どよめけ! ミスLeaf学園コンテスト』 第三十話 〜よるの幕での一場…〜 投稿者:弥雨那 希亜

 ジャングルの中の大樹の鳥の巣跡。
(トイレ以外にお風呂の方も考えとかないと行けませんねぇ…)
 夜のとばりに身を任せるようにして、闇に包まれる感覚を快く思いつつ双眼鏡で校
舎の方に目を走らせる。
(綾… ううん芹香さんですね)
 服こそ綾香の着るような類の物だが、相手との会話の様子から希亜はそう判断した
、そこに見える範囲では綾香の姿はない。
(ゆーさくさんをこっちに引き込めれば良いんですけど。 遊撃には悪くありません
し… 使えるかな、便乗… 長期戦の用意をしていたから、綾芽さんの服は複数ある
し、一応芹香さんのマントもどきは用意してありますから… 闇に紛れるのならば悪
くはないか。 よし、やってみますか…)
 そんな事を考えながら朔を探す為に双眼鏡を覗き続ける。
 しばらくそうしていると、背中のリュック越しにもたれていた綾芽が、もそもそと
動いたのが伝わって来た。
「どーお?」
 眠そうな声の綾芽に、希亜は時間を確認して。
「睡眠時間はだいたい3時間ですねぇ、もう少し眠った方がいいんじゃないですか?」
「でも希亜君は?」
「あなたがもう一眠りしてから〜、まぁそれから仮眠をとるつもりなんです。 それ
にまだ11時ですから…」
「ねぇ…」
「ん?」
「お風呂、入れないよね?」
「それは…「ごめん、始めに希亜君言ってたよね」
「それなんですけど、お風呂に拘らなければ方法がないわけでも無いんです」
 背後の気配がわずかながら変化したように感じた希亜は言葉を続ける。
「あんまり期待しないで下さい。 まず安全を確保できなければ何もできないんです
から」
「うん」
 期待が少し混じった綾芽の返事に、希亜は少し困惑しつつもいくつかの提案を示し
た。
 一つはジャングルの中にある川で、一つは綾香の集団やスフィー達と合流して、一
つは戦艦冬月に進入して…
「ママに迷惑かけたくない…」
 その綾芽の呟きに対して、
「迷惑ですか…。 あの人はそんな事は思いませんよ、あなたが決めたことであれば
ね」
「うん、ママだもんね」
「で、ですね。 悪く言えば、現在も勝つために手段を選べる状況にありません。 
だから、考えることは出来れば任せて下さいね、綾芽さんは何かあったときには逃げ
ることを考えていて下さい」
「…どうすれば勝てると思う?」
「とりあえず、こちら側のユニット… つまり味方を増やさないと」
「どうやって?」
「ゆーさくさんには声をかけるだけですみますし、そうですね…」
 そう言ったきり、ぶつぶつと呟き始める希亜。
 綾芽の耳には、色々な場合を想定しているらしく、色々な場所色々な集団の名前が
断片的に入ってくる。


 ジャングルの中。
「ねえさん、本当にこっちでいいんですか?」
「大丈夫、希亜を鍛えたのはあたしなんだから」
 自信満々で言うスフィーだが。
(希亜君に色々教えたのはほとんど私なのに…)
 ジャングルの中を進んで行く二人、もちろん道など無いうえに足跡一つも残っては
いない、その上希亜の魔力を感じたのはお昼前である。
(空を飛んでくれれば、見つけやすいのですが…)
 いかに魔力感知に集中していても、魔法を使っていなければそう易々とは発見でき
ない。


 木の上。
「ところで綾芽さん。 上に上がりましょうか」
 唐突に希亜は言った。
「どうして?」
 そう率直に質問する綾芽に希亜は。
「曇ってますから、絶好の隠れ家になりますし。 じっとしている方が見つかりやす
いと思いますから、それに闇夜に無音で滞空できる参加者も結構少ないでしょうから、
それとこれに着替えて下さい」
 少し考えてから、希亜の考えを肯定したのだろう綾芽は大きな気のうろに入り身支
度を始める。 渡された指定の特注制服と魔法使いの…
「希亜君これって?」
「はい芹香さんのものと同じように作ってもらいました。 まフェイクに使えますよ」
「ちょっと待っててね、準備するから」
「はい、では一度ピンを打ちます。 早めに起こして下さいね」
「うん」
 綾芽の返事を聞いて、希亜は意識を集中し魔法を使う体制に入る。
 ジャングルと話して等というあまり実感のわかない魔法だが、希亜の数時間に及ぶ
苦悩の結果の説明によりパッシブソナーと言う事で何とか納得してもらった。


