Lメモ外伝「赤十字美加香の日常5・帰郷編」 投稿者:風見 ひなた
「そう言えばマール、風見と美加香はどこへ行ったんだったかな?」
「神戸だそうですよ。お墓参りですって」

 

 お母さん…お父さん…日陰。
 今年もこの季節がやってきたね。
 僕は元気でやってるよ。強くなったんだよ。
 みんながいなくても、もう立派にやっていけるんだよ。
 でも、みんなは変わらないね。
 いつまでもみんなは歳を取らないんだ。ただ、僕だけが取り残されている。
 僕の中では二年前のあのときからみんな止まったまま。
 そっちへ行きたいと思う事も何度もあったけど、僕はやって行くよ。
 だからみんな……来年もここへ来る。またね、日陰。



「いくか、風見」
「ああ」
 そして風見、Hi-Wait、智子、美加香、それから瑠香とルーティの順に礼をして、
彼らは風見家の墓の前を離れた。


 Lメモ外伝「赤十字美加香の日常5・帰郷編」
       註・この作品時間は時季外れですがゴールデンウィークです。

「たしか神戸って美加香ちゃんの故郷でもあんねんな?」
「そうですよ、私も神戸生まれですから」
 そ・の・わ・り・にぃ!
「なんであんたは神戸弁喋らへんのっ!」
「きゃーーーっ!?」
 智子にチョークスリーパーを極められている美加香を横目で見ながら、Hi-Waitと
風見は今後の予定を決めあぐねていた。
「どうするよ、これから?」
「うーん…僕の方は墓参りで用事は終わったんだけどなぁ……」
「かといってここで帰るってのも……」
「ちょっとそこもっ!」
 突然智子にびしっと指差され、思わず二人はすくみ上がった。
「はいっ!?」
「ひなた君もやーみぃ君もなんで神戸弁喋らへんの!」
「ひゃああっ、ごめんなさいっ!?」
 風見は幼いころから智子にだけは弱い。
 ともかく智子にしかられるとどんな不合理な事でも謝ってしまう。
 その点、Hi-Waitはもうちょっと耐性があった。
「いや、そうは言っても智子さん……隆山市はほら、特別な言葉遣いするし、下手に
他の地方の方言使うのも……」
「情けないなあっ!あんたら神戸人の誇りとかアイデンティティとかそーゆーもんは
どこに行ったんや!」
 智子はなんだかやたらと怒っている。
「どうしたんでしょう、保科先輩」
 瑠香がぼそぼそと美加香に話しかけると、美加香はため息を吐きながら応えた。
「いや…単に自分だけが神戸弁喋って苛められたのにみんなが順応したから置いてき
ぼり食ったような気がしてるだけやろ」
「あっ」
 瑠香が呟いた瞬間、くるっと智子が振り向き明るい顔をして近づいてきた。
「それや!美加香ちゃん、神戸人はそうやって喋ってこそ神戸人やっ!」
「あああ、矯正したのに……矯正したのに〜〜〜!?」
 智子が美加香を苛めている間に、二人は全力で行き先を決める事にした。
「しっかし神戸は観光名所がないからな〜〜」
「異人館やグラバー邸くらいか……布引ハーブ園とか行っても何も面白くないしな」
 ちなみに風見もHi-Waitも実はあんまり観光名所を知らない。
 地図とにらめっこしていると、瑠香がやってきてやーみぃに行った。
「やーみぃさん、私せっかく初めての場所に来た事ですしみなさんにお土産を用意し
たいんですが……」
「土産?……なぁ風見、神戸名物って何だろ?」
 風見は少し首をかしげていたが、やがてため息を吐いて言った。
「うーん、神戸牛……かなぁ?」
「うっ………」
 ちょっと高い。
 二人が渋い顔をしていると、瑠香がにっこりと笑った。
「あっ、聞いた事あります。カルフォルニアとかオーストラリア産の牛肉を化学薬品
で処理して国産牛くさくした奴を神戸で売ることですよね!」
 ………………………………………………………………………………。
「いや、そーゆーとこもあるかも知れないけど………」
「その台詞、あんまり大声で言うなよ………」
 別に神戸牛でなくても近江牛や佐賀牛だって悪質なところはそうやってるんだろう。
 まぁ本物だろうがニセ物だろうがどっちみちかなり高い。
 一介の高校生にはちときつい。
「じゃあ……ゴーフルかなぁ?」
「アレか……」
 Hi-Waitはあんまり好きではない。
 瑠香はぽんっと手を打つと知ってる知ってると呟いた。
「あの炭酸せんべいにクリームをサンドしたみみっちいお菓子ですよね!なんだか駄菓
子屋さんで売ってるっぽいチープな……」
 二人は瑠香の台詞にぎょっとして身構えた。
 来る。あの恐怖が再び。
「あんたは神戸になんか怨みでももっとんかーーーーっ!!!!」
「きゃーーーーーーーーっ!?」
 瑠香は智子にヘッドロックを食らって悲鳴を上げた。
 確かにそんだけされても文句は言えない。
 Hi-Waitはふうっとため息を吐くと、風見に向かって言った。
「んじゃ僕の方は瑠香と智子さんでおみやげ探してくるわ」
「ふん……僕たちはどうするかな?」
 風見が呟くと、美加香が元気よく手を挙げる。
「あっ、じゃあ私の実家に来ませんか?私も実家に帰るの久しぶりですから、友達が
いてくれた方が……」
 その言葉に、暇そうにしゃがんでおもちゃで遊んでいたルーティも顔を輝かせる。
「あー!あたしも美加香さんのおうちいきたーーい!」
 風見が振り返ると、Hi-Waitがどうするんだ、と言うように見ている。
 わずかに笑うと、風見はにっと笑った。
「そうだな……どんな教育したらこんなバカができるのか聞いてみたいな」

