体育祭Lメモ最終競技「障害物リレー・前編」 投稿者:風見 ひなた
 何故走っているのだろう。
 頭が真っ白になりそうなランナーズ・ハイ。
 終わりのないレース、夢のない未来。
 ここからじゃあ勝ちようもないのに、それでも走り続ける私。
 参加することに意義がある、一世紀前のおじさんの言葉には意味なんてなくって。
 分かっているのにそれでも走る。
 勝ちや負けなんてどーでもいいここにいるのは全て義務、
 そんな安っぽい合理化はもうサヨナラ。
 そこに道があるから私は走る、変われる予感に身を踊らせて、今飛び立とう。
 この――大空に!

 かちっ

「うひゃああああああああああああああああああああああ!?」
「はいっ、対人地雷263号起動!隆雨ひづき選手失格!」

 本競技9人目の犠牲者だった。


 体育祭Lメモ最終競技「障害物競走・前編」


 ピンポンパンポン。
『先ほどの隆雨選手を持ちまして前半レースの選手は全員リタイヤいたしました。協議の
結果、もう一度レースを仕切り直しにいたしますので各学年はただちに選手を選抜して下
さい』
 その放送が終了するや否や。
 各陣営では悲鳴と怒号があがった……。


「お、俺は嫌だーーーーっ!」
「死ぬっ!絶対死ぬってあんな競技!」
「ええいやかましい!とっととメンバー組直さねえと不戦敗になるんだっ!」
「ひええーーーっ!?」


 最後の競技は、二人一組のレースである。
 中継地点で待つ後半戦手に前半戦手はバトンを手渡す…あとは後半戦手がゴール入りす
るだけ。
 ただそれだけの競技である。
 その競技は、障害物リレーと呼ばれていた。

「ついに来たわね……最後の競技よ」
 香奈子の呟きに、ルーンは頷いた。
「やれやれ」
 まさにどーだって良いって感じの気の抜けた返事だった。
 とりあえず香奈子はほわちゃあっ!と気合いのない部下をしばき殺すと、その隣の健や
かと会話を始めた。まるで先ほどから彼と話していたように。
「というわけで例のアレの準備は出来ているわね?」
「へ?アレってなんでしょう?」
 とりあえず香奈子はほわちゃあっ!と(略)。
 だくだくと血を流して地面にのたうつ健やかを踏みつつ、香奈子は彰の顔を見た。
「とゆーわけで!アレの準備はオッケーかしら!?」
「うん」
 にっこりと笑って頷く彰の顔を見て、香奈子は高笑いを上げた。
「うふふ…あーはっはっはっは!これでこの体育祭も最終競技!ついにあの計画が作動す
るのよ……名付けて『最終競技なんだから一人くらい殺っちまってもいいよね、てへっ。
ブリリアントでナイスでグッドな香奈子ちゃんが今渾身の力を込めて放つ史上最強のSS
使いジェノサイドアタックサイケでヒップでチョップでゴオ☆』大作戦よっっ!!!!」
(やたら長い上にネーミング最悪)
 しかし彰はにっこりと笑い続けたまま頷いた。
「うん」
「ふっふっふ……さっきの連中は小手調べ……次からは殺して殺して殺しまくるわっ!」
(さっきの連中生きてんだからジェノサイドじゃないよ)
「うん」
「さあ、愚かなSS使い共!この私に血を捧げるのよ…!そして私は月島さんとラブ☆ラ
ブ☆しまくるんだわ!ほーっほっほっほ!!!!」
(イっちまってるよこの女)
「うん」
 哄笑を上げ続ける香奈子を見ながら、彰はただ笑っていた。
 自分の世界に入っているキ○ガイ相手にはこれが一番と知っていたから。
「うん」


 三年出場者

 ジン・ジャザム&セリス
「……また……俺か、こいつ」
「何故ライバル同士で組ませるんだ?」

 来栖川綾香&柏木梓
「狙うは優勝よね!」
「あたし達の実力……見せてやるっ!」

 天神貴姫&岩下信  
「岩下さん、よろしくお願いします」
「ああ……そっちも頼んだ」

 二年出場者

 藤田浩之&神岸あかり
「少年Aじゃない…少年Aじゃない…少年Aじゃない…」
「浩之ちゃんは精神集中モードみたいだよ」

 四季&YOSSYFLAME
「何であたしはダーリンと一緒じゃないのよぉぉぉっ!」
「……逃げたいっ」

 広瀬ゆかり&貞本夏樹
「さて……一つやってみようかなっ」
「……(汗)」

 一年出場者

 Hi−Wait&月島瑠香
「待て……何故僕がここにいる?」
「古い歴史用語で『人身御供』って言うらしいですよ?」

 まさた&着物ゆかた
「……勝てそうにないんで……いっそのことかつぎましたね」
「わぁーい!まさたちゃん、がんばろぉね!」

 EDGE&柏木千鶴
「この勝負に勝てば耕一さんのはぁとは私に釘付けよね!」
「うふふ、この勝負に勝てば耕ちゃんと……☆」
(はっ)
「あはははっ」
「うふふふふっ」