 ジャングルを希亜を探して、実際には当て所無く歩いているリアンとスフィー、そ
れは丁度二人が休憩を取っている時だった。
「え?」
 魔力感知に意識を集中していないはずの二人にも、はっきりと分かるほど鮮明な、
グエンディーナ系の巨大な魔力の固まりが虚無へとはじけるような感覚。
「希亜君の魔法ですね」
 ほぼ頭上で感じた、その感じにスフィーは鋭く妹を見上げ。
「行くわよリアン!」
「はい、姉さん!」


「だめ…」
 背後の希亜が急ぐようにそう言って言葉がとぎれた、気を失ったのだ。
「ちょっと希亜君?」
 既に着替え終え、辺りを警戒していた綾芽は振り返り、真意を尋ねようと起こしに
かかった直後、
「この辺りで…」
 目の前の宙に、二人の魔法使いの姿があった、一人は少し破れたエントリー者用の
特注の制服を着ている。 そこまで把握した綾芽は思わず希亜を前にしたまま、その
場で長刀を構えていた。

(希亜君が守るって言っていた、綾芽さんですよね。 希亜君は、…あっ!)
 長刀を構えた特注制服にマントを羽織った姿の綾芽と、ぐったりとしている希亜を
とらえた。 その一瞬で状況を判断したリアン。
 彼女が即座に一言姉に告げようと思った矢先。
「やるって言うの?」
 目の前の姉はゆっくりと希亜君の前、鳥の巣跡の縁に降り立つ。
「あの、姉さん」
「分かってる、すぐに終わらせるから」
「ああ…」

(目の前の魔法使い…、前に出場者の情報をママと一緒に見ていたときにいた、希亜
君と同じグエンディーナの魔法使いで、希亜君の魔法の師。 一人だったら多分勝て
ない、希亜君を何とかしないと…)
 使い慣れているはずの長刀を持つ手に迷いが走る。
(希亜君… 逃げてって言っても、こんな木の上からどうやって逃げればいいのよぉ)

(さっさと終わらせて、希亜をこっちに引き込んで、リアンの言うとおりに逃げ回る
のに使えれば…)
 前にリアンにも指摘されていたが、少々の不安をスフィーは感じていた。 こうい
う手段に出た場合、希亜の性格上そう易々とこちら側に付くかを。