 Hi-Wait、瑠香、智子と別れた風見達は山の手の方にやってきていた。
「んで……お前の家、どこにあるんだ?もうちょっと上の方か?」
「あっ、大丈夫ですよ。別に歩く必要ないですから」
 美加香はそう言ってカラ、ぴぽぱと携帯電話のダイヤルを入れた。
 一瞬の待ち時間もなくすぐさま受話器が取られる。
「あ、私です。今帰ってきてるんですけど、よかったら車一台回してくれません?」
「……車?」
 風見はルーティと顔を見合わせた。
 待つ事十数分、やがて黒塗りの車が現れる。
 ルーティでも高級車の値段が普通どのくらいかは分かっている。
 ぎょっとした顔で立ちすくむ二人を尻目に、美加香は運転手に声を掛けていた。
「ちょっと遅かったですよ」
「はっ、なにぶん突然の事ですので……申し訳有りません、お嬢様」
『お嬢様?』
 呆然とする二人に、美加香はこともなげに声を掛けた。
「さ、乗ってください」

「……………………………………」
「……………………………………」
 風見とルーティは空を見上げながら、ため息を吐いた。
 今暮らしている家の何十倍くらい大きいんだろうか……。
 美加香はさっさと屋敷の中に入ってしまった。
「なんか……今突然世の中を不条理に感じた……。何であいつの親の家がこんなに
金持ってるんだ?」
「お金ってあるところにはあるんだねー………」
 ちょっとずるい気がした。
 それでもなんとか我を取り戻すと、二人は美加香の後を追って屋敷の中に入る。
 そこには、異様に高い階段の上に佇む二人の中年男女がいた。
 女性の方は美加香に非常に良く似ている。良く似ているが胸がある。
 かなり違っていた。
 そしてその階段を美加香が全力で登り詰めている。
「ただいま、お父様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「おおっ、我が娘よぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
 そして美加香が父の胸に飛び込もうとした瞬間、美加香の父の鉄拳アッパーが
輝く。
「親に連絡も入れずこの二年間何しとったんじゃぁぁぁぁぁ!!!!!」
 怒りの一撃は美加香を天井高くフッ飛ばした。
「うきゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!?」
 そのまま美加香は階段落ちしながらごろごろと風見達の足元へ転がってくる。
 あまりにも異常な出来事の連発で風見とルーティの思考回路はショートを起こし
ていた。
 そんな二人の元へ、美加香の父らしき人物はずんずんと歩み寄ってくる。
 何故か地響きすら聞こえるような気がした。
「まったくこの不良娘!塔を脱走したと思ったらそのまま行方不明になりおって」
 そう言いながら、父は美加香を抱き上げる。
「心配……したではないか」
(あ、結構いいお父さんなのかも)
 部外者の二人はそんな事を思いつつ目配せを交わした。
「お…お父様……」
「美加香よ……っ!!!」
 ばきぼきがきごきいいいっ!!
「ああああっ、お父様痛いぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」
「どやかましいっ!お前が行方不明になってた二年間母さんがどんだけ心配したと
思ってる!」
 ああっ、なんだかとっても美加香の親だ!
 風見はごくっと唾を飲んでその光景を見守っていた。
 一応スキンシップなんだろうか?
 その奥から何やら両手一杯に抱えた上品そうな婦人が降りてきている。
 胸があるがそれ以外は一応美加香にそっくりな所を見ると母親らしい。
 何故あの親からこんなちみっちゃい娘が。
 謎である。
「さあ、美加香ちゃん!早速この二年間たまりまくった縁談に目を通してもらいま
しょうか☆」
「ええーん、やだーーーーっ!!」
「駄々をこねるな!お前も15歳、赤十字家にふさわしい婿を選んでもらうからな!」
 呆然としていた風見ははっとして呟いた。
「え…縁談!?」
 何やら非常にやばい事が進行している。
 もちろん風見には美加香がどうなろうと関係ない。
 関係ない…はずなのだが…。
「美加香さん、結婚しちゃうの!?」
 ルーティの呟きで、風見は胸の奥がずきっと痛むのを感じた。
 美加香はきっと両親をにらむと、叩き付けるように叫ぶ。
「勝手に決めないでよっ!今までお父様達の言う通りにしてきたけど、もう私だって
腕一本で食べていけるんだから!私は政略結婚の道具なんかじゃないのっ!」
 事実である。
 何故こいつにこんな才能があるのかはさっぱり不明だが、美加香はHM製造につい
ては異端の才能を発揮する。もちろんその話は業界では有名で……。
(待て)
 風見は違和感を感じて考えを中断した。