「ひなたさん……何言いました?」
「別に……『勝てば一年全員で耕一さんを捕獲して自由にさせてやる』って言っただけ」
 風見の台詞に、美加香は凍り付いた。
 勝っても負けても恐ろしいことになりそうである。


「はーい!志保ちゃんがルール説明しちゃうわよ!まず前半走者は1キロの直線コースを
障害物をかいくぐりつつバトンを持ってダッシュ!バトンを落としたら失格よ!続いてバ
トンを受け取った後半走者はさらに1キロを走破してね!」
「簡単かつなんのひねりもない競技ですね」
「得点は一位から順に40点30点20点以下六位まで10点、それ以後は何もナシよ!」
「それでは走者の方々位置について下さい」
「なお実況は私ペスカレトロイカ志保とっ!」
「私カルボナーラ琴音がお送りします」
「ちなみに二人合わせてっ!」
「……あの、ビバップ号です」
「なんでやねんっ!べしっ!」
 ひゅうううううううううううううう。

 それはともかく前半走者、位置について。
 よーい……
(くるな)
(絶対に来るぞ)
(間違いなく……!)
 どん!!
《ちゅごーーーーーーん!!!》
「やっぱり来たぁぁぁ!!」
 地雷によって高々と空に舞う一同。
 まるで鳥になったような気分である。
『浮きました!障害物競走名物いきなり地雷、全員にヒット!……しかし、誰も手を離し
ておりません!さすがはタフです!』

「ふふふ……最後の競技にして、いくらトラップ仕掛けても何も言われない競技……みん
な、死んで貰うわよ☆」
 嬉しそうにスクリーンを眺めてる香奈子を見て、ルーンは健やかに耳打ちした。
「すこちゃん、この女対人地雷禁止条約って言葉知ってると思うか?」
「さあ、とりあえず学内は治外法権だからねぇ」
 その前にいつの間に埋めた、そんなもの。


「はっ、ばからしい!地雷なんかジェットスクランダーで飛んでいきゃいいじゃねえか!」
 ジンは一声上げると、空に向かって飛んでいった。
 その瞬間、スタート間際の円筒からぼしゅぼしゅぼしゅと何かが発射される。
「……え?」
 それがジンに向かって激突せんとする寸前……。
 妙にジンの眼が大きく見えた。

 ちゅごーん、と対空迎撃ミサイルの音を聞きながら香奈子はニヤリと笑った。
「まず一人」
「本気だ……この女、本気だよすこちゃん」
「…どこから買ってきたんだろうね」


「くっ……まだまだーっ!」
 Hi−Waitはだくだくと血を流しつつ頭から着地した。
 それでも死なない君が素敵だと思う。
「うおりゃああああーーーーっ!」
 対人地雷10号起動。
 Hi−Waitは再び鳥になった。

「私は平気私は平気私は平気……地雷は絶対に私じゃ爆発しない」
 その根拠は。
「だって女優だもの☆」
 ちゅどーーーーーーん。

『空を飛ぶのは反則に指定されたようです。みんな、飛んじゃだめですよ』
『誰が飛ぶのよ、誰が』
『みんな個性的な方法で走ってますね』
『聞けやおい』
『おや、一際個性的な進み方をしている人が居ますね』
『……げっ』

 ごろごろごろごろ。
「マトモに走る方がどうかしてますね、これは」
 まさたはてくてくと歩いていた。
 巨大な球体の上を。
 ときおりばむっ!とその下で音がするが、さすがにポチを吹っ飛ばすことは出来ない。
 そう、まさたはポチを召還してその上を玉乗りのように歩いていた。
 再びばむっという轟音が足下を揺るがす。
「……ん?」
 足下から無言の重圧を感じてまさたはポチを見下ろした。
 全身の瞳からだくだくと涙を流し、ポチが抗議の視線を浴びせている。
「なんだい、その眼は。いいから早く転がりなさい」
 けりけりっ。
 ぴくっ…………。
 ずおぉぉぉぉーーっ!
「うわぁぁぁっ!?」
 突如ポチがむくっと起きあがり、まさたは転がりおちる。
「いきなりなんだポチ!危ないじゃ……」
 言いかけて、まさたはこほんと咳払いした。
「いや、僕が悪かったよ。君の気持ちも考えず……その……怒ってる?」
「…………………………」
 無言の重圧をかけてくるポチ。
 まさたは一つ頷くと、その場から全力疾走した。
 ごろごろごろごろごろごろごろごろごろ!!!!!!
「うわぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?」
 飼い犬ならぬ飼いショゴスに手を噛まれるまさたであった。