 ほんの少しの時間がとても長く感じる、そんな三人の緊張感を、
「なぁ〜う〜〜〜〜〜っ」
 猫の鳴き声を少し低くしたような声が持っていった。
「希亜… 君?」
 リアンの問いかけるような声を受けるように、当の希亜はゆらりと立ち上がり、
「どうしますかぁ? 二人とも〜」
 そういつもののんびりとした口調のままに言い、向き合う両者に対して丁度横を向
いて瞳を閉じた。
「場合によってはぁ…」
 そう言って瞳を開き遠い目をしている希亜。
 直後リアンとスフィーの二人は、嫌でもはっきりと分かるほどの魔力を、希亜の中
に感じた。
「大丈夫、きっと上手くいく」
 スフィーは戸惑いつつも防御魔法の体制に入り、綾芽は長刀を構えたままおろおろ
しており。 この小さく呟く希亜に安心したのはリアンただ一人だった。
 その様子を視界以外の全てで感じた希亜はそのまま、
「リアンさん…」
「やっぱり、事を構える気はないんですね希亜君は」
「綾芽さんとスフィーさんさえ、よければですけどぉ」
「希亜君?」
「綾芽さん、戦いますか? 出来れば今は、任せてほしいんですけど〜」
 いつもののほほんとした口調の希亜に、少なからず安心したのか、
「うん。 お願い」
 ゆっりと長刀をおろしつつスフィーに注意を払う綾芽に、希亜はクスリといたずらっ
ぽく笑みを返し、ふわりとスフィーの方に向き直り口を開く。
「スフィーさん、見ての通り綾芽さんのチームは私と二人です。 よければご一緒し
ませんか?」
 スフィーはリアンの方へと振り返り、「どうしようか?」と、でもいいたげな視線
を送る。
「姉さんさえよければ、私はしばらくは希亜君達と一緒にいた方がいいと思うんです
けど」
「じゃ決まりね」
「さて、私のことはいいですよね。 自己紹介をお願いします。 …とりあえず綾芽
さんから」
「え? えーと、悠 綾芽です。 趣味は子供達の相手をする事かな、よろしくおね
がいしますねスフィーちゃん」
 どう見ても小学生のスフィーにそう挨拶をする綾芽に、
(それ、ちょっと違うよぉ)
 等と希亜は思いながら、
「あんまり緊張しなくていいですよ綾芽さん」
「う、うん」
「学年は私と同じ一年です。 ではスフィーさんリアンさんお願いします」
「小等部に通っているスフィーよ、本当は21歳なんだから」
「えーー!?」
 そんな素っ頓狂な声を上げて、希亜の方を見つめる綾芽。
「少なくとも嘘ではありませんよ〜、魔力をあまり使いすぎるとこうなることがある
んです、まぁ詳しい話は時間がある時に」
「う、うん」
 そんな二人のやりとりを待っていたリアンは口を開く。
「妹のリアンです、五月雨堂でお世話になっています。 よろしくお願いします」
 ゆっくりとのばされたリアンの手、綾芽はそれをそっと握り返し。
「こちらこそ」
(いつまで、こうしていられるのでしょうか…)
 そんな事を頭の片隅に起きつつ希亜は、
「では自己紹介も終わったところで、先程ジャングルと話した状況を説明しますね」
 希亜の説明では学校にほど近い、ジャングルと呼ぶより森と呼んだ方がいい辺りに、
幾つかの集団が潜んでいる、というものだった。
 夜の闇に潜むという観点から見れば、それは至極当然のことであり、この件につい
てはスフィー以外には説明なしで理解を得られた。
「それで、この後の行動なんですけど…」
「この場所で朝まで過ごすんじゃないの?」
「いえ。 元々は、曇ってきたので空の雲の中に隠れようか、という事になっていた
んです」
 スフィーの質問に、いつもののんびりした声ではなく静かに答えた希亜。
「ここはどうするの?」
「このままにして、破棄する予定でした」
 一応、後二ケ所隠れ家を用意してはいたが、そのうちの一つは電波状態があまりよ
くなくルール上問題があったので、あまり考えないようにしていた。
「私たちは基本的に守勢には全く向いていません。 かと言って攻勢に出るには問題
が多すぎます。 ですから隠れることによって、戦闘からは逃げることによって、今
まで生き残ってきたわけです。 これからの方針は、今までの事を継続しつつ協力者
を得ることによって戦力の増強をはかる。 …と、言う辺りなんですけど」
「協力者って、あてはあるんですか?」
「正攻法では幾つか…」
「希亜君それって」
「はい、多分綾芽さんあなたの思った通り。 綾香さん周辺と、ゆーさくさん、そし
て今目の前にいるスフィーさんにリアンさん、後は情報操作による後方攪乱では素人
ですが、健太郎さんに頼めればと… 他にも幾つかあるんですが、由宇さんや九品仏
さんは一度火がついてしまうと、ど〜にもなりませんから」
「あんまりパパやママには迷惑かけたくない…」
 綾芽の呟きに希亜は、
「考慮は、します…」
 言い淀んだ希亜はそのまま言葉を止め、向かい合うように座っていたリアンが口を
開く。
「希亜君、ここは先程破棄するって言いましたよね」
 コクリと頭を下げ肯定する希亜。
「そう言うわりには何も片づいていないのですが」
「良いんですよ、一応は十重二十重にトラップを仕掛けてありますから、ですから不
用意に触らないで下さいね。 もっともプロの手に掛かればこんなモノ子供騙しにす
ぎないんでしょうけど、心理フェイクは少し得意なんです、なんて言ったって私は魔
女の系譜の者ですから」
「そ、そう…」
 ちょっと引きながら返事を返すリアンに、希亜はいろいろと用意をしながら言葉を
続ける。
「私はこれから少し出てきます、種をまきにね」
 自慢の箒ではなく、とりあえず用意した箒と杖をもって木の幹の方へと向き直る。
「希亜君…」
「大丈夫ですよ綾芽さん、二人とも信頼できます〜。 行って来ます、それから危な
くなったらすぐにここを放棄して下さいRising Arrowは私が持っていますから、その
時は私に電話して下さい携帯にはちゃんと番号を入れてありますから。 んでわ〜」
 そう言って木の幹から箒にまたがって飛び降りて行った。
「希亜君…」
 振り返った不安そうな綾芽にリアンは声をかける。
「少し話しませんか?」
 ゆったりと腰掛けたリアンの落ち着いた口調に飲まれるように綾芽は同じように腰
掛ける。
「さっき希亜君は魔法を使おうとしました、私にはそれがなんの魔法かははっきりと
は分かりませんでした。 希亜君の普通の魔法はとても不安定で、失敗して魔力が霧
散するか、成功して魔力供給過多で暴走するかのどちらかになります。」
「前に希亜君に聞いたことがあります、空しか飛べない魔法使いだって…」
「そう言えば希亜って普通の魔法はねこさんレベル以下よね」
「でもそれは希亜君の資質ですから…」
 交わされる会話は初めこそ希亜の話ではあったが、そのうちそれぞれの魔法の話題
へと移り変わっていった。


