更に長瀬主任が芹香様に話を通してくれた所によると、ちょうどよく人材が見つかった とか。 全ては順調だ。 これなら彼を助けることも出来るだろう……』 (今日は……何匹殺した。もう数えるのも面倒くさい………。 殺した。それでいいじゃないか) 美加香が風見に薬瓶を手渡し、風見はそれを飲み干し、瓶を床に叩きつける。 そんな光景を見て、緒方は呟いた。 「醜い……獣と変わらないな」 その呟きを聴いた長瀬は、顔をひきつらせて緒方を見つめていた。 「いよいよ明日計画を実行します」 美加香が決意に満ちた表情でそう宣言すると、緒方はいつもどおりのにやけ顔で美加香 の顔を窺った。 「君に課されるデメリット……承知しているんだろうね?」 そんな質問はもう美加香には意味など為さなかった。 美加香は満面に笑顔を浮かべると、こくりと頷いた。 「自分が一番やりたいことのために失うものなど……惜しいものは何一つありません」 「それが借り物でも?」 ずきっと美加香の胸のどこかで、食い込んだ破片が動いた。 「英二さん……?」 美加香ははっとして英二を見返す。 だが英二の表情に変化はない。 からかうような調子で、彼は重いことをさらりと言う。 あの時も、そんな人だった。 「少年……風見君か。彼は怒りや悲しみ、絶望……そんな心の闇を力に変える能力の持ち 主のようだ。だが今の彼はそれを制御し切れていない……確かに今の彼は妖魔の数十体な ど軽く屠れる能力を持っているだろう……だが」 俄に、彼の目が細まる。 「このままでは自分の闇に潰されて死ぬぞ。……もって数日だ」 美加香は黙り込んでいた。 そんな彼女を、緒方は睨み付ける。唇は笑ったままで。 「知っていたな?知っていて……彼を見殺しにする気か?」 「マルティーナが完成すれば、ひなたさんは病院へ……」 「その頃には既に死んでいる。そのことも君は知っているはずだ」 「……………………………………………………………………」 長い沈黙。 やがて緒方は立ち上がると、美加香を背にして呟いた。 「まぁどうせ手遅れだ。せめて死ぬまでの数日、親切にしてやってもばちは当たるまい」 そして、彼は美加香を残して部屋を出る。 出ていくときに再びわずかに呟いた。 「そのやり方は……お前の嫌っていた高橋と少しも変わらない……」 「!」 美加香が振り向く。 だが、入れ替わりにドアは閉じられた。 だから、彼が一人ごちた台詞は彼女の耳には届かなかった。 「しかし……そのエゴこそが我々エンジニアの業というものなのかも知れんな……」 眼が……ぼやけてきた。 もう僕の目には闘いの時以外にはまともに光は入らないらしい……。 それでいいのかも知れない。 戦士には戦うことこそが人生なのだ。 そしてその業の深さ故にまともな死に方など許されては居ないのだ。 「いつ……死ねるんだろう」 風見の言葉は虚しく誰もいない独房に響き、砂の如く消えた。 ======================================================================== 後編に続く(って、後編の中でさらに前後編作ってどうする)