「別に飛んではいないけど浮くのはアリですよね」
 貴姫はすいすいと地面を蹴って進んでいった。

 ちゅごーん、ちゅごーん。
 爆音を背景にひた走る一人の少女が居た。
 いくら吹っ飛ばされてもそれでもくじけずに走っていた。
「負けない……負けられない!」
 綾香はそう叫びながら、突撃して行く。
 前へと。
 かちっ。
『あっ、前半の目玉超巨大地雷あんごるもあ君作動!!』
「えっ………ええええええっ!?」
 そのとき、綾香はどんっと突き飛ばされた。
 振り向きざまに彼らの顔を見る。
 ハイドラントと悠朔。
 彼らは。
 笑っていた。
「我等が人生に………一片の悔い無しぃぃぃーーーーっ!」
「そのとぉりぃぃーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」
 空高く、空高く吹っ飛んで行く二人。
 綾香はそんな二人を見て思わず涙ぐんだ。
「あんた達っ……」
 やがて…………………。
 黒こげになった二人が目を回しながら落ちてくる。
 綾香はそんな二人にとりすがり、顔をうつむけた。
『えーと、競技の途中ですが……綾香選手は第三者の手助けを受けたので失格です』
「うりゃあああああっ!」
 綾香は問答無用で消し炭達に蹴りを叩き込んだ。
 ひでえ。
『いやー、さすが前半の目玉あんごるもあ一号君。泣かせてくれますね』
『あんごるもあ……一号?』
 その言葉を裏付けるように、二号を踏んだHi−Waitが空高く舞い上がった。

「一気に三人ね」
「どうしようすこちゃん、この女本気でジェノサイドする気だよ」
「今の内に息の根止めたいけど近寄れないね」

『おや、地雷が関係ない方々も居ますね』
 走っていた。
 ただ、走っていた。
 勝利のため、そんなちっぽけなことのためなんかじゃない。
 生命のために。未来のために。
 ただ、走っていた。
 泣きながら。
「ダァァァァァァァリィィィィィィィィン!!!!!!!」
「いやぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーっ!」
 地雷が炸裂するよりも早く、ただ二人は走り続ける。
 ぐるぐると。
『でも先に進んでませんね』
『こまりましたねぇ』

 その頃EDGEは、今にもゴールに到着せんとしていた。
  恋する乙女は無敵なのである。
 強いのである。
 だから地雷も恐くて爆発できないのである。
 そんな馬鹿な。
(いける!このままならいけるっ!そして……そして耕一さんは……)
「私のものーーーっ!」
 その瞬間………背後から強烈なまでの風が彼女を襲う。
「……え?」
 問い返す間もなく……EDGEは吹っ飛ばされた。

『な、何と言うことでしょうか!信じられないことが起こっています!』
『竜巻ですねぇ』
『問答無用で竜巻です!』

「ダァァァリィィィィン!!!!待ってぇぇ〜〜〜〜!!!」
「どひぃぃぃぃぃっ、くるなぁぁぁーーーーーーーーーーっ!!!」
 ぐるぐると高速で回り続けた二人は……竜巻を産みだし、空へと飛んだ……。
 走っていた人も倒れていた人も巻き込んで。

『自動対空ミサイル管制解除。発射準備。ふぁいあ☆』

 そんな可愛らしい声と共に、8発のミサイルが正確に飛んでいる選手達を直撃した。

 ちゅどーん☆


 ……ひゅるるる。
 ぐしゃあっ!

「せ……セリス……こ、これを……がくっ」
「ジン!……見ていてくれ、君の志……僕が継ぐ!」

「岩下さん……なんかいきなりボロボロなんですが……」
「何も言うな!君の分まで、走ってやる!」

「あかり……」
「浩之ちゃん……私、私やるよっ!宇宙撫子の名にかけてっ!」
 誰だお前は。

「とゆーわけでYOSSY、後はしっかり走るのよ?」
「……なんで生きてんだ、あんた……」

「貞本、あとは任せたわよっ!」
「それより委員長、大丈夫なんですかっ!?今地雷とミサイルがっ!?」
「だって女優だもん☆」

「ああっ、やーみぃさん……こんなに黒こげになって……」
「………」
「分かりました。私、あなたの分まで頑張って走ります!」
「……………」

「まさたちゃん、生きてるにゃー?」
「死ぬかと思いましたよ、はっはっは」
 何故…生きてる…。

「いいざまねEDGE……だけど安心して。耕ちゃんは私がいただいてあげるからっ!」」
「こ……この年増ぁぁ!」
「何よっ、やる気っ!?」
「うぎゃああああーっ!」
「きしゃああああーーっ!」

『予想も付かない展開になりました。後半選手、全員同時にスタートです!』
『ってゆーか前半の人たちって無意味ですよね』

『うるせぇぇぇーーーーーーっ!!!!!』
 選手達の無念の叫びが変型グラウンドにこだました。


「ふ…ふふっ…!さあ、次よっ!次は全員皆殺しよっ!」
「ところでもしかして前半って地雷だけか?」
「そんなの障害物競争じゃないよね」


 その頃グラウンドの片隅では……。
 ティリアと一緒に梓が「の」を書いていじけていたという。

              後半に続く