(そんな有名人なのにこんだけの資産家の両親が知らない?それは……ありえない)
 とすると思い付く事は一つ。
(わざと泳がせている……?)
 美加香父はほぅ、と呟くと娘を見つめた。
「では……私たちの援助が要らないというのか?生活も!結婚も!自分だけで出来る
のだな!?」
「そうよ!それに私、もう心に決めた人がいるんだからっ!」
 美加香の宣言に、風見はどきっとした。
 もちろんそれは自分ではない。
 佐藤雅史…誰よりも一番大嫌いな男だ。
 それを分かっているだけに、風見は心臓を抉られるような気分になった。
 美加香父はそこではじめて気がついた、といわんばかりに風見を見た。
「ふむ…それはあそこの少年か?」
「えっ?」
 風見と美加香が言葉を失ったと同時に、美加香父は足早に近寄ってきてむんずと
風見の胸座をつかんだ。
「ふん、こんな小童が!」
(早い!?)
 風見はぎょっとして美加香の父を見返した。
 この男、単なる中年でも資産家でもない。かなり実戦を積んでいる。
 意表を突かれた風見の顔を値踏みするように見ながら、美加香父は不満気に呟く。
「青臭さが抜けない、背が低い、頭はあまり良くない……こんな男のどこがいいの
だ!?」
 大きなお世話である。
 大体風見は美加香の恋人ではない。
「それにこの瞳!世を拗ねたような……む!?」
 驚いたように美加香父は呟くと、まじまじと風見の瞳を覗き込んだ。
 そして、なるほどなとひとりごちてから風見の胸を放した。
 風見は呼吸を止められ、むせ返る。
「けほ、けほっ…!」
 美加香父はにやりと笑って風見を見つめる。
「合格だ…」
『はぁ?』
 美加香父は何が起こったか分かっていない風見をびしっと指差すと、言い放った。
「私はこの家に婿入りして三十年、さまざまな人間を見てきた……その眼は色々だ。
君はかつての私と同じ光を宿した眼をしている!」
「同じ光、ですって…?」
「そうっ!」
 美加香父はぐぐっと拳を握り締めると叫んだ。
「初めはうっとおしかったつきまとう女の子がだんだんちょっといいなと思えてきて
ふとした気の迷いからとり返しのつかない間違いを犯してなし崩し的に結婚に追い込
まれてしまい、気がつけば妻の尻に敷かれつつなおかつその生活に幸せすら感じてし
まう……そんな宿命を背負った眼だ!」
「前途ある若者になんて事言いやがるこの親父!!」
 風見の罵声をさらりと流して美加香父は風見の肩を叩いた。
「はっはっは、そう言う所もかつての私にそっくりだ!ちなみにこのジンクスは私で
三十代続き、君で三十一代目だよ!」
「勝手に人様の息子にわけのわかんねージンクスはかせてんじゃねえええ!」
 そんな風見と美加香父を、美加香母はにこにこと嬉しそうに眺めていた。
「あらあら、昔のお父さんと同じ事言ってる」
「……母さん……もしかしてお父さんをハメたの?」
「うん」
 ……………………………………ウチの家系って………………………………………。
 美加香はつつっと汗を垂らしながらなんとか持ち直し、父に向かって声を掛けた。
「お父さん、その人は単なる同居人なのっ!」
「何っ!?もう同棲までいってるのかっ!!」
「てめえ馬鹿親父!誰があんなミサイル体型に手を出すかっっ!!」
「はっはっは、照れるな照れるな!母さんも昔は胸なしだったぞ!」
 ごすっ!!!!
 ばきっ!!!!
 ごしゃああっっっ!!
 ぽたぽたと血を垂らした花瓶を元の位置に返しながら、美加香母は歩き去って行
った。
 とんでもない性格の一家だ。
 とっとと逃げ帰ろうとした風見の目に、目を丸くしたまま固まっているルーティ
が入った。
「おっ………その子は?」
 発見された!?
「その子はルーティっていって、私が造ったHMの女の子よ」
 びくっと全身を震わせてルーティが飛び上がり、ぺこっとお辞儀した。
 なんだか動きがぎこちなかったが。
「あ、あた…私、HM−212B・ルーティですっ!」
「!?」
 美加香父はそんなルーティを見て硬直したが、やがて喜び一杯に叫んだ。
「おおっ!?初孫までっっ!?」
「違うわ!あんたいっぺん脳外科行けっっ!!」
 美加香父を既に美加香の感覚で問答無用でどつき倒す風見を見ながら、美加香母
はほれぼれと呟いた。
「まぁ…もうあんなに打ち解けて」
「打ち解け……てるのかなぁ?」
 ある意味で打ち解けている。
「よし、もはや美加香の婿は君しかありえん!決定な!きーめたっと!」
「おいこら!てめえ、何勝手に独り決めしてんだっ!僕の立場はどーなる!?」
「お父様、だからひなたさんは私の好きな人じゃなくって……」
「ルーティちゃん、後でおばあちゃんが作ったケーキ食べましょうね」
「わーい、ありがとうおばあちゃん!」
「母さん、祝言の用意だっ!」
「あああああああああああっ、何言っても聞かねえところがなんかすっごく美加香の親!!」


