『どよめけ!ミスLeaf学園コンテスト』 第三十九話 「瞳」 投稿者:弥雨那 希亜

「『例の件よろしくお願いします』か…」
 夜も更けようとする中で朔は独り呟いた。
 色々と考えてみるがハッキリとしたものでは思い当たる節はなかった、だがそれ以
外、つまり曖昧なレベルとハッキリしたレベルの丁度中間になるようなものでは、思
い当たる節がないとも言えなかった。
 含みとか、玉虫色も良いところである。
 少し思い出してみる。 希亜という人物を分析すれば、何をさせたいのか少なくと
ももう一歩程度には分かるはずだと考えたからだ。



『どよめけ!ミスLeaf学園コンテスト』 第三十九話 「瞳」



 どちらかといえば自分に近い策士的な側面を持っている、少なくとも朔はそう分析
していた。
 希亜が得意とするのは間違っても直接的な攻撃ではない、それについては断言でき
る。 精神的な揺さぶりを得意とする面では、少し自分に近いかと思う反面、コミュ
ニケーションにおいて魔法を使う事により、より正確に相手の様相を把握できること
を考えるならば、この技能では自分よりも格段に上にいるのではないかと考える事も
できた。
 だが、希亜が今までにおいてほとんどそう言った精神的な攻撃をしたいうのを、朔
は聞いたことがなかった。
「そんな必要ないじゃないですかぁ」
 質問すればそうのほほんと答えるだろう様が、ありありと想像できる。 それを考
慮すれば、つまり希亜は実戦経験には乏しい…
「と、考えるのは些か無理があるな」
 綾芽や朔の事を比較的短期間で、しかも綾芽に対してはわずか数日で信頼を得てい
る事に、希亜の分析能力はかなりの物と考えられる。 朔自身に対しても、会話の中
では的確に的のど真ん中を射抜くような言葉を投げかけてくる希亜、色々と…
「思い当たる節が」
と、いうより。
「思い当たる節しかない」
 つまり自分は自身に対して鈍感だという事と、希亜のその技能を改めて思い知るこ
とになったのだった。

 脱線したので思考を元に戻す。
 以前このどよコンが始まる前に色々と聞いてきた時があった。
 その時の彼はサバイバルなどの情報を的確に自身から引き出し、素人にも分かり易
いようにまとめていた。
 その節々で「綾芽さんに出来るでしょうか」とか「女の人には抵抗がありそうです
ね」等と言っていた。 無論その内容自体が綾芽や希亜が行うかどうかと言う事を別
としても、普通に生活していればまず行う事のない行為の数々だからと言うのもあっ
たので、その時は気にしなかった。
 同じくどよコンの数日前の夜だったろうか、希亜が自分がどれくらい戦えるのか見
てくれと言って、相手をした事もあった。
 自身の身長を超え、自重の半分以上の重さがあると言う、金属で大鎌のオブジェを
作ったような得物、本人はセラミックに近いものだと言っていたが、彼はその
yfletherとかSoul-Divieder等と呼んでいた、それを自分の腕を振るうが如き速度で
振り回す希亜に初めこそ戸惑ったが、勝敗自体はあっさりと付いた。
 所詮は素人と玄人である。
 希亜の喉に左手が握る刀の刃を触れさせる程度に止める、その直前で希亜は己の敗
北をあっさりと認めたのだった。
「やっぱり、勝てるはずはないですね私では… あ、切れたかな?」
 両腕に刀を手にした、この領分では学園トップクラスの朔に対し。 自信の腕と同
様に振るえる長柄の得物という武器の有利があれ、所詮素人である希亜がかなうはず
はは初めからなかったのである。
 喉に刃を当てられたのに、のほほんと敗北を述べた希亜の喉は少しばかり切れてい
た。
 その様子にあきれた朔はその時希亜に訪ねていた。
「刃を止めなかったら、どうするつもりだった?」
「その時は、あなたがお終いになる時です」
 事も無げに、そしてつまらなさそうに希亜はそう言った。
「何故?」
 思わず目が点になりながら、朔は反射的に返していた。
「お前さんにとって〜私の存在はぁ、日常を歩む上で必要なファクターになっている
んですよ〜、その私をお前さんが破壊する時は、お前さんが日常を破壊する事になる
わけで〜。 つまり〜非日常への奈落を落下し始める〜きっかけになる訳なんよ〜」
「だがそれでは、私が非日常を謳歌しようとすれば、お前を殺せば済む事になる」
 事も無げに返した朔だが、希亜はそれには首を横に振る。
「その程度では坂道程度になってしまいます〜、坂道は上れますし。 この際の大事
な事は、あなた自身の意思が介在しなければしないほど坂道から崖へ、崖から奈落へ
となるんです」
「ふうむ」
 唸って希亜の言葉を飲み込もうとした朔に希亜の言葉は続いた。
「まぁ、実際の所。 私はあなたを信じていただけなんですけどね」
 精神の反発、多量の疑問、そんな朔の脳裏の慌て様を表すがごとく、朔は希亜の顔
を見る。
 視線があった、いや視線に合わせてしまっていた。
 のほほんとした表情の、眼鏡の奥のやや眠たげに見える碧眼からは、こちらの瞳よ
り遙かこちら側を見透かすかのように、冷たくも暖かくもない視線が向けられていた。
 だがその視線はすぐに別の場所に向けられ。
「あう〜〜、血を止めるの忘れてたぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
 そんな情けない悲鳴をあげて慌ててハンカチで喉を押さえるのだった。

