『どよめけ! ミスLeaf学園コンテスト』第二と二分の一話 〜スタート後しばらくのふたり〜 投稿者:弥雨那 希亜

「いいのかなぁ」
「なにが?」
「だって、戦力的にはお前さん一人では…」
「分かっます。 でも、もう決めたことだから」
 ここは学園内の森の… いや、鬱蒼と茂ったジャングルの木の中に残っていた大型
の鳥の巣の跡に、二人が背中合わせで座り込んでいた。
 一人はこの日のために指定の生地で作り上げた袴姿のポニーテールの巫女さん、ど
よこんエントリーの悠 綾芽。
 もう一人はメカメカしい箒Rising Arrowを片手に、濃紺のマントの上からリュック
を背負い、烏の風切り羽根を刺した濃紺の唾の広い帽子を被っている、自称超音速の
箒乗りの弥雨那 希亜。 白い鉢巻きは帽子と頭の両方にまいている。
(今の私は彼女の従者か、なれば彼女の決定には従おう。 しかし、どうも緊張して
いるみたいですね、長丁場になると問題が出てきますねぇ…)
 そう考えた希亜は、背中のリュックから静かに携帯用ティーセットを取り出すのだ
った。

 二人ともはじめから隠れることに徹するつもりだった。
 腕っ節に関しては、当てにする方が間違いの希亜と、そこそこ強い程度の戦う音声
魔術師、そのたった二人で最後まで戦い抜く事が無理な事は、誰の目にも明らかであっ
た。 だからこそ出来るだけ人気の少なく、移動困難な所にひとまずの陣を構え、こ
こから学校の様子を観察しているのだった。

 綾芽がのぞき込んでいる双眼鏡の先に、見知ったそして暖かく大きな人物の姿が入
る。
「あっ、パパ」
 廊下で展開されている防戦の様子が見て取れる。 そっと「がんばって」と思い別
の場所に視界を移す。 他にも色々と校舎を見渡すが、まだ誰も失格した気配はない。
 双眼鏡から目を離す、風が頬を伝ってゆく。
 ふと時計を見ると、スタートから既に1時間半が経っていた。
 後ろを振り返る…
 視線の先の彼は遠い目をしたままに、いつの間にか用意したステンレス製のコップ
二つに、ゆっくりとお茶を注いでいるところだった。
「どうしてお茶なんか!?」
 即座に飛ぶ罵声。
 自分が真面目に辺りの様子を伺っているのに、この目の前の人物は悠長にお茶をい
れている。
 だが彼は、ゆっくりと最後の一滴まで注ぎながらに言う。
「戦いはまだ始まったばかりです、緊張するのも良いですけど、リラックスすること
も忘れてはいけませんよ」
 のんびりとそう言いながら、お茶の注がれたコップを綾芽に差し出す希亜。
「それに、この周辺には私達しかいませんでしたから」
「どうして分かるのですか?」
「ジャングルと話したんです」
 綾芽の思考が一瞬止まる、ついで一時前の出来事を思い出した。 背後に一瞬何か
大きな力を感じ、気になって振り返ったら希亜が寝ていた事と、何か魔法を使った後
には、彼が気絶することを。
 そこまで思い出して、綾芽は希亜からコップを受け取り一口啜る。 口の中に広が
る少し苦く、そしてどことなく甘い緑茶。
 その味が身に染み込むように、心が落ち着いてゆく…
「ありがとう」
「どういたしまして。 でも、一部の魔法使いには、ピンを打ってしまったようなも
のですね。 なれど、空でも飛ばない限りこの密林のこの場所はそうそう分かるもの
ではない… といいですけど」
「しばらくは、大丈夫そうね」
 お互いに背中合わせに座りながら、それぞれにお茶を啜る。
 風だけが静かにここに在った。
 どちらにせよ、まだ始まったばかりなのである。