 その頃やーみぃ家では………。
「瑠香ちゃんたらお料理上手なのね。これなら孫も丈夫に育つわ」
「くすっ、ありがとうございます」
「………おい」
 やーみぃの呟きを無視して、やーみぃ母は瑠香に笑いかけていた。
「仕様のない息子ですけど、末永くよろしくね」
「はい、任せてください!」
「お前ら、僕を抜いて何話してんだぁぁぁ!!」
 Hi-Waitの言葉に、やーみぃ母はきっと息子を睨み付けた。
 はっきり言って、怖すぎる。
「うるさいっ!私は瑠香ちゃんと話してるんだから、向こうで遊んでなさいっ!」
「すみません、やーみぃさん」
「僕の話を聞けええええぇぇぇぇぇ!!!」
 その後ろでは智子がずずっとお茶をすすっていた。
「あきらめ」


 ゴールデンウィーク終了。
 ようやく風見は隆山に帰ってきた。
 ただし、ボロボロになって。
 ぺこぺこと頭を下げる美加香に、風見は険悪な口調で呟いた。
「ふ…ふふ……あの親父、人を縛り付けて帝王学を24時間連続でブチコみやが
って……ようやく脱走してきたんだぞ………」
「あの…その事なんですけど、是非来年も神戸に来いって……養子縁組の準備も
するとかで名士をたくさん呼ぶとか……」
 申し訳なさそうに言う美加香に、風見はばきっと手にした杖を握り潰した。
「もう帰らんっ!絶対に神戸にゃ帰らねえからなぁぁぁぁ!!!!」


               墓穴オチ

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ひ:そんなわけです。
み:はい、二日間で四作品ご苦労様でした(汗)
ひ:やーみぃ、自爆は楽しいなぁ?(くくくっ)
み:今回のごめんなさい大賞はっ!?
ひ:ずばり!やーみぃのお母さん!ごめんねやーみぃ、反省してたって伝えてね。
  いや、伝えなかったらバレないから伝えなくても許可(苦笑)
み:はい、それではいきなりですがっ!
ひ:「なんか全然内輪じゃないかっ!?」風見ひなたと!
み:「いいから勉強してください!(汗)」赤十字美加香がお送りしました!

  ちなみに美加香の親の会社は、実は某電話会社らしい(大嘘・笑)