 ジャングル上空。
 既に隠れ家よりかなり離れた場所を、見当違いの方向へと進みながら、普通の箒で
ゆっりと校舎に近づきつつあった。
「勝つために躍起になっていると、肝心なことを見失う、か。 綾芽さんにとっての
小さな幸せって何だろう…」
 希亜はその事について綾芽に聞いたことはなかった、初めは準備に追われて、始まっ
てからはなんだか聞く気になれなくて。
 でも、興味がないわけではなかった、小さな幸せの中身よりも、なぜそう思ったか
を…
 そして、それが希亜の予測通りなら、この企画負けたくはないと、たとえそれが満
たされることがなくとも、と同時に思うのだった。


 オカ研。
「ごめんくださーい」
 全くいつもどおりの、糸の切れたような緊張を持った声が廊下に響く。 辺りに人
はなく閑散としている。
 しばらく待っても返事がないのでもう一度、と息を吸う。
「ごめんくださーい」
 しばらく待つが、やっぱり返事はない。 仕方なく戸に手をかけた。
「攻撃されませんように〜…」
 開かれた扉の向こうには…
「誰もいない… 参ったなぁ」
 とりあえずそう言って戸を閉めた。
(気配はあるような気がするんですけど…)
 別に希亜は格闘技に精通しているわけではない、ただ常人の感覚としてそんな気が
するだけなのだ。
 ともかく移動したにしては、ありすぎる気配にあやしいと思いつつ魔法を発動させ
る、希亜曰く意識体と話す魔法を。 一気に高まり効果へと爆縮する魔力。
 そして魔法の副作用により、一気に流れ込んでくる情報、そのノイズの中によく知
るパターンの人物がいた…
「なんだ、いるんじゃないですか綾香さん」
 そう言って再び戸に手をかけ開く… いろいろと希亜を警戒している人物は多いの
だが、とりあえず希亜の目の前にはビームライフルの銃口が大きく見えていた…。
「いや… あの… お届け物です」
 完全に静止した体の口だけをカタカタと動かし、ぎこちなくそう言う希亜。
 トリプルGのビームライフルがおろされる、ようやく動き始めた希亜は鞄からまだ
梱包を説かれていない、このどよコンのための特注の服を取り出した。
「使うかどうかはお任せします〜。 あ、綾芽さんの赤袴の装束のどよコン版ですよ、
サイズは大丈夫だと思います〜 んでは確かにお届けしました」
 ふわりと振り返り歩き出そうとした希亜に声がかけられる。
「待て。 希亜と言ったな、何を考えている」
「便乗です〜」
 振り返り声を発した相手に視線を合わせる。
(あう… ハイドラントさんですか)
 視線まで威圧的なハイドラントと、のんびりと相手の瞳の奥を見ようとする希亜。
 交錯する視線に一瞬両者の動きが止まるが、ハイドラントはすぐに。
「どーした、言いたいことがあったらさっさと言え」
 視線は放さずに、でも威圧されることに苦手意識がやや膨らむ中。
「フェイクに便乗するんです、正確な情報が存在するわけでもないですからね〜」
「MLを見てはおらんのか?」
「見たからこそ、敢えて愚を犯しに」
「そうか…」
 まるで路上の小石でも見るような視線を最後にハイドラントは希亜から視線を放す。
 とりあえず一息つく希亜、
「所で綾芽は無事なの?」
「そのはずですよ〜 今は心強い人がついていますから、では私は急ぎますゆえ〜」
「あ、ちょっと!!」
 綾香の制止もむなしく、押しつけるようにして包みを渡した希亜は、身を翻し逆さ
まに箒に跨り、廊下の窓から飛び出して行った。
 包みを持ち直した綾香、はらりと一枚の紙が落ちる、受け取った包みの下に紙が張
り付いていたのだろう。
「何かしら…」
 その紙には色々なメモ書きがなされていた、一人は希亜の物であろうがもう一人分
の筆跡がそこにはあった。 思わずのぞき込む綾香。
「これゆーさくの字、『それは分からない、答えを出してみるのも又』ってなにが?」