 思考を記憶から現在に戻した朔は呟いた。
「『信じていただけ』か」
 現状朔はまだひづきのチームにいる、さすがに疑念は持たれたが。
「まぁ、きっかけにはなるか」
 朝はまだ遠い、そんなフレーズが脳裏によぎるとともに、朔は自嘲気味に苦笑する
のだった。
 朔を取り巻くそれら全てが、希亜のシナリオに沿って進んでいると、薄々気づいて
居ながらに。




 某教室。
 夜の校舎は静かだった、参加していた生徒も現在は半数以下、残存エントリーヒロ
インの数については情報に触れる機会が無くなった為不明だった。 希亜自身の携帯
電話すらロストしたのは痛恨と言えるだろう。
 ここは希亜も普段よく使う一年の校舎のある教室、その中に希亜と綾芽は闇の中で
二人きりだった。
 開け放たれている窓からの風に二人の髪が揺れる。
「綾芽さん、一人で行動する事だけは避けて下さい、昼間の二の舞になります」
「でも、希亜君私に戦っちゃだめって」
 二人だけの教室、その中の椅子の一つに座り込んだままの綾芽は言った。
「はい、言いました」
 返事を返しながら希亜は教室の後ろの掃除用具入れへと歩いて行く。
「私そんなの我慢できない」
 掃除用具入れの前まで来た希亜は、内ポケットから鍵を取り出しロッカーの鍵穴へ
差し込む。
「ええ、それはよく分かりました。 ですから…」
「ですから?」
 綾芽の問いかけには答えず、希亜は鍵を回しながら呪文を呟く。
「…zalu sar di weg isart… relese」
 カシャン。
「何してるの?」
「ロッカーを開けたところです」
 ピントはずれの返答をした希亜は、ロッカーからナップサックを取り出していた。
「そんなところに隠してたの?」
「まぁ、発動時以外は残留程度にしか魔力がありませんからね」
 さらに希亜はロッカーから銃を取り出している。
「希亜君?」
「ああ、玩具ですよ。 180発近くをばらまくグレネードとハンドガン、両方とも
ただの玩具です」
 希亜は答えながらてきぱきと弾とガスそしてバッテリーを装填して行く。
「以前、悠朔さんに私がどのくらい戦えるのか試して貰ったんですけど、格闘はだめ
みたいでしてね〜。 だからこうやって玩具ですが銃器を用意したんです」
 部屋には希亜が一人動き作業する音だけが広がっている。
 そんな中綾芽は希亜に対して感心すると同時にあきれてもいた。
「そんな道具が、他にもあるの?」
「これは、ここだけなんですけどね。 消耗品は、他の隠し場所にも置いてあります」
「用意良いんだね」
 呆れるような綾芽の声に希亜は苦笑しつつ答える。
「せめてこれ位しないと、学園を破壊するつもり以外では、勝算すらないですから」