 校舎近辺上空。
「あれ? あれあれ?」
 ナップサックの中をごそごそと探すが、肝心のメモが見つからない。 どよコンが
始まる前にゲリラ戦のプロ悠 朔にあれこれと聞いた質問の答えを書いてあるのだが…
「やっぱり、さっきの所で包みと一緒に渡しちゃったんやな〜」
 がっくりと頭を垂れる希亜、だがその視線の先には。
「悠朔さん…」
(これは、使わない手はないですね… ひづきさんが近くにいると思うんですが…)
「と、いた。 ひづきさんですね〜」
 歓喜の代わりに、いたずらな笑みを浮かべ。
 いつも通り、糸の切れたような緊張感のままに、希亜は悠朔の方へと降りていった。


「嫌な予感がする…」
 別に命の危機と言うわけでもなく、例えて言うならば『オブラートに包まれたやん
わりとした悪寒と何か』とでも言えるような物を感じた。 直後、
「そうなんですか?」
「希亜か!」
 思わず振り返って銃を向ける。
「…何をしている」
 凍り付いたまま、表情まで凍り付かせたまま、逆さまでカタカタと震えている希亜
がいた。
「…何をしている」
(今日は… こんな事多いなぁ…)
 そんな事を思いつつ希亜の視線が銃口に向けられる。 薄暗い中、その意味に気が
ついたのか朔は銃口を下げた。
「危ないですよ〜」
「いきなり背後から、しかも逆さまになって声をかける奴と同じぐらいにはな。 そ
れに、せめてこいつでないと音速を超えるお前に当てる自身がない…」
「む〜」
 お互いに、それが半分冗談だとは気付きつつも、別のチーム同士なのか一定の間合
いを取る朔。
 不満そうな顔をしたまま、ゆっくりと宇宙遊泳でもするように、姿勢を普通に戻し
地面に降り立つ希亜。 彼はそのまま口を開かずにじっとしている。
 いつもと違う希亜にやんわりとした悪寒を感じつつも、何か話すことによってよけ
いに悪寒が増大するように感じた朔はしばらく黙っていた。
 やがてひづきたちの物だろう足音が近づく。
 希亜はふわりといつものメカメカしい自慢の物ではなく、持っている普通の箒にま
たがる。
 その希亜の顔を闇の中はっきりと見えた気がした悠朔は、ようやく希亜の策略には
められたことを悟る。
「お、おい!」
「じゃあ、例の件よろしくお願いしますね〜」
「お前なー!」
 行ってしまった希亜に、苦虫をかみつぶしたような表情の朔。
 希亜がことさら時間を稼いだ訳がようやく分かった。 それは、
「今のあなたの娘のパートナーよね」
「ああ」
「どう言うこと? 例の件って…」
(はっきり言って…)
「めんどーな事になった」
 そう言った悠朔の声は、どこかすっきりした物だったという。