 戦闘力そのものについて疑問符でしかない超音速の箒乗りである希亜と、エントリ
ーヒロインでもある音声魔術師にして、チーム唯一の戦力と言える長刀を振るう綾芽。
 そんなバランスの悪い弱小チームが今まで生き残れたのは、一重に希亜の作戦によ
るところが大きい。

 綾芽自身もその事は十分に分かっているので、少々気が進まなくてもできるだけそ
の指示に従ってきていた。
 特に昼間、生物部特性の虫にパニックに陥っていた綾芽を、寸前のところでの救出
した事について、希亜は問いつめこそすれ、責めるようなことはしなかった。 無論
その理由自体にもよったのだが。
「勝てる思う?」
 こぼれるように綾芽は呟いた。
「…勝ちたいですねぇ」
 のほほんと返事を返す希亜。
「まだ、勝機はありますよ。 本当は催涙弾とか使いたかったんですけど、代用品は
さっきのでなくしてしまいましたし」
 いつの間にか装備し終えた希亜がゆっくりと綾芽の側までくると、
「ちょっと耳を貸してくださいね」
 そう言って、すっと耳の側までくると希亜はこれからの作戦を告げた。

「上手くできるかな」
 その内容に綾芽はそう呟いた。
 希亜の提案は、希亜の箒を利用した一撃離脱の戦法。 攻撃機的な用法と言えたが、
少なくとも希亜にとっては現時点でとりうる最良の策の一つと言えた。
 具体的には空中から検索魔法であるところの通称ピンを打って敵をサーチ、各個撃
破という物である。
「目標さえ的確に押さえれば、問題ないと思いますよ」
 いつも通りののほほんとした希亜の言葉に、

「ただ、一つの問題はアレなんですよね」
 そう言って希亜は空に浮かぶ構造物を指さす。
「あ」
 綾芽の視線の先には、闇の中に浮かび上がる戦艦冬月の姿があった。
「そうそう、これを飲んでいて下さいね」
 と希亜は市販の栄養ドリンクの瓶を渡した。
「ありがと」
 綾芽はそれを開け一気に飲み干す。 疲れている体には栄養ドリンクの苦みですら
心地良い。
「さてこれからですけど、少し攻めてみようと思います」
「本当に?」
「はい、ただし基本は一撃離脱で行きますし、標的はヒロインではありません」
「え? どういう事?」
「綾芽さんは私より戦うのになれています、でも私たちは二人ですから数で圧されれ
ばそれまでです。 そう言う訳で私は箒でサポートします、今回は私たち二人の連携
を主眼において下さい。 囲まれたら逃げますし、逃げやすいところで戦うとしましょ
う」
「分かったけど… いいの?」
「問題ありませんよ。 私はただ、あなたの望みを知りたいだけですから」
 希亜の言葉に思わず振り返った綾芽だったが、夜の曇った空を見上げる希亜の横顔
は、いつもののほほんとした表情ではなく、少し細目で考え事をしているような表情
をしていた。
 ややあって希亜はその綾芽の視線を感じたのか綾芽に振り向く。
「? どうしました?」
 目を合わせた希亜はいつも通りの、のほほんとした表情で、やはりいつものように
のほほんと訪ねていた。
 希亜自身はこれからどう動くべきかを考えながら曇り空を見上げていた、そして思
考が一区切りしたところで見られていると気づいたのだった。
 暗がりの中の綾芽、その視覚以外から読みとれる綾芽の様相からそう感じ取っただ
けなのだが、綾芽の事をよく見ている希亜だからこそ気づけたと言えた。
「ありがとう、希亜君」
 少し照れながら希亜に帰した綾芽だったが、当の希亜は興味なさげに綾芽へと真っ
直ぐに向き直ると、
「その言葉は、終わってから聞きたいですね」
 いつものようにのほほんとしたまま、それでいて真っ直ぐな言葉に、
「うん」
 そう綾芽は短く答えたのだった。



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 またしても誰一人脱落者なし
 昼の方の動きがまだ確定していないので 今回は意図して押さえてますけど…
 でも そろそろ脱落を書かないと問題あるかなー とも思ったりします